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  • anko0800 ぱちゅ物語

ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー

anko0800 ぱちゅ物語

最終更新:2011年03月01日 18:30

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『ぱちゅ物語』











序、

 ぱちゅりーは、ありす種とぱちゅりー種のつがいの間に生まれた赤ちゃんゆっくりだった。体の弱い親ぱちゅりーは、二
匹の赤ありすと赤ぱちゅりーを産んで死んだ。

 親ありすは、親ぱちゅりーがにんっしんっ!することを認めようとはしなかった。親ぱちゅりーは、親ありすとつがいに
なる前から自分の死期が近いことを悟っていた。それを知った上で、親ぱちゅりーをつがいに選んでくれた、幼馴染の優し
い親ありすとの間に、どうしても“自分の生きた証”を残したいと望んだ。

 親ありすは、その親ぱちゅりーの訴えを理解した上で、二匹の間に赤ちゃんを作ることを反対した。

 通常、ゆっくりという生き物は、“子孫を残す”という概念よりも“可愛い赤ちゃんを見て自分がゆっくりする”という
とんでもない概念で赤ちゃんを作ろうとするものだが、この二匹は割に賢い個体だった。

 親ぱちゅりーが、にんっしんっ!すれば、体の弱い親ぱちゅりーが死の危険に晒される。だからと言って、親ありすがに
んっしんっ!しても、親ぱちゅりーに親ありすと赤ちゃんたちの分の食料を集めてくることなど不可能だろう。どう転んで
も、二匹の間に赤ちゃんを作ることはできないはずだった。

 それなのに、森の賢者とまで言われ、仲間のゆっくりたちにも信頼されていた親ぱちゅりーの切実な訴え。賢き者として
は致命的な判断ミスを犯していると重々承知していながら、大粒の涙を流し懇願する最愛の親ぱちゅりーの願いを聞き入れ、
親ありすと親ぱちゅりーは、最初で最後のすっきりー!をした。

 親ぱちゅりーの頭から生えた茎とそれに実る四匹の赤ゆ…すなわち、赤ありす二匹と赤ぱちゅりー二匹が視界に入った途
端、親ぱちゅりーは声を上げて泣いた。そして、すぐに体調の異変を訴えた。親ありすにも予想済みのことだったので、す
ぐに藁や草で編まれたベッドの上に親ぱちゅりーを寝かせ、巣穴の中に集めていた食料を親ぱちゅりーに与えた。

 文字通り、命がけだった。

 赤ゆは、親ゆの頭から伸びた茎から栄養分を受け取り、育つ。それができなければ、赤ゆは死ぬ。赤ゆへ送られる栄養分
の量を、調整することはできない。必要最低限の栄養分を送るだけとはいえ、やはり四匹同時に…加えて、病気がちの親ぱ
ちゅりーにとっては一瞬で気を失いかねない苦行であった。

「む…きゅう…あり、す…?ごめんなさい…めいわく…ばかりかけて…」

 実際、親ありすも疲弊しきっていた。親ぱちゅりーよりも体が丈夫とはいえ、親ぱちゅりーと赤ゆの分まで食料を集めて
くるのは困難であった。

「とかいはじゃないわよ?もりのけんじゃが、そんなよわきでどうするの?」

 言葉を返す、親ありすの表情に覇気はない。それが親ぱちゅりーにも痛いほどわかるから…無理に優しい笑顔を向ける親
ありすの顔を直視できなかった。

 僅か一週間。二匹にとって、永遠とも言える一週間がようやく終わりを告げた。親ぱちゅりーもこの苦しみからようやく
解放された。自身の、死をもって。

 あとほんの少しだった。一匹ずつ生まれてくる赤ゆを見て、涙を流しながら…意識を失いかけながら…微笑んだ。栄養分
が足りなかったのか…?親ぱちゅりーにとっての寿命だったのか?それは誰にもわからなかった。わからなかったが、親ぱ
ちゅりーは、新たなる小さな命をこの地に残し、息絶えた。

 四匹の赤ゆは、一度も言葉を交わすことができなかったすでに動くことのない親ぱちゅりーに頬をすり寄せ、ゆんゆん泣
いていた。四匹の赤ゆは知っていた。自分たちが、親ぱちゅりーの栄養分を奪って生まれてきたことを。だから、

「おきゃーしゃああん!ごめんにゃちゃいい!!ありしゅたちがうまれちぇこにゃければぁ…っ!」

 などと四匹の赤ゆが言いだしたとき、親ありすは本気で四匹を叱りつけた。

「ちびちゃんたちっ!!!もういちどそんなこといってみなさい!!おかあさん、ぜったいにゆるさないよっ!!!!」

 赤ゆたちは泣いた。親ぱちゅりーがどれほど赤ゆたちが生まれてくることを望んでいたか、知っている。それは、親あり
すも同じだ。なので、もう誰も、何も言わなかった。

 親ありすが、親ぱちゅりーを巣穴の外に引っ張り出し、木の枝と石を口に咥えて穴を掘り始めた。最愛の親ぱちゅりーの
墓を作ろうとしていた。どの赤ゆからともなく、親ありすの手伝いを始めた。

 ゆっくりは、生まれた瞬間から明確な意思と記憶を持つ。身体的特徴や舌足らずな口調、それに思考能力の低さなどはあ
れども…今、この瞬間だけで言えば…ゆっくりは人間よりも優れた一面を持っているのかも知れない。

 四匹の赤ゆの最初の行動は…お腹が空いたと泣き喚くでも、すーりすーりして幸せな気分に浸るでもなく、自分たちをこ
の世に産み落としてくれた最愛の母の埋葬を手伝うということであった。




 親ありすは、しんぐるまざーとして四匹もの赤ゆたちを一生懸命育てた。と言っても、赤ぱちゅりーも、赤ありすも聞き
訳の良い素直なちびちゃんたちであったため、苦労したのは狩りぐらいのものであったが。

 五匹は、本当に幸せな時間を過ごしていた。

 他の家族のように、おかあさんは二匹もいないけれど、日々を懸命に生きた。

 ゆっくりとして生まれ、ゆっくりと生きていくことは…ゆっくりにとって至上の喜びである。

 この生活は永遠に続くものだと、家族の誰もが思っていた。

 しかし、その幸せは一瞬にして終わりを告げた。

 ペットショップと提携しているゆっくり捕獲を生業としている業者が、家族の前に現れたからだ。親ありすは、人間につ
いて詳しくは知らなかった。ただ、親ぱちゅりーから聞いた話で、“ゆっくりできない存在”だということは理解していた。

 事実、そのとおりだった。人間たちは、決して力仕事の得意でない親ありすと親ぱちゅりーがそれこそ死ぬ想いで作った
おうちを、スコップで壊し始めた。おうちの中では四匹の赤ゆたちが…、親ぱちゅりーのこの世に生きた証が、泣きながら
震えていた。

 親ありすは何度も人間に体当たりをした。やめるようにお願いしても聞いてくれなかったからだ。

 親ありすは一瞬で殺された。人間のスコップで体を真っ二つにされたのだ。中身のカスタードが勢いよく噴き出し、二つ
になった体が痙攣を起こしていた。親ありすは、大好きな親ぱちゅりーとの間に生まれた可愛くてたまらなかった四匹の赤
ゆを、守ってあげられなかった自分の無力さを呪いながら…死んだ。

