好意には友愛を、敵意には報いを ◆QkyDCV.pEw
ビスケット・グリフォンは、完全に少女の視界から外れてもまだ走るのをやめなかった。
体型は実にふくよかなビスケットであるが、そこは鉄華団でモビルワーカーのパイロットもやっている兵士である。
基本的に、パイロットなんて仕事はタフな人間でなければこなせないもので。
ましてやビスケットの従事していた作業環境は、富を搾取されている云々以前の話で、彼等の命すら顧みられてはいなかったのだ。
その象徴たる、阿頼耶識システムをビスケットも当然身につけている。
このシステム、手術の成功率が六割前後で、しかも手術自体は十才頃に行うというもの。
十才の子供に成功率六割の手術の意味がわかるはずもなく、わからぬままに四割死亡の危険な橋を渡らせる事の非道さは、少しでも想像力があれば理解出来よう。
そんなブラック通り越してダークマター覆ってそうな職場環境を生き抜いてきたビスケットが、見た目通りの動けぬデブなわけはないのである。
あっさりとらぶぽんを振り切ったビスケットは、多少息は切らしていたものの、その場で疲れて蹲るだのといったハメにもなってはいない。
さて、とビスケットは改めて地図を見る。
マルノウチスゴイタカイビルという名前の建造物付近は迂回した方が良いらしいが、ビスケットが気になる建物はその先にある。
CGS本部と書かれている場所。ビスケットがこの単語から連想するのは、現鉄華団本部である古巣の基地だ。
「でも、まさか、ねえ」
こんな所にあるわけがない。それこそ鉄華団の名前と比べれば珍しくもないもので、同名の建物が存在する可能性もそれほど低いとは思えない。
ただ、こんな名前の建物があるという事に気付いたら、オルガも三日月も気にはするだろう。打ち合わせも無しの合流場所と定めるには、悪く無いかもしれない。
遠回りすれば大丈夫、かな。とここを目指す事に決める。
まさかマルノウチスゴイタカイビルで狙撃してた人間が、CGS本部を水素爆発で吹っ飛ばしているなどと、露ほども思わないのである。
そんな考え事をしながら歩くビスケットは、その進行方向、おおよそ十メートル程先に、二人の人影を見かけた。
男と女、どちらもまだ若い。
女がにこやかに笑いながら声をかけてきた。
「こんにちわ。こちらに敵意は無いよ。良ければお話したいんだけど、どうかな?」
女は髪を二箇所で縛っている気の強そうな少女で、男の方は髪の毛が真っ白なのが気になったが、顔つきは優しそうな人に見える。
一定の距離をあけて、脅かさぬよう控えめに声をかけてきてくれたのにも、好感が持てると思えた。
ビスケットは笑い返して言った。
「こんにちわ。僕はビスケット・グリフォン。鉄華団の一員だよ。僕もきちんと話が出来る人探してたんだ。もちろん、襲ってくるような事の無い人とね。そっち、行っていいかい?」
「もちろん。……襲って来ない人って、もしかして襲って来るような人と会ったのか?」
眉根を抑えながら歩み寄るビスケット。
「いやー。何ていうか……とても一言じゃ言い表せないかな。無理にでも言うとしたら、超人と怪獣と錯乱してしょけーしょけー言う娘」
女、恵比須沢胡桃は、男、金木研と顔を見合わせる。胡桃はおそるおそる問うた。
「もしかして、怪獣って真っ黒で鼻に剣刺さってるの? 雷降らせたりとか意味わかんない事するの」
「え!? 君達も見たのかい!?」
「見たも何も。このカネキ君が襲われて危うい目に遭ったよ。良くもまああんなのから逃げられたな」
「うわ、やっぱりアレ危ない奴だったんだ。それがさ、望遠鏡で見たんだけど、似たような金色の怪獣と滅茶苦茶なケンカの真っ最中で。慌ててその場から離れたんだよ」
「あっぶな、それ大正解。ホントにアイツ危険な相手なんだから。私達も、他に二人仲間がいるんだけど、その内の一人がすっごい人で、その人が頑張って何とか撃退したんだ」
「あれを撃退? モビルワーカーにでも乗ってるのかい?」
「まま、その辺はみんなの所で話そう。いい、よな?」
「ああ、もちろんだよ」
話がまとまった所で、カネキが声をかける。
「よろしく、僕は金木研だよ」
慌てて胡桃も続く。
「っと、私もまだ自己紹介してなかった。恵比須沢胡桃、よろしく」
ビスケットは少し、反応に困っているような顔になる。
「あー……えっと、ごめん、カネキケンと、えび、えっとエビサザミルク?」
速攻で突っ込む胡桃。
「カネキ君はあってて私は駄目かいっ。あ、いや、そしたら私は胡桃でいいよ」
「僕もカネキってみんな呼ぶからそれでいいよ。日本語の名前、慣れてないんだよね」
「ああ、そう言ってもらえると助かるよ、カネキ、クルミ」
同世代同士という事を差し引いても、鉄火場を潜り抜け根性の据わった善人同士ならば、殺し合いを強要されている場所での初邂逅もこうして和やかに進むものなのである。
胡桃は、それをとても言い難いそうにしていた。
「えっと。向こうに残してきた二人なんだけど、その、男の人の方は、すっごく頼りになるんだ。頭も良いし、黒い獣を追い返せるぐらい強いし、それでいて私の事とかカネキ君の事とかも気にかけてくれてて、ちょっと、その、常識から外れた部分はあって、後、えっと、その、見た目が、怖いっていうか。だっ! だけど中身は良い人なんだ! ホント見た目だけなんだって!」
金木もどう説明したものか思案しながらである。
「最初は見た目にびっくりすると思う。でも、理性的で理屈に合わない事はしない人だよ。多分だけど、頭が良すぎるんだと思う。だから僕達の常識からは少し外れた事もするけど、それは僕等の発想があの人の考えに届いてないだけ、って感じなんだよ。あー、こればっかりは実際に話してもらわないと、かな。見た目は確かに怖い。っていうか、ちょっと凄いんだけど、ホント見た目だかだから、怖いのはっ」
ビスケットは何とも返答しようがないので、当たり障りの無い言葉を返す。
「あー、うん。とりあえず会ってから考えるよ。もう一人は普通な感じなの?」
即答したのは胡桃だ。
「一言にまとめるとバカ」
「く、胡桃ちゃん。それは少し言い過ぎ……」
「言い過ぎだと思う?」
「あ、あはははははははは、何ていうか、僕の口からは何とも……」
胡桃はビスケットに向き直る。
「考えが浅くて思いつきで馬鹿な事するんだ。それが、こういう場所であっても平気でやらかすわけ。まあそういう娘だから、カチンと来る事言われるかもしれないけど、大人な態度でスルーしてあげて欲しいな」
「……き、気をつけるよ。ここに来る前からの知り合いなの?」
「そんな恐ろしい事言わないでくれ。あの子連れて学校でサバイバルしろなんて言われてたら、流石に詰んでたぞ私達」
アクアの魔法がウィルスでゾンビ化した者に効果があるかどうかは定かではないので、概ね彼女の評価は正しいものであろうて。
ビスケットは呆れ半分で感想を述べる。
「だとしたら、ものの六時間ぐらいでそこまで言われる人ってのも凄いよね」
カネキは遠い目をしながら言い、胡桃も首肯する。
「……一時間もいらなかったよね」
「……そうだな」
ビスケットは妙に真顔になって襟を正す。
「うん、わかった。色々と覚悟しておく」
「私がアインズ・ウール・ゴウンだ」
アインズの自己紹介に、絶句で返すビスケット。幾ら構えていようが、そりゃ全身フードの骸骨顔を見せられればこうなる。
そんなビスケットの様子を見て、鬼の首でもとったかのように絶好調になるアクア。
「ほーら見なさい! アンタのアンデッド顔は万人が嫌がるものなのよ! この歩く猥褻物! アンデッドはそれらしくじめじめしい暗がりにでも帰りなさいっ!」
