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anko3880 都会の自然公園 子ありすの選択 前編
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『都会の自然公園 子ありすの選択 前編』 39KB
いじめ 観察 自業自得 仲違い 追放 群れ 飼いゆ 野良ゆ 子ゆ 自然界 独自設定 リハビリ
「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!」
のどかな昼下がり。
某都内にある巨大な自然公園にて、出会い頭にお決まり挨拶をする二匹のゆっくりがいた。
挨拶をした二匹のゆっくりはいたって健康体なまんまるの身体つきであり、そしてなによりも二匹とも笑顔満面のゆっくりとした挨拶である。
それは日々の生活に何の問題も無いことを一目で窺わせるものであった。
そして当たり前のことだが、そのままお互いに罵ることもなく体当たりすることもなくすれ違い、ポヨンポヨンて軽快に跳ねていく。
実にすこやかで健康的であり、とてもゆっくりしたゆっくりたちであった。
だがちょっと待ってほしい。
ここは某『都内』にある自然公園なのである。
つまりはここは街中に存在している領域ということであり、その場所はもしかしなくても人間のテリトリー内ということだ。
そして当然人間のテリトリー内を根城にしているこのゆっくりたちは、野生のゆっくりなどではなく野良ゆっくりという扱いになる。
一般的に連想される野良ゆっくりのイメージとは、不健康で薄汚れており、たとえ仲間内であっても餌を取り合うような殺伐とした雰囲気を漂わせ、
昼はじっと巣の中で人間に見つからないように息を潜め、早朝と深夜にゴミをあさりにズリズリと街を這い回る薄気味悪い存在。
と、まあこんな感じではなかろうか。
実際にはこれほど酷くは無いのだが、現状は当たらずとも遠からずといった感じで、基本的には野良ゆっくりというだけで悲壮であることは間違いない。
だというのに、今挨拶した二匹のゆっくりは実にゆっくりしている。
野良ゆっくりのくせに、こんなにもゆっくりがゆっくりしているなどということがありうるのだろうか?
それが残念ながらあるのだ。
そしてその訳はこの自然公園の由来に起因する。
日々近代化が進む街中、次々と建てられる巨大なビル群。
以前は所々に見られた森林地帯も今は全て切り倒され、マンションやデパートに取って代わられている。
そんなお決まりの発展をとげる最中、街の人々はふと思い出したように主張し出すのだ。
自然がほしい、森林伐採をやめろ、もっと緑を、環境にやさしい街づくりを!
そしてそんな市民の要請を受けた市もまた「よしわかった!」とこれまたお決まりの対応を取ることになる。
すなわち街のシンボルとなる自然公園の建設であった。
ちなみに、こんな自然公園なんぞ作ったところで地球環境全体には蚊ほどの影響も無い。
しかしそんな科学的事実はどうでもよいことなのだ。
大事なのは市が、市民の要求に答えるべく行動したというポーズであり、
そしてその結果として建設された、この自然公園の存在に市民がそれなりに満足しているということだ。
さて、そんな行き当たりばったりのノリで作られたこの自然公園であるが、その園内はなるべく自然に近くをテーマとしており、
外側を最低限の舗装がされている以外は、殆ど手付かずの森林そのままの形態であった。
流石にクマやら狸やらの大型動物などは存在しないものの、少し園内にある森エリアに足を踏み入れれば、もうそこは普通の森とそう大差ない造りである。
まさに手付かずの自然をそのまま持ってきたような様子である。
さながら街中に出現した巨大な森林地帯。
しかもその場所には凶暴な大型動物が存在しないのだ。
街の薄汚れた日の当たらない裏路地にひっそりと生息してたゆっくりたちは、これほどの好条件のゆっくりプレイスを見逃すはずもなく、
これ幸いへとこの公園の森林部に押し寄せた。
そして当然の流れとしてこの場所はその地域の野良ゆっくりのかっこうの住処となることとなる。
さらにゆっくりたちにとってなお幸運だったのは、この場所が自然そのままをテーマに作られた場所だということだ。
もしこの場所が通常の公園だったとすれば、ゆっくりたちが大量に住み着いた時点で一斉駆除確実である。
だがしかし、ここは「自然」公園なのだ。
自然界の山や森にゆっくりがいるのはある意味で当然であるということで、人間に対して粗相さえしなければ、
超例外的にゆっくりはとりあえずはその生存が許されているのだ。
かくしてこの地域のゆっくりは、都会にすむ野良という立場にありながら、
野生のゆっくりとほぼ同様かそれ以上のゆっくりプレイスをゆっくりは手に入れるにいたったのである。
おそらくこれほどの超優良ゆっくりプレイスは全国探してもここくらいしかないであろう。
それくらいこの場所は特別なのである。
だがしかし!
そんな恵まれた環境であるにも関わらず、現状に不満を感じている愚かな一匹のゆっくりがいた。
「ふぅ、たいくつね……」
自然公園内の森の奥の方にあるゆっくりたちのテリトリーにて、
半ばまで地面に埋め込まれたダンボール箱のおうちから外を眺めながら、とある一匹の子ありすはもう何度目になるかわからないため息をついた。
子ありすは、今は両親が狩りに行っているところを留守番中の所であるようだ。
さて、この子ありすだが、園内の森のゆっくりの群れにおいて長的な立場であるぱちゅりーとありすの子的立場である。
そして不満を感じていると言ったが、別段この子ありすは餌が食べられなくてひもじい思いをしているとか、
両親に虐待されているとかそういった目に見えるような明確な不満があるわけではない。
実際子ありすの身体はいたって健康体であり、その丸々としたボディは野良であることを考えれば非常に恵まれている。
否、恵まれすぎているとすら言えるだろう。
しかし子ありすは常に思うのだ。
何かがずれているのではないか?
この場所は自分には相応しくないのではないか?
こんな平凡な毎日をただ過ごすだけではなく、もっとなにか別のすばらしい『とかいはな』出来事が自分を取り巻いてしかるべきではないのか?
そんな考えが子ありすの頭の中を日々満たし、それがため息となって度々外に吐き出されるのだ。
それは漠然とした不満、満たされない感覚。
何が気に入らないのかわからない。
しかし子ありすは間違いなく現状に不満を覚えていた。
特別でとかいはな存在であるはずの自分が何故こんなにもつまらない日々をおくっているのか?
いつだったか子ありすは、両親である親ぱちゅりーと親ありすにそのことを尋ねたことがある。
しかし両親の答えはどうにも的を得たものではなかった。
親ありすは言った。
「ゆゆ?きゅうにそんなこといいだしてどうしたの?
しんぱいしなくてもだいじょうぶよ!おちびちゃんはじゅうぶんすぎるほどとかいはよ!あんしんしてね!」
(違う違う!そうじゃない!自分が特別でとかいはなゆっくりだなんてことは、もう十分すぎるほどわかってる!
問題はその自分がなぜこんな平凡なところでくすぶっているかということなんだ!)
続いて親ぱちゅりーは言った。
「むきゅ!そうよおちびちゃん!それにわたしたちにはこのとくべつなゆっくりぷれいすがあるのよ!
まいにちきけんなことなく、ゆっくりとくらしていける!
こんなすばらしいことがほかにあるかしら?
(だめだだめだ!なにもわかっちゃいない!
ここが特別なゆっくりプレイスだって?
こんな、なにも素敵なことが起こらないような場所のどこが特別だというのか!
ただ安全に暮らしていけるだけではないか!自分が求めているのはそんな平凡な世界ではないのだ!
自分が求めているのは、もっととかいはな非日常の日々なのだ!自分はその中でヒーローとなり冒険の日々を送るのだ!
それが何だってこんな……)
結局両親との会話は、子ありすに落胆しかもたらさなかった。
自分の両親なのだから、もしかしたらと少しは期待したのがバカだった。
つまりはこいつらも周りの連中と同じような、つまらないゆっくりだったということだ。
やはりずれている。
特別な自分とは違うのだ。
そしてそれ以来子ありすは、この群れのゆっくりたちを見限った。
自分というレベルに見合ったゆっくりはここにはいのだから当然だった。
ああ、どうして自分はこんなつまらない場所にいるのだろうか?
「ふぅ、たいくつね……」
再びため息をついた子ありすは、しかし今度はその場でじっとしてはおらず、ゆっくりとその身をおうちから外へと移動させた。
この場所に住んでいるゆっくりたちがくだらない存在だということは、もういやというほどわかっている。
しかしそれでも何もないよりはわずかにマシだろう。
退屈は毒だ。
いくら特別でとかいはな自分でも、じっとしていればその分ゆっくりとしての純度が下がってしまう。
となれば少しでも気を紛らわすためには、つまらないとわかっていても行動せざるを得ない。
留守番するように言われていたが、どうせこの退屈な群れでは強盗騒ぎなど起こるはずもないのだ。
子ありすはゆっくりらしい緩慢な動きで園内の森へと向かったのだった。
「ゆっくち!ゆっくちー!」
「ゆゆー!まってねー!まってねー!」
「ゆっきゃ!ゆっきゃ!」
子ありすはしばらく進んでいくと、自分と同じぐらいの体格の子ゆっくりたちが追いかけっこをして遊んでいる光景に遭遇した。
これは本来ならば驚くべき光景だった。
何故ならいくら公園内とはいえ、子ゆっくりが親の監視なしに遊びまわっているのだから。
一般的な野良ゆの立場ならば絶対にありえないことである。
それだけで、この場所がいかに特別かがよくわかるというものだ。
しかし、そんなちょっとした奇跡であるこの光景を冷めた目線で流し見る子ありす。
「まったくくだらないわ!まさにいなかもののこういね!」
遊んでいる子ゆっくりたちを一瞥し、吐き捨てるように言う子ありす。
自分はあんなつまらない連中とは違う。
特別な自分が、あんな低俗な連中の輪に加わって遊ぶことなどありえないのだ。
子ありすは他の子ゆっくりたちの集団を素通りし、ペッタンペッタン森の奥から外へと移動していく。
ああ、つまらないつまらない。
何故こんなにも素晴らしいゆっくりがここにいるというのに、とかいはな出来事はありすを迎えにこないのか?
今に、今に、きっと何か素晴らしいとかいはな出来事が自分の身の回りでおきるのに違いないはずなのに。
ここにいるよ!特別なありすはここにいるのよ!
早く!早く迎えに来て!
そんな妄想に浸りながら子ありすはノロノロ森の外へと移動していく。
しかしそんな子ありすに突然緊張が走る。
「っ!」
いる。
何か巨大なものが。
自分のすぐそばに。
「あれは……」
人間だった。
すぐ近くの切り株に人間が座っている。
何も考えずにふらふらと進んできてしまった子ありすは、いつの間にかゆっくりたちのテリトリーを抜け、
比較的人間たちが多くいる園内の外側付近まで来てしまっていたのだ。
幸いなことに子ありすの姿は、森に生い茂っている背の高い雑草に紛れて人間からは見えていないようだったが、
いつ見つかるかもわからない状況だ。
まあこの自然公園には大量のゆっくりが生息していることは人間も知っているはずなので、
見つけられ次第いきなり踏み潰されるという可能性は低いだろう。
とはいえ無用なトラブルを避けるために、人間との接触はなるべく避けたほうがいいというのは当然の話であり、
しかもこのことは公園に住むゆっくりたちにとって最優先で守らねばならない掟の一つでもあった。
無論子ありすも、掟のことは今までに両親に口をすっぱくして言われているため当然知っている。
故に子ありすは人間に見つかっていない今の内に、この場からすぐさま離れるべきなのである。
だがしかし、子ありすはその場から離れずにいた。
何故なら子ありすの視線は人間に、いや正確には人間の膝に乗っている物体に釘付けになっていたからだ。
人間の膝でゆんゆんと寝息を立てている物体。
それは一匹のれいむだった。
そのれいむを見た瞬間、子ありすは思ったのだ。
なんという美ゆっくりであろうか!
