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奥様は6インチの魔法少女! - (2006/12/12 (火) 16:16:47) の1つ前との変更点
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**奥様は6インチの魔法少女! ◆tC/hi58lI
野原みさえは、ひとり川辺にしゃがみこんでいた。
肩で息をし、デイパックを抱きしめながら周囲を警戒する。
(さっきの男は、もう追ってきてないみたいね……)
まだ震えの収まらぬ膝をかかえこみ、みさえは先程のことを思い出していた。
デイパックひとつを与えられ、みさえが放り出されたのはどことも知れぬ山中の寺の境内であった。
木々がさやめき、闇が揺れる真夜中の寺というのは、なかなかに不気味なロケーションである。それが一人ぼっちならなおさらだ。
なんとなくここが春日部市でないことを、みさえは肌で感じていた。
詳しい者なら植物などからもっと詳しく地理を推察できるのだろうが、ごく普通の専業主婦であるみさえに
その知識はない。知識もなく、状況を切り開く力もないみさえが今できるのは、
なぜこんなことになってしまったのかと思い悩むことだけであった。
……そうよ、今日はボーナスの日で、明日はみんなで焼肉を食べようかって話をして……
……それからいつも通り、家族4人で並んで眠ったはずだったのに。
なのに、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
ひろしやしんのすけはどこに居るのかしら。とにかく見つけなきゃ。でも場所がわからない。
二人も同じで、きっと私がどこにいるかわからなくて、一人ぼっちで不安になっているに違いないわ。
それにしても肌寒いわね。しんのすけがお腹を冷やしてなければいいけど。お腹を壊したら明日の焼肉も食べれなくなっちゃうわよ。
――――明日? 明日ちゃんと帰れるのかしら? 帰れなかったら、ひまわりの面倒は誰がみるの?
ギガゾンビが「殺し合い」だの「願いをかなえる」だの言っていたのを思い出さないでもなかったが、
それをまともにとらえるにはみさえの心には現実のあれこれが染みつきすぎていた。
ゲームに乗るという選択肢は、この場に連れて来られたばかりのみさえには思いもつかないものであった。
――――帰らなきゃ。
何としてでも、帰らなきゃいけない。
ジーパンの尻ポケットに運よく入っていた小銭の中から5円玉をより分け、賽銭箱に放る。
この不安な状況がなんとかなりますようにと願いをこめてみさえは鈴を鳴らし、両手を合わせた。
すると、願いが天に通じたのか――
見るからに恐ろしげな男が寺の横の森から飛び出してきた。
あ、まちがい。
見るからに恐ろしげな得物を携えた男が寺の横の森から飛び出してきた。
男の持っていたそれは、剣の形はしていたが、剣というには馬鹿げた凶器だった。
みさえの息子が描いたラクガキの中にしか出てこないような、人の身の丈以上もある鉄の塊。
いっそチェーンソーや日本刀などのわかりやすい凶器だったら、みさえも「ドッキリでしょ?」と
(引きつりつつ)笑っただろうが、視界に飛び込んできたそれはみさえの抱く「凶器」としての想像を飛び越え、
しかしそれを目にした誰にも、有無を言わさずそれが「凶器」であると知らしめるような、飛びぬけた凶悪さを具えていた。
飛び出してきた相手をそれ以上ろくに確認することもないまま、みさえはあらん限りの声をしぼって悲鳴をあげた。
そしてデイパックを抱いたまま反射的に鬱蒼と茂る森へ走る。
・
・
・
無我夢中で逃げ回って数十分。
相手を撒くことができたのはよかったが、その代償として現在みさえは山中でひとり迷子の身である。
家族を探すにも、まずは自分が迷っていては話にならない。
コンパスか地図でも入っていないかと、とりあえずみさえは抱えっぱなしのデイパックを開いてみた。
はたしてその中にコンパスと地図はあった。周りの地形から推測するに、今みさえは右上隅の区画あたりにいるようである。
デイパックには、他にもいろいろ入っていた。どう考えても中に入っているのは物理的におかしいような中身に首を傾げつつ、
みさえはひとつひとつ細かく確認する。状況もあるが、主婦の性のようなものであった。
とりあえず手当たり次第につかみ出して地面に並べて確認してみると、入っていたのは以下のようなものだった。
・地図
・コンパス
・鉛筆とメモ帳
・飲料水
・食料
・時計
・ランプ
・名簿
・懐中電灯(?)
