ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko3765 アーマードうどんげ1
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ankoss
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『アーマードうどんげ1』 32KB
虐待 改造 戦闘 希少種 創作亜種 独自設定 短い話を書くのが苦手な私です
初めましての方は初めまして
他作を見てくださった方はありがとうございます。
投稿者の九郎です。
この作品は、他の作品の設定を真似ている部分がありますが
元のネタの知らなくても読めます。
例によってかなりアレな作品ですのでご了承ください。
また、そう長くは続かないつもりです。(どう転ぶかわからないが…)
――――――――――――――――――――
昔々、あるところにゆっくりの集落がありました。
その集落はとても高い山にあり、普通のゆっくりならば行こうと考えない場所でした。
しかし、確かにその集落はあったのです。
そこに集まったゆっくり達はでいぶやゲスまりさ、レイパーやけんじゃモドキ等に悩まされ
ゆっくりという存在にほとほと嫌気の差した特殊なゆっくりの集まりでした。
いつしか、その集落はゆっくり出来るゆっくりしかいない伝説の集落と噂され
真のゆっくりプレイスと誰もが知る話となりました。
そんな集落で、一つの惨劇があったのです。
「ゆっくりできないゆっくりはしね!!」
「おまえなんかなかまじゃないよ!!」
「ゲラ!ゲラゲラゲラ!!」
一匹のゆっくりが岸壁に追い立てられていました。
胴付きのうどんげです。
「むきゅ!みんなあつまったわね!」
「おさ!」
「ゲラゲラ!」
うどんげを半円に取り囲むゆっくり達の間から、偉そうなたたずまいのゆっくりが出てきました。
このゆっくりの理想郷を取り仕切る長、ぱちゅりーです。
頭が良く、喋れない自分の言うことをいつも理解してくれた。
このやさしいぱちゅりーならば、自分を助けてくれると期待しました。
「ではこれよりゆっくりできないゆっくりの『しょけい』をはじめるわ!」
「ゲラァァァァァァァァ!!??」
全く期待とは異なる言葉にうどんげは凍りつきました。
ぱちゅりーだけは分かってくれると思っていたのに。
そう言う思いを込めてパチュリーに視線を投げかけます。
「はじめなさい!!」
「ゆっくりしね!!」
「ゆっくりしね!!」
「ゲラアアアアアアアアア!!」
そんな思いも、まりさ、みょんの突き出してきた木の枝に貫かれてしまいました。
うどんげは刺された右足と左腕に鋭い痛みを感じ、その場に倒れこんでしまいます。
「ゲラ!ゲラ!ゲラアアアアアアア!!」
「つぎ!はやくしなさい!」
「じねええええええええ!!!」
「よぐもありずのおぢびぢゃんをおおおおおおお!!!」
「ゲラァァァ!!!」
助けて、やめて、痛い、様々な感情がうどんげの頭を駆け巡る。
れいむとありすには残った左足と右腕を貫かれ、うどんげは完全に動けなくなりました。
「ゲラゲラ!ゲラ!ゲラアアアアアアアア!!!」
「…うるさいわね、くちもつぶしなさい」
「ゆっくりわかったよー!」
「ゲラゲ、ボオオオオオオオオオオ!!!」
ちぇんのくわえた枝がうどんげの喉元に木の枝が突き刺さり、上唇まで貫通しました。
「ブボッ!!ゴッ!!オオオオオ!!!」
もはや『ゲラゲラ』とも言えません。
声を出さなくなったその口は醜い雑音を発するばかり。
「おまえさえ!!おまえさえいなければああああ!!!」
「ゲッ…………!!!!」
激昂した先ほどのれいむによってうどんげの赤い左目に枝が突き刺されました。
もはやうどんげの視界と意識はグチャグチャになり、正気をとどめてはいません。
「むきゅ!そのくらいでいいわ!
あとはそのままがけからすてるのよ!!」
「「「ゆっくりりかいしたよ!!!」」」
数匹の若いまりさが満身創痍のうどんげを引きずっていき
崖のすぐそばまで連れて行きました。
「「「ゆっくりしね!ゆっくりしね!!」」」
「みんなのゆっくりをじゃましたげすはしね!」
「れいみゅのおとーしゃんがしんだのはおまえのしぇいだ!!」
「げすはしんでね!いますぐでいいよ!!」
口々に罵りの言葉を発する集落のゆっくり達。
しかし幸か不幸か、今のうどんげには聞こえていませんでした。
ただひゅーひゅーと潰された喉から空気を漏らす音がするだけ。
「おとしなさい!!!」
「ゆっくりりかいしたよ!!!」
若いまりさが動けないうどんげに数回体当たりをすると
うどんげは数十メートル、或いは三桁あるかもしれない崖へと落ちていった。
「やったよ!」
「ゆっくりできないゆっくりはしんだわ!
これからはみんないいゆっくりとして、たすけあっていきていきましょう!」
「「「ゆっゆっおー!!!」」」
その日の夜は、ゆっくり出来ない要因を始末した記念日として
ゆっくり達による宴が開かれました。
――――4月30日、午前7時、研究所、培養ルーム――――
目が覚めた。視界はオレンジ色で埋め尽くされている。
口から伸びた紐を引っ張る。少しの浮遊感の後
オレンジジュースの培養層から顔を出した。
すると、研究所の研究員らしき白衣の男から声がかかった。
「もう起きたのかい?」
『ええ』
返事をしたのは培養層から出てきた存在。
短い返事は無機質な機械音声。口にはめられたマスクから発せられたものだ。
ザブザブと円筒形の培養層から出たそれは真っ黒な出で立ち。
彼女…うどんげの身体を包んでいるのは繊維質の服ではなく
無骨な真っ黒の強化プラスチックで出来たアーマーであった。
動くための鎧の隙間も、可動部用の素材に変わっているだけで肌の露出は無い。
唯一肌の出ている頭部もマスクと
左目に取り付けられた眼帯式のモノクルによって隠れていた。
横にあったシャワーを浴びる。
その冷たい水飛沫に曖昧だった意識が完全に覚醒する。
一定時間経過したと同時に乾燥機が起動し、身体を乾かしてくれる。
体が完全に乾くと、再び声がかかる。
「気分はどうかな?」
そう問われ、自らの身体をチェックする。
身体を見回すのではなく、自己診断プログラムをRUNさせている。
ややあって、左目のモノクルに『ALL CLEAR』と表示された。
『大丈夫よ、問題ない』
「そりゃあよかった、今日はどうする?」
『用事がなければ、出かけたいのだけど』
「…今日も、やるのかい?」
『ええ』
「まあいいけど。今日中には帰ってきてくれよ」
『わかってる』
うどんげは自分専用にあつらえられた直刀を手に取る。
日本刀のような美しさの無い、棒から刃が突き出しただけのような無味乾燥なフォルム。
それを背負うと薄紫の髪をなびかせ、うどんげは自動ドアを経て外へ出て行った。
――――同日、午前8時、森林――――
うどんげはいつもの『狩り場』にいる。
漆黒のその姿は緑溢れる森林という自然的なロケーションには全くそぐわなかった。
しかし『彼女』はそのようなこと知ったことかとばかりに歩を進めている。
ほぼ早歩きと呼んでいい速度で歩いており、地を踏みしめる度に長い髪と耳が揺れていた。
ザッザッザッザッと足音を立てながら右腰に帯びた刀の柄に左手を掛ける。
同時にさらに足を速めた。数秒もすればもう走っていると言える速度だ。
「ゆゆっ!?なにかへんなやつがっ…………!!!」
鞘走りを利用して刀に一瞬だけ速度と加重をかける。いわゆる居合い斬り。
最初に目に留まったまりさは、顔面を水平に切り込まれていた。
「…………………………………ゆ?」
自分より早く動くものを理解できないまりさはたっぷり十秒かけて
その激痛から負傷したことに気が付いた。
「ゆっぎゃあああああああああああああああああ!!!
ばりざのがっごいいおがおがあああああああああああ!!!ぐぶぇ!!!」
痛みに我を忘れ転がった結果、帽子と狩りの成果であろう木の実や花をぶちまけ
最終的には木に激突してようやくといった具合に止まった。
「ゆがあああああああああ!!!
いぎなりなにずるんだぜええええええええ!!!」
体勢を立て直し、突然に襲撃者に抗議をする。
が、抗議を聞き入れるくらいなら初めから攻撃などするはずが無い。
うどんげは刀を構え直し、今度は木を背にしたまりさに連続で斬撃を叩き込む。
「ぎゃべっ!!がぶっ!!あぎ!!ぎゅぶあ!!」
左側頭部、右頬、眉間、下顎。
うどんげの完全な人工物である義手から繰り出される剣技は
人間のそれと大差なく、的確に眼前のまりさを刻んでゆく。
剣がまりさを斬りつけるたびに、刀とは逆方向へ長い髪が流れていた。
その美しくも残酷なショーはまりさに致命打が入る前に終了する。
「い゙だい゙い゙だい゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙!!!!
ゆ゙ん゙や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!
ぼゔお゙ゔぢがえ゙る゙ゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔ!!!!」
数十という切り傷を負いながらも、まりさはまだ体力的な余裕があった。
当然だ。うどんげの持つ刀はのこぎりではない。
一振りで切り込める深さは全力でも10cmがやっと。
加えてスパッと斬られた傷口は
生命体の血液よりも遥かに粘性の高い餡子が漏れ出すには小さすぎた。
「ぶげっ!!!」
うどんげの右手に殴られ、コロンと横に転げるまりさ。
すぐに逃げ出せばいいはずなのだが、体が凍り付いて動けない。
何よりも、この状況で逃げようなどと冷静な思考を持つこと自体が不可能だった。
「や……やめちぇにぇ!!まりちゃをこりぇいじょういじめにゃいでにぇ!!!」
歯をガチガチ鳴らしながら懇願する。
恐怖のためか、横に転げたまま赤ちゃん言葉でだ。
「ぎゅぶっ…!」
ビュっと空を切る音がした。
何が起こったのか分からない。
いや、理解したくないのかもしれない。
何故なら、今自分がしーしーを漏らしているはずである
ぺにぺにとまむまむのあるべき場所が一直線に裂け――――
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
まりさの拙い現実逃避が激痛により遮られた。
苦痛、恐怖、絶望。
ありとあらゆる不の感情がまりさを支配し、その場でのた打ち回った。
「がっ!!がっ!!ゆ゙ぐあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
死んでしまいたかった。
可愛いおちびちゃんはもう産めない。
かっこいい顔はズタズタに切り裂かれた。
いかした帽子はいつの間にか頭に乗っていない。
のた打ち回って傷に突き刺さる枝や木の葉がとてつもなく痛い。
そしてなにより
――――そんな自分を見る、無感情な紅い瞳が怖い――――
ザッザッと恐怖の対象が近づいてくる。
「あ゙……あ゙……あ゙あ゙……………」
こわい、怖い、恐い。
まりさの目の前でうどんげが刀を振りかぶる。
陽光を反射するその刃を視界に捉えながらも、まりさは一点の紅から目が離せない。
『死にたい?』
あまりにも唐突にその言葉は響いた。
少しの間の後に意識ははっきりしていたまりさがそれに応える。
「じな゙ぜでえ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!!