さらさらの髪の毛、もちもちとした肌、清潔なおりぼん、そしてそこに縫い付けられた金色に光るバッジ!
その全身からは溢れるゆっくりとした気品のようなものがあり、何もかもがとかいはであり完璧であった。
そして子ありすが感じたそれらの『とかいはなおーら』は、この森に住んでいるほかのゆっくりには決してないものだった。
「あれが……かいゆっくり……」
呆然とつぶやく子ありす。
子ありすは、今までに人間を何度か見たことはあっても、人間と共に生活しているという飼いゆっくりという存在を見るのはこれが初めてだったのだ。
そしてそれを見た瞬間に即座に確信した。
あれだ!あれこそが特別な自分が住むべき世界なのだ。
こんなつまらない場所ではない、真のとかいはなゆっくりが住む世界。
それが飼いゆっくりの世界なのだ!
行こう!
自らが本来あるべき場所へと!
子ありすはふらふらと何かに引き寄せられるように、草むらを抜けてその人間に近づいて行こうとする。
だがそのとき。
「ゆゆ!なにやってるのおおおおおおお!」
「ゆげっぶ!」
突然後ろから乱暴にぐいっと髪の毛を引っ張られ、引き戻される子ありす。
それはさながら夢は夜見ろと言わんばかりの、白昼夢から現実に引き戻されるかのごとくの唐突さだった。
「ここはあぶないよ!あそこに、にんげんさんがいるのがわからないの!
こんなところでひとりであそんでないで、れいむといっしょにむれのちかくまでもどろうね!」
ありすを間一髪で引き戻したのは、一匹の成体れいむであった。
れいむはどうやら子ありすが遊んでいるのに夢中で、人間に気づいていないと思い止めに入ったのだ。
それはつまり人間で言うところの、ボール遊びに夢中になっている子供が道路に飛び出すのを阻止するのと同じような感覚の行為である。
だがしかし子ありすは、バタバタと暴れてそんなれいむの手から逃れようとする。
「はなして!じゃましないで!ありすは!ありすは、にんげんのところにいくの!
ありすのふさわしいせかいにいくのおおおおおおおお!」
「ゆゆ!いったいなにわけのかからないこといってるの!おかあさんからにんげんさんにかかわっちゃいけないって、ちゃんとおそわってないの!
いったいどこのこのなのまったく!」
文句を言いながらじたばたと暴れる子ありすを、無理やり引きずっていくれいむ。
それはさながら車が飛び交う道路に飛び出す子供を、危ないと注意したら、
いいや自分はその車に体当たりをしたいんだと主張されるようなちぐはぐさ。
れいむは呆れたが、だからといってこのまま放っておくわけにもいかない。
「はなしてええええええ!おねがいよおおおおおお!むこうのせかいにいかせてええええええ!
どうして!どうしてみんなありすのじゃまをするのおおおおおおお!
じぶんたちがとくべつじゃないからって、しっとしてええええええええ!」
「ゆふぅ!ちょっとだまっててね!まったくなんなの!こんなにもあたまのわるい、おちびちゃんがこのむれにいたなんてね!」
なおも叫び続ける子ありすに辟易しながらも、れいむはズルズルと子ありすを森の奥にある群れへと引きずっていったのであった。
そして……。
「おちびちゃん!いったいどういうことなの!きょうのひるまに、にんげんさんにちかづこうとしたんだって!」
「むきゅ!いつもいってるでしょ!むれのおきてで、けっしてにんげんさんにじぶんからせっしょくしてはいけないって!
わたしたちのいまのせいかつがあるのは、にんげんさんのおかげなのよ!
そのにんげんさんのきげんを、まんがいちにもそこねたらたいへんなことになるのよ!わかる?」
「…………」
その後、おうちに連れ帰えされた子ありすは、れいむの話を聞いて激怒した両親に説教されていた。
どうしてあんなことをしたのか?
ものすごい剣幕で問い詰める両親に対して子ありすは終始無言だった。
なぜならば何を言ったとことで取るに足らない存在である両親には、特別である自分の考えなど理解できるはずもないからだ。
そもそも群れの掟など、今の子ありすにとってはいかほども重要なことではない。
そんなことよりも今、最優先で子ありすが知らなければならないことは他にあるのだ。
それは、
「ねえ、どうやったらかいゆっくりになれるの?」
「「ゆゆゆゆ!?」」
子ありすの唐突な質問に驚愕の表情を浮かべる両親。
「な、な、な、なにいってるのおおおおおおおおおおお!おちびちゃん、だめだよおおおおおおおお!
かいゆっくりなりたいなんて、ぜったいに、にんげんさんにいったらにだめだよおおおおおおお!
そんなこといって、もしにんげんさんのきげんをそこねるようなことになれば、いちだいじなのよおおおお!」
「むきゅ!そうよ!それに、かいゆっくりなんて、ぜんぜんよくないのよ!あんなのはゆっくりのくずよ!
せまいばしょにとじこめられて、ほかのゆっくりともあそべず、じゆうにおちびちゃんすらつくれない!
あんなのの、どこがいいっていうの!かいゆっくりになりたいなんて、そんなかんがえはすてなさい!いいわね!」
子ありすの飼いゆっくりになりたい発言を聞いた両親はひとしきり驚いたあと、今度は必死になって、
飼いゆっくりになりたいなんて言っていけない、あんなのはろくなもんじゃないとまくし立てた。
ここでの両親たちが語った理屈は、野良のゆっくりから見た飼いゆっくりの悪いイメージそのものであり、若干客観性に欠けているといわざるを得ないものだ。
だがしかし、その理屈は一方方向から見たとき限定とはいえ、ある一定の的を得ていたのもまた事実である。
これがもし他の地域の野良ゆっくりだったとしたら、まだ話は違ったかもしれない。
だがこの群れのゆっくりたちは他の街の野良ゆっくりと違い、ある程度安定した生活をおくることが可能なため、
自分の運命の全てが飼い主の性格や機嫌に委ねられるバクチ要素の高い飼いゆっくりなどに、子ありすがなりたいと言うのを反対するのはある程度理にかなっている。
そして何よりの理由として、うかつにこの群れのゆっくりが飼いゆっくりにしてくれと人間に迫ることで、
公園全体のゆっくりのイメージが悪化してしまってはことなのだ。
そんなわけで子ありすの両親は、なんとしてでも子ありすに飼いゆっくりになりたいという願望を諦めさせたかったのだ。
だが両親の必死の忠告は、かえって子ありすの白けさせる結果となる。
子ありすは思う。
いったいこいつらは何を言っているんだ?
今日見たあの飼いゆっくりが放っていた、とかいはなおーらがわからないのだろうか?
ああ、そうか。
そういえば、そうだった。
あの素晴らしさは特別である自分のようなゆっくりしか、認識できない類のものなのだ。
それを所詮は普通のゆっくりである両親に、理解できるはずもなかったか。
「むきゅ!きいてるの!とにかくもうにどと、かいゆっくりになりたいなんていいださないでちょうだい!
にんげんさんにちかづくのもきんっしよ!わかったわね!」
「………わかったわ」
子ありすは全然わかってはいなかったが、いい加減いつまでも続く両親の小言がうるさいのでとりあえずこう言っておくことにした。
しかしその言葉とは裏腹に、胸の内ではどうやったらここから抜け出し飼いゆっくりになれるか?
ただそれだけが今の子ありすの頭を占めているのであった。
そしてその日の夜、子ありすはある夢をみた。
高い高い天井、広々とした空間、それでいて室温は暑くも寒くも無く快適で、もちろん雨風が入ってくることも無い。
ふかふかのカーペット、ゆっくとした玩具、とってもあまあまなゆっくりフード。
そんな最高のゆっくりプレイスの中心で、すやすやと眠っている一匹のゆっくりまりさ。
そのまりさはにんっしんしており、額からは茎が伸びている。
そしてその茎に実っている赤ゆは何故か一匹のみ。
本来ならば複数の赤ゆが実るはずの植物にんっしんであるにもかかわらず、ただ一匹のみ実っている特別なゆっくり。
そう、この赤ゆこそが子ありすなのだ。
子ありすはこれが夢であると認識しているにも関わらず、ある奇妙な確信を得ていた。
これは自分が生まれる落ちる前の、実ゆだったころの記憶に違いないと。
そしてこのプレイスで眠っている自分の親であるまりさは、間違いなく飼いゆっくりだ。
何故ならば、このまりさは今日の昼見た飼いゆっくりと同じような、とかいはなおーらを漂わせているからだ。
そしてなによりまりさのお帽子には、金色に輝くバッジがキラリと光っているではないか。
やはりそうだった。
わざわざ飼いゆっくりになる方法なんて考える必要なかったのだ。
だって自分は本来ならばあちら側のゆっくり、飼いゆっくりの子なのだから!
特に何かをしなくても、生まれつきその資格を持っているのだ!
……………?
ということはである。
今一緒に暮らしている自分の両親は一体なんだというのだろうか?
いや、それ以前に何故自分はこんな場所にいるのだ?
この夢が示している通りならば、自分の両親の片方はまりさではなくてはならないはずだ。
そして今頃は最高のゆっくりプレイスで、とかいはな生活をおくっているはずである。
だというのに、自分は今この辺鄙な群れで惨めな生活をおくっており、自分の両親を名乗っているゆっくりはぱちゅりーとありす。
これはいったいどういうことなのか?
いや、そんなこと深く考えるまでもないことだ。
つまりは偽り。
あの両親は偽者で本当の親ではないのだ。
(ふん!なるほどね………)
明らかになったこの驚愕の事実に、しかし子ありすは冷静であった。
いや、むしろ逆に合点がいったというべきか。
常日頃からあんなの凡ゆが自分の親のはずがないと思っていた。
これではっきりしたというものだ。
あいつらは自分の味方ではない。
むしろ敵なのだということが。
おそらく群れの長であるぱちゅりーとありすは、特別な存在であるこの自分に嫉妬して、
本来ならば飼いゆっくりの子として生れ落ちるはずだった自分をどうにかして本来の親から強奪し、この辺鄙な場所に閉じ込めているのだ。
そしてそんな自分を秘かに嘲笑い、バカにすることでゆっくりしているのだ。
何という完璧な仮説!
まるで穴が見当たらないではないか。
それはつまりこれが真実ということの証なのだ。
そうとわかれば一刻も早くここから脱出しなけれならない。
何とかしてここから抜け出し、本来の自分の親に再会するのだ。
ああ、何という悲劇なんだろう!
選ばれたとかいはな親と子が、下賎なゆっくりの企みによって離れ離れになってしまうなんて!
しかしこんなことに負ける自分ではない。
高貴で特別なゆっくりは、あらゆる苦難をも跳ね除けるよう、天によって宿命づけられているのだ。
(ありすはここよ!待ってて!きっとすぐにもどるわ!)
夢の中で今だ言葉も交わしたこともない両親との再開を、固く胸に誓う子ありすであった。
次の日。
夢から目覚めた子ありすは、いかにしてこの群れを脱出し、本来の自分の両親の元へ帰還するかを思案するのに尽力することとなる。
そして様々な方法を想定し検討した結果、やはり方法として一番確実なのは、飼いゆっくりを飼っている人間に接触し、
本来の飼い主の所へ連れて行ってもらうというものであった。
選ばれた飼いゆっくりの子である自分が人間の前に姿を現せば、事情を察した人間はすぐさま自分を保護してくれることだろうことは想像に難くない。
飼いゆっくりの奴隷である人間ならば、その程度のことはできてもらわねば困るというものだ。
まあ自分という特別なゆっくりが相手なのだ、いかに愚鈍な人間とはいえ、接触さえしてしまえば万が一にも間違いはあり得ないだろう。
そこは心配すべきところではない。
むしろ問題は人間と接触するまでの話なのである。
そう、この一見完璧とも思えるこの計画には実は大きな問題がある。
それは人間との接触を固く禁じるこの群れの掟の存在だ。
自分が赤ゆの頃から、偽の両親が口をすっぱくして言い続けてきたこの掟。
当時から今の今まで子ありすは、この掟が何のためにあるのかまるで疑問だった。
何故人間に接触してはならないのか?別に人間ごとき、どうということではないではないか?
