e-6エリアにて。再び、血の海が広がっていた。
倒れているのは織斑一夏で、右の眼を指弾で撃ち抜かれてあっけなく死んだ。気絶していることもあり、痛みどころか死んだかも幸か不幸か分かっていないだろう。
『ジョーカー』音無結弦は、言葉を雑音のようにしか発しない。というよりも、彼の起源『献身』を開き、更に立華奏以外全てへの感情や罪悪の概念、更には自我や理性さえも失うように自ら力を使った。
代償と引き替えに、音無が手に入れたのは二つ。
まずは、愛する奏以外全てを容赦なく殺害できる殺戮機械になったこと。
そして、徐々に進化していく魔術の力。
元より人間には魔術の臨界点にある程度の線がある。荒耶やその旧友の蒼崎燈子のように生きたまま封印指定されるほどの素質が無ければ越えられないある程度の線。
どうしても越えられない線は、自分の起源を知り起源覚醒者となることで人間としての常識と引き替えに越えることは一応可能だ。
荒耶はかつて一人の少女を手にするために三人の覚醒者を用意したが、全て打ち破られてしまった。しかし音無は自ら起源覚醒者の線を越えて怪物となりつつある。
線を常に更新し、力は増していく。
彼はどこまで踊らせられ続けるのか。
何もかも、きっと彼の全てが荒耶のサンプルでしかないというのに。
◆
ダァン
音無結弦の背中に、一つの銃創が生まれた。背後には拳銃を構えて、どこか物悲しそうな雰囲気の少年が立っていた。古河渚ーーーもういない恋人を優勝させるために全てを賭けた男、岡崎朋也。
音無はまったく堪えていない。それもそのはず、彼はありとあらゆる感情を消し去って『痛み』を失い、起源の『献身』の覚醒により自らの生命力を跳ね上がらせたのだから。
音無の右の人差し指の先に、素粒子が集まって指弾を形成する。
速度は確かに早いが、弾丸に比べれば圧倒的に遅い。ぎりぎりのところで岡崎は指弾を避け、銃を構え直す。撃ち殺すために、殺意の引き金に指をかける。
二発目が発射され、右の腿に着弾する。
が、岡崎のミスは圧倒的な隙を生み、音無に攻撃のチャンスを与えてしまったこと。
光が無数に生まれ、全てが無慈悲に岡崎朋也の肉体を蹂躙した。
「う、があああああああっ!!」
胴体に幾つもの穴が開き、内臓を破壊し、即座に血を大量に奪っていく。
岡崎朋也は音無が去るのを見てから、ゆっくりと走馬燈を見るーーーーー。
【織斑一夏@IS】 死亡
【残り22/40人】
最終更新:2011年07月09日 10:37