ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0319 どすらりー
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ankoss
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※スレでおぼうしいじめの話題が出たのに触発されて書きました
※独自設定垂れ流し
見上げれば、木々の向こうにはどこまでも青い空が広がっていた。
夏の空。白い雲。森の中をさわやかな風が駆け抜け、木々を揺らし梢に涼やかな音を奏で
させる。
そんな中をのんびりと走っているのだから、普通なら鼻歌のひとつも出そなものだろう。
だが、今の俺には、そんな穏やかな空気にひたるわけにはいかなかった。
まず、俺の手の中にあるものが問題だ。
高々と掲げたそれは、鍔広二メートル近くもある巨大なおぼうしだ。重量もそれなりにあ
るが、なによりもって走ると空気抵抗がすごい。速度こそのんびりだが、このおぼうしの
せいでかなりハードなマラソンになっている。
そして、そんな俺よりずっと大変なことになっているのが、後ろからついてきていた。
「ゆがあああ! までえええええ! どすのおぼうしかえせええええ!」
俺の後ろから迫るのは、体高三メートルにも及ぶどすまりさ。
その頭に、トレードマークのおぼうしはない。俺が手にしているそれこそが、このどすま
りさの大事な大事なおぼうしなのだ。
つまり、俺はいま、おぼうしをめぐってどすまりさとおっかけっこの真っ最中というわけ
なのだ。
これはなにも遊んでいるわけじゃない。
れっきとしたスポーツ。
俺はいま、「どすらりー」の真っ最中なのだ。
どすらりー
ゆっくりをボールに見立てた球技。ゆっくり虐待をテーマとした対戦格闘、「バトルゆ虐」。
ゆっくりを使ったスポーツはいくつかあるが、そのなかでもこの「どすらりー」はハード
な部類に入るだろう。
ルールは簡単。森に住むどすまりさからおぼうしを奪い、ゴールまで逃げ切ること。ただ
したが逃げるだけではダメだ。その目的は「どすまりさ連れてゴールに到達する」こと。
つまり、おぼうしを奪ってからゴールまで、ずっとどすまりさと追いかけっこをしなくて
はならないのだ。
気づかれないようにおぼうしを奪い逃げるだけなら、どすとはいえゆっくり相手のこと。
簡単すぎて競技にならないのだ。
この「どすらりー」。まず難しいのは、距離を保つこと。つかず離れず、どすがあきらめ
ることなく走り続けなくてはならない。自分のペースで走れないというだけでもハードだ。
それも、やたらでかくて邪魔なおぼうしを持ったままで、だ。
「ほーらほら、早く追いつかないと自慢のおぼうしがボロボロになっちまうぞー!」
掲げていたおぼうしを地に着け引きずる。土にまみれ、周りの雑草の汁を浴び、おぼうし
は瞬く間に汚れていく。
「ゆがあああ! やべろおおおお! どすのおぼうしをひきずるなー!」
「おまえの小汚ねえおぼうしを土で清めてやってるんだ! ゆっくりかんしゃしてね!」
「ゆぐががががあああああ!」
ゆっくりは文字通りゆっくりしている。時にはこうして煽って走らせ、ペースを調整しな
くてはならない。
だが、難しいのはペースの調整ばかりではない。
「……っと、そろそろ川か」
走る先、川があった。
「どすらりー」で難しいのはコース選びだ。
目的はあくまでもどすまりさをゴールまで導くこと。当然コースはどすが通れるほど広い
道を選ばねばならず、どすが傷つきすぎないよう険しい道は避けなければならない。
川などは特に問題だ。人間にとっては簡単にわたれる浅い川でも、水に弱いゆっくりでは
致命傷になりかねない。
だから事前のコース選定は頭を使う。
当然俺はこの川の存在もあらかじめ確認していた。目を付けていた浅瀬はまだ先のはずだ。
すばやく進路を変え、川に沿って進むことにする。
ところが。
「ゆっ……ぶわああああああ!」
跳ねて勢いが付きすぎたのか。どすのやつ、川に突っ込みやがった!
盛大に水しぶきをあげて川につっこむ直径三メートルの巨大饅頭。豪快かつ爽快な眺めだ
が、楽しんではいられない。
「このバカ! 糞饅頭のクズゆっくり!」
思わず本気で悪態をついてしまう。
どすまりさがコース半ばで果てたら、この「どすらりー」は失敗、そこで終了なのである。
「ゆぐがああああ! どすはくそまんじゅうじゃないいいい!」
あたり一面に水をはねさせ、どすまりさは立ち直った。
思わず安堵の息が漏れる。川につっこんで皮でも破れていたらゆっくりには致命傷だ。だ
が見たところ、どすまりさの顔は目立った傷はない。
おまけにどすの様子からすれば、この辺りは思ったより浅いらしい。
そうと決まればコース変更。素早くどすまりさの脇を抜け、川を渡る。
そしておぼうしを高々と掲げ、叫ぶ。
「いいやおまえは糞饅頭だね! おぼうしもかぶってない、クソクソクソクソ、クソ饅頭!」
「ゆがあああ! どすはくそじゃないいいいいいい!」
「悔しかったら追いついてみな!」
こういうとき、ゆっくりは単純でありがたい。怒りにとらわれ水の恐怖も忘れ、あっさり
ついてきてくれる。
そしてふたたび追いかけっこがはじまった。
予定とは少々ルートが変わってしまったが、問題はない。この辺りの地形は把握している。
そもそも、「どすらりー」ではこうしたアクシデントはつきものだ。
