ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko4153 愛された果てに
最終更新:
ankoss
-
view
『愛された果てに』 40KB
観察 家族崩壊 現代 独自設定 失礼します。
anko2611 ゲスゆっくり奮闘記1
anko2622 ゲスゆっくり奮闘記2
anko3414 ゲスゆっくり奮闘記3
anko3417 ゲスゆっくり奮闘記4
anko3456 れいむのゆん生
anko3458 まけいぬとゆっくり
anko3461 ゆっくりに生まれて
anko3484 ゆっくりブリーダー
anko3489 休日とゆっくり
anko3652 ドスについて
anko3715 ゆっくりに餌を
anko3729 はじめてのぎゃくたい
anko3730 はじめてのしいく
anko3794 まりさとの勝負
anko3843 野球部のゆっくり
anko3855 ゆっくりと会話してみた
anko3932 ゆっくり観察日記
anko3933 ゆっくりと子供
anko3953 しんぐるまざーの朝は早い
anko4016 虐められるためのゆっくり
anko4094 普通の人とゆっくり
「」ゆっくりの台詞
『』人間の台詞でお願いします
「ゆっくりおきるよ!」
朝のまだ早い、やや薄暗いだろう時間の、ある大きな群れ。
そこに所属する一匹のまりさが巣の中で声をあげた。
木の根元に作られた広く、またすべすべの巣の中、奥のベッドで寝ている番のれいむに、その子供たちを見ながら彼女はニッコリ笑う。
一家の長として、これから狩に向かう彼女は家族の寝顔を見て、それをエネルギーに頑張ろうとしているのだ。
それと同様の光景は、周囲に乱立する木の根元にある巣で数多く見られている。
それらを朝の日課を終えたのか、広い群れの敷地の木の根元からぞろぞろと父親役だろうゆっくりが出てくる。
まりさ種が一番に多く、次にみょん種、ちぇん種など活発なゆっくりが続き、れいむ、ありす、ぱちゅりーなどもチラホラ見られた。
まりさは、近隣のゆっくりたちに声をかけながら食事を探すために跳ねながら移動していく。
「きょうっも! おいっしい! ごはんっさん! たっぷり! あってね!」
疲れるだろうに、まりさはゆっくりらしく自分の考え行動を大声で喋りながら跳ねていく。
街中の、惨めに這いずって、黙々とゴミを漁るゆっくりとは対照的な伸び伸びとして姿。
他のゆっくりも同じように声をあげ、皆笑顔で飛び跳ねながら狩に向かっていっていた。
まりさはしばらく跳ねて、いつもの狩場にたどり着いた。
既に、そこには何匹ものゆっくりがいて狩を開始しているようだった。
早い者は、既に十分な食料を得てこれから巣に戻って家族とゆっくり過ごそうとしている者もいる。
「ゆっ! まりさも いそがないと!」
それを見て、まりさは同じく狩を始める。
「きょうっも おいしいごはんさんがたくっさんだよ! まりさはかりのたつゆんだね!」
目につく限りの食料をどんどん帽子に詰め込んでいき、ほんの短時間でまりさの帽子と口の中は食料で埋め尽くされていた。
通常の野生ゆっくりの数倍の食料を手にしたまりさは、笑顔のまま巣に向かって跳ねだした。
「ゆふふ、きょうも たっくさんごはんとれたよ! これで、れいむもおちびちゃんも おおよろこびだよ!」
相変わらずの不思議饅頭、口を閉じたまま喋ってニヤニヤ気味の悪い笑顔を浮かべていた。
そして、自分の巣に飛び込むようにして入る。
「ゆ! ゆっくりただいま!」
「ゆ! まりさおかえりなさい!」
「「おちょーしゃん! おきゃえりなしゃい!」」
まりさの声に、既に起きていて朝のうんうんの真っ最中だったらしい子供と、その手伝いをしていたれいむが声を返した。
大き目の葉っぱの上に、うんうんをさせていたれいむは、それを舌で器用に丸めると巣の奥に開いた穴に落とした。
「ゆふふ、きょうもしっかりうんうんできたねおちびちゃん」
「ゆっ、それはえらいね! たくさん うんうんして どんどんおおきくなってね!」
「「ゆ! わかっちゃよ! しょれよりごはんにしちぇね!」」
毎日うんうんするのは健康と成長の証、親からそう言われて育ったまりさとれいむは、子供のうんうんに笑顔を浮かべて頷きあう。
二匹の子まりさ子れいむは、褒められたのは嬉しいけれどお腹が空いているのが優先なようで、涎を垂らしながらまりさを見つめていた。
「ゆ! ごめんねおちびちゃん、ついわすれちゃってたよ! すぐにごはんにしよーね、れいむおさらをよういしてね!」
「ゆっくりりかいしたよ! ゆっしょゆっしょ」
まりさの声に、れいむ巣の奥から大きめの葉っぱを持ってきた。
「ゆっぺ! ゆふふ、きょうもおいしいごはんがたっくさんだよ!」
「「ゆ、ゆわぁぁああ!! おいちちょー! おちょーしゃんしゅごーい!!」」
口の中のご飯を葉っぱに吐き出すと、子供たちは目を輝かせうれしーしーまでしながら喜んでいた。
それに「ゆふゆふ」笑いながら満足したまりさは、帽子の中の食料を奥の食料庫に放ってから戻る。
しっかり躾をされているのか、その間も子供たちは涎を垂らしながらも、ご飯には口を着けず待っている。
子まりさは、お下げを振り回しながら「ゆわゆふ!」と目を輝かせて涎を垂らしていて。
子れいむは、もみ上げをピコピコさせながら、何故か底面を持ち上げもるんもるんと振っていた。
「ゆわぁ、おちびちゃん とってもぷりてぃーだよぉ♥」
「まりさもおなじきもちだよ! さ、あんまりおちびちゃんをまたせたら かわいそうだから ごはんにしようね!」
親子四匹で大きな葉っぱに乗った山盛りの食料を囲む。
二匹の子供は、今か今かと涎を垂らして、二匹の親はその可愛さに頬を緩ませていた。
そして。
「それじゃ、ゆっくりいただきます!」
「「いちゃじゃきまーーす!! はむ! ぐちゃぐちゃ! はぶ! ぱにぇ! これ! はんぱねぇ!」」
汚れるのも構わず、大量の食料に頭から突っ込んで尻を振りながら貪って行く二匹を、両親は優しく見守る。
「ほんとにゆっくりしてるね!」
「まりさのおかげだよぉ、おいしいくささんに、きのみさんに、おちびちゃんが だいすきなちゃいろさん、こんなにたっくさんとってきてくれたから……まりさは ほんっとうにじまんのだんなさんだよ!」
「ゆふふ、それほどでもないよ、まりさはれいむたちが いるからがんばれるんだもん」
二匹は身体を寄せて、親愛を表す優しいすーりすーりを繰り返す。
寒さを凌ぐのではなく、性欲の発散でもない、お互いの頬をゆっくり優しく、暖かさを確かめ合うような行為を、最愛の子供を見ながら繰り返した。
「「ゆげっぴゅ! みょう いらにゃいよ! ゆっぷ!」」
山盛りの食料の一部を貪り切った二匹は、食べ進んだ所で食べかすだらけの体を仰向けにして、膨らんだ腹を見せつけながら動きを止めた。
「ゆふふ、たっくさんむーしゃむーしゃしたね! おちびちゃん、ぺーろぺーろしてあげるよ!」
「ゆひゃひゃ! くしゅぐったいよ!」「れいみゅも! れいみゅもしちぇね! すぐでいいよ!」
れいむは、二匹の身体についた食べかすをその長い舌で舐めとっていく。
その姿を見ながら、まりさは幸せに浸っていた。
優しい妻に、可愛い子供の成長、これ以上の幸せはないと信じて笑みを浮かべる。
「ゆふふ、みんなゆっくりしてるね……」
これまでの自分のゆん生を振り返って、苦労を思い出すと涙が出そうになるが、まりさは父親としてそれを飲み込む。
子供の頃の姉妹の死、何回も経験した越冬、おうち作りの苦労、れいむとの熱愛、狩の辛さ。
様々な記憶が、今の幸せに繋がっていると思うと、感情が震えだしていた。
「まりさ? どうかしたの?」
「ゆっ!? な、なんでもないよ……おちびちゃん、ねちゃった?」
「うん、みて、かわいいねがおだよ……」
静かになったまりさを心配して、れいむが声をかけてきた。
それにビクッと反応して、目線をれいむに向けると、彼女はお腹を一杯にして眠りだした子供二匹を優しく見つめていた。
まりさたちは、食事をしたら直ぐにご飯あとのすーやすーやを始めるのは、大きくなる秘訣だとそう教わっていた。
まりさは、ずーりずーりと底面を静かに這わせて、草のベッドで眠りにつく子供たちの頭をお下げでそっと撫でる。
「ゅ、ゅぴぴ、れーみゅの、こんしゃーとに、あちゅまってくれて、ゆぷぅ」
「ゆぴー、ゆぷー、まりしゃ、ちゅいにどしゅになっちゃの じぇぇ、ゆぴぴぅ……」
寝言を漏らしながら、幸せ一杯の寝顔を見せている二匹を、まりさとれいむは満面の笑顔で見つめる。
「かわいいね、おちびちゃん」
「うん、れいむも そうおもうよ」
しばらくその幸せをかみ締めるように、寝顔を堪能した二匹は、静かに子供の食べた後の食事を開始した。
時より、ベッドの方を見て、夫婦で微笑みあったりしていた。
食事を終えて、余った食料をれいむが色々分別するのを見ながらまりさは外を見つめる。
「……れいむ! まりさ ちょっとおさんぽしてくるよ!」
「ゆ! わかったよまりさ、おひるにはかえってきてね!」
「ゆん! あたりまえだよ、それじゃあ おちびちゃんをよろしくね!」
れいむに子守を任せると、自慢の帽子を一番格好良いと思っている角度で被って巣の外に出る。
「ゆっゆ~ん! きょうもいいてんきだよ!」
朝の狩では急いでいて感じる暇もなかったけれど、今日も空は青空で心地よい暖かさだった。
「そろそろなつさんがくるんだね」
まりさは夏が好きだった、暖かいし、何よりまりさが生まれたのは3回前の夏。
子供が生まれたのは秋の終わり、そう考えると秋も好きだなと、まりさは考えていた。
「むきゅ、まりさ、こんにちは、おさんぽかしら?」
「ゆ? おさ! ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね」
暖かい森の中を進んでいたら、まりさの所属する群れの長であるぱちゅりーが声をかけてきた。
この長ぱちゅりーは、10回以上のの越冬を経験した頼れる長だった。
「まりさ、おちびちゃんはげんきかしら?」
「げんきだよ! きょうもごはんさんたーっぷりたべて いまはすーやすーやタイムのまっさいちゅうだよ!」
「それはよかったわね、おちびちゃんがおとなになるまでのにねんかん、しっかりそだててあげるのよ?」
長の言葉にまりさは笑顔で、自信に満ちた笑顔で頷いた。
「とうっぜんだよ! まりさがそうしてもらったんだから、まりさもおちびちゃんをたいっせつにそだてるよ!」
まりさの言葉に満足したのか、長はニコニコ頷いて、ゆっくりとその場を後にした。
その後ろ姿を見送ってから、まりさはまた進み出した。
周りには、もう季節を一回りして子ゆっくりサイズになったゆっくりたちが声をあげて走り回って遊ぶ姿が見える。
それを横目に見るように、親ゆっくりが複数集まって世間話をしたりもしていた。
「ゆふふ、みんなゆっくりしてるね」
その光景に笑顔を浮かべながら進み、ちょっと開けた池がある場所に出た。
「ゆっ、こんなとこまできちゃったんだね」
まりさはうっかり遠出してしまったことに驚きながらも、ゆっくり池に近づく。
この池にはにとり等が住む他に、群れの皆の大切な水分補給の役目を担っているのだ。
歩きつかれたまりさは、池に近づいて水を飲むと、しばらくその場で休憩を始めた。
「……ゆっ、そろそろかえるよ! おちびちゃんとごはんにしなくちゃね!」
十分ゆっくりりたのか、思い立って直ぐにぴょんぴょん跳ねて巣に向かう。
周りにも同じように、跳ねて巣へ戻ろうとするゆっくりが何匹もいた。
そのゆっくりに負けないように跳ねて、まりさはれいむと子供の待つ巣に向かった。
「ただいま! ゆっくりかえったよ!」
「ゆっ、まりさおかえりなさい」
「「おちょーしゃん! おきゃえり! おにゃきゃしゅいたよ!」」
巣に戻ると、れいむと遊んでいた可愛い我が子が出迎えてくれた。
相変わらず食欲旺盛な子二匹だけど、それがまた可愛らしく感じられるのか、まりさは明るい笑顔を見せた。
「れいむ、またせちゃったみたいだから、さっそくごはんさんにしよーね」
「わかったよ、ちょっとまっててね!」
「ぎょはんだよ! まぃちゃのむーしゃむーしゃタイムだよ!」「れいみゅのむーしゃむーしゃだよ!」
まりさの声に、二匹は直ぐに涎を垂らして、また嬉しーしーを漏らしながら震えていた。
「まったく、おちびちゃんはくいしんぼうさんだね! ゆふふ」
「ゆっ、みんなごはんだよ!」
れいむが朝のように大き目の葉っぱに、食糧庫に保存しておいたものを持ってきた。