 完全に破壊され、怯える四匹の赤ゆたちが人間の視界に入った。泣き叫び、必死に抵抗する赤ゆたちを、人間は慣れた手
つきで用意していた袋の中に投げ入れた。

 実に、淡々とした“作業”であった。ただそれだけの事で、ありす一家は崩壊した。

 二匹の赤ぱちゅりーと、二匹の赤ありすは、袋の中でずっと泣き続けていた。なまじ、賢い個体であるがゆえに、自分た
ちと人間との間に、圧倒的な実力差があることを理解しているのだろう。




 ペットショップに送られてから、四匹にとって地獄のような生活が始まり…それが終わって、赤ぱちゅりーがペットショ
ップのショーケースに並ぶ頃、姉妹は全員殺されていた。

 “飼いゆ”になる資格なし。ただ、それだけの、ゆっくりが生きる理由としてはまったく関係ない理由で、姉妹は全員殺
された。

 赤ぱちゅりーは、それでもショーケースの中で客に笑顔を向けなければならなかった。それができなかったときは、店員
に何度も何度も叩かれた。痛くてたまらなくて涙を流すと、それを理由にまた叩かれた。店員からの要求は「笑顔でいろ」。
ただそれだけだ。笑えるはずなどない。また、笑う理由もない。

 赤ぱちゅりーが少し成長して、ゆっくりの形態論の中で言うソフトボールほどの大きさの“子ゆっくり”になった頃、四
十代前半ぐらいの男が、ぱちゅりーを購入した。

 銅バッジぱちゅりー。六万三千円。

 不安でおろおろしているぱちゅりーは、四角い透明な箱の中に押し込まれた。そして、その壁が一面ずつ、紙で覆われて
いく。やがて、ぱちゅりーの入った箱は綺麗に包装され…紙袋の中に入れられ、晴れて男のものとなったのだ。

 この日、十二月二十九日。仕事で忙しく、帰宅することすらできなかった男から…男の娘へと贈る、少し遅めのクリスマ
スプレゼントだった。






一、


 十二月二十九日。



「お父さん!プレゼントありがとう!開けてもいーい?」

「ああ。気に入ってもらえればいいんだがな」

 幸せそうな父娘のやり取りを見ていた、母親がケーキとチキンを持って台所から現れた。食卓に皿と料理を並べながら、

「この子ったら…クリスマスプレゼントには、“ゆっくりがいい”だなんて言って…高かったんでしょう?」

 母親に手渡されたビールを口に流し込んだあと、父親は苦笑いをした。母親もそれ以上は咎めなかった。娘が、父親の不
在を寂しがっていることをわかっていたからだ。これは、父親にとっての…言葉には出せないが、せめてもの償いだったの
だろう。

 娘は紙袋から真っ赤な包装紙に包まれた四角の箱を取り出すと、それをそっとテーブルの上に置いた。

「中にはゆっくりが入ってるからな…乱暴に扱っちゃダメだぞ?」

「うんっ♪」

 嬉しそうに、娘は箱のリボンを丁寧にほどき始めた。そして、セロテープを二カ所ほどはがし…包装紙から四角い透明な
箱を取りだした。その中では、ぱちゅりーが上目づかいで娘を見ながら、ふるふると震えている。

「どうだ?気に入ったか?俺はゆっくりにはあんまり詳しくないんだが…ぱちゅりー種と言って、ゆっくりの中では比較的
 飼いやすいらしい」

 ぱちゅりーは、ペットショップで教えられたとおりに、

「む…むきゅっ!ぱちゅりーはぱちゅりーというのだわ!ゆっくりしt」

「嫌だ!!!」

(え?)
(……?)
(むきゅっ!?)

 静寂が部屋を包む。テレビからは漫才をしている芸人の陽気な声が聞こえてくるが…その場にいた者の耳には入っていな
かった。

 娘はスカートを握りしめて、うつむき、小刻みに震えている。

「私…私…れいむか、まりさが良かったのに…っ!」

 両親が顔を見合わせる。ぱちゅりーは、どうしていいかわからずに小さく“むきゅぅ…”と呟いた。

「ど…どうしたの…?あなたが欲しがっていたゆっくりよ?結構かわいいじゃ…」

「可愛くないもん!!!!」

(むきょっ?!)

 ゆっくりにとっての、ゆっくり最大のステータスは“かわいさ”である。それを初対面の相手に否定された。ぱちゅりー
はショックだった。今はもう会えない親ありすに、何度も何度も“あなたはかわいい”と言われて育ってきたぱちゅりーに
とっては、自身が否定されること以上に、まるで親ありすを否定されているような気分になったのだ。

 親子の会話は続いた。

「だって…!ぱちゅりーってすっごく体が弱いんだよ!一緒に外で遊べないじゃん!!!すぐに病気になるし…私は一緒に
 遊べるゆっくりが欲しかったの!!ぱちゅりーなんかが一緒じゃ、私、看病してばっかりになるもん!!!」

「そ…そうなのか…?」

「私…ゆっくりが欲しかったからゆっくりの事、勉強したんだよ!それで…“ぱちゅりーだけは絶対に飼わない”って決め
 てたのに…っ!!」

 戸惑う父親と、激昂する娘の間に母親が割って入る。

「で…でも、あなたは“ゆっくりが欲しい”としか言ってないじゃない。それじゃあ、お父さんもわからないわよ」

「うぅ…でも…だって…」

 ぱちゅりーは、この親子が何を言っているのかはわからなかったが、自身の存在を徹底的に蔑まれていることだけは理解
できた。

「それに…ぱちゅりーは病気になってすぐに中身を吐くから…“ゲロ袋”なんてあだ名つけられてるんだよ!!!」

(む…むきゅっ…まってちょうだい…ぱちゅは、なかみをはいたことなんていちども…)

「絶対…絶対からかわれるもん!!!ゲロ袋飼ってる、って言いふらされたら…クラスの皆から馬鹿にされて…いじめられ
 ちゃうよぅっ!!!」

 娘の切実な訴えと、これまで見たことがないような押しの強さに両親はたじろいだ。顔を真っ赤にして、涙を流しながら
訴える様子からすると、娘はゆっくりについてかなり勉強をしたのだろう。

 少なくとも、両親よりかはゆっくりについての知識を持っていた。ただ、どれだけ知識を持っていたとしても、そこから
正しい判断を下すことを要求するには、彼女は幼なすぎた。

 ぱちゅりーは、うつむいていた。泣きたい気持ちを必死に抑えていた。そんなぱちゅりーを見て、娘は続ける。

「ちっとも笑わないじゃん!こんなの…飼ってたって…楽しくないよぉ!!!」

 ゆっくりが他の動物と決定的に違うところは、会話によるコミュニケーションが図れることにある。当然、ぱちゅりーは
娘の言葉をある程度理解することができる。ぱちゅりーがこれまでの会話を要約すると、こうだ。

