ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1171 偽者の生きる価値
最終更新:
ankoss
-
view
長い上に、独自設定がありますので、ご注意ください。
『偽者の生きる価値』
私は生き物を見るのが好きだ。
例えそれが、野生とはほど遠い、趣味のための生き物であっても、やはり
おもしろい。
野生動物に関心を抱く人間の中には、いかに人間の用意した環境下で生き
る動物が悲惨な存在であるかを強調する人物もいる。
おもしろい。
野生動物に関心を抱く人間の中には、いかに人間の用意した環境下で生き
る動物が悲惨な存在であるかを強調する人物もいる。
だが、自然の驚異の一部を手元に置いてみたいという感覚は、博物学が隆
盛した時代から、いや、ひょっとしたら、植物を集中的に育成しようとし
たり、落雷から生まれた火を飼い慣らそうとした時代から、人間が自然に
持つ欲求の一つだったのかもしれない。
盛した時代から、いや、ひょっとしたら、植物を集中的に育成しようとし
たり、落雷から生まれた火を飼い慣らそうとした時代から、人間が自然に
持つ欲求の一つだったのかもしれない。
まあ、実際はそんな屁理屈を頭に思い描くわけでもなく、ついつい、ホー
ムセンターに行くと、私はペットコーナーに行ってしまうのだ。
ムセンターに行くと、私はペットコーナーに行ってしまうのだ。
と言ってもそこにいるのは、スタンダードな熱帯魚や、今では近所の水系
で見られなくなったフナやタナゴのような淡水魚、そして昆虫などである。
自分が小学生の頃は図鑑でしか見たことがなかったような、海外のカブト
ムシやクワガタムシまで、こんな地方都市のホームセンターで売っている
のだから、いい時代になった…のか?
で見られなくなったフナやタナゴのような淡水魚、そして昆虫などである。
自分が小学生の頃は図鑑でしか見たことがなかったような、海外のカブト
ムシやクワガタムシまで、こんな地方都市のホームセンターで売っている
のだから、いい時代になった…のか?
「まりしゃは…まりしゃはゆっくりしたいんだじぇ…」
「ゆぇぇぇん!!!ゆっきゅりできにゃいいいいいっ!!!」
「ゆぇぇぇん!!!ゆっきゅりできにゃいいいいいっ!!!」
そのとき、私は、ふと足を止めた。普段、このペットコーナーで見慣れな
いものが売っている。
いものが売っている。
「ゆっぴぃぃぃっ!!!まりしゃはゆっきゅりぷれいしゅにいきたんだじ
ぇぇぇ!!!」
ぇぇぇ!!!」
まりさつむりである。
ご存知、まりさ種の亜種(改良品種という説も)、とんがり帽子の代わりに
巻貝のような貝殻に入っているまりさである。
巻貝のような貝殻に入っているまりさである。
私はこの店でゆっくりを見るのは初めてなので、ついじっくり観察してし
まった。
まった。
『広告の品!まりさつむり!一匹150円!五匹なら700円!』
しかし、このまりさつむり、つむりにしては格安な上に、狭いケージにた
くさんぶち込まれてぴーぴー泣いている。よく見ると、貝殻の中でぐった
りしている個体もおり、扱いが良くない。
在庫一掃のために、売れ残りの個体を安価で売っているのだろうか?
それとも、何か捕食種のための餌用の品種なのだろうか?
くさんぶち込まれてぴーぴー泣いている。よく見ると、貝殻の中でぐった
りしている個体もおり、扱いが良くない。
在庫一掃のために、売れ残りの個体を安価で売っているのだろうか?
それとも、何か捕食種のための餌用の品種なのだろうか?
「ゆ!?おにーしゃん!まりしゃをゆっくりさせてほしーんだじぇ!!」
私が見ていることに気がついたのであろう、一匹のまりさつむりが私に
声をかけてきた。私が黙って観察していると、はっとしたように、
声をかけてきた。私が黙って観察していると、はっとしたように、
「おにーしゃん!ゆっくちちていってにぇ!!」
と付け加えた。
とてもしっかり教育を受けているようには見えないが、相手をゆっくりさ
せる言動をしないと、ゆっくりさせてもらえない、ということは理解して
いるらしい。安いからといって、げすとは限らないかもしれない。
とてもしっかり教育を受けているようには見えないが、相手をゆっくりさ
せる言動をしないと、ゆっくりさせてもらえない、ということは理解して
いるらしい。安いからといって、げすとは限らないかもしれない。
私はそう思った。
どうせ、むかついて全部潰しても千円しないのだ。気まぐれもいいだろう。
どうせ、むかついて全部潰しても千円しないのだ。気まぐれもいいだろう。
それに飼育している生き物や、勝手に家に侵入してくるネズミや害虫の類
をのぞけば、ずっと一人で暮らしていた。話相手が欲しいとも思ったので
ある。
をのぞけば、ずっと一人で暮らしていた。話相手が欲しいとも思ったので
ある。
結局、30分ほど悩んだ末、私は初めに声をかけて来たつむりを含む、五
匹を購入した。店員さんは、私が選んだ五匹をビニール袋に入れると、何
やらガスを封入し、ゆっくりを眠らせた。袋を開けて新鮮な空気に曝して
おけば五分ほどで目を覚ますとのことだった。
飼育の道具は、ゆっくり専門のものは持っていないが、以前飼っていた、
魚やヤドカリ、昆虫用のものがあるので、それらを流用しよう、そう考え
た。また、何事も知識から入りたがる私は、ゆっくりの本を何冊か買い、
帰途に着いた。
匹を購入した。店員さんは、私が選んだ五匹をビニール袋に入れると、何
やらガスを封入し、ゆっくりを眠らせた。袋を開けて新鮮な空気に曝して
おけば五分ほどで目を覚ますとのことだった。
飼育の道具は、ゆっくり専門のものは持っていないが、以前飼っていた、
魚やヤドカリ、昆虫用のものがあるので、それらを流用しよう、そう考え
た。また、何事も知識から入りたがる私は、ゆっくりの本を何冊か買い、
帰途に着いた。
私は夕食を済ませると、大学生の頃、研究のために使っていた大型のプラスチ
ックバットを洗い、砂を敷き詰める。そして、砂の中に埋めるようにして、水
入れを設置した。ゆっくりの足場になる部分には、あんよを滑らせないように、
滑り止めの構造になっている。最後にベッド代わりに、ティッシュを丸めて隅
におけば完成である。
ックバットを洗い、砂を敷き詰める。そして、砂の中に埋めるようにして、水
入れを設置した。ゆっくりの足場になる部分には、あんよを滑らせないように、
滑り止めの構造になっている。最後にベッド代わりに、ティッシュを丸めて隅
におけば完成である。
だが、中途半端に、ジオラマちっくな飼育環境を作りたくなってしまう。
私の悪い癖だ。とりあえず、熱帯魚の水槽装飾品であったモアイ像とプラスチ
ック製の人工水草を設置した。なかなかシュールであるが、センスはないと、
自分でも思う。熱帯魚の水槽にダース・ベイダーの人形沈めて、藻を生やして
グリーン・ベイダー作って喜んでるような人間だからしょうがない、と自分で
自分を諦め、次の作業に移った。
トイレの設置である。小さなプラスチック製のちりとりを砂の上に置き、ちり
とりの中にも軽く砂を敷いておく。これで飼育環境は完成である。もし、つむ
りが大きく成長することがあれば、それはそのとき考えようと思う。
私の悪い癖だ。とりあえず、熱帯魚の水槽装飾品であったモアイ像とプラスチ
ック製の人工水草を設置した。なかなかシュールであるが、センスはないと、
自分でも思う。熱帯魚の水槽にダース・ベイダーの人形沈めて、藻を生やして
グリーン・ベイダー作って喜んでるような人間だからしょうがない、と自分で
自分を諦め、次の作業に移った。
トイレの設置である。小さなプラスチック製のちりとりを砂の上に置き、ちり
とりの中にも軽く砂を敷いておく。これで飼育環境は完成である。もし、つむ
りが大きく成長することがあれば、それはそのとき考えようと思う。
こうやって新しい動物のためにいろいろ作ったり、設置しているときはかなり
楽しい時間である。いつの間にか、外は暗くなっていた。
そろそろ、ここの安っぽい眠り姫に起きていただこう。
私は、ビニール袋を開け、廉価版つむりたちをそっと、飼育用バットの砂の上
に置いていった。
楽しい時間である。いつの間にか、外は暗くなっていた。
そろそろ、ここの安っぽい眠り姫に起きていただこう。
私は、ビニール袋を開け、廉価版つむりたちをそっと、飼育用バットの砂の上
に置いていった。
「ゆぴぃぃ…ゆぴぃぃ…」
五匹ともぐっすり眠っている。私は今のうちにお茶を入れ、読書をしながら彼
らの目覚めをのんびり待つことにした。
人が横になれるくらいのスペースに、まだ赤つむりから子つむりへの移行期に
ある個体五匹が投入されるのだ。彼らにはなかなか贅沢なゆっくりぷれいすと
思って欲しいものである。
らの目覚めをのんびり待つことにした。
人が横になれるくらいのスペースに、まだ赤つむりから子つむりへの移行期に
ある個体五匹が投入されるのだ。彼らにはなかなか贅沢なゆっくりぷれいすと
思って欲しいものである。
そういえば、つむりの貝殻って、自分で形成するのだろうか?
よく見れば今回買ってきたつむりが被っている貝殻はてんでばらばら、中には、
先端が欠けているものもいた。
どうして同じつむりなのに、こんなに貝殻がいろいろ…ってこれは、実際に海
に落ちている巻貝の貝殻ではないだろうか?
だとすると、生まれてきてから、帽子の代わりに与えられた、もしくは自分で
被ったということになる。
よく見れば今回買ってきたつむりが被っている貝殻はてんでばらばら、中には、
先端が欠けているものもいた。
どうして同じつむりなのに、こんなに貝殻がいろいろ…ってこれは、実際に海
に落ちている巻貝の貝殻ではないだろうか?
だとすると、生まれてきてから、帽子の代わりに与えられた、もしくは自分で
被ったということになる。
「ゆぴっ…?…ゆゆ!!?」
どうやら目覚めたようだ。
「ゆっくりしていってね!」
私は先手を打って挨拶した。
「ゆ!ゆっきゅりちていってにぇ!!」
「…!!…ゆっくち!ゆっくちちていってにぇ!!」
「…!!…ゆっくち!ゆっくちちていってにぇ!!」
私の挨拶に、寝ぼけ眼のつむりたちも挨拶を返してくる。
「おにーしゃん!まりしゃをかってくれたんだね!ありがとうなんだじぇっ!」
「おにーしゃんがかいぬししゃんなの?」
「はい、ここはお兄さんのゆっくりぷれいすですよ!でも、この砂さんがあ
るところはみんなのゆっくりぷれいすです!ゆっくりしていってくださいね!」
「おにーしゃんがかいぬししゃんなの?」
「はい、ここはお兄さんのゆっくりぷれいすですよ!でも、この砂さんがあ
るところはみんなのゆっくりぷれいすです!ゆっくりしていってくださいね!」
それから、私とつむりたちの生活が始まった。
「まりさはおみずさんをごーくごーくするよ!!!」
「まりしゃはおみじゅしゃんで、まりしゃのおしりをきれーきれーしゅるん
だじぇーっ!!!」
「まりしゃはおみじゅしゃんで、まりしゃのおしりをきれーきれーしゅるん
だじぇーっ!!!」
(けつ洗ってる横で水飲んで平気なのか?)
生き物の飼育は最初が肝心だ。
新しい環境に慣れることができず、死亡する個体が出るからである。逆に言
えば、最初の一週間くらいを無事に乗り切れば、丈夫な個体として飼育でき
る可能性が高い。
新しい環境に慣れることができず、死亡する個体が出るからである。逆に言
えば、最初の一週間くらいを無事に乗り切れば、丈夫な個体として飼育でき
る可能性が高い。
「みなさん、ごはんの時間ですよ!」
まりさつむりたちは、最初跳ねようとしたが、貝殻が重くて跳ねられなかっ
たようだ。ずりずりと貝殻を引きずりながら、餌入れへと近寄っていく。
こうやって見ると、どうも貝殻がつむりの体に対して大きいような気がして
ならない。はっきり言って動きにくそうである。
たようだ。ずりずりと貝殻を引きずりながら、餌入れへと近寄っていく。
こうやって見ると、どうも貝殻がつむりの体に対して大きいような気がして
ならない。はっきり言って動きにくそうである。
「ゆわぁいっ!しゃきしゃきもやしさんはゆっくりできるよぉっ!!!」
「ありがちょー!おにーしゃん!」
「むーしゃむーしゃ…しゃーきしゃーき…しあわすぇ~っ!!」
「ゆぅぅぅ、まりちゃちゃまはあまあまがたべたいんだじぇっ!!じじぃは
ゆっきゅり…うわーい!おちょらとんでりゅみちゃあい!…」
「ありがちょー!おにーしゃん!」
「むーしゃむーしゃ…しゃーきしゃーき…しあわすぇ~っ!!」
「ゆぅぅぅ、まりちゃちゃまはあまあまがたべたいんだじぇっ!!じじぃは
ゆっきゅり…うわーい!おちょらとんでりゅみちゃあい!…」
私はできるだけつむりと一緒に過ごすようにし、つむりの要望に答えて、ゆ
っくりぷれいすの中におうち(市販のゆっくりはうすの安価なもの)、水分の
多い野菜を中心とした食事などを用意した。
その代わり、生意気な口を利いた個体や、うんうん、しーしーを指定の場所
以外でした個体にはしっかり、罰を与えた。
っくりぷれいすの中におうち(市販のゆっくりはうすの安価なもの)、水分の
多い野菜を中心とした食事などを用意した。
その代わり、生意気な口を利いた個体や、うんうん、しーしーを指定の場所
以外でした個体にはしっかり、罰を与えた。
「お兄さんが苦労して取ってきたごはんさんをいらない子はせいっさいっし
ますっ!!」
「ふじゃけるんじゃないじぇ!!!じじぃなんきゃこのまりちゃちゃまがび
ょうしゃちゅ!!?」
ますっ!!」
「ふじゃけるんじゃないじぇ!!!じじぃなんきゃこのまりちゃちゃまがび
ょうしゃちゅ!!?」
輪ゴムを構え、この生意気なつむりのおでこ、あにゃる、ほほ、あんよに痛
みを与えていく。
みを与えていく。
「ゆんやあああああっ!!!」
「贅沢言う子はげすです!げすは許しません!」
「贅沢言う子はげすです!げすは許しません!」
ぴしーん!