一番多く取れて、保存の利く茶色いものがメインに、乾燥した山菜なども乗せてあり、それなりに彩りがある。
「それじゃあ、ゆっくりいただきます!」
「「いちゃじゃきましゅ! はぐむぐ! むーしゃむーしゃ! ぱねっぇ! こりゃむっちゃぱにゃい!」」
食事が開始されれば朝の焼きまわしだ。
尻を振り乱しながら、お下げともみ上げをピコピコさせて、全身で食糧に突っ込んで食べるだけ食べたら眠る。
理性と対極に位置してそうなその姿を、親二匹は笑顔で見つめていた。
我が子が成長するに必要な栄養を全力で摂取しているのだから、当然のように幸せなのだろう。
「「おちびちゃん、いっぱいたべて、いっぱいおっきくなってね!」」
…………。
………………。
「いたいよぉおおおぉお!! れーむのあんよがいたいよぉおおおおお!!」
「ゆ、ゆぁ、ゆわぁあああ!! お、おちび、おちびちゃんがぁああ!!」
「れ、れいむ、おちついて! まずはおちついてね!!!」
一冬越えた春先、もう外に出られるくらい大きくなった二匹の子供の内、子れいむが転んで底面、あんよを切る大怪我をしてしまった。
ゆっくりにとって足の怪我は死活問題、即座に死ぬ危険はないけれど、治さなければ一生の問題になってくる。
れいむは、それを解っていて大声でうろたえていた。
その姿に、自分だけはしっかりしなくてはと、まりさは語調を強くしながら叫ぶと、どうしたら良いかを考える。
そして、直ぐに思い至ったのか、ハッと息を呑んだ。
「おさに、おさにきけば なおすほうほうが きっとわかるのぜ!!」
「ゅ、ゆう?」
「おさはなんでも しってるのぜ! まりさがいまからおさにきいてくるから まってるのぜ!!」
まりさはゆっくりしないで、巣の外に出た。
外はもう暗くなっていたけれど、関係ない。
どこからか「う~う~」と、れみりゃの声が聞こえて来たけれど、大切な子供の為に危険も顧みず走り出した。
「おちびちゃん! まっててね、いま まりさ、が……ゆぴぃ、ゆぷ~」
……。
…………。
「ゅ? ゆっくりおきるよ! ……ゆ?」
翌朝、いつもみたいに巣の中で目を覚ましたまりさは、不思議な気分に包まれた。
「ゆぅ?」
しかし、それが何だったかは思い出せなかった。
ただ、何か妙だなぁ、と思っただけで直ぐに忘れ、いつものように寝ている家族に見て笑いそして狩にでかけた。
「まりさはかりのたつゆんだから、きょうも たっくさんごはんとってくるよ!」
そっと見たベッドの中の子れいむ、まりさに向けているあんよの一部が薄っすら色が変わっていたが彼女はそれに気付かないで跳ねていった。
いつものように狩に向かう皆の流れに乗って狩場に向かうと、いつものようにご飯を口と帽子につめて、来た道を引き返す。
家につくと、何やら中から声が聞こえてきた、どうやら家族が起き出したようだ。
「ゆっ、ただいま!」
「おちびちゃん、ほんっとにだいじょうぶ? どこかへんなとこはない?」
「ゆぅ? なにいってるのおきゃーしゃん、れーむどこもいたくないよ?」
「おとーしゃん、おかえりなのぜ! まりさもそろそろかりにいきたいのぜ!」
まりさの声に反応したのは子まりさだけで、れいむと子れいむは何やら話していてこちらに気付いていないようだった。
しばし、そろそろ狩に行きたい言う野球ボールくらいの大きさになった子まりさと話してから、れいむと子れいむに声をかける。
「れいむ、いったいどうしたの?」
「ゆ、まりさ……」
「おかーしゃんが、さっきかられーむにだいじょうぶ? だいじょうぶ? ってきいてくるんだよ! れーむどこもいたいいたいじゃないのに」
れいむは心配そうな顔で、子れいむをチラチラ見ながら、子れいむはちょっと不機嫌そうな顔でまりさを見てきた。
「れいむ、おちびちゃんがどうかしたの?」
「まりさ、なんだね、おちびちゃんが いたいいたいだったきがするんだよ でも おちびちゃんはだいじょうぶっていうし」
不確かながら、何やら不安を感じているらしいれいむを、まりさは優しくぺーろぺーろした。
「ゆふふ、れいむはやさしいね でも、おちびちゃんは れいむがまもって くれてるから きずひとつないよ」
「ゆぅ~ん、まりさぁ、ありがとうね、れいむ あんっしんしたよ! ぺーろぺーろ」
まりさの行為でれいむは安心したのか、不安そうな顔を引っ込めて笑顔を浮かべた。
れいむが自分の心配をしなくなったので、子れいむはまりさが取ってきた食糧の前で食事の合図を今か今かと待っていた。
それは子まりさも同じらしく、チラチラ親を見ながら涎を垂らす。
「ゆっ! れいむ、そろそろごはんさんにしようね! おちびちゃんがまってるよ!」
子二匹に気付いたまりさは、れいむに声をかけてゆっくり這いずって朝食を始めた。
それからしばらく平和な春が過ぎて、異変は夏に起きた。
そろそろまた秋が訪れてるちょっと前、子ゆっくり二匹が巣立ちをする目前の時期だった。
毎朝のように狩に出かけたまりさは、狩場に起きている最近の変化に声を漏らした。
「きょうも くささんがないよ……ゆん、さいきん ずっとだよ でもちゃいろさんが たくさんあるから だいじょうぶだね!」
ここ数日、普段持ち帰っていた山菜や、木の実などが丸っきり姿を消していたのだった。
その代わりに大量に置かれていたのは、普段は草よりやや大目くらいにある茶色い食べ物。
とりあえず他にないし、それは甘くて美味しいので持ち帰って皆で食べることにした。
「ゆ! かえるよ!」
声をあげて跳ねだした、周りには他のゆっくりも元気に巣に戻っているところだった。
まりさは、その波に乗るように負けぬように跳ねながら、また微妙な違和感を覚えた。
「ゆ…………きのせいだね!」
何だか、少し周りのゆっくりが少ない気がしたけれど、まりさは気にせず家路を急ぐことにした。
「ただいま! きょうも ちゃいろさんがたっくさんだよ!」
「「やったー! おとーさんありがとー!」」
「まりさ、おつかれさま!」
巣に戻れば、もう大分大きくなって巣立ち目前の子二匹と、新たにお腹に子を宿したれいむが迎えてくれた。
いつものように葉っぱにとってきたものを置いて、残りを保存する。
そうしてから、皆で朝の食事を始める。
もう頭から食糧に頭を突っ込むこともなくなった子れいむと子まりさと同じタイミング食事を始める両親は、二匹に巣立ちについて色々と教えているようだった。
巣の作り方、番の見つける基準、子育ての仕方、それらを思い出話と交えながら楽しそうに語っていく。
「ふたりとも まりさの じまんのおちびちゃんだから とってもゆっくりした かぞくをつくれるよ!」
「「ゆん! ありがとうおとーさん!」」
食事を終えると、子ゆっくり二匹は友達と遊びに外に跳ねていった。
既に二匹には意中のゆっくりがいるらしいので、目的はどちらかと言うとそちらだろう。
まりさは、二匹が跳ねていった巣の出口を皆がら息を吐く。
「もう おちびちゃんも すだちのじきなんだね」
「そうだね、まりさ……このおちびちゃんも きっとゆっくりしたこにそだてようね」
まりさの声に聞いて、れいむは揉み上げで自分の膨らんだ腹部を撫でる。
大分大きくなり、そろそろ生まれる新しい我が子に、慈愛の笑みを向けていた。
それは、まりさも同じで、優しい視線でれいむの中の我が子を撫でるように見つめる。
「まりさと れいむのこなんだから きっとゆっくりしたこになるよ!」
「ゆふふ、そうだね」
二匹は寄り添い、次の生まれてくる子供のことを熱心に話し合った。
それから数日経ち、相変わらず山菜が取れない日々が続き、秋になったある日二匹の子供は両親にこう切り出した。
「おとーさん、おかーさん、まりさとれいむははなしが あるのぜ」
「ゆん……わかってるよ」
「ゆぐっ、ゆぐ、ゆあーん! ゆあーん!」
子まりさの真剣の表情から内容を察したまりさは重く、そして嬉しく受け止めて。
れいむは、内容を察した上で寂しさから声をあげて泣いていた。
子れいむ、子まりさも何かに耐えるように身体を震わせ目に甘い涙を浮かべながらも笑顔を浮かべて話し出した。
「れ、れいびゅと、ま、まりじゃは、ひ、ひとりだち、するよ!」
「いばばで、ぁりがぼうなのぜぇ!!」
「ゆん、ゆん……こちらこそ、だよ」
「ゆわぁぁあん! やだよ! やだよぉおお!! いっちゃやだよぉおお!!」
涙を流さぬようにする三匹の分も泣くように、親れいむは大声で泣き続けた。
それでも、時間は残酷に過ぎて行く。
子れいむの番になるちぇんが迎えに来たところで、子まりさもこれから番になるありすと迎えに行くと言うので巣を出て行った。
れいむは最後の最後まで二匹にすーりすーりを繰り返して、二匹が巣を出てからもずっと大きな声で泣いていた。
「ゆん、れいむ すーりすーり、だよ」
「ばりざぁぁあああ!! おちびちゃんが、おちびちゃんがぁああ!!!」
「ゆん、だいじょうぶ、きっとすぐに かわいいおちびちゃんをつれて あいさつにきてくれるよ、ゆん」
泣きじゃくるれいむを、まりさはずっと優しく優しくあやし続けた。
その日まりさは、泣きつかれたれいむをぺーろぺーろして、一筋だけ涙を零すと、れみりゃの声を聞きながら眠りについた。
……。
…………。
………………。
「ゅ? なんだか、さむい、よ? ゆぅ?」
まりさが目を覚ますと、そこは見たこともない場所だった。
今まで住んでいた森の中と違う、暗く鬱葱と草が茂り、ジメッとした地面の上にまりさはいた。
「どこ……ここ……」
呆然としながら、まりさは周囲を見回すと直ぐ後ろには番のれいむが寝ていた。
頬に涙の跡をしっかり残したれいむの身体を、まりさは自分のお下げで優しく揺する。
「れいむ、れいむ! おきてね!おきてね!」
「ゅ、ゆうん、なに、まりさ、もうかりはおわったの? ゆ? ゆ? なんで、れいむおそとにいるの」
寝ぼけ眼を揉み上げで擦っていたいたれいむは、自分がいる場所を認識して目を覚ました。
まりさと同じく周囲をキョロキョロ見回してから、不安そうな顔を見せる。
「ま、まりさ、こ、ここ、どこ? なんだか ゆっくりできないよ……」
「まりさも、わからないのぜ……むれのもりとは なんだかちがうみたいだよ」
まりさは言いながら、群れのあった森を思い出す。
柔らかく歩きやすい地面に、綺麗で巣になる木、綺麗な草花に、爽やかで暖かい風。
そのどれもがここにはない、地面は硬くごわごわしていて。
捻じ曲がって、どこか化け物みたいで途方もなく大きな樹木、どこか攻撃的に尖った草花、ジメッとして青臭い風。
どれもこれもがまったく自分の常識外だった。
しかし、泣きそうなれいむを前に自分まで泣く訳にはいかないと顔を引き締める。
「ま、まずは だれかさがそうね! ここがむれのどこか わからないと おうちにかえれないからね!」
そして、努めて明るくまりさは振る舞い、れいむに声をかけた。
その姿に、れいむは少し安心したのか小さめの笑顔を見せて頷き、浮かんでいた涙を揉み上げで拭い消した。
「そ、そうだね! はやくおうちにかえってごはんにしようね! じゃないとおなかのおちびちゃんもおなかをすかせちゃうよ!」
「ゆん! じゃあ、いこ、んゆぎゃぁぁぁあぁああ!?!?!」
「ば、ばりざぁぁぁあ!?!」
一声気合で、一歩跳ねたまりさは大きな声をあげて転げまわった。
「い、いだい、いだいいぃいいい!! あんよがいだいぃいいいぃいいい!!!」
「まり、まりさ、お、おちつ、おちつ、ゆわぁぁあん!! ゆわぁぁああん!!」
今まで見たことがないくらいの動揺を見せてまりさに、れいむは落ち着かせようとするが、直ぐに自分の限界が来て泣き出してしまった。
まりさの跳ねた先には、やや大きめの小石が転がっていて、その上に乗ってしまったのだ。
その鋭い痛みにまりさは声をあげて、涙を流して転げまわる。
転げまわる度に、硬い地面や石、痛い草に身体を傷つけられて更に声をあげ続ける悪循環。
まりさのゆん生では味わったことのない痛み、それが全身を支配していた。
まりさのこれまでは、こんな石を踏んだこともなければ、こんな痛い草に触れたことも、ごわごわの土に触れることもなかった。
何故なら、まりさは室内で飼われていたゆっくりなのだから。
――――。
――――――。
ある都市の中心に立てられた、屋内型森林公園。
かなりの広さと、行き渡った設備は一ヶ月の内に四季を再現する、少し寂れていた街の活性に繋がっている施設だった。
その施設の名前は〔ゆふぁりパーク〕名前の加減から想像出来る通りの、ゆっくり園と呼ばれる場所だった。
