つい先ほど、大量の銃声が響いた。そして最後に『最初』に聞いた爆発音。
間違いなく誰かが殺された。
危険を承知の上で、紅莉栖はIMIマイクロウージーを片手に向かっていく。
音の先はネットカフェであった。窓が割られ、室内にも随所に銃創がある。最初に目についたのは二人の死体。桃色の髪の少女と、金髪の少年が、胴体を真っ赤にして死んでいた。
更にその先。ラボメンの橋田至の死体を発見した。
「嘘…橋田……?」
「誰か居るのか?…もしや、助手か!?」
その声は、紅莉栖が最も会いたかった青年の声であった。
岡部倫太郎。未来ガジェット研究所の所長である。
「倫太郎、その人が?…あ、僕はシャルロット、よろしくね」
「ああ、こいつが俺の助手だ」
「私は牧瀬紅莉栖です、よろしく……というより岡部。何があったの」
岡部は口を濁すこともなかった。
「みんな、殺されたよ。俺は、みんなを殺した奴を殺した」
ほら、と指を指すと、そこには喉笛に大きな穴を開けた男の死体があった。
首輪を意図的に起爆したのだろうか。
そして、紅莉栖は岡部たちの首に首輪がはめられていないことに気付く。
「…首輪を解除したの!?」
「解除したのはダルだ。…このUSBを端子に差してみろ」
紅莉栖は言われるままに首輪に突き刺すと、がしゃん、と音を立てて首輪が地に落ちる。感嘆の一言に尽きた。凄腕のハッカーだとは知っていたが、これほどとは思わなかった。
「…ところで、あんた達はこれからどうするつもりなの?私はあの男を倒す」
「俺も同感だ。あいつだけは絶対に許さない」
利害は一致した。
反撃の狼煙は今ここに上がる。
放送まで残り13分。
彼らの辿る未来は、彼らにも分からない。
◆【同刻】
もう、何もかもが分からない。
鹿目まどかを含む自分達魔法少女が何故救われないのかも。
何度時を繰り返したとしても、例えまどかが最強の超能力者と出会い最高の
スタートを切ったとしても、決して鹿目まどかは救われない。それは暁美ほむらが救われないことにも繋がる。
目の前の風景は次から次へと蹂躙されていく。
白髪の少年の背中から噴き出す漆黒の翼により、破壊されていく。
ほむらはふと自分のソウルジェムを見る。
もう、完全に濁っていた。直に魔女化が始まり、自分は目の前の少年に殺される。
それも、いいのかもしれない。もう時は繰り返せない。まどかは帰ってこない。
『駄目だよ、ほむらちゃん』
そんな声が、ほむらの中で響いた。
一方通行もまた、翼の動きを止めている。聞こえているのだろうか。
次の瞬間。暁美ほむらのソウルジェムの濁りが一瞬にして消え、一方通行の翼が何かに抱かれたように消滅し、一方通行を正気に戻した。もうまどかの声は聞こえない。ほむらにはその意味が理解できなかったが、一方通行だけはその意味を理解していた。
「(神……概念となった存在…チッ、そォいう事か)」
冷静さを取り戻した一方通行は、ほむらに背を向けて歩き出す。
ーーー決着は俺がつける。
嘗めた真似をしてくれた主催者を、一方通行は許さない。
そして、ほむらを含む全てを血みどろに救ってやるーーーーーーーーーー。
「待ちなさい、私も行くわ」
「悪りィが邪魔なだけだ。オマエも夢と希望の魔法少女っつゥならイイけどな」
「夢と希望はないけれど、私も魔法少女よ」
ハァ、と一方通行はため息を吐く。
いつからこの世界には魔法や天使なんてものが存在するようになったのか、と。
「ついて来い。死ぬンじゃねェぞ」
「こちらの台詞よ」
ーーーーー悲劇では終わらせない。
最終更新:2011年07月17日 00:24