「私の何処に卑猥要素があるというのだ。せめて大人向け程度にしておいてくれ」
アクアの罵り言葉にも、いい加減アインズも慣れた様子でさらっと流してやる。
こそっと胡桃がアインズに問う。
「……もしかしてアインズさん、これはこれで楽しんでます?」
「はっはっは、元居た場所ではこうまであからさまに私に突っかかって来る者なぞおらんかったからな。慣れてくれば、苛立ちよりも新鮮さがより勝る」
大人だ、と尊敬の眼差しを向けるはカネキ君である。
アインズはビスケットに向け肩をすくめて見せる。
「この容姿が人間を怯えさせるものであるとの自覚はある。だからこそ、君との接触はまずそちらの二人に頼んだのだ。そういったこちらの配慮を、少しでも汲んでくれると嬉しい」
「あ、ああ、えっと、はい。その、あれですよね、知ってます。何とからいだーとかいう、娯楽番組。確か骸骨の仮面かぶってて。うんうん、いや、僕は見てないけど、何処かでそういう番宣見たような気がしますし」
「……あー、その、だな、ビスケット・グリフォン。私は人間ではないんだ。もちろんコスプレでもない。その証拠を今から見せるから、落ち着いて見て欲しい」
かぶっていたフードを外すと、もう誤魔化しようのない骸骨ヘッドが晒される。
骨々しい容貌を見せた後、手袋を外してやるとそこにも手ではなく手の骨が。骨だけでどーやって形を維持してるのかまったくもって不可思議極まりないが、何度見ても、骨だけなのである。
ビスケットの体が傾く。それは斜めから見ても変わらないか確認する為、無意識にそうしたもので。
順に左右にななめってどちらの角度から見ても骨が骨である事を確認する。
「……え? 何これ? え?」
「君もまた魔法を知らぬ世界の住人か。私はアインズ・ウール・ゴウン。飢えも疲労も病も寿命も無い、アンデッドの一種オーバーロードという種の者だ」
「あんでっど? え? ホラー映画? 魔法?」
結局、ビスケットへの説明と実証で半時間かかった。かかったが、それなりに納得はしてもらえたあたり、アインズはかなり頑張ったのである。後ビスケットも。
「……とにかく、地球には僕等には思いも付かないものがあるって事は理解したよ。ここ来てからはもう、本当にびっくりする事ばっかりだ」
ちなみにこの間、アクアがアインズに突っかかろうとしているのを、胡桃とカネキで上手く誤魔化しなだめすかしている。なので基本会話はアインズとビスケットの二人によって行われている。
アインズは話の切欠にと思ったか、ビスケットの言葉尻をとらえてみる。
「地球には? 面白い言い方をするな」
「そりゃ、僕は火星から来た口だからね。地球って所は僕の想像を遥かに超えて……」
「……火星? それは火の星と書いて火星? 太陽系第四惑星の?」
「そうだけど。そんなに火星出って珍しいんだ」
今度はアインズが絶句する番であった。
「…………珍しいもなにも、火星に人が住んでいるなんて始めて聞いたぞ。ビスケット、もう少し君の世界の話を聞かせてくれ。その上で、私がそこの三人と話し合って出た推論を君にも披露しようじゃないか」
そして再び説明しあいタイム。ここでもエライ時間を食ったのは、ビスケットの語る宇宙開発っぷりがアインズの想像を軽く超えてくれていたせいだ。
異世界であるからして、アインズ達の知る地球より技術や歴史の進んだ世界とも繋がる可能性を、アインズは不覚にも失念していたのだ。
驚いたアインズはビスケットから様々な話を聞きたがった。ビスケットが語るモビルスーツの話に、思わずワクワクしてしまったという理由も無いではないが。
ビスケットもまたアインズの語る魔法の話や、異世界の話を聞きたがり、二人は種族の違いも超えお互いを語り合う。
実はこの両者、片やアインズは元サラリーマンの営業畑出身であり、片やビスケットは荒くれ者ばかりの鉄華団における良心とも言うべきポジションの聞き上手で、この二人の会話はお互いにとって好ましいと感じられるものであった。
あまりに盛り上がり過ぎて、どちらも胡桃に突っ込まれるまで時間を忘れてしまっていた。
アインズは一端話を切った後、上機嫌でビスケットを仲間に誘う。
「是非、君にも同行して欲しいのだが、どうだろうか?」
ビスケットもまたそれを心強いとも思うのだが、ビスケットは鉄華団の一員として優先しなければならない事がある。
誘ってくれて嬉しいが、と口惜しそうにビスケットが断ると、アインズもまた残念そうにしたが、ふと思い出したようにアインズはバッグを取り出す。
「そうだ、ビスケット。私の支給品に私にはわからないものがあったんだが、もし良ければ見てもらっていいか? モビルスーツというのと似た名前のものなのだが」
「ん? いいよ。どれ?」
「えっとだな、確か、モビルワーカー、というものらしくて……確か、鍵が……」
ビスケットがその単語に驚き言葉を発しようとした所で、ソレが起こった。
アインズはバッグの中の鍵を取り出そうとしていた。説明書にはコレが機動キーになると書いてあったが、肝心の起動させるべき何かが見つからない。
まあいいか、と鍵と説明書を取り出したのだが、そこで始めて、最初に見た時は気付かなかった更なる注意書きが見えた。
注意書きはバッグの中に入っている突起物に張られていた。
『モビルワーカーが必要な時は、これを引いて下さい。くれぐれも、開けた場所でそうする事』
アインズは注意書きの後ろ半分を見ぬまま思わず反射的に、そうか引くのか、と突起を引っ張ってしまった。
似た現象はつい先程、奇しくもこの近くの川沿いで起こっていた。
松野おそ松がバッグから、明らかにバッグに入りきらぬ水上スキーを引っ張り出したのだ。
つまり、バッグの容量や口の大きさ如何によらず、このバッグの中身は引っ張り出す事が可能だという事で。
ならば中にモビルワーカーが入るなんて事もありうるのではなかろうか。ていうか戦車をそのまんま出した者もいるわけで超今更でもあるが。
大慌てでバッグを投げ捨て避難するアインズとビスケット。
バッグからは、気味の悪い歪み方をしながら機械が伸び出して来ている。それは何時までもそうし続けていて、アインズは胡桃達も一緒に更に後方へと下がる。
アクアが当然の如く抗議する。
「ちょっとちょっとちょっとー! アンタ一体何してくれたのよ!」
「知らん! 敵なら私が処理するからお前は下がってろ!」
臨戦態勢に入るアインズを他所に、機械は遂に全てがバックから飛び出し、三メートル半はある巨体を路上に晒す。
見た目は三脚のついた戦車といった感じか。
その威容に、アクアは真っ先に先制攻撃を主張する。
「アインズ! こら何してんのアンデッド! さっさとアンタの魔法でぶっとばしなさい! 特別に私が許可してあげるからっ!」
「ええいお前は黙っていろ。初見の敵は、まず一時撤退を頭に入れておいてだな……」
警戒する皆に、ビスケットが機械を見上げながら言った。
「多分、これ誰も乗ってないよ。アインズ、君はこれが何だかわからないんだよね。これは僕の所の、それも、前使ってた機体、モビルワーカーTK-53だ」
前使っていた、と付けたのは機体に描かれたロゴがCGS時代のものであったからだ。
ビスケットがそう言うと、真っ先にアインズが食いついた。
「まさか、ビスケット。君、これに乗れるのか?」
「うん。この型は多分阿頼耶識も使えるだろうし、これなら僕向け、かな」
おずおずと、カネキも食いついてきた。
「いや、でも操作とか物凄く複雑そうに見えるけど……」
