金色の獣と黒き獣  ◆QkyDCV.pEw





対峙するまでは普通だった。とは後の紅煉の言葉である。
面倒な奴等に会ってイラついていた所に見つけた人間。殺すついでにちょっとからかってやろうと紅煉はにやにやしながらそいつの元へ飛ぶ。
ちなみにこの飛ぶという行為も紅煉をいらつかせてくれる原因の一つになっている。
空を飛んだ瞬間、まるで大気が泥にでもなったように重くなり、何時もの速度で飛ぶ事が出来ないのだ。
結界の一種であろうか。胸糞悪い事この上無い。
それでも、見つけた人間は何故か高いビルのてっぺんに居たので、飛ばないと辿り着けず、仕方なく紅煉はそうする。
紅煉は自らの威容を良く理解している。人間など、姿を見せただけで大抵は驚き怯えるものだ。
ついさっき出会ったガキとガイコツは、稀に見る例である。
だからこの人間も……
「ドーモ! ニンジャスレイヤーです!」
それこそソイツの背後で爆炎が吹き上がる勢いで気合いを入れ、挨拶をしてきた。
紅煉は一瞬どんな顔をしていいのかわからなくなった。
それでも、両手を合わせて一礼するというこちらに敬意を払っている姿勢だけはわかったので、多分コイツはちょっと変な怯え方をしてるのだろう、と紅煉は思う事にした。
「ああ、そうかい。おい人間、おめーはここに連れ合いや子供やらは来てねえのか?」
人間は家族を大切にするらしい。なので、そういうのがいれば楽しくなるのだが、程度で考えてそう口にしたのだが、相手の反応は劇的だった。
いきなりその場で震えだし、何かものっすごい目で彼方を睨み始めた。
「怯えてる、わけじゃねえよな。何してんだお前?」
男は深呼吸を一つして落ち着くと、紅煉に向かって問いを放ってきた。
「お主、今空を飛んだがそれはニンジャソウルの力か? よもや、ソウカイヤのニンジャではあるまいな」
その声の響きに憤怒を感じ取った紅煉は、面白げに鼻を鳴らす。
「は、はっはははは、そうだと言ったらどうすんだ? え? この紅煉サマをどうにかしてくれるってのか? ああ!?」
男は俯いてしまう。
「……すべし……」
「あん?」
「……殺す、べし……」
「何だよ、何言ってるか聞こえねえぞ、ビビってねえではっきりしゃべれ」
「ニンジャ、殺すべし!」
言うが早いか男、ニンジャスレイヤーは紅煉へと飛び掛って来た。
その速さ、先の小僧の比ではない。アレに目を慣らしてしまった為、紅煉は完全に後手を踏む事になる。
ニンジャスレイヤーの拳が紅煉の顔面を捉える。それは、紅煉の巨体をすら揺るがす程の一撃。
ビルの屋上、その端まで殴り飛ばされる紅煉。
そこに、追い討ちとばかりにニンジャスレイヤーが襲い掛かる。
「イヤーッ!」
再びこの一撃を食らう紅煉。一体如何なる技なのか、見るからにテレホンな動きを紅煉には見切る事が出来ない。
「イヤーッ!」
それでも、三度目ならば。
「そう何度も食らうかよっ!」
上体を背後にそらして拳をかわす。この巨体でありながら、紅煉の身の軽さは相当なものだ。
ニンジャスレイヤーの攻撃は途絶えない。
「イヤーッ!」
「ボケが! 同じ攻撃何度しやがる!」
今度はカウンターでニンジャスレイヤーを殴り返してやった。
「イヤーッ!」
「だから同じ攻撃は通じねえって言ってんだろ!」
殴り飛ばしても、ニンジャスレイヤーは即座に飛び跳ね駆け寄って来る。
「イヤーッ!」
「いい加減懲りろてめええええええ!!」
口から炎を吐き、ニンジャスレイヤーの足を止めてやる。
「ちっ、何なんだコイツは。妙な動きしやがって、人間? にしちゃ臭いが変だな、しかしバケモノとも思えねえ……おい、てめぇは一体何者だ」
ニンジャスレイヤーは紅煉に数度殴られたというのに、とりたてて痛がるそぶりも見せず、こちらを睨んでいる。
「ニンジャスレイヤーだと言ったはずだ。貴様等ニンジャを殺す、殺し尽くす者だ」
だが、紅煉はニンジャスレイヤーの言葉をせせら笑う。
「いいや違うね。てめぇの目はアイツと同じだ。ぶっ殺したくてぶっ殺したくて仕方がねえ相手がいるのに、ソイツを殺す力がねえもんだからそこらの雑魚殺して気を晴らしてるマヌケさ」
ニンジャスレイヤーの表情が凍りつく。
「そうさ、そして最後は、復讐になんの関係も無い、そこらのガキ庇おうとして死んじまうのさ。なあ、お前も見ただろう、最初の場所で暴れて四人を殺したまでは良かったが、その後首輪ふっ飛ばされて死んだ馬鹿を」
けひゃひゃひゃひゃ、と笑いながら紅煉。
「ソイツのよぉ、女と子供、食ってやったのよ、俺が。そしたらあの野朗、必死になって追ってきやがってなぁ。可愛いもんだぜ、で、結局届かずぼんってな。おめーもだ、おめーもそうなるのさ。お前の復讐に何の関係も無い俺に、四肢を裂かれてブザマにくたばるのよ」
空を見上げ哄笑をあげる紅煉。そして、最早後戻りのきかぬ所まで怒りが上り詰めたニンジャスレイヤー。
しかしそんなニンジャスレイヤーを、彼の脳内に住むナラク・ニンジャが止めにかかる。