『ぱちゅりーはゆっくりできなさそうだから、いらない』

 いらない自分は…どうなるんだろう?ぱちゅりーはそれを考えてしまい、恐怖でその身を震わせた。

「そんなに部屋も寒くないのに、もう震えてるんだよ!?すぐに病気になって死んじゃうよ!!!」

「ちょ、ちょっと…あなたも、何か言ってやってくださいな…」

「もうやだ!!!こんなのいらない!!!ねぇ、どこかに捨ててきてよ!!!!!」

 娘からしてみれば…滅多に会うことのできない父親からの…本当に楽しみにしていたプレゼントが期待外れに終わったこ
とのショックのほうが大きくて、ぱちゅりーのことなどはもちろん、プレゼントを用意した父親の気持ちなど考える余裕は
なかったのだと言える。父親は、内心悲しくは思っていたが、深呼吸をすると、

「わかった。でも、正月が終わるまでは捨てられない。確か飼いゆのバッジ登録を末梢しなきゃならないはずだが、ペット
ショップは休みだろう…?」

 娘は鼻水をすすりながら、うなずく。父親の思惑としては、何日間か一緒に過ごせば、もしかしたら娘がぱちゅりーの事
を気に入るかも知れない、という思惑があった。返品しても良かったが、やはりもうペットショップは閉店しているし、そ
れに一度は自分が選び、認めて買った“商品”だ。その“商品”が一応、生きている以上、命を返品することには多少の抵
抗があった。

 ぱちゅりーは、親子のやり取りを聞きながら震えていた。この親子はぱちゅりーのことを生ごみ扱いしており、捨てる、
捨てないの話をしている。それぐらいは理解することができた。

(む…むきゅっ…ぱちゅ、なんにもわるいことしてないのに…どうして…?)

 冷ややかな目でテーブルの上のぱちゅりーを見下ろす三人の視線に耐えかねて、ぱちゅりーは泣きだした。娘はそんなぱ
ちゅりーを見ると、しかめっ面をして父親に話しかけた。

「お父さん…ゆっくりフードは…?」

「食べ物のことか…?すまん…それは買ってきてないんだ…」

「…ケーキかチキンとか…食べるのかしら…?」

「ゆっくりにケーキなんて絶対もったいないよ!」

 娘の反論にうなずく両親。しかし、それではこの家にぱちゅりーの食べるものはない。母親はとりあえず、深皿に水を注
ぎ、それをぱちゅりーの前に置いた。

「む…むきゅ…」

 ぱちゅりーは、母親にお礼を言おうとしたが、父親によりテーブルから引きずりおろされ、水の入った深皿と一緒に隣の
部屋に移動させられた。さっきまでいた部屋と違い、扉を隔てたこの部屋にはストーブなどはなく寒かった。薄皮一枚しか
ないぱちゅりーにとってははその寒さは相当なものだった。

 大人しくてしているから、さっきの部屋に戻してほしい…ということを訴えようとしたとき、父親はその扉を閉めた。急
に部屋の中が真っ暗になる。

「む…むきゅう!くらいわ!さむいわ!!ゆっくりできないよぉぉぉ!!!むきゅぅん…むきゅぅん…」

 この部屋は広い上に家具もほとんど置かれていない。せめて何かに身を寄せていたかったが、真っ暗で何も見えないため
迂闊に動くことはできない。用意してもらった水の入った深皿の位置もわからない。ぱちゅりーの不安がどんどん大きくな
っていく。精神的なストレスに加えて、泣き疲れたからか、空腹も感じ始めた。思えば、ペットショップで購入されてから、
何も口にしていない。

「おなかが…すいたわ…」

 ぱちゅりーは静かに泣いた。暗くて、怖くて、お腹がすいて…それを慰めてくれる親ゆっくりも姉妹もいないことに気が
ついて…寂しくて、泣いた。隣の部屋からは、仲直りでもしたのか先ほどの一家の楽しそうな話し声が聞こえてくる。そう
いえば、テーブルの上には美味しそうな料理が並んでいた。

「どうして…ぱちゅには…なにもたべさせてくれないのぉ…」







二、


 十二月三十日。


「むきゅう!おかあさん!ゆっくりまってちょうだい!」

 ぱちゅりーは、親ありすの後を追いかけていた。ぴょんぴょん飛び跳ねて、親ありすの元に駆け寄ろうとするが、思うよ
うにあんよが動かない。

(むきゅぅ…!)

 よく見ると、ぱちゅりーの姉妹も親ありすの周りでゆっくりしており、楽しそうに話をしていた。なんの話をしているか
は聞きとることはできなかったが、自分も早くあの輪の中に入りたかった。そして、息を切らしながら、親ありすの元にた
どりついたとき、

「ぱちゅりー…あなたは…なんだかゆっくりできなさそうだから…すてることにするわね」

 ぱちゅりーが動きをピタリと止める。一瞬だけ、小刻みに体を震わせ、尋ねる。

「どお…して…そんなこと…いうの…?」

「おかあさんはね………れいむか、まりさがよかったのに!!!」





「ゆぎゃあああああああああ!!!!!」

 ぱちゅりーが叫び声を上げて飛び起きる。結局ぱちゅりーはがたがた震えながら、この寒い部屋で一夜を明かした。そ
んなぱちゅりーの叫び声を聞きつけて、家族が部屋に入ってくる。そして、カーテンを開けて、部屋の電気をつける。

「む…むきゅぅ…むきゅっ!」

 話しかける相手がいる。それだけでぱちゅりーの心は少しだけ満たされた。起きたばかりだ。すごく挨拶がしたい。

「ゆっくりしていってね!!!!」

 ぱちゅりーはここに来て初めて笑顔で言葉を喋った。大好きな言葉を思いっきり言うことができて、ぱちゅりーは満足
気だった。あとは、目の前にいる家族から返してもらえるはずの挨拶を待つだけだ。

「……………」

(……む…むきゅぅ…?)

「お父さん…コイツ…私たちの気を引こうとして叫び声を上げただけだよ…」

「む…むきゅうっ!?」

 両親は、互いの顔を見合わせたあとに、冷たい視線をぱちゅりーに送った。

「ぱちゅりー種ってね…ゆっくりの中では頭がいい方なんだよ…。その気になれば…私たちを騙すぐらいの知恵は…持っ
 てるはずだよ…。どうせ、お腹が空いたからご飯ちょうだい、とか言いたいだけだよ」

「ま…まってちょうだいっ!ぱちゅ、そんなわるいゆっくりじゃ…」

「犬が餌欲しさに吠えるようなもんか…毎朝、叫ばれちゃたまらないからなぁ…いいか、ぱちゅりー。朝早くに叫ぶな。
 それが守れなかったときはお仕置きだ、いいな?」

 ぱちゅりーの主張は一切聞き入れられず、一方的にぱちゅりーを責め、よくわからないうちにルールを作られそれを守
れなければお仕置きされる…。ぱちゅりーには納得がいかなかった。こんな寒くて真っ暗な部屋に閉じ込めた上に、結局
一日中放置し、ろくに食べ物すら与えてくれない家族に対し、ぱちゅりーは泣きながら反論を始めた。

「む…むきゅう…っ!ぱちゅ…こわいゆめをみたのよ…だから…」

「関係ないじゃん。叫ばれると迷惑なの。あんたの夢がどうとか、私たちは知らないもん」

 娘の口調は厳しい。言葉の端々から、ぱちゅりーへの憎しみが感じ取れる。やはり、期待外れによる落胆と失望はぱち
ゅりーへの扱いを決定的に悪くしてしまったらしい。

(なんなのこいつ…朝早くから大声出したのを怒られて、すぐに言い訳なんて…馬鹿じゃないの…)

