ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0802 とある工事業者の作業日誌
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ankoss
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『とある工事業者の作業日誌』
序、
「おきゃーしゃん、れーみゅ、のーびのーびできりゅようになっちゃよ!」
そう言って、ピンポン玉くらいの大きさの赤ちゃんゆっくり…赤れいむが一生懸命自身の体を伸ばしている。それを
バスケットボールサイズの成体ゆっくり、親れいむが見て満足そうな笑みを浮かべている。
すぐ近くでは、二匹の赤まりさが蝶々を追いかけていた。親まりさ指導のもと、狩りの練習だ。小さな体でぴょこぴ
ょこ跳ねながら、
「ゆゆーん!むししゃん!まっちぇにぇっ!ゆっくちまりしゃにたべられちぇにぇっ!」
「おりちぇきちぇにぇっ!むししゃん!ゆっくちしちぇにぇっ!」
歓声を上げている。
成体のありすは、巣穴の近くに咲いていた花を摘んで、子供たちの髪に飾り遊んでいる。ぱちゅりーは木陰ですーや
すーやとお昼寝をしていた。ゆっくりたちは、思い思いにゆっくりしていた。れいむのお歌を聞き、喝采を浴びせるゆ
っくりや、ぱちゅりーと一緒にお勉強をしているゆっくり。まりさの集団が森から狩りを終えて帰ってくる。それをつ
がいのゆっくりたちが温かく迎えた。
ゆっくりぷれいす。
群れのどれもが、この場所をそう信じて疑わなかった。ゆっくりは、ゆっくりするために生きている。そして、自分
の理想のゆっくりぷれいすを探し求め、山を、森を、這いずりまわるのだ。そして、
「ゆゆ…れいむ…ゆっくり、まりさのおはなしをきいてほしいよ」
一匹の成体まりさが、同じくらいのサイズの成体れいむに真剣な眼差しで言葉を紡ぐ。
「ゆ…ど、どうしたの…?しんっけんっ!なかおして…(どきどき)」
まりさは、突然上を向き、
「ゆあっ!」
声を上げる。釣られて、れいむが空を見上げた。れいむは不思議そうな顔ををしながら、
(なんにもないよ)
顔をまりさのほうに戻そうとしたとき、れいむの柔らかな唇に、まりさの唇がそっと触れた。れいむが茹で饅頭状態
になり、チラッ!チラッ!とまりさを見つめる。まりさはまりさで少し恥ずかしそうに、
「ゆ…れ…れいむと、ちゅっちゅしたよ…」
などと言っている。れいむも、まりさも、これが“ふぁーすとちゅっちゅ”だった。ドキドキ冷めやらぬ両者の沈黙
を再びまりさが破る。
「れいむ…まりさと…ずっといっしょにゆっくりしてほしいよ」
それは、ゆっくりのプロポーズだった。まりさは、れいむをつがいに選びたかったのだ。れいむは、少しだけうつむ
き、
「まりさ…れいむも…まりさと…いっしょに…ゆっくり…したいよ」
呟く。まりさの表情に花が咲く。そして、れいむの周りをぴょんぴょん飛び跳ね始めた。れいむは、自分の周りをく
るくる回るまりさの姿を追っている。
「れいむっ!れいむっ!まりさ、すっごくうれしいよ!!」
そう言って、まりさはもう一度れいむの唇を奪った。今度は正面から、堂々と。二度、三度とちゅっちゅを繰り返し、
二匹はそろそろ恥ずかしくなってきたのか、お互い顔を背けた。顔を背けたまま、
「れいむ…」
「な…なに?」
「ゆっくりしていってね!」
「…ゆっくりしていってね!」
自分の大好きなゆっくりを探し、生涯の伴侶として選び、新しい家族となっていくのだ。まだ若いゆっくりの、甘酸
っぱい青春の一ページだった。
季節は、秋の終わり。群れに所属するゆっくりたちは総出で狩りを行い、食料を備蓄していった。れいむとまりさは、
まだ親ゆっくりと一緒に暮らしていたため、二匹で生活するだけの力はない。少なくとも、越冬を終えてからでないと
無理な話であろう。
真冬の間は、一歩も外に出ないため、れいむとまりさはお互いに逢うことができない。そのことが、二匹の恋の炎を
更に燃え上がらせることだろう。
少しずつ冷たくなっていく晩秋の風を感じながら、それでもゆっくりたちはこのゆっくりした日々が、このゆっくり
した場所で、ずっと続いていくのだと信じていた。
一、
ある日、複数の人間がゆっくりぷれいすの近くにやってきた。このゆっくりぷれいすの付近には街があったが、加工
所などの施設はなく、人間と関わることも滅多になかったため、遠目で人間をちらちら見ながらもさほど気にする様子
はなかった。人間は人間で、手に持ったバインダーを見ながら森の中をうろうろしているだけで、特にゆっくりに危害
を加えようとはしていない。
一匹の赤まりさが、また蝶々を追いかけて夢中で跳ねており、人間の足にぶつかって止まった。
「ゆ…いちゃい…いちゃいよぅ…っ!」
足元から聞こえる小さな声に、人間の男が赤まりさを手の平に乗せて持ちあげた。赤まりさは少しだけ身を震わせな
がら、男を見つめていた。
「ちび。お前の家族はどうした?」
男に話しかけられて、赤まりさの鼓動は更に早くなった。一刻も早くこの場所から逃げ出したかったが、飛び降りて
無事で済むような高さではない。何も答えない赤まりさを見て、男が困ったような表情を浮かべる。
「ひょっとして迷子か?」
「に…にに、にんげんさんっ!ちびちゃんを…かえしてねっ!!!」
草むらから、成体のまりさがガサガサと顔を出し、男を見上げる。男にも、このまりさが赤まりさの親であることは
すぐに理解できた。赤まりさは、親まりさの姿を確認すると声を上げて泣き始めた。
「お…おきゃ…おきゃああああしゃああああああん!!きょわいよぉぉぉぉ!!ゆっくちできにゃいよぉぉぉぉ!!!」
赤まりさの泣き叫ぶ姿を見て、男に何かひどいことをされたのだと勘違いした親まりさは、口の中に空気を溜めて、
精一杯威嚇した。それでも男は近づいてくる。親まりさは、ぷくーっと膨れながらもぷるぷる震えていた。男が親まり
さの傍にしゃがみ込み、赤まりさを乗せた手とは逆の手で親まりさの頬を押した。
「ぽひゅるるるる…!」
溜めた空気が口の外に漏れ出し、情けない声を出す。親まりさは顔を真っ赤にしている。男はそんな親まりさのそば
に、赤まりさをそっと離してやった。赤まりさは久しぶりに踏んだ地面に安心したのか、すぐに親まりさの元へと駆け
寄り、
「ゆぐっ…ゆぐっ…」
泣きながら、すーりすーりしていた。男は、呆けている親まりさに向かって、
「子供から目を離したら危ないぞ。親なら、ちゃんと子供を見とくもんだ」
「ゆっくり…ごめんなさい…」
親まりさが、素直に男に謝る。親まりさは道の脇でで美味しそうなキノコを見つけたため、思わずそっちに行ってし
まい、赤まりさから目を離してしまったことへの負い目があった。親まりさは、
「にんげんさんっ!」
立ち去ろうとする、男を呼びとめた。男が振りかえる。
「どうした?」
「ゆっくり…ありがとうっ!」
親まりさの言葉に、今度は一瞬だけ男が呆けたが、笑みを浮かべてそのまま去っていった。
「どうしたもんですかねぇ…まさか、こんなにたくさんのゆっくりが生息しているなんて…」
五人の男たちが集まって会話をしている。その中には先ほどの男も混ざっていた。最初に言葉を発したのは、街の市
長である初老の男であった。それに対し、言葉を返すのは、険しい表情をしたメガネの男である。
「関係ないでしょう。工事が始まればどこかに逃げて行くでしょうし」
「しかし数が多い…。作業の邪魔をされちゃあ思うように工程が進まねぇぞ」
筋肉隆々のヘルメットをかぶった屈強な男が、声を上げる。先ほど、まりさ種とやり取りをしていた若い男が提案す
る。
「あれだけの群れでしたら、群れを統率するゆっくりがいるはずです。そいつに会って立ち退いてもらうように交渉を
してみてはどうでしょうか」
その言葉に、メガネの男が嘲笑を浮かべ、
「ゆっくり相手に交渉?覚えておきたまえ。交渉というのは、立場が同じ相手に対して行うものだ。君はゆっくりか?
