ガンダムVSガンダム ◆LwWiyxpRXQ



 そこは冷え冷えとしていて何もない、殺風景という言葉が良く似合う場所だった。
 荒れ果てたその場にあるのは、土と岩とどこまでも広がる青い空のみ。
 生命の匂いの感じられないその荒野は、深い静寂に包まれている。
 が、彼らはそんな静寂などを構うことなく、その場に現れた。

 ごう、という駆動音を響かせながら、人の形をした彼らは空を駆けていた。
 彼らの身体は機械で出来ているようだった。
 一方は出来たオレンジを基調としたボディを持ち、洗練された、スマートな造形をしていた。
 また、その背中の特徴的な羽は、見る者に軽く、まるで鳥のような印象を持たせるだろう。
 人を模した頭部に光る双眸は鈍く光り、前を静かに見据えている。

 その視線の先にいたのはもう一人の侵入者。もう一つの人の形をした機械だった。
 だが、その機体の持つ雰囲気は、先程のオレンジの機体とはまるで違った、禍々しい物だ。
 赤と黒を中心とした全体的に暗いボディに、背中に背負う巨大なバーニアを覆う赤い装甲、それらは周りに重い威圧感を放つ。
 先程の機体を鳥とするのなら、その機体はまさしく悪魔のようだ。

 その形はまるで、逆。
 だが、彼らはそれでも同類とも言うべき者たちだった。
 人でいう頭の部分の意匠が、あまりにも特徴的過ぎるのだ。
 鎧武者を思い起こさせる角、人を模した二つのカメラアイ、細部は異なるがそれらは確かに『同類』だった。

 とある世界では、戦争終結の英雄。
 とある世界では、各国の叡智の結晶。
 とある世界では、圧力への反抗の象徴。
 とある世界では、悪夢を引き起こした兵器。
 とある世界では、世界に変革をもたらす者。
 そして、その果てにある世界では、月の蝶を背負う人形。

 形は違えど、いくつもの世界に存在するそれらは名前を持っていた。
 そう『ガンダム』と。


◇◇◇

「ガンダム、新型か……?」

 アリオス、としてモニターに表示された機影を確認して、ゼクスは静かに呟く。
 その機体の姿は、彼の知る如何なるガンダムとも異なっていた。
 ガンダムの模造品なのか、ただ自分が知らないだけなのかは分からない。
 だが、全く情報のないモビルスーツ、それも本当にガンダムタイプだとすれば苦戦は必死だろう。

 だが、所詮パイロットはCPU。
 自分が負ける筈はない、そんな思いと共にゼクスはスロットルを強く踏み込む。
 瞬間、彼の駆る真紅の機体――ガンダムエピオンは強烈な加速を生んだ。

 ガンダムエピオン。
 それはかつてトレーズ・クシュリナーダが設計したモビルスーツ。
 その最大の特徴は、それが『決闘』ということに開発理念を置いている点。
 エピオンの装備している武装は、ビームソードとヒートロッドの2種のみ。しかもそれらが全て白兵戦用の武装だ。
 まさに、戦うことそのものに美を見出していた、トレーズの意思を体現したモビルスーツだった。
 エピオンは完成後、ウイングガンダムを失ったヒイロ・ユイに与えられ、ゼクスの駆るウイングガンダムゼロとの激闘を経て、ゼクスの手元に渡ることとなる。
 そして、偶然にも、ゼクスはこの殺し合いの場で、再びそのモビルスーツを駆ることになった。

 ビュウン、という音を響かせながらアリオスは、GN粒子をビームの形にして放った。
 ゼクスはエピオンを加速させ、そのままビームを避けていく。
 そして、そのままアリオスを自分の間合いに引き込もうと、アリオスに迫るエピオン。

 しかし、アリオスは攻撃が当たらないと分かると、すぐさまエピオンから逃れるべく機
体を変形。
 バーニアを後方に集中させた飛行機のような形態になり、その大出力をもってして場か
ら一気に離脱した。

「変形機構を持っているモビルスーツ。機体のタイプとしてはガンダム01―ウイングに近いか」

 その光景を見たゼクスは、そう声を漏らす。
 また、アリオスはウイングのような巨大な火力は装備しておらず、より高機動戦闘に重きを置いたモビルスーツのようだ。

 距離を取ったアリオスは再びエピオンに向き直り、両手に構えたGNツインビームライフルを放つ。
 次々と放たれるビームをエピオンはそのビームソードを用いて、切り払っていく。