ただ少々図体がでかいだけのことである。一体何を恐れる必要があるのだろうか?
偽の両親は、この場所でゆっくりできるのは人間のおかげなどといっているが、それはとんだお門違いだ。
このプレイスはゆっくりが作り出したゆっくりのものであり、人間が入り込む余地などない。
事実人間は、ゆっくりを恐れて森の深部にはめったに立ち入ってこないではないか。
あんなゆっくりできない連中を警戒するに値しないのだ。
そんなわけで、長い間この掟の存在意義が疑問だったわけだが、しかし今ならこの掟の意図が理解できる。
それはつまりは、この群れの長やゆっくりたちが真に恐れていたのは人間などではなく、この自分であったということだ。
何かの拍子に自分が人間と接触してしまい、真実が露見してしまうことを恐れたのだ。
今思えばである。
昨日たまたま人間と接触しようとしたときに、突如現れたあのれいむは本当に偶然あそこに居合わせただけだったのだろうか?
いや、恐らくそうではあるまい。
それではあまりにもタイミングが良すぎるというものだ。
つまりはあのれいむは、はじめから自分を監視したいたのだ。
何のために?
もちろん自分と人間の接触を防ぐためである。
そして自分を監視しているのは、多分あのれいむだけではない。
群れの関係者のほぼ全員が自分を見張っていると思ってまず間違いないだろう。
そう、敵は長である仮の両親だけではなかったのだ。
この群れの全体が敵なのだ!
(ふん!やってくれるわね………)
この群れぐるみの壮大な陰謀を前にして、しかし子ありすは冷静であった。
いや、むしろ逆に合点がいったというべきか。
自分という特別なゆっくりを相手ならば、なるほど、これぐらいでなければ帳尻が合わないというのも道理である。
しかし同時に平凡なゆっくりどもが、どんなに集まったところで決して自分という特別なゆっくりを押さえ込むことができないというのもまた道理であるのだ。
切り抜けてやる!絶対にだ!
……………。
だがとはいえ、とりあえず今のところはまだうかつな行動を起こすわけにもいかないだろう。
何故なら下手に動いて、群れのヤツらに『自分がこの群れのゆっくりでないということに気づいている』ということに気づかれてはならないからだ。
今、自分が自由に動きまわれるのは自分が何も知らないと、群れのヤツらに思われているからなのだ。
ヤツらの油断は、自分が何も知らないという前提あってのものということだ。
何も知らない憐れな自分を見ることにより、群れの連中は日々ほくそ笑み、ゆっくりを得ているのだから。
だがもし自分が既に全てを知っていると気づかれたら、ヤツらによってとたんに行動を制限されてしまうだろう。
最悪、強制的な監禁もあり得る。
そうなってしまえばさすがに打つ手がない。
となれば、確実に人間に接触できるようになるまでは静かに機を待つ必要があるだろう。
今は待つときなのだ。
少なくとも行動に移すその瞬間までは。
「とりあえずは、へんにけいかいをつよめないためにも、ふだんはいままでどおりこうどうしたほうがよさそうね……。
でもまっているだけではだめだね!
かいゆっくりをかっているにんげんと、かくじつにせっしょくできるじかんを、めんみつにしらべないといけないわ!」
このように結論付けた子ありすは、その日から毎日のように怪しまれない程度に森の外側の領域に、
すなわち人間の領域の近くまで観察に出かけることが日課となった。
そこでいつ、どのあたりに飼いゆっくりを連れた人間が通りかかるのかを調べるのだ。
毎日毎日場所を変え、草むらで息を殺し、いつ来るか、あるいは本当に来るかすらわからない人間を待ち受ける。
そして時折飼いゆっくりを連れた人間を見かけても、すぐに出て行くようなマネはしない。
何故ならそんなことをすれば、またあのときのように、どこからか見えない場所で自分を監視しているゆっくりによって力ずくで連れ戻されるのがオチだからだ。
自分はまだ子ゆっくり故に、同時に動きだしたのでは監視している生体ゆっくりには力でもスピードでも到底敵わないだろう。
それらのハンデをなくすためには、監視ゆっくりが人間の存在に気づく前に一気に接近しなければならない。
そのために事前に人間が通りかかる時間を完璧に把握しておく必要があるのだ。
それらの作業は酷く地道で、つまらなく、ゆっくりできないものであった。
しかし子ありすはそれをやり遂げた。
彼女はついに森の外れの方の道を、毎回決まった日時に飼いゆっくりを連れた人間が通りかかるという法則を突き止めたのだ。
一緒にいたあの銀色のバッジをつけたちぇんも相当にとかいはなオーラを放っていた。
それなりの格をもったゆっくりとその飼い主に違いないだろう。
これで下準備は万端だ。
後はただ、その日時を静かに待って計画を実行に移すのみであった。
そして数日後。
「ゆふふふふふ!あすよ!あすついに、ありすのすばらしいひびがはじまるのよ!
うほほほほおおおおおおおおお!」
決行の前日になって、計画の成功を夢見てほくそ笑む子ありす。
飼いゆっくりになったらまずはじめに何をしようか?
そんなこと決まってる。
奴隷である人間に命じて、この場所に住むゆっくりたちを一掃してやるのだ。
長い間特別な存在であるこの自分を嘲ってきたその報いを、その身に十分に受けさせるのだ!
それくらい、自分を本来の親から引き離し、惨めな生活をおくらせてきた罪は重い。
万死に値するというものだ。
そして、それがすんだら快適なおうちで思いっきりとかいはな生活を満喫するのだ。
ああ、今から楽しみだ。
きっとあちらの世界では、こんな辺鄙な場所とは違い毎日が充実していることだろう。
自分のようなとかいはなゆっくりならばなおさらだ。
さあ、今日はもう寝よう。
明日は記念すべき日になるのだ。
時間に遅れてしまっては元も子もない。
ああ、とかいは、とかいは………。
んほほほほほほ………。
………………。
…………。
……。
「ゆゆ?おちびちゃんは?」
「もうねちゃったみたい!なんだかずいぶんごきげんだったみたいだけど、なにかいいことでもあったのかしらね?」
その夜、子ありすがにやにやしながら寝静まったおうち内にて、狩から帰ってきた子ありすの両親である親ありすと親ぱちゅりーは深刻な表情で何かを話し合ってた。
「ゆーん!それにしてもなんだかさいきんおちびちゃんのようすがおかしいんだけど、いったいどうしたのかしら?
なんでもむれのみんなのはなしだと、もりのはじのほうでよくすがたをみかけるらしいの!
あそこらへんは、にんげんさんがいてあぶないから、ちかづいちゃだめだって、なんどもいってるのにどうしたのかしら?」
「むきゅ!そうね!たしかにここのところようすがへんよね!
むかしからなにをいっても、あまりいうことをきかないこだったけど、さいきんはとくにそう!
はなしかけても、うわのそらというか………。
ひょとして、いぜんのかいゆっくりになりたいっていったいたことが、なにかかんけいしてるのかもしれないわね!」
以前の出来事を思い出すように、親ぱちゅりーが言う。
「ゆゆ!まさか、あのこがまだかいゆっくりになるのを、あきらめてないっていうの!
でももう、にんげんさんにはちかづかないって、たしかにあのときやくそくしたはずじゃ!」
「そうね!でも、もしかしたらあのときは、こっちにはなしをあわせるために、うそをついていたのかも!」
「そっ、そんな!」
親ぱちゅりーの発言にショックを受けたような親ありす。
親ありすにしてみれば、子ありすの飼いゆっくりになりたい発言は一時の気の迷いのようなものであり、
あのときの説教だけで、この話はとっくに終わったものであるという認識だったのだ。
まさか今だに子ありすが飼いゆっくりを目指しているかもしれないなんて、考えもしなかったことなのである。
「まさかにんげんさんにあうために、もりのそとへいってるっていうの!
もしそれがほんとうだとすれば、これはいちだいじよ!
あのこにといつめて、ぜがひでもしんじつをたしかめないと!」
「まあまあ、まってよありす!そんなにこうふんしないで!」
「でも!」
激するあまり、今にも子ありすを叩き起こし、問い詰めようとする勢いの親ありすをなだめる親ぱちゅりー。
「まだほんとうにあのこが、かいゆっくりになりたいとおもっているかどうかわからないわ!
もしほんとうに、にんげんさんにあうのがもくてきなら、もうとっくにあっているはずだしね!
それに、いきなりといつめたとしても、またしらをきられるだけじゃないかしら?
それではしんじつわわからないわよ!」
「ゆう、じゃあどうすればいいの?」
「まずわたしたちがしなければならないことは、あのこのもくてきをつきとめることよ!
なんでまいにちのように、もりのそとへかよっているのか?
それをしるためにも、とりあえずあしたいちにち、しごとをやすんで、あのこのようすをこっそりかんししてみることにしましょう!
それでもし、なにももんだいなければ、いままでどおりでいいわけだしね!」
「それもそうね、わかったわ!」
親ぱちゅりーの提案に頷く親ありす。
とりあえず明日、子ありすの行動を監視することで様子を見ることにしたようだ。
「むきゅ!それじゃあきょうはもうおそいしねましょうか!
あすはいそがしくなりそうだしね!」
これからの基本方針が決まり、就寝を提案する親ぱちゅりー。
しかし親ありすは、今だうかない顔をしていた。
「……ねぇ、ぱちゅりー!ひょっとしてあのことがばれたんじゃないかしら?」
「むきゅ?」
不意にぼそりと親ありすが何かを口にした。
「あのこは、わたしたちのほんとうのおやじゃないってきづいたんじゃ………。
それできゅうにかいゆっくりだなんて………」
「むきゅ!そこまでよありす!それはいわないやくそくだったはずよ!」
親ありすのぼそぼそとした物言いに対して、
それまでとは変わった厳しい口調で、親ありすをたしなめる親ぱちゅりー。
「ご、ごめんなさい!」
「わかればいいのよ!とにかくそのわだいはぜったいにきんしよ!いいわね!」
それだけ言うと、もう話は終わりだといわんばかりに親ぱちゅりーはおうちの隅のほうで丸くなってしまった。
まるで何かを無理やり切り取ったような傷があるお帽子を深めに被り、目を合わせないようにしている。
本当にもう寝るつもりらしい。
それはこの話題に対するはっきりとした拒絶の表れであった。
「ゆう、そうよね!ばれるはずがないわ……」
わずかな不安を打ち消すように呟くと、親ありすもまた眠りにつくのだった。
次の日。
(ゆふふふふ!きた!きたわよ!ついにこのひがきたのよおおおおおおおおおお!
このありすが、とくべつなゆっくりにもどるひがきたのねえええええええええええ!)