事前にゆっくりの生息地を調べ、どすの性質を知り、そしてゴールまでのルートを入念に
考えなくてはならない。それも、複数のルートを様々な予想を立てて熟考する必要がある。
今のようなアクシデントばかりではなく、おぼうしを奪うのにしたって予定した場所でう
まくいくとはかぎらない。
どすと自然を相手にした、筋書きのないドラマ。それこそが「どすらりー」の難しさであ
り、醍醐味でもあるのだ。
「までええええ! またないと、どすすぱーくをうつよおおおお!」
「へっ! 撃てるもんなら撃ってみやがれ!」
どすすぱーくについても当然調査済み。
このどすまりさは、おぼうしの中に隠してあるきのこをかじってどすすぱーくを放つタイ
プだ。おぼうしを奪ったときにちゃんときのこは処分済みだから、どすすぱーくの発射は
とっくの昔に不可能なのだ。
おぼうしを持って走っている以上、どすすぱーくを放たない……本来はそのはずだ。だが、
そこは後先考えない餡子脳のこと。万が一の事故も考えなくてはならない。ゆっくりのバ
カさは見くびってはならないのだ。
「どすすぱー……ゆげええええ!」
まったくの予想外だった。
どすのやつ、きのこもないのに無理矢理どすすぱーくを撃とうとして餡子を吐きやがった。
「ば、バカだ! こいつバカだーっ!」
「ゆぐぐ……」
「ほらほら、餡子を飲み込めよ! それともこのおぼうしで拭いてやろうか? こんなク
ズ帽子、雑巾にもならないかもしれないけど、そんなきったねえ餡子で森を汚しちゃまず
いしなあ?」
「ゆがあああ……もぐもぐ……どすのあんこさんとおぼうしをばかにするなあああ!」
どすは怒りながらも吐いた餡子を飲み込んでくれた。やれやれ、これで一安心。餡子なん
ぞ吐いて途中で力尽きでもされたら今までの苦労が水の泡だ。
まったくもって、ゆっくりはやっかいだ。予想を超えてバカで愚か。「どすらりー」の難
しさを実感する瞬間である。
さて、どすも回復したところで「どすらりー」再開だ。
このハプニング続きだったが、この先はなだらかな坂道だ。少しは楽に進めるはず。
「……待てよ、坂道……?」
こういうとき、嫌な予感と言うのはあたるものだ。
川、どすすぱーくの撃ち損ないと重なり、少々どすを挑発しすぎた。そこにきて坂道。
後ろの様子をうかがうと、
「ゆわあああ!」
見事、嫌な予感が当たってしまった。
怒りに我を忘れたどすは、坂道にさしかかったところであっさりと転びやがった。
「ゆぶぶぶぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶる!」
異様な悲鳴を上げて転がり迫る、直径三メートルの巨大饅頭!
今までのどすに合わせたのんびりした走りなんてしていられない。
おぼうしをひらつかせてなんかいられない素早く折り畳み、小脇に抱え全力疾走開始!
「ゆぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるううううう!」
両脇は木々で埋められている。迂闊につっこめば怪我をしかねないし、最悪枝などに押さ
れて逃げきれないかもしれない。
ゆっくりとは言え、どすはどす。その質量は侮れない。巻き込まれれば大怪我間違い無し
だ。
必死に走る先、前方にわき道発見! すぐさま転がり込む。
どすはそのままわき道に入ることなくまっすぐ転がっていき、そして木に激突した。
衝撃が木を大きく揺らし、葉を散らす。
「だ、大丈夫かっ!?」
あわててどすの方へ向かう。
「ゆうう……」
幸い、餡子が漏れるような外傷は見られない。だが激突のダメージはさすがに大きかった
ようで動けそうもない。
「ほらほら、大事なおぼうしが大変なことになるぞー」
折り畳んでいたおぼうしをひろげ、ひらひらと振ってやる。くしゃくしゃになったおぼう
しはゆっくり基準ではすでに大変なことになっているはずなのだが、どすはうらめしそう
な目で見るばかりで動くどころか声すら上げない。
やはりダメージは大きいようだ。
「仕方ない、か」
俺は腰のザックから水筒を取り出す。
今回、水筒はふたつ用意している。一つは飲料用。そしていま取り出したもう一つは、
「ほらほら、あまあまだぞー」
対ゆっくり究極の回復薬、オレンジジュースだ。
基本的に追いつかれないようにどすを導く「どすらりー」。このオレンジジュースは緊急
用で使わずに終わることすらある。
今はまさにその緊急時。ケチらず傷口に振りかけ、口の中にも注いでやる。
「ゆ……あまあま……」
ようやく声を漏らす。だが、回復にはしばらく時間がかかりそうだ。ここは俺も休憩すべ
きだろう。
どすから慎重に距離を置く。草っぱらに寝ころんでも良かったが、せっかくの「どすらり
ー」だ。趣向を凝らそう。
くしゃくしゃのおぼうしを広げて敷くと、それをレジャーシート代わりにして、ごろりと
横になる。
「はああ、きったねえおぼうしだけど、地面に寝るよりちょっとぐらいはマシかねー」
「ゆぐぐ……おぼうし……どすのおぼうしぃぃ……」
涙を流し歯噛みをするどす。だがまだ動けないようだ。俺もずっと走りっぱなしの上に
先ほどの全力疾走、少々の休息が必要だ。
もうひとつの水筒を取り出し、中のスポーツドリンクをひとくち。
「ふう……」
見上げれば、空を大きな雲がゆっくりと動いていた。
穏やかな風が火照った体に心地いい。
耳をくすぐるのは、木々のざわめき。どすの泣き声。
青い空。白い雲。穏やかな木々の緑。どすの泣き顔。
ラリー中とは思えない穏やかな時間。
