ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko2762 バニラハザード (後)
最終更新:
ankoss
-
view
『バニラハザード (後)』 39KB
不運 戦闘 同族殺し 共食い 野良ゆ 都会 独自設定 五作目。前作から間隔が空いてしまい、ごめんなさい
不運 戦闘 同族殺し 共食い 野良ゆ 都会 独自設定 五作目。前作から間隔が空いてしまい、ごめんなさい
※注
- anko2695「バニラハザード(前)」の後編となります
バニラハザード 後編
勢いよく公園に侵入したまりさ達を迎えていたのは、大量の野良ゆっくり達による襲撃であった。
「あばあばいただくんだぜぇーっ!!」
「ゆっ!」
「ゆっ!」
黒い歯茎がはっきり見えるほどに大口をあけた野良まりさの攻撃を、父まりさは皮一枚でかわす。
そして返す刀に、野良まりさに向かって咥えていた割り箸を突き立てた。
そして返す刀に、野良まりさに向かって咥えていた割り箸を突き立てた。
ぐしゅっ
「ゆっぎいいぃぃぃぃ!?」
「ゆっぎいいぃぃぃぃ!?」
勢いよく放たれた割り箸の先端は、いともたやすく野良まりさの左目を串刺しにした。
あまりの激痛に、野良まりさが大音量の悲鳴を上げる。
そのまま、父まりさが割り箸を力任せに引き抜くと、反動で野良まりさは地面を転がり、向かってくる他のゆっくり達の集団へと突っ込んでいった。
その隙間を縫うようにして、二匹は襲いくるゆっくり達の群れを次々と突破していく。
あまりの激痛に、野良まりさが大音量の悲鳴を上げる。
そのまま、父まりさが割り箸を力任せに引き抜くと、反動で野良まりさは地面を転がり、向かってくる他のゆっくり達の集団へと突っ込んでいった。
その隙間を縫うようにして、二匹は襲いくるゆっくり達の群れを次々と突破していく。
まりさ一家にとっての唯一の救いは、狂ったゆっくり達は皆、まりさ一家をゆっくりではなくあまあまとして認識していたことであった。
そのためどのゆっくりも一切武器を持っておらず、攻撃も単調な噛みつきだけであったことから何とか多ゆん数を相手に渡り合うことができたのだ。
それに、野良ゆっくり達の大半が飢餓状態であったことも幸いした。
ほとんどのゆっくりはひとたび体勢を崩せば、すぐに体力の限界が来て動けなくなる。
たとえ理性を無くしていても所詮はゆっくり。怪物となるには程遠い存在であったのだ。
そのためどのゆっくりも一切武器を持っておらず、攻撃も単調な噛みつきだけであったことから何とか多ゆん数を相手に渡り合うことができたのだ。
それに、野良ゆっくり達の大半が飢餓状態であったことも幸いした。
ほとんどのゆっくりはひとたび体勢を崩せば、すぐに体力の限界が来て動けなくなる。
たとえ理性を無くしていても所詮はゆっくり。怪物となるには程遠い存在であったのだ。
公園への突入を決行して数分程だろうか、遂にまりさ一家は公園の中央にある巨大なイチョウの木にまでたどり着いた。
群れの長であるぱちゅりーのおうちは、この木の根元にある。
群れの長であるぱちゅりーのおうちは、この木の根元にある。
「れいむ! おちびちゃん! あとすこしのしんぼうなんだぜ!!」
「おかーさんがんばって!」
「ふっふひ! ふっふひ!」
「おかーさんがんばって!」
「ふっふひ! ふっふひ!」
父まりさが帽子の上の妹れいむと、後ろで必死についてくるつがいのれいむに激を飛ばす。
力ではこちらが勝っているものの、殺意を持った相手と休まず相手をしているのだ。自然と体力の消耗も激しくなる。
一家の精神と体力は、すでに限界へと近付いていた。
力ではこちらが勝っているものの、殺意を持った相手と休まず相手をしているのだ。自然と体力の消耗も激しくなる。
一家の精神と体力は、すでに限界へと近付いていた。
「でいぶのむーじゃむーじゃたーいむ! はじばるよお"お"お"お"お"お"お"!!」
「あばあばぐわせるみよ"おおぉぉおん!!」
「じゃまをすんなだぜ!!」
「あばあばぐわせるみよ"おおぉぉおん!!」
「じゃまをすんなだぜ!!」
飛びかかる野良れいむとみょんを蹴散らし、父まりさがぱちゅりーのおうちの入り口に近づく。
――その時だった。
――その時だった。
がきっ!
「ゆ"ひひ…やっど…つがまえたんだぜぇ…」
振り戻した割り箸の先端を、背後にいた野良まりさが歯で受け止めた。
「ゆぎぎぎ…その、きたないくちをあけるんだぜ!!」
「うぶっ、うぶぶぶ…あばあばあばあば……あばあばぁぁあああああ!!」
「うぶっ、うぶぶぶ…あばあばあばあば……あばあばぁぁあああああ!!」
受け止めた割り箸の先端を、野良まりさが歯で擦り合わせるようにしてばきばきと噛み砕いていく。
あまあまを匂いでしか感知できないため、割り箸ですらあまあまとして誤食しているのだ。
あまあまを匂いでしか感知できないため、割り箸ですらあまあまとして誤食しているのだ。
「すっごいはごだえだぜええぇぇぇ!! ざすがゆべにまでみたあばあばなんだぜぜぜぜぜぜぜ!!」
「はなせ! はなせえぇ!!」
「はなせ! はなせえぇ!!」
ばきばきばきばき…
ばきん!!
ばきん!!
「ゆぎゃっ!?」
「ぜぜぜぜっ!?」
「ぜぜぜぜっ!?」
やがて、決着の時が訪れた。
尖った割り箸の先端を、ついに野良まりさが噛みちぎったのだ。
反動に耐えきれず、二匹は割り箸を咥えたまま後ろへと転倒する。
その衝撃で父まりさの帽子が頭から離れ、保管していた食料と共に妹れいむが地面へと投げ出された。
尖った割り箸の先端を、ついに野良まりさが噛みちぎったのだ。
反動に耐えきれず、二匹は割り箸を咥えたまま後ろへと転倒する。
その衝撃で父まりさの帽子が頭から離れ、保管していた食料と共に妹れいむが地面へと投げ出された。
「ゆぴぃっ! いだいいいいぃぃぃい!?」
「おちびちゃん!? ま、まずいんだぜ!!」
「おちびちゃん!? ま、まずいんだぜ!!」
地面を転がった痛みで泣き出す妹れいむ。
慌てて父まりさが助けようとするが、襲い来る野良ゆっくり達に阻まれて近づくことができない。
やがて、妹れいむの小さな体を黒い影が覆った。
慌てて父まりさが助けようとするが、襲い来る野良ゆっくり達に阻まれて近づくことができない。
やがて、妹れいむの小さな体を黒い影が覆った。
「ゆほほほ…あまあまみつけだわぁぁ……」
「ゆ…ゆわわわ……」
「ゆ…ゆわわわ……」
妹れいむの目前には、成体サイズの野良ありすが立ち塞がっていた。
理性と一緒に羞恥心をも失ってしまったのか、そのぺにぺにははち切れんばかりにいきり勃っている。
理性と一緒に羞恥心をも失ってしまったのか、そのぺにぺにははち切れんばかりにいきり勃っている。
「んぼおおおっ!! とかいばっ! とかいばあばあばだわああぁぁあっ!!」
「おちび! はやくにげるんだぜええええ!!」
「ゆひぃぃ…やめてぇぇ…」
「いだだぎばあああぁぁあああああ"あ"あ"ず!!」
「おちび! はやくにげるんだぜええええ!!」
「ゆひぃぃ…やめてぇぇ…」
「いだだぎばあああぁぁあああああ"あ"あ"ず!!」
恐怖のあまり、あんよがすくんだ妹れいむに向かってありすが口を大きく開けて襲いかかろうとする。
「やべろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ぼぎゅっ!!