違うだろう?」
「しかし…群れを壊滅させたことで人間を恨んで…街に大挙して襲ってくるなんてことになったら…」
市長はあくまで弱気な発言を続ける。若い男も、
「作業長さんも…ゆっくりの悲鳴を聞きながら作業するんじゃ、あまりいい気はしないんじゃないですか?」
「そりゃ、まぁ…な。それもあるんだが…ゆっくりを潰しちまってそれが機械とかに絡まるんじゃねぇか、って思って
よ…」
作業長と呼ばれた屈強な男も、このまま工事計画を推し進めるのは乗り気ではないらしい。メガネの男は、気づかれ
ないように、舌打ちをした。そして、
「では工期を遅らせるんですか?政権が代われば、同じように予算が出るとは限りませんよ?」
この言葉に、一同は静まり返る。市長は、しばらく考え込んだ後、
「わかった。ではまず交渉をしてみよう。それが決裂したら仕方ない…すぐにでも工事を始めてくれ」
「ゆっくりが向かってきた場合、作業に影響はねぇが進捗には多少影響する可能性がある。それでいいんなら」
メガネの男が市長の顔色を窺う。市長が頷く。メガネの男は、
「構いません。提出していただく予算と工程表には、ゆっくりを除去しながらという前提で算出していただいて結構で
す」
「そうか。わかった。よし、じゃあ帰るぞ。戻って積算だ」
「ハイ」
工事関係者の二人が、その場を去っていく。市長と、メガネの男、そして若い男の三人が取り残された。若い男は、
市役所と工事関係者のパイプ役であった。その若い男が、
「では…日を改めて、ゆっくりと交渉を行うということで…準備もあるでしょうし」
「む?何を言っているんだキミは?一体、何を準備するというんだね?たかが饅頭相手にする交渉の真似ごとに」
メガネの男が皮肉たっぷりに若い男に反論する。
「…群れに移動してもらう場所の候補地くらいは、把握しておいたほうがいいと思いましたが…」
「くだらんな。饅頭共が工事予定地から消えてしまえば、その後のことなど知ったことではない」
「…では、すぐに交渉に向かいますか」
三人は、群れの中心へと向かって歩き始めた。周囲には木の陰や草むらから顔だけ出して不安そうな表情を浮かべて
いるゆっくりの姿が見てとれた。
「むきゅっ」
そこに一匹のゆっくり…ぱちゅりー種が現れ、立ちふさがった。群れの長であった。長ぱちゅりーは、冷静に三人を
眺めると、とりあえず敵意はないことだけを確認し、挨拶をしてきた。
「ゆっくりしていってね!!!」
市長とメガネの男は無言のままだったが、若い男は笑顔を浮かべながら、
「ゆっくりしていってね」
とだけ返した。長ぱちゅりーは、挨拶を返されたことで話が通じる相手だと三人を認識したのか、
「むきゅっ…ここはぱちゅたちのゆっくりぷれいすなのだけれど…にんげんさんたちは、なにかごようがあるのかしら?」
「ああ。実はね…」
若い男が、口を開きかけたそのとき、メガネの男が、
「今すぐここから出ていけ」
冷たく言い放った。若い男がメガネの男に向き直る。長ぱちゅりーは、黙っていた。黙って、メガネの男を見つめて
いた。三人の周囲に隠れていたゆっくりたちもざわつき始めた。
「でていけ、って…ここはまりさたちのゆっくりぷれいすなのに…」
「にんげんさんよりもさきにすんでるのに…」
「あのにんげんさんはなにをいってるかしら…とかいはじゃないわ…」
長ぱちゅりーは、深呼吸をして尋ねる。
「むきゅ。いったいどういうことなのかおしえてもらえないかしら…?」
「この土地は、既に私たちが買収している。ゆえに、私たちのものだ。お前たちの住む場所ではなくなった。だから、
出ていけと言っている」
「む…きゅ?ばい…しゅう?」
首をかしげる長ぱちゅりーの動きが癇に障ったのか、メガネの男が怒鳴り声を上げた。
「出て行くのか、行かないのか、聞いているのはそれだけだ!さっさと答えんか、このド饅頭が!!!!」
「むきゅ…」
草むらから血気盛んなゆっくりが数匹飛び出してきた。そして、長ぱちゅりーのそばに陣取る。
「にんげんさんはなにをいってるのぜ!」
「そうだよ!かってにきめないでねっ!れいむおこるよ!ぷんぷんっ!」
「ありすたち、なんにもわるいことしてないのに!」
メガネの男が、ゆっくりたちに一歩近づく。それだけで、長ぱちゅりーの周りのゆっくりたちは、ぴょんぴょんと
逃げて行った。
「饅頭ごときが…!」
その後も、メガネの男による一方的な発言のみによる話し合いは続き、意地でも譲る気配のない長ぱちゅりーに対
して癇癪を起こし、“明日までにここから出て行け、さもなければ全員潰す”とだけ言い残して、市長と共に帰って
行った。
若い男と長ぱちゅりーだけが取り残されていた。長ぱちゅりーは、少し涙目になりながら困ったような表情を浮か
べている。若い男はそんな長ぱちゅりーの横に座ると、
「すまない…」
「むきゅ…おにいさんは…わるいひとじゃないとおもうのだわ…」
「いや、やっぱり悪い人だよ。キミたちにとってはね…」
「どうしてかしら…?」
「…滅茶苦茶なことを言っているのはわかっている。でも、どこか別の場所に移り住んでくれないか…?」
若い男の目は真剣だった。怒鳴り声を上げる怖い人間がいなくなったことを確認した、他のゆっくりたちもぞろぞ
ろと一人と一匹の周りに集まってきた。その数は、百や二百ではなかった。この数の多さが、ここがいかにゆっくり
たちにとって過ごしやすい場所だったかを証明している。
あのときのまりさ親子が不安そうに、若い男の元にやってきた。帽子のつばの上には、先ほどの赤まりさも乗って
いる。
「にんげんさん…まりさたち、どうなっちゃうの…?」
「…ひどい話だとはわかっているけど…あの人はキミたちがここから出て行かなければ、本当にキミたちを全員殺す
と思う」
殺される、と聞いて、ゆっくりたちは思い思いに不満を若い男にぶつけてきた。ため息をついて若い男が立ちあが
る。それだけで、周りのゆっくりたちが二、三歩後ろに後ずさりした。野生のゆっくりは本来は臆病な性格である。
自ら人間と関わり合いになろうとするような、ゆっくりはいない。
若い男は長ぱちゅりーに、
「もし…この近くで大きな音が聞こえて…たくさんの人間が入ってくるようになったら…逃げてくれ」
それだけ伝えて、ゆっくりぷれいすを後にした。まりさが、立ち去ろうとする男の後ろ姿に向かって、何度か声を
かけたが、今度は振りかえらなかった。
群れが静寂に包まれる。
「どうしたら…いいのぉ…?」
一匹のゆっくりの言葉に、再びざわつき始めるゆっくりたち。長ぱちゅりーにもどうしていいかわからなかった。
ここは、親子何代にも渡って守られてきた自慢のゆっくりぷれいすだ。それを手放すことなどできない。加えて、大
規模な移動を行うには、群れの数が増えすぎている。移動することはおろか、これほどの数のゆっくりが暮らせる新
天地を探すことは不可能に近かった。他のゆっくりの群れもいる。群れ同士の間で抗争が起こりかねない。
「あのにんげんさんはかってだよ!どうしてれいむたちがでていかないといけないのぉ?!」
「そうだよ!ひどいことするにんげんさんはゆっくりできないよ!」
「ありすたち…ここからはなれたくないわ…こんなとかいはなばしょ…ほかのところにあるわけないもの…」
皆、それぞれに不満を漏らしたが、そこから解決策などにたどり着くはずはなかった。日も落ち、寒くなってきた
ので、群れは一度解散して各々の巣穴へと帰って行った。
「むきゅぅ…こまったことになったわ…」
二、
ゆっくりとの“交渉”を終えた日から、一週間が経った。工事業者は見積書を市役所に提出し、契約が成立したの
で、工事に取り掛かる下準備を始めていた。彼らは、あのゆっくりぷれいすのあった場所に、巨大なゴミ処理施設を
建設しようとしていた。
工事に取りかかるに当たって、懸念されるのは工事用道路の建設と、樹木の伐採。そしてゆっくりによる重機への
被害がどれほどのものになるかの予想がつかないことだった。もちろん、ゆっくりたちは全員逃げ出しているかも知
れない。樹木伐採を行うに当たって、ゆっくりの有無の確認と駆除も合わせて行う手筈になっていた。それでも全て
のゆっくりを駆除することはできないだろう。それほど、ゆっくりたちの数は多かった。
そして、当のゆっくりたちはというと。
「ゆゆっ!さむくなってきたから…ほんかくてきに、ふゆごもりするよっ!」
「ゆっゆっおー!」
「えいえいゆー!」
完全に忘れていた。
長ぱちゅりーでさえ、忘れていた。何日か前に、人間がこの場所にやってきて何か言っていたことなど忘却の彼方
である。当然、メガネの男の警告も、若い男の忠告も夢物語と化していた。
いくつかの家族が巣穴の入り口をしっかりと閉じ、本格的な越冬に取りかかる。それでもなお、未だ外で活動でき
る元気のいいゆっくりたちの数は相当なものである。
工事業者は、予想されるゆっくりの総数を千五百匹で算出していたが、その数字に概ね間違いはなかった。一口に
ゆっくりぷれいすとは言ってもその総面積は凄まじいものがあり、実は工事対象域の四分の三ほどがそれに該当して
いた。余談ではあるが、このゆっくりの群れは県下随一のものであった。
ゆっくりぷれいすのある森の入り口付近に、コンマ4のバックホーとクレーン車、4tダンプが十数台集結してい
る。加えて、チェーンソーなどを装備した地元の森林組合などが作業着にヘルメット姿で整列している。拡声器を使