ああ、最高じゃないか。
そうして、小一時間ものんびりした頃だろうか。
「ゆっ……ゆっくりなおってきたよ……おぼうしをとりかえすよ……そろーり、そろーり」
そんな声が聞こえてきた。
どすと言っても、ゆっくりはゆっくりか。
苦笑する。まったくもって、ゆっくりの相手というのは楽しくて仕方ない。バカ過ぎて愛
おしく、愚かすぎて憎たらしい。
だから、やめられない。
「あーあ、クズ帽子のせいでちっとも疲れがとれなかったぜ!」
罵りながら、立ち上がる。
「どすのすてきなおぼうしはくずなんかじゃないいいいい!」
「いいや、クズだね! クズクズクーズ!」
そして、俺たちは再び走り出した。
*
*
*
「はあっ、はあっ、はあっ……」
あれからも山あり谷あり、ときに走り、ときに休み、どうにかこうにか進んできた。
時間も過ぎ、あんなに青かった空も朱に染まり始めていた。
まずい。今回の「どすらりー」は日が落ちるまでがタイムリミット。時間がない。
「ゆう、ゆう、ゆぐぅ……」
どすのほうも限界に近い。俺も疲れた。どすに合わせて走るのは神経も使うし体力だって
余計に消耗する。それが長時間に及ぶのだから、疲労も深く重い。
だが、それもあと少し。ゴールは近い。あとはこの直線の道をずっといけばいいだけ。
疲れた体にむち打ち、スパートをかけよう――そう心に決めたときだった。
「むきゅ! そこまでよ!」
俺の前にゆっくりどもが現れた。
ぱちゅりーを筆頭に、その数およそ10匹の。
「ゆうう、ぱちゅりぃぃ……」
「むきゅ! どす! ぱちゅがどすをたすけにきたからもうあんしんよ!」
どうやらどすの群れの仲間のゆっくりらしい。進路を予想して……なんて知能がぱちゅり
ーにあるはずもなく、多分偶然見かけたとかだろう。
これはまいった。さんざん走って俺の体力も限界に近い。10匹ものゆっくりをまともに
相手にしている余裕はない。
「むきゅう! みんな、にんげんさんをやっつけるのよ!」
一斉にかかってくる。
いや、ほんと。まともに相手にする余裕はない。
だから瞬殺することにした。
「むきゅ!?」
「ゆぶぅぅ!?」
「ゆびゅぶぶぶ!」
どすのおぼうしを広げて構えれば、次々とその中につっこむゆっくりども。その様はまる
で自分から中に入るかのようだった。本当に自滅が好きなナマモノだ。
俺はゆっくりがみっしりつまったおぼうしを地面にたたきつけると、
「うりゃー」
さして気合いの入ってないかけ声とともにボディプレスをかました。と言ってもほとんど
倒れ込んだだけ。
「むぎゅううう!」
「ゆぎゃああああ!」
「ちゅぶれ……ゆぶぶぶぅぅ!」
おぼうし越しにゆっくりのつぶれる感触と悲鳴が響いて伝わってくる。全身で感じるそれ
はなかなか心地よくはあったが、それでももったいないと思った。
ああ、体力に余裕さえあればもっと楽しめただろうに。もったいない。ぷちぷち潰せる梱
包材があるが、あれを一気に潰したような感じ。爽快ではあるが、やはりひとつずつ潰し
たい――そんな、なんとなく損したような気分だった。
立ち上がり、おぼうしを持ち上げるとベッタリとくっついた餡子やクリーム――「ゆっく
りだったもの」がおぼうしから垂れ、落ちる。
「ゆあああああ! ぱ、ぱちゅりぃぃぃ……みんなあ……」
どすはゆっくりを守る存在。目の前でむざむざと、それも自分を助けに来たゆっくりをつ
ぶされるなどどすまりさにとっては最高の苦痛だろう。自分のおぼうしに潰されたとなれ
ばなおさらだ。
だが、まだ足りない。こいつにはこれから俺のラストスパートにつき合ってもらわなくて
はならないのだから。
俺はゆっくりどもの残骸から、おかざりを拾い上げる。
「ゆううう!? な、なにしてるのぉぉぉ!?」
「こうするのさ」
死んだゆっくりから奪ったお飾りを、どすのおぼうしにどんどん結びつけた。
ゆっくりはお飾りについた死臭を嫌う。
ゆっくりの死体にまみれ、そのうえ死臭をまとうおかざりでかざられたおぼうし。どすま
りさにはどう見えることだろう?
「この俺がおまえのだっさいおぼうしを、とかいはにコーディネートしてやったぜ! ゆ
っくり感謝してね!」
「ゆっがあああああ!」
その効果は予想以上だった。
疲れきったはずのどすが……跳びやがった。
「うおおおおっ!?」
あわてて飛びのく。疲労で体が重い。どすが迫るのがやけにゆっくりに見える。冴えた意
識の中、しかし身体は鈍い。
だが、ぎりぎり間に合った。
間近を巨大な饅頭の皮が通り過ぎる。
続いて、衝撃がビリビリと地を震わす。足下が震え、空気を振るわす振動がいに響く。
大質量の落下を全身で感じる。
さすがどすまりさ。まともに喰らっていたら俺の体中の骨はバラバラになっていたかもし
れない。
「は、ははっ! 元気じゃねぇか糞饅頭!」
「ゆっがああああ! ごろず! ごろず! ごろずぅぅぅ! おまえなんが、ゆっぐりざ
ぜないでごろじでやるうううううう!」
どすまりさのやつ、すっかり元気を取り戻したようだった。
さすがゆっくり、思い込みのナマモノ。こうも回復するとは。
「殺すぅ? だったら追いついてみやがれ!」
そして、俺は最後の体力を振り絞り、走り出す。
「ゆがああああ! ごろずっ! ごろずっ! ごろずううううう!」
声が近い。振り向く余裕もない。
皮膚が粟立つ。背筋が凍る。
それなのに、楽しくてたまらない。
これ、これ、これだ! せっかくどすを相手しているのだ。これぐらいのスリルがなくて
はつまらないってもんだ!