ばり゙ざを゙ごろ゙じでぐだざい゙!!!
ぼゔい゙だい゙の゙や゙だあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!
ごわ゙い゙の゙や゙だあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
まりさはあらん限りの声で叫んだ。
うどんげは、刀を振りかぶった姿勢のまま黙って聞いている。
「ぼゔや゙だ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!
お゙ゔぢがえ゙る゙ゔゔゔゔゔゔゔ!!!
ゆ゙っぐり゙じだい゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙!!!」
際限のない感情の爆発は都合一分続いた。
疲れが来たのか、まりさがぜーぜー荒い息を吐くだけになったところでうどんげは告げる。
『貴方が死んだら、貴方の家族を殺す』
まりさがピクンと動いた。
叫びつかれて動けないはずのまりさが『家族』という単語に反応したのだ。
『身体を切り裂いて、足を刻んで、目玉を抉って、生殖器を潰す』
次第にまりさがブルブルと震えだす。
台詞から、住処で自分の狩りの成果を心待ちにしている
番と子供が嬲られる姿を想像しているのだろう。
『親がいれば殺す。番がいれば殺す。子供も殺す。仲間も殺す。
出来るだけ無残に、残酷に、苦しめて殺す』
うどんげの口調が徐々に早くなる。
それに呼応するように、まりさの震えも大きくなる。
「じ…ね………!じねえ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!!!」
再び自らを奮い立たせたまりさがうどんげに襲い掛かる。
しかしうどんげから見れば攻撃などと呼べるものではなく
ただ寄って来ている程度にしか考えていなかった。
「ぎゅびい゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙!!!」
間合いに入ってきたところでまりさを斬ると同時に跳ね飛ばす。
転げたまりさだが今度はすぐに足を下にして
うどんげを涙一杯の目で睨みつける。
「ざぜな゙い゙い゙い゙い゙い゙!!ざぜな゙い゙い゙い゙い゙い゙!!!
でい゙ぶどお゙ぢびばばり゙ざがばも゙る゙ゔゔゔゔゔゔ!!!」
まりさはその生涯最も激しい情念をもってうどんげと対峙する。
しかし、紅の瞳に揺らぎは全く無かった。
むしろ、この程度ではもの足りぬと言いたげな辟易さがにじみ出るように目が細められた。
「ばりざば!ばりざばあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
うどんげはジャリっと左足を大きく引き、半身に構えた。
刀は左手で持ち、刃を水平に保ち、右手は切っ先に添える。片手平突きの構えだ。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
まりさの思考はグチャグチャだろう。
少しその場で絶叫し続ける。
仮にこのまま生き延びようとも、今後まともな生活は送れそうに無かった。
「あ゙あ゙あ゙!!!ゆ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
まりさの体の半分から下がぐにゃりと歪んだ。
それに合わせてうどんげも踏み切る軸足に力を込める。
「じね゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!!」
『っ!!』
まりさが叫ぶと同時に地面から身体を浮かせた。
それにほんの僅か遅れる形で声にならない息を吐いてうどんげがスタートを切った。
しかし、激突はどの道同時だ。
(…!)
まりさとの距離が最適になったその時。
その一瞬にうどんげは刀をも自らの腕と化し、拳を叩き込むつもりでまりさに突き立てた。
「ぶっ………!!!!」
突き出された刀はまりさの中枢餡を傷つけないように
それでいて衝撃が伝わるギリギリの位置を貫いた。
突くのでは切り込むのとは全く違う。
抵抗が最小になる突きならば軽く数十cmは突き刺さるのだ。
刀は柄を持つ手に当たるまで貫通。
さらにうどんげは衝突の衝撃が収まり
その反作用が働いたその瞬間を見逃さず、左手を引いて刀を引き抜いた。
加えてその引き抜いた勢いをそのままに身体を左回転させ
後ろ回し蹴りをまりさのこめかみに叩き込む。
「………げぇ!!!!!!!!」
その刹那の三連動作にゆっくりの反応が追いつくはずが無く、まりさの絶叫は一回。
まりさは今度こそ餡子を散らしながら吹き飛んだ。
ドサっとまりさが地面に当たって止まる。
吹き飛んだのは確かだが、それほどの飛距離は出ていなかった。
何故なら、まりさのこめかみは衝撃に耐え切れず左目ごと消失していたからだ。
うどんげとは距離にして約50cm。
「がっ………ぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
ビタンビタンとその場でのたうち始めた。
既に残った右目にうどんげが映りこむ余裕は無い。
「あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
刀は中枢餡のすぐそばを掠め、僅かだが空洞を作った。
曲がりなりにも弾力性のあるゆっくりの身体の餡子はその空洞を利用して流動する。
さらにのた打ち回ることで中身がグチャグチャにかき回され
中枢餡に刺激を伴い、激痛を発生させる。
言うなれば過度のストレスで中枢餡を締め付ける『非ゆっくり症』が擬似的に再現されるのである。
加えて、あくまで傷のついていない中枢餡はわずかばかりの思考をする余裕が残る。
死ぬまでその激痛と絶望をかみ締め続けなければならない。
こうなってしまってはもう何をやってもこのまりさは助かるまい。
少なくともあと一時間はこのままのた打ち回り続け、苦痛と絶望の果てに死に至るだろう。
ここまで確認したうどんげはまりさから興味を失ったかのように
まるで何事も無かったかのように、まりさの横を通り過ぎていった。
事実、あまりにありきたりな反応にうどんげの心は全く揺れ動かなかったのだ。
うどんげにとっては何も起こらなかったに等しい。
ヒュン、と刀を軽く振って刃についた餡子を振り払い、鞘に収めた。
真っ黒な死神は、今だ苦痛に絶叫し続けるまりさだけをその場に残して去っていった。
――――同日、午前9時、ゆっくりの集落入り口――――
「ゆ゙っ………!?」
黒いアーマーに身を包んだうどんげがゆっくり達の住処が集う集落を訪れると
入り口付近で遊びに興じていた母親らしきれいむと二匹の子ゆっくりの目に留まった。
うどんげを認識した両者は全く対照的な反応を見せる。
「ゆんやああああああああ!!!
『あくま』がきたああああああああ!!!!」
「ゆゆ?おかーさんなにいってるの?」
「くんくん……あまあまのにおいがするよ!」
これまで度々行われた凶行を知っていた親れいむは真っ黒な存在を『あくま』と呼び
子供達はうどんげの体からオレンジジュースの残り香を嗅ぎ取って
これから手に入るであろうと信じて疑わないあまあまに思いをはせた。
「おちびちゃん!!こいつはゆっくりできないやつだよ!!
はやくおかーさんのおくちのなかにはいってね!!」
口を大きく開けて、舌をスロープのように地面に這わせる親れいむを見ても
子供達は全く危機感を持ち合わせていなかった。
「なにいってるの!はやくかわいいれいむにあまあまちょうだいね!」
「まりさにもちょうだいね!たくさんでいいよ!」
「ぞんなごどいっでるばあいじゃないでしょおおおおおお!!??」
親れいむは暢気なことを言っている子供達に苛立ちすら覚えているが
見たことも聞いたこともない存在に対して危機感を持てと言うのは酷な話だ。
自分が知っていることは他の者も知っていると思い込むのは
人間でもゆっくりでも厄介な問題だった。
「ゆゆ~?あんただれ?」
ついにはまりさが好奇心に後を押されうどんげに興味を示した。
『あんた』と言うあたりうどんげがゆっくりだと思っていないとみえる。
「おちびちゃあああああああん!!!
だめだよおおおおおおおおおおお!!!
ゆっぐりでぎなぐざれぢゃうよおおおおおおおおお!!!!」
れいむが余りに騒ぎ続けたせいで他のゆっくり達が集まってくる。
しかしそれを見ても先ほどからうどんげはただ立っているだけであった。
「なんなんだぜええええ!!??」
「ごわいよおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「どぼじでごんなごどずるのおおおおおおお!!??」
「もうおうぢがえるううううううううう!!!!」
うどんげに気付いたそばから絶叫し、逃げて行くゆっくり達。
わざわざ寄ってきてから逃げるあたり、ゆっくりの阿呆さが知れる。
しかもまだ何もしていないのに『こんなことをする』と言うのも理不尽の一言に尽きる。
まあ、そのことに関してだけはこれから行われる『狩り』を考えれば同情の余地があるが。
『さあ、そろそろ始めましょうか。
逃げたいのなら逃げても構わないけどね』
「ゆやああああああああああ!!!!」
「やじゃああああああああああああ!!!!」
「こっちこないでねええええええ!!!」
「わがらないよおおおおおおお!!!」
うどんげが刀を抜き放ちそう宣言すると
叫び声を上げながら主にうどんげの危険性を認識している成体ゆっくりがこぞって逃げ始めた。
件のれいむを除いて。
「おぢびぢゃんはでいぶがばぼるよおおおおおおおお!!!!」
「ゆ?ゆゆぅ!?」
親れいむは啖呵を切ってうどんげに突進する。
子供達は周りの狂騒に付いていけずただオロオロするばかり。
「ゆべ!」
うどんげは体当たりを仕掛けてきたれいむをサッとかわす。
勢い余って地面にちゅっちゅしてしまった。
両者の動作速度には雲泥の差がある。
れいむは百回攻撃したところで百回避けられるだけだろう。
『おちびちゃんを守る、ね。だったら守ってみせなさい』
そう言いつつ、うどんげはうずくまる親れいむを放って子れいむを斬り付けた。
「いじゃあああああああああああああ!!!!」
「おでえぢゃあああああん!!??」
成体ゆっくりの直径は30cm程度だがこの子ゆっくりは半分の15cm程だ。
赤ゆっくりというほど小さくは無いが、一人立ちもしておらず
『おちびちゃん』に他ならなかった。
「…………ゆ?ゆんやあああああああああああ!!!