っての作業工程と役割分担の説明が終わったのが、午前九時半。
業者たちは、一斉に動き始めた。
まずは、メインの場所であるゆっくりぷれいすへと続くダンプが往来するための道を確保しなければならない。森
林組合の山師たちが、次々と樹木を切り倒して行く。それをクレーン車が吊り上げ、4tダンプに積み上げて行く。
4tダンプは、委託者の指定した場所に積み上げられた樹木を運んで行く。そして、バックホーが大地を削り、仮の
道を構築していく。
樹木を切り倒したときの轟音や、重機の咆哮はゆっくりぷれいすに住むゆっくりたちにも届いていた。時折、巣穴
の中にまで振動が伝わり、赤ゆは親ゆに身を寄せぶるぶる震えていた。何匹かの勇敢なゆっくりは、その様子を遠目
に偵察に来ていた。
そして、次々となぎ倒される樹木や掘削されていく地面を目の当たりにし、恐怖で震え上がった。木も草も、花も。
何もかもがゆっくりたちの目の前で無残に破壊されていく。ゆっくりたちには何がなんだかわからなかった。わから
なかったけども、何かゆっくりできなくなりそうなことをしているのだけはわかった。意を決して、十数匹のゆっく
りが、作業中の業者たちの前に飛び出した。
「にんげんさんっ!なにやってるのぉぉぉ??!!!」
「やめてね!れいむたちのごはんさんがなくなっちゃうよぅ!!!」
重機のエンジン音に遮られ、小さなゆっくりたちの声が運転手や作業員の耳に届くはずもない。れいむとありすは、
人間が自分たちのことを無視しているのだと思い、もっと近くに行こうとあんよを蹴った。
そのときだった。旋回したバックホーのアームが、れいむとありすに直撃した。
「ぎっ!!」
「ゆ゛ぐっ!!!」
固いバケットがれいむとありすの柔らかい頬を叩き、二匹を弾き飛ばす。激突したときの衝撃でれいむの目玉が飛
び出し、ありすも中身のカスタードを四方にぶちまけた。そのまま地面に叩きつけられ、動かなくなる二匹。痙攣を
起こしている。
「「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ…」」
そこへ4tダンプが到達する。二匹の視界には、一直線に自分たちに迫る巨大なタイヤが映っている。
「~~~~~~~っ!!!!」
声を上げる力など残されていない二匹のうちの一匹。ありすが前輪で踏みつぶされた。一瞬、ぐにゃりと顔が変形
したかと思うと、次の瞬間には破裂し、形を失い死んでいた。それを見て、れいむがあまりの気持ち悪さに中身の餡
子を勢いよく吐きだす…のも一瞬だった。今度は、後輪がれいむを無残に轢き殺した。餡子がれいむの穴という穴か
ら飛び出す。
その二匹の死にざまを見せつけられた残りのゆっくりたちは、大半がしーしーを漏らしながらその場を一歩も動け
ずにいた。
「ゆ…ゆっくりにげるよ…っ!」
一匹のまりさが振り返る。しかし、その場を動かない。目の前には、何やらゆっくりできなさそうな音を出す道具
と、ゆっくりたちを見下ろす不気味な視線があった。
「チェーンソーはやめとけ。餡子とか皮が刃にこびりついたら使えなくなる。こんな奴らはな…」
まりさが真っ二つになって死んだ。帽子ごと切り裂かれて、中身の餡子が地面にドロリと流れ落ちる。
「ナタで十分だ」
「ゆぎゃあああああ!!!!までぃざ!!!までぃざああああああ!!!!!!」
がたがた震えて一歩も動けないでいるゆっくりたちの髪を鷲掴みにして一匹一匹バックホーの前に放り投げる。そ
してバックホーのキャタピラが、れいむを、まりさを、ありすを、滅茶苦茶の挽饅頭に変えて行った。どうやら、そ
の過程で、ゆっくりたちの中身や皮がキャタピラの車輪に絡まったらしく、この方法でゆっくりを潰すことはやめる
ことにした。
音を聞きつけ、後から後からやってくるゆっくりたちも同様にして殺されていった。
日を追うごとに、轟音と地鳴りがゆっくりぷれいすへと近づいてくる。これまでの間に何匹のゆっくりが死んだか
は予想しかねるが、建設予定地への工事用道路も完成し、いよいよゆっくりぷれいすの工事が始まろうとしていた。
ゆっくりにとって一番お手軽な巣穴作りといえば、木の根の下に穴を掘ることだ。こうすることで、木の根が土の
天井を支え、崩落の危険を失くすことができる。
「やべでえ゛え゛え゛え゛っ!!!まだおうちのながにれいむだぢのちびちゃんがいる゛の゛お゛お゛っ!!!!」
既に潰されて、一言も喋ることのできないまりさの横で、れいむが泣きながら叫んでいる。伐採の過程で巣穴の入
口は塞がれており、今なお空洞になっているのであろう巣穴の中から、赤ゆたちの助けを求めて泣き叫ぶ声が聞こえ
てくる。
「お゛ぎゃーじゃああ゛あ゛あ゛ん!!!ぎょわいよ゛ぉぉぉぉ!!!」
「ゆんやあああああああああ!!!ゆっくちできにゃいい゛ぃ゛い゛ぃ゛っ!!!!!」
「ゆっくちだちてにぇっ!!おにぇぎゃいじましゅぅぅぅぅ!!!!!」
バキバキィッ…という音と共に、バックホーが残された木の根の傍に突き刺さる。根っこごと引き抜く作業に入っ
ていた。深く、深く、バケットを土の下にねじ込んで行く。れいむは、滝のように涙を流しながら、
「やめ…てよ………やめ、て…」
周りの土を破壊しながら、木の根っこが引きはがされる。巣穴の天井は一気に崩落し、赤ゆたちを一瞬で潰した。
重機のけたたましい音で、赤ゆたちの断末魔はれいむの元に届くことはなかった。
「ゆ…ゆあ…ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」
れいむが叫び声を上げるのとほぼ同時に、れいむの体が宙に浮いた。
「ゆっ?ゆゆっ??」
もう、何がなんだかわからない。れいむは作業員の男に飾りを掴まれる形でぶら下がっていた。そして、口を広げ
た土嚢袋の中に投げ込まれる。土嚢袋の中には既に死体となったまりさも入っていた。地面に叩きつけられた衝撃で
思わず餡子を吐き出す。のも、つかの間。袋の中に土が入れられる。れいむの目や口の中に土が入り込む。
「ゆげぇっ!ゆぺっ!!!や…やめてねっ!れいむ…うごけないよっ!!!!」
無言で二杯目の土を流し込むと、れいむの声は聞こえなくなった。周囲を土で固められ、身動きも取れないのだろ
う。作業員は土嚢袋の口を紐で縛ると、近くに積まれていた土嚢袋の山の中に、れいむの入った土嚢袋を放り投げた。
この土嚢袋の中には、土だけではなく先ほどのれいむのように、少量のゆっくりも含まれている。
同じようにして、巣穴ごと破壊されて全滅するゆっくり一家の数は後を絶たなかった。冬籠り中の一家などは、家
族まとめて、土の下に生き埋めとなり声も上げることができずに死んだ。
「にんげんさんっ!ゆっくりやめてねっ!!!どおしてこんなことするのぉぉぉぉぉ!!???」
今なお、唸りを上げるバックホーの前に数匹のゆっくりが並び、ぷくぅぅぅ、っと膨れて威嚇している。そして、
それらが旋回したアームでまとめて宙に放り出される。美しい放物線を描き、ゆっくりたちが地面に叩きつけられて
死んだ。そのうちの一匹は、もう一台のバックホー付近にまで投げ出されて止まった。れいむ種だった。れいむは、
朦朧とする意識の中で、その場を逃げ出そうと必死にあんよを動かそうとするが動かない。
「どぼじであんよざんうごがな゛いの゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!????」
あんよが動かないのではなく、れいむの自慢の赤いリボンがキャタピラに巻き込まれており、動けなくなっている
のだ。当然、それには気づいていない。ふいに、そのバックホーが移動を始めた。そして、れいむのリボンもどんど
ん巻き込まれていき、やがて、れいむの髪の毛も車輪に巻き込まれていった。
「ゆ゛ぎい゛い゛い゛い゛っ!!!!!!!」
歯を食いしばり、既に宙釣り状態のれいむが体を振り回し、その痛みから逃れようとするが逆効果だ。リボンは奥
まで絡まっているため外れる気配はない。いたずらに、自分の髪を引きちぎっているだけだ。その激痛がれいむに追
い内をかける。
「い゛だい゛っ!い゛だい゛よ゛っ!!!ゆっぐりじでね゛!!!ゆっぐりしでね!!!!」
更に車輪が周り、れいむの額の辺りが狭い隙間へと無理矢理入っていく。あまりの痛みに、れいむが餡子を吐き出
す。そして、顔の上部から皮がぶちぶちとちぎれていき、圧迫された中身の餡子があにゃるから勢いよく噴出される。
「ゆ゛ぶぶぶぶぶ…」
既にれいむは絶命していた。バックホーの運転手も車輪の回りが悪くなったことに気付き、逆回転させると、れい
むがぽとりと地面に落ちてまた動き始めた。向きを変えようとしたときに、れいむはキャタピラにすり潰されて影も
形もなくなった。
作業は三交代制で行われ、深夜も続いた。ゆっくりたちにとっての地獄の責め苦は昼夜問わず繰り返された。平和
だったゆっくりぷれいすには絶叫と悲鳴、そして轟音だけが響いていた。
それでもゆっくりたちはその場を離れなかった。他に、行くアテなどなかったからだ。
三、
その後も作業は続けられ、群れのゆっくりの大半が死滅した。重機による掘削作業で死んだゆっくりたちはまだ、
マシだったのかも知れない。廃土が流出しないようにと張り巡らされたブルーシートの重し代わりにされている土嚢
ゆっくりたちは、トラロープにより連結された土嚢袋の中で未だにもがき苦しんでいる。