「は、は、ははははははは!」
楽しさがおさえきれない。身体の中にとどめきれず、笑い声となって外へあふれ出す。
「ゆがああああ! わらうなあああ! なにがおかしいいいい!」
「はは! はは! あははははははははは!」
息が苦しい。
でもおかしい。
体が重い。体力はとっくに限界だ。
でもおもしろい。
追いつかれれば潰される。
死んだっておかしくない。
それなのに、楽しくって仕方ない。
すぐに終わって欲しくて、でもいつまでも続いて欲しいような苦しく楽しく狂おしくおか
しい時間。
だが、楽しい時間ってやつはすぐに終わってしまうもので。
「おい、きたぞ!」
「どうしたどうした! どすが追い上げてるぞ!」
「いけー! いけー! あとちょっとだ、がんばれーっ!」
歓声が聞こえる。ついに虐待仲間たちの姿が現れ、ゴールテープも見えてきた。
だから、俺はなおさら全力を尽くす。限界を超えた限界。その一歩を、前へ前へとたたき
つける。
もう無理だ。
いや、まだいける。
もう足が動かない。
まだ、一歩ぐらいはいける。
あと一歩、あと一歩だけ踏み出せ……!
「ゴール!」
その声は不意に届いた。
気づけば俺はゴールテープを切っていた。
「あ……」
気力が途切れ、倒れ込んでしまう。そんな俺を、虐待仲間達は支えてくれる。
もう体力の限界だ。
だが、「どすらりー」はまだ終わりではない。
ゆっくりと、振り向く。
「ま、までぇ……」
再び張られたゴールテープをどすまりさが切る。
こいつもまた、ゴールを迎え、そして限界に達したようだ。
目と目が合う。
競いあい、死力を尽くし、そして共にゴールを迎えた。普通のスポーツならここで友情で
も芽生えるのだろう。
だが。
「おぼうしを……かえせえ……」
「やなこった」
憎悪の視線を投げかけるどすまりさに、不適な笑みを返す俺。「どすらりー」に、人間と
ゆっくりの間に友情など芽生えるはずもない。
「おまえはもう終わりだよ」
俺の言葉にタイミングを合わせたように、
どすまりさの左右から、虐待仲間が竹やりを突き刺した。
「ゆがっ! ご、ごのぐらい、どずにはなんともないよ……!」
確かに傷口の大きさは拳大。どすまりさの巨体なら、かすり傷程度だろう。竹やりだって
特に辛味を塗ったわけでもない普通のものだ。
だが、俺のいったことに誤りはない。こいつはもう、終わりなのだ。
「ほおら、どすまりさ。早く来ないとお前のおぼうし、燃やしちまうぞ」
虐待仲間達はどすのおぼうしを地面を広げ、液体燃料をかけてくれている。
そして別の仲間が、俺に炎の燃えさかるたいまつを手渡してくれた。
「や、やべろおおおおおおおお!」
どすまりさは飛ぼうとした。その、瞬間。
弾ける音がした。
どすまりさの側面から、噴水のように餡子が飛び出た。
そしてどすまりさは跳ぶどころか、その場から一歩も動けていなかった。
「ど、どぼじであんごさんでぢゃうのおおおおお!?」
拳大の、どすまりさにとってかすり傷程度の傷口。普通の場所だったらこんなことにはな
らなかっただろう。
穴を開けたのは、「餡子の圧力集中点」だったのだ。
ゆっくりは体内で餡子を流動し、皮を伸縮させて跳ねる。当然、その動きの過程で餡子が
特に集中する場所……すなわち、強い圧力が発生する箇所があるのだ。
虐待仲間達が竹槍で穴をあけたのはそこだったのだ。人間に例えるなら動脈と足の腱を切
られたようなものだ。動くこともできず、餡子の流出も止まらない。
こうなってしまえばどすまりさの巨体も無力なものでしかない。
「さて、点火!」
たいまつをぼうしに叩きつけると、気持ちいいぐらいに一気に帽子は燃え上がった。
「どすのおおおお! どすのおぼおしがああああああ!」
どすまりさはさけぶだけで何もできない。動こうとすれば餡子が漏れるだけだ。できるこ
とと言えば、悲しみの涙を流し、絶望を叫び、燃えるおぼうしをながめることぐらいだ。
その悲惨ながらもどこか滑稽で笑える惨めなどすまりさの姿は、「どすらりー」の最後を
飾る最高のフィナーレだ。虐待仲間たちも大盛り上がりで喝采を挙げる。
実のところ、この喝采はそれはこの競技をの「終わり」を祝うばかりではない。明日から
の「始まり」を祝ってもいる。
どすまりさという脅威がなくなった今、もはや俺達を阻むものはない。のびのびと気の向
くままにゆっくりを虐待できるのだ。
既にいくつもの企画が立てられている。「お飾りハント競争」「アマギリ選手権」「ゆっ
くり悲鳴音量対決」。実に楽しみだ。俺もいくつかには参加するつもりだ。
たが。だが、今は。
「おぼうしぃ……おぼうしぃ……」
ごうごうと燃えさかるおぼうし。
それを前に、なにもできないどすまりさ。
絶望に濡れる瞳。
涙と泣き声。
吹き出る餡子と、その甘い匂い。
それらは俺が「どすらりー」で得た成果だ。
明日のことは、明日考え、そして楽しもう。
今はただ、この深い達成感を噛みしめよう。
おれはそんな風に思うのだった。
了
by触発あき
* 過去作品
ふたば系ゆっくりいじめ 163 バトルゆ虐!
ふたば系ゆっくりいじめ 172 とてもゆっくりした蛇口
ふたば系ゆっくりいじめ 180 ゆっくりばけてでるよ!
ふたば系ゆっくりいじめ 181 ゆっくりばけてでるよ!後日談
ふたば系ゆっくりいじめ 199 ゆっくりたねをまいてね!
ふたば系ゆっくりいじめ 201 ゆっくりはじけてね!
ふたば系ゆっくりいじめ 204 餡小話の感想れいむ・その後
ふたば系ゆっくりいじめ 211 むかしなつかしゆーどろ遊び
ふたば系ゆっくりいじめ 213 制裁は誰がために
上記以前の過去作品一覧は下記作品に収録
ふたば系ゆっくりいじめ 151 ゆっくりみわけてね!
