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彼は彼でありたかった

65話「彼は彼でありたかった」

エリアG-4の教会、神父控室。

そのサイレンが鳴り響いた瞬間、彼――アルソンズ・ベイルに異変が起こった。

「う、うあ、あああぁああ゛っ」

突然頭を抱えて、悲鳴を上げながら苦しみ出したのだ。
明らかに尋常では無いその様子に同行者である章高はしばし口を半開きにしながら唖然としていたが、
すぐに我に戻りアルソンズに駆け寄る。

「アルソンズさん!? 大丈夫で――」
「く、来るな、危ない、今はっ、いま、あ、あ゛――」
「え…!?」

しかし心配する章高にアルソンズは苦しみながらも近付くなと警告を発する。
「危ない」という言葉がどういう意味なのか、章高には分からないが、
当人の様子から察するに、非常にまずい事態になってきている事は察知出来た。
そして不意にサイレンが鳴り止む、と同時にアルソンズも苦しみから解放されたようだ。
ガクリと床に膝を突き、ゼエゼエと肩で息をする。顔には脂汗が滲み出ていた。
再び章高が近寄ろうとしたが、またもそれは阻まれる。
第一回定時放送が始まったのだ。

「しょ、章高、放送だ……メモを…頼む……」
「は、はい」

顔面蒼白になっているアルソンズが心配だったが、
他ならぬ当人の指示により、章高はテーブルに向かって座り、
ペンを片手に放送内容に耳を傾けた。

『じゃあまず、禁止エリアから行こうかな。ちゃんと聞いて記憶してね。
覚えられなかったらメモ取った方が良いよ。じゃあ言うねー。
今から1時間後の午前7時に、D-1、C-2、G-2、F-5、G-4の五つが禁止エリアになるよ!
もう一度言うね。今から1時間後の午前7時に、D-1、C-2、G-2、F-5、G-4の五つ!
覚えた? 二回も言ったよ。しっかり頭に入れておいてね』
「禁止エリア…午前7時から、D-1、C-2、G-2、F-5、G-4…えっ!? マジ…」

主催者でるセイファートから発表された五つの禁止エリアの中には、
現在章高とアルソンズがいる教会が存在するG-4が含まれていた。
しかしそれに気を取られる間も無く今度は死者の発表が行われる。

(もし、費覧の名前が呼ばれたら…それはそれで気が楽になるんだけど)

妙な期待を寄せつつ参加者名簿を取り出し呼ばれた名前に横線を引いて消していく。
そして呼ばれた名前は全部で20人だったが、彼の知人である妖狐の女性、費覧の名前は呼ばれなかった。

(やっぱりな…あいつがそう簡単に死ぬ訳無い、か)

肩を落としている章高の後ろで、アルソンズは未だ立ち上がれずにいた。
床の上にポタポタと、血の雫が滴り落ちる。
それはアルソンズの両目から再び溢れ出した血の涙だった。

(何なんだ、この感覚は、自分が自分で無くなっていくとは、この事か)

先程の大音量のサイレン、あれを聞いた瞬間、今まで感じた事の無い割れるような頭痛が襲ってきた。
このまま、頭が破裂するのでは無いかという激痛。
しかし同時に、幸福感にも似た奇妙な感覚に包まれた。
これは紛れも無く墓場で発狂した松尾芭蕉という男に謎の液体を注射された直後に感じたもの。
だが、以前よりも遥かに酷くなっている。
あのサイレンだ――アルソンズはある予測に辿り着く。

(さっきの、あの、サイレンか? また、鳴ったら――ちょっと待て)

ここでセイファートが放送の冒頭部分で言っていた事を思い出す。

『さっきのサイレンびっくりした? 言い忘れてたけど放送の前後にあのサイレン鳴らすからね。
どこにいても聞こえるように大音量にしておいたから。優しいでしょ?』

そして、定時放送が終了した。

(ま、まずい――)

再び、会場にサイレンが鳴り響く。

「うわああぁああああぁァァァアああぁアアアアアあああああアアァァアアア!!!!!」
「アルソンズさん!?」

今度は床の上で激しくのた打ち回るアルソンズ。
まるで残酷極まりない拷問を受ける受刑者を思わせる、苦痛と絶望に満ちた悲鳴。
今度は章高は近付く事さえ出来なかった。
余りに壮絶なその光景に、怯み、震えながら見詰める事しか出来ない。
何とかしてやりたい、助けたいという気持ちはあれど手立ては何も見付からず。
ただただ目の前で同行者が苦しむ姿を見ている事しか出来ない。

「ギッ、ウ、ゲエエエエエエエッ、エ、ア――………………」

突如、あれ程苦しんでいたアルソンズが床に伏したまま、大人しくなった。
それは、耳障りなサイレンが鳴り止んだのとほぼ同時であった。

「あ、アルソンズ、さん…?」
「……」

恐る恐る章高が声を掛けるが、アルソンズは返答しない。
章高はとても嫌な予感がした。

「……クッ、ククク」

小さな笑い声を上げながら、アルソンズがゆっくりと立ち上がる。
しかし完全に立ち上がっても、章高の位置からでは身体の側面になり顔はよく見えない。
そして、アルソンズが顔を章高の方に向けた――瞬間、章高は硬直した。

