ブゥィィン、と機械が何かを切り裂く音がする。血が飛散して、その真ん中にはこげ茶色をした皮のついた肉片が転がっていた。
機械に設置された刃は回転しながら、火花を散らし、死体となったフリックスの骨を切断する。
その肉に、猟奇殺人犯ジャック・ザ・リッパーが喰らいつく。
何故、彼がこの行動をとった理由かは理由がある。
『捕食』――――捕食することによって能力のコピーする。そして、出血した分の血を補うことが出来る。
内臓辺りの破片を、切り落とすと口に放り投げる。肝臓、心臓、肺、十二指腸と言う順番に切り裂いては食す。
そして、気味の悪い笑い声を上げながら、人間解体ショーはまだ続く。
「てめぇは、コイツを殺したのか?」
「テメェは、強いのかァ?」
笑い声に気づいたかのように、一人の女性が物陰から現れる。彼女の金髪頭は、コンクリートに囲まれた空間では尚更、目立つ。
名前は、鈴木花子。凄く☆凡人の二つ名を持つ。残念な事に、凡人ではないから、二つ名がある訳である。
鈴木花子は、袖下に隠していた小型拳銃をスライドさせて、構える。
銃口は、切り裂きジャックの額へと向けられており、彼女が引き金を引けば脳幹を貫通し即死してしまう。
しかし、ジャック・ザ・リッパーは動揺もせずに、人肉を喰らいながら、挑発するかのように笑っている。
「黄肉――――さっさと失せねェと、テメェの腸ァぶち巻くぞ」
「さっさと答えねぇんなら、てめぇの眉間、真っ赤に染まるぞ」
殺しに慣れた殺人狂は、向けられた銃口に怯むことも無く、ナイフで首元を切り裂く。
常人なら無論、喉笛を切り開かれて、血が噴出して惨死してしまう。
――――それは、“常人”ならの話。
完全に切り裂くことは出来なかったのだ。回避されたせいか、浅く傷で銃口からは反射の如く銃弾が放たれる。
小口径の拳銃から放たれた銃弾は、肩を貫く。結果を指し示すかのように、遅れて銃声が響き渡った。
ジャック・ザ・リッパーの身体は肩から吹き出した血で、真っ赤に染まっている。
フリックスとの戦闘の際の血と遺体を解体した際の血と合わせるとかなりの量。
悲鳴を上げるほどの痛みがあるはずだが、エネルギーとして変換させられている。
――――他人の血なら、失血死することは無い。
圧倒的に不利な状況あるのに、笑っている。獣の如く、血に餓えた獣の如く。
何故なら、彼はフリックスの能力をコピーしているからだ。
それが、彼が油断する理由。
だが、鈴木花子も行動の理由に気づいていた。
だからこそ、二発目は発砲しなかった。
しかし、何も手を打たないわけではない。
――――だから、トラップを仕掛けたわけだ。
彼は、何かを踏んだ。
線。長い鉄線。
爆音と共に、コンクリートの床が振動する。
砂煙が舞うと同時に、ジャック・ザ・リッパーはその中へと消える。
「1,6キロの鉄球700個が、てめぇの身体をディズニーアニメのチーズみたいに穴だらけに……」
違和感を感じて、鈴木は拳銃を構える。
嫌な予感はし、鈴木に向かって二本のナイフが投げられた。
砂煙が、止むと同時に現れたのは、大量のナイフを持った、切り裂きジャック。
そして、クレイモアによる傷も、腹部に出来たものと、こめかみのかすり傷などの七箇所のみ。
致命傷にすらなっていない。
そこには、死体ではなく、ナイフの山が築かれている。
彼に向かって飛んできた、鉄球をナイフに変えた。
彼の能力と、身体能力によって。
常人なら、人の原形は留めていないはず――――
――――それは、“常人”ならの話。
「痛ェじゃねェか……痛くて強くなっちまいそうだァ!!!」
……最早、鈴木花子に勝ち目は無かった。
自らの腹部にも、クレイモアの鉄球は貫いていたからだ。
しかし、何度もワルサーPPKの引き金を引く。三発の銃弾が、パンという銃声と共に放たれる。
だが、被弾しない。クレイモアによる、傷から意識が朦朧とし、狙いが定まらないからである。
腕に一発は被弾した。しかし、即死することは無く、逆にエネルギーとして変換された。
引き金をもう一度引く。だが、銃弾は発射されない。
二発残っていたが、弾詰まりし、銃弾は発射されなかった。
それと同時に、彼女は膝から崩れ落ちる。
「テメェの能力は、『物体の転送』だろォ?」
少なくとも戦闘が始まった時点では、仕掛けられては無かった。
だからと言って、戦闘の最中に仕掛けたとは考えられない。
となると、鈴木花子も能力者と考えたのだろう。それが、狂っているなりにも考えた、一つの答え。
彼の答えは正解。
『物体の転送』。視界に入った空間に、物を配置することが出来る。
罠を仕掛けることは彼女にとって得意分野ということだ。
「狂っているからって、俺を見下していたんだろ? まったく雑魚は馬鹿ばかりで困る」
見下していないと、反論するとそれは嘘になる。