※独自設定垂れ流し
見上げれば、木々の向こうにはどこまでも青い空が広がっていた。
夏の空。白い雲。森の中をさわやかな風が駆け抜け、木々を揺らし梢に涼やかな音を奏で
させる。
そんな中をのんびりと走っているのだから、普通なら鼻歌のひとつも出そなものだろう。
だが、今の俺には、そんな穏やかな空気にひたるわけにはいかなかった。
まず、俺の手の中にあるものが問題だ。
高々と掲げたそれは、鍔広二メートル近くもある巨大なおぼうしだ。重量もそれなりにあ
るが、なによりもって走ると空気抵抗がすごい。速度こそのんびりだが、このおぼうしの
せいでかなりハードなマラソンになっている。
そして、そんな俺よりずっと大変なことになっているのが、後ろからついてきていた。
「ゆがあああ! までえええええ! どすのおぼうしかえせええええ!」
俺の後ろから迫るのは、体高三メートルにも及ぶどすまりさ。
その頭に、トレードマークのおぼうしはない。俺が手にしているそれこそが、このどすま
りさの大事な大事なおぼうしなのだ。
つまり、俺はいま、おぼうしをめぐってどすまりさとおっかけっこの真っ最中というわけ
なのだ。
これはなにも遊んでいるわけじゃない。
れっきとしたスポーツ。
俺はいま、「どすらりー」の真っ最中なのだ。
どすらりー
ゆっくりをボールに見立てた球技。ゆっくり虐待をテーマとした対戦格闘、「バトルゆ虐」。
ゆっくりを使ったスポーツはいくつかあるが、そのなかでもこの「どすらりー」はハード
な部類に入るだろう。
ルールは簡単。森に住むどすまりさからおぼうしを奪い、ゴールまで逃げ切ること。ただ
したが逃げるだけではダメだ。その目的は「どすまりさ連れてゴールに到達する」こと。
つまり、おぼうしを奪ってからゴールまで、ずっとどすまりさと追いかけっこをしなくて
はならないのだ。
気づかれないようにおぼうしを奪い逃げるだけなら、どすとはいえゆっくり相手のこと。
簡単すぎて競技にならないのだ。
この「どすらりー」。まず難しいのは、距離を保つこと。つかず離れず、どすがあきらめ
ることなく走り続けなくてはならない。自分のペースで走れないというだけでもハードだ。
それも、やたらでかくて邪魔なおぼうしを持ったままで、だ。
「ほーらほら、早く追いつかないと自慢のおぼうしがボロボロになっちまうぞー!」
掲げていたおぼうしを地に着け引きずる。土にまみれ、周りの雑草の汁を浴び、おぼうし
は瞬く間に汚れていく。
「ゆがあああ! やべろおおおお! どすのおぼうしをひきずるなー!」
「おまえの小汚ねえおぼうしを土で清めてやってるんだ! ゆっくりかんしゃしてね!」
「ゆぐががががあああああ!」
ゆっくりは文字通りゆっくりしている。時にはこうして煽って走らせ、ペースを調整しな
くてはならない。
だが、難しいのはペースの調整ばかりではない。
「……っと、そろそろ川か」
走る先、川があった。
「どすらりー」で難しいのはコース選びだ。
目的はあくまでもどすまりさをゴールまで導くこと。当然コースはどすが通れるほど広い
道を選ばねばならず、どすが傷つきすぎないよう険しい道は避けなければならない。
川などは特に問題だ。人間にとっては簡単にわたれる浅い川でも、水に弱いゆっくりでは
致命傷になりかねない。
だから事前のコース選定は頭を使う。
当然俺はこの川の存在もあらかじめ確認していた。目を付けていた浅瀬はまだ先のはずだ。
すばやく進路を変え、川に沿って進むことにする。
ところが。
「ゆっ……ぶわああああああ!」
跳ねて勢いが付きすぎたのか。どすのやつ、川に突っ込みやがった!
盛大に水しぶきをあげて川につっこむ直径三メートルの巨大饅頭。豪快かつ爽快な眺めだ
が、楽しんではいられない。
「このバカ! 糞饅頭のクズゆっくり!」
思わず本気で悪態をついてしまう。
どすまりさがコース半ばで果てたら、この「どすらりー」は失敗、そこで終了なのである。
「ゆぐがああああ! どすはくそまんじゅうじゃないいいい!」
あたり一面に水をはねさせ、どすまりさは立ち直った。
思わず安堵の息が漏れる。川につっこんで皮でも破れていたらゆっくりには致命傷だ。だ
が見たところ、どすまりさの顔は目立った傷はない。
おまけにどすの様子からすれば、この辺りは思ったより浅いらしい。
そうと決まればコース変更。素早くどすまりさの脇を抜け、川を渡る。
そしておぼうしを高々と掲げ、叫ぶ。
「いいやおまえは糞饅頭だね! おぼうしもかぶってない、クソクソクソクソ、クソ饅頭!」
「ゆがあああ! どすはくそじゃないいいいいいい!」
「悔しかったら追いついてみな!」
こういうとき、ゆっくりは単純でありがたい。怒りにとらわれ水の恐怖も忘れ、あっさり
ついてきてくれる。
そしてふたたび追いかけっこがはじまった。
予定とは少々ルートが変わってしまったが、問題はない。この辺りの地形は把握している。
そもそも、「どすらりー」ではこうしたアクシデントはつきものだ。
事前にゆっくりの生息地を調べ、どすの性質を知り、そしてゴールまでのルートを入念に
考えなくてはならない。それも、複数のルートを様々な予想を立てて熟考する必要がある。
今のようなアクシデントばかりではなく、おぼうしを奪うのにしたって予定した場所でう
まくいくとはかぎらない。
