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悲しみを超えてなお

23 悲しみを超えてなお


「――――何故、ここにいるんと」

改造された、と言うよりは破かれたような服を着た男――――風大左衛門は一人住宅街に立ちつくしていた。
先ほどまでタケシとともに赤くなっている空を見ていた。
ガンツのミッションも終了し、終わったのかと思えばそうではなかった。
そして彼は最悪の事に気づく。

「タケシ、タケシは――――どこにおるんじゃ」

タケシ、と言われた少年。
風がガンツでのミッションでヒーロー「きんにくライダー」と間違えられた事が始めだった。
最初はただ子供だから守らないとくらいしか思っていなかった。
だが、タケシの生前の状況を聞き、風はいても立ってもいられなくなった。
自分が守らなくてはいけない。
タケシを守るため風は、己を犠牲にしていった。
そして、風がタケシの事が己にとって大事だと気付いたのは大阪でのミッションの時だった。
齢一桁のタケシが、風の戦いを真似て戦っていたのだ。
それ以来、風はタケシのために戦うことを決めた。

「転送で、離れ離れになったのか――――いや、転送とは違った感覚だった」

転送にしろ、ガンツでの戦いは終わったはずだ。
あんな形で終わったのかと言われれば謎ではある。

「まさか、ガンツとは無関係なのか――――?」

先ほどまであった事を思い返す。
安心院と言ったあの女、そして人を生き返らせる力があると言っていた。
原理は分からないが、その力とはガンツのことであろうので無関係ではないはずだ。
だが、それではこの殺し合いの意味が分からない。
今までは星人を殺していくという形だったはずだ。
ガンツメンバー以外が全員星人で殺せばまた元に戻るのだろうか。
どんどん根拠のない回答が生まれてくるが、結果的には何も分かっていない。
今わかっているのは、自分の傍にタケシがいないという事だけだ。

「……とりあえず、探すしかん……無事でいてくれ、タケシ――――!」

そして彼は落ち着いて周りを見る。
自分の知っている町ではないようだ。
それはそうであろう、ガンツとは違うのだから。
東京や大阪でやるのではない。

「――――誰か、人がいれば変わるんやけどな」

周りには、人っ子一人いない。
今までは敵を倒せばよかっただけだったのだが今回はそうともいかない。
誰か人と協力をしなくてはいけない。

「せめて、知り合いがいればよかんやけどな……」

玄野や加藤、死んでしまったが鈴木さんみたいな仲間がいれば心強い。
タケシを助けるためにもこの殺し合いは何としてでも潰さなくてはいけない。
そのためには、自分だけではやはり足りる気はしない。
まずこの首輪……これを解除しなくてはならない。
自分にそんな技術は一切と言っていいほど無いのだ。
この殺し合いを動かしている人間と接触しようが、首輪を爆破されれば意味はなくなる。
これが無くなりさえすれば、戦って勝てる可能性はある。

「そうは言っても仕方なかんと……誰か仲間になってくれる人を探すばい」

ここは市街地である。
どこかに人がいてもおかしくは無い。
少しでも早く仲間を探さなくてはならない。
そしてなによりもタケシがここにいるならば、真っ先に保護をしなくてはならない。

「――――急いで、誰かば探しゃないかんな」

あても何もないが、動かなくては何も始まらない。
心の奥に少しばかり焦りを感じながら、重い足を動かし始めた。


○ ○ ○ ○ ○


とある民家の中――――。
一人、いや……一匹の狼はベッドで眠っている女性を目の前にしていた。
二度と動かないとは知りながらも。

「なぁ、葉月――――覚えているか?」
「俺が葉月にあった最初の時のことをさ」
「2年前、俺がどうしようもなくて死にそうだったとき、葉月が助けてくれてさ」
「でも――――元気になった俺は、葉月を犯したんだよな」
「今から考えてみれば、おかしなことやってると思ったけど……アレがあったから今があるんだよな」
「まったく……笑えるよな」
「本当に、どうしようもない俺みたいなのを好きになってくれた葉月には感謝してもしきれないよ」
「なのにさ、俺は……どうしてこうも駄目なんだろうな」

彼、レックスの眼には既に涙がたまっていた。
今にも崩壊して涙を流して倒れそうな彼の声にも、女性は応えない。
いや、応える事ができないのだ。
二度とは動かないから――――死んでしまっているから。

「なぁ、葉月――――どうして、こうなっちまったんだろうな」
「――――いや、すべて俺のせいだよな。 俺が早く来ていればこうはならなかったんだ」
「なぁ、俺はどうするべきだと思う……?」
「この殺し合いに優勝して葉月を生き返らせて、絶対に葉月は喜ばないのは分かっている」
「でも、俺には葉月がいないとダメなんだ」
「…………本当に、どうすればいいんだよ、畜生ぉぉおおオオオ!!」