「そうだね、コレを上手く動かすには阿頼耶識ってシステムに人間側が対応してないといけないんだ。アインズの話を聞いた感じだと、きちんと動かせるのは僕含めて三人ぐらいしか居ないんじゃないかな」
そこで、全員が一斉に押し黙った。誰も動かない。
じっとモビルワーカーを見るだけで、誰も発言しないし動こうともしない。いや、モビルワーカーだけを見ているのはビスケットで、アインズもカネキも胡桃もアクアも、モビルワーカーとビスケットを交互に見ている。
一番最初に業を煮やしたのはアクアであった。
「って、ちょっと! 何時までぼけーって見てるのよ! アンタこれ動かせるんでしょ!? だったらさっさと乗って見せなさいよ!」
それはアインズ、カネキ、胡桃の意見を代弁したものでもあったが、ビスケットはというとそんな申し出に意外そうな顔を見せた。
「いや、でもこれアインズのだよね? 僕が勝手に乗っちゃまずい……」
「いいぞ。構わないからすぐに乗るんだビスケット」
アインズは速攻で許可を出す。どうやらアレが動く所が見たくて仕方が無いらしい。何のかんの言って、アインズもまた一人の男の子であったりもするのだ。
このわくわく感を共有してくれそうな、カネキの方を振り向き見てみるアインズ。
だが、カネキはというと驚きはしているものの、その表情に隠せぬ高揚なんてものは見られなかった。ガチ系文学少年には、この感覚は理解してもらえぬ模様。
ものっ凄くがっかりしながら、残る二人を見ると、胡桃もまあ概ねカネキと同じ反応。残るアクアは、小首を可愛らしげに傾げている。
見た目は良いのだから、黙ってこうしていれば人間にはきちんとモテるだろうに、と毎度思うアインズである。
「ねえねえ、私考えたんだけど、あれの名前」
「モビルワーカーって名前だと思うが……」
「あれはね! デストロイヤーにそっくりだし! チビストロイヤーでどう!?」
胡桃が即座に答えた。
「だとしたらデストロイヤーじゃなくてデカストロイヤーになるだろ。てかモビルワーカーって名前があんだから却下だ却下」
「えー! だってモビル若って若々しくてあのゴツい見た目に合わないじゃない!」
「ワーカーだ! 作業用って意味でもあるんじゃないのか? ……のワリに武器っぽいのついてるけどさ」
程なくモビルワーカーが駆動音と共に動き出す。ビスケットが中で簡単な動作チェックを行っているのだが、そんな小さな動きでもアインズの失われたと思われていた男心を刺激して止まない。
三脚の下端はローラーになっており、滑るようにこれが駆動しつつ、三脚が上手く移動の衝撃を吸収する形になっているようだ。そこまではアインズにもわかったし、そんなロボットアニメなシロモノが実際に動くのを見ては、やはり興奮を隠せない。
なのだが、すぐに心が強制的に平静に戻されてしまった。それをとても残念に思うアインズだったが、その作用が反応する程に興奮していた我が身を振り返り、現状を鑑みて自省などもしてみたり。
一通りの動作を確認したビスケットは上部ハッチを開き顔を出してきた。
「うん、燃料弾薬も満タンだし、オーバーホール直後みたいに綺麗だ。でも、これどうするの? 僕、悪いんだけどCGS基地って場所に行こうと思ってるから、これ乗ってついてくって流石に難しいんだ」
そう問われて即座にアインズが答えられなかったのは、この巨大な機械が動く所が見たかっただけであって、そこから先の事は何も考えていなかった為だ。
言葉に詰まったアインズに、カネキが控えめに言う。
「あの、アインズさん。どうせコレ僕達誰も使えませんし、いっそビスケットに渡してしまうのはどうでしょう。これがあれば彼も鼻ピアスみたいなのに出会っても何とかなるだろうし。それで、ですね、これほどの物ですから、ビスケットからも、そのこういう言い方は何ですけど、代わりに何か、今後の協力なり彼の支給品なりと交換出来るんじゃないかなって」
一瞬もったいない、と思ったのも事実だが、確かにカネキの言う通りアインズ達が持っていても仕方の無いもので。
それにこれほどの道具を使わせるのなら、ビスケットのような人間である方がより望ましいだろう。きっと彼は恩義をきちんと感じられる人間であろうし。
そしてこの申し出をこちらからする、という事に意味があるのだ。この辺の機微は営業をやっていたアインズには良くわかっている。
「うむ、その通りだカネキ君。良くぞ言ってくれた、ありがとう」
「い、いえ、そんな……アインズさんなら気付いてたとは思うんですけど、余計な事じゃなかったんなら良かったです」
例え自分でそう思っていても、他者からも同じ内容の事を勧められれば迷いや躊躇いも振り切りやすいものだろう。そうしたカネキの発言の意図を、正確にアインズは汲み取っていた。この辺のスキルは日頃デミウルゴスやアルベドに鍛えられている。
『カネキ君はどうやら、思っていたよりずっと頭の回転が速いようだな。この手の助言は本当に助かる。ふむ、これは胡桃に感謝せねばならんかもしれん。あの鼻ピアスにはこうした細かな心遣いは絶対に求められんだろうしな』
モビルワーカーから降りて来ようとするビスケットに向け、アインズは大声で言ってやる。
「ビスケット! それは君が使うといい! 君がこれから単独行をしようというのなら、そういった武力は不可欠だろう! 何、こちらには私もカネキ君もいるから問題は無い!」
そう言われたビスケットはというと、モビルワーカーの値段を知っているだけに、仰天して機体から飛び降りアインズの元へと駆けて来た。
「いやいやいやいやいやいやいやいや! 使うがいいって! 幾らなんでもモビルワーカーをくれるなんてやりすぎだって!」
ビスケットの反応を見て、アインズは自分の見立てが正しかったと満足気に頷く。
「ふむ、タダで受け取るのは気が引けるかね?」
「タダでくれる気だったの!?」
「そういう事ならば、物々交換というのはどうかね? 私はどうやら私には使えないが君に極めて有用な物を持っていたようだ。ならばもしかしたらその逆もありえるかもしれんしな」
「いやー、そうは言ってもモビルワーカー相当の物とか絶対に無いと思うんだよな~。あ、でも、アインズに見てもらいたいものはあるかも」
そう言ってビスケットはバッグから、ビスケット曰くおどろおどろしい、アインズから見ればコレクター心を刺激してやまぬ逸品、妖刀ベッピンを取り出した。
「ほほう!」
しげしげと渡された刀に目を通すアインズ。鞘から抜き放ち刀身を眺めると、見れば見る程素晴らしい刀だとわかる。また同時に極めて優れたマジックアイテムであるとも。
ビスケットは伺うようにアインズの骸骨顔を覗き見る。
「ど、どう? すっごく怪しいから怖くてバッグに入れっぱなしにしてたんだけど」
「素晴らしいぞビスケット。私は剣を使えないが、それでもこれが古今稀に見る逸品であるというのはわかる。いやいや、このような素晴らしき品まであるとは」
アインズの言葉にビスケットは少し落胆したようだ。
「そっか~。アインズが使えるんなら良かったんだけど……後は変なのだけだよ。ほらこれ」
次に取り出したのは一冊のレポート。これもアインズに渡すと、アインズはタイトルを見て何かぴんと来たようだ。
レポートの序幕を斜め読みしながら、アインズはビスケットに訊ねる。
「ビスケットはこれを読んだかね?」
「ううん、時間かかりそうだったから」
「ふむ、ここに書かれている納鳴村というのは恐らく、地図にある同名の村の事だろう。我々はこの付近を通るつもりだったのだが…………何っ!!」
中の記述に、アインズの目を引くものがあったようだ。
だが、アインズは途中で本を読む手を止め顔を上げる。