・女の子向けおもちゃのステッキ(?)
キャンプ用品詰め合わせの中身をそのまま移し変えて放り込んだような最初の7つは置いといて、みさえの目をひいたのは名簿と、
照明器具がすでにあるのになぜか入っている懐中電灯と、あと謎のおもちゃ。
まず、名簿を確認する。名前の横に番号が振ってあって、それが人数確認にもなる。
最後の「平賀=キートン・太一」は80番……全部で80人も自分と同じような状況にいるであろう参加者が存在するという事実に、
みさえはため息をついた。
名前の並びは50音順ではなくばらばらに並んでいて読むのに骨が折れたが、それでも根気よく上から下に読んでいくと
程無くしてみさえは見慣れた3つ……いや4つ、5つの名前を発見した。
「野原しんのすけ」「野原ひろし」「野原みさえ」……「井尻又兵衛由俊」そして「ぶりぶりざえもん」。
(何故しんのすけのラクガキのキャラクターの名前があるのだろう?)
何度も確認しなおしたが、名簿に「野原ひまわり」の名は含まれていなかった。そのことに安堵する。
そして、自分たちの名前を見つけたと同時に、ある推測が浮かんだ。
名簿の並びは50音順ではないが、各参加者の名前は、おそらく――知り合い同士を固めて並べてあるような気がする。
野原一家は三人とも苗字が同じなので並んでいてもおかしくはないが、みさえ一家の知っている「井尻又兵衛由俊」や
「ぶりぶりざえもん」がそのすぐ下にあるというのは只の偶然ではないように思えた。
次に、懐中電灯とおもちゃを確かめてみる。この二つには、柄のところに「説明書」と書かれた紙が輪ゴムで括ってあった。
取り外して中を読む。
懐中電灯の方は、「スモールライト」という製品名らしい。
なんでも、『使い方は懐中電灯同様。スイッチを入れると発光し、その光を物体に当てると、その物体を小さくできる』とのこと。
手の中で転がしつつためつすがめつするが、見た目は本当にごく普通の懐中電灯である。
文脈からみさえが考えたのは、テレビの通販でよくあるような、アレ――ゲルマニウムやら遠赤外線やらの効果で
脂肪を燃焼させるという謳い文句の、怪しげな痩身器具の類であった。
おもちゃのステッキのほうはこうである。
『バルディッシュ:インテリジェントデバイス。
祈願型プログラムによって、基本的な防御・攻撃魔法は願うだけで発動する。
発動すると斧の姿を基本形態(デバイスフォーム)とし、
状況に応じて死神の鎌(サイズフォーム:格闘用)・槍(シーリングフォーム:封印用)に変形する」
……どうみてもオモチャです。本当にありがとうございました。
殴る棒くらいには使えるだろうとバルディッシュを手に提げたまま、みさえは二度目のため息。
殺し合えと言われたところで、こんなものを渡されてはふざけているとしか思えない。
「……もしかして、ドッキリ企画?」
連れて来られた時、最初に浮かんだその考えをみさえはつぶやく。
「そーよ、絶対そうだわ。だいたい、こんなのどう考えたっておかしいじゃない」
楽観的に、否、楽観したいとの切な思いをこめて、つとめて明るくみさえはもう一度つぶやいた。
言葉の力は大きく、それは麻薬のように作用する。
自分の発した言葉に励まされ、みさえの精神的緊張がわずかに解けた。
ふと、例の「スモールライト」に目が向く。
「これって、私に渡されたってことは……勝手に使っていいのよね……」
懐中電灯を見つめ……周囲に人の目がないのを確かめてから、おもむろに自分の大きく張り出した臀部に光をあててみる。
そのまま1分ほど照射を続けてみたが、目立った効果はない。
すぐに効果のあらわれるものではないとわかっているのだが、何となく失望感。
我に返ると同時に、今の自分が相当に恥ずかしいことをしていたのに気づいて、「なーんちゃって……」とごまかしつつ、
あわててライトをしまおうとする。
が。
何かが、おかしい。
(なに? なんだか、周りが変じゃない?)