『待ていフジキド!』
『何用だナラク・ニンジャ! 助力なら不要だ!』
『否! あの化生はニンジャに非ず! ならば不要な危険を冒すべきではない!』
『なんだと!? あれほどの怪物にニンジャソウルが無いというのか!』
『そのとおりよ! フジキドよ! 貴様の腕ではアレは倒せぬ! そして倒す必要すらない相手! 早々にこの場を立ち去れい!』
『断る! あれこそは禍々しきソウカイヤの魂に連なる者! この場で息の根を止めずにはおれぬ!』

ニンジャスレイヤーはナラク・ニンジャの忠告を無視し、紅煉へと力強く踏み込む。
「けっへへへ。だがな、おめえはもうお終いなのよ」
紅煉の額が輝き、漆黒の稲妻がニンジャスレイヤーへと波打ち伸び行く。かわす、近すぎる。防ぐ、不可能。即ち直撃。

「なぁにを粋がってんだてめぇは、たかだか人間相手によぉ」

直撃のはず稲妻は、真横より飛来した同じく稲妻を受ける事で矛先がよれ、ニンジャスレイヤーの元に届く事は無かった。
これを放った金色の巨大な獣は、つまらなそうに頬をかきながら、紅煉とは反対側のビルの端に降り立った。
その獣の名を、とら、と言う。



ニンジャスレイヤーと別れた後、しばらく歩いたビスケット・グリフォンは、一度地形を確認したいと思い高いビルの上へと昇る。
そこで、ビスケットは稲光を見た。
通りすがりの売店で拝借した双眼鏡を使って覗き込んでみると、とても現実のものとは思えぬ風景がそこにあった。
「……なんだこれ?」
巨大な獣が二体、黒と金と。そいつらが何やら吼えると稲妻が走るのだ。更に、口からは火を吹いたりしてる。
一度双眼鏡から目を離し、こめかみを抑えて首を振った後、再度双眼鏡をかけなおし、かの光景を眺める。
やっぱりそこには、二体の怪物が見えた。
ビスケットは何処か得心したような、感心したような声で言った。
「やっぱり地球は凄いなぁ、火星じゃこんなもの絶対見られないよ」
それで、済んでしまうようだ。