ゆっくり園とは、屋内に土を敷き、草花を植えて、野生のゆっくりの生活を街に再現するという触れ込みの、ゆっくりの動物園のような場所だった。
ゆっくりに人気に肖り、日本中に数多くのゆっくり園が出来ていたが、ここはそれとは規模も施設も桁違いだ。
収容ゆっくり数は、通常のゆっくり園が一つの群れに相当する150~300に対して、驚きの2300匹。
通常種だけでなく、希少種、捕食種まで完備されている。
しかも、普通のゆっくり園ではないような四季の整備により、より野生のゆっくりの生活を見れるという触れ込みで、週末になれば日本中から多くの人が詰め掛けていた。
柔らかい土を引いて、小石一個でも取り除いて、芝生を敷いたり、ゆっくりの肌を傷つけない草花を植えて、いつでも快適に暮らせる環境を整えてあった。
一週間ごとに季節が変わり、知らず知らずにゆっくりたちは一ヶ月を「いちねん」と呼んでいた。
基本的に内部のゆっくりは自分たちが建物の中にいるとは考えてない、人間と接触は0になるようにされていたから。
夜になれば、れみりゃの声をスピーカーで流して、巣に戻らせてからラムネスプレーが全域に撒布されて、例外なく睡眠状態にして、その間に園内の掃除や、調整、傷を負ったりしたゆっくりの治療などを秘密裏に行う。
一般客が通るのは、床からほんの2mほどの位置を蜘蛛の巣のように通されたアクリル製の通路だ。
この通路には仕掛けが施されていて、ゆっくりが見上げてもそこに人がいるとは判断されない作りになっていた。
ゆっくりにとっては見えないというのは認識出来ないと一緒であるために、いくら喋ろうが気付くことはない。
これにより、人間と関わらない本来のゆっくりの姿を楽しめるという風に言われていた。
巣も全て、木を模したオブジェでその内部は、それぞれオブジェに設置されたモニターを通じて通路から確認出来るようになっていた。
巣の奥にはうんうんを捨てる穴があり、そこに放り込まれると最終的に全ての巣から集まり捨てられる仕組みになっていた。
ゆっくりが集まるポイントも人工的にいくつも作られていて、そこにはアクリルの大き目のラウンジ状態になっていて多くの人が集まる。
そんなゆふぁりパークの一日は、まずは係員が広大な敷地の指定されたポイントに、餌となるゆっくりフードと、山菜など野山でも取れるだろう食料を置くところから始まる。
大きな木の板の上に、それらを置いておけば、あとはゆっくりが〔狩り〕をしにやってきて勝手に持っていく。
餌やりが終わると開園で、しばらくすると起き出したゆっくりの狩り風景を見ることが出来る。
そして入場客を案内したり、モニターでどこかでゆっくりが問題を起こしていないかを観察する。
危ないものがないゆっくり園ではそうはないが、ゆっくりは弱いので怪我をすることは多々ある。
なので、怪我をしたゆっくりを発見したらその程度によって対処する。
即座に治療が必要なら、その区画にラムネスプレーを噴射して対処。
それ以外は夜になってから、治療を行う。
そして、四季の代わりによって変化するゆっくりの生活を入場客に説明する姿をちらほらと確認出来た。
このゆふぁりパークは、ゆっくり愛護団体により運営されていて。
〔野生本来のゆっくりのゆっくりらしい生活を見れる!〕という触れ込みによる多くの客を呼んでいたが。
施設のコストと、来場客からの入場料が徐々に釣り合いが取れなくなっていった。
それに伴い、野生のゆっくりが狩りをしてとれるだろう山菜や木の実など、手がかかるものを出せなくなり、ゆっくりフードだけを与えるようになっていき。
ゆっくり好きから支援などもあったが、終に財政が破綻してしまった。
残ったのは大量も大量のゆっくり。
希少種、捕食種などは他のゆっくり園や、希望者に引き取られていったが、通常種の扱いに困ってしまった。
1700近い不良債権たるゆっくりたち。
普通なら加工所行きだけれど、まかり間違ってもゆっくり愛護団体の施設、それだけはなしとされた。
しばらくは〔野生のゆっくり〕という触れ込みで里親を探したり、ペットショップに持ち込んだりもしたが。
ただゆっくりしただけで、躾も何もされてないゆっくりを飼いたがる人も、売りたがるペットショップもそうそうなかった。
種ゆや、生餌としてならという申し出もあったけれど、施設の人は怒りを露に断った。
『あなたたちはこんな可愛いゆっくりに、良くそんなことが出来ますね!』と。
怒っても何してもゆっくりの行き先は見つからない。
ゆっくりフードはまだ在庫はあったがそれもいつかは尽きてしまう。
もう加工所に頼むしかないのか、となったときに誰かが言い出した。
『あの、前に人間が育てたオランウータンを森に返すとか、見たんですけど』
その言葉に、施設の面々、愛護団体は名案と大いに賞賛した。
『ここのゆっくりは野生の環境で育てて来たんだ、野生に返しても生きていけるはずだ!』
殺すことはしない、自分では世話出来ないから誰かに押し付けたいけど相手がいない、だから捨ててしまえ。
そんな思考回路で、こっそりと大量のゆっくりが手分けして各地の山や森に捨てられた。
それぞれの心の中は、野生に返してやると言う崇高な使命で埋め尽くされていた。
それを大義名分に、野生ではありえない優しい空間で、異常な空間でしか生きてこなかったゆっくりを、厳しく辛い本当の野生に返したのだった。
……。
…………。
「ゅ……れいむ、ごはんさん、とってきたよ」
「ゆ……これっぽっち、なのぉ?」
まりさが野生に返されて早数日。
今までの世界とはまるで違う生活に、二匹は傷つき疲弊しきっていた。
ふかふかで柔らかくて、いくらでも跳ねれた地面。
いつでも爽やかで暖かかった空気。
有り余るくらい取れた大量の食糧。
そして、快適な巣。
そのどれもが存在しなかった。
あの日、痛みから何とか起き上がったまりさは、泣いてるれいむを宥めて、進みだした。
奇しくも街中のゆっくりのように、無言でずーりずーりと底面を這わせての移動だった。
それもまるで鑢の上を歩くように激しい痛みを与えてきたけれど、跳ねて進めばどんな目に合うか解らないので仕方がない。
しかし、歩けど歩けどかつての群れにたどり着けない、と言っても痛みで悶えたり、慣れない本当の地面で疲れたりで50mも進めていなかったのだが。
段々暗くなり、異様な寒さに餡子が芯まで冷え切りそうになったまりさは、泣きつかれたれいむの為に巣を作ることにしたのだが。
かつての巣作りは、木のオブジェの根元に立てかけられた枝を外すだけの作業。
それしか巣の作り方を知らないまりさは、大きな木の根元を舐めたり、お下げで叩いたりするしかなかった。
「おでがいでずぅううぅう!! きさん! ばりざにおうぢをくだざいいいい!!」
そんな声と、必死に土下座する声が森に響いていた。
しかし、そんなことで巣が出来るはずもなく、まりさはれいむに謝って木の根元で身体を寄せ合って眠った。
季節は本当の秋、作られた秋ではない寒さと豊穣の季節、外で寝るには寒すぎた。
二匹は、いつまでも泣きながら身体を擦り合わせていた。
そして今にいたる。
相変わらず木の根元を拠点にしている二匹だったが、その生活はギリギリを通り越してアウトだった。
まりさは、体中傷だらけ泥だらけで、痛みで泣くから涙の跡が頬に染み付いて、そこに更に泥などがついて怪しい化粧のようになっていたし。
髪はぼざぼさで、今まで傷一つなく大事にしてきた帽子はヨレヨレ、栄養不足で頬はこけて、寝不足で隈が出来ている。
れいむは狩りにいかない分まだましかと言われればそうでもない、まりさに巣作りを任せられたれいむは、木の根元で日がな懇願したりしているので疲労が限界に達していた。
腹に子を宿しているのもあり、頬がまりさよりもこけている。
以前は、朝に狩りに行き、大量の食糧を取ってきていたまりさだけれど、今では一日中這いずり回って、僅かな、しかも苦くて硬い草をとってくるだけになっていた。
「ごめん、でも ぜんっぜんごはんさん なくて……」
「ゅう、これじゃ、おちびちゃんがゆっくりできないよ……」
申し訳なさそうに頭を下げるまりさから目を逸らして、れいむは自分のお腹を見つめた。
「まりさは かりのたつゆんじゃなかったのぉ? ひもじいよう……」
「っ!」
意図はあったのかなかったのか、まりさに対して責めるような言葉を向けた。
その言葉に、まりさは唇をかみ締めて震えだした。
「れ、れいむこそ、おうちはまだできないの? もう、なんにちたってるとおもってるの?」
そして、まりさは自分で思っていた以上に強く、非難するようなことを言ってしまう。
言ってから、少し罪悪感を覚えたけれど、毎日毎日必死に狩りをしているのは自分なのだからと正当化しようとしていた。
しかし、れいむはまりさの言葉にワナワナと震え、歯を食いしばった。
「こんな、こんなニガニガさんしかとってこれないまりさに なんでれいぶがせめられないど いげないのぉおおおぉおお!!!」
「ゆひっ……!」
涙を流して叫び、びたんびたんと身体を暴れさせるれいむに、まりさは息を呑んで一歩引く。
「ぼう! ごんなぜいがついやだよぉおおぉおおお!!! おながすいだよぉおお!!」
「れ、れいぶ、れいぶぅ! ごめんね、ごべんねぇぇえ!!」
「「ゅ、ゆわぁぁぁぁああんん!!」」
二匹はまるで輪唱をするように声を合わせて泣き続けた、疲れ果てて眠ってしまうまで。
朝、どちらともなく起き出した二人は、お互いの愛情を再確認しようとザラザラの肌ですーりすーりを繰り返していた。
そして、ぽつりぽつりと話し出した。
「おちびちゃんは ゆっくりさせてあげなきゃね、れいむ」
「そうだね、まりさ、あったかいおうちで、おいしいごはんをむーしゃむーしゃさせたいね」
「ゆん、そうだね、おちびちゃんはゆっくりできるもんね、がんばろう……かりに、いってくるよ」
「いってらっしゃい、れいむも おうちをつくれるように がんばるね」
二匹は、これから生まれる子供の為に、頑張ろうと誓い合って、それを糧に動き出した。
まりさは食糧を、れいむは住居を。
それぞれ必死で求めることにした。
しかし、必死になっても、野生知識0の二匹では何も出来ることはなく。
まりさは口や舌を傷つけながら、硬い草を少量とって来て、れいむは木に対する懇願を続ける、ただそれだけだった。
なるべくれいむに優先的に食事をさせて、生まれてくる子供の栄養に回すようにさせていた。
流石にまだ慣れはしないし、今まで甘いゆっくりフードを食べていたので苦い草なんか受け付けないけれど、食べなければ死ぬので二匹は必死に食べて暮らしていた。
そして、予定よりかなり遅れて、ついに子供が出産のときを迎えた。
今日ばかりは暗い表情を消して、二匹は新しい我が子の誕生に笑顔を浮かべる。
「ゅぎぎぎぎ、う、うばれる、よぉお!!」
「れいむ! がんばって! おちびちゃんはまりさがうけとめるよ!」
体中に気持ち悪い汁を浮かべて踏ん張るれいむの前で、まりさは帽子を咥えて構える。
これから飛び出る我が子を受け止めるために、そしてそのときは来た。
「ゆっ、ゆっ! ゆっぽぉおぉおおお!!」
「しぇかいいち ぷりぷりてぃーなれーみゅがこうっりんしゅるよぉおおお!!」
尊大な声を合図に、子れいむがまりさの帽子に飛び込んできた。
「ゆ、ゆわぁぁぁああ!! てんしさんのたんっじょうだよぉおお!!」
「ゆぎぐ……あ、あれ? もうひとりおちびちゃんがいるきがしたのに……」
涙を流して誕生を喜ぶまりさとは対象的に、れいむは不思議そうにない首をかしげていた。
れいむは、子供は二匹いると考えていたのだけれど、生まれたのは子れいむ一匹、お腹に残っている様子もなかった。
「ゅう……ゆっ、ふしぎなこともあるんだね! おちびちゃーん、れいむがおかーさんだよ!」
直ぐにその不思議を餡子の隅に追いやると、バカ面下げて生まれた子れいむに近寄っていった。
「ゆげっぴゅ、おきゃーしゃん! おとーしゃん! ゆっくちしていってね!」
「「ゆっくりしていってね!」」
生まれて初めての挨拶をしてくれた子れいむに、二匹は全力の「ゆっくりしていってね!」で返す。
「まりさのおちびちゃん、とっても、とぉってもかわいーよぉお!!」
「ゆぅぅん! かんっどうてきだよぉお!!」
「げっぴゅ、れーみゅきゃわいい?」
「「とうっぜんだよぉおおお!!」」
この森に捨てられ、もとい野生に返されて久しぶりのゆっくりを全力で堪能していた。
それも長くは続かなかったのは当然極まりないけれど。
……。
…………。
「しゃっしゃと さいしょのあみゃあみゃもっちぇこぉおぉおおおい!! このクズおやどもがぁぁぁああ!!」