どぼじでおぢびぢゃんがげがじでるのおおおおおおおお!!??」
体勢復帰した親れいむが子を見やると切りつけられたその頬が目に入った。
すぐに傷口をぺーろぺーろしてあげようと駆け寄ろうとしたその時
『邪魔よ』
「ゆっ!?ゆわっ…!ぶぅ!!」
うどんげは親れいむの髪を掴み、ハンマー投げの要領で半回転して子供二匹から引き離した。
「いだいよおおおお!!!いだいよおおおおおおお!!!
おがーざああああああああん!!!べーろべーろじでええええええええ!!!」
「おねーじゃん!!おでーじゃん!!ゆっぐりじで!!ゆっぐりじでねえええええ!!」
両親と姉の庇護の下に育った妹のまりさは
他者をゆっくりさせるために力を尽くすことをまだ知らない。
早く言えば姉をぺーろぺーろしていたわるような真似ができず
ただゆっくりして、と繰り返すばかりだった。
うどんげは寄り添っている二匹のうち、今度は妹の子まりさの髪を掴んで掲げる。
「ゆ…ゆやあぁぁぁ………やめてね、かわいいまりさにいたいいたいしないでね?」
子まりさは涙を流し、しーしーを漏らしながらがたがた震える。
うどんげはそんな言葉に構うことなく、子まりさの底面、つまり足に刃を突きたてた。
「ゆっ…ぎっ……ゆぎゃあああああああああああ!!!!」
まりさの絶叫。
足に刺さった刃をそのままひねり切りこみを深くしていく。
皮を小さく直径2cm円を描くように切り抜くと、そのまま手を離した。
「ゆがあああああああああああ!!!!
ばりざのしゅんっそくっのあんよざんがああああああああああ!!!!
ぼうおうぢがえるううううううううう!!!」
子まりさは逃げるようにずーりずーりを始める。
しかしその歩みはきわめて遅く、左右にフラフラとして方向が定まらない。
右へ傾いたかと思えばそのすぐ後に左へ行き過ぎたり、完全に平衡感覚を失っていた。
加えて底部には穴が開いており、移動するたびに内臓である餡子を地面の凹凸に引っ掻き回される。
「いだい!!いだいいいいいい!!なにごれええええええ!!!
まりざのあんござんいだいよおおおおおおおおおおおお!!!」
もっとも子まりさは状況を掴めておらず、訳のわからない痛みに翻弄されるだけであった。
それも痛みに耐え切れなくなってすぐに動くのをやめたため、少しの間の出来事なのだが。
「おぢびぢゃあああん!!
どぼじでごんなごどずるのおおおおおおおお!!??」
ようやく戻ってきた親れいむが子供達の惨状を見て抗議の声を上げた。
うどんげにその声こそ聞こえているものの、内容に耳を傾ける気はまったく無かった。
「おぢびはでいぶがまもるんだああああああ!!!」
れいむは全く代わり映えの無い体当たりを敢行。
行動に変化がなければ、結果に変化が無いのは道理。
「ゆげ!!」
対象にぶつかると思っていたその勢いは収まらず、地面と衝突。
うどんげはそれを感情の伴わない目で見ていた。
「ゆぎゃああああああああああああ!!!
おもにおがおがいだいいいいいいいい!!!」
どうやら激突した地点に尖った小石があったようだ。
親れいむは顔の中心、人間なら鼻のある部分をへこまして転がっていた。
ビタンビタンと左右に振れる姿に親らしさなどなく
その反応は完全に子ゆっくりのそれであった。
「ゆぎぃぃ……いだい、いじゃいよおおぉぉ……」
最初に頬を斬られた子れいむは比較的大人しくなっていた。
軽傷というだけでなく、痛みと負傷を自覚して冷静になったのかもしれない。
「ゆ……ゆうう?やべでね、ぼういだいいだいしないでね?
いっしょにゆっくりしようね?」
涙目でずりずりと後ずさりながら勇気を振り絞って話を試みる。
うどんげはそんな子れいむに向かって一歩一歩近づいてゆく。
「しょ、しょうだ!れいむのおうたでゆっくりしてね!?
ゆーゆゆ、ゆーゆー!!」
身体を揺らし、もみ上げをバタバタ上下させながらゆーゆー言い始める。
無論、そんなものが見逃す理由になるはずが無い。
何よりいつものデタラメなメロディさえないそれは
単に歌詞を叫んでいるような物で
うどんげは元より、子れいむ自身が全くゆっくりしていなかった。
ビュッ「ゆわっ!!」 ヒュンッ「ゆゆっ!!?」
子れいむの真横を縦に刀が通り過ぎていった。左右両方一回ずつだ。
一撃目に驚いた子れいむは目を閉じて固まった。
「……ゆ??」
いつまで経っても襲ってこない痛みにれいむはおそるおそる目を開く。
「れいむ、いたいいたいしてないよ?
ゆっくり?ゆっくりしてるよ!?」
目の前の黒い何かは黙って自分を見下ろしていた。
ゆっくり出来る雰囲気はなかったが、痛みが来ないことから害意が無いと思ったようで
「ゆっくり!ゆっくりできるね!
ゆっくりしていってね!!!」
子れいむにとっての最高位の挨拶をした。
可愛いれいむがゆっくりした挨拶をしたのだ。
そう思いながらぴょんぴょん跳ね、もみあげをピコピコさせ――――
「ゆ?ゆ??ゆゆゆ???れいむのもみあげしゃん???
もみあげしゃんは???」
頬より後ろにあるもみあげは上下に揺らす時だけ自分の視界の端に映るはず。
いや、それ以前に動かせば側頭部に当たる感触があるはず。
そんな風にぼんやり考えてから自分の足元に目を向けると
「ゆんやあああああああああ!!!
れいむのもみあげしゃんがあああああああああああ!!!」
すぐそばに落ちていた赤いリボンで束ねられた二つの髪束。
胴無しゆっくりの腕とも言える、それ以上にチャームポイントと考えていたもみ上げを失ったという
ショックと喪失感は大きく、子れいむはその場で泣き叫んだ。
「ぺーろぺーろ!ぺーろぺーろ!もみあげしゃんなおってね!
ゆっくりしないでなおってね!!!」
ぺーろぺーろは外皮の刺し傷、切り傷ならば多少の効果がある。
が、バッサリ切断されたもみ上げを舐めたところで、コロコロと転がるだけである。
「どぼじでなおらないのおおおおおおおおお!!!
れいむおごるよおおおおおおおお!!!ぷきゅうううううううううう!!!」
無生物に話しかけるのはゆっくりの悪い癖である。
うどんげと、三者三様に泣き喚く母子。
そんな処刑場には他にも動くものがいた。
「ゆひっ……!!!」
「やめてね!!こっちこないでね!!」
うどんげが少し離れた木の影に目を向けると
そこから覗いていた複数のゆっくりが慌てて引っ込む。
「『あくま』………!」
「『あくま』だよ…………!!!」
「ゆっくりの『あくま』だよ!!!」
遠巻きに見ている集落のゆっくりは二桁をゆうに超えていた。
皆口々にうどんげを『悪魔』と呼ぶ。
頭部で自己主張をする二本の長い耳がうどんげの『おかざり』としてゆっくりたらしめていたが
真っ黒でメタリックなその身体は生物的な温かみなど無く
中には先の子れいむのようにゆっくりだと思わない者もいた。
「『あくま』はゆっくりしね!!」
「ありすたちのむれからでてってね!!」
「ここはゆっくりしたゆっくりだけのゆっくりぷれいすだよ!!」
最初の数匹をきっかけにうどんげに罵声を浴びせ始める。
うどんげに近づかないまでも、集落のゆっくりがこうも強気に出られるのには理由がある。
何のことは無い。うどんげは毎回手近な数匹にしか手を出さず
手当たり次第に攻撃するようなことが無いからだ。
「でい゙ぶを゙だずげろ゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!」
大きくなってきた罵声を止めたのは襲われた親れいむの絶叫、いや咆哮だった。
「がわ゙い゙い゙でい゙ぶを゙だずげろ゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!
がわ゙い゙い゙お゙ぢびを゙だずげろ゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!
あ゙ぐま゙を゙ごろ゙ぜ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!!!」
罵声よりも遥かに大きな声量でれいむは叫ぶ。
親れいむは顔を多少へこませただけだ。
動きの取れない子まりさや、心理的ショックの大きい子れいむに比べて遥かに元気だった。
「な゙に゙や゙っでる゙ゔゔゔゔゔゔゔゔ!!!!
はや゙ぐじろ゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!」
自分は負傷者で被害者だ、としか考えないれいむは群れのゆっくり達に助けを求める。
或いは全員でかかれば、という淡い期待も無くはない。
ひとしきり叫んだ後ぜーぜー言いながら起き上がり、隠れているゆっくりを見た。
「ゆっ…………」
「………………」
好き勝手にまくし立てていた周りのゆっくり達は少し押し黙った後、今度は小声で囁き合う。
「と、とかいはなありすはたたかったりしないわ……」
「れいむはゆっくりにげるよ…そろーりそろーり……」
「みゃみゃ、きょわいよぉぉ……」
「どゔじだあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!