ビスケットはとにもかくにも、アレから離れる方向に足を向ける。あんなのに巻き込まれて生きていられる自信なんてない。
自分の太めの体格を考慮し、無理に走ったりせずてくてくと歩く。
何か乗り物でもないかな、ときょろきょろ周囲を見回しながら移動していたのだが、それっぽいものは見つからない。
ただ、この土地を観察する事は出来た。
建物がびっしりと建っていて、ここが人の集まる町である事はわかるが、そこに人が全く見当たらないのはやはり殺し合いの会場としたせいだろうか。
殺し合いに巻き込まれるのとギャラルホルンにケンカを売るのと、どっちが危ないだろうか、なんてくだらない事を考えながら道を行く。
一応、名簿とルールとやらには目を通した。最悪な事に、オルガがここに来てしまっているらしい。
ビスケットはもちろん、ここにいるらしい鉄華団最強戦力の三日月ですら、鉄華団にとってという観点だけで見たならば代えが効く。だが、オルガだけは駄目だ。
鉄華団はオルガ・イツカの為す事が全てで、逆に言えばオルガが判断し決断しなければ、何一つ前に進みはしない。
もちろん各自で考え判断し動く事もある。だが、それにした所でオルガが定めた方針に沿った形であって、鉄華団の方針は全てオルガの決断によって定められる。
だから他が死んでいいという話ではない。事実として、オルガが帰還出来なければきっと鉄華団は遠からず空中分解し消えてなくなってしまうだろう、という事だ。
それに、と名簿を見た時気付いた洒落にならない事を思い出す。
「三日月……多分この名簿読めないよなぁ」
下手をするとルールにある進入禁止区域とやらにも気付かず入ってしまいそうで怖い。
この部分だけならばある意味、オルガ以上に一刻も早い合流を考えなければならない相手だろう。
また、もう一つ。名簿にあった名前、マクギリス・ファリド。畑で遭遇したギャラルホルンの人間で、三日月曰く、どうやらパイロットだったらしい。
鉄華団から三人来ている。ならばギャラルホルンからはもっと来ていてもおかしくはないだろう。もし、こんな場所でこちらが鉄華団だと知れたらどうなる事やら。
ビスケットの心配事の種は尽きない。
ただ、何やかやとオルガも三日月もタフな男だ。
生き残るという点でいうのなら、最も注意し警戒しなければならないのはこの三人の中では、ぶっちぎりでビスケットであるとの自覚はある。
一応、警戒するという意味で道路の端を通り、何かがあったなら即座に逃げ込める場所を常に確保出来るよう、考えながら移動はしている。
参加者総数は72名でこの地図の広さを考えると、そうそう次々と遭遇する事は無いだろうとも思っているが。
ただそれでも、数時間も歩き続ければそういった事もあるようで。
街中を逃げる隠れるがそれほど得意ではないはずのビスケットから見てすら、不注意だなぁと思える移動のし方をしている女の子が居た。
見た感じ、育ちは良さそうだ。
ビスケットはバッグの中に入れておいた武器、刀を確認する。一応、用心は怠るべきではない。
名は『妖刀ベッピン』らしい。
一度抜いてみたら、刀身に文様やらが描かれていてめちゃくちゃ禍々しかったので即座にしまったのだが、どうしようもなければこれを使うしかない。
またもう一つの支給品はレポートのようなもので、タイトルは『納鳴村考察 著神山晴臣』だそうで。
結構な量があったので、とりあえずスルーした。
ビスケットは深呼吸を一つすると、意を決して少女に声をかけた。
「あ、あのー」
「ひっ!?」
それはもう劇的な反応が返って来た。ちょっと泣きたくなるぐらいの。
「えっと、まずはこんにちわ、かな? 僕はビスケット・グリフォン。君に危害を加えるつもりはないよ。少し、話をしたいんだけど……いいかな?」
見るからに怯えた様子で少女は、こちらを見てくる。
どう? といった様子で両手をあげ肩を竦めて見せる。すると彼女もおずおずといった感じでこちらに近づいて来た。
「ら、らぶぽん、です。そ、その……」
「ん?」
「お、おいしそうな名前ですね」
一瞬返事に困ったビスケットであったが、こんな場所であるにも関わらず思わず噴出してしまった。
「ぷっ、あ、あはははは、良く言われるよ」
らぶぽんと名乗った少女は、自分で言った言葉が余りに場にそぐわないものであったと気付いたらしく、可愛らしく赤面してしまっていた。
「そう気にしないでいいよ。ウチは妹二人もクッキーとクラッカって言うんだ。いい名前だろう?」
何と答えたものか、困った様子のらぶぽんに、ビスケットは表情を改めて訊ねる。
「こんな場所に連れてこられて混乱してるのは僕も一緒さ。僕は仲間が一緒に来てるらしいから、出来れば合流したいと思ってるんだ。君はこれまでに誰かに出会ったりはしてないかい?」
ビスケットがそう訊ねると、らぶぽんは首を横に振る。
「そっか、ま、まあまだ大して時間も経って無いし仕方が無い……」
らぶぽんは再び首を横に振る。
「ち、違う。その、しょ……」
「しょ?」
「処刑、されちゃった人……居た」
ビスケットの眉根が寄る。処刑って何だ、と極素直に思ったのだ。
「えっと、それって、最初に変な部屋で殺し合いしてた人達の事?」
またも首を横に振るらぶぽん。
「そうじゃなくて、いきなり銃でばーんって。私びっくりして逃げて来たんです」
「それはどんな人だった?」
「撃たれたのは女の人で、撃った方は全然わかりません。凄く遠くから撃ったんじゃないかなってぐらいで」
そっか、とビスケットが安心したのは、それがオルガでも三日月でもないとわかったからだ。
らぶぽん曰くの処刑があった場所を聞き、地図で照合した後、二人は極自然にそちらに行くのはやめよう、となった。
「僕の方は、なんていうか……その、上手く言えないんだけど……凄く独特な人というか、が居たかな?」
勢い込んでらぶぽんが訊ねる。
「処刑したんですか!?」
「……え? あ、いや、悪い人じゃないみたいだったよ」
「そんなのわからないじゃないですか!? 念には念を入れて処刑しておくべきでしょう!」
最初の頃の怯えた様子は何処へやら、段々彼女のテンションが上がっていくのが見てとれる。
「いやいや、そういう危ない事しちゃ駄目だって。大体あの人、屋根にジャンプして自力で飛び乗るような人だよ、下手な真似したらとんでもない事になるって」
「何でですか!? 出来る所からコツコツと処刑していかないと私達帰れないじゃないですか!」
ビスケットの顔が真剣なものに。
「それはつまり、殺し合えって言われた通り、君も他の人を殺していくって事かい?」
ビスケットの表情と口調が変化した事にも気付かないのか、らぶぽんは喚き続ける。
「処刑と人殺しは違います! 悪人が拷問されて処刑されるのは当たり前じゃないですか!」
洒落にならない事を彼女は口にしているのだが、そこは温厚なビスケットだ、彼女が錯乱している可能性も考えてあげる。
「ま、まあまあ、とにかく落ち着いて。大声出して変な人が来ちゃったら困るでしょ?」
それでもらぶぽんは止まらない。ここに連れてこられてから、溜まりに溜まっていたものを吐き出すように叫び続ける。
「後悔させるんです! 他人を傷つけたらどうなるか、その身に刻みこんでやるんです! 絶対に、絶対に、絶対絶対絶対絶対、許しちゃいけないんです! 処刑! しなきゃ駄目なんです!」
彼女の目の前には、処刑すべき何者かの姿が見えているのだろうか。眼前に伸ばした手は、まるではさみでも手にしているようで。
「拷問してやります! 痛い痛いって悲鳴を上げて! はいつくばっても許してなんてあげないんです! それで惨めに命乞いする所を処刑するんです! これってどうですか!?」

男ビスケット・グリフォン、全力疾走の真っ最中。
「マズイってあの子! もうさ! さっきの赤黒い人といい屋上でケンカしてる怪獣といいこの子といい! ここは一体どうなってんだよもう!」
らぶぽんが喚いている間にそろりそろりと路地に入ったビスケットは、あっという間に逃げていったのであった。



