imitation ◆Nfn0xgOvQ2



ポリッ……ポリッ……、とチョコレートが齧られる音が静かに響く。
―エミやん、―先輩、―衛宮、―シロウ、―衛宮君、―馬鹿スパナ。
友人や知人が自分を呼ぶ時の名前は千変万化、だが……

―お兄ちゃん。

自分を『兄』という意味で呼ぶのは一人だけ。
お兄さま―黒子が冗談混じりで言ったその呼び方に、士郎はふっと一人の少女の事を思い出す。
会った事はない筈なのに、まるで以前から知っていたかの様な口ぶりで自分の事をお兄ちゃんと呼ぶ、無邪気で純粋なまるで雪の精の様な少女。
それと同時に子供特有の残酷さを持ち合わせ、圧倒的な死の化身であるバーサーカーを従え、自分を殺そうとした聖杯戦争のマスターの一人、イリヤスフィール・フォン・アインツベルを。
マスターはサーヴァントを現世に繋ぎ止める役割を持っている。
ならば、バーサーカーが参加しているという事は、イリヤは人質として捕まっている可能性を指している。

一度は俺の事を殺そうとしたんだ、特に気にする事は無い――訳が無いだろう。
そんなものは俺の目指す『正義の味方』では無い、いや『正義の味方』云々以前に俺は、

シロウは私の事嫌い?

あの時商店街で見た、あの寂しそうな瞳が忘れられない。
まるで大事な人に置いていかれる様な、そんな悲しい瞳が―
それに捕まっているマスターはイリヤだけではないかもしれない、遠坂・慎二・キャスターのマスターも捕まっている可能性もある。
もしそうなら何とかして助け出したいが。

そこでふと、視線を感じて振り返ったのだが、そこには笑顔の黒子があるだけだ。

「……どうかされましたの、衛宮さん?」

あれ…気のせいだろうか、なんでか知らないが黒子の奴怒ってないか?
うん、俺に対しての呼び方が名前から姓に変わった事といい、笑顔の黒子が身に纏う雰囲気といい、何故だかやばい時の遠坂を彷彿させる。

これは絶対に怒ってる、どうやら気が付かない内に俺は地雷を踏んだみたいだ。
黒子の背後に、ブルマ姿のイリヤと胴着姿のトラが笑顔でこっちに向かって手を振っている姿を幻視する。

―何でさ

黒子の機嫌が悪くなった理由、それは士郎が無意識のうちに呟いたイリヤの名前。
異性と二人っきりの状態で、それも気になる相手が自分以外の女の名前を呟く、これで機嫌を悪くしない乙女はいないだろう。


何処か気まずい空気の中、一時の休憩を二人は終える。
場の空気を変えるべく、士郎は率先して行動を開始した。
最初に手をつけたのは高額商品、買うかどうかは別にしても何がいくらで売られているのか把握しておくにこした事はない。


拳銃 (トプソンセンター・コンテンダー) : 700万ペリカ
日本刀(打刀) : 900万ペリカ
サブマシンガン(グリースガン):1600万ペリカ
ライフル(ワルサーWA2000セミオートマチック狙撃銃):2500万ペリカ
バイク:2000万ペリカ
乗用車:3000万ペリカ

※時間経過で商品は増えていきます。
※各地の販売機によって、商品は多少変更されます。


「……どうやら目ぼしい物は無い様ですの、これなら何か購入する必要はありませんわ、ねぇ衛宮さん?」

笑顔で士郎を姓で呼ぶ黒子。
わたくし怒っていますの、という事をこれでもかとアピールしている。
士郎はどうしたものかと悩むも原因が分からなくては対処のしようがない。
結果として黒子の笑顔が士郎に突き刺さる、それはまさしく針のむしろとであった。

それはともかく、本音を言えば士郎は日本刀が買いたかった。
何故日本刀を買いたいのか、それは…

―己の本質を思い出せ―

あの白昼夢、その時に黒い魔術師に言われた言葉が脳裏をよぎる。
己の本質が何なのか、そんな事を問われても自分にはさっぱり分からないが、あの時のカリバーンを投影したという感覚だけが鮮明に残っている。気持ち悪いくらいに。
だが何よりも、黒子に『投影も応用しだいだ』と言われてずっと考えていたのだ、その応用方法を。
あの白昼夢の時の様に、投影なら武器を失っても再び武器を手にする事が出来る。
今はまだそれぐらいしか思いつかないものの、他にも出来る事があるかもしれない、それはまだまだ思考中。
一度解析したカリバーンならば、魔力さえあればきっと投影できるが、あの剣はセイバーの使っていた剣だけあって複雑で少し時間がかかる。
だからカリバーン以外に何か投影できるもの、あれ程完成された幻想で無くてもせめて咄嗟に作れるものをと思い日本刀を欲したのだ。

