76話「HOLOCAUST」
聖徳太子は病院の西側の入口に辿り着いた。
「大きい建物だな、誰かいるかもしれん。もしかしたら妹子も…」
この建物の中に捜し人である小野妹子がいる事を願って、
聖徳太子は狩猟用狙撃銃を携え病院の中へと入っていった。
丁度その頃、市街地を地面スレスレで低空飛行し、病院へ向かう、
黒い竜とその背に乗り黒い竜を心配する少年がいた。
黒竜――
石川清憲は腹部から深刻な量の血を流していた。
「おいおい、大丈夫かキヨノリ?」
「ああ…何とか、な……」
清憲は実際は出血多量で目が霞み始め、余り大丈夫では無かったが、
小鉄に余計な心配はかけさせまいと無理に笑ってみせた。
しかし明らかに顔色はどんどん悪くなっていく一方で、
小鉄の心配は尽き無い。
「見えた、あそこが病院か…あそこで手当、しとこう…」
「お、おお!」
二人のすぐ前方に、病院の裏口周辺が見えてきた。
そして清憲は裏口付近に下り立つ。
しかし貧血気味なのか、足がもつれて思わず座り込んでしまった。
「キヨノリ! しっかりしろ!」
「だ、大丈夫、大丈夫だから」
感覚が鈍ってきている足を無理に立たせる清憲。
とにかくまずは止血しなければ。
二人は病院の裏口へ足を進めようとした。
その時、背後で何かが下り立った。
気配を感じた二人が振り向くと、そこには青っぽい毛皮を持った、
抜群のスタイルの雌の獣竜が立っていた。
その手には機関銃であるFNミニミが装備されている。
「え、何だ、誰?」
「あ、アンタは…」
「んー……」
雌獣竜――
リュードは目の前にいる雄の黒竜と人間の少年を見て考え込む。
そして。
「まあとりあえず、死んで」
「え?」
「な――」
小鉄と清憲が拍子抜けした声を上げた直後。
リュードの持っているミニミが火を噴いた。
壮絶とも言える射撃音、そして100発もの5.56㎜NATO弾の弾丸が、
清憲と小鉄を容赦無く貫いた。
ミニミに装填されていた全ての弾丸が撃ち尽くされた時、小鉄と清憲は、
文字通り「蜂の巣」状態と化し、血塗れの肉塊と化し、地面に横たわっていた。
リュードは何故
殺し合いに乗っていない二人を殺害したのか。はっきり言うと、特に理由は無い。
彼女は自分の目的である「自分と同じ姿をした雌獣竜」以外の参加者はどうでも良かったのだ。
ミニミに新たな弾薬をフル装填し、リュードは病院の中へと入って行く。
「確証は無い。確証は無いけど、ここにいそうな気がする」
屍人化した灰色の毛皮を持つ狼少女、エルフィは、
病院内に足を踏み入れ、周囲を見回す。
「誰モ…イナイノカ、ナァ」
既にその声音は元の彼女のそれでは無くなっていた。
エルフィは獲物を捜し、受付奥の事務室の方へとふらつきながら進んで行く。
ロビーが一面、血まみれで所々に肉片や毛髪がこびり付いている事を、
今のエルフィは一切気にも留めない。
「……?」
事務室には、机を乱雑に退けて、その空いたスペースにどんっと居座るように、
一体の巨躯の雌獣竜が寝転がっていた。
紫がかった黒の毛皮を持つ雌獣竜、
レオーネである。
当然、エルフィはレオーネのような生き物を見た事は無い。
自分が知り得るどの獣人種とも違う身体的特徴を持った目の前の生き物に、エルフィも最初は怪訝そうな顔をした。
だが首に参加者の証である首輪がはまっている事を確認した途端、
エルフィはニタァと、歪んだ笑みを浮かべ歓喜する。
「見ィーツケタ♪」
「ん……何? 誰?」
エルフィの喜びの声にレオーネが目を擦りながら覚醒する。
しかし直後、銃声と同時にレオーネの腹部から血が吹き出た。
「ガアッ!?」