「おめぇ……確か、とら、だったか。へっ、ニンゲンに媚び諂ってるみっともねえバケモノが、随分と偉そうに登場してくれたよなぁおい」
とらは紅煉の言葉を完全に無視し、ニンジャスレイヤーの方を向き問う。
「おい、お前。お前もそこの黒いのにつれあいやら子供やらを殺された口か?」
ニンジャスレイヤーは紅煉の同類の登場に警戒の眼差しを向ける。
とらは構わず続ける。
「んじゃあよ、最初の部屋で坊主ぶっ殺した後首輪ふっ飛ばされて死んだ男、ひょうって奴なんだが、アイツを知っているか?」
ニンジャスレイヤーは首を横に振る。とらは、そうかい、とやはり感情の篭らぬ声で言う。
「ならよ、何でコイツとやりあってんのかは知らねえが、おめえはすっこんでろ。コイツとは、わしがやる。いいか、良く聞けよニンゲン。紅煉は、わしのもんだ」
視線だけで射殺すような剣呑な眼差しをニンジャスレイヤーはとらへと向けるが、当然とらは微動だにしない。
何かしら察する所があったのか、ニンジャスレイヤーは殺気を抑え両腕を組んだ。
「……わかった。お主に譲ろう。だが、強いぞ? いいのか?」
そこで初めて、とらが笑った。
「はっ、ぬかせよニンゲン。助勢なんてふざけた事考えやがったらテメェもまとめてぶち殺すぞ」
「お主にこそ筋があるというのなら、これを違えるような真似はせん。武運を祈る」
とらは改めて紅煉へと向き直る。
「筋……なるほど、筋ねぇ。ニンゲンは色々と上手い言葉を考えやがるな。なあおい、紅煉よぉ、おめえに繋がる恨みの筋って奴ぁどんだけ膨れ上がってんだろうなぁ」
首を傾げる紅煉。
「あん? 何だそりゃ。ニンゲンに恨まれたからってどうだってんだ? もしかしててめえ恨みを買うのが恐ろしくて誰も殺せませんだとかぬかすのか?」
「アホか。おめぇみたいなガキと違ってぶっ殺した数も恨みの筋もわしの方が上よ。ただなぁ、おめぇは何時もツメが甘いのよ。ひょうにしても、そこの男にしても、殺せる時に殺さねえから筋が途絶えず絡み付いて、遂にゃおめぇは終わっちまうのさ」
高笑いを上げる紅煉。
「お、俺が終わっちまうってか!? くはははははは! そいつは傑作だ! で、それは誰がやってくれるんだ!? まさかてめぇに出来るとか思ってねえよなニンゲンもどきが!」
「おうよ、今すぐぶっ殺してやるぜ白面もどき」
とらは手を強く握り、そうしやすいようにする為、爪を体内へと沈み込ませる。
紅煉はというとそんな細かい動きに興味などないのか、額に雷光をまとわせ充電を始める。
「はっはぁ、テメェのモノとはケタが違うって事、教えてやるよ」
とらの雷と比べようとでもいうのか、対応する間を与えた上で紅煉はとらに向け雷撃を放った。
対するとら、こちらもまるで稲妻のような素早さで左方へと飛び、雷撃をかわす。
「何だよ、いきなり逃げようってか? おいおい、そんなにテメェの雷に自信がねえってか? まあどっちみち、逃がさねえけどな!」
紅煉の雷がとらを追う。とらは屋上の床を蹴り、紅煉の周囲を回るようにしてこれから逃れる。
紅煉の雷は、屋上にあったフェンスや給水塔、通気口やらエアコンの室外機までを全て吹っ飛ばして回るが、とらの素早さに追いつく事が出来ない。
「チッ!」
急遽予定を変え、紅煉は雷で逃げる方向を絞った後、そちらに向かって自らも飛びとらの先回りを狙う。
だが駄目。その動きを読んでいたとらの渾身の拳を顔面に叩き込まれる事になる。
紅煉が崩れるととらは畳み掛ける。右拳で再度頭部を真横から殴りつけた後、左拳で腹部へ強く打ち込む。
にたりと笑った紅煉が勢い良く顔を縦に振る。紅煉の口より伸びた三本の刃がとらへと振り下ろされるが、とらは充分な余裕を持って後退しこれをかわす。
紅煉の無造作にライオンの如くのびた髪のようなものが、わさわさと広がり伸びる。
「逃げるんじゃねえよ!」
とらの四方より髪が襲い掛かると、とらもまた自らの髪のようなものを伸ばして迎撃する。
髪は幾本もが束ねられ房となりこれらは鋭い刃と変わる。
こうして生じた刃が数十本まとめてとらに向かい伸びていくのだが、それら全てをとらは同じく髪で刃を作り出し迎え撃ちきる。
紅煉の意識が髪の操作に集中した瞬間を見計らい、とらは大きく前へと踏み出していく。
紅煉の刃が数本、とらの無理な前進がたたって皮膚をかすめるが、その程度の損害でとらは再び紅煉との格闘間合いへと。
勢い良く飛び込みながらの拳を、再び紅煉の頭部にぶちこむ。
バケモノは人間とは身体構造が大きく異なっており、その急所と呼ばれる箇所も全く違う。
とはいえ、腕を振り回す攻撃をするバケモノの腕を奪えば、当然その攻撃は出来なくなるし、感覚器官を奪えば対応する五感を感知する能力は大幅に下がる。
人間由来のバケモノである紅煉は、目、耳、鼻、といった感覚器が頭部に集中しており、これが激しい衝撃に晒されれば、当たり前に反応が鈍るものだ。
ならば、紅煉にとって死に至るものではないとしても、頭部は充分急所と言える部位であろう。
「くそったれ! うっとうしいんだよテメェは!」
至近距離から紅煉は炎を吐き出す。
これがとらが攻撃を仕掛けてくるタイミングに合わせてあるのは、戦闘慣れしている紅煉らしい見事な間の取り方であろう。
しかしとらはこの絶妙のカウンターにすら反応し、振り上げた拳を叩き込みながら、吐き出された炎の筋を頭を下げくぐってかわす。
殴りつけた事で紅煉の炎を吐く口は左方に向き、その間にとらは悠々と右方に距離を取り直した。
紅煉は、全身を震わせながら、怒りを顕にする。
「た、たたた……大概にしやがれええええええええ!! せこせこした真似ばっかしやがって! てめぇみてぇなバケモノ初めて見たぜ! ビビって腰が引けるぐらいならケンカなんて売って来るんじゃねえ!」
紅煉の頭上に、雷雲が渦を巻く。
「もういい、てめぇは即座に殺す。塵も残さねえ!!」
観戦していたニンジャスレイヤーは、脳内でナラク・ニンジャの警告があったようでこちらは既に退避済み。
とらは、一度息を吐いた後、大きく吸い込み、頭上を見上げ構える。
「くたばれやああああああああああ!!」
頭上に生じた雷雲より、無数の雷撃が降り注いで来た。
