26話 私って、ほんとバカ
市役所にやって来た西川のり子と細田英里佳は、馬と遭遇した。
「馬?」
「馬だね」
そう、馬である。どこからどう見ても馬。
茶色い身体を持ったそれなりに引き締まった身体の牡馬。
しかし首輪をはめデイパックも持っているので、
殺し合いの参加者の一人だと思われた。
「ウウ……ブルル」
牡馬はのり子達には気付いていないようで、
自分の腹にいきり立った己を何度も打ち付け快感に浸っている。
「あれ何してるんやろ…?」
「…あれは自分を慰めているのよ」
「え?」
「ええと…つまりね」
牡馬が何をしているのかのり子はいまいち理解出来ないが、英里佳は理解出来ていた。
それをのり子にどう説明するべきか、英里佳が困っていると。
「ヒヒィーーーーン!」
牡馬が大きく嘶き、
ビクッ! ビクッ! …
市役所の床に白く濁った液を大量に撒き散らした。
「うあ」
「何か出たで」
「……」
牡馬の絶頂を目の当たりにした二人は、反応は別々なものの注目する。
「ハァ…ハァ…」
息を荒げ余韻に浸る牡馬。
「……よぉ、お嬢さん方。オス馬がイク瞬間見て感想はどうだい」
「…!」
「しゃ、喋った!?」
牡馬が突然言葉を発し驚くのり子。のり子のいる世界に喋る馬は存在しないが、
英里佳のいる世界では特に珍しい事では無い。
「どうしてこんな所でそんな事してるんですか…?」
何気無く英里佳が牡馬に尋ねる。
馬が喋っている事に対して何も突っ込まないのかと、のり子が英里佳に驚きの視線を送る。
「…そうだな。いつ死ぬか分からないし、出せる時に出しておこうと思って。
そして…他にも理由はあって…それは」
牡馬が少し二人に歩み寄る。
先端の部分が大きく開き白い液をポタポタと垂らすポールを股間にぶら下げながら。
「君達を油断させるためだ」
ドスッ
牡馬がそう言った直後、英里佳は首の後ろに違和感を感じた。
そして、すぐに意識がブラックアウトし、二度と戻らなかった。
「えっ」
突然床に倒れた英里佳に目をやるのり子。
「どうしたんや、英里佳ねーちゃ……!?」
声を掛けた時、のり子は気付く。
英里佳の後頭部付近に、ボールペンが深々と突き刺さっているのを。
そこからドクドクと血が溢れ、血溜まりが出来る。
何が起きたのか分からないと言う洋表情のまま、英里佳の顔は固まっていた。
「う、うあああああああぁあああ!!!!?」
英里佳がどうなってしまったのか理解しのり子は悲鳴を上げた。
「俺はただの馬じゃなくてね。ちょっと、魔力的な感じで物を操れるんだよ。
俺がオナってるのを見せつけてる間に近くの机からボールペン浮かしてその子の頭の後ろに」
「何でや…」
「ん」
「何でや! 何で、何で殺したん!? 何で殺したんや! 英里佳ねーちゃんアンタに何かしたんか!!?」
牡馬に対してのり子が怒鳴る。
その目には涙が溢れていた。
「何でって……そういうゲームしてるんだろ、俺達」
のり子の怒りの問い掛けに対し、牡馬の返答はさも当然と言ったような素っ気無いものだった。
「許さへん!!」
のり子は持っていた小型自動拳銃コルトM1903を牡馬に向けようとした。
ドゴォ!!
「がっ」
しかしその前に牡馬が前足でのり子の胸を思い切り踏み付け床に叩き付けた。
その衝撃でコルトM1903はのり子の手から離れ床に転がってしまう。
「子供がそんな危ない物持ってんなよ」
「がああ、あ、いた、い、ぐ、ル、しい」
固い蹄の付いた馬の前足が容赦無くのり子の小さな身体を押し潰す。
凄まじい激痛と呼吸困難に、のり子の意識が霞む。
「…あの世に行く前に教えてやるよ。俺の名は加藤字佑輔」
「き……ぎゃ……ァ」
「祈っとけよ…自分が早く、生まれ変われるように」
字佑輔と名乗った牡馬が更に前足に力を込め、のり子の胸を潰そうとした。
ダァン!
一発の銃声が響いた。
「…?」
のり子の胸の圧迫感が無くなった。
直後、ドサッ、と、重い物が倒れる音が響く。
咳き込みながら、のり子は何事かと身体を起こした。
字佑輔が、茶色い牡馬が、頭から血を流して床に伏し、死んでいた。
「え…? え…!?」
突然の事に頭の理解が追い付かず困惑するのり子だったが周囲を見回し、
自分が持っていた小型拳銃を構えた見覚えのある男を発見した。
「じゅ、十三階段…? 十三階段やんか!!」
「……」
見覚えのある帽子、一丁羅、老け顔、眼鏡。
紛れも無くそれは殺し合いに呼ばれたのり子の知り合いの一人、売れない恐怖漫画家の男だった。
「無事やったんやな、良かった…」
「……」
「ほ、ほんまおおきに、まさか、お前に助けられるなんて思って無かったわ…げほっ、うう、痛い…」
「……」
「なあ、小鉄とか、見てないか? あれ、怪我してるやんか! 大丈夫か?」
「……」
「…十三階段、どうしたん、何か言って――――」
のり子の言葉はそこで止まる。なぜかって? その男が銃口を自分に向けたから。
ダァン!
のり子の額に小さな穴が空いた。
そのまま後ろに倒れ、のり子は先程の英里佳と同じように何が起きたのか分からないまま、逝った。
「……」
男――十三階段ベムはぼうっと、撃ち殺した知り合いの少女を見下ろす。
よく見れば先程撃ち殺した馬の他にももう一人、少女の死体がある。
「……わ…た…し……は」
十三階段の脳裏にこの殺し合いが始まってからの記憶が蘇り再生される。
最初に、知らないグラサンの男を殺した。
次に、知らない虎の頭を持った女を襲ったが逆に撃たれた。
どこをどうやってここに来たのか思い出せない。
その次に、馬を殺した。
その次に、
そのつぎに
――無事やったんやな、良かった…
――ほ、ほんまおおきに、まさか、お前に助けられるなんて思って無かったわ…
――なあ、小鉄とか、見てないか? あれ、怪我してるやんか! 大丈夫か?
「小鉄君達もいるみたいですけど…どうせ私の事なんて気にも留めないでしょうね…。
もう、お終いですね、もう……」
自分は最初そう言った。
だがどうだ?
その「私の事なんて気にも留めない」と思っていた子供達の内の一人の少女は、
自分の姿を見て安堵していた。
無事を喜んでくれた。
礼を言ってくれた。
怪我している事を心配してくれた。
自分の思い過ごしだったのだ。勘違いだったのだ。誤解だったのだ。
でも、
コ ロ シ タ
「――――私は、大馬鹿者だ」
男は、拳銃の銃口を咥えた。
【細田英里佳@オリキャラ:死亡】
【加藤字佑輔@オリキャラ:死亡】
【西川のり子@浦安鉄筋家族:死亡】
【十三階段ベム@浦安鉄筋家族:死亡】
【残り:31人】
最終更新:2011年07月01日 21:26