突如飛び込んできた母れいむの体当たりをまともに食らい、野良ありすの体が大きく宙を舞った。
吹き飛んだありすは顔から地面に激突し、周囲にカスタードの花を咲かせて絶命した。
吹き飛んだありすは顔から地面に激突し、周囲にカスタードの花を咲かせて絶命した。
「ゆごおおおお!! おぢびじゃんにふれるなああああ!!」
母れいむは妹れいむと姉まりさをを父まりさの元へと避難させると、次々と飛びかかる野良ゆっくり達を相手に揉み上げを振り回して応戦する。
元々母れいむは争い事が嫌いな性格であった。当然、ゆっくり同士での喧嘩など一度もしたことがない。
鬼気迫る勢いで戦う母れいむを支えているのは、わが子を守ろうとする母性。ただそれだけであった。
元々母れいむは争い事が嫌いな性格であった。当然、ゆっくり同士での喧嘩など一度もしたことがない。
鬼気迫る勢いで戦う母れいむを支えているのは、わが子を守ろうとする母性。ただそれだけであった。
「ばりざぁ! はやぐ! はやぐばちゅりーのおうちに!!」
「わかったんだぜ!!」
「わかったんだぜ!!」
おちびちゃん達を帽子の中へ避難させた父まりさは、急いでぱちゅりーのおうちの入り口の木の板を剥がし、そこからできた空洞の中へと滑り込んだ。
そのすぐ後に母れいむもおうちの中へと転がりこみ、急いで室中に置かれた扉で入り口を塞ぐ。
しばらくの間、どすっ、どすっと塞いだ木の板に衝撃が続いていたが、やがてそれが無くなったのを確認すると、一家はやっと一息つこうとした。
そのすぐ後に母れいむもおうちの中へと転がりこみ、急いで室中に置かれた扉で入り口を塞ぐ。
しばらくの間、どすっ、どすっと塞いだ木の板に衝撃が続いていたが、やがてそれが無くなったのを確認すると、一家はやっと一息つこうとした。
だが、
「むっきゅうううううううううううううう!?」
おうちの奥から突如聞こえてきた絶叫に、一家は再び身を強張らせた。
最悪の事態が頭をよぎり、恐る恐る声がした方へと振り返る。
最悪の事態が頭をよぎり、恐る恐る声がした方へと振り返る。
「どおしてぱちぇのけんじゃのすがあらされてるのおおおお!?」
そこには、見慣れた賢者の顔が青筋を立てて叫んでいた。
ただ、その瞳は今までの野良ゆっくりとは違い、理性をたたえた光を宿している。
それを確認すると、父まりさはやっと安堵の表情を見せた。
ただ、その瞳は今までの野良ゆっくりとは違い、理性をたたえた光を宿している。
それを確認すると、父まりさはやっと安堵の表情を見せた。
「よかった…ぱちぇは…ぶじだったんだぜ……」
「むきゅ? そのこえはまりさかしら!? いったいどうして…」
「はなせば…ながくなるんだぜ……まりさは…おちびちゃんたちを……」
「むきゅ? そのこえはまりさかしら!? いったいどうして…」
「はなせば…ながくなるんだぜ……まりさは…おちびちゃんたちを……」
張りつめていた緊張感が解けたことにより、今まで蓄積していた疲労が一気に溢れ出してきた。
父まりさの体が、ぐらりと傾く。
父まりさの体が、ぐらりと傾く。
「…まも…ら…ないと……」
どさり
「まりさ!?」
「むきゃああああ?! なんなの!? なんなのおおおお!?」
「むきゃああああ?! なんなの!? なんなのおおおお!?」
倒れた体をつきたての餅のように潰して、父まりさはその場で意識を失った。
「ゆ…ゆぅ……」
「むきゅ、きがついたかしら」
「むきゅ、きがついたかしら」
肉厚なイチョウの落ち葉で作られたベッドの上で、父まりさは目を覚ました。
傍にいたぱちゅりーがその声に気付き、父まりさに向かって静かに声をかける。
傍にいたぱちゅりーがその声に気付き、父まりさに向かって静かに声をかける。
「お…おちびちゃんとれいむは……?」
「しんぱいしないで、あっちのほうでむっきゅりしているわ」
「しんぱいしないで、あっちのほうでむっきゅりしているわ」
ばちゅリーが片方のお下げで部屋の奥を指すと、そこにはつがいのれいむと姉まりさ、妹れいむが心配そうにこちらを見ていた。
母れいむの体は先ほどの乱戦によってあちこちに擦り傷や噛み傷がができており、傷口からは黒く餡子が滲んでいる。
いつも綺麗に手入れしていた自慢の揉み上げも、何度も振りまわしたせいでボロボロになっており、右の揉み上げに至ってはリボンが消失してしまっていた。
二匹の子ゆっくりは、れいむが保護していたおかげで目立った外傷はなかったが、その暗い表情は明らかに精神的疲労によるものであることが見てとれた。
母れいむの体は先ほどの乱戦によってあちこちに擦り傷や噛み傷がができており、傷口からは黒く餡子が滲んでいる。
いつも綺麗に手入れしていた自慢の揉み上げも、何度も振りまわしたせいでボロボロになっており、右の揉み上げに至ってはリボンが消失してしまっていた。
二匹の子ゆっくりは、れいむが保護していたおかげで目立った外傷はなかったが、その暗い表情は明らかに精神的疲労によるものであることが見てとれた。
「くわしいはなしは、そこのれいむとおちびちゃんたちからおしえてもらったわ。にわかにはしんじがたいはなしだけど…」
そう言うと、ぱちゅリーは木の根で作られた壁の隙間をそっと覗きこむ。
その視線の先には、何十匹ものゆっくり達の集団が、目を血走らせて蠢いている光景が映し出されていた。
その視線の先には、何十匹ものゆっくり達の集団が、目を血走らせて蠢いている光景が映し出されていた。
「できれば、そうであってほしかったわ」
――辺りは、すでに薄暗くなりつつあった。
気温の低下が著しい冬の夜は、捕食種の危険が少ない野良ゆっくりにとっても、おうちで体力と体温の保持に努めなければならない時間帯でもある。
それでも、ぱちゅりーのおうちの前にいる野良ゆっくり達の数は、一向に減る気配が無かった。
気温の低下が著しい冬の夜は、捕食種の危険が少ない野良ゆっくりにとっても、おうちで体力と体温の保持に努めなければならない時間帯でもある。
それでも、ぱちゅりーのおうちの前にいる野良ゆっくり達の数は、一向に減る気配が無かった。
「いーいにおいだぜえぇぇ…このあたりからにおってくるんだぜえぇぇぇ」
「あーばあーばざぁん……どーごかーじらぁー…」
「どこにあるんだよおぉぉぉ……でてぎてねえぇぇえ……」
「 かゆ あま… 」
――いや、正確に言うならば、増えていた。
比較的エネルギー消費の激しい赤ゆや子ゆ、飢餓状態が特に強かった固体などは長時間の運動によって動けなくなり、あちこちに死体の山を築き始めてはいた。
だが、あまあまの匂いに誘われた野良ゆっくり達が次々と公園に現れ、おうちの周りのゆん口密度をさらに増していく。
比較的エネルギー消費の激しい赤ゆや子ゆ、飢餓状態が特に強かった固体などは長時間の運動によって動けなくなり、あちこちに死体の山を築き始めてはいた。
だが、あまあまの匂いに誘われた野良ゆっくり達が次々と公園に現れ、おうちの周りのゆん口密度をさらに増していく。
おうちの隙間から洩れる匂いに反応して木に齧りつくもの。
匂いの元を探して徘徊するもの。
動けなくなるほどにエネルギーを消費し、ただ死を待つもの。
死んだもの。
時間が経つほどにおうちの前で広がっていくその地獄絵図に、ぱちゅりーは全身の生クリームを吐き出したくなるような激しい不快感に襲われていた。
「まったく…いきなりもどってきたとおもいきや、とんでもないおみやげをつれてきたものだわ」
「ゆうぅ…わるかったんだぜ。でも、もうおさしかたよれるあてがなかったのぜ…」
「むきゅう……まぁ、むれいちばんのかりのめいしゅにたよられるのはそこまでわるいきがしないわ。さて…」
「ゆうぅ…わるかったんだぜ。でも、もうおさしかたよれるあてがなかったのぜ…」
「むきゅう……まぁ、むれいちばんのかりのめいしゅにたよられるのはそこまでわるいきがしないわ。さて…」
ぱちゅりーは覗き込んでいた壁の隙間に枯れ草を詰めて隠すと、入口の扉が閉まっていることを再確認した。
扉は板でしっかりと固定されており、あれならばゆっくりの力では到底破ることはできないだろう。
扉は板でしっかりと固定されており、あれならばゆっくりの力では到底破ることはできないだろう。
「ぱちぇのめからみても、みながおかしくなったげんいんはまりさについたあまあまのにおいのせいだとおもうわ」
「まりさもそうおもうんだぜ。…でも、なんでおさはへいきなんだぜ?」
「むっきゅん! けんじゃをあまくみないでちょうだい。せいしんりょくのきたえかたがちがうのよ!」
「ゆっ!? さ、さすがはおさなんだぜ…」
「まりさもそうおもうんだぜ。…でも、なんでおさはへいきなんだぜ?」
「むっきゅん! けんじゃをあまくみないでちょうだい。せいしんりょくのきたえかたがちがうのよ!」
「ゆっ!? さ、さすがはおさなんだぜ…」
精神力かどうかは解らないが、ぱちゅりーがバニラ香料で理性を失わなかった理由はいくつかあった。
まず一つは、ぱちゅりーは父まりさとある程度面識を持っていたこと。
ぱちゅりーの管理する公園の群れには50匹前後のゆっくりが生活していたが、その中でも父まりさは狩りの名手として広く顔が知られており、長であるぱちゅりーと顔を合わせる機会が比較的多かった。
そのためぱちゅりーはあまあまの匂いに惑わされることなく、父まりさを判別することができたのだ。
ぱちゅりーの管理する公園の群れには50匹前後のゆっくりが生活していたが、その中でも父まりさは狩りの名手として広く顔が知られており、長であるぱちゅりーと顔を合わせる機会が比較的多かった。
そのためぱちゅりーはあまあまの匂いに惑わされることなく、父まりさを判別することができたのだ。
そしてもう一つは、ぱちゅりーは他のゆっくり達に比べ、比較的安定して食料を摂取していたことであった。
長として公園の群れを管理するにあたり、ぱちゅりーは「かんりひ」として狩りで得た食料を皆から少しずつ分けて貰い、それを保存していた。