それは屋上全てを覆い尽くす程のもので、逃げる場所など何処にもありはしない。
しかも雷撃は一瞬で終わらず、何度も何度も、何発も何発も、紅煉の雄叫びに応え降り続ける。
その様は『カタトゥンボの稲妻』『マラカイボの灯台』と呼ばれるベネズェラ西部の世界最多落雷地帯に迷い込んだようで、白い雷の線だけで世界が全て染まってしまいそうな勢いだ。
衝撃を伴う降雷は容易くビル屋上のアスファルトを撃ち抜き、見る間にビル上部が削り取られ崩れていく。
紅煉の哄笑はビルが砕ける音にかき消されまるで聞こえてこないが、雷雨のまっただ中にあって両腕を広げ声高らかに笑い続ける紅煉の姿は、ただしく悪夢の象徴のようなものであろう。
遂にビル屋上部は全てが崩れ落ち、更に下の階まで破壊は及ぶ。
崩れ砕かれた瓦礫が下階にのしかかり、これを上から更なる雷撃が撃ち抜き、更に更に下の階までを潰していく。
紅煉がこうまで執拗に雷を降らせたのは、降雷の間中ずっと、とらが屋上を駆け回っているのが見えていたからで、屋上が崩れた時、とらの姿は崩れる瓦礫の中に埋もれていったからだ。
バケモノはなまなかな事では死んだりしない。それを良く知っている紅煉は、執拗に、徹底的にトドメを刺しにかかったのだ。
紅煉は粗暴に見えて、戦いとなれば狡猾に立ち回る。
時に大胆に、時に用心深く、戦局に応じて相応しい立ち回りの出来るバケモノなのだ。
なので紅煉はとらのしぶとさを甘くは見ない。
加撃の好機と見るや、ここぞとありったけを自分の出来る限り何度でも叩き込んでやるのだ。
結果、二十階を越える高さのビルが、その半ば以上を雷撃により砕かれ、遂には残る半分も自重に耐え切れず潰れ崩れ始める。
それでも紅煉は雷撃を止めない。いや、今の紅煉の表情は、高笑いを上げていた頃のものとは大きく異なる。
苛立ち、焦燥、そういったものが、何とあの紅煉の顔に表れているではないか。
足場はとうに失われた後なので、紅煉は宙に浮きながら雷を操っていたのだが、とうとうその手を止める事になる。
さしもの紅煉も永遠に雷を降らせる事は出来ないのだ。
軋む音が外に聞こえる程強く、歯を鳴らし、紅煉は眼下を見下ろす。
崩れる際、隣接する二つのビルを瓦礫の下敷きにしたこのビルの跡地。
瓦礫がうず高く積まれるその頂上で、バケモノ、とらは体の各所を焦がしながら頭上を見上げ、言った。
「くっそ~、全部かわせると思ったんだがなぁ。案外難しいぞ、これ」
とらは、紅煉が雷を降らせ始めると、屋上を高速で移動し始め、降り注ぐ雷撃全てをかわしにかかったのだ。
その凄まじい回避能力に、紅煉は足場を崩す事で足を止めようとしたのだが、崩れた屋上、落下していく瓦礫を空中で蹴ってとらは跳躍を続けた。
時に崩れる巨大な柱を盾にし、時に吹き上がる土砂をブラインドに紅煉よりの視界を遮りながら、時に一メートル四方も無いとらの巨体からすれば小さな小さな瓦礫を大地のように力強く蹴り出して、とらはビルが一つ潰れるまでの間延々と、この雨のように降り注ぐ雷撃をかわし続けていたのだ。
とらは煽るように言った。
「で、もうお終いか紅煉? 自慢の雷もロクに当らねえんじゃ意味がねえよなぁ。で、次はどうする? ここら一帯火の海にでもしてみるか? それでわしを捕まえられるってんなら、せいぜいやってみろや」
紅煉は不機嫌さを隠そうともせず怒鳴る。
「うるせえ! てめえはロクに仕掛けても来ねえじゃねえか! 逃げ回るだけで俺に勝とうってか!?」
くかかかか、と笑うとら。
「だったら降りて来いよ。わしらがやるにゃ、空は結界が邪魔だろ」
そう言うと瓦礫からすたすたと移動し、ビル前の大通りに出るとら。
それでちょうどとらが紅煉に背を向けた瞬間、紅煉は口の端を上げ額から直接雷撃を放つ。
とらはそちらを見もせず後ろ足に足下の瓦礫を蹴り上げる。
瓦礫と一緒に土砂も舞い上がり、とらと紅煉との間を土煙が遮る。雷撃は土煙を貫くが、それで晴れた視界の何処にもとらの姿は無い。
「ど、何処行きやがった!?」
目を凝らし、首を左右に動かして探すも見つからない。
ふと、降り注ぐ光量の変化に紅煉は気付く。月明かりが消えた。その理由を察し振り返るがもう遅い。
「そうかいそうかい、降りるのが嫌だってんなら叩き落すまでよ!」
何時の間にかとらは、紅煉の頭上を取っていた。
飛行は速度が落ちていて、この短時間でここに至るのは不可能。だからとらは周囲の残ったビル壁を駆け上り紅煉の上へと飛び上がったのだ。
拳槌を紅煉の顔面に叩き込み、とらは落下の勢いも乗せたまま腕を振りぬく。
紅煉はそのまま大地に叩き付けられ、とらも落下の速度に逆らわずアスファルトを砕き力強く着地する。
ここに至ってもまだ、紅煉はその持てる技も力も、とらに負けているとは欠片も思っていない。
とらは紅煉の攻撃を姑息な手でしのいでいる、といった印象しか持っておらず、それは恐らく正しい認識であろう。
狩り手は紅煉で、あくまでとらは狩られる獲物という事だ。
ただ幾らなんでもとらは紅煉を怒らせすぎた。
叩きつけられた地面から、跳ねるように飛び起きた紅煉はとらへ猛然と襲い掛かっていった。
それはもう単純極まりない猛威だ。
高い能力に物を言わせて素早く殴る、力強く蹴る、何よりも鋭い刃で切り裂く、といった原始極まりない、だがそれ故に小細工の入る余地が少ない接近戦だ。
兎を蹂躙する獅子の如く圧殺にかかる紅煉に対し、しかしとらは何処までも冷静に、冷徹に、紅煉が大振りを仕掛ける時のみを狙い定め、それ以外は回避に専念する。
それとわかっていても、とらの徹底した回避姿勢は紅煉の大振りを誘発し、そこに都度とらの一撃が突き刺さる。
最早紅煉は言葉も無い。全身に妖力を滾らせ、更に速度を、膂力を引き上げる。
こうなってくると地力の差が出て来る。そしてやはり基点となるのは紅煉の口に突き刺さった三本の刃だ。
とらもこれだけはもらう訳にはいかず、刃を見せ札に出された攻勢はそれとわかっていても対処しなければならず、刃をフェイントとした各種の攻撃がとらを打つ事になる。
もちろんとらもやられっぱなしではない。痛打を加えたと笑う紅煉に、釣りは忘れぬと確実に反撃をくれてやる。