「ビスケット、これは君の所有物で、如何に許可があったとはいえ私が先に全て読んでしまうのはルール違反だろう」
「あー、別にかまわ……」
「いや、構うのだよビスケット。情報とはそのように軽々に扱って良いものではない。その価値を知る智者たらんとするのなら、優れた情報には相応の敬意を払うべきだ」
重々しくアインズはビスケットに問う。
「ではビスケット。この本とあのモビルワーカーを交換しないか?」
「無理っ! 本安すぎだって! 他に何か……あー! この刀も! アインズには価値がわかるみたいだし! 後は、えっと……」
アインズはふっとビスケットから、カネキの方へと目線を移動する。
カネキは自分が見られた事に少し驚いたようだったが、すぐに意図を察して小さく首を横に振る。
アインズは鷹揚に頷いて返した。
「ビスケット、刀は君が持っているといい。君に使えなくともこうして交渉可能な相手との有用な交換材料になるだろう。この刀に素晴らしい価値がある事は、私、アインズ・ウール・ゴウンが保障しようじゃないか」
こめかみを抑えながら、参った、とばかりに俯くビスケット。
「いや、それじゃ幾らなんでも……」
「では君は仲間と合流したならば、その後でいいから我々に協力してはくれないか? もちろん君のボスの判断次第の所もあろうが、良ければ君から君のボスにそう勧めて欲しいのだが」
「それぐらいならもちろん。流石のオルガも今の状況じゃロクな選択肢も持ててないだろうし。アインズ達はここからの脱出を考えているんだよね?」
「うむ」
「なら問題無いと思う。オルガは何より、筋が通らない事を嫌うから。ただ、これだけ良くしてもらってこんな事言うのも何なんだけど、オルガがダメだと言ったらそれは本当に申し訳ないんだけど……」
「いや、それはビスケットの立場なら当然の事。むしろそうして先に口に出してくれるだけ、君の誠意が感じられる。その点は気にしないでくれ」
ビスケットは嘆息と共に、公平な取引を諦める。
「これを預けてもらえるのは正直凄くありがたいからなぁ。んじゃあ、悪いけどこのモビルワーカー、受け取らせてもらうよ。僕も出来るだけきちんとお礼したいと思うから、僕で出来る事があったら是非言って欲しい」
「ああ、その時は遠慮なく頼りにさせてもらおう」
その後、この地に招かれてから起こった出来事をお互い報告しあい、再会を約束し別れたのであった。
アインズ・ウール・ゴウンは定時放送を前に自分の考えを仲間の皆に告げる。
「では確認の為も含め、連中が死者を定期的に放送する理由を考えてみよう」
同行者である恵比須沢胡桃も、金木研も、アインズを嫌っているアクアさえも、アインズが思慮深い智者であると思っている。
なので自然、アインズがこう発言すれば耳を傾ける。
「名簿を照らし合わせた所、各々に関係深い人間同士が呼ばれているようだ。そこに技術的な問題があるのかもしれないが、もし狙ってそうしたというのなら、殺し合いを促進させる為の手法の一つとしてこれを用いているのだろう」
友人が殺されたと聞けば、とても冷静ではいられまいという話に皆納得する。
「故にこそ、放送で嘘を告げる可能性も否定しきれん。そもそも、名簿にある人間全てが本当にこの場に招かれているかも我々には確認出来んしな。その逆、名簿に無い人間が居る可能性もまた然りだ。つまり我々側からは名簿も放送も、その真贋を見極める事が困難であるという事だ」
そこでアインズはカネキへと視線を向ける。
先もそうしたが、カネキなりの意見はあるか、といった意味だ。
カネキはアインズが言葉を待っているとわかると、すぐに口を開く。彼なりに考えていた事があるからこその速さだろう。
「設定された期間は三日です。つまり予定されている放送は全部で十一回。それだけ回数を重ねるつもりがあるのなら、それこそ最初の内はこの会場内に居る者が嘘とわかる可能性のある事は内容は言わないと思います。つまり、死んでもない人間が死んだとか、死んだ人間を死んでいないと言うとかです」
アインズはふむ、と頷いて問い返す。
「前者は言うに及ばず、後者も遺体を確認する可能性がある、という事か」
「はい。元々彼等も僕達参加者から信用されるなんて思っていないでしょうが、彼等は『最後の一人になったなら何でも願いを適えてやる』といった言葉を僕達に信じさせる必要があります。ならば、放送で正確な事実を告げ続ける事は、その為の布石となりえます」
「嘘をついてまで我等に殺し合いさせるよりは、事実を告げ我等の信用を得る方が良いという事か。それは納得のいく話だな。それに殺し合いを押し進めるための布石は、連中既に幾つも打ってあると見たが」
「その通りです。あの鼻ピアスのような怪物、それもビスケットの話だともう一体似た怪物が居たそうで。ああいう殺意に満ちた者達を混ぜておけば、自然と殺し合いは進む事でしょう」
胡桃がふむふむ、と頷いた後言葉を続ける。
「つまり、それらの意見をまとめてみると」
アインズが更に言葉を繋ぐ。
「これから行われる放送は」
カネキが最後を受け取る。
「絶対に聞き逃しちゃダメって事で」
胡桃、アインズ、カネキの三人は一斉にアクアを見る。
アクアは真顔の三人に気圧されたのか、なによー、と後ずさりながつつバッグからペンを取り出し言った。
「だ、大丈夫よ~。ほら、書く物もあるしっ! 名簿も持ってる! 準備ばんたんっ!」
はっきりと言ってしまえば、アインズも胡桃もカネキも、放送をなめていた。
何やかやと仲間達は皆それなりに危地を乗り切ってきた者達であり、たった六時間程度で倒れるとは思っていなかったのだ。
だからまず、胡桃が我を忘れた。
『若狭悠里』
その名を胡桃から聞いていたアインズは、すぐに彼女を勇気付けようと言葉を発しかけ、二番目に冷静さを失う。
『アルベド』
これはまずい、そう危機感を抱いたカネキは、あくまで胡桃とアインズがまずいと思ったからで、我が身に降りかかるのは予想していなかった。
『霧島董香』
ここまでほぼ連続で名を呼ばれる。
胡桃もアインズもカネキも、三人共が言葉を失った。茫然自失といった体だ。
そして、少し間があいて追い討ちが。
『丈槍由紀』
その一言で、胡桃はその場に崩れ落ちてしまった。
だがアインズにはそれを気にしている余裕なんてない。
信じられぬ、と脳が情報を否定していたものが、じわじわとアインズの中に染み込んで来るのだ。
アインズはアルベドには、どうやったって返しようのない借りが存在する。
彼女と接する時、どうしてもついてまわる後ろめたさがあった。
だがそれは決して嫌いだのといった事ではない。アルベドは大切な者で、ギルドの長といった立場を抜きにしても、かけがえの無い女性だったのだ。
「……だれ、が、やった……」
あのアルベドが、理不尽に蹂躙される様を想像し、アインズの理性は容易く消し飛んだ。
声高らかに雄叫びをあげ、復讐を誓い、ありったけの言葉を用いてまだ見ぬ敵を罵る。
最早様子見だの警戒するだのといった思考は存在しない。何もかもを投げ捨てて、憎むべき怨敵を見つけ出し、生まれた事を後悔する程の目に遭わせてやると意気を吐く。
叫ぶだけではまるで激情が収まらない。
その腕に必殺の膂力を込め、当るを幸い薙ぎ払う。
だが、そんな暴風に向かい、か細い影が立ちはだかる。
アインズが後先を全く考えずに振るった腕を、その影は受け止めた。
アインズの目には、その影が許し難き怨敵に見えた。
「キサマか!!」
だがアインズの叫び以上の大声で、いやそれは声量ではない。心の奥底、魂より放たれたような怒声であった。
「アインズさん!」