「さむくて…あんよがうごかなくて…おかあさんにおいつけなくて…」

「お母さんなんていないじゃんっ!!!!」

「………っ!む、むきゅう…ぱちゅにはやさしい…」

 今は会えないことはわかっていようとも、ぱちゅりーの心の中にあり続ける優しい親ありすの存在を否定され、ぱちゅ
りーは少しだけムキになった。ぱちゅりーは、娘に向かって何か言おうとしたがそれさえも許してはもらえなかった。

「もういい!!!大体、寒いとか言ってるけど何?あんた一匹のために、一晩中ストーブでもつけてろ、って言うの?」

 ぱちゅりーに対して怒りを滅茶苦茶にぶつける娘を見て、母親がため息をつく。

「仕方ないわね…あなた…この子…近くの山に捨てにいきましょう…?」

「む…むきゅうっ!?」

 ぱちゅりーが母親に向き直る。

「ここが寒くて嫌なら山で暮らせばいいじゃない」

「そんなの…むりだわ…ぱちゅひとりじゃ…」

「一人じゃなんにもできないくせに文句ばっかりは一人前なんだね。そういうの、最悪だよ」

 ぱちゅりーは、もうそれ以上何も言わなかった。何を言ってもダメだ。この家族は自分の事を信じてくれていないし、
話すらまともに聞いてはくれない。山に捨てられたら、まずは巣穴を掘らなければいけない。それも、日が落ちる前に。
野ざらしの状態では、夜を越すことができずに寒さで死ぬ。この部屋で過ごした一夜が、それを証明している。どうして
も捨てられるわけにはいかなかった。

「捨てるのは無理だ」

 父親が口を開く。母親と娘と一緒に、ぱちゅりーも父親の方を見た。

「ぱちゅりーは銅バッジゆっくりだ。バッジにはシリアルナンバーが振ってある。原則として、ペット扱いのゆっくりは
 捨てちゃいけないことになっている。せめて、飼いゆ登録の抹消が済んでからの話だな…」

「バッジだけ外して捨てればいいんじゃ…」

「死亡届を出さないといけない。そのゆっくりの死体を持っていってな…」

 ぱちゅりーは怯えながらその話を聞いている。娘はというと、もうぱちゅりーが震えているだけで気に入らないらしい。

「もういいよ…お腹すいたし…朝ご飯にしよう…」

 ごはん、という単語を聞いてぱちゅりーのお腹がきゅるる…と鳴った。その音は家族の耳にも入った。

「ねぇ?お父さん…私、いいこと思いついちゃった…」

「なんだ?」

「食べ物とかあげなければ…お腹が空いて死ぬんじゃない…?で、それを持っていって死亡届書いてもらおうよ」

 10歳の娘のとんでもない発言に、両親は一瞬凍りついた。ぱちゅりーはもっと驚愕の表情を浮かべている。

 狭い部屋に、乾いた音が響いた。

 娘の頬が赤く染まっている。父親は娘に平手打ちを放った。娘の目に涙が溢れてくる。

「冗談でもそういうことは言うな。こいつだって生き物なんだ」

 娘は何も言わずに、走って部屋を出て行った。父親がため息をつく。、

「…あとで、私が見に行きます…」

「すまん」

 そう言って、母親は朝食の準備をしに台所へと向かった。部屋に、父親とぱちゅりーだけが取り残された。

「ペットショップが動き出すのが一月四日だ。それまでに…娘に気に入ってもらえるように頑張れ。俺からはそれしか言え
 ない。悪いな。お前は俺が買ってきたのに…」

「むきゅう…」

「この部屋も寒かったか…。隣の部屋は家具とかがたくさんあって危ないからこっちのほうが良かったと思ったんだが…。
 向こうの部屋もな…この部屋と同じくらい寒いぞ。俺たちが寝てしまったあとはな…」

「おとうさん…」

 ぱちゅりーは娘が父親のことをそう呼んでいたのを記憶していたので、それに倣ってその“名前”を呟いた。

「ほう…そんな言葉も使えるのか…。心配するな。俺がお前の食べるものを買ってきてやる。それまでは腹が減るだろうが
 我慢してくれ。あいつもそのうち、お前を認めてくれるさ。今は、お前の事が気に入らないんじゃなくて、お前を買って
 きた俺の事が気に入らないだけさ」

「…ぱちゅ…ゆっくり…まっているわ…。おとうさんたちに…めいわくもかけないわ…」

「…いい子だ、ぱちゅりー」

 そう言って、父親はその大きな手でぱちゅりーの頭を撫でてやった。飾りごしだったとは言え、ぱちゅりーは確かにその
手のぬくもりをその身に感じた。ぱちゅりーは、また泣きそうになったが、父親を困らせるようなことはすまいと唇を噛み
しめ、それを堪えた。

 それから、父親はぱちゅりーの部屋に使い古しの毛布を持ってきた。実は父親はゆっくりがここまで寒さに弱い生き物だ
とは知らなかった。冷静に考えれば、犬や猫が真冬でも夜を明かすことができるのは毛皮に覆われているからだ。ゆっくり
に、そんなものはない。父親は、ぱちゅりーの頬に手を当てた。

「むきゅっ…」

 ぱちゅりーは、おっかなびっくりと言った様子で父親を見上げている。父親の手に伝わったぱちゅりーの体温は冷たかっ
た。父親が部屋のカーテンを開けると、窓越しに太陽の光が入り込んできた。ぱちゅりーは、一瞬だけ目が眩んだが、その
光の降り注ぐ場所が暖かい場所だとすぐに理解した。

 ぱちゅりーは、ずりずりとあんよを這わせ、その光の元へと移動した。冷え切った皮に、太陽の光が触れ…ぱちゅりーの
頬にうっすらと薄紅色が戻ってくる。ぱちゅりーは振り返らずに、窓の外の景色を睨みつけるように見つめながら、泣いた。
ただ、暖かい、ということがこんなにも嬉しいことだということを…ぱちゅりーは初めて知った。

 思えば、親ありすはぱちゅりーと姉妹を連れてよく日向ぼっこに連れて行ってくれた。親ありすが見守ってくれている傍
で、お昼寝もしたりした。そのときの記憶が次々とよみがえり、大粒の涙となって溢れだした。

(むきゅぅぅぅぅ…おかあさん…みんな…ぱちゅは…ひとりで…とってもさびしいのよぅ………)








 ぱちゅりーは、窓辺ですやすやと寝息を立てていた。ぱちゅりーの空腹は未だに満たされてはいなかったが、もう騒ぐこ
とはしなかった。いたずらに暴れたところで、中身の生クリームを消費するだけだ。中身の生クリームが三分の一以下にな
ればゆっくりできなくなる。

 あんよを動かしたり、言葉を喋ったり…そういう行動を起こすには、生クリームが消費される。もちろん、れいむ種やま
りさ種にも同じことが言え、それらのゆっくりも中身を消費して活動を行い、その中身が三分の一以下になれば死ぬ。中身
の量を保つには、食事を取るしかない。