「お兄さんをじじぃとか言う汚い子はくずです!くずも許しません!」
「ゆっぴゃああああああっ!!!までぃざのあじゃるぅぅぅぅっ!!!」
「ゆっぴゃああああああっ!!!までぃざのあじゃるぅぅぅぅっ!!!」
ぴしーん!
「ごめんなさいできないのはかすです!かすも許しません!」
「ゆんぎゃあああああああ゛!!!だじゅげ!だじゅげげぇぇぇぇ!!!
…ば!ばでぃざをなめるなああああっ!!!」
「ゆんぎゃあああああああ゛!!!だじゅげ!だじゅげげぇぇぇぇ!!!
…ば!ばでぃざをなめるなああああっ!!!」
なんとこの口の悪いつむりは、貝殻の中に入り込んでしまった。フタは持
っていないようだが、人間の指では奥に入ったつむりを取り出せそうにな
い。実際に指を突っ込んでみたが、がじがじと甘噛みされてしまった。
っていないようだが、人間の指では奥に入ったつむりを取り出せそうにな
い。実際に指を突っ込んでみたが、がじがじと甘噛みされてしまった。
「ゆへへえええん!!!ばきゃなじじいはまりじゃじゃまにてもあじもで
ないんだじぇええええっ!!!」
ないんだじぇええええっ!!!」
大泣きしながら、暴言を吐いてくる。忙しいことだ。
(ぶっ殺そうかな…)
そうも思ったが、とりあえず、貝殻を傷つけずにヤドカリの中身だけを取
り出す方法を試してみることにした。
り出す方法を試してみることにした。
貝殻の奥、てっぺんの方を炙るのである。
私はタバコを吸わないため、チャッカマンを取り出し、土間に置いたつむ
りの貝殻のてっぺんにファイアーした。
私はタバコを吸わないため、チャッカマンを取り出し、土間に置いたつむ
りの貝殻のてっぺんにファイアーした。
じじじ…という貝殻の表面が焼ける音がし、しばらくすると…
「あっぢゃっ!ここめっちゃあっぢぃ!!!」
しゅぽーんという音が聞こえてきそうな勢いで、巻貝の入り口からまりさ
が飛び出てくる。輪ゴム発射。
が飛び出てくる。輪ゴム発射。
ぺちーん
「ひっぎいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
ぺにぺににでもあたったのだろうか?今にも死にそうな声で泣き喚き、ご
ろごろと転がり続ける。
私はそれを捕まえ、ぷりんぷりんと動くおしりに遠慮なく輪ゴムを叩き込
んでいく。
ろごろと転がり続ける。
私はそれを捕まえ、ぷりんぷりんと動くおしりに遠慮なく輪ゴムを叩き込
んでいく。
「ゆびびびびびびっ!!!ごべんなざいごべんなざいごべんなざいぃぃ!
やべで!もうやべで!ばでぃざのおじりおがじぐなっぢゃううううっ!!」
やべで!もうやべで!ばでぃざのおじりおがじぐなっぢゃううううっ!!」
だが、私は容赦なく輪ゴムを叩き込み続けた。しーしーが手を汚したが、そ
のしーしーをつむりの体に塗りこむようにして、握りなおす。
のしーしーをつむりの体に塗りこむようにして、握りなおす。
「悪いのは誰かな?ちゃんと言わないと分からないですね!」
「ゆぎぃっ!!!ゆっぴっ!!!ばでぃざです!!ばでぃざはゆっぐりでぎ
ないゆっぐりでず!!ごべんなざい!!」
「ゆぎぃっ!!!ゆっぴっ!!!ばでぃざです!!ばでぃざはゆっぐりでぎ
ないゆっぐりでず!!ごべんなざい!!」
私は生意気なつむりが泣いて必死に謝るのを満足いくまで観察すると、地べ
たにそっとつむりを置いてやった。あちこちがミミズ腫れのように赤く腫れ
あがり、背中の一部が褐色に変色していた。おそらく、貝殻を炙った時の火
傷だろう。
たにそっとつむりを置いてやった。あちこちがミミズ腫れのように赤く腫れ
あがり、背中の一部が褐色に変色していた。おそらく、貝殻を炙った時の火
傷だろう。
(まあ、死ぬ前にペットの立場と振舞い方を学習できるといいね!)
「また、私のことをじじいと呼んだり、私に命令したら、同じことをします。
つむりは私より弱くてダメなんです。ゆっくり理解してくださいね!」
「ゆぎっ…ゆぎっ…ゆっくり…りかいちたよ…」
つむりは私より弱くてダメなんです。ゆっくり理解してくださいね!」
「ゆぎっ…ゆぎっ…ゆっくり…りかいちたよ…」
つむりの瞳はまだ反抗的であったが、プライドはずたずたになったようだ。
案外、しっかり躾を済ませられるかもしれない。泣きじゃくるつむりは覚束
ない足取りで、ごはんの容器へと這っていく。
案外、しっかり躾を済ませられるかもしれない。泣きじゃくるつむりは覚束
ない足取りで、ごはんの容器へと這っていく。
「ねえ、まりさ!」
「ゆひっ!!ごめんなざい!ごめんなざい!ごめんなざい!いきででごべん
なざいぃっ!!!ばでぃざはただのうんうんめいかーでずぅ!!」
「もう怒ってないですよ。それより、貝殻かぶらなくていいのかな?」
「ゆ?あつあつのかいがらさんはゆっくりできないんだじぇ!」
「ゆひっ!!ごめんなざい!ごめんなざい!ごめんなざい!いきででごべん
なざいぃっ!!!ばでぃざはただのうんうんめいかーでずぅ!!」
「もう怒ってないですよ。それより、貝殻かぶらなくていいのかな?」
「ゆ?あつあつのかいがらさんはゆっくりできないんだじぇ!」
お飾りへの依存が低いのかな?それとも貝殻はお飾りとみなさないのかな?
そのとき、私はそう思った。
その後も、私は飴と鞭を繰り返し、つむりたちを躾けていった。時につむり
は何度も同じ過ちを繰り返したが、私の場合、両親が怒りっぽく、幼少時に
よく怒鳴られていたばかりいたせいか、我慢強いというか、冷めた性格が形
成されている。そのため、何をされても、躾のための必要性以上に怒ること
はなかった。そして、十日が過ぎた。
は何度も同じ過ちを繰り返したが、私の場合、両親が怒りっぽく、幼少時に
よく怒鳴られていたばかりいたせいか、我慢強いというか、冷めた性格が形
成されている。そのため、何をされても、躾のための必要性以上に怒ること
はなかった。そして、十日が過ぎた。
ある日、私は町の図書館に寄る用事があったので、ついでにまりさつむりの
生態について調べてみた。
それによれば、まりさつむりというのは、本来水辺の環境に適応したまりさ
種の一亜種であり(古い資料では変種とされている場合もある)、水に溶けに
くい体と、防御に優れた貝殻を持っているらしい。貝殻はまりさ種の帽子と
同様に、まりさ本体と一緒に成長し、狩りの際の餌の保管に使われるが、仮
の巣としての機能も持ち、中にたからものを蓄えたり、貝殻の奥に潜り込ん
で睡眠をとったりもするらしい。全長は最大で60センチ、体重3−5キロ…
生態について調べてみた。
それによれば、まりさつむりというのは、本来水辺の環境に適応したまりさ
種の一亜種であり(古い資料では変種とされている場合もある)、水に溶けに
くい体と、防御に優れた貝殻を持っているらしい。貝殻はまりさ種の帽子と
同様に、まりさ本体と一緒に成長し、狩りの際の餌の保管に使われるが、仮
の巣としての機能も持ち、中にたからものを蓄えたり、貝殻の奥に潜り込ん
で睡眠をとったりもするらしい。全長は最大で60センチ、体重3−5キロ…
(う~ん…大きく育ったら、庭で生活してもらうしかないかな…)
そこまで読んで、開いたページの最後の部分が目に留まった。
ごく稀に、通常のまりさ種からまりさつむりが生まれることがある。この場
合、外見上はつむりから生まれたまりさつむりと変わらないが、比較的水に
弱く、体が溶けやすい、貝殻がそれほど頑強ではなく、中に引っ込めるだけ
の奥行きを持たない場合が多い。このような、貝殻として本来の機能を果た
していないつむりの貝殻を、貝殻帽子という。
合、外見上はつむりから生まれたまりさつむりと変わらないが、比較的水に
弱く、体が溶けやすい、貝殻がそれほど頑強ではなく、中に引っ込めるだけ
の奥行きを持たない場合が多い。このような、貝殻として本来の機能を果た
していないつむりの貝殻を、貝殻帽子という。
(あいつらは、純正のまりさつむりじゃないのかな?)
「ゆゆ~ん♪ゆゆ!?おにーしゃんおかえりなんだじぇっ!!!」
「ゆっくりおかえりなちゃいっ!」
「ゆっくりおかえりなちゃいっ!」
私は帰宅してから、つむりで実験、というよりは遊んでみることにした。ま
ずは、一匹のつむりの貝殻を取り上げる。
ずは、一匹のつむりの貝殻を取り上げる。
「ゆゆ!おにーしゃんそれはまりさのかいがらさんだよ!ゆっくりしないで
かえしてね!」
かえしてね!」
中にたからものが入っていないことを確かめると、代わりにオカヤドカリ用
の綺麗なアートシェル(巻貝を藍色の塗料で塗りつぶし、金色の太陽があしら
われているもの)を与えてみた。これは以前、ヤドカリを飼っていたときに購
入したものである。
の綺麗なアートシェル(巻貝を藍色の塗料で塗りつぶし、金色の太陽があしら
われているもの)を与えてみた。これは以前、ヤドカリを飼っていたときに購
入したものである。
「ゆゆ!?これはまりさのかいがらさんじゃ…ゆゆーん!!!みまさまのお
ぼうしみたいだよっ!!」
ぼうしみたいだよっ!!」
自分の貝殻ではないにも関わらず、気に入ってしまったらしい。
「ゆゆ~ん!みまさまのかぶっちゃったよっ!!!…うふふ…」
「つむり、この古い貝殻はいらないのかい?」
「ゆ?ふるいかいがらさんはゆっくりできないよ!まりさはあたらしいかい
が
らさんをきにいったよ!おにーさん!ゆっくりありがとう!」
「つむり、この古い貝殻はいらないのかい?」
「ゆ?ふるいかいがらさんはゆっくりできないよ!まりさはあたらしいかい
が
らさんをきにいったよ!おにーさん!ゆっくりありがとう!」
私は、ずるい、自分も、と騒ぐほかのつむりたちに、また今度な、と言い聞か
せてから、つむりたちの飲料水を取り替えた。
せてから、つむりたちの飲料水を取り替えた。
自分の貝殻に対して思い入れがないのだろうか?
それとも、どこからか取ってきた貝殻でも、頭に乗せれば、一緒に成長してい
くのだろうか?そうだとしたら、いくらなんでも不思議すぎるが。
それとも、どこからか取ってきた貝殻でも、頭に乗せれば、一緒に成長してい
くのだろうか?そうだとしたら、いくらなんでも不思議すぎるが。
それから、まりさつむりたちの住んでいる容器の中に、小さなプールを作って
やった。砂の中に水を張った底の深い皿を埋め込み、積み木と木片で出入りの
ための階段をつくってやった。
もし、こいつらが純つむりなら喜んで水辺で遊ぶのではないか?
こいつらがなんちゃってつむりならば、遊んでも短時間であり、水辺でゆっく
りするなんてことはないだろう。
私は、こいつらの正体を見極めてみたくなったのである。
やった。砂の中に水を張った底の深い皿を埋め込み、積み木と木片で出入りの
ための階段をつくってやった。
もし、こいつらが純つむりなら喜んで水辺で遊ぶのではないか?
こいつらがなんちゃってつむりならば、遊んでも短時間であり、水辺でゆっく
りするなんてことはないだろう。
私は、こいつらの正体を見極めてみたくなったのである。
「ほら、ここで水遊びしなよ!きれーなお水さんで遊ぶの好きだろう?冷たく
て気持ちいいですよ。」
て気持ちいいですよ。」
今は六月後半、梅雨の間は、肌寒い日もあるが、ここのところ、雨が降らず、
暑い日が続いていた。
暑い日が続いていた。
「ゆわぁいっ!!!ありがとうおにーさん!おみずさんあそびはゆっくりでき
るよっ!!」
るよっ!!」
水遊び自体は好きらしい。半分ほどの個体が新しいプールへとずりずり這って
いく。私は彼らをゆっくり観察するために、まずは近くの食料品店にひとっ走
り飲み物を買いにでかけた。夏は苦手なのだ。
いく。私は彼らをゆっくり観察するために、まずは近くの食料品店にひとっ走
り飲み物を買いにでかけた。夏は苦手なのだ。
事件が起きたのはそのときであった。
「ゆゆ~ん!おみずさんきもちいいよぉっ!!」
どん!
