境界線上の水平線 ◆MQZCGutBfo
(……目の前の私を全然そういう目で見ないのに……)
いくら誘ってもまったく動じなかったヒイロが釘付けになっているのは、
例え自身の過去に色々あったとしても、やはり女として納得いかないものがある。
(もしかして、大きいのがいけないのでしょうか……
それとも、映像内でしか欲情できない性癖なのでしょうか……)
悶々としている
ファサリナを余所に、ヒイロはディスクを停止させる。
「確かに、映像技術は秀でているようだ。
各所に監視カメラのようなものが仕掛けてあったとしてもおかしくはない。
……どうした、ファサリナ。」
「いいえ、何でもありません。元気になったのなら早く出発しましょう。」
「何を怒っている?」
「怒っていません。」
やはり自分は人の機微に疎いようだ、とノートパソコンを閉じながら考える。
「……海上からエスポワールに向かうのが安全だと考えると、[A-2]が封鎖される前に調査を完了したい。
心霊スポットでの探索時間を考えると、先にこのまま地図外に向かってみる手もあるが……
エリアから出た瞬間に首輪の爆破もありうる。ファサリナは一度陸上に降りていてくれ。」
「嫌です。」
「……」
「時間が無いのなら、尚のことこのまま行くのが良いかと。
私は、あなたと共に行動することに決めているのですから。」
珍しく、ヒイロが溜息をつく。
「すまないファサリナ。……俺は、人の心を忖度するのが苦手だ。
何かで傷つけていたのならば謝る。
俺には直接思っていることを言ってくれて構わない。」
そこまで言われてしまうと、ファサリナも矛を納めてしまう。
「いえ……私もどうかしていました。
ただ、単独行動は避けた方が良いかと。陸上が安全だとは断言できないですし。
……それに何より……ヒイロと一緒にイキたいんです。」
「……了解した。ではこのまま北に向かう。」
微妙なイントネーションが気にはなったが、ボートを発進させる。
陸地の最北端に向かわせた後、北へと航路を向ける。
□
「そろそろ境界線の辺りだな。」
ボートを止め、二人で周囲を見回す。
「目に見えるような境界はありませんねぇ。」
「……そうだな。」
少しずつ進み、首輪を使って確認していく方法も考えたが、それでは時間がかかりすぎる。
「このまま北上する。ファサリナは周囲の監視を頼む。」
「はい、お任せください。」
緩やかな速度で北上するモーターボート。
デバイスの表示は[A-1]のまま。
前方は濃い霧がかかっていて先が見えない。
「……何か気がついたか、ファサリナ。」
問われたファサリナは首を傾げて答える。
「そうですねえ……後ろの陸地が、全然小さくならないことでしょうか?」
「何?」
振り返るヒイロ。
確かに、陸地が見える距離だ。
「……もう一度、進んでみよう。」
今度は全速力でボートを進ませる。
―――が、陸地との距離は変わらないように見える。
(……火山の時のように、ホログラムか…?)
逆に、船を返して南へ向かうと、陸地は近づいてくる。
何度か繰り返してみたが、結果は同じ。
「……どういうことだ?」
砂漠や雪原のように周囲が同じ光景で、進んでいるように見えても結局同じ位置をグルグル回っている、というのとも違う。
船は確かに進んでいるのに、位置が変わっていない、とでも言うのか。
「うーん……これを飛ばしてみましょうか?」
ファサリナが円盤状の物体を取りだす。
「そうだな、頼む。」
「ええ、お任せ下さい。……さあ。お行きなさい!」
ファサリナが前方へ円盤を投擲する。
―――すると、円盤状のユニットが予測位置に到達する前に、空中で止まっているように見える。
「ええと……前に進めない……のでしょうか?」
ファサリナが首を傾げる。
「単純には突破できない、という訳だな。」
(或いは、これが[結界]という技術の為せる技なのか……?)
