駄目人間ズ、アンジェロに会う ◆QkyDCV.pEw
松野おそ松はてくてくと道を歩きながら、疑問に思っていた事を同行者であるハクに尋ねる。
「なあ、さっきのコンビニに誰も居なかったって事はさ、もしかしてここって、家やら店やら他にもあるけど、そこにも誰も居ないのか?」
ハクは、少し考え答える。
「そうかもな。元の住民何処にやったかは知らねえけど、随分とまあ大仰な真似してくれるよな」
「なあなあ、ならさ、もっと他の店とか回らねえ? こんだけ迷惑かけられてんだしさ、少しぐらい遊んだって文句言われる筋合いねーだろ」
ほっそい目でおそ松をじっと見つめるハク。おそ松もまたハクを見返す。
「いいな、それ」
「だろ!」
二人は揃って、店の物色にかかる。
とは言ったものの、ハクにはどれが良さそうな店なのかの見当がつかない。なのでおそ松に希望をリクエストしてみる。
「なあなあ、どっかにさ、美味いものある店無いか?」
「美味いものか~。てかさ、それ無理じゃね?」
「何でだよ」
「美味いものってさ、誰かが作ったもんじゃん。人居ないのにどーやって美味い物作ってもらうんだよ」
「…………おお。お前、結構賢いな」
突然頭をかきむしりだすおそ松。
「あーっ! そんな事言うから俺もすっげー美味いもん食いたくなったー! どーすんだよ! 超食いてー! 美味いもん! うーまーいーもーんー!」
「うるせえよ。じゃあ上にそこそこ付けていいから、それなりの食いもんねーのかよ」
「んじゃ、スーパーとか行ってみっか。あそこなら普通の飯から飲み物から菓子まで……ってああ! そうだよ! ケーキ屋とかありじゃん! めっちゃ高級菓子とかあったら最高じゃね!? ワンホール一人でかじりついて食うとかマジドリームじゃん!」
「かしー? それよりもっと、こう、あるだろー」
「うっせ、うっせ、うっせー! せっかくの機会なんだからゴージャスに行こうぜゴージャスによう!」
二人で騒ぎながら道を往くと、おそ松が早速洋菓子屋を見つける。
入り口というか、道に面した部分は全てシャッターが閉まっていたのだが、おそ松はこれをガンガン叩いて大声を上げる。
「おーい! 誰かいませんかー! いませんねー! つーか居るんじゃねーよケーキ寄越せオラァ!」
「うーわ、そこらのチンピラが夜中に酔っ払って騒いでるみてぇ」
ケーキ屋の前に立てかけてあった電飾付きの看板を、よっこらせと持ち上げたおそ松はまるで躊躇無くシャッターに叩き付ける。
数度そうすると、シャッターがひしゃげ中へ入れるようになった。
「……お前、色々と思い切った奴なんだな」
ハクが若干引いているのも気にせず、おそ松はケーキ屋へ突撃する。
「暗くて何もみえねー! ボケー! 灯りつけんかいゴルァ!」
そこらを蹴っ飛ばしながら灯りのスイッチを探し、どうにか見つけたおそ松。
ぱっと照らし出された店内には、ショーケースが並んでいて、その中に、幾つものケーキが置かれたままになっていた。
「おっしゃー!」
テンション上げてくおそ松に、ハクはあまり乗り気ではない。
とはいえ、カラフルにデザインされたケーキ達は、確かに見た目からして食欲や興味を引いてくれるもので。
早速苺のショートケーキをワンホール丸々かぶりついているおそ松を他所に、ハクもケースの中に手を突っ込み、綺麗な赤のケーキを取ってみる。
「ん? 冷たい?」
ケースの中はひんやりとしていて、どうやらそういった装置が働いているらしい。
電気はさっきおそ松が入れたはずなのだが、その前からこのケースの電気は入っていたようで。
色々と奇妙であるが、ハクは、その謎をさておきケーキを口に入れる。
「むむ」
スポンジの甘さが感じられる程度に落ち着いた甘みの外側と、中に入ったクリームがまた違った甘みを持っていて、全部甘味なのにしつこいと思わない。
端から少しづつ食いついていたのだが、気がついたらあっという間に半分も残っていない。
「これ、ヤバイな。かなりイケるわ」
なかなかよろしい、と他のケーキにも手を出し、三つ程食べた所で、おそ松を見てみる。