「ゆびゃああーっ!?」
出来立てほやほやのぷーるで遊んでいたみまつむりは、後ろから何者かに突
き飛ばされ、浅い水の底に軽く頭をぶつけてしまった。
き飛ばされ、浅い水の底に軽く頭をぶつけてしまった。
「まりさだけきれいなかいがらさんもらうなんてずるいよっ!!!まりさも
みまさまみたいになりたいから、そのかいがらをゆっくりかしてね!すぐか
えすよっ!!」
みまさまみたいになりたいから、そのかいがらをゆっくりかしてね!すぐか
えすよっ!!」
まりさ種の「貸して」はたいてい返ってこない。
「いやだよ!これはおにーさんがまりさにくれたんだよ!おにーさんはまた
こんどっていってたよ!ゆっくりがまんしてね!!」
「まりさのほうがかわいいから、まりさがみまさまになるよ!!!ゆっくり
りかいしてね!!」
こんどっていってたよ!ゆっくりがまんしてね!!」
「まりさのほうがかわいいから、まりさがみまさまになるよ!!!ゆっくり
りかいしてね!!」
二匹は喧嘩をはじめてしまった。
「ゆぎーっ!!!まりさおこったよ!!!」
アートシェルを奪おうとしたつむりは、みまつむりにぷくーっするまでもな
く、いきなりあんよに噛み付いた。みまつむりは自慢の新型貝殻の中に逃げ
込む余裕すらなかった。
く、いきなりあんよに噛み付いた。みまつむりは自慢の新型貝殻の中に逃げ
込む余裕すらなかった。
「やべでね!!まりさにかみつかないでね!!まりさのしるくのようなあん
よにきちゃないはがたつけないでねっ!!」
「ゆぎーっ!!!ゆぎぎーっ!!!」
よにきちゃないはがたつけないでねっ!!」
「ゆぎーっ!!!ゆぎぎーっ!!!」
みまつむりは、噛み付いているつむりを引き離そうと、体をぶんぶんと揺す
る。
る。
「はなじでえええええっ!!!まりざのあんよはなじでっ!!!」
「ゆゆ!!けんかはやめるんだじぇ!!けんかはおにーしゃんがゆっくりで
きないんだじぇ!!!」
「ゆゆ!!けんかはやめるんだじぇ!!けんかはおにーしゃんがゆっくりで
きないんだじぇ!!!」
ここに来て、騒動に気がついたつむりが、慌てて二匹の仲裁に入った。しか
し、遅かった。
し、遅かった。
べりっ
「ゆひっ!!?ゆわああああああ゛っ!!!ばでぃざのみずみずじいあんよ
がああああ゛っ!!!」
がああああ゛っ!!!」
みまつむりのあんよは、無残にもその半分が剥ぎ取られてしまった。なおも
噛み付こうとするつむりを、仲裁に入ったつむりが抑える。
噛み付こうとするつむりを、仲裁に入ったつむりが抑える。
「ばでぃざのあんよざんなおっでねぇええええっ!!!」
みまつむりは必死にあんよをぺーろぺーろしようとするが、舌が届く場所で
はなかった。
はなかった。
「ゆゆ!!まりさがまりさのあんよをぺーろぺーろするんだじぇ!ゆっくり
うごかないでほしいんだじぇ!!」
うごかないでほしいんだじぇ!!」
仲裁に入ったつむりが、舌の届かないみまつむりの代わりに、そのあんよに
舌を伸ばし、ぺーろぺーろしようとする。
舌を伸ばし、ぺーろぺーろしようとする。
ぐじゅり
助けようとしたつむりの舌があんよに触れただけで、みまつむりのあんよは
崩れてしまった。もはや、自力で動くことも出来なくなりつつある。
崩れてしまった。もはや、自力で動くことも出来なくなりつつある。
「ゆぎゃあああああっ!!!ぺーろぺーろじゃゆっくりできないよぉっ!!
おにーさん!ゆっくりしないでおにーさんよんできてねええええっ!!!」
「ゆぐぐ…わかったんだじぇ!!まってるんだじぇ!!」
おにーさん!ゆっくりしないでおにーさんよんできてねええええっ!!!」
「ゆぐぐ…わかったんだじぇ!!まってるんだじぇ!!」
人間さんに何とかしてもらう。最早助かる手段はそれしかなかった。仲裁に
入ったつむりはゆっくりしないで、お兄さんを探しに行く。しかし、這い回
ることしかできない以上、その外へお兄さんを呼びに行くことはできなかっ
た。
入ったつむりはゆっくりしないで、お兄さんを探しに行く。しかし、這い回
ることしかできない以上、その外へお兄さんを呼びに行くことはできなかっ
た。
「おにーさん!!おにーさん!!どこにいるんだじぇええっ!!!たすけて
ほしいんだじぇええっ!!ゆびいっ!!?」
ほしいんだじぇええっ!!ゆびいっ!!?」
ただひたすら泣き叫び、助けを請うみまつむり、そこにアートシェルを奪お
うとしたつむりが体をねじり、勢い良く貝殻をみまつむりに叩きつけてきた。
崩壊寸前だったみまつむりのあんよがとうとう崩壊した。餡子が水面をサー
ッと流出していく。
うとしたつむりが体をねじり、勢い良く貝殻をみまつむりに叩きつけてきた。
崩壊寸前だったみまつむりのあんよがとうとう崩壊した。餡子が水面をサー
ッと流出していく。
「ゆぎゃあああああっ!!!でねいでね!!!ばでぃざのあんござんでない
でぶっ!!?」
「かいがらさんをひとりじめするげすはゆっくりしねっ!!!」
でぶっ!!?」
「かいがらさんをひとりじめするげすはゆっくりしねっ!!!」
更なる一撃で、みまつむりの下半身が崩壊した。口も下半分が崩れ、もうま
ともに発音することもできない。
ともに発音することもできない。
「ゆっくりしたかいがらさんはまりさのものだよ!ゆっくりりかいしてね!」
とどめの一撃によって、みまつむりの餡子は皮の破れ目から派手に噴出し、
みまつむりはわずかに痙攣する以外、生きている証を失ってしまった。
みまつむりはわずかに痙攣する以外、生きている証を失ってしまった。
「ゆゆ~!これはとてもゆっくりできるかいがらさんだよ!!」
みまつむりをゆっくりさせたつむりは、いそいそと自分の貝殻を脱ぎ捨て、
アートシェルを身に着ける。念願のアートシェルを手に入れ、顔をほころば
せるつむり。
アートシェルを身に着ける。念願のアートシェルを手に入れ、顔をほころば
せるつむり。
「ゆ~…ひっこししたらおなかすいちゃったよ!ゆっくりごはんさんたべに
いくよ!!」
いくよ!!」
だが、あんよがうまく動かない。
「ゆゆ!!?まりさのあんよさんどうしたの?ひっ!!?」
半身が水に使ったまま、派手に動いたことで、あんよが溶け始めていたのだ。
大慌てでプールの出口へ向かおうとするが、崩れかけのあんよではそれ相応
のスピードしか出ない。そして、その間も少しずつあんよは崩壊していく。
大慌てでプールの出口へ向かおうとするが、崩れかけのあんよではそれ相応
のスピードしか出ない。そして、その間も少しずつあんよは崩壊していく。
「ゆひっ!!ゆひっ!!」
「ただいまーっ!!!友達に会っちゃって、長話しちゃいました!」
「おにーざんっ!!!だずげでえええっ!!!まりざをだずげであげでええ
ええっ!!!」
「おにーざんっ!!!だずげでえええっ!!!まりざをだずげであげでええ
ええっ!!!」
私がつむりたちの尋常ならざる様子に、彼らの飼育容器であるプラスチック
バットをのぞいたとき、そこにあったのは、新設したばかりのプールでぐず
ぐずに崩れた、二つの大福だったものだった。
バットをのぞいたとき、そこにあったのは、新設したばかりのプールでぐず
ぐずに崩れた、二つの大福だったものだった。
(通常のまりさ種から生まれた突然変異だったのか?でも突然変異がこんな
にたくさん…人工的に増やしたのか?だから安かったのか?)
にたくさん…人工的に増やしたのか?だから安かったのか?)
そう思いながらも、私は一匹にだけ新しい貝殻を与えたことを後悔した。
そんな簡単に躾ができるのならば、あんなに捨てられた野良ゆっくりが増え
るわけがないのだ。
言葉遣いの悪い個体や、トイレの場所を覚えなかった個体をしかりつけ、一
緒に生活していくうえで、不快にならないための最低条件をクリアーしただ
けで満足してしまっていたのだろう。
るわけがないのだ。
言葉遣いの悪い個体や、トイレの場所を覚えなかった個体をしかりつけ、一
緒に生活していくうえで、不快にならないための最低条件をクリアーしただ
けで満足してしまっていたのだろう。
七月になった。
まりさつむりたちはすっかり大きくなり、野球ボールぐらいの大きさになっ
た。もう子ゆっくりと言ってもいいだろう。
まりさつむりたちはすっかり大きくなり、野球ボールぐらいの大きさになっ
た。もう子ゆっくりと言ってもいいだろう。
(そろそろ、新しいゆっくりぷれいすを用意してやらないとな…)
しかし、貝殻は成長せず、今では髪の毛の上にちょこんと乗っているだけだ
った。
った。
(…やっぱり、つむりじゃないな…)
そんなことを考えていると、一匹のつむりが私に話しかけた。
「おにーさん!!!ゆっくりしていってね!!」
「ああ、ゆっくりしていってね!…どうしました?」
「まりさはそろそろあたらしいかいがらさんがほしいよっ!!!いまのかい
がらさんはちいさくなっちゃってあたまがはいらないよ!!」
「ああ、ゆっくりしていってね!…どうしました?」
「まりさはそろそろあたらしいかいがらさんがほしいよっ!!!いまのかい
がらさんはちいさくなっちゃってあたまがはいらないよ!!」
ある日、たまには、プラスチックバットの外にも出してやろうと、私は、彼
らを一匹一匹摘み上げ、部屋の中に放してやった。
らを一匹一匹摘み上げ、部屋の中に放してやった。
「ゆゆ~ん!まりさ!おにーさんにあそんでほしいよ!!!」
一匹のつむりが甘えてくる。私は貝殻を落とさないようにして、ゆっくりと
つむりの頭を撫でてやった。
つむりはゆゆーんと気持ちよさそうにしている。
つむりの頭を撫でてやった。
つむりはゆゆーんと気持ちよさそうにしている。
「なあ、まりさ、まりさは本当にまりさつむりなんですか?その貝殻さんは
まりさのものなの?」
「ゆ゛!!?…な、なにいってるの!?まりさたちはどこからみてもかわい
いまりさつむりだよ!みればわかるよ!」
まりさのものなの?」
「ゆ゛!!?…な、なにいってるの!?まりさたちはどこからみてもかわい
いまりさつむりだよ!みればわかるよ!」
私は昨日買ったばかりの、「新ゆっくり図鑑(第二東京大学出版)」を広げ、
まりさつむりのページを探した。
まりさつむりのページを探した。
「でも、つむりの貝殻と形が随分違うよ、ほらこれ。」
私は様々なまりさつむりの写真をつむりに見せる。どの個体も、水棲のつむ
りも、突然変異のつむりも、赤つむりも、成体も、自分の体に見合ったサイ
ズの貝殻を持っていた。そして、貝殻の形状は巻きつきの弱いサザエのよう
なものであり、私のつむりたちのように、尖った巻貝、丸っこいヘルメット
のような巻貝、先端が折れている巻貝を頭の上にちょこんと乗せているもの
はいなかった。
りも、突然変異のつむりも、赤つむりも、成体も、自分の体に見合ったサイ
ズの貝殻を持っていた。そして、貝殻の形状は巻きつきの弱いサザエのよう
なものであり、私のつむりたちのように、尖った巻貝、丸っこいヘルメット
のような巻貝、先端が折れている巻貝を頭の上にちょこんと乗せているもの
はいなかった。
「ゆゆゆ!!?…でも!まりさはつむりなんだよ!!まりさはつむりだから
ゆっくりできるんだよっ!!!」
ゆっくりできるんだよっ!!!」
私はこの言葉が引っかかった。やはり、こいつらはまりさつむりじゃないの
ではないかと。私は、部屋の中でゆっくりパズルで遊んでいるつむりを捕ま
え、私の前に持ってきた。
それは、あの口が悪く、私に一番叱られて、痣と傷が絶えないつむりだった。
ではないかと。私は、部屋の中でゆっくりパズルで遊んでいるつむりを捕ま
え、私の前に持ってきた。
それは、あの口が悪く、私に一番叱られて、痣と傷が絶えないつむりだった。
「ゆゆ!!おにーさんどうしたんだじぇ!!?まりさはなにもわるいことし
てないのじぇ!!」
てないのじぇ!!」
私は有無を言わさず、さっさと質問した。
「ねえ、君たちまりさつむりじゃないんじゃない?正直に言わないと、また
痛い痛いしますよ?」
「ゆぴっ!!?」
痛い痛いしますよ?」
「ゆぴっ!!?」
何度も輪ゴムやでこぴん、めん棒あにゃるぐりぐりなどで痛い思いをしてい
る口悪つむりの顔はさっと青ざめた。
さっきまで話していたつむりもこちらをじっと見ている。
る口悪つむりの顔はさっと青ざめた。
さっきまで話していたつむりもこちらをじっと見ている。
「ゆゆ…ゆゆゆ…」
私はこのまりさの態度で、遅まきながら確信した。このつむりたちはまりさ
つむりじゃない。
私は、いつもの輪ゴムよりも太くて痛そうなゴムを取り出し、片手でぱちん
ぱちんと、目の前の口悪つむりに見せ付けるように鳴らした。
つむりじゃない。
私は、いつもの輪ゴムよりも太くて痛そうなゴムを取り出し、片手でぱちん
ぱちんと、目の前の口悪つむりに見せ付けるように鳴らした。
「ゆっびぇえええええっ!!!まりざはまりざなんだじぇ!!!でもつむり
になったのじぇ!!つむりじゃないとゆっくりできないっでいうから、つむ
りになったのじぇえええっ!!!」
になったのじぇ!!つむりじゃないとゆっくりできないっでいうから、つむ
りになったのじぇえええっ!!!」
口悪つむりは泣きながら、あっさりと口を割った。
「まりさたちはまりさなんだじぇ!すてきなおぼうしさんかぶってたんだじ
ぇ!でも、にんげんさんのせいでぱぱとままとおわかれして、おぼうしとら
れたんだじぇ!おぼうしのかわりにかいがらさんもらったんだじぇ!!」
ぇ!でも、にんげんさんのせいでぱぱとままとおわかれして、おぼうしとら
れたんだじぇ!おぼうしのかわりにかいがらさんもらったんだじぇ!!」
要するに、こいつらは生まれながらのまりさつむりではなく、二次的にまり
さつむりにされた通常のまりさ種だったのだ。
おそらく、適当な貝殻を帽子の代わりに被せて、まりさつむりとして、通常
のまりさ種よりも高く売ろうとしたのだろう。
祭りの露店で、カラーれいむなどと一緒に、このようなまりさが売られてい
ると、前述の図鑑のコラムに書いてあった。それの売れ残りが田舎のペット
ショップに格安で回って来たのだろう。
さつむりにされた通常のまりさ種だったのだ。
おそらく、適当な貝殻を帽子の代わりに被せて、まりさつむりとして、通常
のまりさ種よりも高く売ろうとしたのだろう。
祭りの露店で、カラーれいむなどと一緒に、このようなまりさが売られてい
ると、前述の図鑑のコラムに書いてあった。それの売れ残りが田舎のペット
ショップに格安で回って来たのだろう。
よくもまあ、帽子への執着を捨てられたものである。もっとも、野良ゆっく
りの中ではお飾りを失い、同属からの攻撃に怯えながらも、生活しているも
のもいる。決してゆっくりできることではないのだろうが、帽子がなくても
生きていくことはできるのだろう。
りの中ではお飾りを失い、同属からの攻撃に怯えながらも、生活しているも
のもいる。決してゆっくりできることではないのだろうが、帽子がなくても
生きていくことはできるのだろう。
「つむりにならないと、まりさはゆっくりできないっていわれたんだじぇ!