「お、おちびちゃん、お、おちついてね! おちついてね!」
子れいむ誕生から数日。
れいむは必死に子れいむを宥めようとしていた。
この子れいむ、何故だか苦い草はまだしも、まだましな草などを優先的に食べさせているのに、どれも食べては吐き出すを繰り返していた。
そして、食べさせたことなどない筈の「あまあま」をしきりに要求してくるのだった。
ほとんど食事を取らない取れない状況に、未だに巣はない、自分をゆっくりさせない親に子れいむは簡単にゲスの兆候を見せている。
れいむとまりさがいたような、満たされた空間ではゲスは生まれない、何故ならゆっくりで満たされているので、それ以上を求めないからだ。
そして、他の者も自分と同レベルのために、向上する意欲も生まれない。
だから、ゲスは存在しなかった。
そのために、この子れいむは二匹が始めて出会うゲスだった。
ゲスと言っても可愛い我が子、ゲスを知らないこともあるし、ゆっくりさせてあげられてない自覚もあったので二匹は精一杯頑張っていた。
まりさは、気絶するくらいまで頑張って狩りをして帰って、子れいむに罵られて。
れいむは、まりさが帰るまで子れいむの癇癪を受け止めながら木に「おうぢをぐだざいぃいいい!」と頭を下げる日々。
「おでがい、じばず、きさん、おうぢぃ……」
「しゃっしゃと! あみゃあみゃもってこい! ゲスクズゴミカスおやぁぁぁ!!」
必死に木に頭を下げるれいむの身体に、子れいむは何度も体当たりを繰り返していた。
肉体的なダメージはなく、ただただ心が痛いその行為にれいむは枯れない涙を流していた。
「れい、む……ただ、いば」
「ゆぅう、まりさ、おがえりなざい……」
大分暗くなった頃に、帽子にも穴が開いてボロボロのまりさが帰ってきた。
お互いに目を合わせて、収穫がなかったことを理解して落胆する。
そんな二人の悲哀をぶち壊すように、子れいむは声をあげた。
「ゆきゃきゃ! ゆっくりできないクソおやがかえってきたよ! きょうこしょはあみゃあみゃとれたにょ!? まともに かりもできにゃいの!? このむのー!!」
「ゆぎっっ!!」
かつては、自分のことを「かりのたつゆん」と称したまりさである、狩りについて貶されるのが何よりゆっくり出来なかった。
たとえ、それが用意された場所でしか得られない称号であっても、その事実を知らない限りでは一生「かりのたつゆん」だったのだから。
それでも、平和にゆっくりしたゆん生を送ってきたまりさは怒りという感情の置き場を知らずに、ただ我慢するだけだった。
「ごめん、ごめんね、おちびちゃん、すくないけど、これたべてね……れいむ、はなしがあるよ」
「ゆん?」
どうにか手に入れた柔らかい草や木の実を子れいむに渡すと、れいむを呼んで話をする。
「もう このきさんは まりさたちにおうちをくれないみたいだから ここをいどうしよう、どうにかしてむれにかえろう!」
「ゆっ! …………ゆん、そうだね、ここにいたらおちびちゃんもゆっくりできないしね」
まりさの提案にれいむは頷いた。
子れいむは「げろまじゅ! こんにゃのしかとってこれないむのーはしね!」と、食べては吐き出して、一番美味しい部分だけを食べていた。
そんな我が子の姿をしばらく眺めてから、れいむとまりさは明日の移動の為に、吐き出された草をもそもそ食べだした。
「ゆきゃきゃ! こにょクジュはへんったいだね! れいみゅのつばしゃんがついたのがだいしゅきなんだから! きみょいよ!」
「「……むーしゃむーしゃ」」
笑われながらもそれに耐えて、どうにかして群れに帰りたいと二匹は無言で涙を流した。
「ゆゆ? にゃににゃいてりゅの? れいみゅがこわかったの? ゆぷぷ! なさけにゃいね! ゆぷぷ、ゆぷぷ!」
「「…………」」
……。
…………。
「ゆへ、ゆへぇえ、まだ、つかないの、お」
「ば、ばりざ、そろそろ、おちびちゃん、かわるよ……」
次の日、起きてから直ぐに二匹は行動を開始した。
近場にある枯れ草などを食べてから、子れいむを頭に載せて必死に森の中を進んでいく。
交互に子れいむを運んで、ぐずる彼女をあやしながら、群れに帰ることを夢見て進む。
どこがゴールかも解らず、つい先日までぷにぷにだったあんよをガチガチのまっくろにして、綺麗だったお飾りをボロボロにしながら必死に必死に這いずり回っていき。
「「ゆ、ゆわぁああぁああ!!」」
「ゆ? にゃんにゃの?」
三匹がたどり着いたのは一面の野菜野菜野菜。
中にはかつて餌として与えられていたものもあり、久しぶりにゆっくりした食事が取れると二匹は涙を流して喜んだ。
寝ぼけている子れいむを、まりさは頭から下ろすと自信に満ちた大声で話す。
「みて! おちびちゃん! これがきょうのごはんさんだよ! たっぷりたべてね!」
「ゅ、ゆわぁああ!! こりぇじぇんぶれーみゅの!?」
「「ゆふふ、おちびちゃんゆっくりしてるね!」」
目を輝かせて、野菜の群れに飛び込んだ子れいむを二匹は幸せそうに見つめていた。
子れいむはとりあえず手ごろな野菜に齧り付いては、違う野菜にと食べながら移動していく。
「まぁまぁ! これめっちゃまぁまぁ! さいしゃのあみゃあみゃにはまけるけど、めっちゃそれなりぃ!」
子れいむは「それなり」を連呼しながら、どんどん食ながら進む。
その姿に笑みを浮かべていた二匹も、そろそろ自分もと久しぶりの満足いく食事を始めた。
「「むーしゃむーしゃ! しあ 「にゃにやってるにょぉおお!!」 ゆ?」」
二匹が食事を始めたら、野菜を掻き分けて子れいむが鬼の形相でやってきた。
「お、おちびちゃ……」
「いま! にゃにをやってちゃの!?」
「む、むーしゃむーしゃ、だよ? どうしたの、おちびちゃん?」
あまりの形相に怯えながら、二匹はそう告げた。
その言葉に、子れいむは怒りを露に震えて叫びだす。
「これは! じぇんぶれいみゅのだよ!? おまえら みたいなむのーなクズに いっこでもわけてあげりゅと おもったにょぉおお!?!?」
「「ゆ!?」」
確かにさっき「こりぇじぇんぶれーみゅの」とか言ってはいたが、まさか本気とは思わず二匹は固まる。
「れーみゅをゆっきゅりさせにゃかったばちゅだよ! そこでれーみゅのむーしゃむーしゃタイムをみててね! たべたかったら さいしょのあみゃあみゃもっちぇこい! このクズ!」
口の周りに野菜クズをつけたまま、生みの親たる二匹を大声で怒鳴りつけて行く。
そのあまりにもあまりな態度に二匹は硬直してしまっていた。
そして、れいむは前から気になっていたことを恐る恐る聞くことにした。
「お、おちびちゃん? まえからいってる、さいしょのあまあまって、なに? れいむ、あまあまなんかあげたおぼえない、よ?」
子れいむがことあるごとに引き合いに出してきた「さいしょのあまあま」その存在がふと疑問になり、れいむは質問した。
その言葉に、子れいむはあからさまにれいむを小馬鹿にした表情を作り、語りだした。
「ゆふぅ、まっちゃく ゆっきゅりしてにゃいおやは あたまだけゆっくちしちぇってるんだね! れいみゅがうまれるまえに おまえのぽんぽんの なかにおいてあっちゃしゃべるあみゃあみゃだよ! れーみゅのこちょをおねーちゃんとかよぶ ずーずーしいあみゃあみゃだよ!」
「…………」
「ゆ、どーゆーこと? れいむ? れいむ?」
れいむは子れいむの言葉と一緒に、生んだときを思い出していた。
「そうだよ……ふたり、いたんだよ……」
「ゆ?」
ぶつぶつ呟くれいむを、まりさは心配そうに覗き込んだ。
まりさは理解出来ていなかった、何故なら腹に子を宿したのれいむだったから。
そして、れいむはしっかりと理解した、してしまった。
栄養が足りなくて、この子れいむは一緒に生まれるハズだった妹を食べたのだと。
想像すらしていなかった禁忌の同属食いに、この態度。
平和に暮らしていた、作られた森で生きていれば一生知らなかっただろう怒りがれいむを支配していた。
「こ、ごのぉおおぉおおおおおぉおお!!!!」
「ゆぴ?」
「れ、れいむ? どうしたの? どうしたのれいむ!?」
怒りを叫びに変えて、大地が震えるように声を弾き出した。
今まで喧嘩すらしたことのなかったれいむは、怒りをどうしたら良いか理解出来ずに、涙と声で発散していた。
「ゆぅ、きみのわりゅいゆっきゅりだね れーみゅはむーしゃむーしゃにもどりゅよ! ゆぴょ!?」
大声で叫び続けるれいむを見限って、子れいむは再び野菜を食べに行こうとして何かにぶつかった。
「にゃ、にゃにしゅりゅの!? れいみゅのきゃわいしゃに しっちょしにゃいでね!」
『ったく、これから収穫だってのに、ざっけんなよ、協定はどうしたんだよ糞ゆっくり!』
子れいむがぶつかったのは、れいむの叫びを聞いてやってきた畑の持ち主の青年だった。
この畑がある村は、まりさたちがやってきた森にある群れと協定を結んでいた。
もちろん相互の理解なんてものはなく、人間が仕方なく住まわせてやっているレベルで、用もなしに森から出たゆっくりは直ぐに潰されるし野菜に手を出すなんてもっての他だ。
無論、まりさたちは群れのゆっくりではないけれど、人間にはそんな違いはわからない。
これから収穫の野菜のいくつかを駄目にされたのだ、純粋に腹立たしいに決まっている。
「にゃにいっちぇるの! しゃっしゃとれーみゅにあやまっちぇね!」
「ゆぐがぁぁぁぁああぁああああ!!」
「れいむ?! れいむぅ!!」
彼の前では、子れいむが憤り、れいむが叫び、まりさがオロオロしていた。
青年は前からゆっくりが大嫌いだったが、協定の為に山狩りなどは出来ないでいたし。
森の群れのゆっくりはそれなりに優秀で、森から出ることはなかった。
しかし、今回野菜を食べられたことでゆっくりを根絶やしに出来ると青年は歪んだ笑みを浮かべていた。
……。
…………。
「ゆぎゃぁぁっぁああああ!! やべでぇっぇええ!! ゆるじでぇぇぇえええ!!」
「ゆるす! わけが! ないのぜ! おまえたちの! せいで! あやうく! むれが!!」
森の中にある群れの広場で、まりさが群れゆっくりたちに何度も体当たりをされていた。
あの後、青年が皆に話して群れのゆっくりを呼びつけたのだが、三匹が群れのゆっくりではないと解った為に、駆除の思惑は外れてしまった。
その腹いせにれいむは青年に踏み潰され、まりさと子れいむは群れに引き渡され、せいっさいの真っ最中だった。
何とか人間に目をつけられないように暮らしていたのに、余所者のせいで駆除されそうになったのだから群れの怒りは相当のものだった。
まりさは帽子を引きちぎられ、足を棒で裂かれた上で袋叩きにあっている。
子れいむは、というと。
「だしぇぇぇぇぇぇええ!! れーみゅをこんにゃくしゃいとこにいれちぇ ただですむとおもっちぇるにょ!?」
群れのうんうんを集める穴に放り込まれて、一生そこでうんうんを食べて暮らせと命じられていた。
子れいむは、そんなことは出来ないと大きな声で鳴いてはいるが、それは群れのゆっくりを楽しませるだけで。
「ゆぴゅ!? く、くしゃいぃい!! やめちぇ! うんうんしにゃい、ゆげぇぇえ!!」
「ゆぷぷ! あのゲスちび、ゆっくりしてないね!」
今もまた、子れいむ目掛けてうんうんが放られた様だった。
まりさはまりさで、ずっと暴行を受けてもはや意識が朦朧としていた。
そんな彼女の前で、大きなまりさと、ありすが何やら話をしているようだった。
「さいきん よそものがふえたのぜ」
「しかも、いなかものばっかりね、どーゆーことかしら?」
二匹の話すとおりに、最近森に見たことないゆっくりが増えてきたのだった。
もちろん、ゆふぁりパークで捨てられた、もとり野生に返されたゆっくりたちだ。
この森には、まりさたち以外にも何家族か捨てられていて、その何匹かがこの群れに着たり、村に行ったりしていた。
群れに来たゆっくりは、「かりのたつゆん」を名乗っていたくせに、まったく狩が出来ず、しかも巣も作れないし、何も出来ない能無しばかり。
そして、村に出たゆっくりのせいでこの群れが疑われて、今回のような駆除の原因になりそうになったりしていた。
長であるありすは大きくため息をついて、ボロボロのまりさを見つめる。
「どこのいなかからきたのかしら? このいなかものは」
野生に返されたゆっくりたいは、その大半が死に絶えて、残りは各地で様々な被害を起こしていた。
畑荒らし、人間に喧嘩を売る、子供のお菓子を狙う、住居侵入。
人間とうまくやっている群れの崩壊、野生ゆっくりとの諍いなど等。
数え上げたらキリがないほどの被害を出していた。
そんな被害の引き金ともなった愛護団体は、そ知らぬ顔で捨てゆっくりの問題に噛み付き、非常識な飼い主、虐待趣味について言及して