一人ひとりから集める「かんりひ」の量は微々たるものであったが、塵も積もれば何とやら。全員から集めた食料はゆっくり一匹には十分すぎる量を確保することができ、今まで食糧難を何とか乗り切ることができていたのだ。
さらに、ぱちゅりーはたまに見回りに来る市役所の職員とも交流を持っており、群れの個体数確認や清掃活動などに協力する報酬として、ゆっくりにとっては貴重な食料や道具などを提供してもらっていたことも功を奏していた。
長として公園の群れを管理するにあたり、ぱちゅりーは「かんりひ」として狩りで得た食料を皆から少しずつ分けて貰い、それを保存していた。
一人ひとりから集める「かんりひ」の量は微々たるものであったが、塵も積もれば何とやら。全員から集めた食料はゆっくり一匹には十分すぎる量を確保することができ、今まで食糧難を何とか乗り切ることができていたのだ。
さらに、ぱちゅりーはたまに見回りに来る市役所の職員とも交流を持っており、群れの個体数確認や清掃活動などに協力する報酬として、ゆっくりにとっては貴重な食料や道具などを提供してもらっていたことも功を奏していた。
結果的にぱちゅりーは、自身の能力と行動力のおかげで命拾いすることができていたのだ。
「それで、ぱちぇにたよりたいこととはなんなのかしら?」
「おさ…まりさはこのゆっくりできないあまあまのにおいをとりたいんだぜ! おみずさんやすなさんになんどもごーしごーししたけど、とれなくてこまってるんだぜ…」
「ぱちゅりー! れいむとおちびちゃんのあまあまもとってほしいよ!」
「むぎゅう…たぶんそんなことだろうとおもってたわ…」
「おさ…まりさはこのゆっくりできないあまあまのにおいをとりたいんだぜ! おみずさんやすなさんになんどもごーしごーししたけど、とれなくてこまってるんだぜ…」
「ぱちゅりー! れいむとおちびちゃんのあまあまもとってほしいよ!」
「むぎゅう…たぶんそんなことだろうとおもってたわ…」
ぱちゅりーはしばらくの間むきゅむきゅと唸っていたが、やがて申し訳なさそうに話を切り出した。
「まりさ…ざんねんだけど、そのあまあまはぱちぇのてにはおえそうもないわ…」
「そんな…なんでなんだぜ!?」
「さっきしらべさせてもらったけど、まりさのからだについたあまあまには、むかしれいむがつけていたぬるぬるさんとおなじものがついているわ…」
「そんな…なんでなんだぜ!?」
「さっきしらべさせてもらったけど、まりさのからだについたあまあまには、むかしれいむがつけていたぬるぬるさんとおなじものがついているわ…」
ぬるぬるさん。
人間でいう、油のことである。
人間でいう、油のことである。
父まりさがまだ、群れの一員として活躍していた時であった。
食い意地の張ったれいむが人間が捨てていったお菓子の残りカスを食べようとして袋の中に全身を突っ込み、ぬるぬるさんが付いて取れなくなるという事件があった。
そのぬるぬるさんはれいむがいくら水浴びしても、地面にすりすりしても全く取れることが無く、結局れいむはそのまま車に轢かれて永遠にゆっくりしてしまった。
そして、そのぬるぬるさんが今、あまあまの匂いと一緒にまりさ一家の体についている。
ぱちゅりーの放ったその一言は、まりさ一家にとって死の宣告に等しいものであった。
食い意地の張ったれいむが人間が捨てていったお菓子の残りカスを食べようとして袋の中に全身を突っ込み、ぬるぬるさんが付いて取れなくなるという事件があった。
そのぬるぬるさんはれいむがいくら水浴びしても、地面にすりすりしても全く取れることが無く、結局れいむはそのまま車に轢かれて永遠にゆっくりしてしまった。
そして、そのぬるぬるさんが今、あまあまの匂いと一緒にまりさ一家の体についている。
ぱちゅりーの放ったその一言は、まりさ一家にとって死の宣告に等しいものであった。
「もしかして…まりさたちはいっしょう、このままなの…ぜ……?」
「そんな……いやだよ! れいむまだしにたくないよおぉぉ!?」
「ゆえええぇぇん! いやだあああぁぁぁ!!」
「ゆぅ…まりさたちはみんなしんじゃうんだぜ…だれもたすからないんだぜ……ゆっぐ、ゆっぐ…」
「そんな……いやだよ! れいむまだしにたくないよおぉぉ!?」
「ゆえええぇぇん! いやだあああぁぁぁ!!」
「ゆぅ…まりさたちはみんなしんじゃうんだぜ…だれもたすからないんだぜ……ゆっぐ、ゆっぐ…」
「おだまりなさい!!」
ぱちゅりーの一括に、パニックを起こしかけていた一家が一瞬で静かになった。
「もしたすかるとしたら、ひとつだけほうほうがあるわ」
「ほんと!? ほんとなの!」
「ほんと!? ほんとなの!」
こほん、とぱちゅりーが咳払いすると、父まりさは騒ぎ立てる母れいむの口を押さえつけ、静かにさせた。
「そのぬるぬるさんは、もとはにんげんさんがつくったものよ。きっとにんげんさんなら、そのぬるぬるさんをむっきゅりとるほうほうをしっているはずだわ」
「ゆぅ……でも、にんげんさんはゆっくりできないんだぜ…」
「まりさ、にんげんさんにはむっきゅりできるものとそうでないものがいるわ。あなたはむっきゅりできないほうのにんげんさんにあってしまったようね」
「ゆぅ……でも、にんげんさんはゆっくりできないんだぜ…」
「まりさ、にんげんさんにはむっきゅりできるものとそうでないものがいるわ。あなたはむっきゅりできないほうのにんげんさんにあってしまったようね」
そう言うと、ぱちゅりーはお下げを高く掲げ、再び部屋の奥を指し示した。
「あっちのほうこうにずっとすすんでいくと、ぱちぇとかおみしりのにんげんさんがいるわ。そのにんげんさんなら、ぱちぇのなまえをだせばきっとちからをかしてくれるはずだわ」
「ほ、ほんとなのぜ!? でも…」
「ほ、ほんとなのぜ!? でも…」
ぱちゅりーの救いの一言に父まりさは歓喜の声を上げたが、すぐにまた表情を曇らせた。
おうちの外には大量のゆっくりできないゆっくり達の群れ。
体力、精神共に弱り切ったまりさ達では、先ほどのような強行突破は不可能だろう。
そんな状態で、どうやって公園の外にまで脱出すればいいというのだ?
おうちの外には大量のゆっくりできないゆっくり達の群れ。
体力、精神共に弱り切ったまりさ達では、先ほどのような強行突破は不可能だろう。
そんな状態で、どうやって公園の外にまで脱出すればいいというのだ?
「…でるほうほうがない。とでも、いいたそうなかおね」
「そ…そのとおりなんだぜ…まりさたちには、もう…」
「むきゅ、けんじゃのちえにふかのうはないわ。そこでむっきゅりみていなさい」
「そ…そのとおりなんだぜ…まりさたちには、もう…」
「むきゅ、けんじゃのちえにふかのうはないわ。そこでむっきゅりみていなさい」
ぱちゅりーがおうちの奥へと跳ねていくと、地面に敷いてあった木の板の前であんよを止めた。
そして両方のお下げを使い、木の板を全力で押し上げた。
そして両方のお下げを使い、木の板を全力で押し上げた。
「むっきゅううううううううううう!! けんじゃ、いっぱああぁぁつ!!」
ギギギギギギ
ばちゅリーがむっきゅりと持ち上げた木の板の下。
そこにはゆっくり一匹が入れそうな空洞が、ぽっかりと姿を現していた。
そこにはゆっくり一匹が入れそうな空洞が、ぽっかりと姿を現していた。
「ゆううううっ!?」
「むきゅう……むきゅう……こ…この…『けんじゃのぬけみち』をつかえば、すこしはあんっぜんにだっしゅつできるはずよ……げほっ、げほげほっ!」
「ゆあぁ…ぱちゅりー! これならおちびちゃんたちもだいじょうぶそうだよ!」
「すごいすごい!」
「ま…まりさはおさのいだいさを、さいっにんっしきさせられたんだぜ…」
「げほげほげほっ……そう…なら、またむれにもどってぱちぇをたすけるきはないかしら…?」
「それは…たすかってからかんがえておくんだぜ」
「むきゅう……むきゅう……こ…この…『けんじゃのぬけみち』をつかえば、すこしはあんっぜんにだっしゅつできるはずよ……げほっ、げほげほっ!」
「ゆあぁ…ぱちゅりー! これならおちびちゃんたちもだいじょうぶそうだよ!」
「すごいすごい!」
「ま…まりさはおさのいだいさを、さいっにんっしきさせられたんだぜ…」
「げほげほげほっ……そう…なら、またむれにもどってぱちぇをたすけるきはないかしら…?」
「それは…たすかってからかんがえておくんだぜ」
ぱちゅリーの示してくれた道は、先の見えないまりさ一家にとって唯一残された希望の光となった。
家族の表情に、久しぶりに笑顔が戻る。
家族の表情に、久しぶりに笑顔が戻る。
「しゅっぱつは、よがあけてからのほうがいいわ。それまでしっかりとからだをやすめておきなさい」
「「「「ゆっくりりかいしたよ(のぜ)!!」」」」
「「「「ゆっくりりかいしたよ(のぜ)!!」」」」
バニラ香料の漂うおうちの中で、四匹のゆっくり達の決意を込めた叫び声が響き渡った。
――公園に設置されたデジタル時計は、ちょうど20時を示していた。
辺りは完全に闇に包まれており、月の光と四隅の街灯だけが、公園内に散乱した大量のゆっくりの死体を照らしている。
それでも、イチョウの木の周囲に蠢く野良ゆっくり達の数は未だに増え続けていた。
辺りは完全に闇に包まれており、月の光と四隅の街灯だけが、公園内に散乱した大量のゆっくりの死体を照らしている。
それでも、イチョウの木の周囲に蠢く野良ゆっくり達の数は未だに増え続けていた。
「ゅぅ…ゅぅ………」
「お、おちびちゃん、どうしたんだぜ?」
「お、おちびちゃん、どうしたんだぜ?」
明日の脱出決行に備えて静かに体を休めていた一家であったが、子ゆっくり達の小さなうめき声に父まりさが心配そうに声をかけた。
「ぉ…おなかがぺーこぺーこで…ねむれないんだぜ……」
「れいむも…がまんできないよぅ…」
「ゆううぅぅ…こまったんだぜ……ごはんさんは、もう…」