「……やっべ、失敗した……」
ものっそいヘコんでる。
「どした?」
「デカイケーキ一個じゃなくて、小さいの色んな種類食った方が絶対よかった……」
「ああ、そうだな、自分はそうしてる。お前もそうすりゃいいんじゃねえのか?」
「……食いすぎた。もう甘いもん食いたくねえ」
「うん、わかった。お前実はすげぇアホだろ」
あーくそ、と怒鳴り、他の冷ケースに入っているお茶を取り出しガブ飲みする。
その飲み物自分にもくれーといただいたハクは、お茶を飲みながら続いて三つのケーキを平らげた後、持っていたバッグを引っ張り出す。
「うし、そろそろ中の確認でもすっか」
少し拗ねていたおそ松もその言葉には賛成なのか、あいよー、と自分もバッグを開いてみる。
まずはハク。
「何だこりゃ?」
ダンボールの箱が出てきた。
明らかにバッグに入る容量ではないもので、おそ松は最初ハクの手品かと笑っていたのだが、それが本当にタネも仕掛けも無いとわかると、薄気味悪そうにバッグを見るようになった。
「お前、それバッグやばくね?」
「そっか? ああ、まあ、ヤバそうっちゃヤバそうだけど、便利だしいいじゃん」
「…………それもそっか!」
おそ松はあっさりと納得し、自分の分の支給品を取り出そうとして、そこで手を止めた。
「よう、ハク。ちょっとこれ見てくれよ」
「あん?」
言われるままにおそ松のバッグを見たハクは、おそ松のバッグから飛び出している金属の柱らしきものを見て眉根を寄せる。
バッグの奥は見えない。なので、この金属柱が、どれぐらい長いのかが全くわからない。そもそも柱なのかすら疑問だ。
「これ、このまま引っ張ったらヤバそーじゃね?」
「ああ、わかる。こんな狭い店の中では絶対やめといたほーがいいわ。つーか、このバッグ本当に何でも入んのかよ」
幸い、支給品の説明書きのようなものがあって、それを読めばこれが何なのかはわかるようになっていた。
『水上バイク』
だそうである。ハクにはこれが何なのかわからなかったが、おそ松は一応聞いた事ぐらいはあった。
もちろん、水が無いと駄目であるし、そして注意書きに書かれた一言がおそ松の目に留まる。
『水上移動に便利ですが、間違っても地図の外には出ないで下さい。死にます』
一緒にこの文を読んだハクとおそ松を顔を見合わせる。
ハクは結構本気でビビってたり。
「なんつーか……修飾も何も無しでいきなり死にます、とか書かれると、こう、洒落になんねーぞ気配がこれでもかと伝わってくるよな」
おそ松もまた、嫌だ嫌だと金属柱をバッグに押し込む。
「笑えねーんだよ、チクショウ」
暢気とも取れる言動の二人であるが、現状の危険さは認識してはいるのだ。
だからこそ、酒好きの二人がこの状況下で高い美味い酒を探そうとはしなかったのだ。
今酔っ払ったら本気で洒落にならない、って事ぐらいはわかっているのだ。
気を取り直し、おそ松はハクのダンボールに目をつける。
「なあ、それ中身何なんだ?」
「さあ? 『765プロ宛ファンレター』だそうだけど、お前意味わかるか?」
「全っ然わかんねえ」
開いてみると、中には手紙の山がぎっしりと。
一つ一つ開いてみてみるが、そのほとんどが相手を応援するような内容の手紙ばかり。
ごく一部、カラ松語のように気持ち悪く気取った文章があったりもしたが、おそ松は速攻で捨てた。
これらを見ている間に、ハクはとある事に気付く。
「おい、この手紙に時々出てくる名前、名簿にある奴じゃねえか?」
そう言われ、おそ松と手分けして確認した所、天海春香、如月千早、星井美希の三人に宛てた手紙が含まれているとわかった。
そしておそ松は、これらがアイドルにあてたファンレターであるとわかると、いきなり発狂してそこらに手紙を放り投げる。
「ふざけんな! アイドル宛のファンレターとか当人以外に渡してどーすんだよ! チョロ松が増殖したみてーで気持ち悪いんだよ! 何でこんなもん手がかりになるかもとか言って読んじまったんだよ俺は!? お前のだろこれハク! お前どんだけクジ運悪ぃんだよ!」