おぼうしのないまりさはゆっくりできないんだじぇ!!でもまりさはゆっく
りしたかったのじぇ!!だからつむりになったのじぇ!!」
おぼうしのないまりさはゆっくりできないんだじぇ!!でもまりさはゆっく
りしたかったのじぇ!!だからつむりになったのじぇ!!」
堰を切ったかのように、次々と自分の過去を話す口悪まりさ。残り二匹のつ
むりもどきも心配そうな表情で、私の前に集まっていた。
むりもどきも心配そうな表情で、私の前に集まっていた。
「おにーさん!ごめんなさい!!まりさをすてないでね!!まりさはゆっく
りできるまりさになれるようがんばるよ!!…ゆぐっ…つむりになるよ!!
だからすてないでねっ!!ゆわあああん!!!」
「ごめんなざいおにいざあああんっ!!まりしゃはゆっくりできないまりし
ゃなんだぜえええっ!!!でも、これからもおにいざんのかいゆっくりでい
だいんだぜえええっ!!!」
りできるまりさになれるようがんばるよ!!…ゆぐっ…つむりになるよ!!
だからすてないでねっ!!ゆわあああん!!!」
「ごめんなざいおにいざあああんっ!!まりしゃはゆっくりできないまりし
ゃなんだぜえええっ!!!でも、これからもおにいざんのかいゆっくりでい
だいんだぜえええっ!!!」
泣き喚き、必死に土下座しながら、捨てないでと叫び続けるつむりもどき。
ひょっとしたら、お飾りを失ったことで、自分はゆっくりできないと認識し
た際に、ゆっくり特有の無駄に高いプライドも壊れてしまい、それで従順に
なったのかもしれない。
そう考えると、口悪つむりは、なかなか根性があったと、ほめてやってもい
いのかもしれない…人間だったら。
た際に、ゆっくり特有の無駄に高いプライドも壊れてしまい、それで従順に
なったのかもしれない。
そう考えると、口悪つむりは、なかなか根性があったと、ほめてやってもい
いのかもしれない…人間だったら。
飾りを失わせて、自尊心を破壊、従順なゆっくりを作るという考えは悪くな
いように思えるのだが、かご売りされていたということは、飾りを取り戻す
と元の自尊心が戻ってくるということだろうか?
それを防ぐために、あからさまに不似合いな汚い貝殻を被せておいたのだろ
うか?そうだとしたら、よく考えたものである。
いように思えるのだが、かご売りされていたということは、飾りを取り戻す
と元の自尊心が戻ってくるということだろうか?
それを防ぐために、あからさまに不似合いな汚い貝殻を被せておいたのだろ
うか?そうだとしたら、よく考えたものである。
私は、最初からワケありだろうと、踏んでこのつむりもどきを買ったので、
別に騙されたと思わなかったし、怒りも感じなかった。ついでに言えば、今
のところ捨てる気はなかった。
別に騙されたと思わなかったし、怒りも感じなかった。ついでに言えば、今
のところ捨てる気はなかった。
「まりさたちはお兄さんの大切な飼いゆっくりですよ!それを捨てるなんて
とんでもない!今度、新しい貝殻を探しましょうね!!」
とんでもない!今度、新しい貝殻を探しましょうね!!」
私の一声につむりもどきたちは、半ば唖然とした、半ば喜んだ表情で顔をあ
げた。
げた。
「ゆわああああん!!!おにいいざあああああんっ!!!」
「おにいいざんのがいゆっぐりでよがっだよおおお゛っ!!!」
「ぎょうはおにいいざんといっじょにねるぅぅぅっ!!!」
「おにいいざんのがいゆっぐりでよがっだよおおお゛っ!!!」
「ぎょうはおにいいざんといっじょにねるぅぅぅっ!!!」
これで、貝殻を背負いながら跳ねようとしたことも、あっさりと自分の貝殻
を放置したことも、水に弱かったことも説明がつく。
ついでに言えば、それで一人称が「まりさ」だったのだろうか?だが、私は
まりさつむりをこの目で見たことがないので、つむりの一人称がどのような
ものかは分からない。
を放置したことも、水に弱かったことも説明がつく。
ついでに言えば、それで一人称が「まりさ」だったのだろうか?だが、私は
まりさつむりをこの目で見たことがないので、つむりの一人称がどのような
ものかは分からない。
また、つむりもどきは貝殻が自分の体の一部ではないため、成長に伴って、
ヤドカリのように、貝殻をより大きなものに代えていかなければならないの
だろう。
貝殻を変えていく、ということは一つの貝殻に対する執着は弱く、通常のま
りさ種の帽子に対する執着のようなものが見られなかったのだろう。
ヤドカリのように、貝殻をより大きなものに代えていかなければならないの
だろう。
貝殻を変えていく、ということは一つの貝殻に対する執着は弱く、通常のま
りさ種の帽子に対する執着のようなものが見られなかったのだろう。
ヤドカリは、個体によって、宿貝の選択に差があると言われている。基本的
には自分の体にフィットしたサイズの、欠損の少ない貝殻を好む個体が多い
と報告されている。
また、ヤドカリは貝殻資源の少ない場所に生息している場合、木の実やサン
ゴ片、最近では人間のゴミを宿貝の代わりに背負っているという。
には自分の体にフィットしたサイズの、欠損の少ない貝殻を好む個体が多い
と報告されている。
また、ヤドカリは貝殻資源の少ない場所に生息している場合、木の実やサン
ゴ片、最近では人間のゴミを宿貝の代わりに背負っているという。
私は、このつむりたちに、新しい貝殻として、いろいろなものを与えてみよ
うと思った。
うと思った。
その日、私は親戚の家に所用ででかけていた。
そのついでに、つむりもどきたちの新しい宿貝を用意してきたのである。
家に着いた頃には夕方になってしまった。遠くの山からヒグラシの物悲しい
鳴き声が聞こえてくる中、なぜかうちの庭では、ニイニイゼミが頑張ってい
る。
そのついでに、つむりもどきたちの新しい宿貝を用意してきたのである。
家に着いた頃には夕方になってしまった。遠くの山からヒグラシの物悲しい
鳴き声が聞こえてくる中、なぜかうちの庭では、ニイニイゼミが頑張ってい
る。
ふと、玄関を見ると、一匹のゆっくりがいた。玄関で見知らぬゆっくりが
待機していたら、飼ってくれ、または飯よこせと命令しに来たか(たいてい
の場合、懇願ではない)、侵入できず途方に暮れているかのどちらかである。
待機していたら、飼ってくれ、または飯よこせと命令しに来たか(たいてい
の場合、懇願ではない)、侵入できず途方に暮れているかのどちらかである。
「ねえ、君、うちに用ですか?」
「まりさはしんぐるまざーなんだよっ!!!かわいいんだよっ!!だからご
はんさんをちょうだいねっ!!!」
「お前がかよっ!!」
「まりさはしんぐるまざーなんだよっ!!!かわいいんだよっ!!だからご
はんさんをちょうだいねっ!!!」
「お前がかよっ!!」
思わずつっこんでしまった。
どこかにこの戦法で見事ごはんさんを手に入れたれいむがいて、それを持ち
前の狡猾さで、真似たのだろうか?まりさも堕ちたものである。
それにしても、今時、悠長な野良ゆっくりである。都市部では景観美化のた
めに税金を投入して、野良ゆっくりを駆除している自治体もあるというのに。
まあ、全てこの辺りが田舎だからであろう。なにせ、未だに野良犬が小学校
に侵入して、授業が中断するような町である。
どこかにこの戦法で見事ごはんさんを手に入れたれいむがいて、それを持ち
前の狡猾さで、真似たのだろうか?まりさも堕ちたものである。
それにしても、今時、悠長な野良ゆっくりである。都市部では景観美化のた
めに税金を投入して、野良ゆっくりを駆除している自治体もあるというのに。
まあ、全てこの辺りが田舎だからであろう。なにせ、未だに野良犬が小学校
に侵入して、授業が中断するような町である。
「まりさのゆっくりできるおちびちゃんみてね!みたらゆっくりしないでご
はんさんもってきてね!まりさはぎんばっじさんなんだよ!」
「ゆっくちちていってにぇ!」
「あまあまちょーだい!まりちゃはあまあまがほちーよっ!」
はんさんもってきてね!まりさはぎんばっじさんなんだよ!」
「ゆっくちちていってにぇ!」
「あまあまちょーだい!まりちゃはあまあまがほちーよっ!」
どこにも銀バッジのない母まりさの影から出てきたのは、二匹の子まりさで
あった。母まりさはさも、すごいだろう、とでも言いたげな表情でふんぞり
返っている。
こういうことは、赤ゆでやった方がいい気もするのだが、ずっとこの方法で
食べ物をもらってきたのだろうか?それとも、最近浅知恵ではじめたのだろ
うか?
あった。母まりさはさも、すごいだろう、とでも言いたげな表情でふんぞり
返っている。
こういうことは、赤ゆでやった方がいい気もするのだが、ずっとこの方法で
食べ物をもらってきたのだろうか?それとも、最近浅知恵ではじめたのだろ
うか?
「一人で子育てとは、大変ですね!」
「ゆゆ!!おにーさんははなしがわかるね!だからまりさにあまあまちょー
だいねっ!べーこんごはんさんでもいいよっ!!!」
「ゆゆ!!おにーさんははなしがわかるね!だからまりさにあまあまちょー
だいねっ!べーこんごはんさんでもいいよっ!!!」
私は軒先に放置してある、「それ」を何本か取り出した。どうやらまだ使え
そうだ。私は野良まりさが帽子から取り出した、二匹の子まりさをそっと拾
い上げた。
そうだ。私は野良まりさが帽子から取り出した、二匹の子まりさをそっと拾
い上げた。
「ゆゆ!おちょらをちょんでりゅみちゃーいっ!!!」
露骨に赤ゆっくり言葉が残っているところを見ると、ずっとこの物乞いを続
けてきたのだろう。
けてきたのだろう。
「まりちゃはまりちゃだよっ!おにーちゃんはゆっくりできりゅひと?」
私は笑顔で答えた。
「さあ、どうでしょうね?」
私の足元で母まりさは心配そうにそわそわしていた。
「ゆゆ!おにーさん!おちびちゃんたちをゆっくりしないでかえてね!!ゆ
ゆ!!ひょっとしておにーさんはまりさのおちびちゃんをかいゆっくりにし
たいの!?まりさのおちびちゃんはとてもゆっくりできるからね!きもちは
わかるよ!でも、それならまりさもかいゆっくりにしてね!!まいにおにー
さんにごはんさんをよういさせてあげるよっ!!」
ゆ!!ひょっとしておにーさんはまりさのおちびちゃんをかいゆっくりにし
たいの!?まりさのおちびちゃんはとてもゆっくりできるからね!きもちは
わかるよ!でも、それならまりさもかいゆっくりにしてね!!まいにおにー
さんにごはんさんをよういさせてあげるよっ!!」
私は子まりさを二匹並べるように手で持ち、それの先端をまむまむにねじる
込むように差し込んだ。
込むように差し込んだ。
「だめ!やめちぇね!まりちゃは、まだ…こころのじゅんびぎゃおおおおお
おおおおお゛!!!」
「やっべ!ちょっと裂けちゃいましたか!」
「ゆぎっ…ゆぐ…ゆ゛…まりちゃのはじめちぇ…」
おおおおお゛!!!」
「やっべ!ちょっと裂けちゃいましたか!」
「ゆぎっ…ゆぐ…ゆ゛…まりちゃのはじめちぇ…」
もう一匹にも同じようにねじ込んでいく。
「ゆぎょおおおおお!!!まりぢゃのばーじんがあああああっ!!!」
「そんなもんあってもなくても、君らには関係ないんじゃないですかねぇ…」
「そんなもんあってもなくても、君らには関係ないんじゃないですかねぇ…」
ちなみに、この作業をしている間、母まりさは、ふかふかべっどさんがほし
いよ!だの、さくさくしょーとぶれっどさんがほしいよっ!とか、好き放題
なことを言っていた。誰も飼うなんて一言も言っていないのに…
いよ!だの、さくさくしょーとぶれっどさんがほしいよっ!とか、好き放題
なことを言っていた。誰も飼うなんて一言も言っていないのに…
「ほらっ!おちびちゃん返しますよ!」
「びゆっくりもよういしてね!きんばっじが…ゆ!!?」
「びゆっくりもよういしてね!きんばっじが…ゆ!!?」
母まりさは目を丸くした。目の前に差し出された、ロケット花火の先端をま
むまむに無理矢理ねじ込まれた子まりさの姿に。
あまりに無理矢理ねじ込んだので、腹部の皮がぱっくり裂けていた。
むまむに無理矢理ねじ込まれた子まりさの姿に。
あまりに無理矢理ねじ込んだので、腹部の皮がぱっくり裂けていた。
「ゆぴいいいっ!!!ゆぴいいいっ!!!まりちゃのじゅんけちゅがぁっ!」
「ゆげっ…ゆげげっ…」
「ゆげっ…ゆげげっ…」
一匹の子まりさは目を見開き、がくがく痙攣している。
(これは無理矢理過ぎたかもしれないね。)
「ふぁいえるするよっ!」
唖然として声も出ない、母まりさの目の前でロケット花火に点火し、それを母
まりさの目の下あたりに刺し込んだ。
まりさの目の下あたりに刺し込んだ。
「ゆっぎいいいいいいっ!!!なにずるのおおおおっ!!!ばでぃざになにず
るのおおおっ!!!やべでね!これどっでね!ばでぃざのじゅぎょぐのおぢび
ぢゃんがえじでねっ!!!ばでぃざの…」
るのおおおっ!!!やべでね!これどっでね!ばでぃざのじゅぎょぐのおぢび
ぢゃんがえじでねっ!!!ばでぃざの…」
母まりさがそこまで騒いだ時点で、導火線がなくなり、ロケットに点火された。
ひゅるるるる~ぱんっ!!