「効かん!」

 エピオンはアリオスの射撃を防ぎきり、距離を詰めるべく再び接近しようとする。
 だが、アリオスはその高機動性を駆使し、エピオンから逃れ、再び距離を取った。


(接近戦はお望みではない、か)

 アリオスは一定のエピオンと距離を保ちつつ、射撃を主体として攻めていくことを選んでいるようだ。
射程距離の少ないエピオンに対して、その戦術は正解といえるだろう。
 ゼクスはエピオンのその弱点を、モビルドール・ビルゴを指揮下に置くことで補ってい
たのだが、この場に指揮下に置けるモビルドールは存在しない。

「だが、その程度の戦術で」

 しかし、ゼクスはその逆境を跳ね返すべく、再びスロットルを踏んだ。
 そうして、アリオスを堕とさんと巻き起こる強烈な加速。
 アリオスはその動きに反応して、ビームライフルを放つことで牽制しつつ、エピオンから離れようとする。

「甘い」

 だが、ゼクスはそのアリオスの動きに対して、鋭く声を放つ。
 エピオンはアリオスの放ったビームライフルを避けようともせずに、一直線に突撃。
 ジュウ、とGN粒子の塊がガンダリウムの装甲を削っていき、エピオンの肩の外装が吹き飛んでいった。

 だが、その捨て身ともいえる戦法はエピオンに決定的な勝機をもたらす。
 エピオンとアリオス、二機間の距離はもはやほとんどない、クロスレンジの間合いだった。
 そして、その間合いは即ちエピヨンの間合い。

「終わりだ!」

 ゼクスのその言葉と共にエピオンはヒートロッドを放った。
 放物線の軌道を描きながら、その鞭は確かにアリオスの右腕を捉え、破壊。
 ゼクスがその隙を逃す筈もなく、トドメを差すべくビームソードを振りかぶる。

 アリオスはヒートロッドの衝撃により、未だに軌道が不安定だった。
 エピオンのメインウェポンであるビームソードには、到底反応できないだろう。

 戦闘開始にしてわずか五分、ゼクスはこの時、既に自身の勝利を確信した。


◇◇◇


 ゼクスはサーシェスとの邂逅を終えた後、デパートを後にしようとしていた。
 その理由は、バトルロワイヤルへの反抗する為のコミュニティの結成。

 リリーナの意思を継ぐ。
 それがゼクス・マーキスの、ミリアルド・ピースクラフトの選んだ道だった。
 それが容易でないことは十分に分かっていた。



 だが、この場において必要なのは、リリーナの示す希望の筈。
 だから、ミリアルドはリリーナの意思を少しでも継ぎ、この場にいる人々を纏め上げ、主催者を打倒する。
 ゼクスはそういう選択をしたのだ。

 ゼクスはデパートを離れる前に、デパートを何か見逃したものがないか最後に行った確認。
 その時、ゼクスはデパートのゲームセンターで、このシミュレーターを発見した。
 そして、勝利ボーナスとして得られるという『ぺリカ』という通貨が気になり、一度起動させてみることにしたのだった。

 ゼクスが選んだのはNPCとの『本番』での対決。
 これに勝利すれば、その敵の強さに応じたペリカが手に入るという。
 ゼクスの手元にはペリカは存在せず、ボーナスの手に入る『本番』での戦闘には命を掛ける必要があった。
 だが、無人機相手の人型機動兵器による模擬戦闘など、かつて<ライトニングカウント>として名を馳せたゼクスにしてみれば負ける要素などありはしなかった。
 しかも自分の乗機は幸運にも、この場に来る前に駆っていたエピオン。
 それらの条件を考えれば、相手が例えガンダムであろうと、ゼクスは負ける筈がない。
 結果、アリオスガンダムとの戦闘の勝利は目前。

 エピオンの振りかぶったビームソードがアリオスを一閃し、切り裂かれたその機体は破壊される筈だった。

 だが、

「何!?」

 アリオスの装甲が突如赤く光り出す。
 そして、今までとは別次元とすら言える速度でビームソードに反応。
 アリオスは咄嗟に身を捩って自身破壊を回避し、そのまま機体を変形させて、エピオンから離れていく。