その声の鋭さに、アインズは相手の顔を見ようという気になれた。
彼の頬からは、一筋の雫が零れ落ちていた。
その瞬間、アインズの心中に吹き荒れていた激情が一瞬で鳴りを潜める。そうなって始めてアインズは、影の正体がカネキであるとわかった。
アインズの腕から力が失われているのに気付いたカネキは、そっとその腕から手を離す。
既にアインズは完全に自らを取り戻していたが、肋骨が根こそぎ奪われたかのような喪失感は残ったままだ。
アインズは平静を取り戻した目でカネキを見る。
カネキもまた、常の彼ならぬヒドく荒れた目をしていた。
「……カネキ君。君も、か?」
「……………………はい」
アインズはゆっくりと首を回し胡桃を見る。これだけの騒ぎにも胡桃は微動だにせぬまま、座り込んで地面を斜めに見下ろしたままであった。
酷であるとわかっていながらアインズは胡桃に声をかける。
「胡桃。立てるか?」
のろのろと立ち上がる胡桃。それは主体性のある行動ではなく、ただ言われたからそうした、といったものだ。
カネキと胡桃を順に見たアインズは、無理か、と思いながらも問いかける。
「すまない、私はもう大丈夫だ。だが、君達はどうだ?」
それは義務感からか、または足を止めたら死ぬとわかっているせいか、胡桃は明らかに無理をしているとわかる顔で言った。
「だい、丈夫。動けるし、走れる」
カネキは表面的にはまっとうに行動出来るよう振舞っていたので、そのままそうであったように行動する。
「はい。もう、戦えます」
だがアインズは、二人共がやはり冷静さを失っていると判断した。今この時、最も重要であった事を、恐らく全員が失敗しているのだから。
「……いいや、私も含め、大丈夫ではないな。放送の内容、特に禁止区域まで覚えてる者はいるか?」
あっ、といった顔の胡桃とカネキ。もちろんアインズもこれを聞き逃していた。
完全に失敗した、と思いつつも三人共、今の状況ではどうしようもない、とも思っていた。次の発言が出るまでは。
「あ、あー、えっと、その、私、一応、書いておいた、けど……」
大荒れの三人を見て、めっちゃくちゃびびった様子のアクアが恐る恐るといった調子で口を開いたのだ。
三人共が、例えどうしようもなくとも、放送だけは絶対に聞き逃すべきではなかった。と心底から後悔したんだとか。
状況が状況とはいえ、定時放送の中身をアクアのみが正確に記述していた、という結果であったのだから。
アインズには一つ懸念があった。
それをアクアの様子を伺う事で確認してみた所、アクアは何かを言い出そうとしていた。つまり、アインズの推測は当たりである可能性が高い。
慌ててアインズは、胡桃とカネキに言った。
「胡桃、カネキ君。我々には少し考える時間が必要だろう。もしそうしたいというのであれば、一人の時間も作ろうと思うが、どうだ?」
胡桃はすがるように見つめながら、カネキは苦々しく目を細めながら、一人にして欲しいと言いそれぞれこの場から離れていった。
二人に追いすがって何かを言おうとするアクアを、アインズは肩を掴んで止める。
「まあ待てアクア。君は何か言いたい事があるようだが、その前に私の話を聞いてくれ」
「え、でも、その私ね」
胡桃もカネキもその姿が見えなくなったのを確認した後で、アインズは小声で問う。
「アクア。お前は蘇生魔法が使えるのか?」
驚き首肯しようとしたアクアの口をアインズが骨ばった、というか骨の手で塞ぐ。
「大声はよせ。その蘇生魔法は遺体が無くても即座に可能なのか?」
「ううん。それは流石に無理よ。それに死んですぐでないと」
「すぐ、とはどのくらいだ?」
「さあ? 死体が腐ったりしてたら流石に無理だと思うけど……後、担当の神様がうるさい所だと面倒なのよね、蘇生は一回だけにしろーとか」
「ず、随分と大雑把なんだな……だが今すぐ出来ないというのなら、二人の前でそれを言うのはやめておけ」
「へ? どうしてよ」
「普通の人間は蘇生するなんて言われても信じん。それを信じさせるにはそれこそ実際に生き返らせて見せんとだが、すぐに出来ぬというのであれば信じてもらえんだろう。だったら信じてもらえる確証を得てからそうした方がよかろう」
アクアはアインズの言葉に納得出来ぬ様子だ。
「で、でも出来るのは本当だし……って、アインズは信じてるのよね?」
「私はそもそも蘇生魔法が存在する世界から来たのだからな。お前程の力があればそのぐらいは出来るかもしれん、と予想していた。だが、胡桃もカネキ君もそうではないだろう。死が絶対的なものである世界から来た者にとって、生き返るなんて言葉は死者を冒涜しているとしか受け取れぬものだ」
「む~~、何よそれ~~、せっかく私が生き返らせてあげようって思ってるのに~~」
「さっきのを見ただろう。あの状態の二人をおちょくるような行為なんだぞ、それは。もしこの件で下手に胡桃の逆鱗に触れてみろ、お前が前に胡桃の世界の話で彼女を怒らせた時の比ではない程怒るぞ」
うげ、と大いに怯むアクア。
「カネキ君も、だ。彼は本当に賢い子だが、親しい友人の死を侮辱されたとなれば、きっとあの鼻ピアスを相手に勇猛に戦った時のように暴れ回るだろう」
そういえばカネキはそーだったー、と頭を抱えるアクア。
「納得してもらえたようだな。お前に二人への悪意があるとは思わんし、二人の大切な人の遺体が見つかったなら、お前の力を見込んでその蘇生を是非とも頼みたい。その時はこの私が伏して頼んでもいい。なあ、どうか聞き分けてはくれぬかアクア」
アインズのこの言葉に、アクアは何時もの調子で偉そうに了承した旨を伝えてきた。
それはとても友人が死んだと聞かされ苦しんでいる人間が側にいるとは思えぬような軽薄な有様で、アインズは二人を遠ざけておいて本当に良かったと安堵する。
アインズ、胡桃、カネキの三人が自分を失った様子を見て、ビビって引け腰になっていたアクアも、アインズとの会話で大体調子を取り戻して来たようで。
「ねえ、あの二人、声かけてあげた方がいい?」
絶対にやめろ、と瞬間的に思ったが、あまり長時間一人にさせておくのもよろしくはない。
そしてここには二人居て、声をかけに行く相手も二人いるわけで。
アインズは、さて、どうしたものかと思案する。
この時の選択がその後の展開に大きく影響を与えたなどと、神ならぬアインズにわかれというのは流石に無理があっただろう。
カネキが街路をアテも無く歩き回り、ふと目について何とはなしに入ったのは、外観が丸太組みのロッジのようになっている喫茶店であった。
無用心にも入り口に鍵はかかっていなかった。中は、朝の日差しが斜めに窓から入り込んでいて、照明を付けずとも不自由は無い。
カウンターの席に腰掛ける。
一瞬、コーヒーでも入れようかと思ったが、一度腰を下ろしてしまうともう動き出すのが億劫で、結局コーヒーは無しとなる。
ここまで離れれば、カネキの様をみんなに見られる事もないだろう。そう思った瞬間、目頭が熱くなってきた。
カウンターテーブルに突っ伏すようにして顔を伏せる。
辛い思いも悲しい思いも一杯してきたけれど、それでも辛いものは辛いし悲しいものは悲しい。
いや、怖い、だ。
まだ、董香が死んだと実感出来ていないのだ。それを、本当に実感出来てしまったらと思うと震えが止まらなくなる程怖い。
この街の何処かに、霧島董香の亡骸があるかもしれない。
そう思うと既知の場所以外を歩くのすら、避けたくなってくる。今こうして、喫茶店の中を見る事すら。
何を馬鹿な、と喫茶店を見渡す。
もちろんそこに変なものなんて無くて、見慣れたものではないが何処にでもある喫茶店な風景に安心する。
「……ん?」