空の彼方から、微かにゆ゛っ!という断末魔の声が聞こえて気がする。途中で
取れた子まりさの帽子だけが、庭にゆらゆらと落ちてきた。
取れた子まりさの帽子だけが、庭にゆらゆらと落ちてきた。
「ゆっぎゃああああああっ!!!ばでぃざのしんじゅのようなおべべがあああ
ああああっ!!!」
ああああっ!!!」
どうやら、母まりさはロケット花火の火花が目に入ってため、子ゆの晴れ姿を
見ることが出来なかったらしい。
私は哀れみを込めて、母まりさを持ち上げ、投球フォームに入った。
見ることが出来なかったらしい。
私は哀れみを込めて、母まりさを持ち上げ、投球フォームに入った。
「あきゃきゃきゃきゃ!!!感謝しろよぉ!これで君はしんぐるまざー卒業だ!
こぉんぐらぁちゅれいしょぉぉぉん!」
「ゆわあああい!おぞらどんで!!?ゆびっ!!なにずるのっ!!!」
こぉんぐらぁちゅれいしょぉぉぉん!」
「ゆわあああい!おぞらどんで!!?ゆびっ!!なにずるのっ!!!」
母まりさを掴んだ右腕で大きくバックスイングを取り、左足をぐっと前に踏み
出す。
出す。
「元中学ボールスロー郡大会四位入賞をなぁめぇるぅなぁぁっ!!」
「はーひーふーへーほぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「はーひーふーへーほぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
母まりさはバイキン○ンみたいな声で鳴きながら飛んでいった。
「まあ、花火にはちと時間が早かったみたいですね!」
私は落ちている二つの帽子を見て、とあることを思いついた。
私は落ちたままになっていた子まりさの帽子を回収した。子まりさが死ぬ前に、
本体から離れた帽子なので、死臭の問題はないはずだ。
本体から離れた帽子なので、死臭の問題はないはずだ。
「ただいまーっ!!」
戸を開けると同時に、エアコンの効いた室内の冷気が、汗まみれの私の全身を愛
撫してくれる。
私が帰宅すると、つむりもどきたちは、私がデコレーションとして入れたモアイ
像の小さなレプリカの横で
撫してくれる。
私が帰宅すると、つむりもどきたちは、私がデコレーションとして入れたモアイ
像の小さなレプリカの横で
「「キリッ!」」
と三匹一列に並んで、やや上を向いていた。どうやら、モアイの真似をして遊ん
でいるらしい。なかなか微笑ましく、写真に撮りたい光景である。
でいるらしい。なかなか微笑ましく、写真に撮りたい光景である。
「おにーさーん!まりしゃ!おなかすいたんだじぇ~っ!!」
「まりさも!まりさも!」
「はいはい、ごはんですよ!」
「まりさも!まりさも!」
「はいはい、ごはんですよ!」
そう返事をして、私は予め用意しておいたトウモロコシを与える。昨日、ご近
所さんからもらったものなのだが、私はトウモロコシが好きではないのだ。
所さんからもらったものなのだが、私はトウモロコシが好きではないのだ。
「ゆゆ!まりしゃ!おにーさんのごはんさんだいすきっだよっ!!!」
「ゆゆ~ん♪とうもろこしさんっはゆっくりできるよっ!!!」
「ゆわぁぁぁん!まりさ!こんなあま~いおやさいさんたべたことないんだじ
ぇ!!おにーさん!ありがとうなんだじぇっ!!」
「ゆゆ~ん♪とうもろこしさんっはゆっくりできるよっ!!!」
「ゆわぁぁぁん!まりさ!こんなあま~いおやさいさんたべたことないんだじ
ぇ!!おにーさん!ありがとうなんだじぇっ!!」
最後の返事は、あの口のとりわけ悪かった個体のものだ。忍耐強い躾の成果な
のか、いい子になったものである。頭の十円禿げと、体の痣が痛々しいが。
のか、いい子になったものである。頭の十円禿げと、体の痣が痛々しいが。
私はつむりもどきたちが、トウモロコシに夢中になっている間に、砂の上に、
四つの新お帽子候補を置いた。
まず、以前、ロケット花火で吹っ飛ばした子まりさの帽子、それと同じものの
先端を切り落としたもの、ちょうどいい大きさのサザエの貝殻、プラスチック
コップである。
四つの新お帽子候補を置いた。
まず、以前、ロケット花火で吹っ飛ばした子まりさの帽子、それと同じものの
先端を切り落としたもの、ちょうどいい大きさのサザエの貝殻、プラスチック
コップである。
さて、宿貝のお引越しは観察できるだろうか?
私は彼らの様子をそっと物陰から見守ることにした。
私は彼らの様子をそっと物陰から見守ることにした。
「ゆぷーっ!おなかいっぱいだよ!!ゆっくりーっ!!…ゆゆ!?」
食事を終えた一匹のつむりが、私が置いた帽子etc の存在に気がついたようだ。
「ゆゆーっ!!おぼうしさんがあるよっ!!!」
その一声に他のつむりたちも一斉に振り向く。
「「おぼうしさんっ!!!」」
「ゆぅ~んっ!!おにーさんがまりさにあたらちいおぼうしよういしてくれた
んだねっ!!!」
「ゆぅ~んっ!!おにーさんがまりさにあたらちいおぼうしよういしてくれた
んだねっ!!!」
やはり、所詮はつむりもどき、お帽子への未練はあるらしい。まあ、野良ゆっ
くりの中でも、帽子を失った個体が、より弱い個体からお飾りを奪おうとする
ことがあるのだから、当然の反応だろう。
くりの中でも、帽子を失った個体が、より弱い個体からお飾りを奪おうとする
ことがあるのだから、当然の反応だろう。
「これはまりさのおぼうしなんだじぇっ!!」
真っ先に帽子(完全体)に手、ならぬ舌をつけたのは、あの口の悪かったつむり
である。
である。
「ゆゆ!!だめだよ!まりさがいちばんさいしょにおぼうしさんをみつけたん
だよっ!!」
「まりしゃだっておぼうしさんでゆっくりしたんだじぇっ!!」
だよっ!!」
「まりしゃだっておぼうしさんでゆっくりしたんだじぇっ!!」
早速、三匹で奪い合いになった。各々が帽子の端っこに噛み付き、帽子を自分
のものにしようと引っ張り合う。
のものにしようと引っ張り合う。
「ゆぎぎぎぎぎ…これはまりしゃのなんだじぇ!!!」
「ゆんぎぃっ…まりさのだよっ!!まりさのおぼうしさんだよ!」
「ゆんぎぃっ…まりさのだよっ!!まりさのおぼうしさんだよ!」
みちみち…
もう結果は見えてきた。
もう結果は見えてきた。
「ゆっぎっ…おぼうしさん!まりさのあたまにかえってきてぇっ!!」
「ぎぎぎぎぎぎ…もうおもいのいやだよ…ぎぎぎ…ぎ!?」
「ぎぎぎぎぎぎ…もうおもいのいやだよ…ぎぎぎ…ぎ!?」
べりりっ
「「ゆんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」
哀れにも三匹に必要とされた帽子は弾けるように破けてしまった。
「まりざのあだらじいおぼうじじゃんがああああああっ!!!」
「ゆっぐぢ!ゆっぐぢなぼっでねえええええっ!!!ぺーろぺーろ…」
「ゆわああああん!!ゆわああああん!!やっどばでぃざのぉぼうじざんが
えっでぎだのにいいいいいっ!!!」
「ゆっぐぢ!ゆっぐぢなぼっでねえええええっ!!!ぺーろぺーろ…」
「ゆわああああん!!ゆわああああん!!やっどばでぃざのぉぼうじざんが
えっでぎだのにいいいいいっ!!!」
お帽子の復活、という宿願?を目の前にぶら下げられ、自分達でぶち壊して泣
き喚くつむりもどきたち。もっとも、きれいな帽子が一つしかない時点で予想
できた結果ではあるが。
き喚くつむりもどきたち。もっとも、きれいな帽子が一つしかない時点で予想
できた結果ではあるが。
「ゆぅ…しかたないよ…まりさはほかのおぼうしさんさがすよ…」
一番手に入れたかったはずの、まりさの帽子がばらばらに千切れてしまったこ
とで、つむりもどきたちは十分間ほど泣き喚いた後、他の帽子候補へと目を向
け始めた。
とで、つむりもどきたちは十分間ほど泣き喚いた後、他の帽子候補へと目を向
け始めた。
「ゆぅ~ん?…ゆゆ~ん?」
一匹のつむりが目をつけたのは、プラスチックコップであった。帽子や貝殻ほ
ど、中にものを詰め込めないこの手のものは、あまり好まないのではないかと
思っていたのだが、狩りをする必要のないこの環境では異なる考えが芽生えた
のかもしれない。
つむりは、それまで頭に乗っけていた見栄えのしない貝殻から出て、コップを
被ってみる。
ど、中にものを詰め込めないこの手のものは、あまり好まないのではないかと
思っていたのだが、狩りをする必要のないこの環境では異なる考えが芽生えた
のかもしれない。
つむりは、それまで頭に乗っけていた見栄えのしない貝殻から出て、コップを
被ってみる。
「これはかるくてうごきやすいよ!!!まりさはゆっくりできるよっ!!」
このコップまりさは、軽快に動けることが余程嬉しかったのか、ぽよんぽよん
と床の上を跳ね回っている。
と床の上を跳ね回っている。
「ゆぅぅ…まりさはこれでがまんするんだじぇ…」
あの口悪まりさが選んだのは、先端のない帽子だった。
「ゆゆ~…へんなかたちなんだじぇ…でも、これがまりさのおぼうしっぽいん
だじぇ…」
だじぇ…」
どうやら、口悪まりさは、まだ帽子に未練があるようだ。
「ゆんゆん…?ゆゆゆ…?これはおっきくて、なかがひろんだじぇーっ!!!
これならたからものさんをいっぱいあつめられるんだじぇーっ!!」
これならたからものさんをいっぱいあつめられるんだじぇーっ!!」
こちらのつむりもどきが注目したのはサザエの貝殻だ。このサザエはかなり大
きなもので、水族館の土産物として売っていたものである。生前は身も合わせ
て1キロ近い重さだったという。
当然、今まで、見につけていた貝殻よりもはるかに重いため、動きは鈍重なも
のになりそうだが、中に広いスペースがあることが気に入ったらしい。
きなもので、水族館の土産物として売っていたものである。生前は身も合わせ
て1キロ近い重さだったという。
当然、今まで、見につけていた貝殻よりもはるかに重いため、動きは鈍重なも
のになりそうだが、中に広いスペースがあることが気に入ったらしい。
被り物の選択に個性が現れるのは見ていて楽しかった。
世間は夏休みのシーズンになった。今のところ、帽子を交換する必要はないみ
たいだ。この時期はゆっくりにも暑いのか、よく冷房の吹き出し口の真下か、
扇風機が当たる場所で、三匹ともゆっくりしていた。
たいだ。この時期はゆっくりにも暑いのか、よく冷房の吹き出し口の真下か、
扇風機が当たる場所で、三匹ともゆっくりしていた。
コップまりさはいつも、私の家の中を所狭しと跳ね回っていた。本人曰く「探
検」しているらしい。活発に動けることが何より嬉しいようだ。
検」しているらしい。活発に動けることが何より嬉しいようだ。
欠け帽子まりさ(旧口悪つむり)は、すっかり従順になっていた。ちょくちょく、
遊んで遊んでと、私のところに来る辺り、元々は甘えん坊であったようだ。そ
れともこれがデレ期というものだろうか?
遊んで遊んでと、私のところに来る辺り、元々は甘えん坊であったようだ。そ
れともこれがデレ期というものだろうか?
サザエまりさはのんびりとしか動けなかったため、ほとんど餌入れの近くか、
私の寝室でうろうろしていた。これでは遊べないだろうと思い、パズルの他に
もクレヨンとスケッチブックを与えたら気に入ったらしく、スケッチブックは
すぐに前衛芸術でいっぱいになってしまった。
私の寝室でうろうろしていた。これでは遊べないだろうと思い、パズルの他に
もクレヨンとスケッチブックを与えたら気に入ったらしく、スケッチブックは
すぐに前衛芸術でいっぱいになってしまった。
私は一人暮らしが長かったので、正直、今の生活が楽しかった。
だが、ある日、悲劇は起きてしまった。
「ゆぴー…ゆぴー…ゆぴゅ?」
コップまりさが目を覚ましたとき、そこは真っ暗な空間だった。
お兄さんも、他のまりさたちも眠っているのか、不気味なくらい静かであり、
ただエアコンの微風だけが静かな音を奏でていた。
コップまりさはついつい、エアコンの涼風が直撃する位置にある、小さな棚の
上で眠ってしまったのだ。
お兄さんも、他のまりさたちも眠っているのか、不気味なくらい静かであり、
ただエアコンの微風だけが静かな音を奏でていた。
コップまりさはついつい、エアコンの涼風が直撃する位置にある、小さな棚の
上で眠ってしまったのだ。
「ゆゆぅ…まりさはしーしーしたいよ…」
風に当たる場所で眠ってしまったためか、コップまりさは尿意を催した。しか
し、トイレに行くには、この棚から降りなければならない。
お兄さんが、ゆっくりでも降りられるように、棚の横にぶ厚い本で階段を作っ
ておいてくれたはずなのだが、真っ暗で何も見えなかった。
し、トイレに行くには、この棚から降りなければならない。
お兄さんが、ゆっくりでも降りられるように、棚の横にぶ厚い本で階段を作っ
ておいてくれたはずなのだが、真っ暗で何も見えなかった。
「ゆゆ?こわいけど、まりさはゆうきをだすよ!!」
ちょんちょんっと、あんよの先で階段の位置を確かめようとするまりさ。だが、
まだ寝ぼけていたため、バランスを崩してしまった。
まだ寝ぼけていたため、バランスを崩してしまった。
「ゆうっ!!?…ゆぎゃっ!!!」
暗がりの中、ゆっくりにしては高いところから落ちたコップまりさは、床と接
吻してしまったのである。
吻してしまったのである。
「ゆぎいいいいいっ!!!まりざのわんだほーふぇいずがああああっ!!!」
そして、頭の上にコップがないことに気がついたのは、その数秒後のことであ
った。
った。
「いじゃいよおおっ!!!おにいさ…ゆゆ!!?まりさのこっぷさんがないよ
っ!!!」
っ!!!」
被っていたコップはプラスチック製であるため、割れることはなかったが、家
具の隙間へと転がっていってしまっていたのである。
具の隙間へと転がっていってしまっていたのである。
「こっぷさんでてきてね!!まりさといっしょにゆっくりしようねっ!!」
暗がりの中であったが、コップはすぐに見つかった。
「ゆゆ!!こっぷさんゆっくりしていてね!!いま、まりさがいくよ!」
やっと、当初の目的であるトイレに行ける。コップまりさは安堵の表情で、コ
ップへと跳ねていった。
ップへと跳ねていった。
「こっぷさん!まりさのあたまにもどろうね!」
やっとコップの隣まで跳ねてきたまりさは、コップの口の方へ回り込もうとし
た。
た。
べちょ
「ゆ?」
そして、何かに張り付く。
「まりさはかれいにじゃんぷするよ!ゆんっ!…ゆゆっ!!?…ゆんっ!!」
しかし、いくら跳ねようとしても、あんよが何かにべっとりと張り付き、動か
なかった。そこは家具の隙間に設置する粘着式のネズミ捕りだったのである。
コップは、粘着式ネズミ捕りにくっついたために、この位置で止まっていたの
だ。もし、部屋が明るければ、さすがにコップまりさも気付いたであろう。つ
まることろ、不運であった。
なかった。そこは家具の隙間に設置する粘着式のネズミ捕りだったのである。
コップは、粘着式ネズミ捕りにくっついたために、この位置で止まっていたの
だ。もし、部屋が明るければ、さすがにコップまりさも気付いたであろう。つ
まることろ、不運であった。
「ゆぎいいいいっ!!!ゆんっ!!…どぼじでばでぃざのあんよざんうごがな
いのおおおおっ!!?」
いのおおおおっ!!?」
ゆんゆんと脱出を試みるコップまりさ、しかし、どうやってもあんよは動かな
かった。
かった。
そのとき、とん、という、何かが落ちたような物音がした。お兄さんの足音だ
ろうか?