 そのことを、ぱちゅりーは本能で理解していた。父親が持ってきてくれるであろうご飯が届くまでは、余計な体力は使わ
ないようにしようという、正しい判断であった。窓辺にいる限り、寒さに体力を奪われることもない。

 しかし、扉を隔てた“向こう側”では少しばかり大変なことになっていた。

 娘がまた、大泣きしている。今度は、父親が娘に何度も何度も謝っていた。母親も、娘と父親の間に入り、必死にその場
を納めようとしている。

「お父さんの嘘つきっ!!!お正月は、みんなで一緒に過ごす、って言ったじゃない!!!!」

 父親がバツの悪そうな顔をして、頭をかく。

「お父さんね…急なお仕事が入ったから、一緒にはいられないのよ…?」

「どうしてっ?!いっつもそうじゃん!!!誕生日も、クリスマスも、…私はみんなで一緒に過ごしたかったのに…っ!」

「…すまない」

 たしなめようとする母親の姿も、力なく謝ろうとする父親の姿も、幼い娘の心を傷つけるには十分であった。

「そんなにお仕事が大事なのっ!?私よりも?お母さんよりも?どうしてお父さんはいつもそっちに行っちゃうの!!!」

 父親の携帯電話に着信が入る。仕事先からだ。ポケットから携帯電話を取り出し、会話を始める。この行動が娘にとって
の引き金となった。

「ばかあああああああああ!!!!お父さんなんて…大っっっっっ嫌い!!!!!!!!!」

 その小さな体のどこから今の叫び声を上げたのかわからないほどの大声で、娘は父親に怒鳴りつけた。娘は、父親へと贈
るクリスマスプレゼントを用意していた。今朝のことを謝って、それを手渡すつもりだった。たどたどしい文字で「肩たた
き券」と書かれた、小さな紙の束をポケットの中で握りしめて、父親を睨みつけた。

 それでも、玄関へと歩いて行く父親は振り返らなかった。娘はそれが悔しくて悔しくてたまらなかった。父親が立ち止ま
る。娘が少しだけ表情を元に戻す。しかし。

「母さん…ぱちゅりーの餌を買ってきておいた…。昨日から何も食べてなくて腹をすかしてるだろうから…ちょっと多めに
 くれてやれ」

「…………………ッ!!!!!」

「わかったわ。お皿は家のものでもいいかしら?」

「ああ…頼む」

 娘は両の拳を握りしめ、わなわなと震えていた。玄関の扉に手をかけたとき、父親は振り返らずにもう一度だけ謝った。
娘は何も言わなかった。外側から閉められた玄関の扉と同じように、娘の心も閉ざされた。

「う…うぁ…うああああああああああああん!!!!!!」

 大声で泣き出す。母親はため息だけをつくと、父親の買ってきたゆっくりフードを探しに台所へと向かった。






 ぱちゅりーはと言うと、娘のとてつもない泣き声に驚き、思わず目を覚ました。

(む…むきゅっ…な…なんなのかしら…?)

 娘の泣き声がぱちゅりーに届く。今朝も娘が大泣きする姿を見てはいるが、今のそれはそのときとは別のもののように
感じた。

(むきゅう…なにか…あったのかしら…)

 ぱちゅりーは、何となくゆっくりできなくなって、もそもそと日の当たる場所から移動を始めた。そのうち、ぱちゅり
ーの部屋に、母親が入ってきた。母親の左手には、ゆっくりフードがたくさん入った深皿がある。ぱちゅりーは、母親が
持っているものが、ペットショップで毎日食べさせてもらったものと同じだということをすぐに理解した。

 忘れかけていた空腹が蘇る。そして、ずりずりと母親の元へと無言で這って行った。母親が静かに深皿を床に置く。ぱ
ちゅりーは、母親を見上げた。母親はきょとんとした顔でぱちゅりーを見下ろしている。

「…食べないの…?あなたたちのご飯だと…聞いたんだけれど…」

「む…むきゅぅ…これを…たべても…いいのかしら…?」

「いいのよ。お腹すいてるんでしょう?たくさんお食べなさい。昨日の分までね。私は、あなたたちがどんな間隔で食事
 を取るかは知らないから…お腹がすいたらまた教えてちょうだい」

 母親の静かなほほ笑みに安心したのか、食事により命を繋げることに安心したのか、ぱちゅりーは安堵の笑みを浮かべ
た。母親はゆっくりがご飯を食べるところを見てみたいのか、ぱちゅりーがゆっくりフードに口をつけるのを待っている。

(むきゅっ…!ごはんさんをたべてもしあわせー!してはいけないわ…おぎょうぎのわるいこだとおもわれちゃうもの!)

 ぱちゅりーは、もそもそとゆっくりフードを口に入れ咀嚼した。それをゆっくりと飲み込む。ぱちゅりーは意識しては
いないが、表情には喜びが溢れ出てきている。母親はそんなぱちゅりーを見て少し安心したのか、ぱちゅりーの頭を撫で
ると、部屋を出て行った。

 それでも、ぱちゅりーはしあわせ宣言を我慢してゆっくりフードを食べ続けた。

(むきゅう…おいしいわ…おいしいわ…ゆっくりありがとう……ぱちゅ…ほんとうにうれしいのだわ…)

 いつのまにか涙を流していた。こうして食事を取っていると、家族みんなで木の実や芋虫と言ったごちそうを食べてい
た頃を思い出す。無意識だった。ぱちゅりーは体全体をぶるっ、と震わせて、

「むーしゃ、むーしゃ、しあわせえぇぇぇぇ!!!!!」

「ふぅん…そう。幸せなんだ」

 気付かなかった。ぱちゅりーの目の前に細い足が見える。見上げると、そこには目を真っ赤に泣き腫らした娘が立って
いた。見下ろすその目に光はなく、氷の刃のような眼差しがぱちゅりーを突き刺している。ぱちゅりーの本能が危険を告
げる。思わず、後ずさりした。

「……………」

 娘は無言でぱちゅりーに向かって深皿を蹴りつけた。深皿はぱちゅりーの顔面にクリーンヒットし、中のゆっくりフー
ドが床中に散らばった。ぱちゅりーは突然襲った強烈な痛みに、顔の中心をへこませながら目に涙を浮かべている。カラ
カラと皿が転がり、それが止まったとき、部屋は静寂に包まれた。

「ねぇ…なんかおかしくない?」

 娘が、一歩一歩、ぱちゅりーににじり寄る。ぱちゅりーは動けなかった。痛みと恐怖であんよが思うように動かせない。
ただ、そこいら中に散らばったゆっくりフードに、空虚な視線を送るのみであった。

「どうして、私へのプレゼントは…私が気に入らないもので…あんたへのプレゼントは…あんたなんかが気に入るものな
 の?」

 ぱちゅりーには娘が何を言っているのか理解できなかった。言葉の意味は理解できなかったが、娘がぱちゅりーに対し
てとてつもない憎悪の情を向けていることだけは感じ取ることができた。

「私には…!私の欲しい物買ってきてくれなかったくせにっ!!なんで、あんたなんかには、ちゃんとあんたが欲しい物
 買ってきてくれたのか、って…聞いてるのよっ!!!!!!!!」