突然の銃撃、そして激痛に悲鳴を上げるレオーネ。
間髪入れず次の銃撃が、今度はレオーネの右胸の辺りだった。
「ウガアアア!! やだ、痛い! 何するのよ!やめて!」
「アハハハハハハハハハ」
エルフィは泣き叫ぶレオーネの事などお構い無しに、笑い声を上げながら次々に、
手にしたデザートイーグルの弾丸を撃ち込んでいく。
「ウギャアアアアア!!」
余りにも不意討ち。まだ寝起きの所を襲撃された事もあり、
レオーネは反撃するのも忘れただただ銃撃を受け痛みに悶えるのみ。
目からは涙が溢れ、血反吐を吐き、失禁までしていた。
「い、嫌、嫌、お願いだからやめてよぉ……!」
ガクガクと怯えた小鳥のように震え、襲撃者の狼少女に懇願するレオーネ。
しかし屍人の意識に支配されたエルフィは聞く耳を持つはずも無い。
歪みきった声音で高笑いを上げながらエルフィが最後の一発を叩き込もうと、
引き金に掛けた指に力を込める。
レオーネは大粒の涙を流しながら、大きく目を見開いた。
だが、引き金は引かれる事は無かった。
「……え? わ、私、何やって、るの……?」
「……???」
エルフィが、エルフィ自身としての意識を突然取り戻したのだ。
自分が今まで何をしていたのか全く分からないエルフィだったが、
目の前に血塗れで、身体中撃たれた痕だらけ、
しかも涙を流し怯えた顔で自分を見ている毛皮を持った竜のような生き物がいる。
そして自分の手には銃口から煙を噴き出している大型自動拳銃。
その状況から、エルフィは今自分が何をしていたのかを難なく探り当てた。
「あ、わ、私、そんな」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
狼狽するエルフィに、レオーネが雄叫びを上げ、鋭い爪の付いた右手を、
渾身の力でエルフィの胴体目掛け突き出した。
肉と骨、そしてエルフィの胴体に使用されたレプリカントのパーツが、
一気に破壊され、貫かれる。
「がはっ……」
レオーネの右腕に串刺しにされたエルフィは、大量の血を吐き、
そのまま、銃を落としてぐったりとなった。
エルフィの身体から乱暴に右腕を引き抜き、レオーネは再び身体の激痛に悶え苦しむ。
「ゲホッ、ゴホッ、い、い、だい……苦しいよおお……」
這いずるように、事務室から受付、そして血塗れのロビーへ。
「! あ、あなた……」
「え?」
いきなり何者かに声をかけられ、レオーネは声の方向へ向く。
そこには自分と毛皮の色以外は、まるで瓜二つの雌獣竜がいた。
しかし、今のレオーネにとってはそんな事、どうでも良い事だった。
リュードはついに、自分と瓜二つの雌獣竜を発見した。
だが、その雌獣竜は、口から大量の血を吐き、胴体には、
大口径の銃で撃たれたものと思しき大きな穴が幾つも空き、
出血も夥しく、大粒の涙を流して息を荒げ、濃厚な血の臭いに混ざって、
アンモニア臭も漂っている事から恐らく失禁もしている。
正に満身創痍。見た目で、致命的な負傷をしている事は明白だった。
すぐに駆け寄り、介抱を始める。
「大丈夫? しっかりして。何があったの?」
「う、撃たれたぁ……変な、狼の女の子にぃ……」
「その、女の子は?」
「こ、殺したよぉ………ゲホッ、ゲホッ!!」
更に吐血する雌獣竜。
内臓器官が深刻な損傷を受けているようだ。
「私はリュード、あなたの名前は?」
「……レオーネ……」
やはり。リュードは自分の直感が正しかった事を知る。
「ガハッ、ガアアア………もう、動けない、よおお……寒い……寒い………!」
「レオーネ!」
リュードが叫ぶ。
レオーネの強力な自己治癒能力も機能しない程、傷は深刻だった。