はや゙ぐじろ゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!」
二度目の叫び。しかし先ほどとは違い、まわりの反応は若干冷ややかである。
「どうしてれいむが……」
「もとはといえば、あのおちびが……」
ある種、当然の反応であった。
ゆっくりにとって台風や竜巻を相手にすることに匹敵する無謀な戦いを
我が身可愛さありきのゆっくり達には望むべくも無かった。
「ゆふー!ゆふー!せめて、せめておちびちゃんだげでもおおおおおおおお!!!」
救援が絶望的と判断した親れいむは、横にあった木の枝をくわえた。
武器の使用は初めてな上、まりさやみょんの猿真似だが無いよりはいいと考えた。
そして、鬼の形相でうどんげに向き直る。
今のれいむは自らの命を投げ出して戦う修羅であり
子供を守るという目的を持った母親の理想像でもあった。
「ふー!ふー!おちびちゃん!れいむがこの『あくま』とたたかってるあいだに
ゆっくりしないでにげてね!!!」
「ゆぅ……?おかーしゃん……?」
えぐえぐとしゃくり上げていた子供二匹が母の鋭い呼びかけに反応する。
「でもぉ!でもぉ!れいむのもみあげさんがあ!!!」
「まりちゃのあんよさん、うごいてくれないのおおおお!!!」
「わがままいわないでね!!にげるのはいましかないよ!!
いまにげないと『あくま』にえいえんにゆっくりさせられちゃうよ!!
ゆっくりりかいしてね!!」
「ゆんやああああああああ!!!」
「どぼじでぞんなごどいうのおおおおおおおお!!??」
「だまってね!!れいむのおちびちゃんはつよいこだよ!!
れいむはおとーさんににたまりさのしゅんっそくっも
れいむのかんっぺきっなおうたさんもしんじてるよ!!
れいむはおちびちゃんがだいすきだから
おちびちゃんにここでしんでほしくないよ!!」
「おかーしゃん……」
「……………」
普段なら聞く耳持たないであろうその言葉を、母の必死の形相と口調から
子供達は確かに受け止めた。
若干の矛盾や状況に合わない言動はゆっくり故の仕様である。
「わかったよおかーしゃん!まりちゃ、ゆっくりするよ!!」
「れいむもがんばるよ!!」
「おちびちゃん!ゆっくりしていってねええええええええ!!!!」
ゆっくりの最も基本的な台詞で会話は締めくくられた。
その言葉と共に繰り出された体当たり。
木の枝をくわえたそれを食らえばいくら『あくま』でも、と
信じて疑わないれいむは全力で立ち向かった。
「ぎゅべ!!」
しかし、この茶番劇の魔法はもう切れていた。
二度あることは三度ある。
結局れいむは、先の二回と全く同じ要領で回避され
地面に激突しただけであった。
いや、状況はなお悪い。
くわえられていた木の枝が地面に突き立てられ、逆にれいむの右頬を貫通したのだ。
「いじゃ、いじゃあああああいいいいいいいいいい!!!」
凹みとは全く桁の違う激痛に襲われ、左右にジタバタともがいた。
「でいぶのがわいいがわいいおがおがあああああああ!!!
ばりざがぎれいぎれいじでぐれだのにいいいいいいい!!!」
修羅の決意はどこへやら。
れいむが集落のゆっくりに呼びかけてからこちら
うどんげは一切何もしていない。
ただ、横にひょいと移動しただけ。
それだけでこの間、これだけの茶番劇が繰り広げられたのだった。
『……………』
が、その茶番劇はここまでのようだ。
これからは惨劇の幕が上がる。
「ゆ………びぃぃぃぃいいいいい!!!」
ズブリ、とうどんげが親れいむに刺さっていた小枝を引き抜いた。
「いじゃいいじゃいよおおおおおお!!!」
傷口が開きすぎないように留意していた上に、実際重傷と呼べるダメージでもない。
これは単にれいむが騒ぎ過ぎなだけである。
それでも『木の枝が刺さっている状態』を脱したためか、うどんげに目を向ける余裕が出来た。
「よぐも、よぐぼおおおおおおおおおお!!!
おぢびぢゃんだげはぜっだいやらぜないいいいいいいいい!!!」
「れいむはここでしんでいいゆっくりじゃないよ!!そろーりそろーり!!」
「ゆぎぃ……ゆぎぃ……」
子供二匹は今だ逃げ続けていた。
しかし子れいむはともかく、足に相当な深手を負っているまりさの歩みは
とても逃げると呼べるレベルではない。
「でいぶはじんでおぢびぢゃんだげは――――」
「ぐぎゅ!!!」
親れいむの台詞が途切れる。
うどんげはゆっくり特有の長い御託に付き合わず
逃げようと這いずっていたまりさの頭を軽く斬りつけた。
「ゆ゙っ……ぎゃああああああああああああ!!!!」
「おぢびぢゃあああああああああん!!!」
足の痛みに慣れつつあったまりさだが
帽子のつばの下、右側面の髪の毛の生え際辺りを斬られたことで
なおも続く元気な悲鳴を上げていた。
「いじゃいいいいい!!!ぼうやだ!!ぼうやだ!!
ぼういじゃいのやだああああああああ!!!」
「どぼじでおぢびぢゃんをいじべるのおおおおおお!!!???」
親からかりそめの希望を与えられ、逃走を図っていた子まりさだが
その努力もあっさりと追いついてきたうどんげによって潰された。
そんな様子に、大分先へと移動していた子れいむが振り返った。
「まりちゃああああ!!!
れいむのかわいいいもーとがああああああ!!!」
「おぢびぢゃんどまっぢゃだめええええええええ!!!」
「ゆびえやぁ!!!」
親れいむの叫びが間に合うはずも無く、いやたとえ止まらなかったとしても
変わらない結果が子れいむを襲った。
「い゙………え゙………え゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙………!!!」
「おちびちゃんのすてきなおうたをうたうおくちがあああああ!!!!」
子れいむは口の端を頬めがけて斬り込まれた。
今や子れいむの口は1.5倍近くまで広がっている。
「え゙あ゙あ゙あ゙………い゙え゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙…………!!!」
「おぢびぢゃあああああん!!!
いまべーろべーろじであげるがらねえええええええ!!!」
親れいむは当面の敵のことすら忘れて子れいむに駆け寄った。
しかし、そのすぐ横を黒い影が通り過ぎてゆく。
「ゆっ!?」
「ぎゃあああああああああああああ!!!!」
親れいむが振り返るのと悲鳴は同時。
刀が子まりさの眉間を貫き、中枢餡を掠めていた。
「まりさあああああああああ!!!」
「ぎゅびえやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「でいぶ!?でいぶうううううううううう!!!!」
いちいち上げる悲鳴がうどんげの動きについてこられない。
今度は同様に子れいむの中枢餡のすぐそばが貫かれていた。
「ゔ……あ゙………あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙………」
「があ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
二匹は擬似的な『非ゆっくり症』状態にされ、その激痛に
子まりさは絶叫し、子れいむは呻き声を上げた。
そして、親れいむは
「――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!」
筆舌に尽くしがたい声を上げて慟哭した。
――――同日、午前10時、ゆっくりの集落――――
しばしその状態が続いたが子供が呻き声すら上げられなくなった頃
親れいむが動いた。
「……………っ!!!!」
ゆらり、と振り返った。
うどんげにこれ以上無い程の眼光と殺意を向ける。
その目は、復讐者のそれであった。
『…いい殺気ね』
それだけの殺意を向けられ、うどんげの右目にほんの一瞬、僅かばかりの光が宿る。
うどんげはれいむの眼光に、自分と同じものを見たような気がする。
先程の子供を守るという覚悟とは比較にならない。
――――今度こそ親れいむは、本当の修羅になったのだ。
うどんげとれいむが対峙する。
『……………』
うどんげが刀を正眼に構える。
彼女なりの敬意を表して、れいむと相対する。
「……………」
れいむに構えは無い。
もともと胴無しゆっくりに出来る動作などたかが知れいている。
ただ正面から全力で激突するのみ。
長い沈黙が一帯を支配する。
傍観者を決め込む集落のゆっくりさえ、固唾を呑んで両者を見続けていた。
「………っ!!!あああああああああああああああああ!!!!!」
『………!』
ただ一介のゆっくりと、漆黒の悪魔が激突する。
『…………………』
「………………がはっ!!」
勝負は一瞬。
お互いの間に、覚悟や信念といった心理的な差はそれほど無かったのかもしれない。
しかし実力の方はそうもいかない。
うどんげの手の刀は、れいむの中枢餡を正確に刺し貫いている。
――――自分自身の最後の瞬間に、れいむは正気に戻っていた。
至近距離で向き合うれいむにうどんげは冷たい目を向けている。
(ゆうう……!!??なんなの!?なんなの!?ゆっくりできないよ!?
ゆっくりしてないよ!?『ゆっくりしたくない』の!?)