 叫び、ぱちゅりーの顔につま先をねじ込み、足を振り抜いた。ぱちゅりーを衝撃が襲い、体が宙に浮いたかと思うと、
すぐ傍にあった壁に後頭部を強打し、べしゃりと顔面から床に落ちた。

「ゆぎゃああああ…っ!い゛だい゛の゛だわ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っ!!!!!」

 蹴られた場所、打ち付けた後頭部、床に落ちた衝撃。その痛みが一度にぱちゅりーを襲った。ぱちゅりーはぼろぼろと
涙をこぼしている。体中のそこかしこから、痛みが波紋のように広がる。

 娘は、ぱちゅりーの結われた紫色の髪をつかむと、そのまま床に叩きつけた。

「え゛びゅ゛っ゛??!!!!」

 振り下ろされた反動で中身の生クリームが逆流し、口から溢れだした。

「む゛…ぎゅう゛…えれえ゛れ゛…え゛ッ???!!!!!」

 その溢れだした生クリームを、娘はいつのまにかぱちゅりーから奪い取った飾りの帽子越しに手で掴み、ぱちゅりーの
口の中に押し戻した。

「え゛ぐ…ゆ゛ぎぃ…っ!!!ぎゅ…びゅ…ぎゅべっ…っ!!!!」

 まだ幼く小さな手であるとはいえ、その手はぱちゅりーの口の中に帽子ごと突っ込まれている。このため、ぱちゅりー
は苦悶の表情を浮かべながらも押し戻された中身を飲み込むことも、気持ち悪さに再び逆流してくる中身を吐き出すこと
もできなかった。

 苦しくてたまらなかった。ぱちゅりーは、結われた両の髪を床に何度もバシバシと叩きつけ、抵抗している。しかし、
人間の力の前にはあまりにも無力であった。ぱちゅりーの口の中には、一度吐いた中身と、再び溢れた中身が混ざり合っ
ていた。何度もせき込み、涙を流しながら、ようやくぱちゅりーは自身の吐いた中身を飲み込んだ。

 ぱちゅりーが生クリームを全て飲み込んだことを確認したかどうは推し量りかねるが、娘はようやくぱちゅりーの口の
中から手を引き抜いた。

「え゛…っ!!え゛げっ…む゛ぎょっ…っ!!!!」

 大きくせき込み、ぱちゅりーの唾液が床に撒き散らされる。ぱちゅりーの口からは未だに涎が垂れていた。

「…汚い」

 そう言って、まだ握りしめるように所持していたぱちゅりーの飾りを雑巾がわりに、床の唾液を拭き始めた。

「む゛きゅうう!!!ぱちゅのおぼうしはそんなつかいかたをするもの゛んぐう゛っっ!!!!」

 床の唾液を拭き終えた後、今度はぱちゅりーの口から垂れた涎を乱暴に拭うと、ボロ雑巾のようになってしまった飾り
をぱちゅりーに向かって投げつけた。

「むきゃっ!!!!」

 突然、視界を奪われる。全身が震えていたが、動くことができなかった。ぱちゅりーは、娘のことが恐ろしくて仕方が
なかった。同時に、今、自分の置かれている状態の整理をすることができなかった。

 つい、さっきまではようやく貰えたご飯を食べていたはずなのに、そのご飯は部屋に散乱し、ぱちゅりーの顔は傷だら
けだ。ぱちゅりーはきょろきょろと辺りを見回した。父親か母親に助けを求めようとしていた。そんなぱちゅりーの思惑
を読み取ったのか、娘が静かに、冷たく呟いた。

「お父さんはね…お仕事があるから今日からこの家にはいないんだよ…?」

 ぱちゅりーが、後ずさる。それでも、ぱちゅりーは視線を泳がせた。

「お母さんはね…買い物に出かけてるから今はいないよ…すぐに帰ってくるけどね…」

 すぐに帰ってくる、という言葉を聞き、ぱちゅりーが安堵の表情を浮かべたのを娘は見逃さなかった。床に転がってい
た深皿を手に取り、ぱちゅりーの真上に振り上げた。

「や…やめ…」

 そして、それを一気にぱちゅりーに向かって叩きつける。深皿はぱちゅりーの頭頂部にめり込むように激突すると、弾
力で跳ね返り、床に落ちて割れた。再びぱちゅりーを激痛が襲った。

「い゛…い゛だい゛よ゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!!!!」

 ぱちゅりーらしい口調さえも失うほどの痛みが全身に走っているのだろう。ぱちゅりーは娘の足下でごろごろごろごろ
と転げ回った。

 娘は、そのぱちゅりーの“汚らしい”動きを踏みつけることで止めた。

「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ…」

「床に散らばった餌。お母さんが帰ってくるまでに食べといてね」

「む…むきゅうん…」

「それからお皿。あんたが割ったことにしとくから」

「むきゅうっ?!!」

 娘は、ぱちゅりーに押し付けた足に潰れない程度の体重をかけた。ぱちゅりーが再び、結われた髪で床を叩く。

「もし本当のことを言ったら…」

 ぱちゅりーがかろうじて映る視界から娘の足の上を見る。娘と目が合った。娘の目に光はなかった。





「お仕置き…するから」








三、


 十二月三十一日。


 ぱちゅりーは、皿を割ったことを母親に叱られた。事情を知らない母親は、悔しさのあまり唇を噛み締め涙を流すぱち
ゅりーを見て、“この子は本当に自分が悪いことをしたのだとわかっている”という判断のもと、それ以上ぱちゅりーを
咎めるようなことはしなかった。ただ一言。

「お腹が空いてたのはわかるけれど…もっと落ち着いて食べようね?」

 と、だけ言い残し、また皿に盛ったゆっくりフードを床に置いて部屋を後にした。

 ぱちゅりーは、ゆっくり…ゆっくり…皿に盛られたゆっくりフードを食べていた。

 そこに、娘がやってきた。ぱちゅりーはすぐに、皿から離れがくがく震えながら娘の次の行動を待っていた。娘は、無
言でゆっくりフードの入った皿を掴むと、その中身を床にばらまいた。

「む…むきゅう!どおしてそんなことするのおおおぉぉぉ??!!!!」

「うちのお皿が汚れる。大体…ゆっくりの分際で人間と同じお皿使ってるのが生意気なんだよ」

 あまりにも理不尽な理由に、ぱちゅりーは何も言うことができない。うつむき、目に涙を浮かべ、ばらまかれたゆっく
りフードを見つめるぱちゅりー。

「ぱちゅ…」

「何?」

「ぱちゅ…ゆっくり…ごはんさんをたべてただけなのに…っ!!!」

 そんなぱちゅりーの悲痛な声を聞いて、娘は陰鬱な笑みを浮かべた。ぱちゅりーは、頬に空気を溜め、威嚇こそしなか
ったものの、連日続く不当な扱いにいい加減怒りが込み上げてきていた。

「クスッ…いい気味。早く病気になって死んじゃえばいいのに…」

 娘は、吐き捨てるように言葉を紡ぎ、部屋を出て行った。ぱちゅりーは、しばらく呆然としていた。部屋の扉の向こう
から、娘と母親の会話が聞こえてくる。



“お母さん!ぱちゅりー、今日はこんなに綺麗にご飯食べれてたよ!”