なまじ喫茶店なんてものに勤めていたせいか、店内に水濡れを見つけると妙に気になって来るカネキだ。
だからって拭き取ろうと思う程でもなく、何とも収まりの悪い感じを抱えながら体の向きを変える。
直後、カネキは勢い良く後ろを振り返る。
「な、に?」
グールならではの鋭い感覚が、ソレを捉えたのだ。確かに今、水の流れる音がした。
振り向いたカネキの視界にある水濡れは、やはり先程と同様全く動きは無い。
カネキは席を立ち上がる。何処かで水が漏れているのかもしれないと、とりあえずはその水濡れの場所に向けて歩き出す。
水は近くに転がっていたペットボトルから零れたものであるようだ。
しかし、カネキはそれを不思議に思う。ペットボトルの大きさと、濡れの大きさが一致しない。濡れが小さすぎるのは、別の何処かがその分濡れているせいか。
覗き込むようにして、濡れの周辺を見るカネキ。
「この大マヌケがああああああああ!!」
濡れが、まるで意思を持つかのようにカネキへと飛び掛って来た。
前かがみになっている姿勢のカネキの顔めがけ、正確に飛び掛る水。体勢も悪く、そもそも完全な不意打ちである。
これを仕掛けたアンジェロは、自らのスタンド、アクアネックレスがカネキの喉に飛び込む未来を信じて疑わなかった。
だが。
「なんっ!?」
飛び上がった水は空を切り、何も無い空間をへろへろと飛んだ後、べしゃりと床に落下した。
そして、濡れから小さな人型が上半身のみをずるりと這い出す。
「おい、マジかおめぇ。あのタイミングでかわすかよ」
上半身をひねって水をかわしたカネキは、首をこきりこきりと鳴らしながらアクアネックレスを見下ろす。
「……やる、かい? 今の僕はちょっと洒落が通じないからやりすぎちゃうけど、いいよね」
そして、誰かさんがやるのと同じように、指を鳴らした。
瞬間、アクアネックレスの上半身が消し飛んだ。
飛び込んだカネキが、これを蹴り飛ばしたのだ。
跳ねる飛沫。
その内の一つが、空中でアクアネックレスとなり、カネキの頭部へ飛び掛る。
裏拳一閃。
アクアネックレスがどういったスタンドなのか、どんな真似が出来るのかなど何一つ知らぬカネキは、ただ反射神経のみで迫るアクアネックレスを弾き飛ばしていた。
エラク小さいが見た目は人型っぽいからそうしたのだが、アクアネックレスは裏拳でぶっ飛ばされた壁面にべしゃりと張り付きながら、けたけたと笑う。
「無駄だ無駄! 俺のアクアネックレスは水そのものよ! オメーの拳も蹴りも、水が相手じゃ濡れるだけだぜ!」
とくに焦った様子もないカネキ。
「そのワリに、飛ばされてるよね、君。確かに水は液体で固体程安定はしてないけど、だからってはじけないわけじゃない。しかも君の跳躍、悪いけど凄く遅いよ。それってきっと、床を蹴る力が弱いせいだよね。その程度の力しかない君じゃ、確かに、体の内から壊すぐらいしないと僕は殺せないだろうなぁ」
もっとも、とクスリと笑う。
「君程度の力じゃ、僕の体内どうこうするのは無理だろうけどさ」
あっという間にアクアネックレスの威力を見抜く。この知能の高さこそが、何度も激戦の最中にありながら金木研を生きながらえさせて来たものだろう。
こうした瞬間的な判断能力もそうだし、またカネキはその知能の高さ故、準備、訓練の重要性を正しく理解しており、喰種であると受け入れた後は、そんな自分を鍛える事に余念が無かったのだ。
「ほざけザコ助がああああああ! 気持ち悪い赤眼しやがってよおおおおおお! なめんじゃねええぞおおおおおおお!!」
カネキの言葉にブチきれたアクアネックレスは、正面よりカネキに突っ込んでいき、その眼前で大きく飛び上がる。
大して跳べないと言われた事に抗議するかの如く、カネキの頭上より襲い掛かる。
カネキ、上体をひねりながらのアッパー。水は水であるが、その衝撃力は水のような液体をすら弾いて飛ばす喰種ならではの剛力で。
アクアネックレスは天井に向かって殴り飛ばされる。そこでカネキはふと、この喫茶店の天井が妙に高い事に気がついた。
そして、そんな高い高い天井にまで飛ばされたアクアネックレスは、にたりと意地悪そうに笑った。
「あ~~~りがとよーーーーーー!! おめーの言う通り! 俺のジャンプじゃここまで届かなかったんでなあああああああ!!」
カネキの知能も高いが、アンジェロもまた高い知能で幾多の犯罪を成功させて来た男。
そして、天井のその場所に、アクアネックレスは体内に確保しておいたライターを近づける。それは、スプリンクラーであった。
以前に仗助にも仕掛けたコレは、アクアネックレスというスタンドが使うのはやはり極めて有効な戦術である。
喫茶店の水道も電気も通っているのは最初にメーターで確認しておいた。そして部屋中に、雨のように水が降り注ぐ。
もし、カネキに敗因があるとすればそれはたった一つ。
スタンドへの理解不足。それだけだ。
アクアネックレスは雨に紛れ、遂にカネキの口に中へと侵入を果たす。カネキはというと、してやられたとは思っていたが、だからとあの程度の力なら喰種の体細胞をどうこう出来るとも思えず、無理矢理えづいて吐き出せばいい、程度に考えていた。
だが、体内に侵入された瞬間、カネキは自らの浅慮を悟る。
『んなっ!? かっ! らだがうごかないっ!?』
アクアネックレスはカネキの口からにょろりと顔だけを出して笑う。
「ウププッ、クケッ、ウプププププ。たまんねえな、お調子に乗っちまった色男を出し抜く瞬間ってのはよぉ。ウププププッ、いいかい色男、これから俺がどうするかを教えてやるよ。なあ、お前には仲間が居たよな、そいつらはよぉ、こんなスプリンクラーは回るは立ち回りでばたつくわな音を聞いて、どうする? どおおおおおおするよ?」
カネキは全力でアクアネックレスの支配に抵抗しようとするが、スタンドの支配力は別格だ。
その能力で規定された事柄を、力づくで覆すのは普通の人間には不可能。いやさ、同じスタンド使い同士ですら、能力を覆させるのは至難の業だ。
スタンドとの戦いはただパワーが強ければ勝てるものではない。どんな弱いスタンドにも、十分な戦略と準備があれば、勝利の可能性は存在するのだ。
「ほらほら、足音、聞こえてこねえか? 走って来てるなあおい、誰だ? 誰だろおおおなあああああああああ!?」
アインズは、意を決して胡桃の前に姿を現す。
胡桃は銀行入り口前の階段部に、ちょこんと腰掛け膝を抱えていた。
アインズが現れると、胡桃は顔をあげるも特に言葉を発さぬまま、また下を向いてしまう。
アインズは鬱陶しくない距離を保てるよう気を配りながら、胡桃の隣に並んで座る。
「落ち着いたか?」
「……どうだろ。自分じゃわかんないよ」
あまり気を遣いすぎると逆に声をかけられなくなる。なのでアインズは、胡桃の落ち込みに巻き込まれぬよう何時もの口調であるよう心がける。
「佐倉慈という女性の事だ。この人は胡桃の記憶通りならば既に亡くなっている、そういう話だったな」
胡桃は複雑そうに顔を歪める。
「正直、意味がわからない。名簿に載ってる名前にしたって、私達全員がって事なら、納得は出来ないけどわからないでもない。でも、一人足りない。足りないのに、死んだはずのめぐねえの名前が代わりとばかりに載ってる。こんな意味のわからない名簿を出して来る連中の言う事なんて、本当に信じられるのかってさ」
アインズは言葉を選びながら答える。
「あくまで例え話だが、もし、私やカネキ君がこれを主催した側であったなら、まず間違いなく第一回目の放送は正確に起こった出来事を報せる」
胡桃の表情が強張るが、アインズは話を続ける。