その日は、雨で作業が休みだった。幸か不幸か。けっこんっ!の約束をしたれいむとまりさは同じ土嚢袋の中に詰
め込まれていた。まりさが必死にれいむを守ろうとした結果、二匹まとめて叩きこまれてしまったのだ。二匹の間に
はもちろん、土が充填されており互いに頬を擦り合わせ慰めることもできなかったが、言葉で励まし合うことはでき
た。
「れいむ…」
「どうしたの…まりさ…」
「さむいのは…だいじょうぶ…?」
「うん…れいむはへいきだよ…まりさはだいじょうぶなの…?」
「まりさもへいきだよ」
身動きが取れないことは、逆に体内の餡子をいたずらに消費する必要がないということだ。土で覆われているため、
ある意味では暖かい。寒さに体力を奪われることもないだろう。
しかし、振り続く雨は、少しずつ土嚢袋に浸透していく。れいむもまりさも顔全体が土に覆われているわけではな
い。
(ゆゆっ…つめたいよ…でも…まりさにはしんぱいをかけたくないよ…)
れいむの頬に、濡れた土嚢袋が張り付く。それはまりさも同様だった。冷たさが、二匹の不安をあおり始めた。れ
いむもまりさも、自分たちがずっと水に濡れると溶けて死んでしまうことは知っている。れいむは歯をカチカチ鳴ら
し始めた。その音はまりさにも聞こえた。
「れいむっ!さむいの?」
まりさも、何故、れいむが震えているのかわかっていたが、あえてその言葉を出そうとはしなかった。まりさも認
めたくはなかったのだ。二匹の顔は、少しずつ溶け始めていた。溶けた部分の感覚が少しずつ無くなっていくのがた
まらなく怖い。
れいむは何も答えようとはしなかった。
「れいむ………」
二度目の、最愛のゆっくりから漏れた小さな声に、れいむは堰を切ったように涙を流し始めた。
「まりさぁっ…まりさぁっ…!!!れいむ…こわいよ…こわいよぅ…!!!おかおが…へんだよぅ…っ!!!」
そのとき、同様に土嚢袋に詰め込まれた他のゆっくりたちも悲鳴を上げ始めた。
「ゆぎゃああああああ!!!!ありすのとかいはなおかおがあああああああ!!!!!」
「あめさん!!!ゆっくりやんでねっ!!!ゆっくりできなくなっちゃうよっ!!!!」
「おみずさんはゆっくりできない~~~~!!!!」
「おきゃああしゃあああああん!!!!!!れーみゅ、とけちゃうよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
仲間たちの悲鳴が二匹にも届く。れいむもまりさもがたがた震えていた。雨がやむ気配はなかった。ブルーシート
の近辺で、ゆっくりたちが次々に断末魔の声を上げる。
「でいぶのながみ゛ざん゛!!!ゆっぐりじな゛い゛でも゛どっでぎでね゛っ!!ゆあああああああ゛あ゛!!!」
皮がふやけて破れ、中身が漏れ出すゆっくりが出てきた。
「ありすのおべべ…ゆっぐりじでねっ!おでが…な゛に゛も゛…なにもみえ゛な゛い゛ぃ゛ぃ゛!!!!」
目の周りの皮が溶け、目玉が落ちるゆっくりもいた。
「…………………………」
当の昔にショック死しているのはぱちゅりー種だ。ある意味、一番幸せだったかも知れない。まりさは必死にれい
むを励まそうとしていた。
「れいむっ!まりさ、このあいだおいしいきのこさんをはえているばしょをみつけたよ!いっしょにたべにいこうね!」
「…………………」
れいむは答えない。まりさは、目に涙を浮かべながら、
「れいむっ!はるさんがきたら、すっきりー!してかわいいちびちゃんをつくろうねっ!」
「…………………」
答えない。まりさはついに泣きながら、
「れ…れいむぅ…ゆっくりして…ゆっくりしてよぉ…」
まりさは気づかない。既にれいむが死んでいることに。まりさは、口を動かせなくなるまで、れいむのことを励ま
し続けた。やがて、まりさも溶けて死んだ。
ブルーシートの土嚢袋から、声が聞こえてくることはそれ以降なかった。
雨が上がった翌日。ブルーシートの土嚢袋はまだその機能を果たしていた。ゆっくりは溶けていなくなってしまっ
たが、関係ない。土と皮と餡子が入っていただけだ。体積自体は変わらない。工事も順調に進み、荒れ果てた土地を
整地する作業が始まった。
重機の魔の爪から逃れたゆっくりの一家たちは、毎晩響いた轟音から解放され安堵の表情を浮かべていた。小さな
振動などは今も続いているが、ひところに比べれば大したものではない。冬籠りの準備を終えた後だったので、食料
も豊富に残っている。
まりさとありすの一家は、久しぶりにゆっくりした時間を過ごしていた。
「まりさ…よかったわね…はるさんがきたら、たくさんひなたぼっこをしましょう」
「たすかったよ…ちびちゃんたち…はるさんがくるまでゆっくりすーやすーやしようね」
「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!」
「ゆっくち!ゆっくち!!」
しかし、この一家に春は訪れない。巣穴の入り口は既にコンクリートで固められている。二度とこの巣穴を出るこ
とはできない。
「おいお前…何やってるんだ」
作業員の一人が固まる前のコンクリートに赤ゆを放り込んでいるのを見た別の作業員が声を掛ける。放り込まれた
赤れいむは顔面からコンクリートに着水し、揉み上げをぴこぴこさせながら抵抗しているが喋ることはできない。同
様に放り込まれた赤まりさと赤ありすは、なんとか顔を外に向けることができたため、助けを求めてくる。
「ゆびゃああああ!!!どおちちぇうぎょけにゃいのぉぉぉぉぉ???!!!」
「ときゃいはにゃおにーしゃん…!!ありしゅたちをたしゅけちぇにぇっ!!!!」
自分たちを放り込んだ相手に助けを求めるとは愚の骨頂である。
「これ、後からクラッシャーランにするんだ。どうせバラバラに壊すからついでにゆっくりを処分しようと思ってさ」
クラッシャーランとは舗装の下層路盤や目潰し用などに使う粗い砕石のことである。つまり、この赤ゆ入りコンク
リートは固まったのち、赤ゆごと粉砕機に放り込まれ粉々に砕かれるのである。もちろん、その過程で赤ゆは死ぬだ
ろう。
もう二、三匹、赤ゆをコンクリートの中にぼちゃぼちゃと放り込む。勢いよく投げすぎて全身がコンクリートの中
に沈んでしまった赤ゆもいた。
それからしばらく経って戻ってみると、そこにはコンクリートにより完全に固定された数匹の赤ゆたちが顔だけ出
してゆーゆー泣いていた。固まったコンクリートを少しずつ粉砕していき、粉砕機に投げ込んで行く。凄まじい轟音
と共に、バラバラと落ちて行くコンクリートの塊を見て赤ゆたちは言葉を失った。
やがて、頭だけ出した赤まりさが埋め込まれたコンクリート粉砕機の中に投げ込まれた。
「ゆ゛ぎゃああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
赤まりさは粉砕機の中で滅茶苦茶に掻きまわされた。砕けたコンクリートが、回転する機械が、赤まりさの柔らか
な皮を徹底的に破壊していく。バラバラになったコンクリートと一緒に、少量の餡子と帽子と思われる黒い紙切れの
ようなものが機械から吐き出され、赤まりさの命の灯は消えた。
「ゆ…ゆ…にんげんしゃん…やめちぇにぇ…たしゅけちぇ…」
赤ありすが顔をくしゃくしゃにしながら、作業員に助けを求める。作業員にしてみれば、いちいちゆっくりの言葉
に耳を傾ける必要はない。無言で粉砕機の中に赤ありすのコンクリートを投げ込む。
「ゆ゛ぐりゅびゅげべびゅびぴぎゅぎぐぃゆ゛ぅ゛!!!!!!!」
何を言ってるのかさっぱりわからないような断末魔を上げ、先ほどの赤まりさ同様、赤ありすもボロボロの皮屑と
なって粉砕機から出てきた。
無言でぽいぽいと放り込んで行くたびに、赤ゆの絶叫が響く。粉砕機の中は地獄であろう。轟音、衝撃、回転、痛
み。その全てが一瞬で襲いかかってくるのだ。最後のコンクリートを投げ込んだときに、作業員が思わず声を上げた。
「うわ…こいつ…運がいいな…」
作業員が拾い上げたのは、顔面からコンクリートに着水し揉み上げをぴこぴこさせていたあの赤れいむだった。も
ちろん、顔はコンクリートに埋め込まれているため、喋ることはおろか身動きすら取れない状態ではあるが。それで
も、よほど苦しいのか、コンクリートから飛び出た揉み上げの部分は未だにぴこぴこと動かし続けている。奇跡的に
左右両方の揉み上げが飛び出しているので、滑稽なこと極まりない。
作業員は、その小刻みに動く揉み上げをなんとなく掴んでみた。すると、びくっ、とでもしたのだろうか。もう片
方の揉み上げがぴたっ、と止まった。掴んでいた揉み上げを話す。しばらくすると、また両方の揉み上げがぴこぴこ
と動き始めた。もう一度掴む。またもう片方が止まる。そして、なんとなく掴んでいた揉み上げを引きちぎった。
すると、一瞬だけ逆の揉み上げがぴんっ!と伸びたかと思うと、へにゃりと力なく垂れた。作業員は笑った。その
ままクラッシャーランの中に放り投げ、それをバックホーが掬いあげていくとき、赤れいむの揉み上げはもう一度だ
けぴこっ!と動いたが、砕石の海の下に沈みそれ以降どうなったかはわからなかった。
四、
本格的な建物の建築が始まってからは、ゆっくりが現れることはなかった。
ゆっくりたちが毎日のように跳ねまわり、日向ぼっこをしたり、草や花を食べたり、虫を追いかけたりした場所は