ヒイロが思案している内に、「さあお戻りなさい」
とファサリナがプラネイトディフェンサーをバックに戻す。
「……これではまるで鳥籠ですね……自由は私達には無いとばかりに。」
過去の自分をどうしても思い出してしまう。
主催に対してやはり悪い感情を抱いてしまう。
「……そんな籠は、破壊してしまえば良いだけのことだ。……【心霊スポット】に向かうぞ。」
「……ええ、行きましょう。」
暗かった表情から、少し微笑みを戻し、ヒイロに頷く。
(……人の心を忖度するのが苦手、なんてやっぱり嘘ですね。)
□
廃ビルを見上げるファサリナ。
「大きいですね……」
「……ああ。」
[巫条ビル]と書かれた高さ70メートルを超える廃墟のビル。
これが【心霊スポット】なのだろう。
このビル全てを虱潰しに調べるとなると、とても封鎖時間まで間に合わない。
ポイントを絞って調べるか、念入りに調べて陸路を取るかだ。
「とりあえず、中に入ってみましょうか」
「……そうだな。」
入口の自動ドアは電力が通っていないのか、開かない。
仕方無く蹴破り、中に侵入する。
「ドアが開いていなかった以上、この建物に入るのは俺達が初めて、ということだな。」
「ええ。……そういえば、首輪の交換機や無人販売機もここにあるはずでしたね。」
日中だと言うのに内部は薄暗く、外の光を拒絶しているようにも見える。
「……なんだか、気味が悪いですね。」
さりげなくヒイロに身体を密着させながら辺りを見回す。
フロアを見渡すが、何か特別な装置のようなものは無い。
―――すると、急にポン、と機械的な音が鳴り響く。
「きゃ!」
思わずヒイロに抱きついてしまう。が。
「……エレベーターには電気が通っているのか……?」
音にも、ファサリナの行動にもまったく動ぜず、冷静に判断する朴念仁。
(やはり、異常性癖……二次元に懸想する殿方なのでしょうか)
ちょっぴり傷ついた顔のファサリナが応じる。
「……乗ってみます?」
「ああ、問題ない。」
スタスタとエレベーターに歩き始めるヒイロに対し、慌てて追いかける。
□
エレベーターに入り、1階から20階までのボタンがあることを確認する。
「どの階に行きましょう?」
一階ずつでは埒が明かない。
何か装置を置くならば、地下或いは最上階といったところか。
そしてどうやら地下は無いようだ。
「……最上階を頼む。」
最上階のボタンを押し、エレベーターに乗る二人。
扉が閉まると、その扉は鏡張りになっていて、二人の姿を映す。
「っと、少しびっくりしました……何なのでしょうね、ここは。」
旧式のエレベーターなのか、ゆっくりと最上階を目指す。
□
最上階に到着すると、元々そこは展望台だったのか、ガラス張りで囲んでいた名残が見える。
――今は吹き抜けになっているが。
到着したエレベーター出入口の横に、換金ボックスと無人販売機が並んで鎮座していた。
「この首輪は、金額的には大した額にはならないだろう。……それに、その為に預かったわけでもない。」
「ええ、存じています。」
リリーナという少女に対し、何か特別な想いを抱いていること理解した上で、頷く。
わざわざ帝愛とやらの思惑通りにさせる必要などもない。
ヒイロは念のため販売機を覗いて見たが、現在の装備に比べて魅力的な物があるわけでもなかった。
「【城】で手に入れたこれらは、やはりイレギュラーな物ということか。」
GNツインバスターライフル、GNチャージキット、プラネイトディフェンサー、そしてゼロガンダム。
今の自分達の装備は、参加者の平均的な水準より優れた物を手に入れている、という判断ができる。
「施設毎のサービス、というのもペリカが無い以上は分からないのでしょうね。」
「ああ、そちらは諦めるしかないな。」
後はその[結界]とやらの手がかりを探すだけだ。
「屋上を手分けして探してみましょうか。」
二人で装置らしき物が無いか、念入りに探していく。
だが、そもそも[結界]なるものがどんなものか分からない以上、調査が捗るものでもない。
どちらもその分野に関しては門外漢なのだ。
調査していくうちに、ファサリナが屋上の端まで移動していく。
「……なんだか、吸いこまれてしまいそうですわね。」
淵を覗き、幻想を見る。
「……同志……ここから進めば、同志に逢えるのですか……?」
ふらふらと、引き込まれるように、進んで行く。
この境界線を越えれば楽園が、同志が微笑んで待っている楽園が―――
「……今、参ります……」
………………
…………
……
「……しっかりしろ!」
気が付くと、後ろから強い力で抱き付かれていた。