どすと自然を相手にした、筋書きのないドラマ。それこそが「どすらりー」の難しさであ
り、醍醐味でもあるのだ。
「までええええ! またないと、どすすぱーくをうつよおおおお!」
「へっ! 撃てるもんなら撃ってみやがれ!」
どすすぱーくについても当然調査済み。
このどすまりさは、おぼうしの中に隠してあるきのこをかじってどすすぱーくを放つタイ
プだ。おぼうしを奪ったときにちゃんときのこは処分済みだから、どすすぱーくの発射は
とっくの昔に不可能なのだ。
おぼうしを持って走っている以上、どすすぱーくを放たない……本来はそのはずだ。だが、
そこは後先考えない餡子脳のこと。万が一の事故も考えなくてはならない。ゆっくりのバ
カさは見くびってはならないのだ。
「どすすぱー……ゆげええええ!」
まったくの予想外だった。
どすのやつ、きのこもないのに無理矢理どすすぱーくを撃とうとして餡子を吐きやがった。
「ば、バカだ! こいつバカだーっ!」
「ゆぐぐ……」
「ほらほら、餡子を飲み込めよ! それともこのおぼうしで拭いてやろうか? こんなク
ズ帽子、雑巾にもならないかもしれないけど、そんなきったねえ餡子で森を汚しちゃまず
いしなあ?」
「ゆがあああ……もぐもぐ……どすのあんこさんとおぼうしをばかにするなあああ!」
どすは怒りながらも吐いた餡子を飲み込んでくれた。やれやれ、これで一安心。餡子なん
ぞ吐いて途中で力尽きでもされたら今までの苦労が水の泡だ。
まったくもって、ゆっくりはやっかいだ。予想を超えてバカで愚か。「どすらりー」の難
しさを実感する瞬間である。
さて、どすも回復したところで「どすらりー」再開だ。
このハプニング続きだったが、この先はなだらかな坂道だ。少しは楽に進めるはず。
「……待てよ、坂道……?」
こういうとき、嫌な予感と言うのはあたるものだ。
川、どすすぱーくの撃ち損ないと重なり、少々どすを挑発しすぎた。そこにきて坂道。
後ろの様子をうかがうと、
「ゆわあああ!」
見事、嫌な予感が当たってしまった。
怒りに我を忘れたどすは、坂道にさしかかったところであっさりと転びやがった。
「ゆぶぶぶぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶる!」
異様な悲鳴を上げて転がり迫る、直径三メートルの巨大饅頭!
今までのどすに合わせたのんびりした走りなんてしていられない。
おぼうしをひらつかせてなんかいられない素早く折り畳み、小脇に抱え全力疾走開始!
「ゆぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるううううう!」
両脇は木々で埋められている。迂闊につっこめば怪我をしかねないし、最悪枝などに押さ
れて逃げきれないかもしれない。
ゆっくりとは言え、どすはどす。その質量は侮れない。巻き込まれれば大怪我間違い無し
だ。
必死に走る先、前方にわき道発見! すぐさま転がり込む。
どすはそのままわき道に入ることなくまっすぐ転がっていき、そして木に激突した。
衝撃が木を大きく揺らし、葉を散らす。
「だ、大丈夫かっ!?」
あわててどすの方へ向かう。
「ゆうう……」
幸い、餡子が漏れるような外傷は見られない。だが激突のダメージはさすがに大きかった
ようで動けそうもない。
「ほらほら、大事なおぼうしが大変なことになるぞー」
折り畳んでいたおぼうしをひろげ、ひらひらと振ってやる。くしゃくしゃになったおぼう
しはゆっくり基準ではすでに大変なことになっているはずなのだが、どすはうらめしそう
な目で見るばかりで動くどころか声すら上げない。
やはりダメージは大きいようだ。
「仕方ない、か」
俺は腰のザックから水筒を取り出す。
今回、水筒はふたつ用意している。一つは飲料用。そしていま取り出したもう一つは、
「ほらほら、あまあまだぞー」
対ゆっくり究極の回復薬、オレンジジュースだ。
基本的に追いつかれないようにどすを導く「どすらりー」。このオレンジジュースは緊急
用で使わずに終わることすらある。
今はまさにその緊急時。ケチらず傷口に振りかけ、口の中にも注いでやる。
「ゆ……あまあま……」
ようやく声を漏らす。だが、回復にはしばらく時間がかかりそうだ。ここは俺も休憩すべ
きだろう。
どすから慎重に距離を置く。草っぱらに寝ころんでも良かったが、せっかくの「どすらり
ー」だ。趣向を凝らそう。
くしゃくしゃのおぼうしを広げて敷くと、それをレジャーシート代わりにして、ごろりと
横になる。
「はああ、きったねえおぼうしだけど、地面に寝るよりちょっとぐらいはマシかねー」
「ゆぐぐ……おぼうし……どすのおぼうしぃぃ……」
涙を流し歯噛みをするどす。だがまだ動けないようだ。俺もずっと走りっぱなしの上に
先ほどの全力疾走、少々の休息が必要だ。
もうひとつの水筒を取り出し、中のスポーツドリンクをひとくち。
「ふう……」
見上げれば、空を大きな雲がゆっくりと動いていた。
穏やかな風が火照った体に心地いい。
耳をくすぐるのは、木々のざわめき。どすの泣き声。
青い空。白い雲。穏やかな木々の緑。どすの泣き顔。
ラリー中とは思えない穏やかな時間。
ああ、最高じゃないか。
そうして、小一時間ものんびりした頃だろうか。
「ゆっ……ゆっくりなおってきたよ……おぼうしをとりかえすよ……そろーり、そろーり」
