猫も喋らずば撃たれまい ◆TZPqdDKm/g


スピードスターこと颯斗は光宗を探すために駆けていた。
生殺与奪を一方的に握られ、多数の人間を強制的に殺し合わせる悪夢のようなゲーム。
なぜダーハラがこんな狂気の沙汰に走ったのかは分からないが
この殺し合いゲームに光宗が参加させられている、それだけが颯斗の心を大きく揺さぶられた。

光宗はお人好しで女に免疫が無い。
もし真咲のような色香を使って惑わす淫売が現れればうっかり利用されてしまうに違いない。
その真咲に関しては殺し合いに参加させられていないようだが、あのビチグソがどうなろうとどうでもいい。
颯斗がやるべき事は一刻も早く光宗を探して保護する事なのだ。



光宗の事を思うだけで胸が苦しくなる。

光宗の声が好きだ。俺の名を呼ぶその声はまるでご主人に甘える子犬のようで愛らしい。

光宗の表情が好きだ。幼い少年のような眩しい笑顔、保護欲を刺激される悲しい顔、弱弱しくも必死に前を進もうとする真っ直ぐな瞳。

そして光宗の心が好きだ。俺の言葉を疑わず信じる純粋な心が、ちょっとした悪意で壊れてしまいそうな儚い心が。

俺が光宗だけを想っているように、光宗もまた俺だけを想い、俺だけに支えられて生きてきたんだ。

光宗だけは誰にも渡さない、光宗さえいれば他には何もいらない。

金も地位も家族も世界も、光宗の為なら全て捨てて見せる。

二人だけの居場所を奪う奴は誰だろうと殺してやる。

その頃――

『黙ってても仕方ねえ。年長者としてここは俺がしっかり纏めていかねえとな』
「この猫……!また俺の考えてる事を……はぁ」

このまま沈黙しても何の好転にもならないと頭を切り変えたヴァルカナは。
まず自分から情報を、リネットに話す事にした。

ダーハラは『第一回人生やり直しツアー』の主催した人間であること。
自分を含め知り合いはそのツアーの参加者であること。
目的地である納鳴村では謎の化け物が現れること。
光宗、ナンコは比較的、大人しい性格であるが
スピードスター、美影、らぶぽんは目的の為に他者に危害を加えるような過激な行動も辞さないこと等。

それらの情報を教える代わりにリネットの知っている情報を聞き出そうとした時。

「そこにいるのはヴァルカナか!?」
「お前は……スピードスター!!」

二人の目の前にヴァルカナの知り合いの一人であるスピードスターが姿を現した。
彼の手には支給品であろうショットガンが握られている。

「なあヴァルカナ、光宗を見なかったか?」
「いや、見てないが」
「そうか。じゃあな」
「おい、まて!!」
「なんだ?」
「『なんだ?』じゃないだろ!!こんな状況だからこそ、集団で行動するべきだろ!!」
『はぁ、邪魔だなこいつ。相変わらず無駄に吠えてうっとおしい』
「……!?猫がしゃべ」
「お前……俺に対してそんな事を考えてたのか!!」

先ほどのやりとりでヴァルカナは何となく、この猫の特性を理解できた。
どうやら他人の心の中を読んで喋る猫らしいと。

「あ、あの……私も協力しますから一緒に光宗さんを探しませんか?」

リネットは二人を仲裁するべく捜索の協力を申し出た。
そうすることで自分の探し人も見つかりやすくなり
誰にとっても良い状況になると考えたからである。

「必要無い」
「……っ!」

初対面であり、恨みを買う様な事をしていないはずなのに
なぜそこまで憎しみに満ちた敵意を向けられたのか。
理解できず、言葉に詰まるリネットを庇うようにヴァルカナは吠えた。

「おいスピードスター!!その態度は無いだろ!!リネットだってお前の為を考えて……」
「……余計なお世話だ!」
『そうやって優しそうな素振りを見せて油断させてから、俺の光宗を奪う気だろ!!このホルスタイン糞ビッチめ!!』

一瞬、時間が停止した。
ような気がするほどにその場が凍り付いた。

『せっかく淫売真咲の呪縛から解放されたんだ。これ以上俺の大切な光宗が他のアバズレ共に汚されてたまるか』
「俺の光宗って……スピードスター、お前もしかして」
「くっ……黙れ……」
『こいつホモじゃねえか!!』
「黙れえええええええ!!この糞猫があああああああああああ!!!!」
『殺してやる!!いますぐこの猫を殺してやる!!』

スピードスターは手に持っていたショットガンをエスパーにゃんこに向けた。
本気の殺意を読みとったエスパーにゃんこは悲しそうな表情で逃げ出した。
逃がすまいとスピードスターがエスパーにゃんこの背後に狙いを付けた時
ヴァルカナがショットガンを掴んで抑え込んだ。