アイドル、そしてケーキ屋、ここの町並みを不自然に思わぬおそ松。
ハクは改めておそ松に訊ねる。
「なあおそ松。お前から見てこの町、変な所は無いか?」
「は? いきなりなんだよ。人が全く居ない町とか変に決まってんだろ」
「変なのはそこだけか?」
「ん? いや、別に、他は普通、じゃね?」
おそ松から返って来た言葉に、ハクは、改めて現状は尋常ならざる事態の只中であると認識する。
以前、寝て起きたら記憶が無くなった挙句耳尻尾が生えた人が闊歩する世界に居た。
今回はといえば、爆発する首輪つけられた挙句殺し合いしろと言われ、かつて人が繁栄していた時代を模したような場所に放り込まれた。
前回は兄が生きていてくれて、全てをハクに教え導いてくれた。
さて今回はそんなご都合が起きてくれるものか、と暗澹たる気持ちでダンボールを漁る。
と、奥に一つ、機械仕掛けらしい薄い板のようなものがあった。
不自然に思われないよう注意しながらハクは、おそ松にこの機械の事を訊ねると、おそ松は知っていたらしく使い方を教えてくれた。
何でも音楽を聴く機械らしい。
中には『765pro ALL STARS』とやらが入っているらしい。ハクは説明に従って機械を動かし、音楽を聴く。
「よう、これがさっきの三人が歌ってる歌か?」
「多分なー。何だよ、ハクもアイドルヲタクか?」
「ようわからんが、何つーか……キンキンと賑やかな歌だなこりゃ」
「アイドルの歌なんてみんなそんなもんじゃねえのか? ……いや気に入ったのかよそれ」
「耳新しいっつーかな。新鮮な感じだわ、こーいうの」
イヤホンを耳にしたまま、ハクは次の支給品を取り出す。
こちらは、大きさ的にはそれほど問題になるものではない。
「えーっと、なになに? 『羽赫クインケ、ナルカミ。誘導弾を放つ電撃銃。また持ち手の意思に応じてレイピア状態への形状変化も可能』って銃? おいおいおいおい、何かこう、エラク物騒なのが出て来たな」
おそ松もその銃らしからぬ先端が四つに分かれた形状に驚いている。
「でもま、武器なら当りなんじゃねーの?」
「使えなきゃ一緒だ。お前、こんな変な銃、上手く使える自信あるか?」
「なんだよ、銃なんて引き金引きゃいいだけじゃねーの?」
「当てらんなきゃ意味ねえだろ。まず間違いなく相手動くんだぞ、そんなん当るわけねーだろ」
それに、拳銃というには大きすぎ、かといってライフルと呼ぶ程でもない大きさで、持ち歩くとなると結構嵩張るものだ。
そんなんラクショーとか抜かすおそ松に、売り言葉に買い言葉でじゃーやってみろと相成った。
外に出て、この銃、ナルカミを両手で構えるおそ松。その構え方は、兄弟だからか、カラ松が拳銃を構えた時のそれに酷似していた。
両足を左右に開き、体の真正面に銃が来るよう構えて両手で持ち、狙いを定めて引き金を引く。
とはいえこの銃、銃眼が無く、四つに分かれた先端の中心に電気が集まりこれが放たれる、といった形なので、一発目が何処に飛んで行くかなんて絶対にわかりっこない。
当然、狙った場所には当らない。ただ、威力は物凄かったが。
おそ松は次こそは、と撃っては外し、撃っては外しを繰り返し、目標にした家屋が一軒丸まる崩れ落ちるまで何度も撃ったが、ただの一発も狙った場所には当らなかった。
貸してみろ、とハクが銃を受け取り、構える。
こちらは片手持ちで、おそ松の構えよりはそれっぽく見える。
そして発射。何と、一発目で狙った場所に命中。次弾もまた当り、その次もまた。
「よしよし、コツは掴んだぞ。どーよおそ松?」
と胸を反らすハクであったが、おそ松はさっさとケーキ屋に入って自分の分の支給品確認作業に戻ろうとしていた。
「おいっ! せっかく上手く当てたんだから見とけよ!」
「あー? そんなウンコ銃とかいらねーし。クソが、不良品じゃねーかばーかばーかばーか」
ちなみにこれ、ハクの射撃の腕前が優れているのではなく、誘導弾であるという部分を理解したハクが、如何に誘導するかを考えながら銃を撃ったおかげである。