「れいむも…がまんできないよぅ…」
「ゆううぅぅ…こまったんだぜ……ごはんさんは、もう…」
父まりさは、強行突破の際に帽子を一度落としてしまったことを強く後悔した。
あの時、帽子の中には丸一日分の食料が詰め込まれており、ぱちゅりーのおうちに着いてからゆっくり食事をとる予定だった。
それを割り箸に噛みついた野良まりさと揉み合い、転んで帽子を落とした際に全て地面に落としてしまったのだ。
僅かに帽子にへばりついていた食料を与えてはみたものの、とても二匹の子ゆっくりの空腹を満たすには程遠い量であった。
あの時、帽子の中には丸一日分の食料が詰め込まれており、ぱちゅりーのおうちに着いてからゆっくり食事をとる予定だった。
それを割り箸に噛みついた野良まりさと揉み合い、転んで帽子を落とした際に全て地面に落としてしまったのだ。
僅かに帽子にへばりついていた食料を与えてはみたものの、とても二匹の子ゆっくりの空腹を満たすには程遠い量であった。
「れいむ、なにかごはんさんをもっていないのぜ?」
「ゆうぅ…れいむはおちびちゃんをまもるのでいっぱいいっぱいだったから、なにももってないよ…」
「……ぽ…ぽんぽんがくっつきそぅなんだぜ……」
「むーしゃむーしゃ…したぃ…」
「ゆうぅ…れいむはおちびちゃんをまもるのでいっぱいいっぱいだったから、なにももってないよ…」
「……ぽ…ぽんぽんがくっつきそぅなんだぜ……」
「むーしゃむーしゃ…したぃ…」
ぐぅぐぅと鳴りやまぬ餡子の悲鳴は、子ゆっくり達の空腹が誇張では無いことを物語っていた。
両親が頭を悩ませていると、奥で寝ていたぱちゅリーが近寄ってきた。
両親が頭を悩ませていると、奥で寝ていたぱちゅリーが近寄ってきた。
「むきゅ…うるさいめざましどけいね…おかげでぱちぇのめがさめてしまったわ……」
「お、おさ!? おこしてわるかったんだぜ。でも、おちびちゃんのおなかのおとがとまらないんだぜ…」
「あなた、ごはんさんはどうしたの?」
「それが、ここにくるときにぜんぶおとしてしまったんだぜ…」
「まったく……しかたがないわね…」
「お、おさ!? おこしてわるかったんだぜ。でも、おちびちゃんのおなかのおとがとまらないんだぜ…」
「あなた、ごはんさんはどうしたの?」
「それが、ここにくるときにぜんぶおとしてしまったんだぜ…」
「まったく……しかたがないわね…」
そう言うと、ぱちゅりーは入口の方へずりずりと移動し、傍にあったダンボール箱に顔を突っ込んだ。
「たしかまだ、にんげんさんからもらったほぞんしょくがのこっていたはずだわ…」
「そ、それはおさにとってもだいじなものじゃないのぜ? まりさたちにあげて、おさはだいじょうぶなのぜ?」
「…かんちがいしないでちょうだい」
「そ、それはおさにとってもだいじなものじゃないのぜ? まりさたちにあげて、おさはだいじょうぶなのぜ?」
「…かんちがいしないでちょうだい」
ぱちゅりーはまりさの意見を切り捨てると、ダンボールの中から割れたビスケットを取り出した。
「これはかりのめいしゅのあなたにきたいして、かしてあげるものよ。ことがすんだらばいがえしにしてかえしてもらうから、かくごしておきなさい!」
「お、おさ……わかったんだぜ! かならずまりさはかえしにもどってくるんだぜ!」
「むきゅん、そのいきだわ。 …むきゅ?」
「お、おさ……わかったんだぜ! かならずまりさはかえしにもどってくるんだぜ!」
「むきゅん、そのいきだわ。 …むきゅ?」
…………かり…………かりかり……………かり…
ビスケットを渡そうとダンボールから離れた時、ぱちゅりーはみょんな物音を耳にした。
その物音は、入口の扉に近づくごとに次第に大きくなっていく。
その物音は、入口の扉に近づくごとに次第に大きくなっていく。
かりかりかり(パキッ)かり…かりかりかりかり(ミシッ)かりかりかり…かり……
ぱちゅりーがそっと扉に顔をつけ………そしてすぐに物音の正体に気付き、全身が蒼白になった。
口にくわえたビスケットを取り落とし、慌ててまりさ一家に叫ぶ。
口にくわえたビスケットを取り落とし、慌ててまりさ一家に叫ぶ。
「まりさ! はやくけんじゃのぬけみちにはいりなさい! ここはきk…」
バキバキバキバキッ!!
バキバキバキバキッ!!
ぱちゅりーが叫んだのと、ほぼ同時だった。
扉の底の一部に小さな穴が空き、衝撃で扉が突然ぐらりと傾く。
そして――
扉の底の一部に小さな穴が空き、衝撃で扉が突然ぐらりと傾く。
そして――
「「あばあばあああああああああああああ!!」」
「むっぎゅうううううううううううううう!?」
「むっぎゅうううううううううううううう!?」
僅かに空いた隙間を押しのけるようにして、大量の野良ゆっくり達がおうちの中へと飛びこんできた。
おうちの外にいた野良ゆっくり達は、ひたすらあまあまの匂いの出所を探し続けていた。
そして、おうちの扉の隙間から洩れてくるあまあまの匂いを発見し、一心不乱に扉に齧りついたのだ。
シロアリが木材を食い破るように、野良ゆっくり達もまた、あまあまの匂いの染みついた扉を少しずつ砂糖細工の歯で齧ることで、空腹を満たそうとしていた。
途中、何匹ものゆっくりが力尽き、犠牲となっても、野良ゆっくり達はひたすらあまあまを求めて口を動かし続け――数時間後、ついに浸食がドアストッパー代わりにしていた石にまで到達し、留め金を失った扉は外部からの侵入を許してしまった。
むせ返るほどにあまあまの匂いが充満した、室内へと……
そして、おうちの扉の隙間から洩れてくるあまあまの匂いを発見し、一心不乱に扉に齧りついたのだ。
シロアリが木材を食い破るように、野良ゆっくり達もまた、あまあまの匂いの染みついた扉を少しずつ砂糖細工の歯で齧ることで、空腹を満たそうとしていた。
途中、何匹ものゆっくりが力尽き、犠牲となっても、野良ゆっくり達はひたすらあまあまを求めて口を動かし続け――数時間後、ついに浸食がドアストッパー代わりにしていた石にまで到達し、留め金を失った扉は外部からの侵入を許してしまった。
むせ返るほどにあまあまの匂いが充満した、室内へと……
ぐしっ!!
「むっぎぃいいいいいいいいいいいい!?」
とっさの出来事で混乱したぱちゅりーを正気に戻したのは、突然の頬への激痛だった。
それが食いちぎられたものであると気付く間もなく、ぱちゅりーは何匹もの野良ゆっくりに押し倒された。
それが食いちぎられたものであると気付く間もなく、ぱちゅりーは何匹もの野良ゆっくりに押し倒された。
ぶちっ ぐちゅっ びちゃっ
「むぎょおおおおおお!? まぢなざい! ばぢぇは! ばぢぇはぢがうわぁあ"あ"あ"あ"!?」
ぶぢぶぢぶぢぶぢ…
「ぢがうぢがうぢがヴやべでだずg…」
ぐしゃっ!
ぐしゃっ!
――ぱちゅりーは見落としていた。
ほぼ密室の状態で充満していたあまあまの匂いが、ぱちゅりーの体にも十分染みついていたことに。
だが、それにぱちゅりーが気づく機会はもう無かった。
全身を削られ、中身を引きずり出されながらも、ぱちゅりーは最後まで自身の潔白を主張し続け、永遠にゆっくりしていった。
ほぼ密室の状態で充満していたあまあまの匂いが、ぱちゅりーの体にも十分染みついていたことに。
だが、それにぱちゅりーが気づく機会はもう無かった。
全身を削られ、中身を引きずり出されながらも、ぱちゅりーは最後まで自身の潔白を主張し続け、永遠にゆっくりしていった。
「ぱちゅりー!?」
「れいむ! はやくおちびちゃんをひなんさせるんだぜ!」
「れいむ! はやくおちびちゃんをひなんさせるんだぜ!」
次々とおうちの中へ殺到してくる野良ゆっくり達を前に、母れいむが急いで二匹の子ゆっくりを口の中へ入れる。
その様子を見て、父まりさが安堵の表情を見せた。その時――
その様子を見て、父まりさが安堵の表情を見せた。その時――
「あばあばああああああ!!」
「!?」
「!?」
突然現れた野良れいむの体当たりを受け、母れいむが大きくバランスを崩した。
そして火蓋を切るように、次々と野良ゆっくり達が母れいむに飛びかかっていく。
そして火蓋を切るように、次々と野良ゆっくり達が母れいむに飛びかかっていく。
「れいむうううううううう!?」
次々と野良ゆっくり達の下敷きとなっていくつがいに向かって、父まりさが叫ぶ。
その時、まりさの帽子に何か小さなものがぶつかった。
軽い衝撃を与えたそれは帽子の上を転がり、べちゃりと地面に落下する。
その時、まりさの帽子に何か小さなものがぶつかった。
軽い衝撃を与えたそれは帽子の上を転がり、べちゃりと地面に落下する。
「ゆ…れいむのおかおがぁぁぁ…」
「いたいんだぜ……」
「お、おちびちゃん! ぶじだったのぜ!?」
「いたいんだぜ……」
「お、おちびちゃん! ぶじだったのぜ!?」
まりさの足元には、体中を唾液でベトベトにした姉まりさと妹れいむが転がっていた。
どうやら母れいむがとっさの判断で、父まりさに向かって勢いよく吐き出したのだろう。
父まりさは急いで二匹を『けんじゃのぬけみち』に放り込むと、野良ゆっくり達の群へと突撃する。
どうやら母れいむがとっさの判断で、父まりさに向かって勢いよく吐き出したのだろう。
父まりさは急いで二匹を『けんじゃのぬけみち』に放り込むと、野良ゆっくり達の群へと突撃する。
「れいむ! れいむうううう!!」
「…………ゆっ……があああああ!!」
「…………ゆっ……があああああ!!」
突然、野良ゆっくり達の集団が吹き飛ばされ、そこから鬼のような形相をした母れいむが飛びだしてきた。
その口元には最初に衝突してきた野良れいむが咥えられており、はみ出たあんよがびくびくと痙攣している。
その口元には最初に衝突してきた野良れいむが咥えられており、はみ出たあんよがびくびくと痙攣している。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁっ!!」
ぶぢっ!