れいむは正面からその紅い瞳を見た。
その目は全くゆっくりしていない。
それ以前に、ゆっくりしたいという輝き、欲望すらも宿していなかった。
集落を断続的に地獄に陥れ、れいむの子までなぶり殺しにした。
それだけの凶行を働いたにもかかわらず、その瞳は何一つ満足していなかった。
そしてその疑問の後に、走馬灯を見る。
赤ゆっくりの自分がいた。
独り立ちした自分がいた。
まりさと結ばれた自分がいた。
子宝に恵まれた自分がいた。
悪魔に怯える自分がいた。
そして――――『悪魔をなぶりものにしている自分がいた』
見たことのない記憶に疑問を持つ時間はなく、れいむの意識はそこで途切れる。
………………
…………
……
うどんげは、一度殺してしまった者に興味を持つことは無い。
今しがた自分が殺したれいむも刀を引き抜くと
あっさりとその場に打ち捨てて傍観者達に背を向けた。
「ゆっくっ……!」
ゆっくりしね、という言葉が出かかって止まった。
ゆっくりならば背を向けて去っていく相手を自分から逃げたと都合よく解釈するものだが
うどんげは十回を超える回数この集落を訪れいている。
最初は皆して片っ端から襲い掛かったりもした。抗議をしたりもした。
背を向けたうどんげに奇襲を仕掛けようとしたりもした。
そして、その全てがまったくの徒労、ないしは無駄死にに終わった。
しかしうどんげの襲撃のパターンに、唯一群れの長が気がついた。
襲われるのは最初に捕まった一匹、或いはその親類縁者のみ。その後は大人しく帰る。
一部始終を黙って見ていれば、被害は最小限ですむ。
去っていく今は、もう誰も襲われる心配が無い。
下手に刺激しないほうが身のためであった。
漆黒の悪魔――――うどんげは、一度も振り返ることなく集落を去っていった。
続く
虐待 改造 戦闘 希少種 創作亜種 独自設定 短い話を書くのが苦手な私です
初めましての方は初めまして
他作を見てくださった方はありがとうございます。
投稿者の九郎です。
この作品は、他の作品の設定を真似ている部分がありますが
元のネタの知らなくても読めます。
例によってかなりアレな作品ですのでご了承ください。
また、そう長くは続かないつもりです。(どう転ぶかわからないが…)
――――――――――――――――――――
昔々、あるところにゆっくりの集落がありました。
その集落はとても高い山にあり、普通のゆっくりならば行こうと考えない場所でした。
しかし、確かにその集落はあったのです。
そこに集まったゆっくり達はでいぶやゲスまりさ、レイパーやけんじゃモドキ等に悩まされ
ゆっくりという存在にほとほと嫌気の差した特殊なゆっくりの集まりでした。
いつしか、その集落はゆっくり出来るゆっくりしかいない伝説の集落と噂され
真のゆっくりプレイスと誰もが知る話となりました。
そんな集落で、一つの惨劇があったのです。
「ゆっくりできないゆっくりはしね!!」
「おまえなんかなかまじゃないよ!!」
「ゲラ!ゲラゲラゲラ!!」
一匹のゆっくりが岸壁に追い立てられていました。
胴付きのうどんげです。
「むきゅ!みんなあつまったわね!」
「おさ!」
「ゲラゲラ!」
うどんげを半円に取り囲むゆっくり達の間から、偉そうなたたずまいのゆっくりが出てきました。
このゆっくりの理想郷を取り仕切る長、ぱちゅりーです。
頭が良く、喋れない自分の言うことをいつも理解してくれた。
このやさしいぱちゅりーならば、自分を助けてくれると期待しました。
「ではこれよりゆっくりできないゆっくりの『しょけい』をはじめるわ!」
「ゲラァァァァァァァァ!!??」
全く期待とは異なる言葉にうどんげは凍りつきました。
ぱちゅりーだけは分かってくれると思っていたのに。
そう言う思いを込めてパチュリーに視線を投げかけます。
「はじめなさい!!」
「ゆっくりしね!!」
「ゆっくりしね!!」
「ゲラアアアアアアアアア!!」
そんな思いも、まりさ、みょんの突き出してきた木の枝に貫かれてしまいました。
うどんげは刺された右足と左腕に鋭い痛みを感じ、その場に倒れこんでしまいます。
「ゲラ!ゲラ!ゲラアアアアアアア!!」
「つぎ!はやくしなさい!」
「じねええええええええ!!!」
「よぐもありずのおぢびぢゃんをおおおおおおお!!!」
「ゲラァァァ!!!」
助けて、やめて、痛い、様々な感情がうどんげの頭を駆け巡る。
れいむとありすには残った左足と右腕を貫かれ、うどんげは完全に動けなくなりました。
「ゲラゲラ!ゲラ!ゲラアアアアアアアア!!!」
「…うるさいわね、くちもつぶしなさい」
「ゆっくりわかったよー!」
「ゲラゲ、ボオオオオオオオオオオ!!!」
ちぇんのくわえた枝がうどんげの喉元に木の枝が突き刺さり、上唇まで貫通しました。
「ブボッ!!ゴッ!!オオオオオ!!!」
もはや『ゲラゲラ』とも言えません。
声を出さなくなったその口は醜い雑音を発するばかり。
「おまえさえ!!おまえさえいなければああああ!!!」
「ゲッ…………!!!!」
激昂した先ほどのれいむによってうどんげの赤い左目に枝が突き刺されました。
もはやうどんげの視界と意識はグチャグチャになり、正気をとどめてはいません。
「むきゅ!そのくらいでいいわ!
あとはそのままがけからすてるのよ!!」
「「「ゆっくりりかいしたよ!!!」」」
数匹の若いまりさが満身創痍のうどんげを引きずっていき
崖のすぐそばまで連れて行きました。
「「「ゆっくりしね!ゆっくりしね!!」」」
「みんなのゆっくりをじゃましたげすはしね!」
「れいみゅのおとーしゃんがしんだのはおまえのしぇいだ!!」
「げすはしんでね!いますぐでいいよ!!」
口々に罵りの言葉を発する集落のゆっくり達。
しかし幸か不幸か、今のうどんげには聞こえていませんでした。
ただひゅーひゅーと潰された喉から空気を漏らす音がするだけ。
「おとしなさい!!!」
「ゆっくりりかいしたよ!!!」
若いまりさが動けないうどんげに数回体当たりをすると
うどんげは数十メートル、或いは三桁あるかもしれない崖へと落ちていった。
「やったよ!」
「ゆっくりできないゆっくりはしんだわ!
これからはみんないいゆっくりとして、たすけあっていきていきましょう!」
「「「ゆっゆっおー!!!」」」
その日の夜は、ゆっくり出来ない要因を始末した記念日として
ゆっくり達による宴が開かれました。
――――4月30日、午前7時、研究所、培養ルーム――――
目が覚めた。視界はオレンジ色で埋め尽くされている。
口から伸びた紐を引っ張る。少しの浮遊感の後
オレンジジュースの培養層から顔を出した。
すると、研究所の研究員らしき白衣の男から声がかかった。
「もう起きたのかい?」
『ええ』
返事をしたのは培養層から出てきた存在。
短い返事は無機質な機械音声。口にはめられたマスクから発せられたものだ。
ザブザブと円筒形の培養層から出たそれは真っ黒な出で立ち。
彼女…うどんげの身体を包んでいるのは繊維質の服ではなく
無骨な真っ黒の強化プラスチックで出来たアーマーであった。
動くための鎧の隙間も、可動部用の素材に変わっているだけで肌の露出は無い。
唯一肌の出ている頭部もマスクと
左目に取り付けられた眼帯式のモノクルによって隠れていた。
横にあったシャワーを浴びる。
その冷たい水飛沫に曖昧だった意識が完全に覚醒する。
一定時間経過したと同時に乾燥機が起動し、身体を乾かしてくれる。
体が完全に乾くと、再び声がかかる。
「気分はどうかな?」
そう問われ、自らの身体をチェックする。
身体を見回すのではなく、自己診断プログラムをRUNさせている。
ややあって、左目のモノクルに『ALL CLEAR』と表示された。
『大丈夫よ、問題ない』
「そりゃあよかった、今日はどうする?」
『用事がなければ、出かけたいのだけど』
「…今日も、やるのかい?」
『ええ』
「まあいいけど。今日中には帰ってきてくれよ」
『わかってる』
うどんげは自分専用にあつらえられた直刀を手に取る。
日本刀のような美しさの無い、棒から刃が突き出しただけのような無味乾燥なフォルム。
それを背負うと薄紫の髪をなびかせ、うどんげは自動ドアを経て外へ出て行った。
――――同日、午前8時、森林――――
うどんげはいつもの『狩り場』にいる。
漆黒のその姿は緑溢れる森林という自然的なロケーションには全くそぐわなかった。
しかし『彼女』はそのようなこと知ったことかとばかりに歩を進めている。
ほぼ早歩きと呼んでいい速度で歩いており、地を踏みしめる度に長い髪と耳が揺れていた。
ザッザッザッザッと足音を立てながら右腰に帯びた刀の柄に左手を掛ける。
同時にさらに足を速めた。数秒もすればもう走っていると言える速度だ。
「ゆゆっ!?なにかへんなやつがっ…………!!!」
鞘走りを利用して刀に一瞬だけ速度と加重をかける。いわゆる居合い斬り。
最初に目に留まったまりさは、顔面を水平に切り込まれていた。
「…………………………………ゆ?」
自分より早く動くものを理解できないまりさはたっぷり十秒かけて
その激痛から負傷したことに気が付いた。
「ゆっぎゃあああああああああああああああああ!!!
ばりざのがっごいいおがおがあああああああああああ!!!ぐぶぇ!!!」
痛みに我を忘れ転がった結果、帽子と狩りの成果であろう木の実や花をぶちまけ
最終的には木に激突してようやくといった具合に止まった。
「ゆがあああああああああ!!!
いぎなりなにずるんだぜええええええええ!!!」
体勢を立て直し、突然に襲撃者に抗議をする。
が、抗議を聞き入れるくらいなら初めから攻撃などするはずが無い。
うどんげは刀を構え直し、今度は木を背にしたまりさに連続で斬撃を叩き込む。
「ぎゃべっ!!がぶっ!!あぎ!!ぎゅぶあ!!」
左側頭部、右頬、眉間、下顎。
うどんげの完全な人工物である義手から繰り出される剣技は
人間のそれと大差なく、的確に眼前のまりさを刻んでゆく。
剣がまりさを斬りつけるたびに、刀とは逆方向へ長い髪が流れていた。
その美しくも残酷なショーはまりさに致命打が入る前に終了する。
「い゙だい゙い゙だい゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙!!!!
ゆ゙ん゙や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!
ぼゔお゙ゔぢがえ゙る゙ゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔ!!!!」
数十という切り傷を負いながらも、まりさはまだ体力的な余裕があった。
当然だ。うどんげの持つ刀はのこぎりではない。
一振りで切り込める深さは全力でも10cmがやっと。
加えてスパッと斬られた傷口は
生命体の血液よりも遥かに粘性の高い餡子が漏れ出すには小さすぎた。
「ぶげっ!!!」
うどんげの右手に殴られ、コロンと横に転げるまりさ。
すぐに逃げ出せばいいはずなのだが、体が凍り付いて動けない。
何よりも、この状況で逃げようなどと冷静な思考を持つこと自体が不可能だった。
「や……やめちぇにぇ!!まりちゃをこりぇいじょういじめにゃいでにぇ!!!」
歯をガチガチ鳴らしながら懇願する。
恐怖のためか、横に転げたまま赤ちゃん言葉でだ。
「ぎゅぶっ…!」
ビュっと空を切る音がした。
何が起こったのか分からない。
いや、理解したくないのかもしれない。
何故なら、今自分がしーしーを漏らしているはずである
ぺにぺにとまむまむのあるべき場所が一直線に裂け――――
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
まりさの拙い現実逃避が激痛により遮られた。
苦痛、恐怖、絶望。
ありとあらゆる不の感情がまりさを支配し、その場でのた打ち回った。
「がっ!!がっ!!ゆ゙ぐあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
死んでしまいたかった。
可愛いおちびちゃんはもう産めない。
かっこいい顔はズタズタに切り裂かれた。
いかした帽子はいつの間にか頭に乗っていない。
のた打ち回って傷に突き刺さる枝や木の葉がとてつもなく痛い。
そしてなにより
――――そんな自分を見る、無感情な紅い瞳が怖い――――
ザッザッと恐怖の対象が近づいてくる。
「あ゙……あ゙……あ゙あ゙……………」
こわい、怖い、恐い。
まりさの目の前でうどんげが刀を振りかぶる。
陽光を反射するその刃を視界に捉えながらも、まりさは一点の紅から目が離せない。
『死にたい?』
あまりにも唐突にその言葉は響いた。
少しの間の後に意識ははっきりしていたまりさがそれに応える。
「じな゙ぜでえ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!!