きょろきょろと見回し――異変の正体を悟った瞬間、みさえは息を呑んだ。
周りが大きくなっている?
私が縮んでいる!?
「ちょ、ちょっと何これ」
慌てるが、どうにもできない。
周囲は相変わらず静かなまま。木々は静かにさやめき、川は月明かりを反射してせせらいでいる。何も異変はない。
異変が起きているのはみさえ自身。みさえの体が、急激に縮んでゆく。
「なによこれ!? ちょっと嫌ってば、助けて、助けて、あなたーっ!」
みさえの夫を呼ぶ悲痛な声が、深夜の森にこだました。
・
・
・
どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
みさえは、小山のようなデイパックに寄りかかったまま呆然としていた。
体の縮小が止まった時には、みさえは小さな人形サイズになってしまっていた。
デイパックから取り出されて並んだままのペットボトルやコンパスの間を歩き回る。
どれも、すでに今のみさえには持ち運ぶことすら困難な、無用の長物たちであった。
いまや支給品の中でみさえの使えそうなものは、みさえと一緒に縮んだスモールライトと、手に持っていたおもちゃのステッキのみであった。
みさえが途方にくれていると、不意に茂みのざわつく音が近づいてきた。
誰か来る!
みさえは逃げ場所を探して周囲を見るが、広げられたデイパックの中身を見て思いとどまった。
これを手放してしまっては、特に食料を手放してしまっては、逃げてももっと困るだけではないだろうか?
しがないサラリーマンを夫に持つ主婦の貧乏根性が、みさえにその場を離れることをためらわせた。
そう迷っているうちにも、音は近づいてくる。
窮してさ迷うみさえの目に、格好の隠れ場所が映った――――。
予想通り、茂みを抜けた先には川があった。
川べりの砂利の上には、先程まで誰かいたのか、手付かずのままの支給品がデイパックから取り出されたまま広げられている。
一応確かめてみるが、罠はなさそうである。
おそらく、彼の気配におびえて荷物をほっぽり出して逃げたのであろう。
食料品や水はそのままであり、開封した様子もない。勿体ねえな、と思いながら
あるに越したことはないそれらを拾い上げ、自分のデイパックに移し変えてゆく。
他は何かないかと見る目に、空になってくたれているデイパックが映る。
袋も、いざという時に役立つことの多い品である。それに、まだ何か役に立つものが残されている可能性もある。
彼はデイパックも拾い、その中に手を突っ込んだ。
何かが手に触れる。
掌に収まる小ささで、しかも生物の奇妙な柔らかさを具えた奇妙な感触。しかも暴れる。
イヤな予感とともに手をデイパックから引っこ抜くと、握られていたのはやはり――――
いよいよ進退窮まると腹を決め、みさえは構えた。
(こうなったら、中に入っていたもののフリをして切り抜けるしか……!)
頑強な手にウエストをがっしりつかまれ、引っ張り出されてみればいかつい男とご対面。
機先を制して無骨な益荒男の顔先にバルディッシュを掲げ、かわいらしくヒロインポーズ。
「よ、ようこそおめでとうございまーす!