“あらあら…きっと反省したのね”

“ゆっくりにもちゃんと躾はしないといけないねっ!”



(ぱちゅ…まだ、ごはんさん…たべてないわ…)

(ぱちゅ…はんせいしないといけないことなんて…してないわ…)

(ぱちゅ…ちゃんとおかあさんにしつけしてもらったから…そんなのいらないわ…)

 ぱちゅりーは、泣いた。もう、ここに来て何度涙を流したかわからない。悔しくて悔しくてたまらなかった。

 森で優しい親ありすと、仲の良い姉妹と一緒に誰に迷惑をかけるでもなく暮らしていただけだった。それなのに突然、
現れた人間に、親を殺され街へ連れて来られ…人間に飼われるための教育を無理矢理施され、その過程で姉妹も殺された。

 ようやく、人間に飼ってもらえることになったと思ったら、毎日、毎日、ゆっくりできなくさせられる。

「ぱちゅ…ゆっくりしたい………ゆっくりしたいわ……ゆっくり…させてよぉ…………」

 ぽろぽろと涙をこぼしながら、床に落ちたゆっくりフードを一つずつ舐め取るように口の中に入れる。味はしなかった。
いろんな感情が渦巻いて、少しも美味しいとは思えなかった。

「むーしゃ…むーしゃ…ふしあわせ…」

 ぱちゅりーは、惨めに部屋の隅から隅まで這いずりまわり、ようやく今朝の食事を終えた。




 その夜は、大寒波がやってきた。気温は氷点下を下回るほど。ストーブをつけ、コタツの中に足を突っ込んでいなけれ
ば、家の中にいても寒さを感じるほどの冷え込みだった。

 娘と母親は、コタツの中に入り、温かい年越しそばを食べていた。隣の部屋のぱちゅりーには、今朝と同じゆっくりフ
ードがあてがわれていた。ぱちゅりーは、そのゆっくりフードを一粒残さず食べ終わると、ガタガタ震えながら父親の持
ってきてくれた毛布にくるまり、寒さを凌いでいた。

「ぱちゅりーも、こっちの部屋に連れてくればいいのに…」

 母親の提案に、娘が反対する。

「ゆっくりはご飯を食べたらすぐに眠るんだよ。こんな明るい部屋にいたら眠れなくてかわいそうだよ」

「そうなの…。まぁ…犬だって外で飼われてるんだしね。寝てるところを邪魔しちゃ悪いわね」

 娘と母親の談笑は、ぱちゅりーに届くことはなかった。

(む…きゅ……ぱちゅ…どうしたの…かしら………なんだか…ちからが…はいらないわ…)

 震えが止まらぬ状態で、ぱちゅりーは毛布の奥へと入ろうとしていたのだが、思うように体を動かすことができない。
それに加え、息苦しさを感じ始めていた。寒くて寒くてたまらないのに、ぱちゅりーの額には汗が浮かんでいる。

(ぱちゅ…きもち…わる…)

 不意に、中身が逆流してくるのを感じた。口の中に留めようとしたものの、力が入らず、ぱちゅりーの口から生クリー
ムがどろりと垂れ流された。

(ゆっ…ゆっ…ゆっ…ゆっ…ゆっ…)

 呼吸が早くなっていく。歯をカチカチと鳴らしている。だんだん、目を開けることさえ難しくなってきていた。吐いて
しまった中身を口の中に入れようとするが、舌も伸ばすことができない。

(ぱちゅ…なんだか…へん、だわ…)

 そのとき。娘から言い放たれた言葉が蘇る。




“早く病気になって死んじゃえばいいのに”




 そして、ようやく気付いた。

 ぱちゅりー種といえば、病弱なことで有名ではあるが、このぱちゅりーは一度も病気にかかったことがなかった。一度
だけ、妹のぱちゅりーが寝込んだことはあった。そのときの苦しそうな表情を思い出し、ぱちゅりーに悪寒が走る。

(ぱちゅ…びょうきに…かかって…しまったのだわ…)

 途端に怖くなってきた。病気になったらどうなるのかなんて、わからない。初めて病気になったのだから。誰が助けて
くれるのだろうか。親ありすは傍にはいない。病気が治らなかったらどうなるのだろう…。

(ぱちゅ…しんじゃうの…かしら…?)

 大声を出して助けを呼びたかった。せめて、この寒さからだけでも解放してほしかった。しかし、隣の部屋にいる娘と
母親に届くほどの声を上げる力は残っていなかった。

「ゆぅ…ゆぅ…ゆぅ…」

 体温を維持しようと、ぱちゅりーの中身である生クリームがどんどん消費されていく。

「ゆ…ゆげぇっ!げぇっ!!」

 再び、生クリームを吐き出す。ぱちゅりーの意識が遠のいていく。自身の吐きだした生クリームの上に倒れ込む形でぱ
ちゅりーは崩れ落ち、完全に意識を失った。



 娘と母親は、テレビで紅白歌合戦を見て盛り上がっていた。娘は、日付が変わった瞬間に、新年の挨拶をしたいと言っ
ていたので今日は遅くまで起きている。

 近くの寺から除夜の鐘の音が聞こえてきた。

 娘と母親は、年越しそばの器の片づけを始め、お茶を入れると再びコタツの中に入り、煎餅を食べ始めた。ふいに、母
親が口を開く。

「お父さんのこと…許してあげてくれないかしら?」

「……………わかってるよ……仕方ない、ってことぐらい…」

 娘が母親と目を合わさないように、まだ熱いはずのお茶をずずっと口に入れる。母親は、口元にうっすらと笑みを浮か
べた。そして、

「お父さんね。一月二日には帰ってくるわ」

「お仕事が忙しいんじゃなかったの…?」

「無理矢理、帰ってくるんですって。電話があってね。四日分の仕事を二日で終わらせるんですって」

「お父さん…」

「だから、新年の挨拶も初もうでも、二日まで待つように…って。お父さんからの伝言よ」

 花火の音が聞こえた。それと同時に、テレビには有名なお寺の除夜の鐘が鳴らされているシーンが映っている。娘と母
親は、互いに向き合うと、笑みを浮かべながら頭を下げて、

「「あけまして、おめでとうございます」」

 言い合って、笑った。

「お母さん!明日は一緒にお買いものに行こうよ!」

「わかったわ。好きなもの一つ。なんでも買ってあげる」

「やったー!」

 夜が更けて行く。除夜の鐘の音が、凛と張り詰めた冷たい空気の中、静かに響いていた。








四、


 一月一日。


「そうなのっ!ぱちゅりーが…ものすごく苦しそうで…!ペットショップって四日からしか動かないのよね…?ああ、も
 う…どうしたらいいのかしら…」

 母親が仕事先の父親に連絡を取っている。ぱちゅりーは、この家に初めてやってきたリビングへと連れて来られていた。
ストーブの近くで、毛布にくるまった状態でがくがく震えている。

「ゆ…ゆ…ゆ…ゆ…」

 小刻みに息を吐き、そのたびに“ゆ”と聞こえる“音”が娘には耳障りでしかなかった。時計は午前十一時を回ってい
る。

(何が…何が…“ゆっ”だ………!!!このゲロ袋!!!!!あんたのせいで…あんたのせいで…っ!!!!)