もう、助からない。
リュードはレオーネの死を悟った。
(やっと会えたのに……! こんなのって……)
「あ゛………ぐ………う…………」
「レオーネ…………」
「し……死にたくない、死にたくないよおぉぉ……死にたくない…死にたくない…!!」
リュードはどんどん冷たくなっていくレオーネの身体を抱きしめた。
もうそれしか出来ない。
そして、命の火が消える、その直前。
「…………リュー………ド…………―――――」
レオーネは、確かに、リュードの名前を読んだ。
そしてリュードに抱かれた、レオーネの瞳から光が消え、動きが完全に止まった。
「……レオーネ……」
見開いたままの両目を閉じさせ、優しくレオーネの頭を撫でるリュード。
その目からは、涙が流れていた。
ふと、リュードの目に止まったもの。
それは、血塗れのロビーの床に落ちている、一振りの抜き身の打刀だった。
「!! こ、これは……!?」
聖徳太子は病院入口ロビーの余りの惨状にうろたえる。
銃声らしきものと女の高笑いのようなものが聞こえ、適当な部屋で隠れていたが、
何も聞こえなくなって音のした方向にやってきてみればこの有様。
鼻を突く血の臭いに顔をしかめ、左腕のコートの袖で鼻を覆う。
血塗れの天井、床、壁。飛び散った恐らく人間の物と思われる肉片。
そして、受付付近に座っているのは――。
「お、お前は!?」
「……?」
一瞬、あの時に自分を殺そうとした、あの竜かと思ったが、よく見ると色が違っている。
その雌獣竜に抱かれるように眠って――いや、死んでいる雌獣竜こそ、
夜明け前に自分に襲い掛かったあのレオーネと名乗った雌獣竜だ。
「…私はリュード。この子は……レオーネ。貴方は…」
「私は…聖徳太子だ」
「聖徳太子? 貴方が……イモコが捜していたわ」
「!! イモコを知っているのか!? 今あいつはどこにいるんだ! 教えてくれ!!」
リュードと名乗った青い雌獣竜の口から飛び出た思いも寄らない捜し人の手掛かりに、
太子は血相を変えてリュードに詰め寄る。
リュードは暫く間を置いて、そして口を開いた。
「死んだ」
「…………何?」
「死んだって言ったの。私が殺したわ」
太子の時が止まってしまった。
(死んだ? 妹子が? 殺した? 妹子を? こいつが?)
「信じられないって言うなら、エリアD-2にある古びた倉庫に行ってみてよ。
そこに答えがあるから。エリアD-2よ。覚えてね。後で忘れても、私はもう言えないから」
「……? それは、どういう……ッ!?」
リュードは先程拾った打刀――焔薙の刃を、自分の喉に当てた。
「お、おい、何をする気だ!?」
「見れば分かるでしょ」
そして、刃をぐっ、と、喉元に押し付ける。
首元の青い毛皮が、赤い血で滲み始めた。
「もう、やる事無いから、これで、この舞台から退場する事にするわ。
じゃあね聖徳太子さん。頑張ってね」
「待――」
血で染まりきったロビーに、また新たに鮮やかな朱の色が加わった。
自分で自分の喉笛を切り裂いたリュードは、最期の力を振り絞って、レオーネの死体と添い寝するような体勢になり、そして、そのまま息絶えた。
「……」
余りの出来事に呆然とする聖徳太子。
「あ、あの……」
「!!」
受付の方から苦しそうな少女の声が聞こえた。
見れば、受付入口の柱にもたれるように立っている、狼の顔をした少女が。
腹部にぞっとするような、大きな穴が空いており、なぜ生きて、立っていられるのか不思議な程だ。
狼少女――エルフィは、太子の元に歩み寄ろうとして、バランスを崩し転倒した。
慌てて太子が傍に駆け寄る。
「だ、大丈夫か……!?」