「離せヴァルカナ!!」
「いい加減にしろ!ただの猫相手に熱くなってんじゃねえ!」
「何言ってる!?喋る猫がただの猫な訳無いだろ!!」
「それはそうだが、少なくても敵意とか悪意とかは無かっただろ」
「仮にそれが無かったとしても無意識の内に害を成す存在かもしれない。それなら今!!」
「そんな曖昧な理由で殺生は俺が認めねえ!!」
「ごめんなさい……私、あの子が心配です!」

二人が言い争っている内にリネットはエスパーにゃんこを追って行ってしまった。
去り際のエスパーにゃんこの悲しげな表情を見てリネットは放っておく事が出来なかった。
しまった、スピードスターと揉めてる内に、まだリネットからロクに情報を引き出していない。
自分の失態による無念と後悔の思いがヴァルカナの胸中に包まれた。

「いい加減、手を離せ!俺は光宗の捜索で忙しいんだ」
「なっ……おい待てよ!!」

ヴァルカナの手を振り切ったスピードスターは光宗を探しにさっさと移動していった。
リネットはエスパーにゃんこの逃げた方向へ走って追いかけて行った。
一人残されたヴァルカナ、一体何をどこで間違えたのか?
イライラしながらも必死に思考を張り巡らす。

リネットは如何にも非力な少女だ。
一人だけで猫を探すなんてあまりにも危険、早急に保護しなきゃならねえ。

だがスピードスターも放って置くわけにはいかねえ。
今のあいつの異常さ、誰かが見てやらねえとその内、人を殺しかねない危うさがある。

どっちだ?どっちを優先するべきだ?
迷ってる暇はねえ、考えるのに時間をかけ過ぎると両方とも見失ってしまう。
即決で決めなければ、だがどっちだ?どっちが正解なんだ?

「ああああああッッッ!!なんでこうなるんだぁぁ!!」

【E-1/深夜】
【リネット・ビショップ@ストライクウィッチーズ】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーPPK@ストライクウィッチーズ、聖グロリアーナ女学院のパンツァージャケット@ガールズ&パンツァー
[道具]:支給品一式、エスパーにゃんこ@おそ松さん
[思考・行動]
基本方針:501の皆と合流して殺し合いに巻き込まれた人を助ける
1:二人には悪いけど猫さんを放っておけない。
2:芳佳ちゃん、サーニャちゃん、エイラちゃんを探しながらも、民間の人は保護する。
※ディパックが見た目をはるかに超える容量を収納できることに気付いていません。その為に、エスパーにゃんこをディパックに収納せずに外に出して連れ歩くつもりでいます。

【ヴァルカナ@迷家-マヨイガ-】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3(武器はあるらしいがまだ見せていない)
[思考・行動]
基本方針:誰が殺し合いなんかするか
1:リネットとスピードスター、どっちを優先すればいいんだ!?
2:リネット・ビショップから知っている限りの情報を聞き出す。
3:スピードスターを警戒。

ヴァルカナ達から離れたスピードスターはもう一つの支給品を手に取りながら移動を開始した。
スピードスターにとってヴァルカナ達との遭遇は偶然では無い。
彼の支給品である首輪探知機によって同エリア内の参加者の位置を把握していたのだ。
つまりE-1エリア内にいるヴァルカナとリネットは先に発見しており
光宗はこのエリアにいない事も知っていた。

それでもなお接触を図ったのは、もしかしたら光宗はこのエリアから出た後であり
その情報を二人が知っていたかもしれない。
そんな思いがけない情報が入っている僅かな可能性も踏んで入念に捜索したからである。
結果として、想定した通り二人は光宗の居場所を知らなかったのでこれ以上の介入は不可能だと判断した。

首輪探知機がある以上、手に負えない危険人物は避けて動けるし
一般人ぐらいならショットガンで十分対処できる。
二人の力など必要は無い。

「待ってろよ光宗。お前は俺だけを頼っていればいいんだ……お前に真咲は必要無い」

独占欲に餓えた狂人は夜道を歩み続ける。
あまりにも大切で愛しい男の顔を思い浮かべながら。

【スピードスター@迷家-マヨイガ-】
[状態]:健康
[装備]:レミントンM870
[道具]:支給品一式、首輪探知機
[思考・行動]
基本方針:光宗を保護する。邪魔する奴は誰だろうと殺す。
1:首輪探知機を使い、光宗を探しだす。


【レミントンM870@現実】
スピードスターに支給。
アメリカのレミントン・アームズ社がM31の後継として開発したポンプアクション式散弾銃。
初代バイオハザードで使われたショットガンである。


【首輪探知機@オリジナル】
スピードスターに支給。
使用したエリア内にいる参加者の位置を示す機械。
表示されるのは生存者のみ。

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010:ズボン見られるも他生の縁 リネット・ビショップ 041:漆黒の殺人者
010:ズボン見られるも他生の縁 ヴァルカナ 041:漆黒の殺人者
GAMESTART スピードスター 033:Resolusion

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最終更新:2016年08月26日 12:12