「しょ……う……こ…う……フフッ、ハハハ」
「あ………あ…………!」

ほとんど死人のように青白くなった肌、両目から流れる真っ赤な血の涙、歪んだ笑みを浮かべる口元。
そこにいたのは、もはやアルソンズ・ベイルという壮年の紳士では無かった。
アルソンズだったそれは、歪んだ笑みを浮かべながら、コートの下に右手を入れる。
そしてベルトに差し込んでおいたリボルバー銃――マニューリンMR73を引き抜き、銃口を章高に向けた。

「う……く……」

早く逃げなければ、頭で分かっていても銃を突き付けられ、足が竦み動けない。

(これまでかよ……ああ費覧、この際お前でも良いから会いたい――)

死を覚悟し、目を固く瞑る章高。
そして。

一発の銃声が部屋の中に響いた。

(……え?)

銃声はしたが、自分の身体には何も起こっていない。
目を開け、何が起こったのかを章高は知る。

「ハァ、ハァ、ハァ、い、イかん、いカン」
「あ、アルソンズ、さん?」

寸での所で、アルソンズは自我を取り戻す事に成功した。
そして咄嗟に銃口を反らし、放たれた銃弾は章高の後ろ、テーブルを挟んだ先にある壁に着弾した。
だが、アルソンズは気付いていた。自分の「自分」としての意識は、間も無く消えるという事に。
頭の中で何者かが繰り返し囁く。「殺せ」と。
そしてそれは「自分自身の欲求」へとなり代わっていっている。
最早時間は無い。それまでに、やるべき事はしなくては。
アルソンズは残った自我で、章高に話し掛ける。

「章高、ヨく聞け。ワシハモウ、ワシでハ無くなるよウだ」
「そ、そんな」
「フ、フフフ、ダガな、章高。ワシは、アくマデ、ワシとして死にタいんだ。
作家、アルソンズ・ベイル、トして、ナ」
「え――?」

言う事を聞かない自分の身体に喝を入れ、アルソンズはゆっくりと、
マニューリンの銃口を自分のこめかみに当てた。

「!! な、何を!? やめて下さいアルソンズさん!!」

何をしようとしているのか察した章高は必死の形相でアルソンズを説得しようとするが、
アルソンズは悲しそうな笑みを浮かべ首を横に振る。

「いや、イいんだ章高。コうしなケれバ、駄目なんだ。
このままじゃ、ワシはお前ヲ間違い無ク、殺シテしまう。
たっタ、す、数時、間、ダッたトは言エ、行動を、と、共にした、かラな。
ソ、ソンナ、事、アッチャ、ナ、ナラナ、イ」
「だけど、だけど…!」

アルソンズの声音は、もはやほとんど原形を留めていなかった。
しかし、最後の最後、彼は自分自身の声音で言葉を伝えた。

「――すまんな、章高」

ダンッ、という銃声が再び部屋の中に響き、
こめかみから脳髄を357マグナム弾の弾頭が貫通したアルソンズは、
その場に崩れ落ち――そして、永遠に動かなくなった。



「…………」

アルソンズの自決を目の当たりにした章高は、床に座り込んだまま呆然としていた。
その目からは、恐らく本人も気付かぬ内に、透き通った涙が流れていた。
しばらくぼーっと虚空を眺めていただけだったが、ふと、何かを思い出したかのように、
ふらつきながらも立ち上がり、テーブルの上の自分の荷物をまとめ始める。
そして、アルソンズの死体に近付き、傍に堕ちていたマニューリンを拾い上げると、
アルソンズのデイパックの中から予備弾である357マグナム弾を取り出した。

「……行かなきゃ、この辺、禁止エリアになるから……」

ほとんど上の空のような口調だった。
マニューリンに弾を装填してズボンのベルトに差し込み、
デイパックを背負い、章高は教会の裏口へと歩き始めた。


【アルソンズ・ベイル@オリキャラ  死亡】
【残り  27人】


【一日目/朝方/G-4教会】

【章高@オリキャラ】
[状態]:肉体的疲労(中)、精神的ショック状態
[装備]:マニューリンMR73(6/6)
[所持品]:基本支給品一式、357マグナム弾(27)、参加者詳細名簿@オリジナル
小型催涙スプレー(3)、自主製作映画企画書@自作キャラでバトルロワイアル
[思考・行動]:
0:殺し合いはしない。とにかく生き残る。
1:……。
2:費覧には出来れば会いたくない。会いたくない。
[備考]:
※自主製作映画企画書に載っている9人の名前、
「エルフィ」「太田太郎丸忠信」「北沢樹里」「吉良邑子」
「サーシャ」「シルヴィア」「ノーチラス」「フラウ」「森屋英太」と参加者名簿に載っている
同名の人物は、同一人物であると確信しました。



※G-4教会神父控室にアルソンズ・ベイルの死体が放置されています。



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最終更新:2010年02月26日 23:10
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