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そして呪いは全てを蝕むのか?

D-3エリアを支配するものは、夜の暗闇とうっそうと茂る木々のみだ。
藤林杏は、支給されたM59ミリタリーを持ち、まだ見ぬ『何か』への警戒心を高めていた。彼女は何も特別な能力など持たない、ただの学生でしかない。
妹の椋が呼ばれていないことは幸いだったが、友人の岡崎朋也に春原陽平、そして『伊吹風子』ーーーー。知らない名前の筈だったが、どこか聞き覚えのある名前と、うっすら浮かぶ微かな思い出。

「(伊吹風子……?おかしいわね、こんな名前の奴は知らないはず…)」

自分の忘れていた記憶に若干の不安はあったが、岡崎と春原は殺し合いに乗るような奴ではないと杏はよく知っていた。春原はともかく、岡崎は簡単に死ぬような奴ではない。
勿論誰一人死んで欲しくはないし、死んでやる気も毛頭無い。
できることなら空手か何かの有段者と行動するのが望ましかったが、贅沢を言っていられる場合などではない。ひとまず誰でもいいから仲間が欲しかった。

武装しているのは、あくまで殺し合いに乗る気はないが、襲われたなら抵抗するくらいはやむを得ない。撃ち殺しはせずとも、少々の傷は覚悟してもらわなければならない。
銃を扱った経験など彼女は全く無い。
試射をして自分の居場所を曝すような失態だけは避けたかったし、逆に誤解を抱かせてしまうかもしれない。本番が来ないことをただ祈るのみだった。

「朋也……」

素行不良の二人の友人の内の一人の名を呟く。
藤林杏は、岡崎朋也が死ぬことだけは絶対にあってはいけないと考えていた。
彼には恋人がいる。病弱でどこか控えめな不思議系の少女。名を古河渚。
岡崎にしか渚を根本的な面で支えてやることは出来ない。
少なくとも、彼が死んで自分が生き残るようなことは絶対にあってはならないのだ。

つまり、藤林杏は致命的な矛盾を抱えていた。
「貴方は死にたくないのですか?」A.「死んでやる気はありません」
「貴方は殺し合いに乗るのですか?」A.「そんな茶番には乗りません」
「岡崎朋也をどう思いますか?」A.「彼を死なせることはしません」
「では彼を守るために他者を殺せますか」A.「そんなことはできません」
「では彼が死んでも構いませんか」A.「彼は死なせません」

明確な答えの無い永久の自問自答。
彼女の語る理想は夢物語なのかもしれない。
だが、確かにそこには正義が存在している。それが他の殺人者とは違う。
例えばこんな者達が居る。


世界から争いを無くす為に、千人の為に百人を殺した一人の男。
義父を追って正義の味方を志し、徐々に歪んでいった一人の少年。
理不尽な幻想を殺すために立ち上がり、特別な右手のみで戦うツンツン頭の少年。
誰よりも弱いが決して潰れない一人の『過負荷』。

彼らもまた、どこか人間としてはずれている『異端』。
だが、『異端』たちは止まらない。どんな壁を突きつけられても諦めない。
杏は彼らに少しだけ近付いた。それはある意味正義を越えた『セイギ』―――。
少女は夜の闇の中でゆっくりと非情な現実と向き合っていく。


『魔法少女』美樹さやかは、この殺し合いでは無い現実に絶望していた。
夢と希望の魔法少女。そんなものがあるというのは所詮下らない幻想だったのだから。
未熟ながらも『正義』を抱えた凛々しい姿はもう何処にもない。
片手に有るのは、人間としての肉体を犠牲にして手に入れた『力』による剣。
魔女を殺す為だけが仕事の彼女にとっては見慣れた無慈悲なその刀身。

「あたしは……」

もう人間ではない。不死となり、異常な力を手に入れた魔女狩りの化け物。
大切な幼なじみに抱きしめてもらうことも、こんな体じゃ出来ない。
絶望。
絶望は彼女の魂―――新たな命の源、ソウルジェムを黒く濁らせていく。
これが完全な漆黒に呑まれた時こそが、美樹さやかにとって正真証明の終わり。
『狩る』側から『狩られる』側に。
だが、さやかはもう根本的に終わってしまっていた。
彼女には、親友の言葉さえきっと届くことはもう無いだろう。

「皆……殺してやる…あたしの気持ちを……思い知らせてやる…!!」

剣を片手に、美樹さやかは駆け出す。
顔には狂気の笑顔を貼り付けて、まだ見ぬ獲物を狩るために、暗い森を走る。


「何こいつ……おかしいんじゃないの…?」

藤林杏が、美樹さやかという少女を見た時の正直な感想だった。
その明らかに狂いきった笑み。片手には剣。不気味に濁る宝石。
確かに、そう口にしてしまうのも当然といえば当然だ。しかし、杏は『頭が』おかしいとは言っていない。ただ『おかしい』と言った。それがさやかのコンプレックスを刺激するのは想像に難くない。