そもそも投影魔術―魔力によってオリジナルの鏡像を物質化する魔術だが、無節操に何でもかんでも作れるという訳ではない。
例えば日常で身近にある物・携帯電話を投影しようとする、その際出来上がるのは携帯電話の中身が無い、外装だけのスカスカのガラクタだ。
投影魔術は術者のイメージによって真作を再現するもの、故にイメージ出来ないものは再現できないのだ。
それでも機械の様な複雑な物で無ければまだマシな物が作れる、だがそれはまだマシと言うだけである。
想定に綻びがあれば、幻想はとたんに妄想へと堕ちていく。
投影魔術もって武器を作り上げようと言うのなら、一つの妥協も狂いも許してはならない。
それはつまり自己との戦いと言えよう、いかに正確に・忠実に・再現するか。
だからこそ元となる設計図が必要なのである。
想定したものが始めから破綻していたならば、どれ程精密にイメージを作り上げても出来上がるのはガラクタのみ。
何故ならそれは、最初からガラクタを精密にイメージしているにすぎないのだから。
そんなガラクタでライダー、ましてやバーサーカーと戦うなんて自殺行為に等しい。
その為にも日本刀を解析し、きちんとした設計図を手に入れたいのだが。

「お…おう、そうだな黒子」

これ以上黒子刺激したくない士郎にはそう言うしかなかった。

―ゴッド、俺何か悪い事しましたか?


ふぅ、まったく無意識とはいえ二人きりの時に他の女の名前を呟くなんて、士郎さんはデリカシーってものが足りませんわ。
それにしましても、『イリヤ』―その方は士郎さんにとって一体どういう方なのでしょう?
名簿にはそんな名前はありませんから参加者でありませんし、となると元のせか……元の場所での知り合いですわよね?
だとしたらその方は士郎さんにとって、どういう方なのでしょうか。
あんなまじめな顔で名前を呟かれたら、気になって仕方がありませんですの。
ええ別にその方と士郎さんがどんな関係でもわたくしには関係無……関係……


関係無い。例え思考の中でも黒子はその一言を言う事が出来なかった。
士郎とイリヤの関係がどうであろうと、実際に黒子に関係無いのだ全くもって致命的なまでに。
生き残ってあるべき場所に帰れたとしても、元々住むべき世界が違う士郎と自分が一緒になることはあり得ないのだ。
そんな事はわかっていても、こう胸の中でモヤモヤしたものが収まってくれない。
グルグルと思考は空回りを続けていく。

「黒子!!」

士郎に呼ばれて我に返る黒子。
両肩を掴まれ目の前には心配そうな士郎の顔がすぐ間近に。
高額商品の確認が終わり、施設サービスを確認しようと思い士郎が黒子に声をかけたのだが、どうした事か黒子から返事が来ない。
訝しげに黒子の方を振り返ると、黒子は何やら思いつめた表情で俯いている。
それで士郎は黒子の両肩を掴み、大きめの声で呼びかけてみたのだ。
当の黒子は完全に思考の海に沈んでいた為か、士郎が近づいてきた事はおろか自分を呼んでいる事さえ気がつかなかったのだ。

それは黒子にとって完全に不意打ち、目前に迫った士郎の顔に対して混乱・羞恥色んな感情がゴチャ混ぜになるも、とりあえず距離を取るべく後下がろうとし。

その後はお約束、そう使い古された古典が如くお約束の展開。
思考の混乱でテレ―ポートできなかった黒子は、足をもつれさせ後ろに倒れる。
急に倒れた黒子に釣られるように倒れていく士郎は、せめて己の体を床との緩衝材にし黒子を庇おうと抱き寄せる。
そして……


先程とは別種の気まずい空気が流れる中、二人は背中合わせに座る。
黒子を庇う為とはいえ思いっきり抱きしめてしまった。
謝りつつ慌てて黒子を離すも、士郎はその事を意識してしまい声を掛けるどころか、正面からまともに黒子を見る事が出来ない。

