現実は大抵人を傷付ける

70話「現実は大抵人を傷付ける」

放送が終わった後、俺――石川清憲の傍にいる坊主頭の少年、大沢木小鉄は、
どこかそわそわした面持ちで俺の方を見ていた。
俺はその理由が何となく分かった。

「なあ、キヨノリ」
「……何だ?」
「さっきの放送、春巻の名前と、のり子の名前も呼ばれたんだ。
……春巻の名前が呼ばれたって事は………のり子は………」
「……」

俺は小鉄の気持ちを考えると、何も言葉を掛けてやる事が出来なかった。
確か本人から聞いた話によれば先程の放送で名前を呼ばれた「西川のり子」は、
小鉄の親友だったらしい。
つまり小鉄はたった6時間の間に自分の担任教諭と親友の二人の、
身近な人間を失ってしまったという事だ。
まだ小学二年生の、幼い少年には、とても残酷過ぎる現実である事は、
容易に想像出来た。

「畜生…畜生、畜生! 何でだよ…何でのり子が死ななきゃ…春巻だってそうだ!
あいつには散々振り回されたけど、だけど死んでいいような奴では無かった」

床に突っ伏し、涙を流しながら悲しみを吐露する小鉄。
いつも元気そうに振舞っていたけど、やっぱり本心は辛かったんだな。
俺は――知り合いは一人も呼ばれてないから小鉄に比べればマシかもしれないけど…。

「小鉄……」
「うっ……うっ……のり子、春巻…俺、絶対こんな殺し合いから脱出するぞ……!」
「ああ……」

涙を手で拭って、しっかりと小鉄が立ち上がった。
とても芯が強い。俺も見習いたいな。



のり子と春巻が死んだなんて、俺はとても信じられない。
でも、春巻が脳ミソ飛び散らして死んでいるのを俺は確かに見た。
その春巻の名前と一緒に、のり子の名前も放送で呼ばれたって事は、
もう、死んでいるって事なんだろうな。

最初出会った時は喧嘩ばっかりしていたけど、のり子とは今はよく遊ぶ友達になっていた。
春巻は…最近かなり知能が低下していたように見えたなあ。
もうあの二人の声が聞けないというのはやっぱり寂しいし、悲しい。
でも、泣いてばかりもいられないよな。
仁の母ちゃんはまだ生きてるっぽいけど、正直会いたく無い。
金の事になると見境無くなって凶暴になるしなアイツ。
もしかしたら殺し合いに乗っているかもしれないし、仁には悪いけど。

荷物を纏めて、俺とキヨノリは隠れていた民家から外に出た。
もうすっかり明るい。
門から道路に出て、これからどこへ行くかキヨノリと話し合う。

「どこへ行く? キヨノリ」
「そうだな、まずは――?」

不意にキヨノリが言葉を切った。
何かに気付いたような顔をしている。

「どうし――」

俺が言い終わる前にキヨノリが、俺を庇うように、俺の右側に立ちはだかった。
直後、どんっ、という爆発音みたいな音が響いた。

「がっ……!」

その直後に、キヨノリは苦しそうな声を出してその場に蹲った。
慌てて駆け寄ると、腹の部分を手で押さえていて、赤い血が溢れているのが分かった。

「あら、小鉄君……」
「! その声は……まさか」

明らかに聞き覚えのある中年の女性の声。
声のした方向に目をやると、そこには――。

「じ、仁の母ちゃん!?」




あの警察官以降、ちっとも他参加者に巡り合えなかったんだけど、
やっと会えたわ~何だか黒い翼の生えた蜥蜴みたいな生き物と、
私もよく知っている、自分の息子の友達――大沢木小鉄。