昼ごろになって目を覚ました子ありすは、興奮を抑えきれない様子でおうちを出発した。
目指すは森の外れにあるポイント。
予定通りならそこに太陽が傾き、ちょうど小腹がすいた時間(大体三時ごろ)に飼いゆっくりのちぇんを連れた人間が通りかかるはずだ。
自分は時間丁度にその場所へ着くように移動し、到着したら間髪入れずにその場にいる人間へと接触する。
こうすることで今も自分をどこからか監視しているに違いない群れの連中を、完璧に撒くことができるはずだ。
「とっかいは!とかいはぁぁぁ!とかいはなのぉぉぉぉぉ!」
上機嫌に鼻歌を歌いながら、目的地へと向かう子ありす。
その足取りは軽い。
何故なら自分を邪魔する障害はなにもなく、ただひたすら栄光の未来へと突き進むだけなのだから。
そしてじょじょに近づいてくる予定の場所。
はたしその場所に人間はいた。
いつものように、飼いゆっくりであろうちぇんを連れて森を散歩している。
全て計画通りだった。
ならば迷うことは無い。
子ありすは一瞬の躊躇もすることなく、ガサリ!と雑草を掻き分け人間に向かって跳ねだしたのだった。
「ゆほおおおおおおおおおおお!そこにいるひとおおおおおおおおおお!
ありすのはなしをきいてねええええええええええええええ!」
全速力で跳ねながら、道の先にいる人間へと大声で呼びかける子ありす。
しかし次の瞬間!
「「ゆあああああああああああ!なにやってるのおおおおおおおお!」」
やや後方の草むらから、二匹のゆっくりがありすを追って飛び出してきた。
それは今日一日こっそりと子ありすをつけ回してた親ありすと親ぱちゅりーだった。
尾行対象の子ありすが突然飛び出したと思ったら、その先には人間がいたのだから驚きだ。
二匹とも大慌てで子ありすの愚行を止めようと飛び出したのである。
後方からの突然の追っ手の出現。
しかしそんな状況にあっても子ありすは冷静だった。
いやむしろ余裕すらあった。この状況を何度も想定して計画を立ててきたのだから。
(ゆふん!やはりいたわね!よりにもよって今日は自分の偽の両親直々に監視していたとは!
だが遅い!遅すぎるわよ!ありすのかんっぺきな計画に死角はない!)
後方から聞こえてくる耳慣れた声と、必死に迫ってくる気配を感じながらも子ありすは作戦の成功を確信していた。
自分はここにあらかじめ人間がいることを知っており、到着と同時に人間に向かって飛び出したのだ。
それに対して後方の二匹は、自分を監視しながら行動しているため人間の存在に気づくのはどうしたって自分よりも一手遅くなる。
いくら向こうのほうが身体能力が高いとは言え、この差はいかんともしがたいはずだ。
絶対に奴らが自分を取り押さえるよりも、自分が人間のもとにたどり着くほうが速い。
そして着いてしまえばこちらの勝ちなのだ。
ほら、そんなこと考えてる間にもう自分は人間の足元だ。
勝った!自分はこの群れの邪悪な陰謀に打ち勝ったんだ!
そして自由と素晴らしい日々を手に入れるのだ!
人間の足元に到着した子ありすは、人間を見上げ勢いよく言い放った。
「んほおおおおおおおおおおおおおおおお!
ありすは、かいゆっくりのこなんですううううううううう!
だから、このありすをほんとうのりょうしんのところにつれいくのよおおおおおおおおお!
わかったわねええええええええええええええええ!」
「………………はい?」
その瞬間世界が凍りついた。
人間も子ありすも微動だにしない。
キリッ!と何かを期待する眼差しを向ける子ありす、何がなんだかわからないといった様子の人間。
なんともいえない無言の空間が二人の間に流れていた。
「????????」
子ありすには今の状況が理解できない。
それはまったく想定してなかった光景だった。
何だ?どうして何も起こらない?
何故この人間は、自分を丁重に保護する行動に移らないのだ?
何故この人間は、首を傾げているんだ?
何故この人間は、そんな何を言っているかわからないといった表情をしているんだあああああああああ!
「ゆがあああああああああああああああああああ!なにぼーっとしてるんだこのぐずがあああああああああああ!
ありすはかいゆっくりのこなのよ!とかいはなのよ!さっさとしじにしたがええええええええええええ!
このくずにん………ゆげらびひゃあああああああああああああああ!」
業を煮やして人間を罵ろうしたとき、上からすさまじい圧力が加わり子ありすは悲鳴を上げた。
いつの間にか追いついていた親ありすが、子ありすの上に思い切りのしかかったのだ。
そして同じくその場に追いついた親ぱちゅりーは、その場にいる人間に対して土下座して言い放った。
「もうっっっしわけありっません!
うちのむれのゆっくりが、にんげんさんに、たいっへんなそそうを!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!にどとこんなことがおきないように、きをつけますから、
どうか!どうかいっせいくじょだけはかんべんしてください!
すいません!すいません!」
顔を地面にこすりつけ、ひたすらに人間に対して謝罪する親ぱちゅりー。
親ありすもまた、子ありすを押さえつけながら懸命に頭を下げ、人間に謝罪している。
「ゆが!ゆべべ!ゆぼ!や、やべて!つ、つちゅぶれる!ゆぼほ!」
親ありすが必死にペコペコしている間、子ありすはずっとその下敷きになっていたため、
グリグリと様々な方向に体重がかかり、そのために起こるすさまじい痛みに苦痛の声を上げる子ありす。
しかし親ありすと親ぱちゅりーは、そんな子ありすの様子など完全に無視で、ひたすら人間に許しを請うことのみに尽力していた。
やがて、
「ああ、もう別にいいよ。この程度のことじゃ何もしないからさ。
いこうぜ、ちぇん」
「ゆう!いったいなにがおこったのかわからなくて、びっくりしたよー!」
男は特に気分を害した感じでもなく、飼いゆっくりのちぇんを連れてその場を引き返していった。
どうやらわりと温厚な人間だったようで、危機的状況は避けられたようだ。
「ありがとうございます!ありがとうございますうううううううう!」
「むっきゅー!あぶなかったわー!」
人間が去っていくのを見て、ほっと一息つく親ありすと親ぱちゅりー。
「ゆっが……まっで!ありずをつれでいげえええええええ!
ありすはかいゆっくりだぞおおおおおおおおおお!」
しかし子ありすは今だ親ありすに踏みつけられながらも、意味不明なことを言い続けていた。
「ゆふん!」
「ゆがべし!」
そんな子ありすを、親ありすは蹴り出すようにして自分の下からはじき出した。
そのままころころと転がっていき、近くの木に激突する子ありす。
「ゆああああああああああ!いだいいいいいいいいいいい!
なんでごとするのおおおおおおおお!このくずどもがああああああああ!」
あまりの痛みに悲鳴を上げる子ありす。
それは今までのん気に何不自由なく暮らしてきた子ありすが味わった、生まれて初めての強烈な苦痛だった。
その理不尽な痛みは激しい怒りとなって、仮の両親への暴言となって飛んでいく。
しかし、
「はあああああああああああああん!それはこっちのせりふだよおおおおおおおおおおお!
そっちこそなんてことしてくれたのおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「むっきゅー!まったくよ!あなたは、じぶんのしたことのいみがわかっているの!
にんげんさんには、ちかづいちゃいけないって、もうなんどもおしえたでしょ!
そればかりか、めいれいくちょうではなしかけるなんて、かんがえられないこういだわ!」
親ありすと親ぱちゅりーの怒りは、子ありすのそれとは比較にならないほど激しかった。
今回はたまたま人間が穏便にすましてくれたからいいものの、もしこれが過激な人間だったならば子ありすはもちろんのこと、
その場にいた自分たちの命もなかった。
いや、それどころか一歩間違えれば群れが消滅していたかもしれない事態なのだ。
この怒り、到底抑えられるものではない。
だが子ありすにとってはそんな両親の怒りの意図など理解できるはずもない。
子ありすにとっては、偽の両親が自分の行動を邪魔し、さらにわけのわからない因縁をつけているようにしか見えないのだ。
そしてこの偽の両親の意味不明な物言いに、ついに子ありすはキレた。
「ゆがああああああ!なにをえらそうにいいいいいいいい!
ほんとうのおやでもないくせにいいいいいいい!どれだけありすのゆっくりをうばえばきがすむのよおおおおおお!
ありすのじゃましないでね!そんなにかいゆっくりのこであるありすのことがうらやましいの!
いいかげん、しっとはみぐるしいわよ!たかがのらゆっくりごときが、さしずしないでちょうだい!」
今までの鬱積したものを吐き出す子ありす。
「なっ、なにをいって!」
「むっ、むきゅきゅ!」
子ありすのセリフに対して驚愕に目を見開く親ありすとおやぱちゅりー。
その様子に気を良くしたのか、さらにまくしたてる子ありす。
「ゆふん!おどろいたようね!
そうよ!ありすは、おまえたちけがらわしいのらどものたくらみなんて、ぜんぶおみとおしだったのよ!
いままでさんざんおやぶって、ありすをばかにして!
こんなのゆるされることじゃないわ!」
「おちびちゃん、いったいなにをいってるの!
そもそもありすたちが、ほんとうのおやじゃないって、いったいどうしてわかったの!」
暴走する子ありすに対して思わず聞き返してしまう親ありす。
そのセリフに対して、鬼の首でも取ったような勝ち誇った表情をする子ありす。
「はあああああああああああああ!ありすはねえ!とくべつな、かいゆっくりなんだよおおおおおおおおおおお!
そんなのわかるにきまってるでしょおおおおおおおおおおお!
おまえらにはねぇ、とかいはなおーらがないんだよおおおおおおおおおおおおお!
とくべつなありすとは、なにもかもがちがうんだよおおおおおおおお!」
「おちびちゃん!それはちがうの!おちびちゃんは………」
「もういいわ!ありす!」
何か言いかけた親ありすを、ピシャリとさえぎる親ぱちゅり!
「おちびちゃん………いいえ!ありす!
あなたはむれのおきてをやぶって、にんげんさんに、にどもちかづいた!
さらにかんぜんなたぶーとされている、にんげんさんにたいするめいれい、およびぼうげんまでやらかした!
どんなりゆうがあるとはいえ、これはゆるされることじゃないわ!
むれのおきてにのっとって、あなたをこのむれからえいっきゅうついほうのけいにしょすわ!」
毅然とした口調で言い放つ親ぱちゅりー。
そう、もはや関係ないのだ。
子ありすが本当に飼いゆっくりの子なのか?本当に親ありすと親ぱちゅりーの子ではないのか?などの話はもはや意味がない。
もうそんなことはどうでもいい。
子ありすは群れの内で、決して犯してはならない罪を犯した。
そこに至るまでの背景などまったく関係ない。
ただその事実のみが全てなのだ。
だから子ありすは群れから追放される。
たとえ長の子であろうとも例外なく。
「ゆきいいいいいいいい!じょうとうよ!むしろせいせいするわ!
いままでさんざんありすを、こんなばしょにとじこめておいて、しんじつがばれたら、でていけですって?
のらゆっくりは、どこまでげせんで、しゅうあくなそんざいなの!
ああ、けがらわしい、たのまれなくったって、こんなばしょでていってやるわ!」
「いいたことはそれだけ?
それじゃあさっさとでていってちょうだい!
もうわたしたちは、おやでもこでもないわ!
もしこんご、このこうえんないで、すがたをみかけるようあことがあれば、そんときはもんどうむようでせいっさいするわ!いいわね!」
「ゆはん!こうかいさせてやるわよ!
ありすが、かいゆっくりにもどったあかつきには、おまえたちぜんいん、じごくのくるしみをあじあわせてから、
えいえんにゆっくりさせてやる!
そのひをたのしみにしておくことね!」
そう捨て台詞を吐くと、子ありすはそのままくるりと背を向け、森の外へと跳ねだした。
目指すは公園の外、人間のたちの領域だ。
それは今だ子ありすが見たこともない未知のエリア。
果たしてそこに、子ありすの求めるゆっくりぷれいすは存在するのだろうか?
そして子ありすの本当の両親とは?