「だが、もしそうであった場合、こんな死んだはずの人間を名簿に書くような真似はしない。本当にこの死んだはずの人間が生きていてこの場に居るのだとしても、今胡桃がしたような疑念を抱かずにはおれぬだろうし、殺し合いをさせたいというのが趣旨であるのなら、全くもって目的にそぐわぬ選択であろう」
何を言いたいのかわからない、という顔をしながらも、胡桃はアインズの言葉に耳を傾け続ける。
「お前が単純に悲しんだり怒ったりせず悩んでいるのは、そういったちぐはぐさが原因ではないか、と私は思うのだが」
胡桃は素直にこくんと頷く。
「……うん」
「だとすれば、今ここでそうしていても何の解決にもなるまい。動くべき道筋は示されており、歩く為の足はほら、そこに二本無事に残っているのだ。ならば為すべき事は明快だろう」
やはり胡桃は複雑そうに顔をしかめた。
「そんな風に、簡単に割り切れないから悩んでるんじゃないか」
「確かにな。私もあまり偉そうな事は言えん。カネキ君が居なければどうなっていた事か」
くすっと噴出す胡桃。
「またダメダメだったよな、アインズさんも私も」
「ああ、またダメダメだったんだ」
アインズの骸骨顔がかしゃりと音を立てる。
胡桃はその場に勢い良く立ち上がる。
「よしっ! 落ち込むのヤメっ! まずは動いて確認して色々考えるのはそれからっ!」
アインズも並んで立ち上がる。
「その意気だ。何、お前にはこのアインズ・ウール・ゴウンがついているのだ。必ずや真実はお前の前に姿を現すだろうさ」
「うん、頼りにしてるっ」
二人の耳に、大きな叫び声が聞こえたのはこの直後の事である。
「ねえ、カネキー! 何の騒ぎよ一体ー!」
そんな暢気な声がカネキの耳に届く。明らかな修羅場気配を全く感じぬ超がつく程鈍感な人間は、カネキのチームにたった一人しかいない。
『アクアさん! 来ちゃダメだ!』
そう叫ぶのだが声は出ない。代わりにカネキの口は、下卑た嫌らしい笑いを浮かべる。
「ウプププププッ、お、女かよ。最高のシチュじゃねえか。ウププププププププププ、なあ色男、お前の体で、お前の意識そのままで、女、甚振ってやろうか? ウププッ、たまんねえなぁ、おい。惜しむらくはお前がどんな顔してるのか俺にゃ見えないって事か」
だが、と逆説を繋げるアンジェロ。
「てめえの役目はもうお終いなんだよ!」
そう叫ぶや否や、アクアネックレスに憑かれたカネキは片腕を振り上げ、自らの腹部へと突き刺した。
「ぎゃーっはっはっはっはっは! 俺は確かに非力だよ! だがなぁ、おめー自身の力を使えばこの通りよ!」
挙句それでは飽き足らず、腹の中の臓物をつかみ取り、引っ張り千切りながら外へと投げ出す。
ちょうど女、アクアが喫茶店の扉を開いた瞬間だ。
カネキの腹から噴出す血飛沫に紛れ、アクアネックレスは一気にアクアへと迫る。
アクアには、カネキに出来たような超反射神経は望むべくもなく、アンジェロが拍子抜けする程あっさりと、アクアネックレスはアクアの体内への侵入を果たした。
「もっ! もがぶがぶぼべがぶべー!」
そんな美少女にあるまじき叫び声が聞こえたのも束の間、アクアの体を乗っ取ったアンジェロは、アクアの顔で下卑た笑いを浮かべて言った。
「見たか色男! まだ見えるか!? 残念だなぁ! お前のポカのせいでこの女も死んじまうぜ! 他の仲間もだ! 次から次へとくたばっちまうのさ! ぜええええええんぶ! てめえのせいなんだよ! ははっ! わかったか? そいつを理解したらくやしそおおおおおにおっ死ねや!」
倒れるカネキの目からは、まだ闘志の光は消えていない。
絶望の気配も無いその瞳にアンジェロは不快感を覚えるも、現状を考えれば強がりとしか思えず、せいぜい笑って貶してやるだけだ、とアクアの体でカネキを嬲りにかかる。
「おらっ! どうしたよ! 反撃してみろ! ああ!? お仲間さんを助けてみろよ! あー、この女の中あったけぇ……マジいいわ、これ。刺激的って奴? やっべ、こいつ殺す前にいっぺんヤっとくか? ぜってー具合も絶好調だろ」
カネキは腹から大量に血や臓物を溢しながらも、腕を支えに立ち上がるともがく。そんなカネキをアクアの体は何度も踏みつけるが、カネキは止まらず。
そんな往生際の悪さが、アンジェロには愉快で仕方が無い。
「すげぇすげぇぞ人間! お前そんなになってもまだ動けるとか人間ってな大した生き物だなぁええおい! えー、ただいまー、女の体内奥深くでーございまーす、なんてーかここまで内部がリアルに見えると、色気とか全部ふっとぶな……ちょっと失敗だったかもしれねえ。それに、なんだよ、妙にぴりぴりしやがって。何だ? 腕でもつったか?」
アクアの体がよろよろとカネキの側から離れていく。
「おい、おい、おいっ! 何だよこりゃ! 体が痺れ……って痺れるどころじゃねえ! 痛ってぇ! めちゃくちゃ痛ぇ! 何だ? 本体か? いや、スタンドの方だろ!? ここは、とにかくやべええええ! すぐに出ねえと……」
アクアの体が前かがみになり、まるで何かを吐き出すかのような姿勢に。
「でっ! 出れねえ! ち、力が入らねえぞ! 何が起きた! クッソ痛ぇんだよ! うっ、うおおおおおおおおお! と、融けてやがる! 俺が! 融けちまってるじゃねえか! こ、こんな事今まで一度もねえ! この女体内に硫酸でも流してやがんのか!? た、たすけっ! ……おいっ! マジ、……死ぬって、……はや、く、……出、ねえ、……と」
呆気に取られるカネキの前で、声は段々弱弱しくなっていく。
「……こんな、バカ……、な……」
そして消えてなくなって数秒後。
「ぷっはー! 一体何なのよ今の! あー気持ち悪い! 人の体の中に入るなんてサイテー! それにねえ! 体の中なんて入っても気持ち悪いだけであったかいだのなんだのなんて良い印象あるわけないじゃない! バカなんじゃないのコイツ!」
何時ものアクアに戻っていた。
カネキは恐る恐るといった調子でアクアに問う。
「えっと……アクアさん? 本人?」
「もちろんよ! 女神であるこの私を何時までも操れるわけないじゃない!」
「い、いや、でもどうやってアイツを?」
アクアはもうこれでもかって勢いで胸を逸らす。
「ふふーん! 私はね、水の女神なの! だから私が触れた不純な水は綺麗に浄化されちゃうのよ! あんな気持ち悪い水モドキなんて一発よ一発!」
何とも、わかったんだかわかんないんだか、な理由である。
ともあれアクアは無事らしいし、窮地は潜り抜けられたようだ。カネキは安心し、力を抜く。
そして叫ぶアクア。
「ってカネキーーーーーーー!! アンタすっごい怪我じゃない! どうしたのどうしたのどうしたのよそれーーーーーーー!」
怪我、というか致命傷なんだけどね、とカネキは、最後は苦笑で終わるのかー、と何ともいえない顔になった。
「しかーーーーし! この私女神アクアが居る限り! アンタに安らかな来世なんて訪れないわよ! さー復活して私の為にキリキリ働きなさーい!」
と、とても女神とは思えぬ叫びと共にヒールの魔法を唱える。
カネキは、全身が冷たくなっていく感覚を、これが死か、と感じていたのだが、体中が一気に温かく、いやさ熱くなっていく。
「あれ?」
ぶちまけた腸やら噴出した血潮やらでとんでもない事になっていたカネキのお腹は、傷一つ無い綺麗なものへと戻っていた。
「あれあれ?」
もしかして、とカネキは立ち上がる。一切の抵抗無く立てた。
「……いったいなにごと?」
すぐに動けるようになったカネキに、アクアはにへらにへら笑いながら擦り寄っていく。