ばり゙ざを゙ごろ゙じでぐだざい゙!!!
ぼゔい゙だい゙の゙や゙だあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!
ごわ゙い゙の゙や゙だあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
まりさはあらん限りの声で叫んだ。
うどんげは、刀を振りかぶった姿勢のまま黙って聞いている。
「ぼゔや゙だ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!
お゙ゔぢがえ゙る゙ゔゔゔゔゔゔゔ!!!
ゆ゙っぐり゙じだい゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙!!!」
際限のない感情の爆発は都合一分続いた。
疲れが来たのか、まりさがぜーぜー荒い息を吐くだけになったところでうどんげは告げる。
『貴方が死んだら、貴方の家族を殺す』
まりさがピクンと動いた。
叫びつかれて動けないはずのまりさが『家族』という単語に反応したのだ。
『身体を切り裂いて、足を刻んで、目玉を抉って、生殖器を潰す』
次第にまりさがブルブルと震えだす。
台詞から、住処で自分の狩りの成果を心待ちにしている
番と子供が嬲られる姿を想像しているのだろう。
『親がいれば殺す。番がいれば殺す。子供も殺す。仲間も殺す。
出来るだけ無残に、残酷に、苦しめて殺す』
うどんげの口調が徐々に早くなる。
それに呼応するように、まりさの震えも大きくなる。
「じ…ね………!じねえ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!!!」
再び自らを奮い立たせたまりさがうどんげに襲い掛かる。
しかしうどんげから見れば攻撃などと呼べるものではなく
ただ寄って来ている程度にしか考えていなかった。
「ぎゅびい゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙!!!」
間合いに入ってきたところでまりさを斬ると同時に跳ね飛ばす。
転げたまりさだが今度はすぐに足を下にして
うどんげを涙一杯の目で睨みつける。
「ざぜな゙い゙い゙い゙い゙い゙!!ざぜな゙い゙い゙い゙い゙い゙!!!
でい゙ぶどお゙ぢびばばり゙ざがばも゙る゙ゔゔゔゔゔゔ!!!」
まりさはその生涯最も激しい情念をもってうどんげと対峙する。
しかし、紅の瞳に揺らぎは全く無かった。
むしろ、この程度ではもの足りぬと言いたげな辟易さがにじみ出るように目が細められた。
「ばりざば!ばりざばあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
うどんげはジャリっと左足を大きく引き、半身に構えた。
刀は左手で持ち、刃を水平に保ち、右手は切っ先に添える。片手平突きの構えだ。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
まりさの思考はグチャグチャだろう。
少しその場で絶叫し続ける。
仮にこのまま生き延びようとも、今後まともな生活は送れそうに無かった。
「あ゙あ゙あ゙!!!ゆ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
まりさの体の半分から下がぐにゃりと歪んだ。
それに合わせてうどんげも踏み切る軸足に力を込める。
「じね゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!!」
『っ!!』
まりさが叫ぶと同時に地面から身体を浮かせた。
それにほんの僅か遅れる形で声にならない息を吐いてうどんげがスタートを切った。
しかし、激突はどの道同時だ。
(…!)
まりさとの距離が最適になったその時。
その一瞬にうどんげは刀をも自らの腕と化し、拳を叩き込むつもりでまりさに突き立てた。
「ぶっ………!!!!」
突き出された刀はまりさの中枢餡を傷つけないように
それでいて衝撃が伝わるギリギリの位置を貫いた。
突くのでは切り込むのとは全く違う。
抵抗が最小になる突きならば軽く数十cmは突き刺さるのだ。
刀は柄を持つ手に当たるまで貫通。
さらにうどんげは衝突の衝撃が収まり
その反作用が働いたその瞬間を見逃さず、左手を引いて刀を引き抜いた。
加えてその引き抜いた勢いをそのままに身体を左回転させ
後ろ回し蹴りをまりさのこめかみに叩き込む。
「………げぇ!!!!!!!!」
その刹那の三連動作にゆっくりの反応が追いつくはずが無く、まりさの絶叫は一回。
まりさは今度こそ餡子を散らしながら吹き飛んだ。
ドサっとまりさが地面に当たって止まる。
吹き飛んだのは確かだが、それほどの飛距離は出ていなかった。
何故なら、まりさのこめかみは衝撃に耐え切れず左目ごと消失していたからだ。
うどんげとは距離にして約50cm。
「がっ………ぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
ビタンビタンとその場でのたうち始めた。
既に残った右目にうどんげが映りこむ余裕は無い。
「あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
刀は中枢餡のすぐそばを掠め、僅かだが空洞を作った。
曲がりなりにも弾力性のあるゆっくりの身体の餡子はその空洞を利用して流動する。
さらにのた打ち回ることで中身がグチャグチャにかき回され
中枢餡に刺激を伴い、激痛を発生させる。
言うなれば過度のストレスで中枢餡を締め付ける『非ゆっくり症』が擬似的に再現されるのである。
加えて、あくまで傷のついていない中枢餡はわずかばかりの思考をする余裕が残る。
死ぬまでその激痛と絶望をかみ締め続けなければならない。
こうなってしまってはもう何をやってもこのまりさは助かるまい。
少なくともあと一時間はこのままのた打ち回り続け、苦痛と絶望の果てに死に至るだろう。
ここまで確認したうどんげはまりさから興味を失ったかのように
まるで何事も無かったかのように、まりさの横を通り過ぎていった。
事実、あまりにありきたりな反応にうどんげの心は全く揺れ動かなかったのだ。
うどんげにとっては何も起こらなかったに等しい。
ヒュン、と刀を軽く振って刃についた餡子を振り払い、鞘に収めた。
真っ黒な死神は、今だ苦痛に絶叫し続けるまりさだけをその場に残して去っていった。
――――同日、午前9時、ゆっくりの集落入り口――――
「ゆ゙っ………!?」
黒いアーマーに身を包んだうどんげがゆっくり達の住処が集う集落を訪れると
入り口付近で遊びに興じていた母親らしきれいむと二匹の子ゆっくりの目に留まった。
うどんげを認識した両者は全く対照的な反応を見せる。
「ゆんやああああああああ!!!
『あくま』がきたああああああああ!!!!」
「ゆゆ?おかーさんなにいってるの?」
「くんくん……あまあまのにおいがするよ!」
これまで度々行われた凶行を知っていた親れいむは真っ黒な存在を『あくま』と呼び
子供達はうどんげの体からオレンジジュースの残り香を嗅ぎ取って
これから手に入るであろうと信じて疑わないあまあまに思いをはせた。
「おちびちゃん!!こいつはゆっくりできないやつだよ!!
はやくおかーさんのおくちのなかにはいってね!!」
口を大きく開けて、舌をスロープのように地面に這わせる親れいむを見ても
子供達は全く危機感を持ち合わせていなかった。
「なにいってるの!はやくかわいいれいむにあまあまちょうだいね!」
「まりさにもちょうだいね!たくさんでいいよ!」
「ぞんなごどいっでるばあいじゃないでしょおおおおおお!!??」
親れいむは暢気なことを言っている子供達に苛立ちすら覚えているが
見たことも聞いたこともない存在に対して危機感を持てと言うのは酷な話だ。
自分が知っていることは他の者も知っていると思い込むのは
人間でもゆっくりでも厄介な問題だった。
「ゆゆ~?あんただれ?」
ついにはまりさが好奇心に後を押されうどんげに興味を示した。
『あんた』と言うあたりうどんげがゆっくりだと思っていないとみえる。
「おちびちゃあああああああん!!!
だめだよおおおおおおおおおおお!!!
ゆっぐりでぎなぐざれぢゃうよおおおおおおおおお!!!!」
れいむが余りに騒ぎ続けたせいで他のゆっくり達が集まってくる。
しかしそれを見ても先ほどからうどんげはただ立っているだけであった。
「なんなんだぜええええ!!??」
「ごわいよおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「どぼじでごんなごどずるのおおおおおおお!!??」
「もうおうぢがえるううううううううう!!!!」
うどんげに気付いたそばから絶叫し、逃げて行くゆっくり達。
わざわざ寄ってきてから逃げるあたり、ゆっくりの阿呆さが知れる。
しかもまだ何もしていないのに『こんなことをする』と言うのも理不尽の一言に尽きる。
まあ、そのことに関してだけはこれから行われる『狩り』を考えれば同情の余地があるが。
『さあ、そろそろ始めましょうか。
逃げたいのなら逃げても構わないけどね』
「ゆやああああああああああ!!!!」
「やじゃああああああああああああ!!!!」
「こっちこないでねええええええ!!!」
「わがらないよおおおおおおお!!!」
うどんげが刀を抜き放ちそう宣言すると
叫び声を上げながら主にうどんげの危険性を認識している成体ゆっくりがこぞって逃げ始めた。
件のれいむを除いて。
「おぢびぢゃんはでいぶがばぼるよおおおおおおおお!!!!」
「ゆ?ゆゆぅ!?」
親れいむは啖呵を切ってうどんげに突進する。
子供達は周りの狂騒に付いていけずただオロオロするばかり。
「ゆべ!」
うどんげは体当たりを仕掛けてきたれいむをサッとかわす。
勢い余って地面にちゅっちゅしてしまった。
両者の動作速度には雲泥の差がある。
れいむは百回攻撃したところで百回避けられるだけだろう。
『おちびちゃんを守る、ね。だったら守ってみせなさい』
そう言いつつ、うどんげはうずくまる親れいむを放って子れいむを斬り付けた。
「いじゃあああああああああああああ!!!!」
「おでえぢゃあああああん!!??」
成体ゆっくりの直径は30cm程度だがこの子ゆっくりは半分の15cm程だ。
赤ゆっくりというほど小さくは無いが、一人立ちもしておらず
『おちびちゃん』に他ならなかった。
「…………ゆ?ゆんやあああああああああああ!!!