ろうか?
「ゆ゛ゆ゛!?おにいざん!!?だじゅげで!!!ばでぃざのあんよがうごが
ないよぉっ!!!」
ないよぉっ!!!」
だが、返事はなかった。代わりに何か、生温かいものがコップまりさの背中に
触れる。
触れる。
「ゆ?だれ?おにいさん!!?」
だが、まりさはあんよがくっついているため、振り返って正体を確かめること
はできなかった。
はできなかった。
「だれ?だれなの?まりさはまりさだよ!ゆっくりしないでたすけてね!」
そのとき、チューッという鳴き声がすぐ後ろから聞こえてきた。ネズミである。
それは、お兄さんの家に住み着いているドブネズミだった。尻尾も合わせれば
60センチはあろうかという大型のネズミであり、家ネズミと総称される、人
家に住みつくネズミの一種である。
今、コップまりさがはまっている罠は、このドブネズミの通るルートにわざわ
ざ仕掛けられたものであったのだ。そして、ネズミはこのご馳走を見逃したり
しなかった。コップまりさの背中をがぶりと食いちぎる。
それは、お兄さんの家に住み着いているドブネズミだった。尻尾も合わせれば
60センチはあろうかという大型のネズミであり、家ネズミと総称される、人
家に住みつくネズミの一種である。
今、コップまりさがはまっている罠は、このドブネズミの通るルートにわざわ
ざ仕掛けられたものであったのだ。そして、ネズミはこのご馳走を見逃したり
しなかった。コップまりさの背中をがぶりと食いちぎる。
「ゆっぎゃあああああああああああああっ!!!だれ!!?だれなの!!?
ばでぃざをだべないでねっ!!!ばでぃざはおいじぐないよっ!!!」
ばでぃざをだべないでねっ!!!ばでぃざはおいじぐないよっ!!!」
ドブネズミはあっという間に、食いちぎったコップまりさの体だったものを咀
嚼すると、少しずつ齧り取るように、粘着式ネズミ捕りからはみ出ている、コ
ップまりさの背中を食べていった。
嚼すると、少しずつ齧り取るように、粘着式ネズミ捕りからはみ出ている、コ
ップまりさの背中を食べていった。
「やべでえええ!!!ばでぃざをだべないでえええっ!!!ゆぎゃあああああ
あっ!!!いじゃいっ!!!いじゃいよおおおっ!!!ゆぎぃぃっ!!!」
あっ!!!いじゃいっ!!!いじゃいよおおおっ!!!ゆぎぃぃっ!!!」
その日の夜、友達との酒につき合わされ、疲れきっていたお兄さんが目を覚ま
すことはなかった。
翌朝、お兄さんが見たのは、後ろ半分がなくなり、苦悶の表情で絶命していた
コップまりさの変わり果てた姿だった。
すことはなかった。
翌朝、お兄さんが見たのは、後ろ半分がなくなり、苦悶の表情で絶命していた
コップまりさの変わり果てた姿だった。
「ああ…ごめん…ごめんよ…私が気がつけば…」
飼い主がしっかり見ていれば、ゆっくりの大半の事故は防げるという。だが、
それはつまり、ゆっくりに付きっ切りでもない限り、どんなに優秀なゆっくり
でも死ぬ可能性はあるということでもあった。
それはつまり、ゆっくりに付きっ切りでもない限り、どんなに優秀なゆっくり
でも死ぬ可能性はあるということでもあった。
八月になった。
あの二匹のつむりもどきにバッジをつけてやった。
サザエまりさは銀バッジの試験に受かることが出来た。しかし、欠け帽子ま
りさは、銀バッジを取得できず、いまのところ銅バッジだった。
銀バッジを取れなかったことを、欠け帽子まりさは私に何度も泣いて謝った。
サザエまりさは銀バッジの試験に受かることが出来た。しかし、欠け帽子ま
りさは、銀バッジを取得できず、いまのところ銅バッジだった。
銀バッジを取れなかったことを、欠け帽子まりさは私に何度も泣いて謝った。
「おにいさん!ごめんなんだぜ!!まりさのせいでおにいさんがゆっくりで
きないんだぜ!!!ばかなまりさをゆるしてほしいんだぜぇぇぇっ!!」
きないんだぜ!!!ばかなまりさをゆるしてほしいんだぜぇぇぇっ!!」
私は何も怒っていないし、困ってもいなかった。
私はそもそも熱心なペット愛好家ではない。ただ、まりさたちが野良に間違わ
れて殺されることのないよう、バッジを取ろうとしただけである。
この辺りに棲んでいるのは顔見知りばかりだったから、銅バッジでも一向に構
わなかった。
私はそもそも熱心なペット愛好家ではない。ただ、まりさたちが野良に間違わ
れて殺されることのないよう、バッジを取ろうとしただけである。
この辺りに棲んでいるのは顔見知りばかりだったから、銅バッジでも一向に構
わなかった。
そう説明しても欠け帽子まりさは泣いて謝罪を繰り返していた。
「私は別にSHAZAIしてもらわなくてもいいんですけどねぇ…」
私は、一緒にバッジ取得目指して勉強頑張ろうと欠け帽子まりさを励まし、
その話を終わりにさせた。
その代わりに、欠け帽子ではなく、ちゃんとした帽子を作ってあげた。
いや、正確には作ってあげようとした…
その話を終わりにさせた。
その代わりに、欠け帽子ではなく、ちゃんとした帽子を作ってあげた。
いや、正確には作ってあげようとした…
元はといえば、私が実験と称した遊びのために切り落としたものだ。代用の帽
子が売っていない以上、尻拭いぐらいはしてやりたい。
そう思って、小学生と中学生の頃の家庭科の教科書を探し出し、欠け帽子の先
端を私なりに必死に補修(代わりの布を当て、縫い付ける)してみた。
子が売っていない以上、尻拭いぐらいはしてやりたい。
そう思って、小学生と中学生の頃の家庭科の教科書を探し出し、欠け帽子の先
端を私なりに必死に補修(代わりの布を当て、縫い付ける)してみた。
…してみたのだが…
帽子の先端はヘタクソな縫いつけのせいで、指が縫い目から入りそうな上に、
素材が違うせいか、縫い付けた先端部位がへにょりと垂れて、いかにもかっこ
悪い。
帽子の先端はヘタクソな縫いつけのせいで、指が縫い目から入りそうな上に、
素材が違うせいか、縫い付けた先端部位がへにょりと垂れて、いかにもかっこ
悪い。
「ゆ!!?ゆわあああああいっ!!!まりさのおぼうしさんだぜ!!まりさの
おぼうしさんがかえってきたんだぜ!!!ゆ…ゆわあああっ!!まりさのおぼ
うしさんゆっくりしていってねええええっ!!!」
おぼうしさんがかえってきたんだぜ!!!ゆ…ゆわあああっ!!まりさのおぼ
うしさんゆっくりしていってねええええっ!!!」
それでも、欠け帽子まりさは大喜びしてくれた。正直、見てくれが悪いので、
欠け帽子まりさにはちゃんと謝ろうと思っていたのだが、逆に泣きながら感謝
されてしまった。
欠け帽子まりさにはちゃんと謝ろうと思っていたのだが、逆に泣きながら感謝
されてしまった。
今となっては、私はこいつらが可愛くて仕方がなかった。
その日、私は欠け帽子まりさに元気になってもらおうと思い、公園に向かった。
帽子の件では喜んでくれたものの、今でも、銀バッジを取り損ねたことを謝り
続けているのである。私は欠け帽子まりさには、そろそろバッジのことは忘れ
て楽しく過ごして欲しかった。
土日の公園には、他の飼いゆっくりたちも飼い主と遊びに来ていることが多い。
外で遊び、友達でも作ってくれれば、欠け帽子まりさも元気になってくれるの
ではないか?そう思ったのだ。
帽子の件では喜んでくれたものの、今でも、銀バッジを取り損ねたことを謝り
続けているのである。私は欠け帽子まりさには、そろそろバッジのことは忘れ
て楽しく過ごして欲しかった。
土日の公園には、他の飼いゆっくりたちも飼い主と遊びに来ていることが多い。
外で遊び、友達でも作ってくれれば、欠け帽子まりさも元気になってくれるの
ではないか?そう思ったのだ。
「ゆゆゆ~ん♪おにいさんとこうえんでびゅーたのしみなんだぜ!!!まりさ!
おにいさんとこうえんでいっぱいゆっくりしたいんだぜ!!!」
「はい、たくさん遊びましょうね。」
おにいさんとこうえんでいっぱいゆっくりしたいんだぜ!!!」
「はい、たくさん遊びましょうね。」
私は欠け帽子まりさの跳ねるペースに合わせて、公園に歩いていった。
手にはサザエまりさを抱えている。こいつは、這うことでしか移動できず、欠
損帽子まりさと一緒に行動できないためだ。
手にはサザエまりさを抱えている。こいつは、這うことでしか移動できず、欠
損帽子まりさと一緒に行動できないためだ。
「まりさもこうえんさんたのしみなんだじぇ!!!おそとでたからものさんさ
がしたいのじぇ!!」
がしたいのじぇ!!」
サザエまりさはそう言って大事なたからもの―それはサザエまりさが庭の木の
根本で拾ったタマムシの羽だった―に頬ずりをする。このサザエまりさは収集
癖が強いのか、綺麗な虫の羽だの、珍しい形の木の葉や木の実、部屋の隅に放
置されていたラムネのビー玉などを拾ってきては、
根本で拾ったタマムシの羽だった―に頬ずりをする。このサザエまりさは収集
癖が強いのか、綺麗な虫の羽だの、珍しい形の木の葉や木の実、部屋の隅に放
置されていたラムネのビー玉などを拾ってきては、
「ゆゆ~ん…これはいいものなのじぇ!」
と一人悦に入っているのだった。
…まあ、なんにせよ、可愛いやつらである。
…まあ、なんにせよ、可愛いやつらである。
そうこうしているうちに川の近くの公園についた。
この公園は河原近くの野原に作られたもので、元々の植物相や環境を巧みに取
り入れたものだった。河川から取り入れた水が公園の中に小川や小さな湿地帯
を形成し、今の季節、そこは水生昆虫やトンボの溜まり場になっていた。
この公園は河原近くの野原に作られたもので、元々の植物相や環境を巧みに取
り入れたものだった。河川から取り入れた水が公園の中に小川や小さな湿地帯
を形成し、今の季節、そこは水生昆虫やトンボの溜まり場になっていた。
私は、周りのゆっくりの飼い主たちに挨拶を済ませ、後はつむりもどきたちの
好きにさせた。飼い主たちと、今年の山菜やキノコの出来具合、川での漁獲な
ど、私には無視できない話が始まってしまったからだ。
好きにさせた。飼い主たちと、今年の山菜やキノコの出来具合、川での漁獲な
ど、私には無視できない話が始まってしまったからだ。
「ゆゆ!!まりさはみんなにあいさつするんだじぇっ!!」
「まりさもこうえんでびゅーするんだぜっ!!」
「まりさもこうえんでびゅーするんだぜっ!!」
欠け帽子まりさは、この新しい帽子、素敵な帽子を被ったまりさがみんなに受
け入れられる瞬間を心待ちにしていた。それは、生まれてすぐ帽子を奪われて
以来、欠け帽子まりさの宿願だったのである。
一方、つむりの道を選んだ、サザエまりさも友達を作って、たからものを見せ
合ったり、交換したりしたいと思っていた。お兄さんの家の中には、もうめぼ
しいものはないように思えたからである(めぼしいものはお兄さんが先手を打っ
てしまってしまったせいであるが)。
け入れられる瞬間を心待ちにしていた。それは、生まれてすぐ帽子を奪われて
以来、欠け帽子まりさの宿願だったのである。
一方、つむりの道を選んだ、サザエまりさも友達を作って、たからものを見せ
合ったり、交換したりしたいと思っていた。お兄さんの家の中には、もうめぼ
しいものはないように思えたからである(めぼしいものはお兄さんが先手を打っ
てしまってしまったせいであるが)。
二匹のつむりもどきは、サザエまりさの移動速度に合わせてゆっくりと、まる
で井戸端会議のように談笑する、この辺りの飼いゆっくりの輪の前で高らかに
挨拶をした。
で井戸端会議のように談笑する、この辺りの飼いゆっくりの輪の前で高らかに
挨拶をした。
「まりさはまりさだぜっ!ゆっくりしていってね!」
「まりさはつむりだじぇっ!ゆっくりしていってほしんだじぇ!」
「まりさはつむりだじぇっ!ゆっくりしていってほしんだじぇ!」
すかさず、定番の挨拶が返ってくる。
「ゆっくりしていってね!!」
そして、定番の挨拶の後には、和やかだが刺激的な談笑が始まるはずだった。
だが、つむりもどきたちの期待に反して、周囲の反応は冷たいものだった。
だが、つむりもどきたちの期待に反して、周囲の反応は冷たいものだった。
「まりさはれいむやおちびちゃんとひーそひーそするよっ!」
「あやややや…これもしょせーじゅつ!おおせちがらい、せちがらい!」
「ゆぅ…おぼうしがゆっくりできないまりさだよ…」
「きっとやすものなんだねぇ~わかるよ~」
「げらげらげらげらげらげらげらっ!!」
「みゃみゃ!あれへんなおぼうちちてるまりちゃがいるよ~!」
「おちびちゃん!みちゃいけないよ!!」
「あやややや…これもしょせーじゅつ!おおせちがらい、せちがらい!」
「ゆぅ…おぼうしがゆっくりできないまりさだよ…」
「きっとやすものなんだねぇ~わかるよ~」
「げらげらげらげらげらげらげらっ!!」
「みゃみゃ!あれへんなおぼうちちてるまりちゃがいるよ~!」
「おちびちゃん!みちゃいけないよ!!」
他人の飼いゆっくりであることもあり、表面上は笑顔で取り繕うゆっくりたち、
このあたりが飼いゆっくりの知能なのだろうか?