ワタシを引き当てたあなたはラッキー! 魔法少女リリカルみさリン、あなたのモトにただいま参上☆」
みさえが昔の学生服を着てみせた時の夫ひろしと同じ表情が、目の前にあった。
【A-7の山中・川のほとり 1日目 時間(黎明)】
【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:1/10サイズ化。その他は健康だが、精神的ストレス(ヒステリーに転化される)
[装備]:バルディッシュ@リリカルなのは(こちらも1/10サイズ)
[道具]:スモールライト@ドラえもん(電池やや消耗)
[思考]
第一行動方針:家族の安否確認、できれば合流したい
第二行動方針:とりあえず身の安全をはかるため、ガッツについていく
第三行動方針:元のサイズに戻れる方法を知る
基本行動方針:ひろしやしんのすけも心配だが、一人残されているであろうひまわりが心配……(⇒もとの世界に帰る)
【A-7の山中・川のほとり 1日目 時間(黎明)】
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:心身ともに健康
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
第一行動方針:???
第二行動方針:???
基本行動方針:???
【A-6・1日目 時間(黎明)】
【佐々木小次郎@Fate/stay night】
[状態]:無傷。平常心。
[装備]:竜殺し@ベルセルク
[道具]:支給品一式
[思考・状況]1.兵(つわもの)と仕合たい。基本的には小者は無視。
[追記]
・ガッツの思考、所持品などは次の方にお任せします。
・最初に飛び出してきてみさえを驚かしたのは、隣接区域(A-6)に居た佐々木小次郎です。
時系列としては、『竜殺し』の話の少し後になります。まだ「深夜」から「黎明」に移ったばかりです。
・スモールライトは普通の乾電池で動いています。
・原作(映画)設定で、効力の持続する時間に限りがあること、もう一度光を浴びれば元の大きさに戻れる「解除光線」の機能を有している事が描写されています。
また、ビッグライトの能力はありません(原作初期版では、スモールライトはビッグライトの効果をも備えていましたが、のちに別々にされたようです)
・威力制限として、縮小限界(元のサイズの1/10まで)を設けてあります。
・みさえは、もう一度光に当たれば元の大きさに戻れることにはまだ気づいていません。
**奥様は6インチの魔法少女! ◆tC/hi58lI
野原みさえは、ひとり川辺にしゃがみこんでいた。
肩で息をし、デイパックを抱きしめながら周囲を警戒する。
(さっきの男は、もう追ってきてないみたいね……)
まだ震えの収まらぬ膝をかかえこみ、みさえは先程のことを思い出していた。
デイパックひとつを与えられ、みさえが放り出されたのはどことも知れぬ山中の寺の境内であった。
木々がさやめき、闇が揺れる真夜中の寺というのは、なかなかに不気味なロケーションである。それが一人ぼっちならなおさらだ。
なんとなくここが春日部市でないことを、みさえは肌で感じていた。
詳しい者なら植物などからもっと詳しく地理を推察できるのだろうが、ごく普通の専業主婦であるみさえに
その知識はない。知識もなく、状況を切り開く力もないみさえが今できるのは、
なぜこんなことになってしまったのかと思い悩むことだけであった。
……そうよ、今日はボーナスの日で、明日はみんなで焼肉を食べようかって話をして……
……それからいつも通り、家族4人で並んで眠ったはずだったのに。
なのに、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
ひろしやしんのすけはどこに居るのかしら。とにかく見つけなきゃ。でも場所がわからない。
二人も同じで、きっと私がどこにいるかわからなくて、一人ぼっちで不安になっているに違いないわ。
それにしても肌寒いわね。しんのすけがお腹を冷やしてなければいいけど。お腹を壊したら明日の焼肉も食べれなくなっちゃうわよ。
――――明日? 明日ちゃんと帰れるのかしら? 帰れなかったら、ひまわりの面倒は誰がみるの?