どぼじでおぢびぢゃんがげがじでるのおおおおおおおお!!??」
体勢復帰した親れいむが子を見やると切りつけられたその頬が目に入った。
すぐに傷口をぺーろぺーろしてあげようと駆け寄ろうとしたその時
『邪魔よ』
「ゆっ!?ゆわっ…!ぶぅ!!」
うどんげは親れいむの髪を掴み、ハンマー投げの要領で半回転して子供二匹から引き離した。
「いだいよおおおお!!!いだいよおおおおおおお!!!
おがーざああああああああん!!!べーろべーろじでええええええええ!!!」
「おねーじゃん!!おでーじゃん!!ゆっぐりじで!!ゆっぐりじでねえええええ!!」
両親と姉の庇護の下に育った妹のまりさは
他者をゆっくりさせるために力を尽くすことをまだ知らない。
早く言えば姉をぺーろぺーろしていたわるような真似ができず
ただゆっくりして、と繰り返すばかりだった。
うどんげは寄り添っている二匹のうち、今度は妹の子まりさの髪を掴んで掲げる。
「ゆ…ゆやあぁぁぁ………やめてね、かわいいまりさにいたいいたいしないでね?」
子まりさは涙を流し、しーしーを漏らしながらがたがた震える。
うどんげはそんな言葉に構うことなく、子まりさの底面、つまり足に刃を突きたてた。
「ゆっ…ぎっ……ゆぎゃあああああああああああ!!!!」
まりさの絶叫。
足に刺さった刃をそのままひねり切りこみを深くしていく。
皮を小さく直径2cm円を描くように切り抜くと、そのまま手を離した。
「ゆがあああああああああああ!!!!
ばりざのしゅんっそくっのあんよざんがああああああああああ!!!!
ぼうおうぢがえるううううううううう!!!」
子まりさは逃げるようにずーりずーりを始める。
しかしその歩みはきわめて遅く、左右にフラフラとして方向が定まらない。
右へ傾いたかと思えばそのすぐ後に左へ行き過ぎたり、完全に平衡感覚を失っていた。
加えて底部には穴が開いており、移動するたびに内臓である餡子を地面の凹凸に引っ掻き回される。
「いだい!!いだいいいいいい!!なにごれええええええ!!!
まりざのあんござんいだいよおおおおおおおおおおおお!!!」
もっとも子まりさは状況を掴めておらず、訳のわからない痛みに翻弄されるだけであった。
それも痛みに耐え切れなくなってすぐに動くのをやめたため、少しの間の出来事なのだが。
「おぢびぢゃあああん!!
どぼじでごんなごどずるのおおおおおおおお!!??」
ようやく戻ってきた親れいむが子供達の惨状を見て抗議の声を上げた。
うどんげにその声こそ聞こえているものの、内容に耳を傾ける気はまったく無かった。
「おぢびはでいぶがまもるんだああああああ!!!」
れいむは全く代わり映えの無い体当たりを敢行。
行動に変化がなければ、結果に変化が無いのは道理。
「ゆげ!!」
対象にぶつかると思っていたその勢いは収まらず、地面と衝突。
うどんげはそれを感情の伴わない目で見ていた。
「ゆぎゃああああああああああああ!!!
おもにおがおがいだいいいいいいいい!!!」
どうやら激突した地点に尖った小石があったようだ。
親れいむは顔の中心、人間なら鼻のある部分をへこまして転がっていた。
ビタンビタンと左右に振れる姿に親らしさなどなく
その反応は完全に子ゆっくりのそれであった。
「ゆぎぃぃ……いだい、いじゃいよおおぉぉ……」
最初に頬を斬られた子れいむは比較的大人しくなっていた。
軽傷というだけでなく、痛みと負傷を自覚して冷静になったのかもしれない。
「ゆ……ゆうう?やべでね、ぼういだいいだいしないでね?
いっしょにゆっくりしようね?」
涙目でずりずりと後ずさりながら勇気を振り絞って話を試みる。
うどんげはそんな子れいむに向かって一歩一歩近づいてゆく。
「しょ、しょうだ!れいむのおうたでゆっくりしてね!?
ゆーゆゆ、ゆーゆー!!」
身体を揺らし、もみ上げをバタバタ上下させながらゆーゆー言い始める。
無論、そんなものが見逃す理由になるはずが無い。
何よりいつものデタラメなメロディさえないそれは
単に歌詞を叫んでいるような物で
うどんげは元より、子れいむ自身が全くゆっくりしていなかった。
ビュッ「ゆわっ!!」 ヒュンッ「ゆゆっ!!?」
子れいむの真横を縦に刀が通り過ぎていった。左右両方一回ずつだ。
一撃目に驚いた子れいむは目を閉じて固まった。
「……ゆ??」
いつまで経っても襲ってこない痛みにれいむはおそるおそる目を開く。
「れいむ、いたいいたいしてないよ?
ゆっくり?ゆっくりしてるよ!?」
目の前の黒い何かは黙って自分を見下ろしていた。
ゆっくり出来る雰囲気はなかったが、痛みが来ないことから害意が無いと思ったようで
「ゆっくり!ゆっくりできるね!
ゆっくりしていってね!!!」
子れいむにとっての最高位の挨拶をした。
可愛いれいむがゆっくりした挨拶をしたのだ。
そう思いながらぴょんぴょん跳ね、もみあげをピコピコさせ――――
「ゆ?ゆ??ゆゆゆ???れいむのもみあげしゃん???
もみあげしゃんは???」
頬より後ろにあるもみあげは上下に揺らす時だけ自分の視界の端に映るはず。
いや、それ以前に動かせば側頭部に当たる感触があるはず。
そんな風にぼんやり考えてから自分の足元に目を向けると
「ゆんやあああああああああ!!!
れいむのもみあげしゃんがあああああああああああ!!!」
すぐそばに落ちていた赤いリボンで束ねられた二つの髪束。
胴無しゆっくりの腕とも言える、それ以上にチャームポイントと考えていたもみ上げを失ったという
ショックと喪失感は大きく、子れいむはその場で泣き叫んだ。
「ぺーろぺーろ!ぺーろぺーろ!もみあげしゃんなおってね!
ゆっくりしないでなおってね!!!」
ぺーろぺーろは外皮の刺し傷、切り傷ならば多少の効果がある。
が、バッサリ切断されたもみ上げを舐めたところで、コロコロと転がるだけである。
「どぼじでなおらないのおおおおおおおおお!!!
れいむおごるよおおおおおおおお!!!ぷきゅうううううううううう!!!」
無生物に話しかけるのはゆっくりの悪い癖である。
うどんげと、三者三様に泣き喚く母子。
そんな処刑場には他にも動くものがいた。
「ゆひっ……!!!」
「やめてね!!こっちこないでね!!」
うどんげが少し離れた木の影に目を向けると
そこから覗いていた複数のゆっくりが慌てて引っ込む。
「『あくま』………!」
「『あくま』だよ…………!!!」
「ゆっくりの『あくま』だよ!!!」
遠巻きに見ている集落のゆっくりは二桁をゆうに超えていた。
皆口々にうどんげを『悪魔』と呼ぶ。
頭部で自己主張をする二本の長い耳がうどんげの『おかざり』としてゆっくりたらしめていたが
真っ黒でメタリックなその身体は生物的な温かみなど無く
中には先の子れいむのようにゆっくりだと思わない者もいた。
「『あくま』はゆっくりしね!!」
「ありすたちのむれからでてってね!!」
「ここはゆっくりしたゆっくりだけのゆっくりぷれいすだよ!!」
最初の数匹をきっかけにうどんげに罵声を浴びせ始める。
うどんげに近づかないまでも、集落のゆっくりがこうも強気に出られるのには理由がある。
何のことは無い。うどんげは毎回手近な数匹にしか手を出さず
手当たり次第に攻撃するようなことが無いからだ。
「でい゙ぶを゙だずげろ゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!」
大きくなってきた罵声を止めたのは襲われた親れいむの絶叫、いや咆哮だった。
「がわ゙い゙い゙でい゙ぶを゙だずげろ゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!
がわ゙い゙い゙お゙ぢびを゙だずげろ゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!
あ゙ぐま゙を゙ごろ゙ぜ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!!!」
罵声よりも遥かに大きな声量でれいむは叫ぶ。
親れいむは顔を多少へこませただけだ。
動きの取れない子まりさや、心理的ショックの大きい子れいむに比べて遥かに元気だった。
「な゙に゙や゙っでる゙ゔゔゔゔゔゔゔゔ!!!!
はや゙ぐじろ゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!」
自分は負傷者で被害者だ、としか考えないれいむは群れのゆっくり達に助けを求める。
或いは全員でかかれば、という淡い期待も無くはない。
ひとしきり叫んだ後ぜーぜー言いながら起き上がり、隠れているゆっくりを見た。
「ゆっ…………」
「………………」
好き勝手にまくし立てていた周りのゆっくり達は少し押し黙った後、今度は小声で囁き合う。
「と、とかいはなありすはたたかったりしないわ……」
「れいむはゆっくりにげるよ…そろーりそろーり……」
「みゃみゃ、きょわいよぉぉ……」
「どゔじだあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!