口の中の野良れいむを噛みちぎってその場に吐き捨てると、揉み上げで周囲のゆっくり達を渾身の力でなぎ倒した。
吹き飛ばされた野良ゆっくり達が壁やお互いに衝突し、辺りに中身をまき散らしていく。
それでも、野良ゆっくり達の勢いは止まる気配を見せなかった。
吹き飛ばされた野良ゆっくり達が壁やお互いに衝突し、辺りに中身をまき散らしていく。
それでも、野良ゆっくり達の勢いは止まる気配を見せなかった。
「れいむ、こっちだぜ!」
「ゆっぎぃいいいいいいいい!!」
「ゆっぎぃいいいいいいいい!!」
次々と襲い来る野良ゆっくり達をかいくぐり、二匹はもつれ合うようにして『けんじゃのぬけみち』に飛び込んだ。
急いで板で入り口を塞ぎ、下かられいむが全体重をかけて押さえつける。
急いで板で入り口を塞ぎ、下かられいむが全体重をかけて押さえつける。
「ゆふぅ…ゆふぅ……」
「れいむ…ここまでくれば、ひとあんしんなんだぜ……」
「れいむ…ここまでくれば、ひとあんしんなんだぜ……」
れいむが頭で押さえつけている板からは、未だにどすどすと衝撃音が鳴り響いている。
それは、まりさ達が逃げ込んだからだけでは無かった。
次々とおうちに殺到する野良ゆっくり達に押されて、最初に飛び込んだゆっくりが壁に押し潰されているのだ。
板の隙間から餡子やクリームがぼたぼたと落ちてきていることからも、おうちの中で起こっている惨劇を伺い知ることができた。
それは、まりさ達が逃げ込んだからだけでは無かった。
次々とおうちに殺到する野良ゆっくり達に押されて、最初に飛び込んだゆっくりが壁に押し潰されているのだ。
板の隙間から餡子やクリームがぼたぼたと落ちてきていることからも、おうちの中で起こっている惨劇を伺い知ることができた。
「おちびちゃんたちはひとあしさきにいってるのぜ。みんなたすかるんだぜ!」
「…………まりさ…れいむは、ここにのこるよ……」
「ゆっ!? なにいってるんだぜ!? あともうすこ…」
「…………まりさ…れいむは、ここにのこるよ……」
「ゆっ!? なにいってるんだぜ!? あともうすこ…」
必死で励まそうとしたまりさは、れいむの姿を見て、途中で言葉を失った。
母れいむの体は、すでに限界を超えていたのだ。
左の揉み上げは食いちぎられて無くなっており、もう片方もほつれてぐしゃぐしゃになっている。
全身の至る所を噛みちぎられた体からは、今も衝撃に押されるようにして体内の餡子を吐き出し続けていた。
もはや素早く動き回ることは不可能であり、それどころか意識を保っていられるのもやっとの状態であったのだ。
左の揉み上げは食いちぎられて無くなっており、もう片方もほつれてぐしゃぐしゃになっている。
全身の至る所を噛みちぎられた体からは、今も衝撃に押されるようにして体内の餡子を吐き出し続けていた。
もはや素早く動き回ることは不可能であり、それどころか意識を保っていられるのもやっとの状態であったのだ。
「れいむは、このとびらをがんばってまもるよ…だからまりさは、おちびちゃんたちをあんっぜんっなばしょにつれていってね!」
母れいむの頭上の板が、みしみしと音を立てて軋む。
『けんじゃのぬけみち』に使われていた板は、カモフラージュ用に敷かれていた物であったため耐久性はそれほど高くない。
このままいけば、上の野良ゆっくり達の重さに板が耐えきれなくなるのも時間の問題であろう。
そのゆっくり数匹分の重量を、母れいむは自身の体で必死になって支えているのだ。
『けんじゃのぬけみち』に使われていた板は、カモフラージュ用に敷かれていた物であったため耐久性はそれほど高くない。
このままいけば、上の野良ゆっくり達の重さに板が耐えきれなくなるのも時間の問題であろう。
そのゆっくり数匹分の重量を、母れいむは自身の体で必死になって支えているのだ。
「れいむ……わかったんだぜ」
「まりさ…ありがとう」
「でも、ぜったいにもどってくるんだぜ! だかられいむも、それまでがんばるんだぜ!!」
「ゆぅ…わかったよ、まりさ……」
「まりさ…ありがとう」
「でも、ぜったいにもどってくるんだぜ! だかられいむも、それまでがんばるんだぜ!!」
「ゆぅ…わかったよ、まりさ……」
体中の痛みを隠そうと、無理して笑顔を作る母れいむに、父まりさはそっと唇を重ねる。
その優しいちゅっちゅに、母れいむの表情も少しずつ和らいでいく。
その優しいちゅっちゅに、母れいむの表情も少しずつ和らいでいく。
「おちびちゃんたちには、まりさからうまくいっておくんだぜ」
「まり…さ…」
「まり…さ…」
最後のちゅっちゅを終えると、父まりさは静かに『けんじゃのぬけみち』の奥へとあんよを進めた。
「…まりさ! れいむはまりさのこと、だいすきだったよ!」
残した母れいむの声を背中に受けて、父まりさの目からとめどなく涙があふれ出てくる。
それでも父まりさは、決して振り向こうとはしなかった。
それでも父まりさは、決して振り向こうとはしなかった。
……振り向いたら、もう進めなくなってしまいそうだから。
暗い暗い洞穴の奥に向かって、父まりさは歩き続けた。
――二匹の子供達が待つ、出口に向かって。
父まりさの姿が見えなくなったのを確認した母れいむは、大きく息を吐いた。
静かに、頭上を見上げる。
押さえつけている板は先ほどよりも大きくしなり、隙間からこぼれた餡子が母れいむの顔を汚す。
押さえつけている板は先ほどよりも大きくしなり、隙間からこぼれた餡子が母れいむの顔を汚す。
足元を見る。
そこには、上からの衝撃で押し出された自分の中身が、辺一面に広がっていた。
破れたあんよの痛みは、もう何も感じなかった。
感覚が無くなったかわりに、もう自力では動くことすらできなくなっているのだろう。
そこには、上からの衝撃で押し出された自分の中身が、辺一面に広がっていた。
破れたあんよの痛みは、もう何も感じなかった。
感覚が無くなったかわりに、もう自力では動くことすらできなくなっているのだろう。
それらを交互に見比べることで、母れいむは自分がもう長くないことを悟った。
「ごめんね…まりさ……」
母れいむは、自分が他のゆっくりに比べてそれほど優秀で無いことを自覚していた。
おつむもそれほど良くなく、狩りもヘタ。おうたや子育てさえも、他のれいむの方が上手だった。
だけど、群れ一番の狩りの名手であるまりさは、なぜか自分を選んでくれた。
おつむもそれほど良くなく、狩りもヘタ。おうたや子育てさえも、他のれいむの方が上手だった。
だけど、群れ一番の狩りの名手であるまりさは、なぜか自分を選んでくれた。
なぜ自分を選んだのかと訪ねた時、まりさはこう答えた。
「どんなことでもいっしょにがんばろうとするれいむとなら、ずっとゆっくりできるとおもったからだぜ」
あの時は、まりさの言ったことがよく分からなかった。
だけど今なら、その言葉の意味が分かるような気がする。
だけど今なら、その言葉の意味が分かるような気がする。
「みててね、まりさ……れいむは…がんばるよ…」
母れいむは最後の力を振り絞って大きく息を吸うと、体を大きく膨らませた。
通路全体に膨らんだ体が、U字に軋んだ板をゆっくりと押し戻していく。
通路全体に膨らんだ体が、U字に軋んだ板をゆっくりと押し戻していく。
(……れいむは、ぜったいにここをとおさないよ!!)
痛みも、疲れも、全てをなげうって放ったれいむのぷくーは、蟻一匹さえ通れないほどに狭い通路を完全に塞ぎ、
――そして、全く動かなくなった。
――そして、全く動かなくなった。
アストロン
ドス種、その中でもほんの一握りしか使うことのできないゆっくりの特殊能力を、母れいむは無意識のうちに発動したのだ。
……己の命を、犠牲にして。
……己の命を、犠牲にして。
子ゆっくり達と合流を果たした父まりさは、母れいむはがんばって入り口を抑えていることだけを二匹に伝えた。
最初は助けに行こうと聞かなかった子供達だったが、母れいむが無事であることと、戻ったら迷惑がかかることを強調することで何とか説得することができた。
途中に見つけた狭いパイプの中をずりずりと移動し、一家はついに『けんじゃのぬけみち』の出口へとたどり着いた。
最初は助けに行こうと聞かなかった子供達だったが、母れいむが無事であることと、戻ったら迷惑がかかることを強調することで何とか説得することができた。
途中に見つけた狭いパイプの中をずりずりと移動し、一家はついに『けんじゃのぬけみち』の出口へとたどり着いた。
ぱちゅりーの残した『けんじゃのぬけみち』は、公園の端の破棄された排水溝へと繋がっていた。
恐らく、たまたま土中に残っていた排水管をぱちゅりーがおうちの中で発見し、それを抜け道として利用したのだろう。
排水溝の中は大量の落ち葉で埋め尽くされており、上に向かって堀り進むことでなんとか地上へと脱出することができそうだった。
恐らく、たまたま土中に残っていた排水管をぱちゅりーがおうちの中で発見し、それを抜け道として利用したのだろう。
排水溝の中は大量の落ち葉で埋め尽くされており、上に向かって堀り進むことでなんとか地上へと脱出することができそうだった。
父まりさは落ち葉を上へと掘り進み、排水溝に設置された金網から顔を出して周囲を確認する。
幸い、辺りにゆっくりの姿は無い。
公園周辺にいた野良ゆっくり達は全てぱちゅりーのおうちに群がっており、そこから十メートルほど離れたこちらにはまだ気づいていないようだ。
幸い、辺りにゆっくりの姿は無い。
公園周辺にいた野良ゆっくり達は全てぱちゅりーのおうちに群がっており、そこから十メートルほど離れたこちらにはまだ気づいていないようだ。
「おちびちゃん、いまのうちだよ!」
父まりさが声をかけると、姉まりさと妹れいむが落ち葉の中からもそもそと姿を現した。
「にんげんさんにあうことができれば、まりさたちはきっとたすかるよ! もうすこしがんばってね!」
「ゆぅ…」
「ゆっくり…りかいしたんだぜ」
「ゆぅ…」
「ゆっくり…りかいしたんだぜ」
子ゆっくり達が、力なく返事をする。
姉妹の死に咥えて、食事も睡眠も満足に取れずに動き回っているのだ。二匹の声に元気がないのも当然のことであった。
それでも父まりさは、自身の疲労を隠して一生懸命に我が子を励まし、先に進ませようとする。
もちろん、この焦りはゆっくり特有の自分本位によるものでは断じて無かった。
姉妹の死に咥えて、食事も睡眠も満足に取れずに動き回っているのだ。二匹の声に元気がないのも当然のことであった。
それでも父まりさは、自身の疲労を隠して一生懸命に我が子を励まし、先に進ませようとする。
もちろん、この焦りはゆっくり特有の自分本位によるものでは断じて無かった。
(おさはここをずっといけば、ゆっくりできるにんげんさんにあえるといってたけど……きっとそこまでとおいばしょではないはずだぜ!)