「ねー、この偉大なる女神アクア様に感謝の言葉は? 怪我を治してくれてありがとうございましたアクア様ー、って崇め奉りなさいよー」
信じられない、と我が身を見下ろすカネキ。
「君の、魔法? 魔法なの、これ?」
「そーよー! 女神様特製ヒールなんだから! そんじょそこらの野良ヒールとは品格が違うのよ品格が!」
カネキは顔を上げると、首を何度も横に振りながらも、アクアをまっすぐ見つめながら言った。
「うん、ありがとうアクアさん。本当に、本当に駄目かと思ってたんだ。おかげで助かったよ、ありがとう」
率直な感謝の言葉に、アクアはまたこれでもかって勢いでのぼせあがる。この地に来て何かと馬鹿にされて来たが、遂にアクアの力が認められたのだ。
かくして、カネキに勝利したアンジェロは、そのカネキに与えた怪我から何からまで全部ひっくるめて、完膚なきまでにアクアに敗北した。
確かに、スタンドの能力は強力だ。だが、それは、神の力に抗しうる程のものでもなかったようだ。
倒れた人影をアインズはしゃがみこんで観察する。
死んでいる。信じられぬと絶望した表情で。
先の悲鳴の主はコイツだろう。つまり、死んだのはたった今しがたという事になる。
危ないからと胡桃を避難させておいて良かった。今の彼女は、人の死体を見てとても平静ではいられまい。
そしてそれを理由に胡桃を遠ざけておいて良かった、と思う。
「ふむ、新鮮な死体が早々に手に入るとはな。僥倖僥倖。早速、試してみるとするか。カネキ君の食料に相応しいアンデッド……となると、あの辺りか」
アインズが聞いている、アクア、カネキ、胡桃、ビスケットの知人とは似ても似つかぬ容貌である事から、アインズはコレをアンデッドにするに全く抵抗を感じなかった。
アインズのアンデッド作成スキルにより、名も知らぬ彼、片桐安十郎の遺体は全く別の存在へと造りかえられていく。
それは、贅肉で醜く肥えた、赤い肌を持つ男の姿となった。最早元の容姿など欠片も残ってはいない。
「『血肉の大男(ブラッドミートハルク)』だ、再生能力も高いし、食べる部位も多い。脂肪が多いのは、あれか、霜降りとかいう奴だ。ふふっ、後はカネキ君が気に入ってくれるかどうかだが、逆に人間らしすぎる容姿なのは彼は望まないだろうしな、きっと気に入るぞ」
じっとその場に立ち指示を待つ血肉の大男に、アインズはぞんざいに手を振って行き先を命じる。
「それ、そこの冷蔵室にでも入っていろ。外だからと鮮度が落ちるような事は無いだろうが、カネキ君には出来るだけ良い状態で試して欲しいからな」
血肉の大男は言われた通り、冷蔵室に入っていく。
ここは何処かの食堂のようで、調理場に繋がっている大きな冷蔵室があったのだ。
調理場を見て、アインズは一つ思いついた事があった。
「そうだ、直接食べるのに抵抗があるかもしれないし、血肉の大男にこの調理場で自らの肉を調理させるのはどうだろうか。かの世界ではスキルの無い者は料理すら出来なかったが、さて、ここではどうなっているか」
また色々と試したい事が増えていく。こうした探究心はアインズの長所でもあろうが、時折場も弁えずそう動いてしまうのは明確な欠点でもある。
もっとも一番の欠点は、こうした誰しもがおぞましいと思うような行為を、本気で喜んでもらえると思ってやらかしてしまう所であろうて。
一応、このアンデッドを見たら女性陣は嫌がるだろう、というぐらいはアインズにもわかるので、血肉の大男を隠し、後でカネキ君と二人で来て食べてもらおう、と考えてはいるのだが。
「私はもう食欲というものは無くなってしまったが、彼はきっと何度も食事で苦労してきた事だろう。何としても、この件成功させてやらねばな」
そう、見知らぬ他人の死体をアンデッドに変えておきながら、アインズは友人カネキ君の身の上を本気で心配しているのだった。
【片桐安十郎@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない】死亡
残り51名
【F-4/朝】
【恵飛須沢胡桃@がっこうぐらし!】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式、MINIMI軽機関銃(200発マガジン。残弾6割ほど)
[思考・行動]
基本方針:
1:友達を捜し出して守るためにアインズとカネキとアクアと同行し、ナザリックを目指す。
2:愛用していたシャベルを探す。
3:アクアは一人でほっといたらエライ事になる。
※双腕仕様油圧ショベル「アスタコNEO」@現実? は港に置いておきます
【アインズ・ウール・ゴウン@オーバーロード】
[状態]:健康、魔力消費(小)超位魔法一回消費(一日四回)
[装備]:なし(装備は全没収。モモンガ玉も機能停止)
[道具]:支給品一式×2、不明支給品0~2(確認済み)1~3(未確認)、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン、レポート『納鳴村考察 著神山晴臣』
[思考・行動]
基本方針:
0:ナザリック及びギルド:アインズ・ウール・ゴウンに害するものを許さない。
1:シャルティア、デミウルゴスが気がかりなため一刻も早く合流したい。
2:他のNPCも心配。様々な情報を得る意味でも地図上のナザリック大墳墓に向かう。
3:ナザリックを優先した上で、胡桃、カネキ、アクアは保護。他の参加者とも理由なく争うつもりはなく友好的に接したい
4:分からないことだらけなので慎重に行動し、情報を得たい。
5:胡桃、カネキ、アクアと共にナザリックを目指す。
※自身への制限は大体理解しています。
※容姿はアニメとかでお馴染みの基本スタイルですが、アイテムとしての防御力は持ちえません。
※アニメ終了後時期からの参戦です。(対リザードマン準備中)
※見知らぬ遺体(アンジェロ)をアンデッド血肉の大男に変え、F-4の食堂奥の冷蔵室に隠してあります。後でカネキ君に食べてもらう予定です。ちなみに首輪は血肉の大男についたままです。アインズ気付いてないけどっ。
【金木研@東京喰種トーキョーグール】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:
1:アインズ、胡桃、アクアと同行しナザリックを目指す。
2:アクアの魔法により大怪我から回復し、大きな恩を感じている。
【アクア@この素晴らしい世界に祝福を!】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:
1:アインズ、胡桃、カネキと一緒になざりっくって所に行ってあげる。
2:カズマとめぐみんとダクネスを探す。
【F-4/朝】
【ビスケット・グリフォン@機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ】
[状態]:健康
[装備]:モビルワーカーTK-53 CGS仕様(阿頼耶識対応)
[道具]:支給品一式、妖刀ベッピン、そこらで拝借した双眼鏡
[思考・行動]
基本方針:仲間と一緒に帰る。
1:オルガと三日月の捜索する為、CGS基地を目指す。
2:ニンジャスレイヤーさんはきっと良い人。
3:ダークニンジャ、二匹の黒と金の怪獣、らぶぽん(発狂してると思ってる)、らぶぽんが狙撃を受けた地域(F-3)に警戒。
4:アインズ達には本当に世話になった。
[その他]
※参戦時期は地球圏降下後~オルガと対立前。
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最終更新:2017年02月21日 10:46