46話「エルフィ…」
教会で身を潜めていた狼獣人の女子高生、エルフィと大学講師の男、竹内多聞は、
そろそろこの教会を出て行動を開始しようと話し合っていた。
夜明けが近付き、外もゲーム開始直後に比べだいぶ明るくなってきたためだ。
荷物を一通りまとめ、エルフィは小型自動拳銃、グロック19を、
竹内は腰に長剣、そして手に大型自動拳銃、デザートイーグルを装備する。
装備は万端、体力も申し分無い。
「さてと、エルフィ。これからやる事の確認だが…」
「はい。えーと、まず…」
まず、人の多く集まりそうな市街地へ向かい、自分達と同じように殺し合いに乗っていない人を仲間に勧誘。
そして最終的には首にはめられた首輪の解除、この殺し合いの転覆を目指す。
これがこれからの二人の、基本的な行動指針である。二人で協議した結果だ。
「しかしだ。何度も言っていると思うが、きっと殺し合いに乗っている者も多いだろう。
突然襲われて死ぬかもしれない。それは…」
「分かってます…覚悟しろ、って事ですよね」
「まあな……それでは行くとしようか」
「はい」
二人が意を決し、教会正面玄関へ歩き始める。
その頃、教会正面玄関に外側からふらふらと近付く、一人の男がいた。
和服姿の冴えない風貌の中年男性だが、意味不明かつ支離滅裂な独り言をぶつぶつと呟き、
口からは涎を垂らし目は焦点が定まっていない、明らかに異常だった。
「うひっ、ひひひひ、キノコになります~フヒヒヒ」
男――松尾芭蕉は、重厚な造りの両開きの扉に、ゆっくりと近付いていく。
何か目的があってそうしている訳では無い。狂ってしまった彼に目的など無い。
いや、あるとすれば――手に持っている赤い液体の入った注射器を、誰でもいいから、
手当たり次第突き刺す、と言う事だろうか。
ガチャン!!
エルフィと竹内が教会正面玄関まで後三メートルといった所まで来た時、
玄関扉が乱暴に開かれた。
驚き瞠目する二人の目に飛び込んできたのは、薄汚れた着物姿の男。
「はい、俳句の神様、これからも俳句一筋精進致します、フヒヒヒヒヒ」
「な、何なのこの人……」
「気をつけろエルフィ。どうやら正気を失っているみたいだ」
涎を垂らし笑いながら意味不明な言葉を呟く男を二人は当然警戒する。
「パ~~~ティ~~~シ~~~エ~~~!!」
突如、男が右手に持った注射器らしき物を振り被って襲い掛かってきた。
二人は銃を構えて威嚇する暇も無く、注射針は振り下ろされた。
「あ゛っ」
エルフィの首筋に。
深々と針が突き刺さり、注射器の中の赤い液体がエルフィの体内へ送り込まれる。
「やめろ!!」
竹内が力ずくで男を引き離し、突き倒すが、既に赤い液体はエルフィの体内に全て注ぎ込まれた後だった。
「うぐっ、ぐ、ああああ」
「エルフィ、大丈夫か!? しっかりしろ!」
首筋を押さえ、床に座り込み悶絶するエルフィを心配する竹内。
あの注射器の中身が気になったが、当の実行犯はとても話を聞き出せるような状態には見えない。
突き飛ばされた痛みも何のその。男は次は竹内に襲い掛かる。
奇怪な笑い声を上げながら竹内に掴み掛かり、腰に差していた剣を奪った。
デザートイーグルを構えながら竹内は慌てて男と距離を取る。
男の後方で蹲っているエルフィの事が心配だったがこの男をどうにかして止めなければならない。
デザートイーグルの銃口を男に向け威嚇するがやはり男は怯む様子を見せない。
「止まれ、止まるんだ! さもなければ撃つぞ!」
「黙れえええおとなしく俳句の神に捧げられたまえええええ」
男が剣を振り被って竹内に斬り掛かる素振りを見せた。
「くそっ…!」
止むを得ない。竹内はデザートイーグルの引き金に掛けた指に力を込めた。
ダアン!!
男の頭が、まるでスイカのように弾け、血と、何かゼリー状のピンク色の物体を聖堂の床に撒き散らし、男はそのまま崩れ落ちた。
しばらくピクピクと痙攣していたけども、すぐに全く動かなくなった。
竹内は何が起こったのか分からなかった。彼はまだデザートイーグルを発砲していない。
しかも、今の銃撃は男の背後からだった。男の頭部を突き抜けた弾丸は竹内のこめかみのすぐ脇を掠めた。
つまり今の発砲者は――。
「エルフィ!?」
右手にグロック19を構え、立ち上がっている灰色の狼少女の姿があった。
だが、駆け寄ろうとした竹内は、すぐに何かに気付き立ち止まった。
エルフィの両目から――赤い、血の涙が溢れ、着ている学生服の上着を赤く汚していた。
それだけでは無い。笑っていた。それもどこか歪んだ笑み。
「……ふ……ふふ………」
「おい、エルフィ…?」
竹内がエルフィに話し掛けても、エルフィは返答しない。
ただただ、虚ろな目で、笑うだけ。
「んふっ、あはっ、あははははっはははははは」
「エルフィ…? どうしたんだ……?」
やはり、エルフィからの返答は無い。
「ははははははははははははははははははははははははは」
「エル――」
ダアン!!