父まりさは、ぱちゅりーの運動能力がさほど高くないことから、目的の人間さんは公園から近い位置にいると予想していた。
おちびちゃん達の体調も心配だが、今は一刻を争う危険な事態である。
ぱちゅりーのおうちという城が無くなった今、今度敵に見つかったら命の保障は無い。
そのため多少無理をしてでも、今の状況を解決することが先決であると判断したのだ。
おちびちゃん達の体調も心配だが、今は一刻を争う危険な事態である。
ぱちゅりーのおうちという城が無くなった今、今度敵に見つかったら命の保障は無い。
そのため多少無理をしてでも、今の状況を解決することが先決であると判断したのだ。
……だが、この判断には一つだけ大きな誤算があった。
ぱちゅりーが言っていた『顔見知りの人間さん』というのが、市役所職員であったということだ。
ぱちゅりーが言っていた『顔見知りの人間さん』というのが、市役所職員であったということだ。
彼らはぱちゅりーの管理する群れ以外にも複数の群れと交流を持っており、群れから群れへの移動の際には車を用いていた。
しかし、ぱちゅりーの管理する公園は周囲が住宅地であり、市役所の車が堂々と路上駐車をしていたら苦情が来ると判断したのだろう。彼らは有料駐車場に車を止めて、そこから公園に行っていたのだ。
そのため、いつも同じ場所から職員が来るのを見ていたぱちゅりーは、その方向に彼らが住んでいるのだと勘違いしてしまった。
…最も、公園から市役所までは10km以上も離れているため、たとえ方向が合っていたとしても。ゆっくりのあんよでは辿り着くには到底不可能ではあったのだが。
しかし、ぱちゅりーの管理する公園は周囲が住宅地であり、市役所の車が堂々と路上駐車をしていたら苦情が来ると判断したのだろう。彼らは有料駐車場に車を止めて、そこから公園に行っていたのだ。
そのため、いつも同じ場所から職員が来るのを見ていたぱちゅりーは、その方向に彼らが住んでいるのだと勘違いしてしまった。
…最も、公園から市役所までは10km以上も離れているため、たとえ方向が合っていたとしても。ゆっくりのあんよでは辿り着くには到底不可能ではあったのだが。
それでも不幸中の幸いだったのは、ぱちゅりーの示した方向にはバス停があり、夜でも比較的人通りが多い場所であったことである。
偶然ではあるが、結果的にぱちゅりーは父まりさ一家に生き残る可能性の高い道を示していたのだった。
偶然ではあるが、結果的にぱちゅりーは父まりさ一家に生き残る可能性の高い道を示していたのだった。
「「「ぴょんぴょんするよっ!!」」」
掛け声とともに、三つの饅頭が排水溝の中から勢いよく飛び出す。
たとえ暗闇で視界が悪くとも、今まで家族で過ごしていたゆっくりプレイスだ。どこもかしこも見覚えがある。
少し前まで住んでいたおうちの前を通り抜け、三匹は一糸乱れることなく月明かりと街灯に照らされた公園内を駆け抜けていく。
たとえ暗闇で視界が悪くとも、今まで家族で過ごしていたゆっくりプレイスだ。どこもかしこも見覚えがある。
少し前まで住んでいたおうちの前を通り抜け、三匹は一糸乱れることなく月明かりと街灯に照らされた公園内を駆け抜けていく。
「おちびちゃん! がんばれ! がんばるんだぜえぇぇ!!」
「ゆ…ゆ…! ゆっくりぃぃぃ!!」
「ぴょんびょん! びょぉん…びょおぉ…ん!!」
「ゆ…ゆ…! ゆっくりぃぃぃ!!」
「ぴょんびょん! びょぉん…びょおぉ…ん!!」
一歩一歩進むたびにその全身が悲鳴を上げる。静かに行かねばならない事は解っているのだが、悲鳴を出し続けなければ気を失ってしまいそうなほどに三匹は追い込まれていた。
「ゆぅーっ! ゆぅーっ!
ゆ…?」
「ゆぴゅっ!?」
「ゆぎ!?」
ゆ…?」
「ゆぴゅっ!?」
「ゆぎ!?」
突然、父まりさのあんよの動きが止まった。
いきなりの急停止に対応しきれず、二匹の子ゆっくり達が父まりさの背中にぽふぽふと衝突する。
いきなりの急停止に対応しきれず、二匹の子ゆっくり達が父まりさの背中にぽふぽふと衝突する。
「……ゆ……ゆぁ……あ…」
父まりさは、動かなかった。いや、動けなかった。
その視線の先には、大きな滑り台がそびえ立っている。
昔、父まりさが群れにいた頃。よく見張り台としていた自身の特等席に、一匹のゆっくりが鎮座していた。
その視線の先には、大きな滑り台がそびえ立っている。
昔、父まりさが群れにいた頃。よく見張り台としていた自身の特等席に、一匹のゆっくりが鎮座していた。
赤い瞳、青い髪、宝石のように輝く赤い瞳。
月光の淡い光を背に受けるそれは、満面の笑顔でまりさ達を見下ろしていた。
月光の淡い光を背に受けるそれは、満面の笑顔でまりさ達を見下ろしていた。
「れ………れ…れ………」
父まりさは、その姿を見るのは初めてだった。
だが、中枢餡の奥深くに刻み込まれていた古の記憶が、今までの狂ったゆっくり達とは比べ物にならない恐怖を父まりさに伝えている。
だが、中枢餡の奥深くに刻み込まれていた古の記憶が、今までの狂ったゆっくり達とは比べ物にならない恐怖を父まりさに伝えている。
突然左右に広がった翼が、背に受けていた月光を隠す。
その姿を見て、父まりさは無意識のうちに叫んでいた。
その姿を見て、父まりさは無意識のうちに叫んでいた。
「れみりゃだああああああああああああああああああああああああああ!!」
記憶の底に刻まれた、捕食種の名前を。
多くのゆっくり達に恐れられている捕食種であるが、街に生息する個体は野生と違い、稀にしか見ることができない。
その原因は色々あるが、一番の大きな要因は生ゴミや排気ガスで汚染された野良ゆっくりを好んで捕食しようとしないためである。
まりさ一家の前に現れたれみりゃもまた、見た目の小奇麗さからペットショップか元飼いゆっくりであったことが見てとれた。
だが、れみりゃがまりさ一家に出会ったことは、決して偶然の出来事では無かった。
その原因は色々あるが、一番の大きな要因は生ゴミや排気ガスで汚染された野良ゆっくりを好んで捕食しようとしないためである。
まりさ一家の前に現れたれみりゃもまた、見た目の小奇麗さからペットショップか元飼いゆっくりであったことが見てとれた。
だが、れみりゃがまりさ一家に出会ったことは、決して偶然の出来事では無かった。
「うー! ぷでぃん! ぷっでぃーん!!」
ぎらぎらと赤い瞳を輝かせ、れみりゃが両の翼を大きく羽ばたかせながら叫ぶ。
裂けんばかりに開かれた口元からは、大量の涎が地面へと糸を引いて垂れ落ちていく。
裂けんばかりに開かれた口元からは、大量の涎が地面へと糸を引いて垂れ落ちていく。
ぷでぃんこと、プリン。
れみりゃが異常なほどに固執するその食物の大半には、ある香料が用いられている。
まりさ一家の全身に付着した、甘く蟲惑的な、悪魔の香り。
れみりゃが異常なほどに固執するその食物の大半には、ある香料が用いられている。
まりさ一家の全身に付着した、甘く蟲惑的な、悪魔の香り。
――バニラ香料が
「ぷでぃんぐわせどおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ぶぢぃっ!!