すべてコンクリートやアスファルトで覆い隠されてしまった。相変わらず、工事は続いている。生き残ったゆっくり
たちは逃げ出していたが、遠くから聞こえてくる大きな音を聞くたびに、歯を鳴らし震える日々を過ごしていた。
何代にもわたって続いたゆっくりぷれいすはわずか一カ月弱で壊滅した。
この出来事で、多くのゆっくりたちが死んだ。家族を、友を、そして恋人を失ったゆっくりたちは毎日毎日泣きな
がら過ごしていた。あの楽しかった日々に戻ることは二度とない。餡子に鮮明に刻み込まれたトラウマは、ゆっくり
たちが生きている限り、消えてなくなることはないだろう。
工事は着々と進み、翌年の春。予定していたゴミ処理場は完成した。
そのゴミ処理場の下。巣穴の中で越冬をしていたまりさ一家は、暖かくなってきたことを確認し、春の訪れを喜ん
でいた。
「ゆっ!ありす…はるさんがきたよ!」
「とかいはだわ…っ!はやくちびちゃんたちをおこしておそとにでましょう!」
親まりさと親ありすは、赤まりさと赤ありすをそれぞれ起こす。二匹の赤ゆは、欠伸をしながらのーびのーびして、
「ゆっくちおきちゃよっ!!!!」
「ゆっくちしちぇにっちぇにぇ~!」
両親に挨拶をする。親まりさと親ありすはそんな赤ゆたちの愛らしい姿を見て、微笑みを浮かべる。親まりさは、
葉っぱの上に載せられた最後の芋虫を数匹取り出すと、赤ゆたちに与えた。
「「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!」」
親まりさは、親ありすにちゅっちゅしたあと、
「ありす!ちびちゃん!それじゃあ、まりさはかりにいってくるよっ!!」
「いってらっしゃい!!!」
「「がんばっちぇにぇ~!!」」
おわり
日常起こりうるゆっくりたちの悲劇をこよなく愛する余白あきでした。
序、
「おきゃーしゃん、れーみゅ、のーびのーびできりゅようになっちゃよ!」
そう言って、ピンポン玉くらいの大きさの赤ちゃんゆっくり…赤れいむが一生懸命自身の体を伸ばしている。それを
バスケットボールサイズの成体ゆっくり、親れいむが見て満足そうな笑みを浮かべている。
すぐ近くでは、二匹の赤まりさが蝶々を追いかけていた。親まりさ指導のもと、狩りの練習だ。小さな体でぴょこぴ
ょこ跳ねながら、
「ゆゆーん!むししゃん!まっちぇにぇっ!ゆっくちまりしゃにたべられちぇにぇっ!」
「おりちぇきちぇにぇっ!むししゃん!ゆっくちしちぇにぇっ!」
歓声を上げている。
成体のありすは、巣穴の近くに咲いていた花を摘んで、子供たちの髪に飾り遊んでいる。ぱちゅりーは木陰ですーや
すーやとお昼寝をしていた。ゆっくりたちは、思い思いにゆっくりしていた。れいむのお歌を聞き、喝采を浴びせるゆ
っくりや、ぱちゅりーと一緒にお勉強をしているゆっくり。まりさの集団が森から狩りを終えて帰ってくる。それをつ
がいのゆっくりたちが温かく迎えた。
ゆっくりぷれいす。
群れのどれもが、この場所をそう信じて疑わなかった。ゆっくりは、ゆっくりするために生きている。そして、自分
の理想のゆっくりぷれいすを探し求め、山を、森を、這いずりまわるのだ。そして、
「ゆゆ…れいむ…ゆっくり、まりさのおはなしをきいてほしいよ」
一匹の成体まりさが、同じくらいのサイズの成体れいむに真剣な眼差しで言葉を紡ぐ。
「ゆ…ど、どうしたの…?しんっけんっ!なかおして…(どきどき)」
まりさは、突然上を向き、
「ゆあっ!」
声を上げる。釣られて、れいむが空を見上げた。れいむは不思議そうな顔ををしながら、
(なんにもないよ)
顔をまりさのほうに戻そうとしたとき、れいむの柔らかな唇に、まりさの唇がそっと触れた。れいむが茹で饅頭状態
になり、チラッ!チラッ!とまりさを見つめる。まりさはまりさで少し恥ずかしそうに、
「ゆ…れ…れいむと、ちゅっちゅしたよ…」
などと言っている。れいむも、まりさも、これが“ふぁーすとちゅっちゅ”だった。ドキドキ冷めやらぬ両者の沈黙
を再びまりさが破る。
「れいむ…まりさと…ずっといっしょにゆっくりしてほしいよ」
それは、ゆっくりのプロポーズだった。まりさは、れいむをつがいに選びたかったのだ。れいむは、少しだけうつむ
き、
「まりさ…れいむも…まりさと…いっしょに…ゆっくり…したいよ」
呟く。まりさの表情に花が咲く。そして、れいむの周りをぴょんぴょん飛び跳ね始めた。れいむは、自分の周りをく
るくる回るまりさの姿を追っている。
「れいむっ!れいむっ!まりさ、すっごくうれしいよ!!」
そう言って、まりさはもう一度れいむの唇を奪った。今度は正面から、堂々と。二度、三度とちゅっちゅを繰り返し、
二匹はそろそろ恥ずかしくなってきたのか、お互い顔を背けた。顔を背けたまま、
「れいむ…」
「な…なに?」
「ゆっくりしていってね!」
「…ゆっくりしていってね!」
自分の大好きなゆっくりを探し、生涯の伴侶として選び、新しい家族となっていくのだ。まだ若いゆっくりの、甘酸
っぱい青春の一ページだった。
季節は、秋の終わり。群れに所属するゆっくりたちは総出で狩りを行い、食料を備蓄していった。れいむとまりさは、
まだ親ゆっくりと一緒に暮らしていたため、二匹で生活するだけの力はない。少なくとも、越冬を終えてからでないと
無理な話であろう。
真冬の間は、一歩も外に出ないため、れいむとまりさはお互いに逢うことができない。そのことが、二匹の恋の炎を
更に燃え上がらせることだろう。
少しずつ冷たくなっていく晩秋の風を感じながら、それでもゆっくりたちはこのゆっくりした日々が、このゆっくり
した場所で、ずっと続いていくのだと信じていた。
一、
ある日、複数の人間がゆっくりぷれいすの近くにやってきた。このゆっくりぷれいすの付近には街があったが、加工
所などの施設はなく、人間と関わることも滅多になかったため、遠目で人間をちらちら見ながらもさほど気にする様子
はなかった。人間は人間で、手に持ったバインダーを見ながら森の中をうろうろしているだけで、特にゆっくりに危害
を加えようとはしていない。
一匹の赤まりさが、また蝶々を追いかけて夢中で跳ねており、人間の足にぶつかって止まった。
「ゆ…いちゃい…いちゃいよぅ…っ!」
足元から聞こえる小さな声に、人間の男が赤まりさを手の平に乗せて持ちあげた。赤まりさは少しだけ身を震わせな
がら、男を見つめていた。
「ちび。お前の家族はどうした?」
男に話しかけられて、赤まりさの鼓動は更に早くなった。一刻も早くこの場所から逃げ出したかったが、飛び降りて
無事で済むような高さではない。何も答えない赤まりさを見て、男が困ったような表情を浮かべる。
「ひょっとして迷子か?」
「に…にに、にんげんさんっ!ちびちゃんを…かえしてねっ!!!」
草むらから、成体のまりさがガサガサと顔を出し、男を見上げる。男にも、このまりさが赤まりさの親であることは
すぐに理解できた。赤まりさは、親まりさの姿を確認すると声を上げて泣き始めた。
「お…おきゃ…おきゃああああしゃああああああん!!きょわいよぉぉぉぉ!!ゆっくちできにゃいよぉぉぉぉ!!!」
赤まりさの泣き叫ぶ姿を見て、男に何かひどいことをされたのだと勘違いした親まりさは、口の中に空気を溜めて、
精一杯威嚇した。それでも男は近づいてくる。親まりさは、ぷくーっと膨れながらもぷるぷる震えていた。男が親まり
さの傍にしゃがみ込み、赤まりさを乗せた手とは逆の手で親まりさの頬を押した。
「ぽひゅるるるる…!」
溜めた空気が口の外に漏れ出し、情けない声を出す。親まりさは顔を真っ赤にしている。男はそんな親まりさのそば
に、赤まりさをそっと離してやった。赤まりさは久しぶりに踏んだ地面に安心したのか、すぐに親まりさの元へと駆け
寄り、
「ゆぐっ…ゆぐっ…」
泣きながら、すーりすーりしていた。男は、呆けている親まりさに向かって、
「子供から目を離したら危ないぞ。親なら、ちゃんと子供を見とくもんだ」
「ゆっくり…ごめんなさい…」
親まりさが、素直に男に謝る。親まりさは道の脇でで美味しそうなキノコを見つけたため、思わずそっちに行ってし
まい、赤まりさから目を離してしまったことへの負い目があった。親まりさは、
「にんげんさんっ!」
立ち去ろうとする、男を呼びとめた。男が振りかえる。
「どうした?」
「ゆっくり…ありがとうっ!」
親まりさの言葉に、今度は一瞬だけ男が呆けたが、笑みを浮かべてそのまま去っていった。
「どうしたもんですかねぇ…まさか、こんなにたくさんのゆっくりが生息しているなんて…」
五人の男たちが集まって会話をしている。その中には先ほどの男も混ざっていた。最初に言葉を発したのは、街の市
長である初老の男であった。それに対し、言葉を返すのは、険しい表情をしたメガネの男である。
「関係ないでしょう。工事が始まればどこかに逃げて行くでしょうし」
「しかし数が多い…。作業の邪魔をされちゃあ思うように工程が進まねぇぞ」
筋肉隆々のヘルメットをかぶった屈強な男が、声を上げる。先ほど、まりさ種とやり取りをしていた若い男が提案す
る。
「あれだけの群れでしたら、群れを統率するゆっくりがいるはずです。そいつに会って立ち退いてもらうように交渉を
してみてはどうでしょうか」
その言葉に、メガネの男が嘲笑を浮かべ、
「ゆっくり相手に交渉?覚えておきたまえ。交渉というのは、立場が同じ相手に対して行うものだ。君はゆっくりか?