形状変化とやらも試してみたが、こちらも瞬時の切り替えが可能で、使い勝手はハンパなく良い武器であるとわかった。
「ただなぁ、幾らなんでも威力ありすぎだろ……一応、持っとくけど、あんまり不用意には使えねえよなぁ」
と、店の中からおそ松の歓声、というか奇声というかが聞こえて来た。
「今度は何だよ、ほんと、騒々しい奴だな」
店内を覗き込むと、そこには一本の剥き身の刀を手にして得意気なおそ松がいた。
「そうそう! こういうんだろ武器ってのはさ! わかりやすくて使いやすい! 玄人にしか使えない武器とか今すぐこの世から消え失せるボケが!」
シャッターの隙間からよっこらせと中に入ったハクは、呆れ顔である。
「お前、武器もらったって使い所あんのか? 言っちゃなんだが、殺し合いしろって言われてはいそーですかって殺し合いするような馬鹿、普通はいねーだろーよ」
「なんだよ、そーは言うけどよ、うっかり勝ち残りでもしたら何かすげぇもんもらえそーじゃね? おいしくね?」
「……お前、それ本気で言ってるように聞こえるからヤメロ」
ちぇー、と刀をしまうおそ松。
その刀の鞘や柄をハクは見てみるが、これといって特徴のあるものではない。
「なあ、この刀にもナルカミってのみたいな何かついてないのか?」
「さあ?」
説明書きはあったが、おそ松はそういったものを真面目に見る類の人間ではない。
促されてようやく説明を読んでみる。
『ちゅんちゅん丸。日本刀を模した模造品。剣としては可も無く不可もない』
おそ松はこの紙を見なかった事にして、バッグの中に放り込んだ。
「……なんかさー、不公平じゃねこれ? 何でハクばっか良いものもらってんの?」
「武器と乗り物とでバランス良いじゃねーか。自分なんか片方、他人宛ての手紙の山だぞ」
「おめーはかっこいい銃あんじゃん! 俺もなんかそーいうのが良かったー!」
いきなり仰向けに寝転んで駄々を捏ね始めるおそ松。
「あー、めんどくせーなーお前。んじゃーよー、水上バイクってのがどんなのか確かめに行くか?」
がばっと身を起こすおそ松。
「それだ! よし、早速行くぞ!」
まるでノスリのお守りをさせられてるみたいだと、とても失礼な事を考えた所でハクは気付く。
例えかかる手間が一緒であろうとも、少なくともノスリには悪意は無い。
それどころか彼女の発想の大半は善意に基づくもので、それだけでもコレよりかは遥かにマシであろう。
コレは良く見ればただ我侭なだけであるのだから。
普段はこういった手間や心配を周囲にかける方であるハクは、まったくやってらんねえなぁ、と偉そうに嘆息するのであった。
二人は地図を見て近くの川へと向かうと、思ったよりずっと川が大きく、これならいけるか、とバッグから水上バイクを出してみる。
水上バイクは立派な造りで、形は一人乗りに見えるも二人で乗る事も充分出来そうだ。
形状と外観を見たハクは、概ねこの乗り物の使い方を理解する。それほどややこしい機械でもない。
また係留する為のロープやら、安全対策の為にカギが二種類あったり(一方を使うと出力が制限される)と、色々と芸が細かい。
なんて所まで見ているのはハクで、おそ松はというとさっさとこのバイクの上に乗って鍵を入れる。
そしてここはまだ陸上であり、当然エンジンがやかましく鳴り響くも動きはしない。
「あれ?」
「あれじゃねーよ。これ、水につけないと動かないって書いてあるぞ」
「…………え?」
水上バイクをバッグから取り出したのは川の側であるが、そこから川の中にバイクを入れるのに、更に土手を滑って押してやらなければならない。
五百キロ弱の物体をだ。
二人でひーこら言いながら水上にバイクを押し込む。ハクはもう愚痴全開だ。
「お前さー! もうちょっと考えて行動しろよ! 直接水の中に放り込んじまえば良かったじゃねーか!」
「あー! はいはいー! 俺が悪ぅございましたー! ごめんなつぁーい!」
「てめえ謝る気も反省する気もまるでねーだろ!」