苛立ちのあまり右前脚を壁にたたきつける。
ただ虚しくドンッ、と言う音だけ響き、消えていく。
そしてまた沈黙が部屋の中を支配する。


「…………みぃつけた」


その支配を破ったのは――――たった一人の女だった。


○  ○  ○  ○  ○


「……あれ?」

市街地の中に一人の少女は立っていた。
先ほどまでいた場所と全然違っていたのだから。
彼女、我妻由乃は天野雪輝を突き落としてゲームの優勝者と宣告された。
そしてそれで終わるはずだったのだ。
だが、これはどういう事なのだろうか。

「…………ああ、思い出した……殺し合い、そう……殺し合い」

少しづつではあったが、由乃の声から明るさが消えていく。
彼女にとって思い出したくない事実を思い出したためであろうか。

「――――ふざけるのも大概にしろ、あの女……このままじゃあまたユッキーと過ごせないじゃない」

彼女は、一度世界の神となった。
だが彼女は世界を守る事はせず、最愛の男を追いかけるために別の世界線に移った。
そしてそこの自分を殺し、なりかわった。
そしてまた戦い、生き残ったのが二人だけとなったころだ。
結局は変わらなかったのだ、最終的に一周目と同じになった。
だから彼女は最愛の男を殺した。
また最初からやり直そうと思ったのに、それは叶わぬ願いとなってしまうかもしれないのだ。

「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな……! 私はユッキーと幸せになるんだ……そのためなら、何だってする」

彼女は傍に落ちているデイバッグを拾った。
そして中に入っていた二つの物を見る。
一つは、彼女の日記「雪輝日記」だ。
天野雪輝について書かれている彼女の日記。
だが今の彼女にこれは必要ない。
逆に壊されて死ぬ可能性もあるため邪魔にしかならない。
そして二つ目――――彼女自身が少し前に使っていた斧だ。
最初は薪を割るために使って、最後はこれで雪輝を殺そうとした。
過程はどうだっていい、だがこれはれっきとした武器だ。
銃の方が良いものであるのは当然だが贅沢は言えない。
逆にはずれだけで無かった事に感謝するべきだ。

「――――ユッキー……待っててね」

彼女が言うユッキーがこの殺し合いにいる天野雪輝なのか。
それとも、違う天野雪輝なのか。
そんな事は言うまでもないであろう。

「――――――――!!」

と、そこで彼女は気づいた。
叫び声が少し離れた場所から聞こえてきたことに。
殺し合いに優勝するには、接触は必要である。
そう判断した我妻由乃はその方向に走り出した。


○   ○   ○   ○   ○


レックスはそこで自分の行いに後悔をした。
先ほど叫んだときに気付かれたのだと全然動かない頭でも理解した。
だが今更後悔しても遅い。
今はこの場を切り抜ける事を優先だ。
あの斧をもっているピンク髪の女から、なんとしてでも。

「――――狼?」
「それがどうした……」
「狼が喋ってる……? どういうこと?」
「……? 俺は妖狼だ、喋れるのは当然だ」
「妖狼……そんなものがいたのね――――でも、関係ない」

驚いた、妖狼がいないものだと思っていたやつがいるらしい。
でも、考えてみればそれも仕方ないのかもしれない。
俺がもともといたあの世界から葉月のいた世界に移動した事を考えると、世界はもっとあるのかもしれない。
その中の一つに、人間だけの世界があってもおかしくは無い。
人間だけとは言わなくとも、妖狼などがいない世界と考えればいい。
だが、考えてみれば今は関係ない。
彼女がどこの世界の人間であろうとも、殺し合いに乗っていることには変わりないのだ。

「……じゃあ、死ねッ!」
「ッ――――!」

何か会話でも入るのかと思ったらそんな事は無かった。
一瞬のうちに距離が縮まり目の前に少女がいた。
斧が脳天に振り下ろされ――――。

「っ、うおおおおっ!?」

見事に爪が斧を受け止めていた。
安堵すると共にもし受け止めきれなかったらを考えると恐ろしくなる。
斧を振り払い、窓から飛び出す。
多少危険かもしれなかったが、あんな狭い部屋で武器をもった奴と戦うよりはマシだ。
全力で走って振り切ろうとするが、後ろを見ると追いかけてきている。

「嘘だろ……速すぎるだろうあの子…………!」

普通の人間でない事はわかった。
だがあくまで「人間」の域だ。
速さで俺に追い付こうとするが、あまり距離は変わっていない。
このまま走って向こうのスタミナ切れを待つべきだろうか。
いや、向こうのスタミナの量が分かっていないのにそういう事をやると危険だ。
向こうが1時間ずっと走っても大丈夫な人間だったなら、確実に俺が追いつかれる。

「クソ、誰かいないのか……!」

そう思いながら十字路を右に曲がる。
するとそこの道の直線上――――1人の男がいた。
誰だかわからないが、救いの手だろう。
急いでその男のところに走る。

「おい、そこのアンタ!」
「ん――――!? お、狼が喋ってると……?」
「ちょっとヤバい事になってる……変な女が斧持って来てんだ、手伝ってくれ!」
「――――あの走ってきとる女じゃけん?」