違うだろう?」
「しかし…群れを壊滅させたことで人間を恨んで…街に大挙して襲ってくるなんてことになったら…」
市長はあくまで弱気な発言を続ける。若い男も、
「作業長さんも…ゆっくりの悲鳴を聞きながら作業するんじゃ、あまりいい気はしないんじゃないですか?」
「そりゃ、まぁ…な。それもあるんだが…ゆっくりを潰しちまってそれが機械とかに絡まるんじゃねぇか、って思って
よ…」
作業長と呼ばれた屈強な男も、このまま工事計画を推し進めるのは乗り気ではないらしい。メガネの男は、気づかれ
ないように、舌打ちをした。そして、
「では工期を遅らせるんですか?政権が代われば、同じように予算が出るとは限りませんよ?」
この言葉に、一同は静まり返る。市長は、しばらく考え込んだ後、
「わかった。ではまず交渉をしてみよう。それが決裂したら仕方ない…すぐにでも工事を始めてくれ」
「ゆっくりが向かってきた場合、作業に影響はねぇが進捗には多少影響する可能性がある。それでいいんなら」
メガネの男が市長の顔色を窺う。市長が頷く。メガネの男は、
「構いません。提出していただく予算と工程表には、ゆっくりを除去しながらという前提で算出していただいて結構で
す」
「そうか。わかった。よし、じゃあ帰るぞ。戻って積算だ」
「ハイ」
工事関係者の二人が、その場を去っていく。市長と、メガネの男、そして若い男の三人が取り残された。若い男は、
市役所と工事関係者のパイプ役であった。その若い男が、
「では…日を改めて、ゆっくりと交渉を行うということで…準備もあるでしょうし」
「む?何を言っているんだキミは?一体、何を準備するというんだね?たかが饅頭相手にする交渉の真似ごとに」
メガネの男が皮肉たっぷりに若い男に反論する。
「…群れに移動してもらう場所の候補地くらいは、把握しておいたほうがいいと思いましたが…」
「くだらんな。饅頭共が工事予定地から消えてしまえば、その後のことなど知ったことではない」
「…では、すぐに交渉に向かいますか」
三人は、群れの中心へと向かって歩き始めた。周囲には木の陰や草むらから顔だけ出して不安そうな表情を浮かべて
いるゆっくりの姿が見てとれた。
「むきゅっ」
そこに一匹のゆっくり…ぱちゅりー種が現れ、立ちふさがった。群れの長であった。長ぱちゅりーは、冷静に三人を
眺めると、とりあえず敵意はないことだけを確認し、挨拶をしてきた。
「ゆっくりしていってね!!!」
市長とメガネの男は無言のままだったが、若い男は笑顔を浮かべながら、
「ゆっくりしていってね」
とだけ返した。長ぱちゅりーは、挨拶を返されたことで話が通じる相手だと三人を認識したのか、
「むきゅっ…ここはぱちゅたちのゆっくりぷれいすなのだけれど…にんげんさんたちは、なにかごようがあるのかしら?」
「ああ。実はね…」
若い男が、口を開きかけたそのとき、メガネの男が、
「今すぐここから出ていけ」
冷たく言い放った。若い男がメガネの男に向き直る。長ぱちゅりーは、黙っていた。黙って、メガネの男を見つめて
いた。三人の周囲に隠れていたゆっくりたちもざわつき始めた。
「でていけ、って…ここはまりさたちのゆっくりぷれいすなのに…」
「にんげんさんよりもさきにすんでるのに…」
「あのにんげんさんはなにをいってるかしら…とかいはじゃないわ…」
長ぱちゅりーは、深呼吸をして尋ねる。
「むきゅ。いったいどういうことなのかおしえてもらえないかしら…?」
「この土地は、既に私たちが買収している。ゆえに、私たちのものだ。お前たちの住む場所ではなくなった。だから、
出ていけと言っている」
「む…きゅ?ばい…しゅう?」
首をかしげる長ぱちゅりーの動きが癇に障ったのか、メガネの男が怒鳴り声を上げた。
「出て行くのか、行かないのか、聞いているのはそれだけだ!さっさと答えんか、このド饅頭が!!!!」
「むきゅ…」
草むらから血気盛んなゆっくりが数匹飛び出してきた。そして、長ぱちゅりーのそばに陣取る。
「にんげんさんはなにをいってるのぜ!」
「そうだよ!かってにきめないでねっ!れいむおこるよ!ぷんぷんっ!」
「ありすたち、なんにもわるいことしてないのに!」
メガネの男が、ゆっくりたちに一歩近づく。それだけで、長ぱちゅりーの周りのゆっくりたちは、ぴょんぴょんと
逃げて行った。
「饅頭ごときが…!」
その後も、メガネの男による一方的な発言のみによる話し合いは続き、意地でも譲る気配のない長ぱちゅりーに対
して癇癪を起こし、“明日までにここから出て行け、さもなければ全員潰す”とだけ言い残して、市長と共に帰って
行った。
若い男と長ぱちゅりーだけが取り残されていた。長ぱちゅりーは、少し涙目になりながら困ったような表情を浮か
べている。若い男はそんな長ぱちゅりーの横に座ると、
「すまない…」
「むきゅ…おにいさんは…わるいひとじゃないとおもうのだわ…」
「いや、やっぱり悪い人だよ。キミたちにとってはね…」
「どうしてかしら…?」
「…滅茶苦茶なことを言っているのはわかっている。でも、どこか別の場所に移り住んでくれないか…?」
若い男の目は真剣だった。怒鳴り声を上げる怖い人間がいなくなったことを確認した、他のゆっくりたちもぞろぞ
ろと一人と一匹の周りに集まってきた。その数は、百や二百ではなかった。この数の多さが、ここがいかにゆっくり
たちにとって過ごしやすい場所だったかを証明している。
あのときのまりさ親子が不安そうに、若い男の元にやってきた。帽子のつばの上には、先ほどの赤まりさも乗って
いる。
「にんげんさん…まりさたち、どうなっちゃうの…?」
「…ひどい話だとはわかっているけど…あの人はキミたちがここから出て行かなければ、本当にキミたちを全員殺す
と思う」
殺される、と聞いて、ゆっくりたちは思い思いに不満を若い男にぶつけてきた。ため息をついて若い男が立ちあが
る。それだけで、周りのゆっくりたちが二、三歩後ろに後ずさりした。野生のゆっくりは本来は臆病な性格である。
自ら人間と関わり合いになろうとするような、ゆっくりはいない。
若い男は長ぱちゅりーに、
「もし…この近くで大きな音が聞こえて…たくさんの人間が入ってくるようになったら…逃げてくれ」
それだけ伝えて、ゆっくりぷれいすを後にした。まりさが、立ち去ろうとする男の後ろ姿に向かって、何度か声を
かけたが、今度は振りかえらなかった。
群れが静寂に包まれる。
「どうしたら…いいのぉ…?」
一匹のゆっくりの言葉に、再びざわつき始めるゆっくりたち。長ぱちゅりーにもどうしていいかわからなかった。
ここは、親子何代にも渡って守られてきた自慢のゆっくりぷれいすだ。それを手放すことなどできない。加えて、大
規模な移動を行うには、群れの数が増えすぎている。移動することはおろか、これほどの数のゆっくりが暮らせる新
天地を探すことは不可能に近かった。他のゆっくりの群れもいる。群れ同士の間で抗争が起こりかねない。
「あのにんげんさんはかってだよ!どうしてれいむたちがでていかないといけないのぉ?!」
「そうだよ!ひどいことするにんげんさんはゆっくりできないよ!」
「ありすたち…ここからはなれたくないわ…こんなとかいはなばしょ…ほかのところにあるわけないもの…」
皆、それぞれに不満を漏らしたが、そこから解決策などにたどり着くはずはなかった。日も落ち、寒くなってきた
ので、群れは一度解散して各々の巣穴へと帰って行った。
「むきゅぅ…こまったことになったわ…」
二、
ゆっくりとの“交渉”を終えた日から、一週間が経った。工事業者は見積書を市役所に提出し、契約が成立したの
で、工事に取り掛かる下準備を始めていた。彼らは、あのゆっくりぷれいすのあった場所に、巨大なゴミ処理施設を
建設しようとしていた。
工事に取りかかるに当たって、懸念されるのは工事用道路の建設と、樹木の伐採。そしてゆっくりによる重機への
被害がどれほどのものになるかの予想がつかないことだった。もちろん、ゆっくりたちは全員逃げ出しているかも知
れない。樹木伐採を行うに当たって、ゆっくりの有無の確認と駆除も合わせて行う手筈になっていた。それでも全て
のゆっくりを駆除することはできないだろう。それほど、ゆっくりたちの数は多かった。
そして、当のゆっくりたちはというと。
「ゆゆっ!さむくなってきたから…ほんかくてきに、ふゆごもりするよっ!」
「ゆっゆっおー!」
「えいえいゆー!」
完全に忘れていた。
長ぱちゅりーでさえ、忘れていた。何日か前に、人間がこの場所にやってきて何か言っていたことなど忘却の彼方
である。当然、メガネの男の警告も、若い男の忠告も夢物語と化していた。
いくつかの家族が巣穴の入り口をしっかりと閉じ、本格的な越冬に取りかかる。それでもなお、未だ外で活動でき
る元気のいいゆっくりたちの数は相当なものである。
工事業者は、予想されるゆっくりの総数を千五百匹で算出していたが、その数字に概ね間違いはなかった。一口に
ゆっくりぷれいすとは言ってもその総面積は凄まじいものがあり、実は工事対象域の四分の三ほどがそれに該当して
いた。余談ではあるが、このゆっくりの群れは県下随一のものであった。
ゆっくりぷれいすのある森の入り口付近に、コンマ4のバックホーとクレーン車、4tダンプが十数台集結してい
る。加えて、チェーンソーなどを装備した地元の森林組合などが作業着にヘルメット姿で整列している。拡声器を使
っての作業工程と役割分担の説明が終わったのが、午前九時半。
業者たちは、一斉に動き始めた。
まずは、メインの場所であるゆっくりぷれいすへと続くダンプが往来するための道を確保しなければならない。森
林組合の山師たちが、次々と樹木を切り倒して行く。それをクレーン車が吊り上げ、4tダンプに積み上げて行く。
4tダンプは、委託者の指定した場所に積み上げられた樹木を運んで行く。そして、バックホーが大地を削り、仮の
道を構築していく。
樹木を切り倒したときの轟音や、重機の咆哮はゆっくりぷれいすに住むゆっくりたちにも届いていた。時折、巣穴