真実を求め、子ありすは街へとその一歩を踏み出したのであった。
中編へ続く
いじめ 観察 自業自得 仲違い 追放 群れ 飼いゆ 野良ゆ 子ゆ 自然界 独自設定 リハビリ
「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!」
のどかな昼下がり。
某都内にある巨大な自然公園にて、出会い頭にお決まり挨拶をする二匹のゆっくりがいた。
挨拶をした二匹のゆっくりはいたって健康体なまんまるの身体つきであり、そしてなによりも二匹とも笑顔満面のゆっくりとした挨拶である。
それは日々の生活に何の問題も無いことを一目で窺わせるものであった。
そして当たり前のことだが、そのままお互いに罵ることもなく体当たりすることもなくすれ違い、ポヨンポヨンて軽快に跳ねていく。
実にすこやかで健康的であり、とてもゆっくりしたゆっくりたちであった。
だがちょっと待ってほしい。
ここは某『都内』にある自然公園なのである。
つまりはここは街中に存在している領域ということであり、その場所はもしかしなくても人間のテリトリー内ということだ。
そして当然人間のテリトリー内を根城にしているこのゆっくりたちは、野生のゆっくりなどではなく野良ゆっくりという扱いになる。
一般的に連想される野良ゆっくりのイメージとは、不健康で薄汚れており、たとえ仲間内であっても餌を取り合うような殺伐とした雰囲気を漂わせ、
昼はじっと巣の中で人間に見つからないように息を潜め、早朝と深夜にゴミをあさりにズリズリと街を這い回る薄気味悪い存在。
と、まあこんな感じではなかろうか。
実際にはこれほど酷くは無いのだが、現状は当たらずとも遠からずといった感じで、基本的には野良ゆっくりというだけで悲壮であることは間違いない。
だというのに、今挨拶した二匹のゆっくりは実にゆっくりしている。
野良ゆっくりのくせに、こんなにもゆっくりがゆっくりしているなどということがありうるのだろうか?
それが残念ながらあるのだ。
そしてその訳はこの自然公園の由来に起因する。
日々近代化が進む街中、次々と建てられる巨大なビル群。
以前は所々に見られた森林地帯も今は全て切り倒され、マンションやデパートに取って代わられている。
そんなお決まりの発展をとげる最中、街の人々はふと思い出したように主張し出すのだ。
自然がほしい、森林伐採をやめろ、もっと緑を、環境にやさしい街づくりを!
そしてそんな市民の要請を受けた市もまた「よしわかった!」とこれまたお決まりの対応を取ることになる。
すなわち街のシンボルとなる自然公園の建設であった。
ちなみに、こんな自然公園なんぞ作ったところで地球環境全体には蚊ほどの影響も無い。
しかしそんな科学的事実はどうでもよいことなのだ。
大事なのは市が、市民の要求に答えるべく行動したというポーズであり、
そしてその結果として建設された、この自然公園の存在に市民がそれなりに満足しているということだ。
さて、そんな行き当たりばったりのノリで作られたこの自然公園であるが、その園内はなるべく自然に近くをテーマとしており、
外側を最低限の舗装がされている以外は、殆ど手付かずの森林そのままの形態であった。
流石にクマやら狸やらの大型動物などは存在しないものの、少し園内にある森エリアに足を踏み入れれば、もうそこは普通の森とそう大差ない造りである。
まさに手付かずの自然をそのまま持ってきたような様子である。
さながら街中に出現した巨大な森林地帯。
しかもその場所には凶暴な大型動物が存在しないのだ。
街の薄汚れた日の当たらない裏路地にひっそりと生息してたゆっくりたちは、これほどの好条件のゆっくりプレイスを見逃すはずもなく、
これ幸いへとこの公園の森林部に押し寄せた。
そして当然の流れとしてこの場所はその地域の野良ゆっくりのかっこうの住処となることとなる。
さらにゆっくりたちにとってなお幸運だったのは、この場所が自然そのままをテーマに作られた場所だということだ。
もしこの場所が通常の公園だったとすれば、ゆっくりたちが大量に住み着いた時点で一斉駆除確実である。
だがしかし、ここは「自然」公園なのだ。
自然界の山や森にゆっくりがいるのはある意味で当然であるということで、人間に対して粗相さえしなければ、
超例外的にゆっくりはとりあえずはその生存が許されているのだ。
かくしてこの地域のゆっくりは、都会にすむ野良という立場にありながら、
野生のゆっくりとほぼ同様かそれ以上のゆっくりプレイスをゆっくりは手に入れるにいたったのである。
おそらくこれほどの超優良ゆっくりプレイスは全国探してもここくらいしかないであろう。
それくらいこの場所は特別なのである。
だがしかし!
そんな恵まれた環境であるにも関わらず、現状に不満を感じている愚かな一匹のゆっくりがいた。
「ふぅ、たいくつね……」
自然公園内の森の奥の方にあるゆっくりたちのテリトリーにて、
半ばまで地面に埋め込まれたダンボール箱のおうちから外を眺めながら、とある一匹の子ありすはもう何度目になるかわからないため息をついた。
子ありすは、今は両親が狩りに行っているところを留守番中の所であるようだ。
さて、この子ありすだが、園内の森のゆっくりの群れにおいて長的な立場であるぱちゅりーとありすの子的立場である。
そして不満を感じていると言ったが、別段この子ありすは餌が食べられなくてひもじい思いをしているとか、
両親に虐待されているとかそういった目に見えるような明確な不満があるわけではない。
実際子ありすの身体はいたって健康体であり、その丸々としたボディは野良であることを考えれば非常に恵まれている。
否、恵まれすぎているとすら言えるだろう。
しかし子ありすは常に思うのだ。
何かがずれているのではないか?
この場所は自分には相応しくないのではないか?
こんな平凡な毎日をただ過ごすだけではなく、もっとなにか別のすばらしい『とかいはな』出来事が自分を取り巻いてしかるべきではないのか?
そんな考えが子ありすの頭の中を日々満たし、それがため息となって度々外に吐き出されるのだ。
それは漠然とした不満、満たされない感覚。
何が気に入らないのかわからない。
しかし子ありすは間違いなく現状に不満を覚えていた。
特別でとかいはな存在であるはずの自分が何故こんなにもつまらない日々をおくっているのか?
いつだったか子ありすは、両親である親ぱちゅりーと親ありすにそのことを尋ねたことがある。
しかし両親の答えはどうにも的を得たものではなかった。
親ありすは言った。
「ゆゆ?きゅうにそんなこといいだしてどうしたの?
しんぱいしなくてもだいじょうぶよ!おちびちゃんはじゅうぶんすぎるほどとかいはよ!あんしんしてね!」
(違う違う!そうじゃない!自分が特別でとかいはなゆっくりだなんてことは、もう十分すぎるほどわかってる!
問題はその自分がなぜこんな平凡なところでくすぶっているかということなんだ!)
続いて親ぱちゅりーは言った。
「むきゅ!そうよおちびちゃん!それにわたしたちにはこのとくべつなゆっくりぷれいすがあるのよ!
まいにちきけんなことなく、ゆっくりとくらしていける!
こんなすばらしいことがほかにあるかしら?
(だめだだめだ!なにもわかっちゃいない!
ここが特別なゆっくりプレイスだって?
こんな、なにも素敵なことが起こらないような場所のどこが特別だというのか!
ただ安全に暮らしていけるだけではないか!自分が求めているのはそんな平凡な世界ではないのだ!
自分が求めているのは、もっととかいはな非日常の日々なのだ!自分はその中でヒーローとなり冒険の日々を送るのだ!
それが何だってこんな……)
結局両親との会話は、子ありすに落胆しかもたらさなかった。
自分の両親なのだから、もしかしたらと少しは期待したのがバカだった。
つまりはこいつらも周りの連中と同じような、つまらないゆっくりだったということだ。
やはりずれている。
特別な自分とは違うのだ。
そしてそれ以来子ありすは、この群れのゆっくりたちを見限った。
自分というレベルに見合ったゆっくりはここにはいのだから当然だった。
ああ、どうして自分はこんなつまらない場所にいるのだろうか?
「ふぅ、たいくつね……」
再びため息をついた子ありすは、しかし今度はその場でじっとしてはおらず、ゆっくりとその身をおうちから外へと移動させた。
この場所に住んでいるゆっくりたちがくだらない存在だということは、もういやというほどわかっている。
しかしそれでも何もないよりはわずかにマシだろう。
退屈は毒だ。
いくら特別でとかいはな自分でも、じっとしていればその分ゆっくりとしての純度が下がってしまう。
となれば少しでも気を紛らわすためには、つまらないとわかっていても行動せざるを得ない。
留守番するように言われていたが、どうせこの退屈な群れでは強盗騒ぎなど起こるはずもないのだ。
子ありすはゆっくりらしい緩慢な動きで園内の森へと向かったのだった。
「ゆっくち!ゆっくちー!」
「ゆゆー!まってねー!まってねー!」
「ゆっきゃ!ゆっきゃ!」
子ありすはしばらく進んでいくと、自分と同じぐらいの体格の子ゆっくりたちが追いかけっこをして遊んでいる光景に遭遇した。
これは本来ならば驚くべき光景だった。
何故ならいくら公園内とはいえ、子ゆっくりが親の監視なしに遊びまわっているのだから。
一般的な野良ゆの立場ならば絶対にありえないことである。
それだけで、この場所がいかに特別かがよくわかるというものだ。
しかし、そんなちょっとした奇跡であるこの光景を冷めた目線で流し見る子ありす。
「まったくくだらないわ!まさにいなかもののこういね!」
遊んでいる子ゆっくりたちを一瞥し、吐き捨てるように言う子ありす。
自分はあんなつまらない連中とは違う。
特別な自分が、あんな低俗な連中の輪に加わって遊ぶことなどありえないのだ。
子ありすは他の子ゆっくりたちの集団を素通りし、ペッタンペッタン森の奥から外へと移動していく。
ああ、つまらないつまらない。
何故こんなにも素晴らしいゆっくりがここにいるというのに、とかいはな出来事はありすを迎えにこないのか?
今に、今に、きっと何か素晴らしいとかいはな出来事が自分の身の回りでおきるのに違いないはずなのに。
ここにいるよ!特別なありすはここにいるのよ!
早く!早く迎えに来て!
そんな妄想に浸りながら子ありすはノロノロ森の外へと移動していく。
しかしそんな子ありすに突然緊張が走る。
「っ!」
いる。
何か巨大なものが。
自分のすぐそばに。
「あれは……」
人間だった。
すぐ近くの切り株に人間が座っている。
何も考えずにふらふらと進んできてしまった子ありすは、いつの間にかゆっくりたちのテリトリーを抜け、
比較的人間たちが多くいる園内の外側付近まで来てしまっていたのだ。
幸いなことに子ありすの姿は、森に生い茂っている背の高い雑草に紛れて人間からは見えていないようだったが、
いつ見つかるかもわからない状況だ。
まあこの自然公園には大量のゆっくりが生息していることは人間も知っているはずなので、
見つけられ次第いきなり踏み潰されるという可能性は低いだろう。
とはいえ無用なトラブルを避けるために、人間との接触はなるべく避けたほうがいいというのは当然の話であり、
しかもこのことは公園に住むゆっくりたちにとって最優先で守らねばならない掟の一つでもあった。
無論子ありすも、掟のことは今までに両親に口をすっぱくして言われているため当然知っている。
故に子ありすは人間に見つかっていない今の内に、この場からすぐさま離れるべきなのである。
だがしかし、子ありすはその場から離れずにいた。
何故なら子ありすの視線は人間に、いや正確には人間の膝に乗っている物体に釘付けになっていたからだ。
人間の膝でゆんゆんと寝息を立てている物体。
それは一匹のれいむだった。
そのれいむを見た瞬間、子ありすは思ったのだ。
なんという美ゆっくりであろうか!