「あたしは…おかしくなんかない……殺す……」

杏を殺すために、増強された身体能力による斬撃が放たれる。
杏は思わず発砲した。弾はさやかの腹に吸い込まれ、赤い華を咲かせる。さやかはその場に倒れ込む。


血だまりが出来る。さやかはもうぴくりとも動かずに、倒れているだけ。
罪悪感。人を殺めるという罪を背負った重さはあまりにも大きすぎた。

「え……?ちょっと…起きなさいよ…」

だが、目の前の光景が変わることはない。
杏はその場にへたり込んでしまう。涙は流れなかった。心が事実を拒絶したから。

しかし、さやかはゆらり、と立ち上がる。
『癒し』の願いと引き替えに魔法少女となったさやかには二つの力が与えられている。
一つは痛覚の断絶。あらゆる痛みを消し去り、戦いを持続することが出来る。
もう一つは回復力。傷の治癒が自動的にある程度進む。
それが殺し合いにおいては、絶対的なアドバンテージとなる。

立ち上がれない杏の頭目がけて剣を振り上げるさやか。
その表情には悲しみなど無く、ただ狂った笑みが貼り付けてあるだけ。

しかし。救世主が、現れる。
ありとあらゆる女を誘惑する黒子に端正な顔立ち。両手には二本の槍。
『輝く貌』ディルムッド・オディナ。
ランサーのサーヴァントにして誇り高き戦士が、今ここに見参した。


「僭越ながらこのディルムッド・オディナ――――貴女に力を貸させてもらおう」
「っ…駄目よ。そいつ、何か色々出鱈目だから」

杏は知らない。ディルムッド・オディナという英霊の強さは目の前の少女の比ではないということを。しかも、彼の持つ槍はどちらもさやかの性質と最悪に相性が悪いと言うことも。
『破滅の紅薔薇』―――槍が触れている間だけいかなる魔術作用を打ち切れる槍。
『破滅の黄薔薇』―――相手にディルムッドか槍がある限り癒えない傷を与える槍。
どちらも美樹さやかにとっては最悪の槍としか言えない。それを知らずに、虚ろな瞳でさやかはディルムッドに剣を向ける。足元から数本の剣が現れ、彼に向かっていく。

「なかなか珍妙な魔術だ――――だが、未熟すぎるな」

二本の槍でいとも簡単に剣を振り払い、さやかにそう一瞥する。
ディルムッドはさやかが魔法少女であるということを知らない。だから、彼女の命の源はソウルジェムという宝石だと言うことも勿論知らない。
さやかはそれに安堵していた。魔法少女を知る者が相手なら苦しい。

さやかは次に、自らディルムッドに斬りかかっていく。尤も、それは通らない。
ディルムッドとの激しい打ち合いが繰り広げられるが、槍二本で防御と攻撃を分担してくる槍使いの方が何枚も上手と言わざるを得ない戦いだった。

「……苛々する…何なのよアンタ……死ね……殺…す………ッ!!」
「俺も騎士の王という存在を一人知っているがな」

ディルムッドは『破滅の黄薔薇』と『破滅の紅薔薇』を同時に構え直す。
さやかも身構えるが、彼女の対応速度では英霊には到底追いつくことなど叶わない。
『破滅の黄薔薇』がさやかの腹に突き刺さり、それは癒えない致命傷となる。
次に『破滅の紅薔薇』がさやかの太股に突き刺され、一瞬だが魔法効果が切れる。

「っ、あああああああああああああああああああああああああああっ!!」
「彼女に比べれば、お前は足りなすぎる」

癒えない傷を負わされ、一瞬だが全ての痛みを与えられたさやかは僅かに痙攣し失神。
失望したようにディルムッドはそれを一瞬見て、やがて杏の方に向き直った。


「お怪我はありませんか?」

杏はこくり、と頷く。ディルムッドは安堵したような微笑を浮かべたが杏は倒した少女の事を見ていた。
槍で刺された傷は二箇所あった筈だが、片方は既に治癒を始め、もう片方は一向に回復の始まる気配がない。実際、魔法少女であるさやかに死を与えるためにはソウルジェムを破壊するしかないのだが、ディルムッドも杏も魔法少女の概念については全く知らない。
杏にとっては、これだけの傷を負いながらも息を吐き続けるさやかが恐ろしく見えた。

「余計な情は捨てることです。その少女に与えた傷は『癒えない』――――後は、ただ死を待つだけとなる」
「……あんたは、何者なの?」
「ランサーのサーヴァント、ディルムッド・オディナ」