の中にまで振動が伝わり、赤ゆは親ゆに身を寄せぶるぶる震えていた。何匹かの勇敢なゆっくりは、その様子を遠目
に偵察に来ていた。
そして、次々となぎ倒される樹木や掘削されていく地面を目の当たりにし、恐怖で震え上がった。木も草も、花も。
何もかもがゆっくりたちの目の前で無残に破壊されていく。ゆっくりたちには何がなんだかわからなかった。わから
なかったけども、何かゆっくりできなくなりそうなことをしているのだけはわかった。意を決して、十数匹のゆっく
りが、作業中の業者たちの前に飛び出した。
「にんげんさんっ!なにやってるのぉぉぉ??!!!」
「やめてね!れいむたちのごはんさんがなくなっちゃうよぅ!!!」
重機のエンジン音に遮られ、小さなゆっくりたちの声が運転手や作業員の耳に届くはずもない。れいむとありすは、
人間が自分たちのことを無視しているのだと思い、もっと近くに行こうとあんよを蹴った。
そのときだった。旋回したバックホーのアームが、れいむとありすに直撃した。
「ぎっ!!」
「ゆ゛ぐっ!!!」
固いバケットがれいむとありすの柔らかい頬を叩き、二匹を弾き飛ばす。激突したときの衝撃でれいむの目玉が飛
び出し、ありすも中身のカスタードを四方にぶちまけた。そのまま地面に叩きつけられ、動かなくなる二匹。痙攣を
起こしている。
「「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ…」」
そこへ4tダンプが到達する。二匹の視界には、一直線に自分たちに迫る巨大なタイヤが映っている。
「~~~~~~~っ!!!!」
声を上げる力など残されていない二匹のうちの一匹。ありすが前輪で踏みつぶされた。一瞬、ぐにゃりと顔が変形
したかと思うと、次の瞬間には破裂し、形を失い死んでいた。それを見て、れいむがあまりの気持ち悪さに中身の餡
子を勢いよく吐きだす…のも一瞬だった。今度は、後輪がれいむを無残に轢き殺した。餡子がれいむの穴という穴か
ら飛び出す。
その二匹の死にざまを見せつけられた残りのゆっくりたちは、大半がしーしーを漏らしながらその場を一歩も動け
ずにいた。
「ゆ…ゆっくりにげるよ…っ!」
一匹のまりさが振り返る。しかし、その場を動かない。目の前には、何やらゆっくりできなさそうな音を出す道具
と、ゆっくりたちを見下ろす不気味な視線があった。
「チェーンソーはやめとけ。餡子とか皮が刃にこびりついたら使えなくなる。こんな奴らはな…」
まりさが真っ二つになって死んだ。帽子ごと切り裂かれて、中身の餡子が地面にドロリと流れ落ちる。
「ナタで十分だ」
「ゆぎゃあああああ!!!!までぃざ!!!までぃざああああああ!!!!!!」
がたがた震えて一歩も動けないでいるゆっくりたちの髪を鷲掴みにして一匹一匹バックホーの前に放り投げる。そ
してバックホーのキャタピラが、れいむを、まりさを、ありすを、滅茶苦茶の挽饅頭に変えて行った。どうやら、そ
の過程で、ゆっくりたちの中身や皮がキャタピラの車輪に絡まったらしく、この方法でゆっくりを潰すことはやめる
ことにした。
音を聞きつけ、後から後からやってくるゆっくりたちも同様にして殺されていった。
日を追うごとに、轟音と地鳴りがゆっくりぷれいすへと近づいてくる。これまでの間に何匹のゆっくりが死んだか
は予想しかねるが、建設予定地への工事用道路も完成し、いよいよゆっくりぷれいすの工事が始まろうとしていた。
ゆっくりにとって一番お手軽な巣穴作りといえば、木の根の下に穴を掘ることだ。こうすることで、木の根が土の
天井を支え、崩落の危険を失くすことができる。
「やべでえ゛え゛え゛え゛っ!!!まだおうちのながにれいむだぢのちびちゃんがいる゛の゛お゛お゛っ!!!!」
既に潰されて、一言も喋ることのできないまりさの横で、れいむが泣きながら叫んでいる。伐採の過程で巣穴の入
口は塞がれており、今なお空洞になっているのであろう巣穴の中から、赤ゆたちの助けを求めて泣き叫ぶ声が聞こえ
てくる。
「お゛ぎゃーじゃああ゛あ゛あ゛ん!!!ぎょわいよ゛ぉぉぉぉ!!!」
「ゆんやあああああああああ!!!ゆっくちできにゃいい゛ぃ゛い゛ぃ゛っ!!!!!」
「ゆっくちだちてにぇっ!!おにぇぎゃいじましゅぅぅぅぅ!!!!!」
バキバキィッ…という音と共に、バックホーが残された木の根の傍に突き刺さる。根っこごと引き抜く作業に入っ
ていた。深く、深く、バケットを土の下にねじ込んで行く。れいむは、滝のように涙を流しながら、
「やめ…てよ………やめ、て…」
周りの土を破壊しながら、木の根っこが引きはがされる。巣穴の天井は一気に崩落し、赤ゆたちを一瞬で潰した。
重機のけたたましい音で、赤ゆたちの断末魔はれいむの元に届くことはなかった。
「ゆ…ゆあ…ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」
れいむが叫び声を上げるのとほぼ同時に、れいむの体が宙に浮いた。
「ゆっ?ゆゆっ??」
もう、何がなんだかわからない。れいむは作業員の男に飾りを掴まれる形でぶら下がっていた。そして、口を広げ
た土嚢袋の中に投げ込まれる。土嚢袋の中には既に死体となったまりさも入っていた。地面に叩きつけられた衝撃で
思わず餡子を吐き出す。のも、つかの間。袋の中に土が入れられる。れいむの目や口の中に土が入り込む。
「ゆげぇっ!ゆぺっ!!!や…やめてねっ!れいむ…うごけないよっ!!!!」
無言で二杯目の土を流し込むと、れいむの声は聞こえなくなった。周囲を土で固められ、身動きも取れないのだろ
う。作業員は土嚢袋の口を紐で縛ると、近くに積まれていた土嚢袋の山の中に、れいむの入った土嚢袋を放り投げた。
この土嚢袋の中には、土だけではなく先ほどのれいむのように、少量のゆっくりも含まれている。
同じようにして、巣穴ごと破壊されて全滅するゆっくり一家の数は後を絶たなかった。冬籠り中の一家などは、家
族まとめて、土の下に生き埋めとなり声も上げることができずに死んだ。
「にんげんさんっ!ゆっくりやめてねっ!!!どおしてこんなことするのぉぉぉぉぉ!!???」
今なお、唸りを上げるバックホーの前に数匹のゆっくりが並び、ぷくぅぅぅ、っと膨れて威嚇している。そして、
それらが旋回したアームでまとめて宙に放り出される。美しい放物線を描き、ゆっくりたちが地面に叩きつけられて
死んだ。そのうちの一匹は、もう一台のバックホー付近にまで投げ出されて止まった。れいむ種だった。れいむは、
朦朧とする意識の中で、その場を逃げ出そうと必死にあんよを動かそうとするが動かない。
「どぼじであんよざんうごがな゛いの゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!????」
あんよが動かないのではなく、れいむの自慢の赤いリボンがキャタピラに巻き込まれており、動けなくなっている
のだ。当然、それには気づいていない。ふいに、そのバックホーが移動を始めた。そして、れいむのリボンもどんど
ん巻き込まれていき、やがて、れいむの髪の毛も車輪に巻き込まれていった。
「ゆ゛ぎい゛い゛い゛い゛っ!!!!!!!」
歯を食いしばり、既に宙釣り状態のれいむが体を振り回し、その痛みから逃れようとするが逆効果だ。リボンは奥
まで絡まっているため外れる気配はない。いたずらに、自分の髪を引きちぎっているだけだ。その激痛がれいむに追
い内をかける。
「い゛だい゛っ!い゛だい゛よ゛っ!!!ゆっぐりじでね゛!!!ゆっぐりしでね!!!!」
更に車輪が周り、れいむの額の辺りが狭い隙間へと無理矢理入っていく。あまりの痛みに、れいむが餡子を吐き出
す。そして、顔の上部から皮がぶちぶちとちぎれていき、圧迫された中身の餡子があにゃるから勢いよく噴出される。
「ゆ゛ぶぶぶぶぶ…」
既にれいむは絶命していた。バックホーの運転手も車輪の回りが悪くなったことに気付き、逆回転させると、れい
むがぽとりと地面に落ちてまた動き始めた。向きを変えようとしたときに、れいむはキャタピラにすり潰されて影も
形もなくなった。
作業は三交代制で行われ、深夜も続いた。ゆっくりたちにとっての地獄の責め苦は昼夜問わず繰り返された。平和
だったゆっくりぷれいすには絶叫と悲鳴、そして轟音だけが響いていた。
それでもゆっくりたちはその場を離れなかった。他に、行くアテなどなかったからだ。
三、
その後も作業は続けられ、群れのゆっくりの大半が死滅した。重機による掘削作業で死んだゆっくりたちはまだ、
マシだったのかも知れない。廃土が流出しないようにと張り巡らされたブルーシートの重し代わりにされている土嚢
ゆっくりたちは、トラロープにより連結された土嚢袋の中で未だにもがき苦しんでいる。
その日は、雨で作業が休みだった。幸か不幸か。けっこんっ!の約束をしたれいむとまりさは同じ土嚢袋の中に詰
め込まれていた。まりさが必死にれいむを守ろうとした結果、二匹まとめて叩きこまれてしまったのだ。二匹の間に
はもちろん、土が充填されており互いに頬を擦り合わせ慰めることもできなかったが、言葉で励まし合うことはでき
た。
「れいむ…」
「どうしたの…まりさ…」
「さむいのは…だいじょうぶ…?」
「うん…れいむはへいきだよ…まりさはだいじょうぶなの…?」
「まりさもへいきだよ」
身動きが取れないことは、逆に体内の餡子をいたずらに消費する必要がないということだ。土で覆われているため、
ある意味では暖かい。寒さに体力を奪われることもないだろう。
しかし、振り続く雨は、少しずつ土嚢袋に浸透していく。れいむもまりさも顔全体が土に覆われているわけではな
い。
(ゆゆっ…つめたいよ…でも…まりさにはしんぱいをかけたくないよ…)
れいむの頬に、濡れた土嚢袋が張り付く。それはまりさも同様だった。冷たさが、二匹の不安をあおり始めた。れ