崩れたビルから離れた場所で、最初はビルの屋上から、とらと紅煉が地上戦を始めてからは下におりて、ニンジャスレイヤーはその戦いを見守っていた。
二体のバケモノの戦いはナラク・ニンジャの興味をそそるものでもあったのか、フジキドの脳内にひっきりなしにナラク・ニンジャの声が響く。
『むう、あのような強力な術、古事記にも記述は無かったはず。一体きゃつらは何者なのか』
『さてな。しかし、金色の方の戦い方は実に見事よ』
『ふん、見識が浅いぞフジキドよ。地力に勝るは黒い獣の方よ。それに、地上に降りてからは慢心も失せ、黒い獣の立ち回りは磐石と言って良かろう』
『…………そうか。ではこのままでは』
『然り、黒い獣が勝つ。だが……』
『だが?』
『解せぬ。あの姿形からして、両者は同種の存在であろう。にも関わらず、ああまで戦い方に差が生じるというのは本来ありえぬ。体躯、術、能力を考えるに、黒い獣の戦い方こそが彼奴等の本来の戦い方に思えてならぬ』
『確かに、金色の戦い方は何処か不自然さを感じさせるものだ。無理に戦い方を変えているのか?』
『くくくっ、そこに気付けるとは。少しは成長したかフジキドよ』
ニンジャスレイヤー、フジキド・ケンジはナラク・ニンジャの偉そうな物言いを不愉快に思うも、腕はあちらの方が上なのはわかっているので黙っている事にした。
『そうだ、金色のあれは本来強者たる存在がする戦い方ではない。あれは弱者の刃、力及ばずながらも断固たる決意と共に抗う、地を這いずる者の戦よ』