はや゙ぐじろ゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!」
二度目の叫び。しかし先ほどとは違い、まわりの反応は若干冷ややかである。
「どうしてれいむが……」
「もとはといえば、あのおちびが……」
ある種、当然の反応であった。
ゆっくりにとって台風や竜巻を相手にすることに匹敵する無謀な戦いを
我が身可愛さありきのゆっくり達には望むべくも無かった。
「ゆふー!ゆふー!せめて、せめておちびちゃんだげでもおおおおおおおお!!!」
救援が絶望的と判断した親れいむは、横にあった木の枝をくわえた。
武器の使用は初めてな上、まりさやみょんの猿真似だが無いよりはいいと考えた。
そして、鬼の形相でうどんげに向き直る。
今のれいむは自らの命を投げ出して戦う修羅であり
子供を守るという目的を持った母親の理想像でもあった。
「ふー!ふー!おちびちゃん!れいむがこの『あくま』とたたかってるあいだに
ゆっくりしないでにげてね!!!」
「ゆぅ……?おかーしゃん……?」
えぐえぐとしゃくり上げていた子供二匹が母の鋭い呼びかけに反応する。
「でもぉ!でもぉ!れいむのもみあげさんがあ!!!」
「まりちゃのあんよさん、うごいてくれないのおおおお!!!」
「わがままいわないでね!!にげるのはいましかないよ!!
いまにげないと『あくま』にえいえんにゆっくりさせられちゃうよ!!
ゆっくりりかいしてね!!」
「ゆんやああああああああ!!!」
「どぼじでぞんなごどいうのおおおおおおおお!!??」
「だまってね!!れいむのおちびちゃんはつよいこだよ!!
れいむはおとーさんににたまりさのしゅんっそくっも
れいむのかんっぺきっなおうたさんもしんじてるよ!!
れいむはおちびちゃんがだいすきだから
おちびちゃんにここでしんでほしくないよ!!」
「おかーしゃん……」
「……………」
普段なら聞く耳持たないであろうその言葉を、母の必死の形相と口調から
子供達は確かに受け止めた。
若干の矛盾や状況に合わない言動はゆっくり故の仕様である。
「わかったよおかーしゃん!まりちゃ、ゆっくりするよ!!」
「れいむもがんばるよ!!」
「おちびちゃん!ゆっくりしていってねええええええええ!!!!」
ゆっくりの最も基本的な台詞で会話は締めくくられた。
その言葉と共に繰り出された体当たり。
木の枝をくわえたそれを食らえばいくら『あくま』でも、と
信じて疑わないれいむは全力で立ち向かった。
「ぎゅべ!!」
しかし、この茶番劇の魔法はもう切れていた。
二度あることは三度ある。
結局れいむは、先の二回と全く同じ要領で回避され
地面に激突しただけであった。
いや、状況はなお悪い。
くわえられていた木の枝が地面に突き立てられ、逆にれいむの右頬を貫通したのだ。
「いじゃ、いじゃあああああいいいいいいいいいい!!!」
凹みとは全く桁の違う激痛に襲われ、左右にジタバタともがいた。
「でいぶのがわいいがわいいおがおがあああああああ!!!
ばりざがぎれいぎれいじでぐれだのにいいいいいいい!!!」
修羅の決意はどこへやら。
れいむが集落のゆっくりに呼びかけてからこちら
うどんげは一切何もしていない。
ただ、横にひょいと移動しただけ。
それだけでこの間、これだけの茶番劇が繰り広げられたのだった。
『……………』
が、その茶番劇はここまでのようだ。
これからは惨劇の幕が上がる。
「ゆ………びぃぃぃぃいいいいい!!!」
ズブリ、とうどんげが親れいむに刺さっていた小枝を引き抜いた。
「いじゃいいじゃいよおおおおおお!!!」
傷口が開きすぎないように留意していた上に、実際重傷と呼べるダメージでもない。
これは単にれいむが騒ぎ過ぎなだけである。
それでも『木の枝が刺さっている状態』を脱したためか、うどんげに目を向ける余裕が出来た。
「よぐも、よぐぼおおおおおおおおおお!!!
おぢびぢゃんだげはぜっだいやらぜないいいいいいいいい!!!」
「れいむはここでしんでいいゆっくりじゃないよ!!そろーりそろーり!!」
「ゆぎぃ……ゆぎぃ……」
子供二匹は今だ逃げ続けていた。
しかし子れいむはともかく、足に相当な深手を負っているまりさの歩みは
とても逃げると呼べるレベルではない。
「でいぶはじんでおぢびぢゃんだげは――――」
「ぐぎゅ!!!」
親れいむの台詞が途切れる。
うどんげはゆっくり特有の長い御託に付き合わず
逃げようと這いずっていたまりさの頭を軽く斬りつけた。
「ゆ゙っ……ぎゃああああああああああああ!!!!」
「おぢびぢゃあああああああああん!!!」
足の痛みに慣れつつあったまりさだが
帽子のつばの下、右側面の髪の毛の生え際辺りを斬られたことで
なおも続く元気な悲鳴を上げていた。
「いじゃいいいいい!!!ぼうやだ!!ぼうやだ!!
ぼういじゃいのやだああああああああ!!!」
「どぼじでおぢびぢゃんをいじべるのおおおおおお!!!???」
親からかりそめの希望を与えられ、逃走を図っていた子まりさだが
その努力もあっさりと追いついてきたうどんげによって潰された。
そんな様子に、大分先へと移動していた子れいむが振り返った。
「まりちゃああああ!!!
れいむのかわいいいもーとがああああああ!!!」
「おぢびぢゃんどまっぢゃだめええええええええ!!!」
「ゆびえやぁ!!!」
親れいむの叫びが間に合うはずも無く、いやたとえ止まらなかったとしても
変わらない結果が子れいむを襲った。
「い゙………え゙………え゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙………!!!」
「おちびちゃんのすてきなおうたをうたうおくちがあああああ!!!!」
子れいむは口の端を頬めがけて斬り込まれた。
今や子れいむの口は1.5倍近くまで広がっている。
「え゙あ゙あ゙あ゙………い゙え゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙…………!!!」
「おぢびぢゃあああああん!!!
いまべーろべーろじであげるがらねえええええええ!!!」
親れいむは当面の敵のことすら忘れて子れいむに駆け寄った。
しかし、そのすぐ横を黒い影が通り過ぎてゆく。
「ゆっ!?」
「ぎゃあああああああああああああ!!!!」
親れいむが振り返るのと悲鳴は同時。
刀が子まりさの眉間を貫き、中枢餡を掠めていた。
「まりさあああああああああ!!!」
「ぎゅびえやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「でいぶ!?でいぶうううううううううう!!!!」
いちいち上げる悲鳴がうどんげの動きについてこられない。
今度は同様に子れいむの中枢餡のすぐそばが貫かれていた。
「ゔ……あ゙………あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙………」
「があ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
二匹は擬似的な『非ゆっくり症』状態にされ、その激痛に
子まりさは絶叫し、子れいむは呻き声を上げた。
そして、親れいむは
「――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!」
筆舌に尽くしがたい声を上げて慟哭した。
――――同日、午前10時、ゆっくりの集落――――
しばしその状態が続いたが子供が呻き声すら上げられなくなった頃
親れいむが動いた。
「……………っ!!!!」
ゆらり、と振り返った。
うどんげにこれ以上無い程の眼光と殺意を向ける。
その目は、復讐者のそれであった。
『…いい殺気ね』
それだけの殺意を向けられ、うどんげの右目にほんの一瞬、僅かばかりの光が宿る。
うどんげはれいむの眼光に、自分と同じものを見たような気がする。
先程の子供を守るという覚悟とは比較にならない。
――――今度こそ親れいむは、本当の修羅になったのだ。
うどんげとれいむが対峙する。
『……………』
うどんげが刀を正眼に構える。
彼女なりの敬意を表して、れいむと相対する。
「……………」
れいむに構えは無い。
もともと胴無しゆっくりに出来る動作などたかが知れいている。
ただ正面から全力で激突するのみ。
長い沈黙が一帯を支配する。
傍観者を決め込む集落のゆっくりさえ、固唾を呑んで両者を見続けていた。
「………っ!!!あああああああああああああああああ!!!!!」
『………!』
ただ一介のゆっくりと、漆黒の悪魔が激突する。
『…………………』
「………………がはっ!!」
勝負は一瞬。
お互いの間に、覚悟や信念といった心理的な差はそれほど無かったのかもしれない。
しかし実力の方はそうもいかない。
うどんげの手の刀は、れいむの中枢餡を正確に刺し貫いている。
――――自分自身の最後の瞬間に、れいむは正気に戻っていた。
至近距離で向き合うれいむにうどんげは冷たい目を向けている。
(ゆうう……!!??なんなの!?なんなの!?ゆっくりできないよ!?
ゆっくりしてないよ!?『ゆっくりしたくない』の!?)
れいむは正面からその紅い瞳を見た。
その目は全くゆっくりしていない。
それ以前に、ゆっくりしたいという輝き、欲望すらも宿していなかった。
集落を断続的に地獄に陥れ、れいむの子までなぶり殺しにした。
それだけの凶行を働いたにもかかわらず、その瞳は何一つ満足していなかった。
そしてその疑問の後に、走馬灯を見る。
赤ゆっくりの自分がいた。
独り立ちした自分がいた。
まりさと結ばれた自分がいた。
子宝に恵まれた自分がいた。
悪魔に怯える自分がいた。
そして――――『悪魔をなぶりものにしている自分がいた』
見たことのない記憶に疑問を持つ時間はなく、れいむの意識はそこで途切れる。
………………
…………
……
うどんげは、一度殺してしまった者に興味を持つことは無い。
今しがた自分が殺したれいむも刀を引き抜くと
あっさりとその場に打ち捨てて傍観者達に背を向けた。
「ゆっくっ……!」
ゆっくりしね、という言葉が出かかって止まった。
ゆっくりならば背を向けて去っていく相手を自分から逃げたと都合よく解釈するものだが
うどんげは十回を超える回数この集落を訪れいている。
最初は皆して片っ端から襲い掛かったりもした。抗議をしたりもした。
背を向けたうどんげに奇襲を仕掛けようとしたりもした。
そして、その全てがまったくの徒労、ないしは無駄死にに終わった。
しかしうどんげの襲撃のパターンに、唯一群れの長が気がついた。
襲われるのは最初に捕まった一匹、或いはその親類縁者のみ。その後は大人しく帰る。
一部始終を黙って見ていれば、被害は最小限ですむ。
去っていく今は、もう誰も襲われる心配が無い。
下手に刺激しないほうが身のためであった。
漆黒の悪魔――――うどんげは、一度も振り返ることなく集落を去っていった。
続く