黒子自身は特に気にしていないのか、平然としているように思える。
だがそれは決して平然としている訳ではない。
今の士郎ではなく美琴ならば、黒子はより過激なスキンシップを求めたのかもしれない
だが、黒子は士郎に対してそんな気持ちが少しも湧きあがらなかった。
それは相手が異性だからだろうか……、それとも『美琴』では無いからか、他に全く別の理由があるからか。

「……ごめん」

背中越しに士郎が黒子に、もう一度ポツリと謝る。
抱きつかれた事に関しては半ば事故である為、特に怒りは無い。
むしろ、ちょっとラッキーかなと不純な気持ちがあるので、そう何度も謝られると逆に申し訳なくなってしまう。

「さっきの事もだけどそれとは別に俺、いつの間にか黒子の気に触る事したみたいでさ―」

だから何かあんなに思いつめる顔な事させてしまんだ、―本当にゴメン。

そんな半分当たりで半分外れの士郎の謝罪に、黒子は溜息が洩れた。
どうしてこの人はこう……

溜息一つとともに笑顔を作る。

「…まったく、士郎さんは心配性の甘やかし~ですの」

でも本当にダメな時は、甘えさせていただきますわ。
そう言って黒子が士郎の背中に体重を預けると、士郎があわてた様子になる。
顔を見なくてもわった、きっと士郎は目を白黒させているに違いないと。
そしてその後に士郎も笑ってくれるのだと。

だから今は笑おう、かつての自分のimitation、そんな笑顔しか作れなくても。
いつか本物の笑顔で、この人と笑い合いたいから。

【C-5/神様に祈る場所(言峰教会) 一階 言峰綺礼の私室/一日目/夕方】
衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]: 健康、魔力消費(小)、額に軽い怪我(処置済み)
[服装]: 穂村原学園制服
[装備]: カリバーン@Fate/stay night 、衛宮邸の自転車(二号)
[道具]: 基本支給品一式、特上寿司×20人前@現実、
     基本支給品外の薬数種類@現地調達 、ペリカード(残金6000万)、参加者位置情報1時間半(秋山澪明智光秀
[思考]
基本:主催者へ反抗する。黒子と共に生きてこの世界から出る。
0:黒子の調子が戻ってよかった…
1:『神様に祈る場所』を調査する。
2:『円形闘技場』で秋山澪と明智光秀と合流する。
3:首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す。
4:黒子を守る。しかし黒子が誰かを殺すなら全力で止める
5:女の子を戦わせない。出来るだけ自分で何とかする
6:黒い魔術師(荒耶宗蓮)への警戒心
7:一方通行、ライダー、バーサーカーを警戒
8:そう言えば他のマスター達はどうなっているんだろうか?

[備考]
※参戦時期は第12話『空を裂く』の直後です
※残り令呪:なし
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
 そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
 上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※投影魔術自体は使用可能です。しかし能力を正確に把握していません。
※ゼクスの手紙を読みました。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※このゲームに言峰綺礼が関わっている可能性を考えています。
※『ペリカの投影』には『通常の投影』より多大な魔力を消費します。
 よって『ペリカの投影』は今後は控える方向性です。
白井黒子の能力について把握しました。
※自身の歪みについて気が付きました。

【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康、精神疲労(中)
[服装]:常盤台中学校制服、両手に包帯
[装備]:スタンガン付き警棒@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式、ペーパーナイフ×6@現実
[思考]
基本:士郎さんと共に生きてこの世界から出る。
0:士郎さんは本当に…
1:士郎さんと秋山澪の所までむかい、合流する。
2:士郎さんが解析した首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す。
3:お姉さまを生き返らせるチャンスがあるなら……?
4:士郎さんが勝手に行ってしまわないようにする
5:士郎さんが心配
6:士郎さんはすぐに人を甘やかす
7:一方通行、ライダー、バーサーカー、言峰綺礼を警戒
8:少しは士郎さんを頼る
9:イリヤって士郎さんとどういった関係なのでしょう?

[備考]
※本編14話『最強VS最弱』以降の参加です
※空間転移の制限
 距離に反比例して精度にブレが出るようです。
 ちなみに白井黒子の限界値は飛距離が最大81.5M、質量が130.7kg。
 その他制限については不明。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※美琴の死を受け止めはじめています
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
 そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
 上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※バトルロワイアルの目的について仮説を立てました。
※衛宮士郎の能力について把握しました。


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203:Paradox Spiral(後編) 衛宮士郎 217:黄金ノ剣
203:Paradox Spiral(後編) 白井黒子 217:黄金ノ剣


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最終更新:2010年03月07日 10:10