ただ狂っているだけの殺人鬼。そして、恐怖というものが消えていたのだと考えていた。
狂っているだけではない。獣の如く残忍な殺人鬼。
そう、後悔した、
その瞬間に
パンと、
その瞬間。
銃声がその瞬間、鳴った。
黒いテンガロンハットを被り、髪を束ねたウェスタン風の青年。
金髪で青い目をした西部開拓時代のガンマンを思わせる格好をした青年。
銃は持っていなかったが、ジャック・ザ・リッパーの手を的確に射抜いた。
つまり――――『異能力者』――――常人ではないことは確定する。
「俺様の名前は、ビリー・ザ・キッド。女を殺す奴は誰であろうと俺の敵だぜ」
「くだれねェなァ……パツキン、テメェは強ェのかァ?」
回答することはなく、二発目の銃声と共に、空気を変形させた銃弾は切り裂きジャックの頬を掠める。
怯むことなく、青年の被ったテンガロンハットを切り裂き、皮の一部がひらひらと舞う。
青年は、名残惜しそうにテンガロンハットを脱ぐと、それを床に投げ捨てる。
「あーあ、俺様のお気に入りだったのによぉ……もういいぜ。オメー、ぶっ殺す」
◇
大量のナイフの破片や、飛散した血によって工場は汚らしく埋め尽くされている。
息の上がる声が聞こえているが、最早、どちらの物かさえ分からない。
黒いテンガロンハットは、ビリビリに引き裂かれ、『空気銃』により穴だらけになっている。
ほぼ互角の勝負に見えた。
強いて、負けているといえば深手を負っている、ジャック・ザ・リッパーの方だと言える。
「あーあー、神様に祈るしかねーぜ。こりゃ」
「ハッ、雑魚は神様が大好きみてェだなァァァァ!!!!」
しかし、
「バーロー……オメーのことだ」
そう、喋った瞬間に、
ジャック・ザ・リッパーの所持していた、ナイフはビスケットのように脆く崩れ落ちた。
彼は、その破片を、ナイフに変えて首筋を狙ったが、傷をつけることすら出来ず、ナイフがバラバラに分解する。
ただ、それを信じれなかった。
「空気の塊は皮膚ならどこからでも撃てるんだぜ。つまり、オメーの能力が、打撃攻撃である限り、俺様を殺せねーんだよ」
言い終わると同時に、近距離から“空気の銃弾”をジャック・ザ・リッパーの胸部に撃った。
今度こそ、笑うことは無く、呆気にとられたかのような顔をして、地面に倒れる。
意識はあった。『返り血』によりエネルギーに変化されたが、出血量は体力を著しく奪う。
「ふざけんな……ふざけんじゃねェぞ!!!! クソがぁああああああああ!!!!」
彼は、自分の首筋を切った。
ジャック・ザ・リッパーは、首筋を切った。
ナイフの破片で切った。
失血死することも恐れずに。
頚動脈を切った。
血が吹き出している。
切り裂きジャックは頚動脈を切った。
切った。切った。
血が出ている。
血が出ている。
血を浴びている。
「……ギィィヤヤァァァアァァァアアアガアアアアアア!!!!!」
「オメー正気か!?」
答えは返ってこずに、目に留まらぬスピードで、ビリー・ザ・キッドの首筋へ刃を向ける。
答えることは出来ないからだ。叫び声も、言葉にはなっていない。
大量の血が噴出しているため、知能を初めとするの体の機能は低下し、パワーに変換されている。
しかし、反応が止まった。
首輪の警告音を聞いて、異常を察したのだろう。狂っていても、戦わずに死ぬのは怖い。
「――――――――――――!?」
ピ―――――――――――プスン
首輪は破裂することが無く、白い煙のような物質が噴射されて、切り裂きジャックを覆う。
急激な攻撃力の上昇は、ルールに違反する。
そのため、主催者からの特別措置が取られたというわけだ。
「おい……大丈夫か?」
「ああ、俺様のほうは心配ねーが……あの狂人はどうなったんだ?」
「分からねぇけど、アンタがアタシを救ってくれなかったら死んでいた……ありがとうな」
「へッ、礼には及ばねーぜ」
【ジャック・ザ・リッパー 生死不明】】
【第一回放送まで あと ?人】
【一日目/深夜/D-3・工場】
【ビリー・ザ・キッド@精霊】
[状態]健康、疲労(大)、嬉しい
[装備]なし
[道具]基本支給品、戦利支給品×0~3
[思考]
基本:女と子供は殺さない
1:……アイツは、どうなったんだ?
※ジャック・ザ・リッパーの容姿、能力を記憶しました。
【鈴木花子@二つ名キャラ】
[状態]健康、疲労(大)、腹部に傷(出血 大) 喉に切り傷(浅い)
[装備]ワルサーPPK(弾詰まり)
[道具]基本支給品、戦利支給品×0~1
[思考]
基本:殺し合いには乗るつもりは無い
1:……助かったのか?
※クレイモアにより、工場の一部は壊れています
鈴木花子
「凄く☆凡人」の二つ名を持つ不良少女。金髪だが、普通であることにこだわる。
能力は、物体の転送で、触れている物体を視界に入った空間に転送できる。
最終更新:2012年04月04日 10:54