ランサー?サーヴァント?クエスチョンマークが頭の中をぐるぐる回る。
ディルムッドもまた『魔術を知らない者に話すべきではなかった』と反省していた。


「成る程、杏様は『岡崎朋也』という方を探しているのですね」

杏はディルムッドに、自分の知る全ての情報を打ち明けた。
この槍使いなら、朋也を守ってくれる。杏には確信できる自信があった。
ディルムッドの知る人物は、『衛宮切嗣』『イスカンダル』『サー・ランスロット』『セイバー』の四名らしい。セイバーだけは、確実に殺し合いはしないだろう、とディルムッドは語った。

「じゃあ、その『セイバー』って人を探せばいい訳ね」
「はい。ですが、只一人。絶対に近付いてはならない人物がいます」

彼は苦々しげな表情で名簿の『衛宮切嗣』を指差した。その険しい表情には、莫大な憎悪と嫌悪が見て取れるまでに現れている。
少し冴えないどこにでもいそうな男性ではないか、と杏は少し拍子抜けしてしまう。
見る限り、彼が知り合いと述べた『サー・ランスロット』は確かに危険そうだが。

「この男は手段を選びません。どんな手を使ってでも勝とうとする外道…!!」

ディルムッドに一度無念の敗北を味合わせた相手が、衛宮切嗣。
自己強制証文という手段でディルムッドのマスターを騙し、彼を自害させた。その後にももう一つ『悪』らしいことをしているのだが、彼はそれを知らない。

「私は衛宮切嗣に会ったなら、殺害してしまうでしょう」
「……分かったわ。その切嗣ってヤツは相当危険なヤツってことね」

先刻の少女を軽くいなしたディルムッドが危険と見なし、憎む男。
どれほどの邪悪なのかは想像もつかなかった。

「とりあえず、ここを離れましょう。流石に居心地が悪いわよ」
「一先ずは、我々と同じ思考を持つ者を探しましょうか」


二人が去った後に。一足遅れて『彼』は、D-3エリアへと足を踏み入れた。
上条当麻。ありとあらゆる異能の力を打ち消す右手を持つツンツン頭の学生である。
彼は怒りに身を震わせながら、静かに呟いた。

「……古戸ヱリカ……てめえが、どんな人間かなんて知らねえし、てめえがどんな人生を送り、どんな出会いをしてきたのかも俺には分からない」

だが、と上条は言い、怒りを押し殺した声で前を向き、毅然と言い放った。

「俺は、てめえを絶対に許さねえ」

彼が此処へ招かれる前に戦った人物ーーー参加者の一人、右方のフィアンマ。
フィアンマは核兵器を上回る『災害級』の大天使によって、世界を救おうとした。
勿論、それは理不尽な暴力と何も変わらない。古戸ヱリカの行う殺し合いよりもやっていることは悪いかもしれないくらいの暴挙だ。
それでも。そこには世界を救いたいという想いが確かにあった。
ヱリカには、それが無い。
あいつは、殺し合いを『喜劇』と称し、反抗した少女を無惨に殺害した。

上条当麻という一人のヒーローを本気にさせるには十分すぎるきっかけだ。

右拳を固く握り締めて、闘志を燃やす。今まで数多くの敵と戦ってきた。


上条がここまで怒りを覚えた敵は、後にも先にも古戸ヱリカだけだろう。

名簿には、『ステイル=マグヌス』『ヴェント』『フィアンマ』の名前がある。
ステイルが居るのは心強い。彼は若いが、やはり魔術師としてはとびっきり優秀だ。
問題は、後の二人。どちらも、上条が倒してきた相手である。

「(――――いや。きっとあいつらは殺し合いなんかしない)」

『神の右席』。ローマ正教20億人の信徒のトップの四人。
ヴェントは科学への復讐の為に。フィアンマは世界の救済の為に、敵対してきた。
その実力は圧倒的で、味方となればこれ以上心強い存在もいない。
彼らを信じよう。

「(………ん?)」

数メートル先に、誰かが倒れている。青色の髪に、露出の多い衣装。手には剣。
そしてその少女の胴体は、真っ赤に染まっていた。

「ッ!?―――おい、しっかり――――」

ピィィィン!!と、聞き慣れた音がした。
彼の右腕に宿る力『幻想殺し』。それが、何かを打ち消した音。
手は、少女の傷口の一つに当たっていた。血が止まり少しずつだが再生が始まる。

「…んん」
「(こいつ、まさか…)」

ヒーローと魔法少女が交差する時、物語は始まる―――!

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GAME START ディルムッド・オディナ [[]]
GAME START 美樹さやか [[]]
GAME START 上条当麻 [[]]
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最終更新:2011年08月28日 23:12
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