「くっ!?」

 大出力のビームソードを放った反動で、エピオンは刹那の間、起こる機体の硬直。
 その僅かな隙を見逃さず、舞い戻ってきたアリオスはエピオンに飛び掛った。

 アリオスがGNビームサーベルをエピオンに放つ。
 ゼクスは無理矢理、その凶刃から逃れようと、エピオンのバーニアを点火させた。
 その加速により、アリオスの一撃はエピオンを捉えることはなかった。
 が、回避が完全には間に合った訳ではない。
 ズギィという金属が溶解する音と共にエピオンの右足が空を舞った。

 一撃が避けられたと見るや否やアリオスは、先程を上回る速度でその場から一旦離脱。
 そして、一度体勢を立て直した後、再びエピオンに突撃しようとする。


「何だ、あれは一体……?」

 驚きと共にゼクスはそう言葉をこぼす。
 アリオスの見せた、突然の赤い光。
 それによって起こったアリオスの急激なパワーアップに、ゼクスは困惑することしかできなかった。

 トランザム。
 それが、アリオスのパワーアップを引き起こしたシステムの名だ。
 かつてイオリア・シュヘンベルグの残した、そのシステムは己の計画が何者かに破壊させられた時の為の、最後の希望。
 機体内部に蓄積されていた高濃度圧縮粒子を全面開放することで、機体が赤い光に包まれ、スペックを3倍以上に上げることができるシステムだ。
 純正の太陽炉を持つガンダムのみが、完璧に発動することのできるソレスタルビーイングの切り札。
 発動に制限時間はあるが、それでもそのシステムは強力な武器だった。


「このままでは……っ!?」

 トランザム状態のアリオスに、未だにゼクスは反応できない
 アリオスは突撃しながら、両腕に備え付けられたGNビームサブマシンガンを放つ。
 GN粒子の弾丸が、エピオンの装甲を少しずつ損傷させていく。

 ゼクスが何とかエピオンの体勢を立て直した時、目の前にあったのはGNビームサーベルを振りかぶるアリオスの姿だった。
 咄嗟にビームソードでその刃を受け止める。
 ジジジ、と火花を散らせながら、ビームソードとGNビームサーベルは交錯した。

「また、随分と強気になったものだ」

 相手のCPUは、先程と打って変わって接近戦を仕掛けてくる。
 トランザムの制限時間を意識した、ヒット&アウェイによる猛攻だった。
 ゼクスは冷や汗を流しながら、どこか自嘲気味にそう呟く。

 ビームとGN粒子による鍔迫り合いによって起こった均衡も、一瞬のことだった。
 アリオスがゼクスの反応を超える速度で一歩身を引き、そして再びエピオンに向う。
 そのすれ違ざまにアリオスのGNビームサーベルが光り、次の瞬間、エピオンの左腕がヒートロッドと共に一閃された。

 小規模、だが確かな爆音と共に左腕が爆発し、エピオンのボディが煙に包まれる。
 そして、その煙の中から現れたのは隻腕となったエピオン。
 ゼクスは、何とかアリオスに反撃をしようとするが、既にアリオスの機影は彼方にあった。
 チィ、と短くゼクスは舌打ちをした。

(死ぬのか、私は?
 こんな所で、こんな形で、こんな無様に――)

 ゼクスはもはや満身創痍となったエピオンを操りながら、思う。
 死に対する恐れはなかった。そのようなものは当の昔に克服している。
 だが、このような幕切れはあまりにも不本意なものだった。

 何故、自分がここまで押されているのか、
 敵のガンダムが強すぎるせいだからか、シミュレーターの慣れぬコクピットせいか、それとも己の慢心か。
 様々な憶測がゼクスの脳裏を流れるが、そのどれも納得のいく答えではない。

(私は……迷っているというのか?)

 そんな中、ゼクス見つけた唯一の答えは、迷いだった。
 リリーナの意思を継ぐ、そのことに対して自身が迷っているのではないか、そう思ったのだ。
 自分は平和には馴染めないだろう男だろう、ゼクスはそう自分のことをそう評していた。
 そんな自分にリリーナの意思を継ぐことなど、果たしてできるのだろうか。
 そんな迷いを抱えていたから、その迷いを忘れたかったから、自分はこの戦いを始めたのかもしれない。

(やはり……私は戦うことしかできないというのか……?)