後ろを見るとすでに女はこちらに来ていた。
多少疲れてはいるものの、スピードを全然落としていない。
どれだけ化物だと少し焦る。

「ここは俺にまかせちょきぃ……アンタは休んどくべきじゃけん」
「な、でもあいつは――――」
「大丈夫、あんな奴に負ける鍛え方はしとらん……行くばい」

そう言うと男は女を迎え撃つ。
斧による斬撃を綺麗に受け流し、拳を腹部に叩き込む。
女は少し吹っ飛ぶが、すぐに立ち上がる。
あの筋肉の塊のような男の攻撃も受けて倒れないのは、驚くとか言うレベルではない。

「邪魔をするなあああああああああああああああ!!」
「終わらせるばい……ッ――――!」

男は向かってくる女の攻撃を受け流そうとするが、失敗に終わる。
右腕にかなり深い傷を負ってしまった。
だが、男はその痛みも気にせず女の方を向く。
そして、何やら構えを取る。

「――――タケシ、力をくれ」

女が今度こそ命を刈ろうと飛びかかってくる。
それに対し男はただ冷静に自分の構えを解かない。
そして、男は渾身の技を解き放つ――――。

「るおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

女が持っていた斧は男には届かず、女は吹っ飛ばされる。
ドゴッ、と轟音を立てて市街地の壁に激突する。
そしてそのままピクリとも動かなくなっていた。
目の前で起きていた死闘が、恐ろしく見えた。
まさにそれは命を懸けた戦い。
勝ち残ったのは、男の方であった。

「――――さて、そこの狼……名前、なんて言うんじゃあ」
「レックス、アンタは?」
「風大左衛門……よろしゅう頼む」


○    ○    ○    ○    ○


「――――なるほど、恋人さんが殺されたのか……すまなかな、そげな事ば聞いて」
「いいや、俺が悪いんだ……守れなかった俺が」
「……なぁ、レックスさん」
「なんだ」
「もしそいつば殺す機会があったんよっちしたばいら、どげんするんと」
「…………」

風さんは、いきなり俺の核心を突いてきた。
葉月の事を話した次のこれだ。
俺の事を疑っているのか、そいつについて聞いてくる。
この答え次第で俺をどうにかするつもりなのだろうか。
だが、俺はもう答えを決めていた。





「俺は、葉月を殺した奴を殺す、それだけは……意地でも曲げられない」




あんな殺し方をする奴だ。
それこそ放っておいたら、もっと被害者が出る。
だからこその答えだ。
そこまで頭のよくない答えだって野は分かっている。
俺自身も頭はよくない方だとは思っているから仕方ない。
だが、風の示した答えは意外なものだった。

「わかった――――協力する」
「え……?」
「ただし、そいつとの決着はアンタがつけろ……よかな」
「…………勿論だ」

味方ができた、それだけでも大きな進歩だ。
俺の目標はただ一つ――――あの男を殺すこと。
それが終わったら……死んでお前に会いに行くかもしれない。
葉月……怒るかもしれないが、許してくれ。
俺には、こうすることしかできないから。

【朝/D-1城下町】
【レックス@他の方のオリキャラ】
[状態]身体的疲労(中)、ショック(中)
[所持品]基本支給品、不明支給品
[思考・状況]
基本:あの男(沖崎翔)を殺して……
1:風と協力して沖崎を探す
[備考]
※新訳俺オリロワ開始前からの参戦です
※沖崎翔、我妻由乃の容姿のみ把握しました
【風大左衛門@GANTZ】
[状態]右腕に裂傷(処置済み)、身体的疲労(大)
[所持品]基本支給品、不明支給品
[思考・状況]
基本:タケシを守るため、この殺し合いを潰す
1:レックスと協力する
2:いれば玄野達との合流、タケシとの合流は最優先
3:喋る狼……不思議だ
[備考]
※カタストロフィ編開始寸前からの参戦です
※我妻由乃の容姿のみ把握しました
※喋る狼の存在に結構な疑問をもっています



○     ○     ○     ○     ○



結論的に言うと、我妻由乃は死んでいない。
満身創痍には間違いないが。
だが、彼女はそれでも動き続けるであろう。
未来を変えるために、いや。



――――過去を何度もやり直すがために



【朝/D-1城下町】
【我妻由乃@未来日記】
[状態]気絶中、身体的疲労(極大)、背中にダメージ(極大)
[所持品]基本支給品、斧@未来日記、雪輝日記@未来日記
[思考・状況]
基本:もう一度やり直すため、この殺し合いに優勝する
1:ユッキーであろうが容赦なく殺す
[備考]
※54話にて雪輝を突き落とした直後からの参戦です
※レックス、風大左衛門の容姿のみ把握しました


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最終更新:2012年09月19日 22:51
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