「あ、あら……ええと……?」
どうも、そのまま落ちそうだったらしい。
「……どうか、しばらくそのままで……」
なんだかちょっぴり嬉しいので、このままでいてみる。
…………
「……時間だ。もう移動しなくてはならない。」
「そうですか……残念です。」
「……行くぞ。」
やっぱりスタスタと行ってしまう朴念仁を、慌てて追いかける。
□
ビルから出て、ボートに向かって歩き出す二人。
「……そろそろか。」
時計を確認し、立ち止まるヒイロ。
「どうかしましたか?」
「目標を、破壊する。」
「は?」
「目標を破壊する。」
GNツインバスターライフルを取りだす。火山での使用時からチャージ完了までもう少し。
[忍野メメ]なる人物に[結界]の[修復]を依頼した以上、物理的に破壊すれば、少なくとも何らかの影響は出る、ということだ。
自分は、破壊しかできない男だ。
ならば、帝愛の目論見ごと破壊するのみ。
「……任務、了解」
デイパックからチャージキットを取り出し、照準を定める。
「チャージ完了まで 3……2……1……ゼロ!」
トリガーを引き、ビルの下層に向けて閃光を放つ。
赤い粒子を帯びた光の奔流が、ビルに向かって迸る。
―――瘴気が漂うビルに、全てを薙ぎ払う光が到達する―――
その光の奔流を見ながら、やはり
ヒイロ・ユイは希望の灯であることをファサリナは再認識する。
……まったくもって出鱈目で無鉄砲ではあるが。
既に火山での使用時に火力は把握している。
堅牢なる建物を一撃で破壊し尽くすことは不可能。―――ならば。
トリガーを引きながら躊躇なくチャージキットをライフルに嵌め、光の放出を継続させる。
(籠を、壊す……ヒイロなら、本当に成し遂げてしまうかもしれない)
『主催者の技術を奪い、反撃する』
彼はそう言った。
そして、小さい事象ながらも有言実行している。
(私は、間違っていなかったのですね、同志……)
―――光が収束し、ビルだったものは、大きく音を立てて崩落していく。
「……任務、完了」
□
「一度最北まで移動し変化があるかないかを確認した後、東へ向かう。」
「ええ、何か変わっていると良いのですが。」
モーターボートを北の境界線へと飛ばすヒイロ。
「……確かこの辺りだったな。」
「あら……霧が、無くなっていますね。」
先程まで前方にあった霧が晴れ、水平線が見えるようになっている。
(……やはり、[結界]とやらが関係しているのか……?
各施設の[結界]をすべて壊せば、外界からの干渉を受けられるということだろうか……?)
(なんでしょう……ここでなら、【ダリア】を呼べるような気がします。)
共に考察したいところだが、何しろ時間が無い。
「ファサリナ」
「はい、任務了解、です」
にっこりと、ヒイロの口調を真似て円盤を投げる。
―――すると、なんらかの抵抗の後、それを突破する円盤。
それを見て喜色を浮かべるファサリナ。
「これで……」
言いかけるファサリナに対し首を振り、己の首を指さす。
「ああ……そうでしたわね……」
「仮に突破したとしても、首輪で爆破ないし警告されるだけだ。
またそれを超えたとして、物理的な排除もありうるだろう。」
首輪の解決が最優先。
そしてその後の対処の為にやはりモビルスーツ、ないしはそれに類する兵器の奪取が必要だ。
「するべきことはまだ多くある……頼むぞ」
「はい……え?」
この少年は頼む、と言ったのか。
一切他人に頼らないであろうこの少年が。
「ええ、ええ……お任せ下さい、ヒイロ。」
可憐なる花のように、ファサリナは微笑む。
□
船上、デバイスの表示が[A-2]から[A-3]に変わる。
「……ギリギリでしたね。」
ふ~と息を吐くファサリナ。
(本当に、この少年と共に歩むのは大変ですね。)
心持ち微笑をしながら、そんなことを思う。
「問題ない。……それよりも、ひとつ試してみたいことがある。」
デイパックから首輪を取り出す。
意図を察したファサリナが問う。
「よろしいのですか?無くなってしまうかも……」
「問題ない。これに関する情報は一つでも欲しい。」
「分かりました。」
支給品のテープでしっかりと固定させ、空中でも落ちないことを確認する。
「もし爆発した場合の為に、他のディフェンサーも展開させておいてくれ。」
「了解、です。……さあ、お行きなさい!」
プラネイトディフェンサーを前方に展開し、首輪つき円盤を禁止エリア方向に向けて投擲する。
………………
…………
……
「……爆発……しませんね。」
「ああ………」
(バイタル・サインを確認しているということか……?