「大丈夫……じゃ、無いです、ね……もう、死ぬみたいです、私」
「そんな…」
「そ、それより、お、お願いが、あるん、です」
「……何だ?」
「もし…茶色の毛皮をした……狼族の…ノーチラスっていう人に会ったら……伝えて欲しいんです。
『エルフィは死んだ』って…………」
「…………」
エルフィが太子に願ったのは、自分が死んだ事を、
まだどこかで生きていると思われるクラスメイトのノーチラスに、
もし太子が出会えたら伝えて欲しいという事だった。
太子は少し悩んだが。
「…分かった。もし会ったら必ず伝える。だから……安心してくれ。エルフィ君」
太子はエルフィの頼みを聞いてあげる事にした。
エルフィはニコリと微笑み、
「………ありが………とう………」
太子に礼を言い、そして、静かに息を引き取った。
太子はロビーとその周辺に残されていたデイパックや武器を掻き集め、
濃厚な血の臭いが漂う病院を裏口から出た。
裏口から出る際、今度は黒い竜と少年の惨殺死体を見付けてしまい、思わず目を背けた。
だが、その死体の荷物も一応使えそうな物は回収した。
「妹子……本当に、死んだのか……?」
リュードが言い残した「妹子は自分が殺した」という言葉。
そして「エリアD-2にある古びた倉庫に行けば分かる」という言葉。
いや、それ以前に、本当に小野妹子は死んだのか?
太子は正直、信じられなかった。あの妹子が、死んでしまうなどとても考えられない。
なら――自分の目で確かめる他無いだろう。
そして、エルフィという、灰色の毛皮を持った狼獣人の少女から託された、
ノーチラスという人物に会ったら自分が死んだ事を伝えて欲しいという依頼。
「……くそっ……考える事が多過ぎる……!」
太子は頭を抱え、うんざりしたように言い放った。
【石川清憲@オリキャラ 死亡】
【大沢木小鉄@浦安鉄筋家族 死亡】
【レオーネ@オリキャラ 死亡】
【リュード@オリキャラ 死亡】
【エルフィ@自作キャラでバトルロワイアル 死亡】
【残り 14人】
【一日目/午前/F-3病院裏口付近】
【聖徳太子@増田こうすけ劇場ギャグマンガ日和】
[状態]:肉体的、精神的疲労(中)、烏帽子無し
[装備]:狩猟用狙撃銃@SIREN(4/5)、トレンチコート
[所持品]:基本支給品一式、7.62㎜×51㎜弾(30)、九九式小銃(4/5)、
7.7㎜×58㎜弾(30)、ワルサー カンプピストル(1/1)、26.6㎜炸裂弾(3)、
64式小銃(20/20)、 64式小銃の予備マガジン(5)、曽良の首輪、焔薙@SIREN、
IMIデザートイーグル(1/7)、デザートイーグルの予備マガジン(4)、 グロック19(12/15)、
グロック19の予備マガジン(5)、クリスの剣@ムーンライトラビリンス改造版、
FIM-92スティンガー@自作キャラでバトルロワイアル(0/1)、70㎜ミサイル(4)、
FNミニミ(200/200)、5.56㎜×45㎜200発金属リンク(9)、エグゼキューショナーズソード、
ウィンチェスターM1897(4/5)、12Gバックショット弾(25)
[思考・行動]:
0:このゲームを滅茶苦茶にしてやる!
1:妹子が……死んだだと……!?
2:嫌になってくるなぁ、もう……。
[備考]:
※単行本第九巻第168幕「聖徳太子の持っている木の棒」より後からの参戦です。
※ノーチラスのおおよその特徴を把握しました。
※F-3一帯に銃声が響きました。
※F-3病院裏口付近に石川清憲、大沢木小鉄の死体、
ロビーにリュード、レオーネ、エルフィの死体が放置されています。
最終更新:2010年02月27日 00:53