『ゆっくりを捨てるな! ゆっくりに愛を!』と歌っていた。
観察 家族崩壊 現代 独自設定 失礼します。
anko2611 ゲスゆっくり奮闘記1
anko2622 ゲスゆっくり奮闘記2
anko3414 ゲスゆっくり奮闘記3
anko3417 ゲスゆっくり奮闘記4
anko3456 れいむのゆん生
anko3458 まけいぬとゆっくり
anko3461 ゆっくりに生まれて
anko3484 ゆっくりブリーダー
anko3489 休日とゆっくり
anko3652 ドスについて
anko3715 ゆっくりに餌を
anko3729 はじめてのぎゃくたい
anko3730 はじめてのしいく
anko3794 まりさとの勝負
anko3843 野球部のゆっくり
anko3855 ゆっくりと会話してみた
anko3932 ゆっくり観察日記
anko3933 ゆっくりと子供
anko3953 しんぐるまざーの朝は早い
anko4016 虐められるためのゆっくり
anko4094 普通の人とゆっくり
「」ゆっくりの台詞
『』人間の台詞でお願いします
「ゆっくりおきるよ!」
朝のまだ早い、やや薄暗いだろう時間の、ある大きな群れ。
そこに所属する一匹のまりさが巣の中で声をあげた。
木の根元に作られた広く、またすべすべの巣の中、奥のベッドで寝ている番のれいむに、その子供たちを見ながら彼女はニッコリ笑う。
一家の長として、これから狩に向かう彼女は家族の寝顔を見て、それをエネルギーに頑張ろうとしているのだ。
それと同様の光景は、周囲に乱立する木の根元にある巣で数多く見られている。
それらを朝の日課を終えたのか、広い群れの敷地の木の根元からぞろぞろと父親役だろうゆっくりが出てくる。
まりさ種が一番に多く、次にみょん種、ちぇん種など活発なゆっくりが続き、れいむ、ありす、ぱちゅりーなどもチラホラ見られた。
まりさは、近隣のゆっくりたちに声をかけながら食事を探すために跳ねながら移動していく。
「きょうっも! おいっしい! ごはんっさん! たっぷり! あってね!」
疲れるだろうに、まりさはゆっくりらしく自分の考え行動を大声で喋りながら跳ねていく。
街中の、惨めに這いずって、黙々とゴミを漁るゆっくりとは対照的な伸び伸びとして姿。
他のゆっくりも同じように声をあげ、皆笑顔で飛び跳ねながら狩に向かっていっていた。
まりさはしばらく跳ねて、いつもの狩場にたどり着いた。
既に、そこには何匹ものゆっくりがいて狩を開始しているようだった。
早い者は、既に十分な食料を得てこれから巣に戻って家族とゆっくり過ごそうとしている者もいる。
「ゆっ! まりさも いそがないと!」
それを見て、まりさは同じく狩を始める。
「きょうっも おいしいごはんさんがたくっさんだよ! まりさはかりのたつゆんだね!」
目につく限りの食料をどんどん帽子に詰め込んでいき、ほんの短時間でまりさの帽子と口の中は食料で埋め尽くされていた。
通常の野生ゆっくりの数倍の食料を手にしたまりさは、笑顔のまま巣に向かって跳ねだした。
「ゆふふ、きょうも たっくさんごはんとれたよ! これで、れいむもおちびちゃんも おおよろこびだよ!」
相変わらずの不思議饅頭、口を閉じたまま喋ってニヤニヤ気味の悪い笑顔を浮かべていた。
そして、自分の巣に飛び込むようにして入る。
「ゆ! ゆっくりただいま!」
「ゆ! まりさおかえりなさい!」
「「おちょーしゃん! おきゃえりなしゃい!」」
まりさの声に、既に起きていて朝のうんうんの真っ最中だったらしい子供と、その手伝いをしていたれいむが声を返した。
大き目の葉っぱの上に、うんうんをさせていたれいむは、それを舌で器用に丸めると巣の奥に開いた穴に落とした。
「ゆふふ、きょうもしっかりうんうんできたねおちびちゃん」
「ゆっ、それはえらいね! たくさん うんうんして どんどんおおきくなってね!」
「「ゆ! わかっちゃよ! しょれよりごはんにしちぇね!」」
毎日うんうんするのは健康と成長の証、親からそう言われて育ったまりさとれいむは、子供のうんうんに笑顔を浮かべて頷きあう。
二匹の子まりさ子れいむは、褒められたのは嬉しいけれどお腹が空いているのが優先なようで、涎を垂らしながらまりさを見つめていた。
「ゆ! ごめんねおちびちゃん、ついわすれちゃってたよ! すぐにごはんにしよーね、れいむおさらをよういしてね!」
「ゆっくりりかいしたよ! ゆっしょゆっしょ」
まりさの声に、れいむ巣の奥から大きめの葉っぱを持ってきた。
「ゆっぺ! ゆふふ、きょうもおいしいごはんがたっくさんだよ!」
「「ゆ、ゆわぁぁああ!! おいちちょー! おちょーしゃんしゅごーい!!」」
口の中のご飯を葉っぱに吐き出すと、子供たちは目を輝かせうれしーしーまでしながら喜んでいた。
それに「ゆふゆふ」笑いながら満足したまりさは、帽子の中の食料を奥の食料庫に放ってから戻る。
しっかり躾をされているのか、その間も子供たちは涎を垂らしながらも、ご飯には口を着けず待っている。
子まりさは、お下げを振り回しながら「ゆわゆふ!」と目を輝かせて涎を垂らしていて。
子れいむは、もみ上げをピコピコさせながら、何故か底面を持ち上げもるんもるんと振っていた。
「ゆわぁ、おちびちゃん とってもぷりてぃーだよぉ♥」
「まりさもおなじきもちだよ! さ、あんまりおちびちゃんをまたせたら かわいそうだから ごはんにしようね!」
親子四匹で大きな葉っぱに乗った山盛りの食料を囲む。
二匹の子供は、今か今かと涎を垂らして、二匹の親はその可愛さに頬を緩ませていた。
そして。
「それじゃ、ゆっくりいただきます!」
「「いちゃじゃきまーーす!! はむ! ぐちゃぐちゃ! はぶ! ぱにぇ! これ! はんぱねぇ!」」
汚れるのも構わず、大量の食料に頭から突っ込んで尻を振りながら貪って行く二匹を、両親は優しく見守る。
「ほんとにゆっくりしてるね!」
「まりさのおかげだよぉ、おいしいくささんに、きのみさんに、おちびちゃんが だいすきなちゃいろさん、こんなにたっくさんとってきてくれたから……まりさは ほんっとうにじまんのだんなさんだよ!」
「ゆふふ、それほどでもないよ、まりさはれいむたちが いるからがんばれるんだもん」
二匹は身体を寄せて、親愛を表す優しいすーりすーりを繰り返す。
寒さを凌ぐのではなく、性欲の発散でもない、お互いの頬をゆっくり優しく、暖かさを確かめ合うような行為を、最愛の子供を見ながら繰り返した。
「「ゆげっぴゅ! みょう いらにゃいよ! ゆっぷ!」」
山盛りの食料の一部を貪り切った二匹は、食べ進んだ所で食べかすだらけの体を仰向けにして、膨らんだ腹を見せつけながら動きを止めた。
「ゆふふ、たっくさんむーしゃむーしゃしたね! おちびちゃん、ぺーろぺーろしてあげるよ!」
「ゆひゃひゃ! くしゅぐったいよ!」「れいみゅも! れいみゅもしちぇね! すぐでいいよ!」
れいむは、二匹の身体についた食べかすをその長い舌で舐めとっていく。
その姿を見ながら、まりさは幸せに浸っていた。
優しい妻に、可愛い子供の成長、これ以上の幸せはないと信じて笑みを浮かべる。
「ゆふふ、みんなゆっくりしてるね……」
これまでの自分のゆん生を振り返って、苦労を思い出すと涙が出そうになるが、まりさは父親としてそれを飲み込む。
子供の頃の姉妹の死、何回も経験した越冬、おうち作りの苦労、れいむとの熱愛、狩の辛さ。
様々な記憶が、今の幸せに繋がっていると思うと、感情が震えだしていた。
「まりさ? どうかしたの?」
「ゆっ!? な、なんでもないよ……おちびちゃん、ねちゃった?」
「うん、みて、かわいいねがおだよ……」
静かになったまりさを心配して、れいむが声をかけてきた。
それにビクッと反応して、目線をれいむに向けると、彼女はお腹を一杯にして眠りだした子供二匹を優しく見つめていた。
まりさたちは、食事をしたら直ぐにご飯あとのすーやすーやを始めるのは、大きくなる秘訣だとそう教わっていた。
まりさは、ずーりずーりと底面を静かに這わせて、草のベッドで眠りにつく子供たちの頭をお下げでそっと撫でる。
「ゅ、ゅぴぴ、れーみゅの、こんしゃーとに、あちゅまってくれて、ゆぷぅ」
「ゆぴー、ゆぷー、まりしゃ、ちゅいにどしゅになっちゃの じぇぇ、ゆぴぴぅ……」
寝言を漏らしながら、幸せ一杯の寝顔を見せている二匹を、まりさとれいむは満面の笑顔で見つめる。
「かわいいね、おちびちゃん」
「うん、れいむも そうおもうよ」
しばらくその幸せをかみ締めるように、寝顔を堪能した二匹は、静かに子供の食べた後の食事を開始した。
時より、ベッドの方を見て、夫婦で微笑みあったりしていた。
食事を終えて、余った食料をれいむが色々分別するのを見ながらまりさは外を見つめる。
「……れいむ! まりさ ちょっとおさんぽしてくるよ!」
「ゆ! わかったよまりさ、おひるにはかえってきてね!」
「ゆん! あたりまえだよ、それじゃあ おちびちゃんをよろしくね!」
れいむに子守を任せると、自慢の帽子を一番格好良いと思っている角度で被って巣の外に出る。
「ゆっゆ~ん! きょうもいいてんきだよ!」
朝の狩では急いでいて感じる暇もなかったけれど、今日も空は青空で心地よい暖かさだった。
「そろそろなつさんがくるんだね」
まりさは夏が好きだった、暖かいし、何よりまりさが生まれたのは3回前の夏。
子供が生まれたのは秋の終わり、そう考えると秋も好きだなと、まりさは考えていた。
「むきゅ、まりさ、こんにちは、おさんぽかしら?」
「ゆ? おさ! ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね」
暖かい森の中を進んでいたら、まりさの所属する群れの長であるぱちゅりーが声をかけてきた。
この長ぱちゅりーは、10回以上のの越冬を経験した頼れる長だった。
「まりさ、おちびちゃんはげんきかしら?」
「げんきだよ! きょうもごはんさんたーっぷりたべて いまはすーやすーやタイムのまっさいちゅうだよ!」
「それはよかったわね、おちびちゃんがおとなになるまでのにねんかん、しっかりそだててあげるのよ?」
長の言葉にまりさは笑顔で、自信に満ちた笑顔で頷いた。
「とうっぜんだよ! まりさがそうしてもらったんだから、まりさもおちびちゃんをたいっせつにそだてるよ!」
まりさの言葉に満足したのか、長はニコニコ頷いて、ゆっくりとその場を後にした。
その後ろ姿を見送ってから、まりさはまた進み出した。
周りには、もう季節を一回りして子ゆっくりサイズになったゆっくりたちが声をあげて走り回って遊ぶ姿が見える。
それを横目に見るように、親ゆっくりが複数集まって世間話をしたりもしていた。
「ゆふふ、みんなゆっくりしてるね」
その光景に笑顔を浮かべながら進み、ちょっと開けた池がある場所に出た。
「ゆっ、こんなとこまできちゃったんだね」
まりさはうっかり遠出してしまったことに驚きながらも、ゆっくり池に近づく。
この池にはにとり等が住む他に、群れの皆の大切な水分補給の役目を担っているのだ。
歩きつかれたまりさは、池に近づいて水を飲むと、しばらくその場で休憩を始めた。
「……ゆっ、そろそろかえるよ! おちびちゃんとごはんにしなくちゃね!」
十分ゆっくりりたのか、思い立って直ぐにぴょんぴょん跳ねて巣に向かう。
周りにも同じように、跳ねて巣へ戻ろうとするゆっくりが何匹もいた。
そのゆっくりに負けないように跳ねて、まりさはれいむと子供の待つ巣に向かった。
「ただいま! ゆっくりかえったよ!」
「ゆっ、まりさおかえりなさい」
「「おちょーしゃん! おきゃえり! おにゃきゃしゅいたよ!」」
巣に戻ると、れいむと遊んでいた可愛い我が子が出迎えてくれた。
相変わらず食欲旺盛な子二匹だけど、それがまた可愛らしく感じられるのか、まりさは明るい笑顔を見せた。
「れいむ、またせちゃったみたいだから、さっそくごはんさんにしよーね」
「わかったよ、ちょっとまっててね!」
「ぎょはんだよ! まぃちゃのむーしゃむーしゃタイムだよ!」「れいみゅのむーしゃむーしゃだよ!」
まりさの声に、二匹は直ぐに涎を垂らして、また嬉しーしーを漏らしながら震えていた。
「まったく、おちびちゃんはくいしんぼうさんだね! ゆふふ」
「ゆっ、みんなごはんだよ!」
れいむが朝のように大き目の葉っぱに、食糧庫に保存しておいたものを持ってきた。
一番多く取れて、保存の利く茶色いものがメインに、乾燥した山菜なども乗せてあり、それなりに彩りがある。