「ちょっと!あなたも何か手伝ってちょうだい!ゆっくりの本、あったでしょうっ?!あれを持ってきて!」

 昨日の夜、約束した買い物に出かけるということは、もう母親の頭の中にはないらしい。娘は拳を握りしめた。いつま
で経っても動かない娘に、母親は声を上げた。

「早くしてって言ってるでしょっ!!!」

「お母さん…」

 冷たく静かに声を掛けられた母親が一瞬、立ち止まる。

「…お買い物に、行こうよ」

 母親は無言で娘の頬を打った。娘は、身じろぎしたが、泣き崩れることはなかった。母親が、娘の部屋へと走って行く。
苦しそうな表情のぱちゅりーを、娘は静かに見下ろしていた。ストーブの上には、除湿機がわりに置いてあるやかんの口
から勢いよく湯気が立ち上っていた。

(あんたなんか…)

 娘が、やかんを手に取る。そして、その注ぎ口を寝込んで苦しんでいるぱちゅりーへと傾けた。

「そのお湯、貸してちょうだいっ!温かいものを作るから!」

 娘の手から母親がやかんを奪い取るように取り上げた。母親は、台所へと向かい、何やら食べ物を作る準備を始めたよ
うだ。

 娘は、ぱちゅりーを見下ろしたまま、唇をかみしめた。

(みんな…私より、こいつのことのほうが大事なんだ…………私よりも、大事なんだ………)




 ぱちゅりーは、夢を見ていた。

 病気で苦しんでいる自分に、すーりすーりしてくれる親ありす。顔は見たことなどないはずだが、親ぱちゅりーは、病
気によく効くという草を集めてきてくれていた。

 親ありすと親ぱちゅりーは、優しく微笑んでくれた。それは、ぱちゅりーを安心させた。




「おか…」

 ぱちゅりーが、何か呟く。娘は、われに返り、かすかに動くぱちゅりーの唇を凝視していた。

「おかあさん………ありがとう……………」

 娘の拳に力が入る。ぱちゅりーは、一瞬だけ笑顔になった。その笑顔が癇に障った。

(私が…こんな思いしてるときに…なんで…あんた、笑ってるの…?)

 娘はぱちゅりーを毛布ごと抱きかかえた。

(お母さん、だなんてふざけるのも大概にしてよ…私のお母さんだよ…あんたなんかが…気安く…呼ばないでよ…っ!!)

 そして、そのまま静かに部屋を出た。



 野菜スープを作り終えた、母親が娘とぱちゅりーが先程までいた場所に戻ってくる。ストーブの音だけが、空っぽの部
屋に響いている。

「…………え?」







 娘は、自転車を走らせていた。籠の中には毛布でめちゃくちゃにくるんだぱちゅりーが入っている。ぱちゅりーが毛布
の中で何かもごもご言っているが、娘の耳には入らなかった。

 冬の冷たい風が娘の顔を、スカートから伸びる足を切り裂いているが、娘は顔色一つ変えなかった。ただ、ひたすら、
前を見つめている。

 娘は、粗大ゴミ捨て場の前で、自転車を止めた。周囲に人こそいなかったものの、娘は周りのことなど一切気にしない
様子で、ぱちゅりーを毛布の中から取り出し、たまたま捨ててあった冷蔵庫の中に投げ込んだ。

 ぱちゅりーは、突然、襲ってきたとてつもない冷気に為す術なく震え、動かすことのできない体のまま、娘を見つめて
いた。自然に涙が溢れる。ぱちゅりーにはもう、わかっているのだろう。娘が、自分に何をしたのか。そして、これから
自分はどうなるのか。

「む…きゅ…おねが、いよ…」

「お父さんも、お母さんも…私より、あんたなんかのほうが大事なんだよ…きっと」

 ぱちゅりーが歯を打ち鳴らし、浮き出た汗が頬をつたっていく。冷蔵庫の中とはいえ、寒さはぱちゅりーの体力をどん
どん奪って行った。体温維持のための生クリームの量がすぐに追い付かなくなる。ぱちゅりーは、呼吸困難を起こし始め
た。

「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ…おねがい…じばず…ざむぐで…ゆっぐり゛…でぎな゛い゛わ゛ぁ…」

 泣きながら、懇願する。娘は、自分の中の感情の何かが高鳴るのを感じていた。そして、冷蔵庫の扉に手をかける。

「む…むきゅう…っ!おでが…い゛よ…だずげで…ぢょう゛い゛…ぱちゅ…じにたぐ…な゛い…」

「ああ…わかるんだ。自分が今から死ぬ、ってこと」

「ぱちゅ…いいごに…じてるから…だから…おでがい…おねがい゛…」

「別にいい子にしてようがしてまいが…関係ないわよ。お父さんもお母さんも、あんたのことしか見てないんだから…」

「むきゅっ!むぎゅう…っ!」



「すぐに生クリーム吐いて気持ち悪い」

(あんなひどいことされたら…どんなゆっくりだってなかみをはくわ…っ!!!)



「すぐに病気になって迷惑」

(あんなさむいばしょにずっといたら…びょうきにもなるわ…っ!!!)






「さよなら」





 そう言って、娘は冷蔵庫の扉を閉めた。ぱちゅりーの視界から全てが消えた。相変わらず、震えは止まらない。冷や汗
も止めどなく溢れてくる。がたがたがたがた震えていた。体の中の生クリームもほとんど消費しきっている。それでも、
体が動くうちにと冷蔵庫の扉を開けようと力を込める。

「む゛…っ…ぎゅう…っ!!」

 しかし、びくともしなかった。そして、もう、その場所から動くだけの力が残されていないことを悟った。

 声を出すことすらできなかった。ただ、思考を巡らせるのみ。




 あれからどれくらいの時間が経っただろうか。

 夜の闇に覆われた粗大ゴミ捨て場の中で、ぱちゅりーは震えていた。

 一歩も動くことができず、何も見ることができず、しかし、意識だけは保っている。ぱちゅりーは恐ろしくて恐ろしく
て仕方がなかった。寒気はぱちゅりーを襲い続けていたが、もう震えることはなかった。震えるという行動を取れるほど
の生クリームは残っていなかった。

 今、ぱちゅりーの生クリームの全ては、ぱちゅりーが“ゆっくりである”ということの証明…すなわち意識を保たせる
ことに回されている。

(ぱちゅ…このまま…しぬのかしら…)

 寒さを感じなくなってきた。ぱちゅりーは、そっと目を閉じた。何も、見えない。思い浮かぶはずの景色も、優しかっ
た家族の顔も。記憶を呼び起こすことすらできなかった。

 永遠とも言える闇の中で、ぱちゅりーはただ一匹、佇んでいた。

(む…きゅ…う……………………)

 ぱちゅりーの思考が停止した。ぱちゅりーは、この瞬間、ゆっくりではなくなった。ただ…皮の中に生クリームが入っ
ているだけの…食べ物となった。










五、


 一月二日。


 この日、ぱちゅりーは死んだ。













おわり













日常起こりうるゆっくりたちの悲劇をこよなく愛する余白あきでした。


『ぱちゅ物語』に関する余白的考察

『ぱちゅ物語』に関する三十路前後的考察

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