ギガゾンビが「殺し合い」だの「願いをかなえる」だの言っていたのを思い出さないでもなかったが、
それをまともにとらえるにはみさえの心には現実のあれこれが染みつきすぎていた。
ゲームに乗るという選択肢は、この場に連れて来られたばかりのみさえには思いもつかないものであった。
――――帰らなきゃ。
何としてでも、帰らなきゃいけない。
ジーパンの尻ポケットに運よく入っていた小銭の中から5円玉をより分け、賽銭箱に放る。
この不安な状況がなんとかなりますようにと願いをこめてみさえは鈴を鳴らし、両手を合わせた。
すると、願いが天に通じたのか――
見るからに恐ろしげな男が寺の横の森から飛び出してきた。
あ、まちがい。
見るからに恐ろしげな得物を携えた男が寺の横の森から飛び出してきた。
男の持っていたそれは、剣の形はしていたが、剣というには馬鹿げた凶器だった。
みさえの息子が描いたラクガキの中にしか出てこないような、人の身の丈以上もある鉄の塊。
いっそチェーンソーや日本刀などのわかりやすい凶器だったら、みさえも「ドッキリでしょ?」と
(引きつりつつ)笑っただろうが、視界に飛び込んできたそれはみさえの抱く「凶器」としての想像を飛び越え、
しかしそれを目にした誰にも、有無を言わさずそれが「凶器」であると知らしめるような、飛びぬけた凶悪さを具えていた。
飛び出してきた相手をそれ以上ろくに確認することもないまま、みさえはあらん限りの声をしぼって悲鳴をあげた。
そしてデイパックを抱いたまま反射的に鬱蒼と茂る森へ走る。
・
・
・
無我夢中で逃げ回って数十分。
相手を撒くことができたのはよかったが、その代償として現在みさえは山中でひとり迷子の身である。
家族を探すにも、まずは自分が迷っていては話にならない。
コンパスか地図でも入っていないかと、とりあえずみさえは抱えっぱなしのデイパックを開いてみた。
はたしてその中にコンパスと地図はあった。周りの地形から推測するに、今みさえは右上隅の区画あたりにいるようである。
デイパックには、他にもいろいろ入っていた。どう考えても中に入っているのは物理的におかしいような中身に首を傾げつつ、
みさえはひとつひとつ細かく確認する。状況もあるが、主婦の性のようなものであった。
とりあえず手当たり次第につかみ出して地面に並べて確認してみると、入っていたのは以下のようなものだった。
・地図
・コンパス
・鉛筆とメモ帳
・飲料水
・食料
・時計
・ランプ
・名簿
・懐中電灯(?)
・女の子向けおもちゃのステッキ(?)
キャンプ用品詰め合わせの中身をそのまま移し変えて放り込んだような最初の7つは置いといて、みさえの目をひいたのは名簿と、
照明器具がすでにあるのになぜか入っている懐中電灯と、あと謎のおもちゃ。
まず、名簿を確認する。名前の横に番号が振ってあって、それが人数確認にもなる。
最後の「平賀=キートン・太一」は80番……全部で80人も自分と同じような状況にいるであろう参加者が存在するという事実に、
みさえはため息をついた。
名前の並びは50音順ではなくばらばらに並んでいて読むのに骨が折れたが、それでも根気よく上から下に読んでいくと
程無くしてみさえは見慣れた3つ……いや4つ、5つの名前を発見した。
「野原しんのすけ」「野原ひろし」「野原みさえ」……「井尻又兵衛由俊」そして「ぶりぶりざえもん」。
(何故しんのすけのラクガキのキャラクターの名前があるのだろう?)