「どうしたとらよおおおおお! このままジリジリ殺されるかあああああ!?」
紅煉の笑い声にもとらはビクともしない。
「つくづく、お前はくだらん奴だな紅煉。なあ、白面にもなれぬ半端者よぉ」
「何だと?」
両者は攻防を繰り返す。何時までも、何処までも、無限の体力すら尽きるその時まで。
「自分がやりてぇように生きたいってんなら、白面は絶対にブチ殺さなきゃならねえ相手だ。アレは他のバケモノの存在を認めねえ、そんな事ぁお前もわかってんだろ」
「だからどうした? 白面が何を考えていようと俺の知った事か」
「それよそれ、俺は知るかなんて嘯いときながらよ、おめぇは見えてる事実を見えないフリしてやがんのよ。白面は敵が居なくなりゃ次はテメェを狩り殺すぞ。アレが生かしておくバケモノは己の分身のみ、アイツはそういうバケモノだろう」
「そん時ぁそん時だ。白面だろうと何だろうと俺が踏み潰してやらぁ」
「出来ねえ事ぁ口にするもんじゃねえぜ紅煉。お前は、絶対に白面に勝てねえと思ってるのさ。だから白面の御機嫌を損ねるような事はしねぇのさ。白面も白面でソイツがわかってるから、おめえにゃ好きにやらせてる。いざって時は、全力で白面の機嫌を取ろうとするとわかってるからな。なあ、白面は恐怖を食らうんだとよ。なあ紅煉よ、今度白面に会った時ぁ聞いといてやるよ。おめぇの恐怖はどんな味だってな」
激昂した紅煉がとらへと襲い掛かる。
それは凄まじき乱打で、如何なとらとてこれを持ち堪える事なぞ不可能であろう。そう思えるような猛烈なラッシュを浴びながら、とらは笑っていた。
「く……くっくくくく、とうとう来たか。ああ、わしに似合わねえ忍耐なんて真似、した甲斐があったなぁ……」
「テメェ!!」
紅煉の攻撃は更に激しさを増すも、とらの笑みは消えない。
「そろそろ気付いたか? おめぇ、力落ちて来てるぞ? なあ、わしが最小の動きで避けてる間、おめぇはどうしてた? 当りもしねえ雷をめくらめっぽう打ちまくり、牽制にもならねえ炎をぷーぷー吹いてやがったよな。殴り合いだってそうだ。消耗を狙うなら切るより殴る方がいいのによぉ、おめえは一発での決着ばっか考えてその剣や爪で切る事ばっか考えてたよなぁ。なあ、紅煉よ。無駄な事ばっか繰り返して来た紅煉よぉ、そろそろおめぇ、妖力も何もかも、尽きてきてんじゃねえか?」
「ふざけんな! この紅煉サマにニンゲンみてぇな限界なんぞあってたまるか! 俺あよぉ! これまで何日も戦い続けるなんざザラだったんだ! てめぇみたいな下等なバケモノ相手にして先に尽きるなんて事あってたまるかあああああああああ!」
確かに紅煉も長い戦歴を誇るバケモノだが、その性質と高い能力から、紅煉は同格或いは自らを越えるバケモノとの戦闘経験は著しく少ない。
潮と共に日本中を駆け抜けた、遥かな昔白面にすら挑んだとらとは、比べるべくもない。
紅煉の拳がとらの腹部を強く打つ。すると、何かに驚いたように紅煉はすぐに手を引っ込める。
「な、何だ今のはぁ!?」
「おっと、とうとう漏れちまったか。仕方ねえ、ま、こんな所で充分だろ。テメェも随分と弱ったようだしなぁ……紅煉、おめぇはまだまだやれるんだよなぁ? わしなんざ目じゃないぐらいしぶといんだよなぁ? なら、コイツをもらっても同じ事言えるか?」
とらの全身から、最初は小さく、徐々に激しく、放電が始まる。
「お、おめぇ、それは……」
「てめぇとやりあい始めてからずっとな、わしは雷を使ってなかったろ? あれはな、延々と体内を走らせてたせいでな。それがとうとう体の内に収まらなくなってきたって話よ。どうだ紅煉よ、コイツをまともにもらって立っていられる自信あるか?」
舌打ちと共に身を翻す紅煉。とらは当然、追いすがる。
「アホぅが! 逃げられると欠片でも思ったか!」
しかし、とらが踏み出した瞬間を狙って紅煉は突如振り返り、幾ら体力が落ちようと一切攻撃力が落ちる事の無い、口に刺した刃をとらの胴へ突き刺したのだ。
「ゲハーッハッハッハ!! 油断したなボケが! コイツは白面の特製よ! 幾らてめぇでも……」
「……ボケはてめぇだ。白面から聞いてねえのか? わしはな、獣の槍に何百年もこの身を貫かれていたのよ。今更この程度へでもねえ!」
とらの渾身の拳が紅煉の胴に突き刺さる。それまでに溜めた全てを込めたような一撃は、紅煉の堅い表皮をすら貫き胴深くへ手首までめりこんだ。