そんな声が聞こえてきた。
どすと言っても、ゆっくりはゆっくりか。
苦笑する。まったくもって、ゆっくりの相手というのは楽しくて仕方ない。バカ過ぎて愛
おしく、愚かすぎて憎たらしい。
だから、やめられない。
「あーあ、クズ帽子のせいでちっとも疲れがとれなかったぜ!」
罵りながら、立ち上がる。
「どすのすてきなおぼうしはくずなんかじゃないいいいい!」
「いいや、クズだね! クズクズクーズ!」
そして、俺たちは再び走り出した。
*
*
*
「はあっ、はあっ、はあっ……」
あれからも山あり谷あり、ときに走り、ときに休み、どうにかこうにか進んできた。
時間も過ぎ、あんなに青かった空も朱に染まり始めていた。
まずい。今回の「どすらりー」は日が落ちるまでがタイムリミット。時間がない。
「ゆう、ゆう、ゆぐぅ……」
どすのほうも限界に近い。俺も疲れた。どすに合わせて走るのは神経も使うし体力だって
余計に消耗する。それが長時間に及ぶのだから、疲労も深く重い。
だが、それもあと少し。ゴールは近い。あとはこの直線の道をずっといけばいいだけ。
疲れた体にむち打ち、スパートをかけよう――そう心に決めたときだった。
「むきゅ! そこまでよ!」
俺の前にゆっくりどもが現れた。
ぱちゅりーを筆頭に、その数およそ10匹の。
「ゆうう、ぱちゅりぃぃ……」
「むきゅ! どす! ぱちゅがどすをたすけにきたからもうあんしんよ!」
どうやらどすの群れの仲間のゆっくりらしい。進路を予想して……なんて知能がぱちゅり
ーにあるはずもなく、多分偶然見かけたとかだろう。
これはまいった。さんざん走って俺の体力も限界に近い。10匹ものゆっくりをまともに
相手にしている余裕はない。
「むきゅう! みんな、にんげんさんをやっつけるのよ!」
一斉にかかってくる。
いや、ほんと。まともに相手にする余裕はない。
だから瞬殺することにした。
「むきゅ!?」
「ゆぶぅぅ!?」
「ゆびゅぶぶぶ!」
どすのおぼうしを広げて構えれば、次々とその中につっこむゆっくりども。その様はまる
で自分から中に入るかのようだった。本当に自滅が好きなナマモノだ。
俺はゆっくりがみっしりつまったおぼうしを地面にたたきつけると、
「うりゃー」
さして気合いの入ってないかけ声とともにボディプレスをかました。と言ってもほとんど
倒れ込んだだけ。
「むぎゅううう!」
「ゆぎゃああああ!」
「ちゅぶれ……ゆぶぶぶぅぅ!」
おぼうし越しにゆっくりのつぶれる感触と悲鳴が響いて伝わってくる。全身で感じるそれ
はなかなか心地よくはあったが、それでももったいないと思った。
ああ、体力に余裕さえあればもっと楽しめただろうに。もったいない。ぷちぷち潰せる梱
包材があるが、あれを一気に潰したような感じ。爽快ではあるが、やはりひとつずつ潰し
たい――そんな、なんとなく損したような気分だった。
立ち上がり、おぼうしを持ち上げるとベッタリとくっついた餡子やクリーム――「ゆっく
りだったもの」がおぼうしから垂れ、落ちる。
「ゆあああああ! ぱ、ぱちゅりぃぃぃ……みんなあ……」
どすはゆっくりを守る存在。目の前でむざむざと、それも自分を助けに来たゆっくりをつ
ぶされるなどどすまりさにとっては最高の苦痛だろう。自分のおぼうしに潰されたとなれ
ばなおさらだ。
だが、まだ足りない。こいつにはこれから俺のラストスパートにつき合ってもらわなくて
はならないのだから。
俺はゆっくりどもの残骸から、おかざりを拾い上げる。
「ゆううう!? な、なにしてるのぉぉぉ!?」
「こうするのさ」
死んだゆっくりから奪ったお飾りを、どすのおぼうしにどんどん結びつけた。
ゆっくりはお飾りについた死臭を嫌う。
ゆっくりの死体にまみれ、そのうえ死臭をまとうおかざりでかざられたおぼうし。どすま
りさにはどう見えることだろう?
「この俺がおまえのだっさいおぼうしを、とかいはにコーディネートしてやったぜ! ゆ
っくり感謝してね!」
「ゆっがあああああ!」
その効果は予想以上だった。
疲れきったはずのどすが……跳びやがった。
「うおおおおっ!?」
あわてて飛びのく。疲労で体が重い。どすが迫るのがやけにゆっくりに見える。冴えた意
識の中、しかし身体は鈍い。
だが、ぎりぎり間に合った。
間近を巨大な饅頭の皮が通り過ぎる。
続いて、衝撃がビリビリと地を震わす。足下が震え、空気を振るわす振動がいに響く。
大質量の落下を全身で感じる。
さすがどすまりさ。まともに喰らっていたら俺の体中の骨はバラバラになっていたかもし
れない。
「は、ははっ! 元気じゃねぇか糞饅頭!」
「ゆっがああああ! ごろず! ごろず! ごろずぅぅぅ! おまえなんが、ゆっぐりざ
ぜないでごろじでやるうううううう!」
どすまりさのやつ、すっかり元気を取り戻したようだった。
さすがゆっくり、思い込みのナマモノ。こうも回復するとは。
「殺すぅ? だったら追いついてみやがれ!」
そして、俺は最後の体力を振り絞り、走り出す。
「ゆがああああ! ごろずっ! ごろずっ! ごろずううううう!」
声が近い。振り向く余裕もない。
皮膚が粟立つ。背筋が凍る。
それなのに、楽しくてたまらない。
これ、これ、これだ! せっかくどすを相手しているのだ。これぐらいのスリルがなくて
はつまらないってもんだ!