「それじゃあ、ゆっくりいただきます!」
「「いちゃじゃきましゅ! はぐむぐ! むーしゃむーしゃ! ぱねっぇ! こりゃむっちゃぱにゃい!」」
食事が開始されれば朝の焼きまわしだ。
尻を振り乱しながら、お下げともみ上げをピコピコさせて、全身で食糧に突っ込んで食べるだけ食べたら眠る。
理性と対極に位置してそうなその姿を、親二匹は笑顔で見つめていた。
我が子が成長するに必要な栄養を全力で摂取しているのだから、当然のように幸せなのだろう。
「「おちびちゃん、いっぱいたべて、いっぱいおっきくなってね!」」
…………。
………………。
「いたいよぉおおおぉお!! れーむのあんよがいたいよぉおおおおお!!」
「ゆ、ゆぁ、ゆわぁあああ!! お、おちび、おちびちゃんがぁああ!!」
「れ、れいむ、おちついて! まずはおちついてね!!!」
一冬越えた春先、もう外に出られるくらい大きくなった二匹の子供の内、子れいむが転んで底面、あんよを切る大怪我をしてしまった。
ゆっくりにとって足の怪我は死活問題、即座に死ぬ危険はないけれど、治さなければ一生の問題になってくる。
れいむは、それを解っていて大声でうろたえていた。
その姿に、自分だけはしっかりしなくてはと、まりさは語調を強くしながら叫ぶと、どうしたら良いかを考える。
そして、直ぐに思い至ったのか、ハッと息を呑んだ。
「おさに、おさにきけば なおすほうほうが きっとわかるのぜ!!」
「ゅ、ゆう?」
「おさはなんでも しってるのぜ! まりさがいまからおさにきいてくるから まってるのぜ!!」
まりさはゆっくりしないで、巣の外に出た。
外はもう暗くなっていたけれど、関係ない。
どこからか「う~う~」と、れみりゃの声が聞こえて来たけれど、大切な子供の為に危険も顧みず走り出した。
「おちびちゃん! まっててね、いま まりさ、が……ゆぴぃ、ゆぷ~」
……。
…………。
「ゅ? ゆっくりおきるよ! ……ゆ?」
翌朝、いつもみたいに巣の中で目を覚ましたまりさは、不思議な気分に包まれた。
「ゆぅ?」
しかし、それが何だったかは思い出せなかった。
ただ、何か妙だなぁ、と思っただけで直ぐに忘れ、いつものように寝ている家族に見て笑いそして狩にでかけた。
「まりさはかりのたつゆんだから、きょうも たっくさんごはんとってくるよ!」
そっと見たベッドの中の子れいむ、まりさに向けているあんよの一部が薄っすら色が変わっていたが彼女はそれに気付かないで跳ねていった。
いつものように狩に向かう皆の流れに乗って狩場に向かうと、いつものようにご飯を口と帽子につめて、来た道を引き返す。
家につくと、何やら中から声が聞こえてきた、どうやら家族が起き出したようだ。
「ゆっ、ただいま!」
「おちびちゃん、ほんっとにだいじょうぶ? どこかへんなとこはない?」
「ゆぅ? なにいってるのおきゃーしゃん、れーむどこもいたくないよ?」
「おとーしゃん、おかえりなのぜ! まりさもそろそろかりにいきたいのぜ!」
まりさの声に反応したのは子まりさだけで、れいむと子れいむは何やら話していてこちらに気付いていないようだった。
しばし、そろそろ狩に行きたい言う野球ボールくらいの大きさになった子まりさと話してから、れいむと子れいむに声をかける。
「れいむ、いったいどうしたの?」
「ゆ、まりさ……」
「おかーしゃんが、さっきかられーむにだいじょうぶ? だいじょうぶ? ってきいてくるんだよ! れーむどこもいたいいたいじゃないのに」
れいむは心配そうな顔で、子れいむをチラチラ見ながら、子れいむはちょっと不機嫌そうな顔でまりさを見てきた。
「れいむ、おちびちゃんがどうかしたの?」
「まりさ、なんだね、おちびちゃんが いたいいたいだったきがするんだよ でも おちびちゃんはだいじょうぶっていうし」
不確かながら、何やら不安を感じているらしいれいむを、まりさは優しくぺーろぺーろした。
「ゆふふ、れいむはやさしいね でも、おちびちゃんは れいむがまもって くれてるから きずひとつないよ」
「ゆぅ~ん、まりさぁ、ありがとうね、れいむ あんっしんしたよ! ぺーろぺーろ」
まりさの行為でれいむは安心したのか、不安そうな顔を引っ込めて笑顔を浮かべた。
れいむが自分の心配をしなくなったので、子れいむはまりさが取ってきた食糧の前で食事の合図を今か今かと待っていた。
それは子まりさも同じらしく、チラチラ親を見ながら涎を垂らす。
「ゆっ! れいむ、そろそろごはんさんにしようね! おちびちゃんがまってるよ!」
子二匹に気付いたまりさは、れいむに声をかけてゆっくり這いずって朝食を始めた。
それからしばらく平和な春が過ぎて、異変は夏に起きた。
そろそろまた秋が訪れてるちょっと前、子ゆっくり二匹が巣立ちをする目前の時期だった。
毎朝のように狩に出かけたまりさは、狩場に起きている最近の変化に声を漏らした。
「きょうも くささんがないよ……ゆん、さいきん ずっとだよ でもちゃいろさんが たくさんあるから だいじょうぶだね!」
ここ数日、普段持ち帰っていた山菜や、木の実などが丸っきり姿を消していたのだった。
その代わりに大量に置かれていたのは、普段は草よりやや大目くらいにある茶色い食べ物。
とりあえず他にないし、それは甘くて美味しいので持ち帰って皆で食べることにした。
「ゆ! かえるよ!」
声をあげて跳ねだした、周りには他のゆっくりも元気に巣に戻っているところだった。
まりさは、その波に乗るように負けぬように跳ねながら、また微妙な違和感を覚えた。
「ゆ…………きのせいだね!」
何だか、少し周りのゆっくりが少ない気がしたけれど、まりさは気にせず家路を急ぐことにした。
「ただいま! きょうも ちゃいろさんがたっくさんだよ!」
「「やったー! おとーさんありがとー!」」
「まりさ、おつかれさま!」
巣に戻れば、もう大分大きくなって巣立ち目前の子二匹と、新たにお腹に子を宿したれいむが迎えてくれた。
いつものように葉っぱにとってきたものを置いて、残りを保存する。
そうしてから、皆で朝の食事を始める。
もう頭から食糧に頭を突っ込むこともなくなった子れいむと子まりさと同じタイミング食事を始める両親は、二匹に巣立ちについて色々と教えているようだった。
巣の作り方、番の見つける基準、子育ての仕方、それらを思い出話と交えながら楽しそうに語っていく。
「ふたりとも まりさの じまんのおちびちゃんだから とってもゆっくりした かぞくをつくれるよ!」
「「ゆん! ありがとうおとーさん!」」
食事を終えると、子ゆっくり二匹は友達と遊びに外に跳ねていった。
既に二匹には意中のゆっくりがいるらしいので、目的はどちらかと言うとそちらだろう。
まりさは、二匹が跳ねていった巣の出口を皆がら息を吐く。
「もう おちびちゃんも すだちのじきなんだね」
「そうだね、まりさ……このおちびちゃんも きっとゆっくりしたこにそだてようね」
まりさの声に聞いて、れいむは揉み上げで自分の膨らんだ腹部を撫でる。
大分大きくなり、そろそろ生まれる新しい我が子に、慈愛の笑みを向けていた。
それは、まりさも同じで、優しい視線でれいむの中の我が子を撫でるように見つめる。
「まりさと れいむのこなんだから きっとゆっくりしたこになるよ!」
「ゆふふ、そうだね」
二匹は寄り添い、次の生まれてくる子供のことを熱心に話し合った。
それから数日経ち、相変わらず山菜が取れない日々が続き、秋になったある日二匹の子供は両親にこう切り出した。
「おとーさん、おかーさん、まりさとれいむははなしが あるのぜ」
「ゆん……わかってるよ」
「ゆぐっ、ゆぐ、ゆあーん! ゆあーん!」
子まりさの真剣の表情から内容を察したまりさは重く、そして嬉しく受け止めて。
れいむは、内容を察した上で寂しさから声をあげて泣いていた。
子れいむ、子まりさも何かに耐えるように身体を震わせ目に甘い涙を浮かべながらも笑顔を浮かべて話し出した。
「れ、れいびゅと、ま、まりじゃは、ひ、ひとりだち、するよ!」
「いばばで、ぁりがぼうなのぜぇ!!」
「ゆん、ゆん……こちらこそ、だよ」
「ゆわぁぁあん! やだよ! やだよぉおお!! いっちゃやだよぉおお!!」
涙を流さぬようにする三匹の分も泣くように、親れいむは大声で泣き続けた。
それでも、時間は残酷に過ぎて行く。
子れいむの番になるちぇんが迎えに来たところで、子まりさもこれから番になるありすと迎えに行くと言うので巣を出て行った。
れいむは最後の最後まで二匹にすーりすーりを繰り返して、二匹が巣を出てからもずっと大きな声で泣いていた。
「ゆん、れいむ すーりすーり、だよ」
「ばりざぁぁあああ!! おちびちゃんが、おちびちゃんがぁああ!!!」
「ゆん、だいじょうぶ、きっとすぐに かわいいおちびちゃんをつれて あいさつにきてくれるよ、ゆん」
泣きじゃくるれいむを、まりさはずっと優しく優しくあやし続けた。
その日まりさは、泣きつかれたれいむをぺーろぺーろして、一筋だけ涙を零すと、れみりゃの声を聞きながら眠りについた。
……。
…………。
………………。
「ゅ? なんだか、さむい、よ? ゆぅ?」
まりさが目を覚ますと、そこは見たこともない場所だった。
今まで住んでいた森の中と違う、暗く鬱葱と草が茂り、ジメッとした地面の上にまりさはいた。
「どこ……ここ……」
呆然としながら、まりさは周囲を見回すと直ぐ後ろには番のれいむが寝ていた。
頬に涙の跡をしっかり残したれいむの身体を、まりさは自分のお下げで優しく揺する。
「れいむ、れいむ! おきてね!おきてね!」
「ゅ、ゆうん、なに、まりさ、もうかりはおわったの? ゆ? ゆ? なんで、れいむおそとにいるの」
寝ぼけ眼を揉み上げで擦っていたいたれいむは、自分がいる場所を認識して目を覚ました。
まりさと同じく周囲をキョロキョロ見回してから、不安そうな顔を見せる。
「ま、まりさ、こ、ここ、どこ? なんだか ゆっくりできないよ……」
「まりさも、わからないのぜ……むれのもりとは なんだかちがうみたいだよ」
まりさは言いながら、群れのあった森を思い出す。
柔らかく歩きやすい地面に、綺麗で巣になる木、綺麗な草花に、爽やかで暖かい風。
そのどれもがここにはない、地面は硬くごわごわしていて。
捻じ曲がって、どこか化け物みたいで途方もなく大きな樹木、どこか攻撃的に尖った草花、ジメッとして青臭い風。
どれもこれもがまったく自分の常識外だった。
しかし、泣きそうなれいむを前に自分まで泣く訳にはいかないと顔を引き締める。
「ま、まずは だれかさがそうね! ここがむれのどこか わからないと おうちにかえれないからね!」
そして、努めて明るくまりさは振る舞い、れいむに声をかけた。
その姿に、れいむは少し安心したのか小さめの笑顔を見せて頷き、浮かんでいた涙を揉み上げで拭い消した。
「そ、そうだね! はやくおうちにかえってごはんにしようね! じゃないとおなかのおちびちゃんもおなかをすかせちゃうよ!」
「ゆん! じゃあ、いこ、んゆぎゃぁぁぁあぁああ!?!?!」
「ば、ばりざぁぁぁあ!?!」
一声気合で、一歩跳ねたまりさは大きな声をあげて転げまわった。
「い、いだい、いだいいぃいいい!! あんよがいだいぃいいいぃいいい!!!」
「まり、まりさ、お、おちつ、おちつ、ゆわぁぁあん!! ゆわぁぁああん!!」
今まで見たことがないくらいの動揺を見せてまりさに、れいむは落ち着かせようとするが、直ぐに自分の限界が来て泣き出してしまった。
まりさの跳ねた先には、やや大きめの小石が転がっていて、その上に乗ってしまったのだ。
その鋭い痛みにまりさは声をあげて、涙を流して転げまわる。
転げまわる度に、硬い地面や石、痛い草に身体を傷つけられて更に声をあげ続ける悪循環。
まりさのゆん生では味わったことのない痛み、それが全身を支配していた。
まりさのこれまでは、こんな石を踏んだこともなければ、こんな痛い草に触れたことも、ごわごわの土に触れることもなかった。
何故なら、まりさは室内で飼われていたゆっくりなのだから。
――――。
――――――。
ある都市の中心に立てられた、屋内型森林公園。
かなりの広さと、行き渡った設備は一ヶ月の内に四季を再現する、少し寂れていた街の活性に繋がっている施設だった。
その施設の名前は〔ゆふぁりパーク〕名前の加減から想像出来る通りの、ゆっくり園と呼ばれる場所だった。
ゆっくり園とは、屋内に土を敷き、草花を植えて、野生のゆっくりの生活を街に再現するという触れ込みの、ゆっくりの動物園のような場所だった。