見るに耐えない罵りあいの果てに、どぼーんと川にバイクを浮かべる事に成功する。
いったんロープを岸の何処かに結ぼうとハクがきょろきょろ辺りを見回すと、川沿いに並ぶ街灯の下を、一人の男がひょこひょこと歩いて来るのが見えた。
彼は人懐っこい顔で笑いかけ、手を振って来た。
「よー」
ハクのすぐ隣で、おそ松がその男を見るなりしっぶい顔で言った。
「チェンジ」
「何だそりゃ?」
「何でおっさんなんだよ! ここってアイドルも居るんだろ!? ならよー! もっとこうそれっぽい出会いとかつり橋効果とかあってもいいだろ! どーしておっさんなんだよ! 出会う奴みんな男、男、男ってどんな確率だよ! この世の半分は女ってな実は都市伝説だったってのか!?」
「お前……これ絶対向こうにも聞こえてるぞ。あー! そこの人! コイツはどうしようもないクズで馬鹿でボンクラだから言う事は気にしないでくれー!」
「はあ!? クズでボンクラはおめーもだろハク! この無職クソニート野朗が!」
「無職はてめーもだろうが! 大体自分は……」
そこでハクは言葉を止め、おそ松ではなく新たに表れこちらに向かってくる男に芽を向ける。
「おい、アンタ。そこで止まれ。悪いが、今からする質問に即座にかつ明快に答えてもらうぜ」
歩いて来た男、片桐安十郎、通称アンジェロは、にやにや笑いをぴたりとやめて足を止める。
「ん? 何だよ、警戒してんのか?」
「ああ、そりゃ警戒もするさ。……なあ、お前、そこ風上だぜ?」
ぴくりとアンジェロの眉が動く。
「何だってお前からは、血の臭いがしてくるんだ?」
これは、実に珍しいシチュエーションである。
ぶっちゃけこの血の臭いだけに関してならば、完全に誤解である。
この血の臭いは他の誰でもないアンジェロ自身の血の臭いであるのだから。
そりゃ片腕もがれてしばらく放置であったのだから、血の臭いぐらいついているだろう。
とはいえ、それを説明しようもない。
東方仗助にやられて腕を切り落とし、そしてその東方仗助のスタンドで治った、なんて話どうやったって信じてもらえるはずもない。
そこまでを一瞬で断じ、我が身の不覚を呪うアンジェロ。やはり一気に色々な事が起こり過ぎていて、アンジェロ自身の思考能力が落ちているのだろう。
普段のアンジェロならば間違いなく、血の臭いの事に気付いていたはずだ。
『あー、くそっ。失敗したわ。でもまあ、いいか。問題はねぇさ、何せここは、川沿いなんだから、な』
アクアネックレスを密かに川に沈め、泳ぎ進ませ二人の背後を取ろうと狙うアンジェロ。
ついでに、おそ松の方に向かって言ってやる。
「俺は別にお前でいいぜ。まあ聞けよ、これには訳があってだな……」
突然、おそ松が走り出す。目指すは水上バイク。わき目もふらずこれに飛び乗り、エンジンをかける。
そして、叫んだ。
「深夜にガチホモと遭遇とか洒落になんねええええええ! 後は任せたグッバイハク!」
本気で躊躇無く、おそ松はハクを見捨てて逃げにかかった。
「あっ! てめっ! 本気かクソッ!」
だがハクもさるもの。係留用のロープを掴んだまま一緒に川へと飛び込む。するとどうなるか。
「がぼごぶぐぼぶぼほっ!!??」
おそ松操る水上バイクに引きずり回される事になる。
おそ松的には当然ここはフルスロットルにしたい所だったが、何せスピードが早い。
しかも体がむき出しである為、体感速度はより早くなるもので。
その上今は夜中だ、真っ暗な水面を走らせるのはそれはそれは恐ろしい行為で、おそ松にここでフルスロットルかます勇気なんてものはない。
そしてそれは正しい。
水上バイクは通常のバイクと違って、舗装された道路を走るわけではない。
海程ではないにしても波立ち、更には自身が噴き出す水流でバイクよりも大きく揺れる乗り物である。
バイクと比べて左右に大きくせり出している部分は、別にかっこうが良いとかそういう理由ではなく、水上バイクが安定する為に必要なものなのだ。
もし、水上バイクに慣れぬおそ松が夜中の川で最速チャレンジなんて真似したら、かなりの高確率でひっくり返っていただろう。