『どじるなよ』

「さんざこのわしに我慢なんて真似させやがって! 消し飛んじまいな!」
とらの腕から、閃光が溢れる。
とらが練りに練った雷は額ではなく伸ばした腕を伝い、紅煉の体内で十五の雷刃と化し、十五方へと飛び散った。
それは正に爆発と称するにふさわしかろう。紅煉の体を十五の刃で十六ツに切り裂き、バラバラに砕いて見せたのだ。
一瞬の炸裂音の後、べしゃりと音を立て地に落ちたものがある。
紅煉の首より上のみが、砕けぬままとらの眼前へと落下したのだ。或いは、とらが狙ってそうしたのかもしれない。
「さて、最後はコイツって決めてたのよ。あの馬鹿が、せっかく人が忠告してやったってのによ……さっさとくたばっちまいやがって。ホント、ニンゲンってな気に食わねえ奴ばっかりだ」
「ま、待て! 俺に手を出しゃ白面が黙って……」
振り上げた拳槌を、とらは躊躇無く紅煉へと振り下ろした。

「てめぇがこの世に存在する事を禁じてやらあ!」

既にぐずぐずになっていたアスファルトが吹き飛び、衝撃はそれに収まらず一帯をすり鉢状に抉りとった。
こうして、大妖紅煉は、永劫にこの世より失われたのだった。



うつ伏せに倒れ、両腕両足を伸ばしただらしない姿勢のまま、とらは首だけを上に向けソイツに言った。
「おい、わしは今疲れてるんでな、特別に見逃してやるから今すぐどっかへ消え失せろ」
とらが横になっているせいで、見下ろす形になっているニンジャスレイヤーは、感心したような、呆れたような顔をする。
「その様で良く言えたものだ。おい、何か欲しいものはないか? 素晴らしい戦いを見せてもらった礼だ、多少なら手間を割いてやろう」
とらはふざけんな、と怒鳴りつけようとして思いなおす。戦闘中、一瞬気をとられるようなものが見えたのを覚えていたのだ。
「……おい、なら、この通りの先にあるはんばっかの店から、てりやきばっか山程持って来い。それでテメェの命は見逃してやる」
「良かろう……スシの店もあったがそちらでなくてもいいのか?」
「魚ならそのまま食った方が量も入るだろうが」
そうか、とニンジャスレイヤーはとらの希望通りハンバーガーの店に向かい、そこで考える。
あの巨体が満足する量とはどれぐらいだろうか、と。
ニンジャスレイヤーにそのような知識は無く、だからとナラク・ニンジャに聞く気にもなれず、ニンジャスレイヤーは大は小を兼ねるとばかりに、店にあった全てのハンバーガーを無限に入るバッグの中に放り込む。
とらの元に戻った時、ペットにエサをあげる感覚で渡していいのだろうか、と一瞬悩んだのだが、それは流石にマズイだろうと思いなおし、近くの店からカーテンをひっぺがして敷布とし、その上にバッグから大量のハンバーガーを積み上げる。
「これで足りるか?」
山と積まれたハンバーガーに、とらは身を起こしながらぶーたれる。
「足りるわきゃねーだろうが。だが、まあいいさ、別に食わなくても死ぬわけじゃねーしな」
などと言いながら物凄い勢いでハンバーガーを消費していく。
そのあまりの食いっぷりに、ニンジャスレイヤーは少し興味を引かれたようだ。
「……そんなに美味いのか?」
「まあまあだな」
「そうか……私ももらってもいいか?」
「持って来たのはお前だろ。好きにしろよ」
「うむ」
包み紙を開き、もしゃもしゃと食べる。
これはニンジャスレイヤーが居た世界で言う所のオーガニック素材のようなものを用いていて、思ったよりずっとおいしかった。
ニンジャスレイヤーは真顔でとらを見ながら言った。
「美味いな」
「だろ?」
その後、二人は道路のど真ん中で敷布をしいて座ったまま、黙々とハンバーガーを食べ続けるのだった。



【紅煉@うしおととら】死亡
残り58名



【G-2/早朝】
【とら@うしおととら】
[状態]:激しい消耗、若干の空虚感
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:
1:流に会う。
※37話で淡路島沖で浮いているところ(霊体真由子と会う前)からの参戦。

【ニンジャスレイヤー@ニンジャスレイヤー フロムアニメイション】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品(1~3)
[思考・行動]
基本方針:ダークニンジャ=サン殺すべし。
1:ダークニンジャ=サン殺すべし。
2:三日月・オーガスとオルガ・イツカを見つけた場合はビスケット=サンが探していたことを教える。

※紅蓮の支給品は雷の直撃を受けビルの瓦礫に埋もれました。


【F-5/早朝】
【ビスケット・グリフォン@機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式、妖刀ベッピン、レポート『納鳴村考察 著神山晴臣』、そこらで拝借した双眼鏡
[思考・行動]
基本方針:仲間と一緒に帰る。
1:オルガと三日月の捜索。
2:ニンジャスレイヤーさんはきっと良い人。
3:ダークニンジャ、二匹の黒と金の怪獣、らぶぽん(発狂してると思ってる)、らぶぽんが狙撃を受けた地域(F-3)に警戒。
[その他]
※参戦時期は地球圏降下後~オルガと対立前。

【E-4/早朝】
【らぶぽん @迷家-マヨイガ-】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式(不明支給品1~3含む)×2
[思考・行動]
基本方針:
1:死にたくない。
2:どうしよう。

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022:女神のもとにアンデッドは集う 紅煉 GAME OVER
007:まっくら森の歌 とら :
018:ノー・サツバツ・ノーライフ ニンジャスレイヤー :
018:ノー・サツバツ・ノーライフ ビスケット・グリフォン 057:好意には友愛を、敵意には報いを
017:戦う意思 らぶぽん 055:TATARI

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最終更新:2017年02月07日 13:40