それとも有機物……人間が所持していて禁止エリアに入ることが爆破条件ということなのか?
……バイタルサインを偽装できれば、エリアによる爆発は防げる可能性があるか。)
とはいえ断定はできない。断定できるのは
「首輪だけが禁止エリアに入っても爆発しない」
ということだけ。
(やはり、帝愛は首輪の自由制御はできないのか……?)
以前考察した情報の一部証明にはなった。
何より、首輪が無事だったのはありがたい。
ディフェンサーを戻しながら、ファサリナが問う。
「それで、この後はこのままエスポワールへ?」
「……そうだな。」
正確には、エスポワールの下にあるという、“ジングウ”と呼ばれる物の確認。
モーターボートで海上から向かう二人の先に待っているものは―――
【A-4/海上/1日目/午後】
【ヒイロ・ユイ@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:左肩に銃創(治療済み)
[服装]:普段着(Tシャツに半ズボン)
[装備]:コルト ガバメント(自動銃/2/7発/予備7x5発)@現実、M67破片手榴弾x*********@現実(ファサリナとはんぶんこした)、大型マチェット@現実
[道具]:基本支給品一式、『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム~
戦場の絆~』解説冊子、シャベル@現実
Oガンダム@現実(通信機、ゼロシステム@新機動戦記ガンダムW )、落下杖@新機動戦記ガンダムW、GNツインバスターライフル
GNチャージキット×3、
リリーナ・ドーリアンの首輪
[思考] 基本:主催を倒し、可能ならリリーナを蘇生させる
0:エスポワールの海底にあるという“ジングウ”の調査
1:首輪の解除、及びそれに類する情報の取得
2:モビルスーツ、ないしはそれに類する兵器の奪取
3:「結界」の破壊
4:ゼロなどの明確な危険人物の排除
[備考]
※参戦時期は未定。少なくとも37話「ゼロ対エピオン」の最後以降。
※
ヴァンを同志の敵と認識しています
※ファサリナの言う異星云々の話に少し信憑性を感じ始めています。
※ファサリナのことは主催に対抗する協力者として認識しています。
※それと同時に、殺し合いに乗りうる人物として警戒もしています。
※忍野メメという人物が味方の工作員かもしれないと疑っています。
※結界によってこの島の周囲が閉ざされていることを知りました。また、結界の破壊により脱出できる可能性に気が付きました。
【ファサリナ@ガン×ソード】
[状態]:健康
[服装]:自前の服
[装備]:ゲイボルグ@Fate/stay night 、M67破片手榴弾x*********@現実(ヒイロとはんぶんこした)、イングラムM10(9mmパラベラム弾32/32)
[道具]:基本支給品一式、軽音部のラジカセ@けいおん、シャベル@現実、プラネイトディフェンサー@新機動戦記ガンダムW
イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、お宝ディスク、Blu-ray Discドライブ搭載ノートパソコン
[思考] 基本:主催を倒し、可能なら
カギ爪の男を蘇生させる
0:ヒイロと共に行動する
1:なるべく単独行動は避けたい
2:ゼロなどの明確な危険人物の排除。戦力にならない人間の間引き。無理はしない。
3:首輪が解除できたらダリアを呼んでみる?
[備考]
※21話「空に願いを、地に平和を」のヴァン戦後より参戦。
※トレーズ、ゼクスを危険人物として、デュオ、五飛を協力が可能かもしれぬ人物として認識しています 。
※ヒイロを他の惑星から来た人物と考えており、主催者はそれが可能な程の技術を持つと警戒(恐怖)しています。
※同志の死に疑念を抱いていますが、ほとんど死んだものとして行動しています 。
※「ふわふわ時間」を歌っている人や演奏している人に興味を持っています 。
※ラジカセの中にはテープが入っています(A面は『ふわふわ時間』B面は不明) 。
※結界によってこの島の周囲が閉ざされていることを知りました。また、結界の破壊により脱出できる可能性に気が付きました。
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最終更新:2010年02月26日 01:01