しかし、所詮はゆっくりである。ひーそひーその陰口は、欠け帽子まりさとサ
ザエまりさにばっちり聞こえていた。
このあたりが飼いゆっくりの知能なのだろうか?
しかし、所詮はゆっくりである。ひーそひーその陰口は、欠け帽子まりさとサ
ザエまりさにばっちり聞こえていた。
「まりさもつむりも…おにいさんと…ゆっくりできる……」
言い返そうとした欠け帽子まりさの声は次第に小さくなっていく。
サザエまりさは何も言えず、ただ、貝殻の中に引っ込んで涙をこらえていた。
サザエまりさは何も言えず、ただ、貝殻の中に引っ込んで涙をこらえていた。
誰かに認めてもらえない限り、自分の価値を自分で認めるという、適度な自尊
心を持つことは容易ではない。
人間さんに認めてもらうことで、やっと再建されようとしていたつむりもどき
たちの自尊心は、他のゆっくりに認めてもらえなかったことで、再び崩壊して
しまったのである。
心を持つことは容易ではない。
人間さんに認めてもらうことで、やっと再建されようとしていたつむりもどき
たちの自尊心は、他のゆっくりに認めてもらえなかったことで、再び崩壊して
しまったのである。
「ゆっくちできないゆっくりはちねっ!!」
「い~んぽっ!」
「い~んぽっ!」
子れいむと子みょんがバカにした笑いを浮かべながら、サザエつむりに体当た
りをしかけてくる。
だが、ダメージを負ったのは、調子に乗った子れいむと子みょんの方だった。
二匹のあんよや頬は、堅いサザエの貝殻によって、ざりっと傷ついた。
りをしかけてくる。
だが、ダメージを負ったのは、調子に乗った子れいむと子みょんの方だった。
二匹のあんよや頬は、堅いサザエの貝殻によって、ざりっと傷ついた。
「ゆぴゃああああっ!!!れいみゅのめるへんなあんよがああああっ!!!」
「ゆっきいいいいっ!!!みょんのほっぺがいちゃいみょおおおん!!!」
「ゆっきいいいいっ!!!みょんのほっぺがいちゃいみょおおおん!!!」
子供達の泣き声を聞きつけ、両親がやって来る。
「ぢょっどおおおおっ!!!れいむのかわいいおちびちゃんになにしてるのお
おおっ!!!」
「みょんのたまのようなおちびちゃんにいじわるするやつはせいっさつっする
みょん!!ゆっくりしないであやまってみょん!!」
「ゆひいいっ!!!まりさはなんにもしてないんだじぇ!!」
おおっ!!!」
「みょんのたまのようなおちびちゃんにいじわるするやつはせいっさつっする
みょん!!ゆっくりしないであやまってみょん!!」
「ゆひいいっ!!!まりさはなんにもしてないんだじぇ!!」
さっと貝殻の中に閉じこもるサザエまりさ。親みょんは軽く体当たりをしてみ
たが、サザエまりさが入っているサザエの貝殻もなかなか重いので、ビクとも
しなかった。
たが、サザエまりさが入っているサザエの貝殻もなかなか重いので、ビクとも
しなかった。
「ゆゆぅ!!ひきょーみょん!!でてくるみょん!!」
「何やってるの!!他人様のゆっくりに迷惑かけちゃだめでしょうっ!!!」
「何やってるの!!他人様のゆっくりに迷惑かけちゃだめでしょうっ!!!」
親れいむとみょんを怒鳴りつけたのは、四匹の飼い主である、おばさんだった。
おばさんはすかさず二匹を持ち上げると、容赦なくそのお尻をぺんぺんする。
おばさんはすかさず二匹を持ち上げると、容赦なくそのお尻をぺんぺんする。
「ゆっぎゃああああっ!!!どぼじでれいぶがおごられでるのおおおっ!!」
「あんたらが他人様のゆっくりに暴力ふるってるからでしょ!!まったく世話
の焼けるバカゆっくりだね!!」
「ちがうみょん!!!このゆっくりできないつむりがおちびちゃんをいじめた
みょん!!ゆっぎゃああっ!!!」
「ちゃんと見てたよ!あんたらがしっかり躾しないからでしょ!!!親なら責
任持ちなさいよね!!!」
「あんたらが他人様のゆっくりに暴力ふるってるからでしょ!!まったく世話
の焼けるバカゆっくりだね!!」
「ちがうみょん!!!このゆっくりできないつむりがおちびちゃんをいじめた
みょん!!ゆっぎゃああっ!!!」
「ちゃんと見てたよ!あんたらがしっかり躾しないからでしょ!!!親なら責
任持ちなさいよね!!!」
おばさんの百烈張り手によって、二匹のお尻が通常の三倍まで、真っ赤に膨れ
上がったところで二匹は解放された。
上がったところで二匹は解放された。
「山の方のあんちゃんのところのゆっくりか?ごめんなさいね?痛かったでし
ょう?」
「ゆ、ゆっくりだいじょうぶなんだじぇっ!!」
ょう?」
「ゆ、ゆっくりだいじょうぶなんだじぇっ!!」
だが、サザエまりさの目は真っ赤だった。子ゆっくりの体当たりが痛かったの
ではない、心が痛んだのである。
ではない、心が痛んだのである。
「すいません!どうかしましたか!?」
お兄さんがゆっくりたちの変な様子に気がついてやってきたのはそのときだっ
た。そこに、欠け帽子まりさの姿はなかった。
た。そこに、欠け帽子まりさの姿はなかった。
欠け帽子まりさは公園の後方にあった草むらに飛び込み、泣きながら跳ねてい
た。
た。
げすと呼ばれるゆっくりは、悪いことが起きた場合、その責任を他者に転換す
ることで悲劇を量産してきた。だが、生まれてすぐに自尊心を砕かれたつむり
もどきたちは、ただひたすら自分自身を責めることしかできなかった。
口が悪かったのは、自分は何の価値もないと本当は思っている自分の心を奮い
立たせるための精一杯の虚勢だったのであり、たまに見せたげすのような言動
は、まだ赤ゆっくりであった頃の未熟な精神から生まれたものか、彼らなりに
普通のゆっくりらしく振舞おうとした、不器用な結果であった。
ることで悲劇を量産してきた。だが、生まれてすぐに自尊心を砕かれたつむり
もどきたちは、ただひたすら自分自身を責めることしかできなかった。
口が悪かったのは、自分は何の価値もないと本当は思っている自分の心を奮い
立たせるための精一杯の虚勢だったのであり、たまに見せたげすのような言動
は、まだ赤ゆっくりであった頃の未熟な精神から生まれたものか、彼らなりに
普通のゆっくりらしく振舞おうとした、不器用な結果であった。
「ゆええええええんっ!!!ごべんなざいっ!!ごべんなざいっ!!」
欠け帽子まりさは何に謝っているかのか良く分からなかったが、とにかくごめ
んさないを繰り返しながら、跳ねた。おそらく、自分がここに存在しているこ
とそれ自体を様々なものに謝っているのであろう。
生い茂ったヨシの葉が、鋭いススキの葉が、草むらを無我夢中で跳ねる欠け帽
子まりさの頬を切り裂いていく。
んさないを繰り返しながら、跳ねた。おそらく、自分がここに存在しているこ
とそれ自体を様々なものに謝っているのであろう。
生い茂ったヨシの葉が、鋭いススキの葉が、草むらを無我夢中で跳ねる欠け帽
子まりさの頬を切り裂いていく。
「ゆひいいいんっ!!!まりざがっ!!まりざがっ!!ゆっぐりでぎないぜい
でっ!!」
でっ!!」
薄々、いや何度も感じていたのだが、やはり自分には価値がないのだ!お兄さ
んのところにいてもきっと迷惑なだけなのだと。
んのところにいてもきっと迷惑なだけなのだと。
自分には価値がないからと、いろいろなことから逃げる。
決して珍しいことではないが、それがある種の甘えであることに気がつけるほ
ど、欠け帽子まりさは成熟していなかった。そして、生まれてすぐに自尊心を
破壊されたつむりもどきには、それは困難なことだった。
決して珍しいことではないが、それがある種の甘えであることに気がつけるほ
ど、欠け帽子まりさは成熟していなかった。そして、生まれてすぐに自尊心を
破壊されたつむりもどきには、それは困難なことだった。
「おにいさんごべんなざいっ!!おにいさんごべんなざいっ!!」
ひょっとしたら、心のどこかで、お兄さんが探しに来てくれて、大丈夫、まり
さはゆっくりしているよ、と励ましてくれるのを期待しているのかもしれない。
一種の構ってちゃんの精神状態である。
さはゆっくりしているよ、と励ましてくれるのを期待しているのかもしれない。
一種の構ってちゃんの精神状態である。
そして、欠け帽子まりさは公園裏手の草むらを抜け、河原に出た。公園の裏側
は河原になっており、よく釣り人が釣り糸を垂らしたり、自称博士の昆虫少年
が虫取り網を片手に駆け回っていたりする場所であった。
は河原になっており、よく釣り人が釣り糸を垂らしたり、自称博士の昆虫少年
が虫取り網を片手に駆け回っていたりする場所であった。
「ゆゆ…とおくにきちゃったんだぜ…」
そろそろ戻るべきだろうか?それともここでお兄さんが迎えに来てくれるまで
心を落ち着かせるべきだろうか?
心を落ち着かせるべきだろうか?
欠け帽子まりさがそう考え始めたとき、視界の隅に動くものがあった。
「ゆあああん?みなれないまりさなんだぜぇ…」
そこにいたのは、一匹のぶくぶくに太った野良まりさであった。
川にかかった橋のたもとに、粗大ゴミが無造作に捨てられている場所があり、
そこは、最近ここら辺の飼いゆっくりの餌をくすね、庭の植物やゴミ捨て場を
荒らしている野良ゆ一家のアジトだった。
彼らの存在はまだ人間には察知されていないものの、この辺りの飼いゆっくり
には知られており、近寄ってはいけない、ということは常識だった。
川にかかった橋のたもとに、粗大ゴミが無造作に捨てられている場所があり、
そこは、最近ここら辺の飼いゆっくりの餌をくすね、庭の植物やゴミ捨て場を
荒らしている野良ゆ一家のアジトだった。
彼らの存在はまだ人間には察知されていないものの、この辺りの飼いゆっくり
には知られており、近寄ってはいけない、ということは常識だった。
「ゆ?まりさはまりさだよっ!!」
欠け帽子まりさは、野良まりさの態度になんだか、ゆっくりできないものを感
じながらも、一応挨拶をした。
じながらも、一応挨拶をした。
「まりささまはまちでそだったきんばっじなのぜぇっ!!きんばっじのまりさ
さまはどうばっじまりさなんかとはなさないんだぜぇっ!ぶっひゃひゃひゃひ
ゃひゃっ!!みじめなぼうしかぶってるのぜぇっ!ゆっくりできないゆっくり
なのぜぇっ!」
さまはどうばっじまりさなんかとはなさないんだぜぇっ!ぶっひゃひゃひゃひ
ゃひゃっ!!みじめなぼうしかぶってるのぜぇっ!ゆっくりできないゆっくり
なのぜぇっ!」
欠け帽子まりさはカチンと来た。確かに、自分の帽子の形は変だが、ちゃんと
お兄さんが直してくれたのだ。こんな汚い野良まりさに笑われるようなもので
はなかった。
お兄さんが直してくれたのだ。こんな汚い野良まりさに笑われるようなもので
はなかった。
「ゆゆ!?なにいってるんだぜ!!まりさのぼうしはゆっくりできるんだぜ!
!おにいさんがゆっくりな…どぼじでおぼうじざんごわれぢゃっでるんだぜえ
ええええええっ!!?」
!おにいさんがゆっくりな…どぼじでおぼうじざんごわれぢゃっでるんだぜえ
ええええええっ!!?」
無残にも、欠け帽子まりさの帽子の先端は、もげて、後方に引きずられていた。
欠け帽子まりさが草むらを強引に跳ねてきたことで、帽子の先端が取れそうに
なっていたのである。
欠け帽子まりさが草むらを強引に跳ねてきたことで、帽子の先端が取れそうに
なっていたのである。
「みんなでてくるのぜぇっ!!!ゆっくりできないあわれなゆっくりがいるの
ぜぇっ!!」
ぜぇっ!!」
ゴミ捨て場から出てきたのは、番であろう、頭が半分剃られてしまった、汚い
れいむ、そして子れいむと二匹の子まりさであった。
れいむ、そして子れいむと二匹の子まりさであった。
「ゆぎゃぎゃっ!!!ばぎゃみぢゃいなぼうじをがぶっだまりざがいるよっ!