この水上バイクは小学生でも使えたシロモノであるが、その使った小学生とは誰あろう江戸川コナン君であり、彼は見た目は小学生でありながら水上バイクの運転方法は熟知していたのだ。
なのでロープで水中やら水上やらを引っ張られる形のハクが、まあ何とか、ロープを掴んだままでいられている速度で水上バイクは進む。
ただ、それでもアンジェロのスタンド、アクアネックレスを振り切るには充分過ぎたようだ。
どだいエンジンとケンカしろってのが無理な話だ。
アンジェロにとっても、まさかあの段階で速攻全力逃げを打たれるのは完全に予想外であった。
あの見るからに馬鹿そうなガキには、もしかしたらアンジェロの悪意を見抜くスタンド能力でもあるのではないだろうか、と疑いを持つ程の即逃げであった。
ただ、少しだけ、ほっとした部分もあった。
東方仗助とやりあい、砲弾ぶちこまれ、死神みたいなバケモノと相対するハメになって九死に一生の思いで脱出してきたばかりなのだ。
声をかけたのは情報交換の意味で、好機を探って殺そうとは思っていたが、疲れている今の体で無理をするつもりもなかった。
そうやって改めて考えると、こうして声をかけてしまったのは少し早計だったか、とも思えて来る。
「やっぱ疲れてるんかね、俺も」
次、朝に放送とやらがあるらしいから、それまでは何処かの民家で、メシでも食って大人しくしていようと決めたアンジェロであった。
「いっやぁ、ハクってさ、思ったよりずっと体力あんのな。ちょっと見直したわ」
土手に水上バイクを止め、係留用ロープをそこらの出っ張りに無理矢理巻きつけたおそ松は、水浸しのまま土手にうつ伏せに寝転がっているハクに向かってそう言った。
当のハクはといえば、もう声も出せない程に疲れ果て、呼吸に肩を上下させる以外の反応を示さない。
「ああ、やっぱ疲れた? 疲れたね? おっけーおっけー、俺もさ、慣れない運転で疲れたしここは一つ休憩といこうか」
さっきのケーキ屋で見つけたシュークリームをバッグから取り出しぱくつくおそ松。
中身はカスタードとホイップが上手いこと混ざり合ったもので、こちらも甘すぎずでおいしく仕上がっている。
「悪くなる前に全部食っちまわないとな」
一気に三つ食べた所で、流石に飽きが来たのでこのぐらいにしておくか、とバッグの中から他のものを取り出そうとしたおそ松の背後に、水滴をしたたらせながらゆらりとハクが立ち上がった。
「お~~そ~~ま~~つ~~」
基本面倒くさがりのハクさんも、流石にコレには怒髪天な模様。
にやりと笑って振り向くおそ松。
「お? なになに? ムカついてんの? でもさーあれあのおっさんが悪いじゃん、俺悪くないし。え? 駄目? あ、そう。でもさーハクよー」
拳を握り、指を鳴らしながら立ち上がるおそ松。彼はとても悪そうな顔をしている。
「お前さー、そんなへろっへろのザマで、俺に勝てるつもりか? ん? どーなんだぁ? んんんん??」
怒ってるハクを更に挑発するような事を抜かすおそ松に、ハクは猛然と襲い掛かった。
「てーかさ、お前幾らなんでも今の自分に完敗とか、弱すぎじゃね?」
無傷のハクは呆れ顔でその場にぶっ倒れたおそ松を見下ろしている。
六つ子最強のおそ松であるが、剣槍弓が幅を利かせるような戦場に居たハクと白兵戦能力を比べたら、そりゃ勝てる訳がない。
「……け、計算違いらった……まさかハクがこんなに強ぇとは……お前そーいう大事な事先に言っとけよ」
「こっちはお前の弱さが計算違いだったんだよ。お前、ウチの女達口説きたいとか言ってたけど、自分に負けるようじゃアイツ等相手じゃ手も足も出ねえぞ」
「うーわ、そういう夢壊すような事言うのやめてくんない? こちとら可愛い女の子達と会えるってのだけを楽しみにいっしょーけんめー頑張ってんだからさー」
「おいこら、その頑張った結果がコレか? よしわかった、もっぺん話し合おうじゃねえか」
「あ、おまっ、トドメ刺すとか人間のやる事かっ」