 アリオスはゼクスの葛藤など、気にも留めない。
 エピオンに引導を渡すべく、変形したアリオスがマシンガンを放っていく。
 弾丸が炸裂したエピオンはさらにダメージを受ける。

(ゼロは私に何も言ってはくれない)

 接近したアリオスは変形を解除。
 その凶刃を振るって、エピオンを討とうとする。
 エピオンは何とか反応するも、その左足を半壊させてしまう。

(示される未来などゼロだ。
 未来に導かれるのではなく、未来を導かなければならない)

 一度、離脱したアリオスは姿勢を立て直して、武器を構える。
 次で最後、ゼクスはその姿を見てそう感じた。

(やはり、私には……リリーナの意思は重過ぎる)

 トランザム状態のアリオスは、まさに神速。
 空間に幾つ物、赤い残像を残しながらエピオンに迫る。

 その姿を見て、ゼクスは一つの覚悟を決めた。

 アリオスが自身のGNビームを振りかぶり、エピオンへ突撃。
 エピオンは未だに動かない。

「私に、戦うことしか出来ないというのなら……!」

 未だに動かないエピオンに、アリオスは刃を振るう。
 そうして、決着が訪れる。

「戦うことが、私の―――」

 アリオスの刃。
 それよりも、どこまでも、速く、鋭く、力強く、確かな覚悟共に――

「抵抗だ!」

 エピオンはビームソードを一閃。
 その一撃は静かにアリオスへと吸い込まれ、アリオスは光に包まれた。

 次の瞬間、そこにあったのは爆発しながら墜落していくアリオスと 
 満身創痍、だが、力強く空を舞う悪魔のガンダムの姿だった。

【アリオスガンダム@機動戦士ガンダムOO 破壊】



◇◇◇

 YOU WIN、とモニターに表示されたのを確認すると、ゼクスは静かにコックピットから離れようとした。
 その際に、マシンから結構な量の札束が出ていることを発見。
 それがボーナスのペリカだと分かると、ゼクスはそれらをデイパックに入れた。

 そして、ゼクスはデパートから出るべく歩き始める。
 その歩みに迷いは、ない。

(殺し合いに反抗する為のコミュニティの結成。
 その方針は、変えるつもりはない)

 だが、とゼクスは短く呟く。
 先程の戦闘で、ゼクスは一つの決断を下していた。

(その頂点に立つのは私ではない。
 戦うことしかできない私ではなく、真の『王』としての資質を持つ者。
 そのような人物を見つけ出し、勝利を託すのだ)


「となれば、今の私はミリアルドではないな。
 勿論、ゼクス・マーキスでも、
 言うなれば火消しの風――ウインド、だ」

 そう言葉を紡ぎながら、ゼクスはデパートを出た。
 その瞬間、ゼクスは南から強烈な衝突音を聞いた。
 ゼクスはその音に新たな戦いを予感しながら、再び歩き始めた。

【D-6/デパート外/一日目/午前】
【ゼクス・マーキス@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康 新たな決意
[服装]:軍服
[装備]:真田幸村の槍×2
[道具]:基本支給品一式 、ペリカの札束
[思考]
0:デパートを後にし、東を目指す。一方通行はどこかで出会えれば良し。
1:新たな協力者を探す。どんな相手でも(襲ってこないのなら)あえてこちらの情報開示を行う。
2:第三回放送の前後に『E-3 象の像』にて、一度信頼出来る人間同士で集まる
3:集団の上に立つのに相応しい人物を探す
[備考]
学園都市、および能力者について情報を得ました。
MSが支給されている可能性を考えています。
主催者が飛行船を飛ばしていることを知りました。
テラスには鳴子のトラップが仕掛けられています(音が鳴るだけのもの)。仕掛けたのはゼクス。仲間が仕掛けたというのは嘘。
悪人が集まる可能性も承知の上で情報開示を続けるようです。
サーシェスには特に深い関心をしめしていません(リリーナの死で平静を保とうと集中していたため)。

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121:Miriarudo―Le Petit Six Prince― ゼクス・マーキス 166:JUST COMMUNICATION

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最終更新:2010年01月24日 22:41