「……ゆ!?」
突然急降下したれみりゃの鋭い牙が、父まりさの帽子を中の金髪ごと食いちぎった。
ゆっくり種を捕食する際の、中身を吸い出すための噛みつきとは違う。外皮ごとちぎり取ろうとするその一撃は、完全にまりさ達をゆっくり種でなく、別の食料として認識していた。
ゆっくり種を捕食する際の、中身を吸い出すための噛みつきとは違う。外皮ごとちぎり取ろうとするその一撃は、完全にまりさ達をゆっくり種でなく、別の食料として認識していた。
「ゆっ……ぎいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいい!!??」
「ゆひいぃぃぃ!? だずげでええええええ!!」
「まりざまだじにたぐないいいいいいいいいいいいい!?」
「ゆひいぃぃぃ!? だずげでええええええ!!」
「まりざまだじにたぐないいいいいいいいいいいいい!?」
激痛に悶え叫ぶ父まりさの悲鳴を引き金にして、二匹の子ゆっくり達はそれぞれ散り散りになって逃げ出した。
その片方、姉まりさの頭上めがけて、再び上空から黒い影が襲いかかる。
その片方、姉まりさの頭上めがけて、再び上空から黒い影が襲いかかる。
「う"う"う"う"う"う"う"ー!!」
「ゆぎぇぇぇぇええええええええええええ!?」
「ゆぎぇぇぇぇええええええええええええ!?」
地獄の第二幕が今、幕を開けようとしていた。
まりさ一家の絶叫を、襲いくる惨劇のプレリュードとして…
まりさ一家の絶叫を、襲いくる惨劇のプレリュードとして…
「ゆびっ、ゆびっ…」
硬く深い茂み中を、妹れいむは必死で這いずり進んでいた。
あの時、妹れいむはとっさに傍にあった街路樹の中に飛び込み、そこで身を隠そうとしていた。
危険を感じたら狭い所に潜り込む、己の弱さを自覚した小動物が取る典型的な回避行動。
その行動がれみりゃの視覚と嗅覚を一時的に隠す結果となり、妹れいむは奇跡的に惨劇から難を逃れることができたのだ。
あの時、妹れいむはとっさに傍にあった街路樹の中に飛び込み、そこで身を隠そうとしていた。
危険を感じたら狭い所に潜り込む、己の弱さを自覚した小動物が取る典型的な回避行動。
その行動がれみりゃの視覚と嗅覚を一時的に隠す結果となり、妹れいむは奇跡的に惨劇から難を逃れることができたのだ。
「だずげでっ! だずげでっ! じにだくないよぉぉ…」
その悲痛な叫びに、返事を返す者はもはや誰もいない。
妹れいむの命乞いに近い絶叫は、全身を擦る茂みが作り出す不快音の中へと吸い込まれていく。
妹れいむの命乞いに近い絶叫は、全身を擦る茂みが作り出す不快音の中へと吸い込まれていく。
「おどーさん! おがーざん! おねーじゃん! まりざぁぁ! だずげでぇ……だずけてよおぉぉ……」
疲労、激痛、飢餓、恐怖。
負の感情をいくら吐き出しても、次々と餡子脳に刻まれた記憶が湧き上がってくる。
妹れいむの精神状態は、もはや発狂寸前にまで追い詰められていた。
負の感情をいくら吐き出しても、次々と餡子脳に刻まれた記憶が湧き上がってくる。
妹れいむの精神状態は、もはや発狂寸前にまで追い詰められていた。
「ゆっびいぃぃぃ…ゆっび、ゆっびぃぃ………ぶびゅっ!?」
やがて、茂みに覆われた視界が突然晴れ、妹れいむの体は街路樹の外へと勢いよく飛び出した。
反動で石造りの地面に叩きつけられ、テニスボールのようにころころと地面を転がっていく。
…そして障害物にぶつかり、そこで止まった。
反動で石造りの地面に叩きつけられ、テニスボールのようにころころと地面を転がっていく。
…そして障害物にぶつかり、そこで止まった。
「ゆ…はぁ……ゆ……は…………」
両の揉み上げをだらりと地面に垂らし、妹れいむは仰向けの状態で僅かに目を開き、暗い空を見上げた。
…もう、体も動かない。
途切れ途切れになりかけた意識の中、妹れいむは自身が永遠にゆっくりすることを覚悟する。
…もう、体も動かない。
途切れ途切れになりかけた意識の中、妹れいむは自身が永遠にゆっくりすることを覚悟する。
「ん、なんだこれ? ボールか?」
突然、見上げていた空が視界から消えた。
そこには、山のように巨大な何かが妹れいむをゆっくりと見下ろしていた。
そこには、山のように巨大な何かが妹れいむをゆっくりと見下ろしていた。
「…なんだ、ゆっくりか。珍しいなぁ、こんな夜に見るなんて」
妹れいむの体が柔らかいものに包まれる。その心地よい感触に、朦朧としていた意識が少しずつ鮮明となっていく。
「まだガキだな、こりゃ。……なんだ? なんか甘い匂いがすんな」
「…ゆ……ぁ……」
「たしか、あと少し飲みかけのが…」
「…ゆ……ぁ……」
「たしか、あと少し飲みかけのが…」
妹れいむの口の中に、生温かい液体が注ぎ込まれた。
僅かに柑橘系の香りがするその甘味はみるみるうちに全身へと染み渡り、全身の傷と疲労が回復していくのを感じた。
僅かに柑橘系の香りがするその甘味はみるみるうちに全身へと染み渡り、全身の傷と疲労が回復していくのを感じた。
「あ…あま…あま……れ、れいむ……たすかったの?」
「おっ、元気になってきたみたいだな」
「おっ、元気になってきたみたいだな」
意識と共に鮮明となった視界によって、妹れいむを見下ろしていた山の姿が明らかとなる。
その姿に向かって、妹れいむは僅かに残された希望を無意識のうちに吐き出していた。
その姿に向かって、妹れいむは僅かに残された希望を無意識のうちに吐き出していた。
「に……にんげん…さん?」
「ああそうだが。それが?」
「ああそうだが。それが?」
にんげんさん。
まりさ一家が頼りにしていた唯一希望の光。
それが今、目の前にいる。
それが今、目の前にいる。
「にんげん…さん…れいむを……れいむ…たちを…たすけて……ください…」
「…へ?」
「…へ?」
ぼんやり輝く街灯の光を背に受けて、青年は掴んだ妹れいむに向かって気の抜けた返事を返した。
――持ち主のいなくなった元おうちの中で、父まりさは夜空に浮かぶ月を見上げていた。
漆黒に浮かぶ、白い円。
そこから出た小さな光が、おうちの前の惨劇を照らし出している。
惨劇の張本人となったれみりゃは、体に割り箸を突きたてられて倒れていた。
びくびくと全身を痙攣させたそれは、中枢餡を貫かれたことによるものだろう。
再生能力を持つれみりゃ・ふらん種であっても、あの状態からでの蘇生は不可能であると思われた。
そこから出た小さな光が、おうちの前の惨劇を照らし出している。
惨劇の張本人となったれみりゃは、体に割り箸を突きたてられて倒れていた。
びくびくと全身を痙攣させたそれは、中枢餡を貫かれたことによるものだろう。
再生能力を持つれみりゃ・ふらん種であっても、あの状態からでの蘇生は不可能であると思われた。
……だが、それに対する代償は決して小さなものではなかった。
れみりゃから出た肉汁溜まりから、一本の黒い餡子の線が伸びている。
その線はおうちに向かって…破れた父まりさのあんよへと続いていた。
あんよだけでは無い。
全身を齧り取られ、父まりさの体は流出した餡子で黒く染まっていた。
特に頭部の損傷は大きく、右目も、帽子も、髪の毛の大半も失ったその姿は、同じ金髪であるありす種と言われても誰も疑いはしないだろう。
れみりゃから出た肉汁溜まりから、一本の黒い餡子の線が伸びている。
その線はおうちに向かって…破れた父まりさのあんよへと続いていた。
あんよだけでは無い。
全身を齧り取られ、父まりさの体は流出した餡子で黒く染まっていた。
特に頭部の損傷は大きく、右目も、帽子も、髪の毛の大半も失ったその姿は、同じ金髪であるありす種と言われても誰も疑いはしないだろう。
「みんな…いなくなって…しまったのぜ……」
喋るだけで口元から、傷口から餡子がごぼりと零れる。
それでも、呟かずにはいられなかった。
それでも、呟かずにはいられなかった。
れみりゃを倒した時、周囲には子ゆっくり達の姿は無くなっていた。
死んでいるのか、生きているのかも分からない。
最後の力を振り絞り、思い出の残るおうちへとあんよを運んではみたものの、そこにも二匹の姿は見当たらなかった。
死んでいるのか、生きているのかも分からない。
最後の力を振り絞り、思い出の残るおうちへとあんよを運んではみたものの、そこにも二匹の姿は見当たらなかった。
「まりさは……だれも…だれもまもれなかったんだぜ……?」
残った左目からぼろぼろと零れた涙が、足元の餡溜まりと混ざって黒く染まっていく。
子供達を守れなかった後悔と自責の念に押しつぶされそうになりながらも、父まりさは子供達をひたすら待ち続けていた。
子供達を守れなかった後悔と自責の念に押しつぶされそうになりながらも、父まりさは子供達をひたすら待ち続けていた。
「れいぶぅぅ…ごべんねぇぇ! …ばりざ、やぐぞぐまもれながっだよおぉぉ!」
――その時だった。
がさり。
突然、近くの茂みが揺れた。
「お……おぢび…ちゃん……!?」
そこには、姉まりさの姿があった。
全身傷だらけで、帽子も半分ほど千切れているその姿は、決してゆっくりできる外見といえるものではない。
それでもその存在は、父まりさにとって大きな活力を与えるきっかけとなった。
全身傷だらけで、帽子も半分ほど千切れているその姿は、決してゆっくりできる外見といえるものではない。
それでもその存在は、父まりさにとって大きな活力を与えるきっかけとなった。
「おぢびぢゃん! おどうさんはここだよ!!」
「…………」
「…………」
溢れ出る吐餡を忘れて、父まりさが我が子に向かって必死に声を張り上げた。
その声に促されるようにして、姉まりさの体がずりずりとおうちの中へと進んでいく。
その声に促されるようにして、姉まりさの体がずりずりとおうちの中へと進んでいく。
「おちびちゃん…よが…ごぼっごぼっ! よがっだぁ…」
「…………」
「…………」
父まりさは唯一残ったお下げで姉まりさを包み込むと、ぐっとそばに抱きよせた。
僅かに頬に伝わる温もりに、父まりさの体に心なしか元気が戻っていく。
僅かに頬に伝わる温もりに、父まりさの体に心なしか元気が戻っていく。
(まりさは、おちびちゃんだけでもぜったいにたすけるよ……)
「…………」
「…………」
父まりさは、自身の身を犠牲にした最後の賭けに出ようとしていた。