さらさらの髪の毛、もちもちとした肌、清潔なおりぼん、そしてそこに縫い付けられた金色に光るバッジ!
その全身からは溢れるゆっくりとした気品のようなものがあり、何もかもがとかいはであり完璧であった。
そして子ありすが感じたそれらの『とかいはなおーら』は、この森に住んでいるほかのゆっくりには決してないものだった。
「あれが……かいゆっくり……」
呆然とつぶやく子ありす。
子ありすは、今までに人間を何度か見たことはあっても、人間と共に生活しているという飼いゆっくりという存在を見るのはこれが初めてだったのだ。
そしてそれを見た瞬間に即座に確信した。
あれだ!あれこそが特別な自分が住むべき世界なのだ。
こんなつまらない場所ではない、真のとかいはなゆっくりが住む世界。
それが飼いゆっくりの世界なのだ!
行こう!
自らが本来あるべき場所へと!
子ありすはふらふらと何かに引き寄せられるように、草むらを抜けてその人間に近づいて行こうとする。
だがそのとき。
「ゆゆ!なにやってるのおおおおおおお!」
「ゆげっぶ!」
突然後ろから乱暴にぐいっと髪の毛を引っ張られ、引き戻される子ありす。
それはさながら夢は夜見ろと言わんばかりの、白昼夢から現実に引き戻されるかのごとくの唐突さだった。
「ここはあぶないよ!あそこに、にんげんさんがいるのがわからないの!
こんなところでひとりであそんでないで、れいむといっしょにむれのちかくまでもどろうね!」
ありすを間一髪で引き戻したのは、一匹の成体れいむであった。
れいむはどうやら子ありすが遊んでいるのに夢中で、人間に気づいていないと思い止めに入ったのだ。
それはつまり人間で言うところの、ボール遊びに夢中になっている子供が道路に飛び出すのを阻止するのと同じような感覚の行為である。
だがしかし子ありすは、バタバタと暴れてそんなれいむの手から逃れようとする。
「はなして!じゃましないで!ありすは!ありすは、にんげんのところにいくの!
ありすのふさわしいせかいにいくのおおおおおおおお!」
「ゆゆ!いったいなにわけのかからないこといってるの!おかあさんからにんげんさんにかかわっちゃいけないって、ちゃんとおそわってないの!
いったいどこのこのなのまったく!」
文句を言いながらじたばたと暴れる子ありすを、無理やり引きずっていくれいむ。
それはさながら車が飛び交う道路に飛び出す子供を、危ないと注意したら、
いいや自分はその車に体当たりをしたいんだと主張されるようなちぐはぐさ。
れいむは呆れたが、だからといってこのまま放っておくわけにもいかない。
「はなしてええええええ!おねがいよおおおおおお!むこうのせかいにいかせてええええええ!
どうして!どうしてみんなありすのじゃまをするのおおおおおおお!
じぶんたちがとくべつじゃないからって、しっとしてええええええええ!」
「ゆふぅ!ちょっとだまっててね!まったくなんなの!こんなにもあたまのわるい、おちびちゃんがこのむれにいたなんてね!」
なおも叫び続ける子ありすに辟易しながらも、れいむはズルズルと子ありすを森の奥にある群れへと引きずっていったのであった。
そして……。
「おちびちゃん!いったいどういうことなの!きょうのひるまに、にんげんさんにちかづこうとしたんだって!」
「むきゅ!いつもいってるでしょ!むれのおきてで、けっしてにんげんさんにじぶんからせっしょくしてはいけないって!
わたしたちのいまのせいかつがあるのは、にんげんさんのおかげなのよ!
そのにんげんさんのきげんを、まんがいちにもそこねたらたいへんなことになるのよ!わかる?」
「…………」
その後、おうちに連れ帰えされた子ありすは、れいむの話を聞いて激怒した両親に説教されていた。
どうしてあんなことをしたのか?
ものすごい剣幕で問い詰める両親に対して子ありすは終始無言だった。
なぜならば何を言ったとことで取るに足らない存在である両親には、特別である自分の考えなど理解できるはずもないからだ。
そもそも群れの掟など、今の子ありすにとってはいかほども重要なことではない。
そんなことよりも今、最優先で子ありすが知らなければならないことは他にあるのだ。
それは、
「ねえ、どうやったらかいゆっくりになれるの?」
「「ゆゆゆゆ!?」」
子ありすの唐突な質問に驚愕の表情を浮かべる両親。
「な、な、な、なにいってるのおおおおおおおおおおお!おちびちゃん、だめだよおおおおおおおお!
かいゆっくりなりたいなんて、ぜったいに、にんげんさんにいったらにだめだよおおおおおおお!
そんなこといって、もしにんげんさんのきげんをそこねるようなことになれば、いちだいじなのよおおおお!」
「むきゅ!そうよ!それに、かいゆっくりなんて、ぜんぜんよくないのよ!あんなのはゆっくりのくずよ!
せまいばしょにとじこめられて、ほかのゆっくりともあそべず、じゆうにおちびちゃんすらつくれない!
あんなのの、どこがいいっていうの!かいゆっくりになりたいなんて、そんなかんがえはすてなさい!いいわね!」
子ありすの飼いゆっくりになりたい発言を聞いた両親はひとしきり驚いたあと、今度は必死になって、
飼いゆっくりになりたいなんて言っていけない、あんなのはろくなもんじゃないとまくし立てた。
ここでの両親たちが語った理屈は、野良のゆっくりから見た飼いゆっくりの悪いイメージそのものであり、若干客観性に欠けているといわざるを得ないものだ。
だがしかし、その理屈は一方方向から見たとき限定とはいえ、ある一定の的を得ていたのもまた事実である。
これがもし他の地域の野良ゆっくりだったとしたら、まだ話は違ったかもしれない。
だがこの群れのゆっくりたちは他の街の野良ゆっくりと違い、ある程度安定した生活をおくることが可能なため、
自分の運命の全てが飼い主の性格や機嫌に委ねられるバクチ要素の高い飼いゆっくりなどに、子ありすがなりたいと言うのを反対するのはある程度理にかなっている。
そして何よりの理由として、うかつにこの群れのゆっくりが飼いゆっくりにしてくれと人間に迫ることで、
公園全体のゆっくりのイメージが悪化してしまってはことなのだ。
そんなわけで子ありすの両親は、なんとしてでも子ありすに飼いゆっくりになりたいという願望を諦めさせたかったのだ。
だが両親の必死の忠告は、かえって子ありすの白けさせる結果となる。
子ありすは思う。
いったいこいつらは何を言っているんだ?
今日見たあの飼いゆっくりが放っていた、とかいはなおーらがわからないのだろうか?
ああ、そうか。
そういえば、そうだった。
あの素晴らしさは特別である自分のようなゆっくりしか、認識できない類のものなのだ。
それを所詮は普通のゆっくりである両親に、理解できるはずもなかったか。
「むきゅ!きいてるの!とにかくもうにどと、かいゆっくりになりたいなんていいださないでちょうだい!
にんげんさんにちかづくのもきんっしよ!わかったわね!」
「………わかったわ」
子ありすは全然わかってはいなかったが、いい加減いつまでも続く両親の小言がうるさいのでとりあえずこう言っておくことにした。
しかしその言葉とは裏腹に、胸の内ではどうやったらここから抜け出し飼いゆっくりになれるか?
ただそれだけが今の子ありすの頭を占めているのであった。
そしてその日の夜、子ありすはある夢をみた。
高い高い天井、広々とした空間、それでいて室温は暑くも寒くも無く快適で、もちろん雨風が入ってくることも無い。
ふかふかのカーペット、ゆっくとした玩具、とってもあまあまなゆっくりフード。
そんな最高のゆっくりプレイスの中心で、すやすやと眠っている一匹のゆっくりまりさ。
そのまりさはにんっしんしており、額からは茎が伸びている。
そしてその茎に実っている赤ゆは何故か一匹のみ。
本来ならば複数の赤ゆが実るはずの植物にんっしんであるにもかかわらず、ただ一匹のみ実っている特別なゆっくり。
そう、この赤ゆこそが子ありすなのだ。
子ありすはこれが夢であると認識しているにも関わらず、ある奇妙な確信を得ていた。
これは自分が生まれる落ちる前の、実ゆだったころの記憶に違いないと。
そしてこのプレイスで眠っている自分の親であるまりさは、間違いなく飼いゆっくりだ。
何故ならば、このまりさは今日の昼見た飼いゆっくりと同じような、とかいはなおーらを漂わせているからだ。
そしてなによりまりさのお帽子には、金色に輝くバッジがキラリと光っているではないか。
やはりそうだった。
わざわざ飼いゆっくりになる方法なんて考える必要なかったのだ。
だって自分は本来ならばあちら側のゆっくり、飼いゆっくりの子なのだから!
特に何かをしなくても、生まれつきその資格を持っているのだ!
……………?
ということはである。
今一緒に暮らしている自分の両親は一体なんだというのだろうか?
いや、それ以前に何故自分はこんな場所にいるのだ?
この夢が示している通りならば、自分の両親の片方はまりさではなくてはならないはずだ。
そして今頃は最高のゆっくりプレイスで、とかいはな生活をおくっているはずである。
だというのに、自分は今この辺鄙な群れで惨めな生活をおくっており、自分の両親を名乗っているゆっくりはぱちゅりーとありす。
これはいったいどういうことなのか?
いや、そんなこと深く考えるまでもないことだ。
つまりは偽り。
あの両親は偽者で本当の親ではないのだ。
(ふん!なるほどね………)
明らかになったこの驚愕の事実に、しかし子ありすは冷静であった。
いや、むしろ逆に合点がいったというべきか。
常日頃からあんなの凡ゆが自分の親のはずがないと思っていた。
これではっきりしたというものだ。
あいつらは自分の味方ではない。
むしろ敵なのだということが。
おそらく群れの長であるぱちゅりーとありすは、特別な存在であるこの自分に嫉妬して、
本来ならば飼いゆっくりの子として生れ落ちるはずだった自分をどうにかして本来の親から強奪し、この辺鄙な場所に閉じ込めているのだ。
そしてそんな自分を秘かに嘲笑い、バカにすることでゆっくりしているのだ。
何という完璧な仮説!
まるで穴が見当たらないではないか。
それはつまりこれが真実ということの証なのだ。
そうとわかれば一刻も早くここから脱出しなけれならない。
何とかしてここから抜け出し、本来の自分の親に再会するのだ。
ああ、何という悲劇なんだろう!
選ばれたとかいはな親と子が、下賎なゆっくりの企みによって離れ離れになってしまうなんて!
しかしこんなことに負ける自分ではない。
高貴で特別なゆっくりは、あらゆる苦難をも跳ね除けるよう、天によって宿命づけられているのだ。
(ありすはここよ!待ってて!きっとすぐにもどるわ!)
夢の中で今だ言葉も交わしたこともない両親との再開を、固く胸に誓う子ありすであった。
次の日。
夢から目覚めた子ありすは、いかにしてこの群れを脱出し、本来の自分の両親の元へ帰還するかを思案するのに尽力することとなる。
そして様々な方法を想定し検討した結果、やはり方法として一番確実なのは、飼いゆっくりを飼っている人間に接触し、
本来の飼い主の所へ連れて行ってもらうというものであった。
選ばれた飼いゆっくりの子である自分が人間の前に姿を現せば、事情を察した人間はすぐさま自分を保護してくれることだろうことは想像に難くない。
飼いゆっくりの奴隷である人間ならば、その程度のことはできてもらわねば困るというものだ。
まあ自分という特別なゆっくりが相手なのだ、いかに愚鈍な人間とはいえ、接触さえしてしまえば万が一にも間違いはあり得ないだろう。
そこは心配すべきところではない。
むしろ問題は人間と接触するまでの話なのである。
そう、この一見完璧とも思えるこの計画には実は大きな問題がある。
それは人間との接触を固く禁じるこの群れの掟の存在だ。
自分が赤ゆの頃から、偽の両親が口をすっぱくして言い続けてきたこの掟。
当時から今の今まで子ありすは、この掟が何のためにあるのかまるで疑問だった。
何故人間に接触してはならないのか?別に人間ごとき、どうということではないではないか?