ゆっくりに人気に肖り、日本中に数多くのゆっくり園が出来ていたが、ここはそれとは規模も施設も桁違いだ。
収容ゆっくり数は、通常のゆっくり園が一つの群れに相当する150~300に対して、驚きの2300匹。
通常種だけでなく、希少種、捕食種まで完備されている。
しかも、普通のゆっくり園ではないような四季の整備により、より野生のゆっくりの生活を見れるという触れ込みで、週末になれば日本中から多くの人が詰め掛けていた。
柔らかい土を引いて、小石一個でも取り除いて、芝生を敷いたり、ゆっくりの肌を傷つけない草花を植えて、いつでも快適に暮らせる環境を整えてあった。
一週間ごとに季節が変わり、知らず知らずにゆっくりたちは一ヶ月を「いちねん」と呼んでいた。
基本的に内部のゆっくりは自分たちが建物の中にいるとは考えてない、人間と接触は0になるようにされていたから。
夜になれば、れみりゃの声をスピーカーで流して、巣に戻らせてからラムネスプレーが全域に撒布されて、例外なく睡眠状態にして、その間に園内の掃除や、調整、傷を負ったりしたゆっくりの治療などを秘密裏に行う。
一般客が通るのは、床からほんの2mほどの位置を蜘蛛の巣のように通されたアクリル製の通路だ。
この通路には仕掛けが施されていて、ゆっくりが見上げてもそこに人がいるとは判断されない作りになっていた。
ゆっくりにとっては見えないというのは認識出来ないと一緒であるために、いくら喋ろうが気付くことはない。
これにより、人間と関わらない本来のゆっくりの姿を楽しめるという風に言われていた。
巣も全て、木を模したオブジェでその内部は、それぞれオブジェに設置されたモニターを通じて通路から確認出来るようになっていた。
巣の奥にはうんうんを捨てる穴があり、そこに放り込まれると最終的に全ての巣から集まり捨てられる仕組みになっていた。
ゆっくりが集まるポイントも人工的にいくつも作られていて、そこにはアクリルの大き目のラウンジ状態になっていて多くの人が集まる。
そんなゆふぁりパークの一日は、まずは係員が広大な敷地の指定されたポイントに、餌となるゆっくりフードと、山菜など野山でも取れるだろう食料を置くところから始まる。
大きな木の板の上に、それらを置いておけば、あとはゆっくりが〔狩り〕をしにやってきて勝手に持っていく。
餌やりが終わると開園で、しばらくすると起き出したゆっくりの狩り風景を見ることが出来る。
そして入場客を案内したり、モニターでどこかでゆっくりが問題を起こしていないかを観察する。
危ないものがないゆっくり園ではそうはないが、ゆっくりは弱いので怪我をすることは多々ある。
なので、怪我をしたゆっくりを発見したらその程度によって対処する。
即座に治療が必要なら、その区画にラムネスプレーを噴射して対処。
それ以外は夜になってから、治療を行う。
そして、四季の代わりによって変化するゆっくりの生活を入場客に説明する姿をちらほらと確認出来た。
このゆふぁりパークは、ゆっくり愛護団体により運営されていて。
〔野生本来のゆっくりのゆっくりらしい生活を見れる!〕という触れ込みによる多くの客を呼んでいたが。
施設のコストと、来場客からの入場料が徐々に釣り合いが取れなくなっていった。
それに伴い、野生のゆっくりが狩りをしてとれるだろう山菜や木の実など、手がかかるものを出せなくなり、ゆっくりフードだけを与えるようになっていき。
ゆっくり好きから支援などもあったが、終に財政が破綻してしまった。
残ったのは大量も大量のゆっくり。
希少種、捕食種などは他のゆっくり園や、希望者に引き取られていったが、通常種の扱いに困ってしまった。
1700近い不良債権たるゆっくりたち。
普通なら加工所行きだけれど、まかり間違ってもゆっくり愛護団体の施設、それだけはなしとされた。
しばらくは〔野生のゆっくり〕という触れ込みで里親を探したり、ペットショップに持ち込んだりもしたが。
ただゆっくりしただけで、躾も何もされてないゆっくりを飼いたがる人も、売りたがるペットショップもそうそうなかった。
種ゆや、生餌としてならという申し出もあったけれど、施設の人は怒りを露に断った。
『あなたたちはこんな可愛いゆっくりに、良くそんなことが出来ますね!』と。
怒っても何してもゆっくりの行き先は見つからない。
ゆっくりフードはまだ在庫はあったがそれもいつかは尽きてしまう。
もう加工所に頼むしかないのか、となったときに誰かが言い出した。
『あの、前に人間が育てたオランウータンを森に返すとか、見たんですけど』
その言葉に、施設の面々、愛護団体は名案と大いに賞賛した。
『ここのゆっくりは野生の環境で育てて来たんだ、野生に返しても生きていけるはずだ!』
殺すことはしない、自分では世話出来ないから誰かに押し付けたいけど相手がいない、だから捨ててしまえ。
そんな思考回路で、こっそりと大量のゆっくりが手分けして各地の山や森に捨てられた。
それぞれの心の中は、野生に返してやると言う崇高な使命で埋め尽くされていた。
それを大義名分に、野生ではありえない優しい空間で、異常な空間でしか生きてこなかったゆっくりを、厳しく辛い本当の野生に返したのだった。
……。
…………。
「ゅ……れいむ、ごはんさん、とってきたよ」
「ゆ……これっぽっち、なのぉ?」
まりさが野生に返されて早数日。
今までの世界とはまるで違う生活に、二匹は傷つき疲弊しきっていた。
ふかふかで柔らかくて、いくらでも跳ねれた地面。
いつでも爽やかで暖かかった空気。
有り余るくらい取れた大量の食糧。
そして、快適な巣。
そのどれもが存在しなかった。
あの日、痛みから何とか起き上がったまりさは、泣いてるれいむを宥めて、進みだした。
奇しくも街中のゆっくりのように、無言でずーりずーりと底面を這わせての移動だった。
それもまるで鑢の上を歩くように激しい痛みを与えてきたけれど、跳ねて進めばどんな目に合うか解らないので仕方がない。
しかし、歩けど歩けどかつての群れにたどり着けない、と言っても痛みで悶えたり、慣れない本当の地面で疲れたりで50mも進めていなかったのだが。
段々暗くなり、異様な寒さに餡子が芯まで冷え切りそうになったまりさは、泣きつかれたれいむの為に巣を作ることにしたのだが。
かつての巣作りは、木のオブジェの根元に立てかけられた枝を外すだけの作業。
それしか巣の作り方を知らないまりさは、大きな木の根元を舐めたり、お下げで叩いたりするしかなかった。
「おでがいでずぅううぅう!! きさん! ばりざにおうぢをくだざいいいい!!」
そんな声と、必死に土下座する声が森に響いていた。
しかし、そんなことで巣が出来るはずもなく、まりさはれいむに謝って木の根元で身体を寄せ合って眠った。
季節は本当の秋、作られた秋ではない寒さと豊穣の季節、外で寝るには寒すぎた。
二匹は、いつまでも泣きながら身体を擦り合わせていた。
そして今にいたる。
相変わらず木の根元を拠点にしている二匹だったが、その生活はギリギリを通り越してアウトだった。
まりさは、体中傷だらけ泥だらけで、痛みで泣くから涙の跡が頬に染み付いて、そこに更に泥などがついて怪しい化粧のようになっていたし。
髪はぼざぼさで、今まで傷一つなく大事にしてきた帽子はヨレヨレ、栄養不足で頬はこけて、寝不足で隈が出来ている。
れいむは狩りにいかない分まだましかと言われればそうでもない、まりさに巣作りを任せられたれいむは、木の根元で日がな懇願したりしているので疲労が限界に達していた。
腹に子を宿しているのもあり、頬がまりさよりもこけている。
以前は、朝に狩りに行き、大量の食糧を取ってきていたまりさだけれど、今では一日中這いずり回って、僅かな、しかも苦くて硬い草をとってくるだけになっていた。
「ごめん、でも ぜんっぜんごはんさん なくて……」
「ゅう、これじゃ、おちびちゃんがゆっくりできないよ……」
申し訳なさそうに頭を下げるまりさから目を逸らして、れいむは自分のお腹を見つめた。
「まりさは かりのたつゆんじゃなかったのぉ? ひもじいよう……」
「っ!」
意図はあったのかなかったのか、まりさに対して責めるような言葉を向けた。
その言葉に、まりさは唇をかみ締めて震えだした。
「れ、れいむこそ、おうちはまだできないの? もう、なんにちたってるとおもってるの?」
そして、まりさは自分で思っていた以上に強く、非難するようなことを言ってしまう。
言ってから、少し罪悪感を覚えたけれど、毎日毎日必死に狩りをしているのは自分なのだからと正当化しようとしていた。
しかし、れいむはまりさの言葉にワナワナと震え、歯を食いしばった。
「こんな、こんなニガニガさんしかとってこれないまりさに なんでれいぶがせめられないど いげないのぉおおおぉおお!!!」
「ゆひっ……!」
涙を流して叫び、びたんびたんと身体を暴れさせるれいむに、まりさは息を呑んで一歩引く。
「ぼう! ごんなぜいがついやだよぉおおぉおおお!!! おながすいだよぉおお!!」
「れ、れいぶ、れいぶぅ! ごめんね、ごべんねぇぇえ!!」
「「ゅ、ゆわぁぁぁぁああんん!!」」
二匹はまるで輪唱をするように声を合わせて泣き続けた、疲れ果てて眠ってしまうまで。
朝、どちらともなく起き出した二人は、お互いの愛情を再確認しようとザラザラの肌ですーりすーりを繰り返していた。
そして、ぽつりぽつりと話し出した。
「おちびちゃんは ゆっくりさせてあげなきゃね、れいむ」
「そうだね、まりさ、あったかいおうちで、おいしいごはんをむーしゃむーしゃさせたいね」
「ゆん、そうだね、おちびちゃんはゆっくりできるもんね、がんばろう……かりに、いってくるよ」
「いってらっしゃい、れいむも おうちをつくれるように がんばるね」
二匹は、これから生まれる子供の為に、頑張ろうと誓い合って、それを糧に動き出した。
まりさは食糧を、れいむは住居を。
それぞれ必死で求めることにした。
しかし、必死になっても、野生知識0の二匹では何も出来ることはなく。
まりさは口や舌を傷つけながら、硬い草を少量とって来て、れいむは木に対する懇願を続ける、ただそれだけだった。
なるべくれいむに優先的に食事をさせて、生まれてくる子供の栄養に回すようにさせていた。
流石にまだ慣れはしないし、今まで甘いゆっくりフードを食べていたので苦い草なんか受け付けないけれど、食べなければ死ぬので二匹は必死に食べて暮らしていた。
そして、予定よりかなり遅れて、ついに子供が出産のときを迎えた。
今日ばかりは暗い表情を消して、二匹は新しい我が子の誕生に笑顔を浮かべる。
「ゅぎぎぎぎ、う、うばれる、よぉお!!」
「れいむ! がんばって! おちびちゃんはまりさがうけとめるよ!」
体中に気持ち悪い汁を浮かべて踏ん張るれいむの前で、まりさは帽子を咥えて構える。
これから飛び出る我が子を受け止めるために、そしてそのときは来た。
「ゆっ、ゆっ! ゆっぽぉおぉおおお!!」
「しぇかいいち ぷりぷりてぃーなれーみゅがこうっりんしゅるよぉおおお!!」
尊大な声を合図に、子れいむがまりさの帽子に飛び込んできた。
「ゆ、ゆわぁぁぁああ!! てんしさんのたんっじょうだよぉおお!!」
「ゆぎぐ……あ、あれ? もうひとりおちびちゃんがいるきがしたのに……」
涙を流して誕生を喜ぶまりさとは対象的に、れいむは不思議そうにない首をかしげていた。
れいむは、子供は二匹いると考えていたのだけれど、生まれたのは子れいむ一匹、お腹に残っている様子もなかった。
「ゅう……ゆっ、ふしぎなこともあるんだね! おちびちゃーん、れいむがおかーさんだよ!」
直ぐにその不思議を餡子の隅に追いやると、バカ面下げて生まれた子れいむに近寄っていった。
「ゆげっぴゅ、おきゃーしゃん! おとーしゃん! ゆっくちしていってね!」
「「ゆっくりしていってね!」」
生まれて初めての挨拶をしてくれた子れいむに、二匹は全力の「ゆっくりしていってね!」で返す。
「まりさのおちびちゃん、とっても、とぉってもかわいーよぉお!!」
「ゆぅぅん! かんっどうてきだよぉお!!」
「げっぴゅ、れーみゅきゃわいい?」
「「とうっぜんだよぉおおお!!」」
この森に捨てられ、もとい野生に返されて久しぶりのゆっくりを全力で堪能していた。
それも長くは続かなかったのは当然極まりないけれど。
……。
…………。
「しゃっしゃと さいしょのあみゃあみゃもっちぇこぉおぉおおおい!! このクズおやどもがぁぁぁああ!!」
「お、おちびちゃん、お、おちついてね! おちついてね!」
子れいむ誕生から数日。
れいむは必死に子れいむを宥めようとしていた。