なんて下らない話をしながらも、唐突におそ松が話題を変える。
「なー。さっき言ってた血の臭いがするってあれさー、つまり、アイツはそういう事だって話か?」
「さあな。ただ、あの、アイツの、目が、好きになれなかったな。ああ、でも血の臭いがしたってのは本当だぞ。ただそれ抜きでも、何か、嫌な感じはしたな」
ふーん、とわかってるんだかわかってないんだかなおそ松は、バッグから地図を引っ張り出して覗き込む。
「とりあえず、ウチはすぐそこだしさ。行ってみようぜ、兄弟が来てるかもしんねえし。どの道、あんなホモ臭ぇ男の側なんて一秒たりとも居たく無かったしな」
「それは多分というか間違いなく誤解だと思うぞ……」
勘のよさで危機を脱したハクであったが、アレが両刀だと見切るのまでは無理であったようで。
二人は暢気に並んで歩き出す。
松野おそ松には、そもそも殺し合い云々言われた所で、真面目に対応出来るだけの人間的キャパシティが無い。
真剣に、今置かれた状況を鑑み、推察し、先を見据えて動くなんて真似、出来るような人間ではないのだ。
そしてハクはというと、これはもう名簿を見たのがよろしくなかったのだろう。
殺し合いを能動的に云々するつもりが無いのは元より、今のハクには問題の解決云々よりも仲間の安全の確保が優先される。
つまりクオン、ネコネ、オシュトルと一刻も早く合流する事を考えており、全てはそこからだと。
最初の部屋で人が殺し殺されするのは見たが、最初に会ったのがおそ松である事もあり、置かれた状況に対し危機感が足りていない。
ハクは確かに知者であるがスロースターターでもあり、開始直後から警戒心全開でフルに動き回る連中のようにはいかない部分もあるのだろう。
今はまだ、二人共が、例え人殺しに遭遇したとしても何時もの二人で居られる。
だが、否応も無く殺し合いに向き合わされる時は、刻一刻と迫って来ているのだ。
【C-4市街地/早朝】
【ハク@うたわれるもの 偽りの仮面】
[状態]:疲労(中)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ナルカミ(S+級クインケ。誘導可能な電撃弾を発射出来、近接用レイピアにも状態変化可能)、765プロ宛ファンレターが詰まったダンボール、『765pro ALL STARS』のCDが入ったCDプレイヤー
[思考・行動]
基本方針: 皆で共に帰る
1:とりあえず白楼閣、松野邸のある方向を目指す。
2:あいつら(オシュトル、クオン、ネコネ)どこにいることやら……。
※参戦時期は少なくとも17話以降です。
【松野おそ松@おそ松さん】
[状態]:健康(ハクに殴られた跡がある程度)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ちゅんちゅん丸(佐藤和馬の愛剣で、日本刀を模した剣。切れ味はそこそこ)
[思考・行動]
基本方針:ハクのアンちゃんに協力し、あわよくば恩を売って女の子を紹介してもらい、ゆくゆくは童貞を卒業したい
1:とりあえず白楼閣、松野邸のある方向を目指す。
2:弟達(あいつら)はどこにいるんだろ……。
※水上バイクはC-4と5の境目辺りの川岸に停めてあります。
【G-5/早朝】
【片桐安十郎@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]: 健康
[装備]: なし
[道具]: 基本支給品一式、不明支給品(1~3)
[思考・行動]
基本方針: 東方仗助を絶望に突き落として殺す。
1:とりあえず身を隠し、休む。
2:手ごろな奴を見つけて楽しむ。
3:負けて死にたくはねーな~。
※アンジェロ岩にされた後からの参戦です。
※名簿、地図及び
ルールをみていません。
※東方仗助に怒りと恐怖を覚えています。
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最終更新:2017年02月07日 13:41