「じ、仁の母ちゃん!?」
「うふふ。小鉄君頑張ってるわねぇ。まだ生きてるなんて」

あの馬鹿教師と、西川のり子という、仁ちゃんの友達の一人は死んじゃったみたいだけど。

「こ、殺し合いに乗ってるのか……!?」
「その通り」

嫌あねえ、そんなの、貴方達に散弾銃を向けている事から分かるでしょ?
現にたった今、黒い蜥蜴の腹に散弾を撃ち込んでやったんだからさ。

「何で……何でだよ!! 何でこんな馬鹿な殺し合いなんかに乗るんだよ!
馬鹿だろ! 馬鹿だよお前!!」

むう、普段から大馬鹿な事してる貴方に言われたくないわね。
でもまあいいわ、もうすぐ殺すつもりだから、教えてあげる。

「貧乏生活から抜け出すためよ」
「何…!?」
「開催式の時言ってたでしょ? あのセイファートっていう狼女が。
『優勝したらどんな望みも叶える』って。私はそれに賭ける事にしたの。
もしかしたら私と、仁ちゃんの夢だった、念願の貧乏生活脱出が果たせるかもしれないって」

私の目標を聞いた黒い蜥蜴と小鉄君は、明らかに私を蔑視する目で見ている。
確かに、貴方達から見たら、何て馬鹿な事をと思うだろうけど、
今の私にはこうするしか出来ないのよ。
そして、もう後戻りも出来ない。もう二人も殺してるんだから。

「おい、まさか……春巻や、のり子を殺したのは……!」
「ああ、勘違いしないで。私は二人に会ってもいないわよ」
「くっ……小鉄、逃げた方が……」
「逃がさないわよ。貴方達はここで死ぬの」

私は散弾銃――ウィンチェスターM1897の銃口を二人の方に向ける。
仁ちゃんには悪いけど、小鉄君にも死んで貰うわ。

「ふ……」
「え?」
「ふざけんなあああああああ!!!」

思いも寄らない事態。小鉄君が私に向かって猛烈な勢いで突進してきた。
私は引き金を引こうと思ったけど、もうその時には小鉄君の協力なタックルが、
私の胴体に命中していた。

「ぐげっ!!」
「小鉄!!」
「この山姥がああああ!!!」

衝撃で散弾銃を離してしまった。
そのまま私は路上に仰向けに倒され、小鉄君は私の胸の上に馬乗りになり、
腰から何かを取り出し、それを大きく振り被り、そして。

ドスッ。


仁ちゃん、ごめんね、お母さんもう帰れないわ。


仁ちゃん、お母さん   間違って たの   か      な




「こ、小鉄……」
「馬鹿野郎……仁の母ちゃんの馬鹿野郎……。
そんな事して、仁の奴が喜ぶ訳ねぇだろ……馬鹿野郎……!」

額に文化包丁が突き刺さり、路上に仰向けになって事切れた、
山姥のような風貌の女性の上で、小鉄が声を震わせ、女性を罵倒していた。
俺の場所からは小鉄の後ろ姿しか確認出来ないが、
恐らく、いや、ほぼ間違い無く――泣いていた。

あの女性――仁ママだったろうか――は、小鉄の友達の母親らしい。
許せなかったんだろうな、小鉄は。
自分の友達の母親が、こんな殺し合いに乗っている事が。
だからあんな行動に……ぐっ、痛ぇ……。

腹に散弾食らっちまったからな…どこかで手当てしないと……。



【仁ママ@浦安鉄筋家族  死亡】
【残り  22人】



【一日目/朝方/E-4市街地】

【石川清憲@オリキャラ】
[状態]:腹部に散弾被弾、精神的疲労(大)、涙の跡
[装備]:エグゼキューショナーズソード
[所持品]:基本支給品一式
[思考・行動]:
0:死にたくない。生き残る。
1:小鉄……。
2:小鉄には死んで欲しく無い。
3:手当てないと…。
[備考]:
※大沢木小鉄が自分とは別世界の人間だと判断しました。

【大沢木小鉄@浦安鉄筋家族】
[状態]:健康、悲しみ、やり場の無い怒り
[装備]:無し
[所持品]:基本支給品一式、発炎筒(3)
[思考・行動]:
0:とりあえずキヨノリ(石川清憲)と一緒にいる。
1:…………。
[備考]:
※本編最終話より後からの参戦です。
※バトルロワイアルのルールと性質について理解しました。


※仁ママの額に文化包丁が刺さったままです。
※仁ママの所持品は仁ママの死体の周囲に放置されています。



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最終更新:2010年02月25日 02:25
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