ただ少々図体がでかいだけのことである。一体何を恐れる必要があるのだろうか?
偽の両親は、この場所でゆっくりできるのは人間のおかげなどといっているが、それはとんだお門違いだ。
このプレイスはゆっくりが作り出したゆっくりのものであり、人間が入り込む余地などない。
事実人間は、ゆっくりを恐れて森の深部にはめったに立ち入ってこないではないか。
あんなゆっくりできない連中を警戒するに値しないのだ。
そんなわけで、長い間この掟の存在意義が疑問だったわけだが、しかし今ならこの掟の意図が理解できる。
それはつまりは、この群れの長やゆっくりたちが真に恐れていたのは人間などではなく、この自分であったということだ。
何かの拍子に自分が人間と接触してしまい、真実が露見してしまうことを恐れたのだ。
今思えばである。
昨日たまたま人間と接触しようとしたときに、突如現れたあのれいむは本当に偶然あそこに居合わせただけだったのだろうか?
いや、恐らくそうではあるまい。
それではあまりにもタイミングが良すぎるというものだ。
つまりはあのれいむは、はじめから自分を監視したいたのだ。
何のために?
もちろん自分と人間の接触を防ぐためである。
そして自分を監視しているのは、多分あのれいむだけではない。
群れの関係者のほぼ全員が自分を見張っていると思ってまず間違いないだろう。
そう、敵は長である仮の両親だけではなかったのだ。
この群れの全体が敵なのだ!
(ふん!やってくれるわね………)
この群れぐるみの壮大な陰謀を前にして、しかし子ありすは冷静であった。
いや、むしろ逆に合点がいったというべきか。
自分という特別なゆっくりを相手ならば、なるほど、これぐらいでなければ帳尻が合わないというのも道理である。
しかし同時に平凡なゆっくりどもが、どんなに集まったところで決して自分という特別なゆっくりを押さえ込むことができないというのもまた道理であるのだ。
切り抜けてやる!絶対にだ!
……………。
だがとはいえ、とりあえず今のところはまだうかつな行動を起こすわけにもいかないだろう。
何故なら下手に動いて、群れのヤツらに『自分がこの群れのゆっくりでないということに気づいている』ということに気づかれてはならないからだ。
今、自分が自由に動きまわれるのは自分が何も知らないと、群れのヤツらに思われているからなのだ。
ヤツらの油断は、自分が何も知らないという前提あってのものということだ。
何も知らない憐れな自分を見ることにより、群れの連中は日々ほくそ笑み、ゆっくりを得ているのだから。
だがもし自分が既に全てを知っていると気づかれたら、ヤツらによってとたんに行動を制限されてしまうだろう。
最悪、強制的な監禁もあり得る。
そうなってしまえばさすがに打つ手がない。
となれば、確実に人間に接触できるようになるまでは静かに機を待つ必要があるだろう。
今は待つときなのだ。
少なくとも行動に移すその瞬間までは。
「とりあえずは、へんにけいかいをつよめないためにも、ふだんはいままでどおりこうどうしたほうがよさそうね……。
でもまっているだけではだめだね!
かいゆっくりをかっているにんげんと、かくじつにせっしょくできるじかんを、めんみつにしらべないといけないわ!」
このように結論付けた子ありすは、その日から毎日のように怪しまれない程度に森の外側の領域に、
すなわち人間の領域の近くまで観察に出かけることが日課となった。
そこでいつ、どのあたりに飼いゆっくりを連れた人間が通りかかるのかを調べるのだ。
毎日毎日場所を変え、草むらで息を殺し、いつ来るか、あるいは本当に来るかすらわからない人間を待ち受ける。
そして時折飼いゆっくりを連れた人間を見かけても、すぐに出て行くようなマネはしない。
何故ならそんなことをすれば、またあのときのように、どこからか見えない場所で自分を監視しているゆっくりによって力ずくで連れ戻されるのがオチだからだ。
自分はまだ子ゆっくり故に、同時に動きだしたのでは監視している生体ゆっくりには力でもスピードでも到底敵わないだろう。
それらのハンデをなくすためには、監視ゆっくりが人間の存在に気づく前に一気に接近しなければならない。
そのために事前に人間が通りかかる時間を完璧に把握しておく必要があるのだ。
それらの作業は酷く地道で、つまらなく、ゆっくりできないものであった。
しかし子ありすはそれをやり遂げた。
彼女はついに森の外れの方の道を、毎回決まった日時に飼いゆっくりを連れた人間が通りかかるという法則を突き止めたのだ。
一緒にいたあの銀色のバッジをつけたちぇんも相当にとかいはなオーラを放っていた。
それなりの格をもったゆっくりとその飼い主に違いないだろう。
これで下準備は万端だ。
後はただ、その日時を静かに待って計画を実行に移すのみであった。
そして数日後。
「ゆふふふふふ!あすよ!あすついに、ありすのすばらしいひびがはじまるのよ!
うほほほほおおおおおおおおお!」
決行の前日になって、計画の成功を夢見てほくそ笑む子ありす。
飼いゆっくりになったらまずはじめに何をしようか?
そんなこと決まってる。
奴隷である人間に命じて、この場所に住むゆっくりたちを一掃してやるのだ。
長い間特別な存在であるこの自分を嘲ってきたその報いを、その身に十分に受けさせるのだ!
それくらい、自分を本来の親から引き離し、惨めな生活をおくらせてきた罪は重い。
万死に値するというものだ。
そして、それがすんだら快適なおうちで思いっきりとかいはな生活を満喫するのだ。
ああ、今から楽しみだ。
きっとあちらの世界では、こんな辺鄙な場所とは違い毎日が充実していることだろう。
自分のようなとかいはなゆっくりならばなおさらだ。
さあ、今日はもう寝よう。
明日は記念すべき日になるのだ。
時間に遅れてしまっては元も子もない。
ああ、とかいは、とかいは………。
んほほほほほほ………。
………………。
…………。
……。
「ゆゆ?おちびちゃんは?」
「もうねちゃったみたい!なんだかずいぶんごきげんだったみたいだけど、なにかいいことでもあったのかしらね?」
その夜、子ありすがにやにやしながら寝静まったおうち内にて、狩から帰ってきた子ありすの両親である親ありすと親ぱちゅりーは深刻な表情で何かを話し合ってた。
「ゆーん!それにしてもなんだかさいきんおちびちゃんのようすがおかしいんだけど、いったいどうしたのかしら?
なんでもむれのみんなのはなしだと、もりのはじのほうでよくすがたをみかけるらしいの!
あそこらへんは、にんげんさんがいてあぶないから、ちかづいちゃだめだって、なんどもいってるのにどうしたのかしら?」
「むきゅ!そうね!たしかにここのところようすがへんよね!
むかしからなにをいっても、あまりいうことをきかないこだったけど、さいきんはとくにそう!
はなしかけても、うわのそらというか………。
ひょとして、いぜんのかいゆっくりになりたいっていったいたことが、なにかかんけいしてるのかもしれないわね!」
以前の出来事を思い出すように、親ぱちゅりーが言う。
「ゆゆ!まさか、あのこがまだかいゆっくりになるのを、あきらめてないっていうの!
でももう、にんげんさんにはちかづかないって、たしかにあのときやくそくしたはずじゃ!」
「そうね!でも、もしかしたらあのときは、こっちにはなしをあわせるために、うそをついていたのかも!」
「そっ、そんな!」
親ぱちゅりーの発言にショックを受けたような親ありす。
親ありすにしてみれば、子ありすの飼いゆっくりになりたい発言は一時の気の迷いのようなものであり、
あのときの説教だけで、この話はとっくに終わったものであるという認識だったのだ。
まさか今だに子ありすが飼いゆっくりを目指しているかもしれないなんて、考えもしなかったことなのである。
「まさかにんげんさんにあうために、もりのそとへいってるっていうの!
もしそれがほんとうだとすれば、これはいちだいじよ!
あのこにといつめて、ぜがひでもしんじつをたしかめないと!」
「まあまあ、まってよありす!そんなにこうふんしないで!」
「でも!」
激するあまり、今にも子ありすを叩き起こし、問い詰めようとする勢いの親ありすをなだめる親ぱちゅりー。
「まだほんとうにあのこが、かいゆっくりになりたいとおもっているかどうかわからないわ!
もしほんとうに、にんげんさんにあうのがもくてきなら、もうとっくにあっているはずだしね!
それに、いきなりといつめたとしても、またしらをきられるだけじゃないかしら?
それではしんじつわわからないわよ!」
「ゆう、じゃあどうすればいいの?」
「まずわたしたちがしなければならないことは、あのこのもくてきをつきとめることよ!
なんでまいにちのように、もりのそとへかよっているのか?
それをしるためにも、とりあえずあしたいちにち、しごとをやすんで、あのこのようすをこっそりかんししてみることにしましょう!
それでもし、なにももんだいなければ、いままでどおりでいいわけだしね!」
「それもそうね、わかったわ!」
親ぱちゅりーの提案に頷く親ありす。
とりあえず明日、子ありすの行動を監視することで様子を見ることにしたようだ。
「むきゅ!それじゃあきょうはもうおそいしねましょうか!
あすはいそがしくなりそうだしね!」
これからの基本方針が決まり、就寝を提案する親ぱちゅりー。
しかし親ありすは、今だうかない顔をしていた。
「……ねぇ、ぱちゅりー!ひょっとしてあのことがばれたんじゃないかしら?」
「むきゅ?」
不意にぼそりと親ありすが何かを口にした。
「あのこは、わたしたちのほんとうのおやじゃないってきづいたんじゃ………。
それできゅうにかいゆっくりだなんて………」
「むきゅ!そこまでよありす!それはいわないやくそくだったはずよ!」
親ありすのぼそぼそとした物言いに対して、
それまでとは変わった厳しい口調で、親ありすをたしなめる親ぱちゅりー。
「ご、ごめんなさい!」
「わかればいいのよ!とにかくそのわだいはぜったいにきんしよ!いいわね!」
それだけ言うと、もう話は終わりだといわんばかりに親ぱちゅりーはおうちの隅のほうで丸くなってしまった。
まるで何かを無理やり切り取ったような傷があるお帽子を深めに被り、目を合わせないようにしている。
本当にもう寝るつもりらしい。
それはこの話題に対するはっきりとした拒絶の表れであった。
「ゆう、そうよね!ばれるはずがないわ……」
わずかな不安を打ち消すように呟くと、親ありすもまた眠りにつくのだった。
次の日。
(ゆふふふふ!きた!きたわよ!ついにこのひがきたのよおおおおおおおおおお!
このありすが、とくべつなゆっくりにもどるひがきたのねえええええええええええ!)