何度も確認しなおしたが、名簿に「野原ひまわり」の名は含まれていなかった。そのことに安堵する。
そして、自分たちの名前を見つけたと同時に、ある推測が浮かんだ。
名簿の並びは50音順ではないが、各参加者の名前は、おそらく――知り合い同士を固めて並べてあるような気がする。
野原一家は三人とも苗字が同じなので並んでいてもおかしくはないが、みさえ一家の知っている「井尻又兵衛由俊」や
「ぶりぶりざえもん」がそのすぐ下にあるというのは只の偶然ではないように思えた。
次に、懐中電灯とおもちゃを確かめてみる。この二つには、柄のところに「説明書」と書かれた紙が輪ゴムで括ってあった。
取り外して中を読む。
懐中電灯の方は、「スモールライト」という製品名らしい。
なんでも、『使い方は懐中電灯同様。スイッチを入れると発光し、その光を物体に当てると、その物体を小さくできる』とのこと。
手の中で転がしつつためつすがめつするが、見た目は本当にごく普通の懐中電灯である。
文脈からみさえが考えたのは、テレビの通販でよくあるような、アレ――ゲルマニウムやら遠赤外線やらの効果で
脂肪を燃焼させるという謳い文句の、怪しげな痩身器具の類であった。
おもちゃのステッキのほうはこうである。
『バルディッシュ:インテリジェントデバイス。
祈願型プログラムによって、基本的な防御・攻撃魔法は願うだけで発動する。
発動すると斧の姿を基本形態(デバイスフォーム)とし、
状況に応じて死神の鎌(サイズフォーム:格闘用)・槍(シーリングフォーム:封印用)に変形する」
……どうみてもオモチャです。本当にありがとうございました。
殴る棒くらいには使えるだろうとバルディッシュを手に提げたまま、みさえは二度目のため息。
殺し合えと言われたところで、こんなものを渡されてはふざけているとしか思えない。
「……もしかして、ドッキリ企画?」
連れて来られた時、最初に浮かんだその考えをみさえはつぶやく。
「そーよ、絶対そうだわ。だいたい、こんなのどう考えたっておかしいじゃない」
楽観的に、否、楽観したいとの切な思いをこめて、つとめて明るくみさえはもう一度つぶやいた。
言葉の力は大きく、それは麻薬のように作用する。
自分の発した言葉に励まされ、みさえの精神的緊張がわずかに解けた。
ふと、例の「スモールライト」に目が向く。
「これって、私に渡されたってことは……勝手に使っていいのよね……」
懐中電灯を見つめ……周囲に人の目がないのを確かめてから、おもむろに自分の大きく張り出した臀部に光をあててみる。
そのまま1分ほど照射を続けてみたが、目立った効果はない。
すぐに効果のあらわれるものではないとわかっているのだが、何となく失望感。
我に返ると同時に、今の自分が相当に恥ずかしいことをしていたのに気づいて、「なーんちゃって……」とごまかしつつ、
あわててライトをしまおうとする。
が。
何かが、おかしい。
(なに? なんだか、周りが変じゃない?)
きょろきょろと見回し――異変の正体を悟った瞬間、みさえは息を呑んだ。
周りが大きくなっている?
私が縮んでいる!?
「ちょ、ちょっと何これ」
慌てるが、どうにもできない。
周囲は相変わらず静かなまま。木々は静かにさやめき、川は月明かりを反射してせせらいでいる。何も異変はない。
異変が起きているのはみさえ自身。みさえの体が、急激に縮んでゆく。
「なによこれ!? ちょっと嫌ってば、助けて、助けて、あなたーっ!」
みさえの夫を呼ぶ悲痛な声が、深夜の森にこだました。
・
・
・
どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
みさえは、小山のようなデイパックに寄りかかったまま呆然としていた。
体の縮小が止まった時には、みさえは小さな人形サイズになってしまっていた。
デイパックから取り出されて並んだままのペットボトルやコンパスの間を歩き回る。
どれも、すでに今のみさえには持ち運ぶことすら困難な、無用の長物たちであった。
いまや支給品の中でみさえの使えそうなものは、みさえと一緒に縮んだスモールライトと、手に持っていたおもちゃのステッキのみであった。
みさえが途方にくれていると、不意に茂みのざわつく音が近づいてきた。
誰か来る!
みさえは逃げ場所を探して周囲を見るが、広げられたデイパックの中身を見て思いとどまった。
これを手放してしまっては、特に食料を手放してしまっては、逃げてももっと困るだけではないだろうか?