いむもまりさも、自分たちがずっと水に濡れると溶けて死んでしまうことは知っている。れいむは歯をカチカチ鳴ら
し始めた。その音はまりさにも聞こえた。
「れいむっ!さむいの?」
まりさも、何故、れいむが震えているのかわかっていたが、あえてその言葉を出そうとはしなかった。まりさも認
めたくはなかったのだ。二匹の顔は、少しずつ溶け始めていた。溶けた部分の感覚が少しずつ無くなっていくのがた
まらなく怖い。
れいむは何も答えようとはしなかった。
「れいむ………」
二度目の、最愛のゆっくりから漏れた小さな声に、れいむは堰を切ったように涙を流し始めた。
「まりさぁっ…まりさぁっ…!!!れいむ…こわいよ…こわいよぅ…!!!おかおが…へんだよぅ…っ!!!」
そのとき、同様に土嚢袋に詰め込まれた他のゆっくりたちも悲鳴を上げ始めた。
「ゆぎゃああああああ!!!!ありすのとかいはなおかおがあああああああ!!!!!」
「あめさん!!!ゆっくりやんでねっ!!!ゆっくりできなくなっちゃうよっ!!!!」
「おみずさんはゆっくりできない~~~~!!!!」
「おきゃああしゃあああああん!!!!!!れーみゅ、とけちゃうよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
仲間たちの悲鳴が二匹にも届く。れいむもまりさもがたがた震えていた。雨がやむ気配はなかった。ブルーシート
の近辺で、ゆっくりたちが次々に断末魔の声を上げる。
「でいぶのながみ゛ざん゛!!!ゆっぐりじな゛い゛でも゛どっでぎでね゛っ!!ゆあああああああ゛あ゛!!!」
皮がふやけて破れ、中身が漏れ出すゆっくりが出てきた。
「ありすのおべべ…ゆっぐりじでねっ!おでが…な゛に゛も゛…なにもみえ゛な゛い゛ぃ゛ぃ゛!!!!」
目の周りの皮が溶け、目玉が落ちるゆっくりもいた。
「…………………………」
当の昔にショック死しているのはぱちゅりー種だ。ある意味、一番幸せだったかも知れない。まりさは必死にれい
むを励まそうとしていた。
「れいむっ!まりさ、このあいだおいしいきのこさんをはえているばしょをみつけたよ!いっしょにたべにいこうね!」
「…………………」
れいむは答えない。まりさは、目に涙を浮かべながら、
「れいむっ!はるさんがきたら、すっきりー!してかわいいちびちゃんをつくろうねっ!」
「…………………」
答えない。まりさはついに泣きながら、
「れ…れいむぅ…ゆっくりして…ゆっくりしてよぉ…」
まりさは気づかない。既にれいむが死んでいることに。まりさは、口を動かせなくなるまで、れいむのことを励ま
し続けた。やがて、まりさも溶けて死んだ。
ブルーシートの土嚢袋から、声が聞こえてくることはそれ以降なかった。
雨が上がった翌日。ブルーシートの土嚢袋はまだその機能を果たしていた。ゆっくりは溶けていなくなってしまっ
たが、関係ない。土と皮と餡子が入っていただけだ。体積自体は変わらない。工事も順調に進み、荒れ果てた土地を
整地する作業が始まった。
重機の魔の爪から逃れたゆっくりの一家たちは、毎晩響いた轟音から解放され安堵の表情を浮かべていた。小さな
振動などは今も続いているが、ひところに比べれば大したものではない。冬籠りの準備を終えた後だったので、食料
も豊富に残っている。
まりさとありすの一家は、久しぶりにゆっくりした時間を過ごしていた。
「まりさ…よかったわね…はるさんがきたら、たくさんひなたぼっこをしましょう」
「たすかったよ…ちびちゃんたち…はるさんがくるまでゆっくりすーやすーやしようね」
「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!」
「ゆっくち!ゆっくち!!」
しかし、この一家に春は訪れない。巣穴の入り口は既にコンクリートで固められている。二度とこの巣穴を出るこ
とはできない。
「おいお前…何やってるんだ」
作業員の一人が固まる前のコンクリートに赤ゆを放り込んでいるのを見た別の作業員が声を掛ける。放り込まれた
赤れいむは顔面からコンクリートに着水し、揉み上げをぴこぴこさせながら抵抗しているが喋ることはできない。同
様に放り込まれた赤まりさと赤ありすは、なんとか顔を外に向けることができたため、助けを求めてくる。
「ゆびゃああああ!!!どおちちぇうぎょけにゃいのぉぉぉぉぉ???!!!」
「ときゃいはにゃおにーしゃん…!!ありしゅたちをたしゅけちぇにぇっ!!!!」
自分たちを放り込んだ相手に助けを求めるとは愚の骨頂である。
「これ、後からクラッシャーランにするんだ。どうせバラバラに壊すからついでにゆっくりを処分しようと思ってさ」
クラッシャーランとは舗装の下層路盤や目潰し用などに使う粗い砕石のことである。つまり、この赤ゆ入りコンク
リートは固まったのち、赤ゆごと粉砕機に放り込まれ粉々に砕かれるのである。もちろん、その過程で赤ゆは死ぬだ
ろう。
もう二、三匹、赤ゆをコンクリートの中にぼちゃぼちゃと放り込む。勢いよく投げすぎて全身がコンクリートの中
に沈んでしまった赤ゆもいた。
それからしばらく経って戻ってみると、そこにはコンクリートにより完全に固定された数匹の赤ゆたちが顔だけ出
してゆーゆー泣いていた。固まったコンクリートを少しずつ粉砕していき、粉砕機に投げ込んで行く。凄まじい轟音
と共に、バラバラと落ちて行くコンクリートの塊を見て赤ゆたちは言葉を失った。
やがて、頭だけ出した赤まりさが埋め込まれたコンクリート粉砕機の中に投げ込まれた。
「ゆ゛ぎゃああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
赤まりさは粉砕機の中で滅茶苦茶に掻きまわされた。砕けたコンクリートが、回転する機械が、赤まりさの柔らか
な皮を徹底的に破壊していく。バラバラになったコンクリートと一緒に、少量の餡子と帽子と思われる黒い紙切れの
ようなものが機械から吐き出され、赤まりさの命の灯は消えた。
「ゆ…ゆ…にんげんしゃん…やめちぇにぇ…たしゅけちぇ…」
赤ありすが顔をくしゃくしゃにしながら、作業員に助けを求める。作業員にしてみれば、いちいちゆっくりの言葉
に耳を傾ける必要はない。無言で粉砕機の中に赤ありすのコンクリートを投げ込む。
「ゆ゛ぐりゅびゅげべびゅびぴぎゅぎぐぃゆ゛ぅ゛!!!!!!!」
何を言ってるのかさっぱりわからないような断末魔を上げ、先ほどの赤まりさ同様、赤ありすもボロボロの皮屑と
なって粉砕機から出てきた。
無言でぽいぽいと放り込んで行くたびに、赤ゆの絶叫が響く。粉砕機の中は地獄であろう。轟音、衝撃、回転、痛
み。その全てが一瞬で襲いかかってくるのだ。最後のコンクリートを投げ込んだときに、作業員が思わず声を上げた。
「うわ…こいつ…運がいいな…」
作業員が拾い上げたのは、顔面からコンクリートに着水し揉み上げをぴこぴこさせていたあの赤れいむだった。も
ちろん、顔はコンクリートに埋め込まれているため、喋ることはおろか身動きすら取れない状態ではあるが。それで
も、よほど苦しいのか、コンクリートから飛び出た揉み上げの部分は未だにぴこぴこと動かし続けている。奇跡的に
左右両方の揉み上げが飛び出しているので、滑稽なこと極まりない。
作業員は、その小刻みに動く揉み上げをなんとなく掴んでみた。すると、びくっ、とでもしたのだろうか。もう片
方の揉み上げがぴたっ、と止まった。掴んでいた揉み上げを話す。しばらくすると、また両方の揉み上げがぴこぴこ
と動き始めた。もう一度掴む。またもう片方が止まる。そして、なんとなく掴んでいた揉み上げを引きちぎった。
すると、一瞬だけ逆の揉み上げがぴんっ!と伸びたかと思うと、へにゃりと力なく垂れた。作業員は笑った。その
ままクラッシャーランの中に放り投げ、それをバックホーが掬いあげていくとき、赤れいむの揉み上げはもう一度だ
けぴこっ!と動いたが、砕石の海の下に沈みそれ以降どうなったかはわからなかった。
四、
本格的な建物の建築が始まってからは、ゆっくりが現れることはなかった。
ゆっくりたちが毎日のように跳ねまわり、日向ぼっこをしたり、草や花を食べたり、虫を追いかけたりした場所は
すべてコンクリートやアスファルトで覆い隠されてしまった。相変わらず、工事は続いている。生き残ったゆっくり
たちは逃げ出していたが、遠くから聞こえてくる大きな音を聞くたびに、歯を鳴らし震える日々を過ごしていた。
何代にもわたって続いたゆっくりぷれいすはわずか一カ月弱で壊滅した。
この出来事で、多くのゆっくりたちが死んだ。家族を、友を、そして恋人を失ったゆっくりたちは毎日毎日泣きな
がら過ごしていた。あの楽しかった日々に戻ることは二度とない。餡子に鮮明に刻み込まれたトラウマは、ゆっくり
たちが生きている限り、消えてなくなることはないだろう。
工事は着々と進み、翌年の春。予定していたゴミ処理場は完成した。
そのゴミ処理場の下。巣穴の中で越冬をしていたまりさ一家は、暖かくなってきたことを確認し、春の訪れを喜ん
でいた。
「ゆっ!ありす…はるさんがきたよ!」
「とかいはだわ…っ!はやくちびちゃんたちをおこしておそとにでましょう!」
親まりさと親ありすは、赤まりさと赤ありすをそれぞれ起こす。二匹の赤ゆは、欠伸をしながらのーびのーびして、
「ゆっくちおきちゃよっ!!!!」
「ゆっくちしちぇにっちぇにぇ~!」
両親に挨拶をする。親まりさと親ありすはそんな赤ゆたちの愛らしい姿を見て、微笑みを浮かべる。親まりさは、
葉っぱの上に載せられた最後の芋虫を数匹取り出すと、赤ゆたちに与えた。
「「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!」」
親まりさは、親ありすにちゅっちゅしたあと、
「ありす!ちびちゃん!それじゃあ、まりさはかりにいってくるよっ!!」
「いってらっしゃい!!!」
「「がんばっちぇにぇ~!!」」
おわり
日常起こりうるゆっくりたちの悲劇をこよなく愛する余白あきでした。