昼ごろになって目を覚ました子ありすは、興奮を抑えきれない様子でおうちを出発した。
目指すは森の外れにあるポイント。
予定通りならそこに太陽が傾き、ちょうど小腹がすいた時間(大体三時ごろ)に飼いゆっくりのちぇんを連れた人間が通りかかるはずだ。
自分は時間丁度にその場所へ着くように移動し、到着したら間髪入れずにその場にいる人間へと接触する。
こうすることで今も自分をどこからか監視しているに違いない群れの連中を、完璧に撒くことができるはずだ。
「とっかいは!とかいはぁぁぁ!とかいはなのぉぉぉぉぉ!」
上機嫌に鼻歌を歌いながら、目的地へと向かう子ありす。
その足取りは軽い。
何故なら自分を邪魔する障害はなにもなく、ただひたすら栄光の未来へと突き進むだけなのだから。
そしてじょじょに近づいてくる予定の場所。
はたしその場所に人間はいた。
いつものように、飼いゆっくりであろうちぇんを連れて森を散歩している。
全て計画通りだった。
ならば迷うことは無い。
子ありすは一瞬の躊躇もすることなく、ガサリ!と雑草を掻き分け人間に向かって跳ねだしたのだった。
「ゆほおおおおおおおおおおお!そこにいるひとおおおおおおおおおお!
ありすのはなしをきいてねええええええええええええええ!」
全速力で跳ねながら、道の先にいる人間へと大声で呼びかける子ありす。
しかし次の瞬間!
「「ゆあああああああああああ!なにやってるのおおおおおおおお!」」
やや後方の草むらから、二匹のゆっくりがありすを追って飛び出してきた。
それは今日一日こっそりと子ありすをつけ回してた親ありすと親ぱちゅりーだった。
尾行対象の子ありすが突然飛び出したと思ったら、その先には人間がいたのだから驚きだ。
二匹とも大慌てで子ありすの愚行を止めようと飛び出したのである。
後方からの突然の追っ手の出現。
しかしそんな状況にあっても子ありすは冷静だった。
いやむしろ余裕すらあった。この状況を何度も想定して計画を立ててきたのだから。
(ゆふん!やはりいたわね!よりにもよって今日は自分の偽の両親直々に監視していたとは!
だが遅い!遅すぎるわよ!ありすのかんっぺきな計画に死角はない!)
後方から聞こえてくる耳慣れた声と、必死に迫ってくる気配を感じながらも子ありすは作戦の成功を確信していた。
自分はここにあらかじめ人間がいることを知っており、到着と同時に人間に向かって飛び出したのだ。
それに対して後方の二匹は、自分を監視しながら行動しているため人間の存在に気づくのはどうしたって自分よりも一手遅くなる。
いくら向こうのほうが身体能力が高いとは言え、この差はいかんともしがたいはずだ。
絶対に奴らが自分を取り押さえるよりも、自分が人間のもとにたどり着くほうが速い。
そして着いてしまえばこちらの勝ちなのだ。
ほら、そんなこと考えてる間にもう自分は人間の足元だ。
勝った!自分はこの群れの邪悪な陰謀に打ち勝ったんだ!
そして自由と素晴らしい日々を手に入れるのだ!
人間の足元に到着した子ありすは、人間を見上げ勢いよく言い放った。
「んほおおおおおおおおおおおおおおおお!
ありすは、かいゆっくりのこなんですううううううううう!
だから、このありすをほんとうのりょうしんのところにつれいくのよおおおおおおおおお!
わかったわねええええええええええええええええ!」
「………………はい?」
その瞬間世界が凍りついた。
人間も子ありすも微動だにしない。
キリッ!と何かを期待する眼差しを向ける子ありす、何がなんだかわからないといった様子の人間。
なんともいえない無言の空間が二人の間に流れていた。
「????????」
子ありすには今の状況が理解できない。
それはまったく想定してなかった光景だった。
何だ?どうして何も起こらない?
何故この人間は、自分を丁重に保護する行動に移らないのだ?
何故この人間は、首を傾げているんだ?
何故この人間は、そんな何を言っているかわからないといった表情をしているんだあああああああああ!
「ゆがあああああああああああああああああああ!なにぼーっとしてるんだこのぐずがあああああああああああ!
ありすはかいゆっくりのこなのよ!とかいはなのよ!さっさとしじにしたがええええええええええええ!
このくずにん………ゆげらびひゃあああああああああああああああ!」
業を煮やして人間を罵ろうしたとき、上からすさまじい圧力が加わり子ありすは悲鳴を上げた。
いつの間にか追いついていた親ありすが、子ありすの上に思い切りのしかかったのだ。
そして同じくその場に追いついた親ぱちゅりーは、その場にいる人間に対して土下座して言い放った。
「もうっっっしわけありっません!
うちのむれのゆっくりが、にんげんさんに、たいっへんなそそうを!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!にどとこんなことがおきないように、きをつけますから、
どうか!どうかいっせいくじょだけはかんべんしてください!
すいません!すいません!」
顔を地面にこすりつけ、ひたすらに人間に対して謝罪する親ぱちゅりー。
親ありすもまた、子ありすを押さえつけながら懸命に頭を下げ、人間に謝罪している。
「ゆが!ゆべべ!ゆぼ!や、やべて!つ、つちゅぶれる!ゆぼほ!」
親ありすが必死にペコペコしている間、子ありすはずっとその下敷きになっていたため、
グリグリと様々な方向に体重がかかり、そのために起こるすさまじい痛みに苦痛の声を上げる子ありす。
しかし親ありすと親ぱちゅりーは、そんな子ありすの様子など完全に無視で、ひたすら人間に許しを請うことのみに尽力していた。
やがて、
「ああ、もう別にいいよ。この程度のことじゃ何もしないからさ。
いこうぜ、ちぇん」
「ゆう!いったいなにがおこったのかわからなくて、びっくりしたよー!」
男は特に気分を害した感じでもなく、飼いゆっくりのちぇんを連れてその場を引き返していった。
どうやらわりと温厚な人間だったようで、危機的状況は避けられたようだ。
「ありがとうございます!ありがとうございますうううううううう!」
「むっきゅー!あぶなかったわー!」
人間が去っていくのを見て、ほっと一息つく親ありすと親ぱちゅりー。
「ゆっが……まっで!ありずをつれでいげえええええええ!
ありすはかいゆっくりだぞおおおおおおおおおお!」
しかし子ありすは今だ親ありすに踏みつけられながらも、意味不明なことを言い続けていた。
「ゆふん!」
「ゆがべし!」
そんな子ありすを、親ありすは蹴り出すようにして自分の下からはじき出した。
そのままころころと転がっていき、近くの木に激突する子ありす。
「ゆああああああああああ!いだいいいいいいいいいいい!
なんでごとするのおおおおおおおお!このくずどもがああああああああ!」
あまりの痛みに悲鳴を上げる子ありす。
それは今までのん気に何不自由なく暮らしてきた子ありすが味わった、生まれて初めての強烈な苦痛だった。
その理不尽な痛みは激しい怒りとなって、仮の両親への暴言となって飛んでいく。
しかし、
「はあああああああああああああん!それはこっちのせりふだよおおおおおおおおおおお!
そっちこそなんてことしてくれたのおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「むっきゅー!まったくよ!あなたは、じぶんのしたことのいみがわかっているの!
にんげんさんには、ちかづいちゃいけないって、もうなんどもおしえたでしょ!
そればかりか、めいれいくちょうではなしかけるなんて、かんがえられないこういだわ!」
親ありすと親ぱちゅりーの怒りは、子ありすのそれとは比較にならないほど激しかった。
今回はたまたま人間が穏便にすましてくれたからいいものの、もしこれが過激な人間だったならば子ありすはもちろんのこと、
その場にいた自分たちの命もなかった。
いや、それどころか一歩間違えれば群れが消滅していたかもしれない事態なのだ。
この怒り、到底抑えられるものではない。
だが子ありすにとってはそんな両親の怒りの意図など理解できるはずもない。
子ありすにとっては、偽の両親が自分の行動を邪魔し、さらにわけのわからない因縁をつけているようにしか見えないのだ。
そしてこの偽の両親の意味不明な物言いに、ついに子ありすはキレた。
「ゆがああああああ!なにをえらそうにいいいいいいいい!
ほんとうのおやでもないくせにいいいいいいい!どれだけありすのゆっくりをうばえばきがすむのよおおおおおお!
ありすのじゃましないでね!そんなにかいゆっくりのこであるありすのことがうらやましいの!
いいかげん、しっとはみぐるしいわよ!たかがのらゆっくりごときが、さしずしないでちょうだい!」
今までの鬱積したものを吐き出す子ありす。
「なっ、なにをいって!」
「むっ、むきゅきゅ!」
子ありすのセリフに対して驚愕に目を見開く親ありすとおやぱちゅりー。
その様子に気を良くしたのか、さらにまくしたてる子ありす。
「ゆふん!おどろいたようね!
そうよ!ありすは、おまえたちけがらわしいのらどものたくらみなんて、ぜんぶおみとおしだったのよ!
いままでさんざんおやぶって、ありすをばかにして!
こんなのゆるされることじゃないわ!」
「おちびちゃん、いったいなにをいってるの!
そもそもありすたちが、ほんとうのおやじゃないって、いったいどうしてわかったの!」
暴走する子ありすに対して思わず聞き返してしまう親ありす。
そのセリフに対して、鬼の首でも取ったような勝ち誇った表情をする子ありす。
「はあああああああああああああ!ありすはねえ!とくべつな、かいゆっくりなんだよおおおおおおおおおおお!
そんなのわかるにきまってるでしょおおおおおおおおおおお!
おまえらにはねぇ、とかいはなおーらがないんだよおおおおおおおおおおおおお!
とくべつなありすとは、なにもかもがちがうんだよおおおおおおおお!」
「おちびちゃん!それはちがうの!おちびちゃんは………」
「もういいわ!ありす!」
何か言いかけた親ありすを、ピシャリとさえぎる親ぱちゅり!
「おちびちゃん………いいえ!ありす!
あなたはむれのおきてをやぶって、にんげんさんに、にどもちかづいた!
さらにかんぜんなたぶーとされている、にんげんさんにたいするめいれい、およびぼうげんまでやらかした!
どんなりゆうがあるとはいえ、これはゆるされることじゃないわ!
むれのおきてにのっとって、あなたをこのむれからえいっきゅうついほうのけいにしょすわ!」
毅然とした口調で言い放つ親ぱちゅりー。
そう、もはや関係ないのだ。
子ありすが本当に飼いゆっくりの子なのか?本当に親ありすと親ぱちゅりーの子ではないのか?などの話はもはや意味がない。
もうそんなことはどうでもいい。
子ありすは群れの内で、決して犯してはならない罪を犯した。
そこに至るまでの背景などまったく関係ない。
ただその事実のみが全てなのだ。
だから子ありすは群れから追放される。
たとえ長の子であろうとも例外なく。
「ゆきいいいいいいいい!じょうとうよ!むしろせいせいするわ!
いままでさんざんありすを、こんなばしょにとじこめておいて、しんじつがばれたら、でていけですって?
のらゆっくりは、どこまでげせんで、しゅうあくなそんざいなの!
ああ、けがらわしい、たのまれなくったって、こんなばしょでていってやるわ!」
「いいたことはそれだけ?
それじゃあさっさとでていってちょうだい!
もうわたしたちは、おやでもこでもないわ!
もしこんご、このこうえんないで、すがたをみかけるようあことがあれば、そんときはもんどうむようでせいっさいするわ!いいわね!」
「ゆはん!こうかいさせてやるわよ!
ありすが、かいゆっくりにもどったあかつきには、おまえたちぜんいん、じごくのくるしみをあじあわせてから、
えいえんにゆっくりさせてやる!
そのひをたのしみにしておくことね!」
そう捨て台詞を吐くと、子ありすはそのままくるりと背を向け、森の外へと跳ねだした。
目指すは公園の外、人間のたちの領域だ。
それは今だ子ありすが見たこともない未知のエリア。
果たしてそこに、子ありすの求めるゆっくりぷれいすは存在するのだろうか?
そして子ありすの本当の両親とは?
真実を求め、子ありすは街へとその一歩を踏み出したのであった。
中編へ続く