「は、は、ははははははは!」
楽しさがおさえきれない。身体の中にとどめきれず、笑い声となって外へあふれ出す。
「ゆがああああ! わらうなあああ! なにがおかしいいいい!」
「はは! はは! あははははははははは!」
息が苦しい。
でもおかしい。
体が重い。体力はとっくに限界だ。
でもおもしろい。
追いつかれれば潰される。
死んだっておかしくない。
それなのに、楽しくって仕方ない。
すぐに終わって欲しくて、でもいつまでも続いて欲しいような苦しく楽しく狂おしくおか
しい時間。
だが、楽しい時間ってやつはすぐに終わってしまうもので。
「おい、きたぞ!」
「どうしたどうした! どすが追い上げてるぞ!」
「いけー! いけー! あとちょっとだ、がんばれーっ!」
歓声が聞こえる。ついに虐待仲間たちの姿が現れ、ゴールテープも見えてきた。
だから、俺はなおさら全力を尽くす。限界を超えた限界。その一歩を、前へ前へとたたき
つける。
もう無理だ。
いや、まだいける。
もう足が動かない。
まだ、一歩ぐらいはいける。
あと一歩、あと一歩だけ踏み出せ……!
「ゴール!」
その声は不意に届いた。
気づけば俺はゴールテープを切っていた。
「あ……」
気力が途切れ、倒れ込んでしまう。そんな俺を、虐待仲間達は支えてくれる。
もう体力の限界だ。
だが、「どすらりー」はまだ終わりではない。
ゆっくりと、振り向く。
「ま、までぇ……」
再び張られたゴールテープをどすまりさが切る。
こいつもまた、ゴールを迎え、そして限界に達したようだ。
目と目が合う。
競いあい、死力を尽くし、そして共にゴールを迎えた。普通のスポーツならここで友情で
も芽生えるのだろう。
だが。
「おぼうしを……かえせえ……」
「やなこった」
憎悪の視線を投げかけるどすまりさに、不適な笑みを返す俺。「どすらりー」に、人間と
ゆっくりの間に友情など芽生えるはずもない。
「おまえはもう終わりだよ」
俺の言葉にタイミングを合わせたように、
どすまりさの左右から、虐待仲間が竹やりを突き刺した。
「ゆがっ! ご、ごのぐらい、どずにはなんともないよ……!」
確かに傷口の大きさは拳大。どすまりさの巨体なら、かすり傷程度だろう。竹やりだって
特に辛味を塗ったわけでもない普通のものだ。
だが、俺のいったことに誤りはない。こいつはもう、終わりなのだ。
「ほおら、どすまりさ。早く来ないとお前のおぼうし、燃やしちまうぞ」
虐待仲間達はどすのおぼうしを地面を広げ、液体燃料をかけてくれている。
そして別の仲間が、俺に炎の燃えさかるたいまつを手渡してくれた。
「や、やべろおおおおおおおお!」
どすまりさは飛ぼうとした。その、瞬間。
弾ける音がした。
どすまりさの側面から、噴水のように餡子が飛び出た。
そしてどすまりさは跳ぶどころか、その場から一歩も動けていなかった。
「ど、どぼじであんごさんでぢゃうのおおおおお!?」
拳大の、どすまりさにとってかすり傷程度の傷口。普通の場所だったらこんなことにはな
らなかっただろう。
穴を開けたのは、「餡子の圧力集中点」だったのだ。
ゆっくりは体内で餡子を流動し、皮を伸縮させて跳ねる。当然、その動きの過程で餡子が
特に集中する場所……すなわち、強い圧力が発生する箇所があるのだ。
虐待仲間達が竹槍で穴をあけたのはそこだったのだ。人間に例えるなら動脈と足の腱を切
られたようなものだ。動くこともできず、餡子の流出も止まらない。
こうなってしまえばどすまりさの巨体も無力なものでしかない。
「さて、点火!」
たいまつをぼうしに叩きつけると、気持ちいいぐらいに一気に帽子は燃え上がった。
「どすのおおおお! どすのおぼおしがああああああ!」
どすまりさはさけぶだけで何もできない。動こうとすれば餡子が漏れるだけだ。できるこ
とと言えば、悲しみの涙を流し、絶望を叫び、燃えるおぼうしをながめることぐらいだ。
その悲惨ながらもどこか滑稽で笑える惨めなどすまりさの姿は、「どすらりー」の最後を
飾る最高のフィナーレだ。虐待仲間たちも大盛り上がりで喝采を挙げる。
実のところ、この喝采はそれはこの競技をの「終わり」を祝うばかりではない。明日から
の「始まり」を祝ってもいる。
どすまりさという脅威がなくなった今、もはや俺達を阻むものはない。のびのびと気の向
くままにゆっくりを虐待できるのだ。
既にいくつもの企画が立てられている。「お飾りハント競争」「アマギリ選手権」「ゆっ
くり悲鳴音量対決」。実に楽しみだ。俺もいくつかには参加するつもりだ。
たが。だが、今は。
「おぼうしぃ……おぼうしぃ……」
ごうごうと燃えさかるおぼうし。
それを前に、なにもできないどすまりさ。
絶望に濡れる瞳。
涙と泣き声。
吹き出る餡子と、その甘い匂い。
それらは俺が「どすらりー」で得た成果だ。
明日のことは、明日考え、そして楽しもう。
今はただ、この深い達成感を噛みしめよう。
おれはそんな風に思うのだった。
了
by触発あき
* 過去作品
ふたば系ゆっくりいじめ 163 バトルゆ虐!
ふたば系ゆっくりいじめ 172 とてもゆっくりした蛇口
ふたば系ゆっくりいじめ 180 ゆっくりばけてでるよ!
ふたば系ゆっくりいじめ 181 ゆっくりばけてでるよ!後日談
ふたば系ゆっくりいじめ 199 ゆっくりたねをまいてね!
ふたば系ゆっくりいじめ 201 ゆっくりはじけてね!
ふたば系ゆっくりいじめ 204 餡小話の感想れいむ・その後
ふたば系ゆっくりいじめ 211 むかしなつかしゆーどろ遊び
ふたば系ゆっくりいじめ 213 制裁は誰がために
上記以前の過去作品一覧は下記作品に収録
ふたば系ゆっくりいじめ 151 ゆっくりみわけてね!