しがないサラリーマンを夫に持つ主婦の貧乏根性が、みさえにその場を離れることをためらわせた。
そう迷っているうちにも、音は近づいてくる。
窮してさ迷うみさえの目に、格好の隠れ場所が映った――――。
予想通り、茂みを抜けた先には川があった。
川べりの砂利の上には、先程まで誰かいたのか、手付かずのままの支給品がデイパックから取り出されたまま広げられている。
一応確かめてみるが、罠はなさそうである。
おそらく、彼の気配におびえて荷物をほっぽり出して逃げたのであろう。
食料品や水はそのままであり、開封した様子もない。勿体ねえな、と思いながら
あるに越したことはないそれらを拾い上げ、自分のデイパックに移し変えてゆく。
他は何かないかと見る目に、空になってくたれているデイパックが映る。
袋も、いざという時に役立つことの多い品である。それに、まだ何か役に立つものが残されている可能性もある。
彼はデイパックも拾い、その中に手を突っ込んだ。
何かが手に触れる。
掌に収まる小ささで、しかも生物の奇妙な柔らかさを具えた奇妙な感触。しかも暴れる。
イヤな予感とともに手をデイパックから引っこ抜くと、握られていたのはやはり――――
いよいよ進退窮まると腹を決め、みさえは構えた。
(こうなったら、中に入っていたもののフリをして切り抜けるしか……!)
頑強な手にウエストをがっしりつかまれ、引っ張り出されてみればいかつい男とご対面。
機先を制して無骨な益荒男の顔先にバルディッシュを掲げ、かわいらしくヒロインポーズ。
「よ、ようこそおめでとうございまーす!
ワタシを引き当てたあなたはラッキー! 魔法少女リリカルみさリン、あなたのモトにただいま参上☆」
みさえが昔の学生服を着てみせた時の夫ひろしと同じ表情が、目の前にあった。
【A-7の山中・川のほとり 1日目 時間(黎明)】
【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:1/10サイズ化。その他は健康だが、精神的ストレス(ヒステリーに転化される)
[装備]:バルディッシュ@リリカルなのは(こちらも1/10サイズ)
[道具]:スモールライト@ドラえもん(電池やや消耗)
[思考]
第一行動方針:家族の安否確認、できれば合流したい
第二行動方針:とりあえず身の安全をはかるため、ガッツについていく
第三行動方針:元のサイズに戻れる方法を知る
基本行動方針:ひろしやしんのすけも心配だが、一人残されているであろうひまわりが心配……(⇒もとの世界に帰る)
【A-7の山中・川のほとり 1日目 時間(黎明)】
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:心身ともに健康
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
第一行動方針:???
第二行動方針:???
基本行動方針:???
【A-6・1日目 時間(黎明)】
【佐々木小次郎@Fate/stay night】
[状態]:無傷。平常心。
[装備]:竜殺し@ベルセルク
[道具]:支給品一式
[思考・状況]1.兵(つわもの)と仕合たい。基本的には小者は無視。
[追記]
・ガッツの思考、所持品などは次の方にお任せします。
・最初に飛び出してきてみさえを驚かしたのは、隣接区域(A-6)に居た佐々木小次郎です。
時系列としては、『竜殺し』の話の少し後になります。まだ「深夜」から「黎明」に移ったばかりです。
・スモールライトは普通の乾電池で動いています。
・原作(映画)設定で、効力の持続する時間に限りがあること、もう一度光を浴びれば元の大きさに戻れる「解除光線」の機能を有している事が描写されています。
また、ビッグライトの能力はありません(原作初期版では、スモールライトはビッグライトの効果をも備えていましたが、のちに別々にされたようです)
・威力制限として、縮小限界(元のサイズの1/10まで)を設けてあります。
・みさえは、もう一度光に当たれば元の大きさに戻れることにはまだ気づいていません。
*時系列順で読む
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