まっくら森の歌 ◆L5mMuLNUiM
蒼月潮は人間である。
正義感が強く、嘘が嫌いで曲った事が大嫌いな、気持ちの良いぐらい真っ直ぐな少年である。
だが今の潮からはそんな雰囲気は微塵も感じられない。
まるで全てをなくして絶望にうちひしがれているようだ。
事実その通りである。
潮にはこれまで共に戦ってきた相棒がいた。
とらと獣の槍。
いつも悪態を突きながらも背中を預けて共に戦ってきた妖怪とら。
いつも潮の危機に駆け付けて共に敵を倒してきた獣の槍。
一人の妖怪と一本の槍と共に潮はこれまで数え切れない戦いを潜り抜けてきた。
だが今の潮の傍らにはそのどちらもいない。
とらとは自らの意思で決別した。
獣の槍は自らの目の前で砕け散った。
潮は光も届かぬ暗い森の中で一人きりだった。
潮がここに来る前に覚えている最後の光景は目の前に迫りくる白面の者の尾。
巨大な白い尾によって海中に叩きつけられたのが潮の覚えている最後の記憶だった。
そして突然始まった見知った光覇明宗の僧侶による蠱毒の儀式。
そこで灰原と呼ばれた少女が黒炎に襲われるのを見るや否や思わずいつものように槍を呼んでいた。
だが潮の呼び声に反して槍が来る気配は微塵もなかった。
ただ単に槍はもうどこにもないという事実を改めて突き付けられるだけだった。
幸いにも少女は鏢によって助けられたが、その鏢は直後に首輪の爆破により死んでしまった。
また一人自分と関わりのある者がいなくなるという事実は潮にさらなる絶望を与えていた。
この森の中に放り出された時も一縷の望みを抱いてデイパックに槍が入っていないか探ってみた。
もちろんそんな都合の良い出来事などあるはずがなく、その淡い希望はあっさりと打ち砕かれた。
だがデイパックを探った結果、五十音順で並べられた
参加者名簿の最初の辺りを見た時、潮に微かな希望が宿った。
秋葉流。
光覇明宗に属する味方……だった者。
潮にとって頼れる兄貴分のような存在だった流は白面の者との最終決戦の直前に潮と敵対してきた。
何か事情があるのだと考えた潮は信頼するとらに流の事を任せたが、突き付けられた結末は最悪なものだった。
あろうことかとらは笑いながら流を殺したと潮に告げたのだ。
それがとらと決別した原因だったが、どういう訳かその流の名前が名簿に載っていた。
その時潮の脳裏に先程光覇明宗の僧侶が言っていた言葉が頭に浮かんだ。
――「どんな願いをも、と言われても信用は出来ないだろうが、正しくどんな願いも叶えるとここに誓おう」
――「大金、死者の蘇生、憎き相手の殺害、恋愛の成就」
――「貴様らが思いつくであろう全てを叶える用意が我等にはある」
――「信憑性を増す為に、と言うわけではないが貴様らの中には死から蘇った者も存在しているとだけ伝えておこう」
つまりこの言葉通りならとらに殺された流は生き返った事になる。
それが嘘か本当かは定かではないが、今の潮にとってはどうでも良かった。
全てを失った潮にとって流の存在はさながら地獄に垂らされた一本の蜘蛛の糸。
潮はそれに縋りつくために森の中を宛てもなく突き進むのだった。
【B-6森の中/深夜】
【蒼月潮@うしおととら】
[状態]:健康、絶望
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品(獣の槍ではない)
[思考・行動]
基本方針:
1:流兄ちゃんに会いたい。
※33話で獣の槍が砕け散って海中に沈んだところからの参戦。
※『秋葉流』の名前以外は確認していません。
※ ※ ※
とらは妖怪である。
虎のような金色の毛並みを持った雷と炎を自在に操る威風堂々たる大妖怪である。
だが今のとらからはそのような雰囲気はあまり感じ取れない。
まるで何か大切なものを欠けてしまったかのようだ。
具体的なことはとらにも分からない。
ただ胸にポッカリと穴が空いてそこが無性に空虚でならなかった。
それは白面の者に敗れた際に負った傷だったが、今は何故か塞がっていた。
とは言うものの、目に見えない穴は依然として空いたままの気がする。
そこでふと一人の男を思い出した。
そいつも似たような事を言っていた。
秋葉流。
とらが本気で戦って殺して潮と決別する原因となった人物。
その流がなぜかこの儀式に参加していた。
光覇明宗の僧侶は生き返らせたとか言っていたが、本当かどうか疑わしい。
自分の他にどんな奴がこの儀式に参加しているか気になって名簿を見て秋葉流の名前を見つけた時は軽く驚いた。
そして会ってみるのも一興かと思った。
今のこの胸の空虚さの答えを知っている気がしたから。
【G-1/深夜】
【とら@うしおととら】
[状態]:健康、若干の空虚感
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:
1:流に会う。
※37話で淡路島沖で浮いているところ(霊体真由子と会う前)からの参戦。
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最終更新:2016年08月20日 10:46