…明日、明るくなれば人間さんがきっとこの近くを通るだろう。
その時、最後の力を振り絞って思いっきり叫べば、自分達に気付いてくれるかもしれない。
自分は駄目でも、賢いおちびちゃんならきっと助けてくれるはずだ。
その希望に縋りつくために、父まりさは最後の一斉を出すべく力をためようとする。
その時、最後の力を振り絞って思いっきり叫べば、自分達に気付いてくれるかもしれない。
自分は駄目でも、賢いおちびちゃんならきっと助けてくれるはずだ。
その希望に縋りつくために、父まりさは最後の一斉を出すべく力をためようとする。
「………ま…」
突然、ずっと黙っていた姉まりさが何かを呟いた。
しかし、その声は小さすぎて父まりさにはうまく聞き取れなかった。
しかし、その声は小さすぎて父まりさにはうまく聞き取れなかった。
「おちびちゃん? どうしたの?」
父まりさが、抱きよせていたお下げの力を緩める。
自由になった姉まりさが、再び父まりさに向かって呟いた。
自由になった姉まりさが、再び父まりさに向かって呟いた。
「あまあま」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ったく、変な頼みごとされちまったな…」
薄暗い公園の中、青年が足元に注意しながら適当に歩き回る。
目についた茂みを足で払い、目当ての物がいないかどうかを注意深く観察していく。
目についた茂みを足で払い、目当ての物がいないかどうかを注意深く観察していく。
「おい、本当にこのへんでいいのか?」
「ゆぅ…おとーさぁん! おねーちゃん! どこにいるのぉぉぉ!!」
「ゆぅ…おとーさぁん! おねーちゃん! どこにいるのぉぉぉ!!」
青年の両手に乗った妹れいむも叫ぶが、返事はどこからも返ってはこない。
それでも、妹れいむは暗闇に向かって必死に叫び続けていた。
それでも、妹れいむは暗闇に向かって必死に叫び続けていた。
――あの時、
妹れいむに必死で懇願された青年は、少しの間だけ付き合ってあげることとなった。
普段の青年なら、ゆっくりの頼みなど全く相手にしなかったであろう。
しかし、今日はたまたまいつものバスに乗りそびれ、次のバスが来るまでに20分ほど暇ができてしまっていたのだ。
さらに興味本位とはいえ、命を助けてしまった相手の頼みを無碍に断り切れなかった青年の優しい性格も後押しとなった。
妹れいむに必死で懇願された青年は、少しの間だけ付き合ってあげることとなった。
普段の青年なら、ゆっくりの頼みなど全く相手にしなかったであろう。
しかし、今日はたまたまいつものバスに乗りそびれ、次のバスが来るまでに20分ほど暇ができてしまっていたのだ。
さらに興味本位とはいえ、命を助けてしまった相手の頼みを無碍に断り切れなかった青年の優しい性格も後押しとなった。
ラスベガスでジャックポットを引き当てるに等しいほどの剛運を、このれいむは一発で引き当てたのだ。
やがて、青年は滑り台の近くへと足を運んだ。
れいむ曰く、この近くで何かに襲われて、皆と離れ離れになってしまったらしい。
軽く周囲を見渡していたその時、青年はかすかな物音に気が付いた。
れいむ曰く、この近くで何かに襲われて、皆と離れ離れになってしまったらしい。
軽く周囲を見渡していたその時、青年はかすかな物音に気が付いた。
――しゃ………む………
かん高く、それでいて腹の底から響くような小さな物音が、茂みの中から聞こえてくる。
そっと、手に持っていた妹れいむを地面に置く。
そっと、手に持っていた妹れいむを地面に置く。
「ゆっ!? おねーちゃん! おねーちゃあぁぁん!!」
物音に気付いたのか、妹れいむがぴょんぴょんと茂みの中へと飛び込んで行った。
それを追いかけるようにして、青年も静かに歩みを進め、妹れいむの後を付けていく。
…やがて青年は、広場の片隅でゆっくりの物とおぼしき巣穴を発見した。
月明かりと街灯に照らされた巣穴の入り口に、バスケットボールほどの大きさのゆっくりが鎮座している。
だが、青年がそれがまりさであると気付くのには、少々時間がかかった。
それを追いかけるようにして、青年も静かに歩みを進め、妹れいむの後を付けていく。
…やがて青年は、広場の片隅でゆっくりの物とおぼしき巣穴を発見した。
月明かりと街灯に照らされた巣穴の入り口に、バスケットボールほどの大きさのゆっくりが鎮座している。
だが、青年がそれがまりさであると気付くのには、少々時間がかかった。
その頭部は右目ごと大きくえぐり取られており、帽子どころか髪の毛もほとんどなくなっている。
全身もあちこち傷だらけで、垂れ下がった金髪のお下げが無ければ、青年には見分けがつかなかったであろう。
残った左目は青年やれいむではなく、はるか上空。浮かんでいる月を見上げているようだった。
全身もあちこち傷だらけで、垂れ下がった金髪のお下げが無ければ、青年には見分けがつかなかったであろう。
残った左目は青年やれいむではなく、はるか上空。浮かんでいる月を見上げているようだった。
――むーしゃ…む……しゃ………
ぐるり
突然、まりさの左目がぐるりと回転した。
横に一周。明らかに不自然な動きに、青年の体が硬直する。
そして――
横に一周。明らかに不自然な動きに、青年の体が硬直する。
そして――
どろっ
その左目が、眼孔から零れ落ちた。
白い糸を引きながら落ちた眼球が、ころころと地面を転がる。
だが、それでも物音は止むことがない。次第に大きくなっていく。
白い糸を引きながら落ちた眼球が、ころころと地面を転がる。
だが、それでも物音は止むことがない。次第に大きくなっていく。
「むーしゃ…むーしゃ…むーしゃ…むーしゃ…むーしゃ…むーしゃ…むーしゃ…むーしゃ…」
ぽっかり空いた眼孔がごぼりと膨れ上がり、そこから子ゆっくりが顔を出した。
帽子は無いが、金髪。恐らく同じまりさ種であろう。
顔面を食い破って出てきたそれは、もごもごと口の中のものを咀嚼し、
帽子は無いが、金髪。恐らく同じまりさ種であろう。
顔面を食い破って出てきたそれは、もごもごと口の中のものを咀嚼し、
「じあわぜぇ――――――っ!!!!」
高らかに、叫び声を上げた。
子まりさ口の中に入っていた黒い残骸が、びちびちと辺りに撒き散らされる。
それが何であったのかは、想像に難くない。
それが何であったのかは、想像に難くない。
「お…おねー…ちゃん? なに…やってるの?」
「ゆ? れれれれいむぅ!? いきてたんだぜぇー!?」
「ゆ? れれれれいむぅ!? いきてたんだぜぇー!?」
妹れいむの震えた声に被せるように、そのまりさが笑顔で返事をする。
恐らく、あれがれいむの姉なのであろう。
だが、そこからは感動の再会とはかけ離れた、嫌な予感しか感じられなかった。
恐らく、あれがれいむの姉なのであろう。
だが、そこからは感動の再会とはかけ離れた、嫌な予感しか感じられなかった。
「まりざは、あまあまをみつけたんだぜぇーっ! たっくさんむーしゃむーしゃじてるんだぜぇーっ!!」
「おねーちゃん…それ……おんなじ…ゆっくりだよ……?」
「ゆっぐりぃぃ!? なにいっでるんだぜぇ!? ごんなあばあばが、あばあばじゃないわげないんだぜぇぇぇぇ!!」
「おねーちゃん…それ……おんなじ…ゆっくりだよ……?」
「ゆっぐりぃぃ!? なにいっでるんだぜぇ!? ごんなあばあばが、あばあばじゃないわげないんだぜぇぇぇぇ!!」
姉まりさの目は、完全に焦点を失っている。
舌を出し、歯をむき出しにして叫ぶその姿は、青年の目から見ても理性の欠片も感じられなかった。
舌を出し、歯をむき出しにして叫ぶその姿は、青年の目から見ても理性の欠片も感じられなかった。
今まで、まりさ一家がお互いをあまあまと認識しなかった一番の理由。
それは家族の絆によるものであった。
どんなにつらい時でも、空腹の時でも、いつも家族がそばにいたからこそ、まりさ一家はお互いを家族として認識し合うことができていたのだ。
…だが、れみりゃの襲撃によって離れ離れになった瞬間、その絆は大きく揺らいでしまった。
特に姉まりさ――末っ子の死を間近で見、強い空腹を訴えていたその精神状態は、崩壊の一歩手前にまで追い詰められていた。
それは家族の絆によるものであった。
どんなにつらい時でも、空腹の時でも、いつも家族がそばにいたからこそ、まりさ一家はお互いを家族として認識し合うことができていたのだ。
…だが、れみりゃの襲撃によって離れ離れになった瞬間、その絆は大きく揺らいでしまった。
特に姉まりさ――末っ子の死を間近で見、強い空腹を訴えていたその精神状態は、崩壊の一歩手前にまで追い詰められていた。
そして止めとなったのが、再開した父まりさの姿である。
ゆっくり同士の個体認識として重要な帽子を失い、あまあまの香りと共に大量の餡子を撒き散らしたその姿を見て、姉まりさの理性は完全に消滅した。
それでも、実の妹を判別できたのは、僅かに残った家族の絆によるものなのだろうか…
それでも、実の妹を判別できたのは、僅かに残った家族の絆によるものなのだろうか…
「れいぶもいっしょにあばあばをたべるんだぜぇぇっ!?」
「い……いや……」
「ずっごくおいじいあばあばなんだぜ! やみづきなんだぜぇぇぇぇ!!」
「い……いや……」
「ずっごくおいじいあばあばなんだぜ! やみづきなんだぜぇぇぇぇ!!」
青年は、恐怖していた。
目の前の惨劇に。そしてゆっくりに。
…いや、それはもはや、ゆっくりとは呼べるものではなかった。
目の前の惨劇に。そしてゆっくりに。
…いや、それはもはや、ゆっくりとは呼べるものではなかった。
ドスとも、ゲスとも、れいぱーとも違う。
その異常な光景に、逃げ出したくなるような危機感を感じていた。
その異常な光景に、逃げ出したくなるような危機感を感じていた。
「れいぶぅぅぅ! いっじょにだべよおおぉ!!」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
妹れいむの悲鳴が引き金となり、青年は勢いよく飛び出した。
~Live Selection~
→「子れいむを助ける」
→「子れいむを見捨てる」
→「子れいむを見捨てる」
どちらかを選択してから「バニラハザード(END)」へ進む…