「がっ……!?」
銃声が響いたと同時に竹内は自分の胸元に強烈な熱を感じる。
見れば、上着の胸の辺りから真っ赤な鮮血が流れ出しているではないか。
思わずデザートイーグルを床の上に落とし、胸元を両手で押さえる。
生温かい、ぬめっとした感触が竹内の両手から脳へと送られる。
何があったのか? いや、考えるまでも無い、撃たれたのだ。誰に? これも考えるまでも無い。一人しかいない。
エルフィに。
「ふぅー……ふぅううう……」
やけに呼吸音を大きくしながら、エルフィがぎこちない足取りで竹内に近付く。
途中、頭部が弾け脳漿を漏らした男の死体があったがまるで石ころの如く無視。
一方の竹内は床に跪き、胸元を押さえながら苦しんでいた。
息が苦しい。銃弾が肺を貫通したのだろうか。そして大量出血。早急に適切な治療を受けなければ確実に死に至る事は明白だった。
そしてエルフィが竹内の前まで来る。竹内はゆっくりと顔を上げる。
そして自分が間も無く殺される事を知る。
エルフィが持っているグロック19の銃口を、竹内の左目に向けていたからだ。
思った。
――ここまでか。
思った。
――こんな所で死ぬ事になるとは。
思った。
――安野、すまな
ダアン!!
竹内多聞の意識はそこで途絶えた。
◆◆◆
「――あれっ」
エルフィは不意に意識を取り戻した。いや、意識を取り戻したという言い方は語弊があるかもしれない。
厳密に言うと彼女は意識を失っていた訳では無いからだ。
「私、えーと…何やってたんだっ――」
目の前に広がる光景を見て、エルフィは絶句する。
そこには、ついさっきまで行動を共にしていたはずの竹内多聞が、死んでいた。
胸と頭を銃で撃たれ――特に撃たれた頭部からは、頭蓋骨の中身が血と共に溢れ出していた。
右目に大きな穴が空いていた。
「え…? な、なん、で……」
ふと振り返ってみると、もう一つの死体。ついさっき襲い掛かってきた和服姿の中年男性が、やはり頭を撃ち抜かれて死んでいた。
一体誰がこんな事を、と思い掛けたエルフィは、すぐにその「事実」に気付く。
誰でも無い。二人を殺害したのは、他ならぬ自分自身だった。
「わ、私……」
エルフィの脳裏に、闖入者である男に謎の赤い液体の入った注射器を首筋に刺されてからの記憶が蘇る。
あの後、エルフィは首筋を押さえて床に蹲っていた。
身体中に痛みとも、快感とも付かない、妙な感覚が走っていた。
そして、数秒としない内に、エルフィの心を異様なまでの幸福感が支配する。
両目から何かが流れ出ているような気がしたが、どうでも良かった。
そしてエルフィの心の奥底からある感情が湧き起こってきていた。
――殺せ。
誰かが自分に人を殺せ、人を殺せと命じているような、そんな感情、いや、感覚だろうか。
自分でも分からない内に、笑いが込み上げてくる。
楽しい、楽しくてたまらない。訳が分からないけど、それでもいい。
そして銃を携え、フラフラと立ち上がり、その後は――。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!」
エルフィは竹内の死体に縋って泣いた。
そして何の意味も無いと分かりつつも、何度も何度も謝罪の言葉を口にした。
両目から溢れる涙は、真っ赤な血だった。
【竹内多聞@SIREN 死亡】
【松尾芭蕉@増田こうすけ劇場ギャグマンガ日和 死亡】
【残り 33人】
【エルフィ@自作キャラでバトルロワイアル 屍人化】
【一日目/黎明/G-4教会】
【エルフィ@自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]:屍人化(不安定)、首筋に注射痕、深い悲しみ、罪悪感、平常の意識
[装備]:グロック19(12/15)
[所持品]:基本支給品一式、グロック19の予備マガジン(5)
[思考・行動]:
0:……どうして……私……。
[備考]:
※本編死亡後からの参戦です。
※屍人化しました。但し不安定で、平常のエルフィの意識と屍人としてのエルフィの意識が混濁しています。
最終更新:2010年01月28日 01:50