この子れいむ、何故だか苦い草はまだしも、まだましな草などを優先的に食べさせているのに、どれも食べては吐き出すを繰り返していた。
そして、食べさせたことなどない筈の「あまあま」をしきりに要求してくるのだった。
ほとんど食事を取らない取れない状況に、未だに巣はない、自分をゆっくりさせない親に子れいむは簡単にゲスの兆候を見せている。
れいむとまりさがいたような、満たされた空間ではゲスは生まれない、何故ならゆっくりで満たされているので、それ以上を求めないからだ。
そして、他の者も自分と同レベルのために、向上する意欲も生まれない。
だから、ゲスは存在しなかった。
そのために、この子れいむは二匹が始めて出会うゲスだった。
ゲスと言っても可愛い我が子、ゲスを知らないこともあるし、ゆっくりさせてあげられてない自覚もあったので二匹は精一杯頑張っていた。
まりさは、気絶するくらいまで頑張って狩りをして帰って、子れいむに罵られて。
れいむは、まりさが帰るまで子れいむの癇癪を受け止めながら木に「おうぢをぐだざいぃいいい!」と頭を下げる日々。
「おでがい、じばず、きさん、おうぢぃ……」
「しゃっしゃと! あみゃあみゃもってこい! ゲスクズゴミカスおやぁぁぁ!!」
必死に木に頭を下げるれいむの身体に、子れいむは何度も体当たりを繰り返していた。
肉体的なダメージはなく、ただただ心が痛いその行為にれいむは枯れない涙を流していた。
「れい、む……ただ、いば」
「ゆぅう、まりさ、おがえりなざい……」
大分暗くなった頃に、帽子にも穴が開いてボロボロのまりさが帰ってきた。
お互いに目を合わせて、収穫がなかったことを理解して落胆する。
そんな二人の悲哀をぶち壊すように、子れいむは声をあげた。
「ゆきゃきゃ! ゆっくりできないクソおやがかえってきたよ! きょうこしょはあみゃあみゃとれたにょ!? まともに かりもできにゃいの!? このむのー!!」
「ゆぎっっ!!」
かつては、自分のことを「かりのたつゆん」と称したまりさである、狩りについて貶されるのが何よりゆっくり出来なかった。
たとえ、それが用意された場所でしか得られない称号であっても、その事実を知らない限りでは一生「かりのたつゆん」だったのだから。
それでも、平和にゆっくりしたゆん生を送ってきたまりさは怒りという感情の置き場を知らずに、ただ我慢するだけだった。
「ごめん、ごめんね、おちびちゃん、すくないけど、これたべてね……れいむ、はなしがあるよ」
「ゆん?」
どうにか手に入れた柔らかい草や木の実を子れいむに渡すと、れいむを呼んで話をする。
「もう このきさんは まりさたちにおうちをくれないみたいだから ここをいどうしよう、どうにかしてむれにかえろう!」
「ゆっ! …………ゆん、そうだね、ここにいたらおちびちゃんもゆっくりできないしね」
まりさの提案にれいむは頷いた。
子れいむは「げろまじゅ! こんにゃのしかとってこれないむのーはしね!」と、食べては吐き出して、一番美味しい部分だけを食べていた。
そんな我が子の姿をしばらく眺めてから、れいむとまりさは明日の移動の為に、吐き出された草をもそもそ食べだした。
「ゆきゃきゃ! こにょクジュはへんったいだね! れいみゅのつばしゃんがついたのがだいしゅきなんだから! きみょいよ!」
「「……むーしゃむーしゃ」」
笑われながらもそれに耐えて、どうにかして群れに帰りたいと二匹は無言で涙を流した。
「ゆゆ? にゃににゃいてりゅの? れいみゅがこわかったの? ゆぷぷ! なさけにゃいね! ゆぷぷ、ゆぷぷ!」
「「…………」」
……。
…………。
「ゆへ、ゆへぇえ、まだ、つかないの、お」
「ば、ばりざ、そろそろ、おちびちゃん、かわるよ……」
次の日、起きてから直ぐに二匹は行動を開始した。
近場にある枯れ草などを食べてから、子れいむを頭に載せて必死に森の中を進んでいく。
交互に子れいむを運んで、ぐずる彼女をあやしながら、群れに帰ることを夢見て進む。
どこがゴールかも解らず、つい先日までぷにぷにだったあんよをガチガチのまっくろにして、綺麗だったお飾りをボロボロにしながら必死に必死に這いずり回っていき。
「「ゆ、ゆわぁああぁああ!!」」
「ゆ? にゃんにゃの?」
三匹がたどり着いたのは一面の野菜野菜野菜。
中にはかつて餌として与えられていたものもあり、久しぶりにゆっくりした食事が取れると二匹は涙を流して喜んだ。
寝ぼけている子れいむを、まりさは頭から下ろすと自信に満ちた大声で話す。
「みて! おちびちゃん! これがきょうのごはんさんだよ! たっぷりたべてね!」
「ゅ、ゆわぁああ!! こりぇじぇんぶれーみゅの!?」
「「ゆふふ、おちびちゃんゆっくりしてるね!」」
目を輝かせて、野菜の群れに飛び込んだ子れいむを二匹は幸せそうに見つめていた。
子れいむはとりあえず手ごろな野菜に齧り付いては、違う野菜にと食べながら移動していく。
「まぁまぁ! これめっちゃまぁまぁ! さいしゃのあみゃあみゃにはまけるけど、めっちゃそれなりぃ!」
子れいむは「それなり」を連呼しながら、どんどん食ながら進む。
その姿に笑みを浮かべていた二匹も、そろそろ自分もと久しぶりの満足いく食事を始めた。
「「むーしゃむーしゃ! しあ 「にゃにやってるにょぉおお!!」 ゆ?」」
二匹が食事を始めたら、野菜を掻き分けて子れいむが鬼の形相でやってきた。
「お、おちびちゃ……」
「いま! にゃにをやってちゃの!?」
「む、むーしゃむーしゃ、だよ? どうしたの、おちびちゃん?」
あまりの形相に怯えながら、二匹はそう告げた。
その言葉に、子れいむは怒りを露に震えて叫びだす。
「これは! じぇんぶれいみゅのだよ!? おまえら みたいなむのーなクズに いっこでもわけてあげりゅと おもったにょぉおお!?!?」
「「ゆ!?」」
確かにさっき「こりぇじぇんぶれーみゅの」とか言ってはいたが、まさか本気とは思わず二匹は固まる。
「れーみゅをゆっきゅりさせにゃかったばちゅだよ! そこでれーみゅのむーしゃむーしゃタイムをみててね! たべたかったら さいしょのあみゃあみゃもっちぇこい! このクズ!」
口の周りに野菜クズをつけたまま、生みの親たる二匹を大声で怒鳴りつけて行く。
そのあまりにもあまりな態度に二匹は硬直してしまっていた。
そして、れいむは前から気になっていたことを恐る恐る聞くことにした。
「お、おちびちゃん? まえからいってる、さいしょのあまあまって、なに? れいむ、あまあまなんかあげたおぼえない、よ?」
子れいむがことあるごとに引き合いに出してきた「さいしょのあまあま」その存在がふと疑問になり、れいむは質問した。
その言葉に、子れいむはあからさまにれいむを小馬鹿にした表情を作り、語りだした。
「ゆふぅ、まっちゃく ゆっきゅりしてにゃいおやは あたまだけゆっくちしちぇってるんだね! れいみゅがうまれるまえに おまえのぽんぽんの なかにおいてあっちゃしゃべるあみゃあみゃだよ! れーみゅのこちょをおねーちゃんとかよぶ ずーずーしいあみゃあみゃだよ!」
「…………」
「ゆ、どーゆーこと? れいむ? れいむ?」
れいむは子れいむの言葉と一緒に、生んだときを思い出していた。
「そうだよ……ふたり、いたんだよ……」
「ゆ?」
ぶつぶつ呟くれいむを、まりさは心配そうに覗き込んだ。
まりさは理解出来ていなかった、何故なら腹に子を宿したのれいむだったから。
そして、れいむはしっかりと理解した、してしまった。
栄養が足りなくて、この子れいむは一緒に生まれるハズだった妹を食べたのだと。
想像すらしていなかった禁忌の同属食いに、この態度。
平和に暮らしていた、作られた森で生きていれば一生知らなかっただろう怒りがれいむを支配していた。
「こ、ごのぉおおぉおおおおおぉおお!!!!」
「ゆぴ?」
「れ、れいむ? どうしたの? どうしたのれいむ!?」
怒りを叫びに変えて、大地が震えるように声を弾き出した。
今まで喧嘩すらしたことのなかったれいむは、怒りをどうしたら良いか理解出来ずに、涙と声で発散していた。
「ゆぅ、きみのわりゅいゆっきゅりだね れーみゅはむーしゃむーしゃにもどりゅよ! ゆぴょ!?」
大声で叫び続けるれいむを見限って、子れいむは再び野菜を食べに行こうとして何かにぶつかった。
「にゃ、にゃにしゅりゅの!? れいみゅのきゃわいしゃに しっちょしにゃいでね!」
『ったく、これから収穫だってのに、ざっけんなよ、協定はどうしたんだよ糞ゆっくり!』
子れいむがぶつかったのは、れいむの叫びを聞いてやってきた畑の持ち主の青年だった。
この畑がある村は、まりさたちがやってきた森にある群れと協定を結んでいた。
もちろん相互の理解なんてものはなく、人間が仕方なく住まわせてやっているレベルで、用もなしに森から出たゆっくりは直ぐに潰されるし野菜に手を出すなんてもっての他だ。
無論、まりさたちは群れのゆっくりではないけれど、人間にはそんな違いはわからない。
これから収穫の野菜のいくつかを駄目にされたのだ、純粋に腹立たしいに決まっている。
「にゃにいっちぇるの! しゃっしゃとれーみゅにあやまっちぇね!」
「ゆぐがぁぁぁぁああぁああああ!!」
「れいむ?! れいむぅ!!」
彼の前では、子れいむが憤り、れいむが叫び、まりさがオロオロしていた。
青年は前からゆっくりが大嫌いだったが、協定の為に山狩りなどは出来ないでいたし。
森の群れのゆっくりはそれなりに優秀で、森から出ることはなかった。
しかし、今回野菜を食べられたことでゆっくりを根絶やしに出来ると青年は歪んだ笑みを浮かべていた。
……。
…………。
「ゆぎゃぁぁっぁああああ!! やべでぇっぇええ!! ゆるじでぇぇぇえええ!!」
「ゆるす! わけが! ないのぜ! おまえたちの! せいで! あやうく! むれが!!」
森の中にある群れの広場で、まりさが群れゆっくりたちに何度も体当たりをされていた。
あの後、青年が皆に話して群れのゆっくりを呼びつけたのだが、三匹が群れのゆっくりではないと解った為に、駆除の思惑は外れてしまった。
その腹いせにれいむは青年に踏み潰され、まりさと子れいむは群れに引き渡され、せいっさいの真っ最中だった。
何とか人間に目をつけられないように暮らしていたのに、余所者のせいで駆除されそうになったのだから群れの怒りは相当のものだった。
まりさは帽子を引きちぎられ、足を棒で裂かれた上で袋叩きにあっている。
子れいむは、というと。
「だしぇぇぇぇぇぇええ!! れーみゅをこんにゃくしゃいとこにいれちぇ ただですむとおもっちぇるにょ!?」
群れのうんうんを集める穴に放り込まれて、一生そこでうんうんを食べて暮らせと命じられていた。
子れいむは、そんなことは出来ないと大きな声で鳴いてはいるが、それは群れのゆっくりを楽しませるだけで。
「ゆぴゅ!? く、くしゃいぃい!! やめちぇ! うんうんしにゃい、ゆげぇぇえ!!」
「ゆぷぷ! あのゲスちび、ゆっくりしてないね!」
今もまた、子れいむ目掛けてうんうんが放られた様だった。
まりさはまりさで、ずっと暴行を受けてもはや意識が朦朧としていた。
そんな彼女の前で、大きなまりさと、ありすが何やら話をしているようだった。
「さいきん よそものがふえたのぜ」
「しかも、いなかものばっかりね、どーゆーことかしら?」
二匹の話すとおりに、最近森に見たことないゆっくりが増えてきたのだった。
もちろん、ゆふぁりパークで捨てられた、もとり野生に返されたゆっくりたちだ。
この森には、まりさたち以外にも何家族か捨てられていて、その何匹かがこの群れに着たり、村に行ったりしていた。
群れに来たゆっくりは、「かりのたつゆん」を名乗っていたくせに、まったく狩が出来ず、しかも巣も作れないし、何も出来ない能無しばかり。
そして、村に出たゆっくりのせいでこの群れが疑われて、今回のような駆除の原因になりそうになったりしていた。
長であるありすは大きくため息をついて、ボロボロのまりさを見つめる。
「どこのいなかからきたのかしら? このいなかものは」
野生に返されたゆっくりたいは、その大半が死に絶えて、残りは各地で様々な被害を起こしていた。
畑荒らし、人間に喧嘩を売る、子供のお菓子を狙う、住居侵入。
人間とうまくやっている群れの崩壊、野生ゆっくりとの諍いなど等。
数え上げたらキリがないほどの被害を出していた。
そんな被害の引き金ともなった愛護団体は、そ知らぬ顔で捨てゆっくりの問題に噛み付き、非常識な飼い主、虐待趣味について言及して
『ゆっくりを捨てるな! ゆっくりに愛を!』と歌っていた。