おおみじめみじめ!!じねばいいのにっ!!おぢびぢゃんだぢどはおおぢがい
だねっ!!」
「ゆぷぷ!へんにゃぼうちなんだじぇっ!!!まりちゃちゃまにょだんでぃな
おぼうちとちがいしゅぎるのじぇっ!!!」
「ゆっくちまりしゃしゃまのすまーとなおぼうしみるといいんだじぇ!!!み
たらまりしゃしゃまにあまあまもってくるんだじぇっ!!」
「どうちようもにゃいまりちゃはぷりちーきゅーちーれいみゅにあまあまもっ
てきてにぇ!!!ちぬのはちょれきゃらでいいよっ!!」
おおみじめみじめ!!じねばいいのにっ!!おぢびぢゃんだぢどはおおぢがい
だねっ!!」
「ゆぷぷ!へんにゃぼうちなんだじぇっ!!!まりちゃちゃまにょだんでぃな
おぼうちとちがいしゅぎるのじぇっ!!!」
「ゆっくちまりしゃしゃまのすまーとなおぼうしみるといいんだじぇ!!!み
たらまりしゃしゃまにあまあまもってくるんだじぇっ!!」
「どうちようもにゃいまりちゃはぷりちーきゅーちーれいみゅにあまあまもっ
てきてにぇ!!!ちぬのはちょれきゃらでいいよっ!!」
一斉に欠け帽子まりさを罵倒する家族と、欠け帽子まりさの崩れた帽子とを見
比べて、野良まりさは満足そうにうなずいた。
比べて、野良まりさは満足そうにうなずいた。
「やっぱりきんばっじのまりささまのかぞくは、そこらへんのかいゆっくりと
はひとあじちがうのぜぇっ!!!」
はひとあじちがうのぜぇっ!!!」
この野良まりさは町で飼われていた頃、飼い主との努力の甲斐あって金バッジ
を取得したのだが、その数日後に野良れいむとすっきりしてしまったがために
捨てられたのだった。
所詮はマナーやルールを知識としてしか持っていない、金馬鹿の典型みたいな
ゆっくりだったのである。
を取得したのだが、その数日後に野良れいむとすっきりしてしまったがために
捨てられたのだった。
所詮はマナーやルールを知識としてしか持っていない、金馬鹿の典型みたいな
ゆっくりだったのである。
「こんなどうばっじよりもにんげんさんはきんばっじのまりささまをだいじに
するべきなのぜぇっ!!まちがったよのなかはたださなければならないのぜぇ
っ!!それはきんばっじであるまりささまのやくわりなのぜぇっ!!」
するべきなのぜぇっ!!まちがったよのなかはたださなければならないのぜぇ
っ!!それはきんばっじであるまりささまのやくわりなのぜぇっ!!」
そういうが早いか、野良まりさはその巨体で、欠け帽子まりさに体当たりをし
た。
た。
「ゆっぎゃあああっ!!」
欠け帽子まりさは思いっきり吹っ飛ばされ、全身を河原の石にしたたかに打ち
付けた。
付けた。
「よわいのぜぇっ!たいしたことないのぜぇっ!ゆっくりできなくてよわいま
りさをかうなんてばかなにんげんさんなのぜぇっ!!」
りさをかうなんてばかなにんげんさんなのぜぇっ!!」
その一言に、欠け帽子まりさが目の色を変えて咆哮した。
「おにいさんのわるぐちをいうなあああっ!!!このぉぶたまりさぁっ!!!
おまえのばっじはきんじゃなくて、かわいたいぬのうんうんのいろだっ!!!」
おまえのばっじはきんじゃなくて、かわいたいぬのうんうんのいろだっ!!!」
逆上した欠け帽子まりさは近くの小枝を拾い、果敢に野良まりさに立ち向かう。
ぽきっ
「!!?」
だが、小枝では、肥満した野良まりさの皮を貫くことはできなかった。
「だぁれがぶたなのぜぇっ!!?まりささまはどうみてもはくちょうなのぜぇ
っ!!!」
っ!!!」
野良まりさはその巨体からは信じられないほど高く飛び上がり、欠け帽子まり
さを押しつぶした。
さを押しつぶした。
「!!?ゆべええええええっ!!?」
欠け帽子まりさは上から勢い良く、野良まりさにのしかかられ、眼球が破裂し
もりもりと餡子が口とあにゃるから噴き出す。
もりもりと餡子が口とあにゃるから噴き出す。
「きんばっじまりささまは、ゆっくりできないげすをせいっさいっするという
しめいがあるのぜぇっ!!みんなでこのしめいをかんすいするのぜぇっ!!」
しめいがあるのぜぇっ!!みんなでこのしめいをかんすいするのぜぇっ!!」
野良まりさの呼びかけに、周りで見ているだけだった家族もせいっさいっに参
加する。
加する。
「どうばっじのぐずみだいなまりざじねっ!!れいぶはきんばっじのづがいな
んだよ!!!えらいんだよっ!!のーぶるなんだよっ!!」
「せいっさいっ♪せいっさいっ♪」
「まりちゃちゃまはむてきなんだじぇっ!!!」
「はやきゅあまあまもってこにゃいとちんじゃうよ!?できにゃいならなんで
いきてりゅの?ばきゃなの!?ちぬの!?」
んだよ!!!えらいんだよっ!!のーぶるなんだよっ!!」
「せいっさいっ♪せいっさいっ♪」
「まりちゃちゃまはむてきなんだじぇっ!!!」
「はやきゅあまあまもってこにゃいとちんじゃうよ!?できにゃいならなんで
いきてりゅの?ばきゃなの!?ちぬの!?」
野良まりさに潰された挙句、四匹のゆっくりに次々と踏み潰され、もはや、潰
れた帽子と餡子以外に、そこにまりさがいたことを教えてくれるようなものは
残っていなかった。
れた帽子と餡子以外に、そこにまりさがいたことを教えてくれるようなものは
残っていなかった。
「ゆひゃひゃひゃひゃっ!!!ゆっくりできないおぼうしのくずはいきるかち
がないのぜ!!」
「まりちゃのいだいさをおもいちったか!!まりちゃはきんばっじのこどもな
んだじぇっ!かわいいんだぶっ!!?」
がないのぜ!!」
「まりちゃのいだいさをおもいちったか!!まりちゃはきんばっじのこどもな
んだじぇっ!かわいいんだぶっ!!?」
そのとき、野良の子まりさの一匹が勢い良く空を飛び、河原の石に叩きつけら
れ四散した。
れ四散した。
「おちびちゃん!!?ゆわあああああああ゛っ!!!ばでぃざのようぜいのよ
うにがわびびおぢびぢゃんがああああ゛っ!!!」
うにがわびびおぢびぢゃんがああああ゛っ!!!」
そこにあったのは、飛び散った餡子だけだった。
私は一匹150円のゆっくりを溺愛するほど博愛精神あふれる人間ではないが、
自分の所有物を汚い野良ゆに潰されて黙っているほど、無気力ではなかった。
自分の所有物を汚い野良ゆに潰されて黙っているほど、無気力ではなかった。
「ゆっくりできない帽子?だが、このきっっっちゃない帽子よりはマシなんじ
ゃないですかね?」
ゃないですかね?」
私は後ろから野良ゆっくりたちに接近し、野良まりさの帽子を取り上げる。
泥とよくわからない汁で汚れ、そこはかとなく、濡れた野良犬みたいな臭い
のする帽子だった。いや、この表現は野良犬に失礼か…
泥とよくわからない汁で汚れ、そこはかとなく、濡れた野良犬みたいな臭い
のする帽子だった。いや、この表現は野良犬に失礼か…
「ゆひっ!!!なにするんだぜぇええええっ!!!はやくまりささまのきれ
ーけいのぼうしかえすんだぜぇ!!ぼうしをかえして、まりささまのあにゃる
にきすすれば、ゆるしてやってもいい、ってがいあがささやいてるんだぜぇ
ぇぇ!!!」
「るせぇんだよ!!ごみ饅頭っ!!!」
ーけいのぼうしかえすんだぜぇ!!ぼうしをかえして、まりささまのあにゃる
にきすすれば、ゆるしてやってもいい、ってがいあがささやいてるんだぜぇ
ぇぇ!!!」
「るせぇんだよ!!ごみ饅頭っ!!!」
私は野良まりさの口の中に思いっきり蹴りをぶち込んだ。舌がにゅるりとして
気持ち悪かった。
気持ち悪かった。
「ゆぶぅっ!!?」
野良まりさの歯がへし折れ、口内に、傷口からはみ出た餡子と、お兄さんの靴
に付着していた土の味が広がる。
に付着していた土の味が広がる。
「どこにあんだよ、貴様の自慢の金バッジ!!?ただの捨てられたゲスじゃね
ぇか!?それが、うちのまりさをっ…」
ぇか!?それが、うちのまりさをっ…」
私は、野良まりさの帽子にバッジがないことを確認すると、真っ二つに引き裂
いた。
いた。
「ぼうぢいいっ!!!ばでぃざのびろーどのようなおぼうぢ…」
「おまえらの餡子は何色だぁぁぁぁっ!!!」
「おまえらの餡子は何色だぁぁぁぁっ!!!」
私は二発目の蹴りを野良まりさのぺにぺにだか、まむまむがある辺りにぶち込
む。
む。
「ゆ゛ごばああああああああああっ!!!」
ぐにゃりという何かが潰れた感触と共に、しーしーかなんだかよく分からない
ねっとりしたものが野良まりさの下腹部から河原へと広がっていく。
ねっとりしたものが野良まりさの下腹部から河原へと広がっていく。
「ばでぃざあああああっ!!!どぼじでごんなごどずるのおおおっ!!?れい
ぶだぢはなんにもわるいごどぢでないのにいぃぃっ!!」
「やめるんだじぇ!!まりちゃちゃまのおちょーさんをいじめりゅげちゅはま
りちゃちゃまが…ゆゆ~ん!おちょらとんでりゅ…ぶぎぇ」
ぶだぢはなんにもわるいごどぢでないのにいぃぃっ!!」
「やめるんだじぇ!!まりちゃちゃまのおちょーさんをいじめりゅげちゅはま
りちゃちゃまが…ゆゆ~ん!おちょらとんでりゅ…ぶぎぇ」
さらに拾い上げた子まりさを握りつぶし、野良まりさの口内に拳と共に叩き込
んだ。
んだ。
「ゆ゛ぼげえええっ!!?おびびばん!!?ゆぐぶぶぶ…おびびばんがあああ
あっ!!!」
あっ!!!」
私はそこで、野良れいむの方に向き直った。さっきこいつが不快な発言をした
気がしたからだ。
気がしたからだ。
「やべで!やべでよねっ!!れいぶはきんばっじのづがいなんだよ!!!こう
きなんだよ!!!ゆっぐりれいぶのかちをりがい…ゆびいいいいっ!!?」
きなんだよ!!!ゆっぐりれいぶのかちをりがい…ゆびいいいいっ!!?」
私は人の頭ぐらいの大きさの石を両手で拾い上げた。
「じゃんくにしてやるよおおおおっ!!!げすののらごときにっ!!貴様らに
価値なんかあるわけねぇだろぉ!!?」
価値なんかあるわけねぇだろぉ!!?」
そして、それを野良れいむに頭上から叩きつけた。
「ゆぐぶぅっ!!!」
野良れいむの片方の眼球が飛び出し、餡子が眼孔と口からぶちまけられる。
「まだまだいくぜぇっ!!!はでにしねぇっ!!!しねぇっ!!しねぇぇぇ
ぇぇっ!!!」
ぇぇっ!!!」
野良れいむに何度も何度も、石を叩きつける。
「やべ!!…ごぶっ!…れいぶばっ…きんばっぼっ!!…づがい!…!…」
石が叩きつけられる度に、野良れいむはつぶれ、餡子を吐き出し、最後には汚
い皮とリボンらしき千切れた布、そしてぐじゃぐじゃの餡子だけが残った。
い皮とリボンらしき千切れた布、そしてぐじゃぐじゃの餡子だけが残った。
「そろーり、そろーり…」
「なに逃げようとしてんだよぉ!このゴキブリ以下のみそっかすがっ!!」
「ゆ!!?」
「なに逃げようとしてんだよぉ!このゴキブリ以下のみそっかすがっ!!」
「ゆ!!?」
私は両親を見捨てて逃げようとしていた、可愛い可愛い子れいむをむんずと掴
み、リボンを引きちぎる。
み、リボンを引きちぎる。
「ゆぎゃあああああ゛っ!!!れいみゅ!きゃわびびれいみゅのまあべらずな
おりぼんんんんんんっ!!」
「おんやぁ、ばっちぃリボンだなぁ…だぁが気にすんなよ!どうせもうすぐも
っとばっちくなるんだ!貴様の面がなぁっ!!!」
おりぼんんんんんんっ!!」
「おんやぁ、ばっちぃリボンだなぁ…だぁが気にすんなよ!どうせもうすぐも
っとばっちくなるんだ!貴様の面がなぁっ!!!」
私は子れいむの顔を手頃な大きさの石にごしごしとこすりつけていく。子れい
むの顔はみるみる削れていき、眼球が潰れ、皮が削げ落ち、歯が零れ落ち、餡
子が零れ落ちた。
むの顔はみるみる削れていき、眼球が潰れ、皮が削げ落ち、歯が零れ落ち、餡
子が零れ落ちた。
「脆弱ぅっ!!!脆弱ぅっ!!!」
「ゆびびびびっ…ゆぎい…ゆ゛…ゆ゛………」
「ゆびびびびっ…ゆぎい…ゆ゛…ゆ゛………」
そして、私は動かなくなった「子れいむ」だったものを川に投げ入れた。
「さて…」
私は一匹、ゴミの山に逃げ込もうとしていた野良まりさの正面にあっという間
(ゆっくりから見ると)回り込んだ。
(ゆっくりから見ると)回り込んだ。
「まりさはにげるよ!ばかなにんげんさんはおってこないでね!ゆびっ!?」
「おい…」
「おい…」
私は腰にぶら下げている、野草採取用の小刀を取り出した。キラリと光った刃
のきらめきに野良まりさの背筋を冷たいものが走り、股間からおそろしーしー
が噴き出す。
のきらめきに野良まりさの背筋を冷たいものが走り、股間からおそろしーしー
が噴き出す。
「ゆ!ぞ、そうだおにいさん!まりざに!まりさにいいかんがえがあるよ!!」
(こいつまだしゃべれたのか)
私は先程、野良まりさの口の中に子まりさの遺骸をぶち込んだときに、舌を引
き抜いておかなかったことを後悔した。
き抜いておかなかったことを後悔した。
「あんなへんなおぼうしのまりさじゃなくて、まりさがおにいさんのかいゆっ
ぐりになるよ!まりさはきんばっじだったんだよ!!こんないいはなじはない
よ!!!」
ぐりになるよ!まりさはきんばっじだったんだよ!!こんないいはなじはない
よ!!!」
可能な限り満面の作り笑顔で媚を売る野良まりさ。こいつは本当にこれで赦さ
れ、飼ってもらえると思っているんだろうか?
れ、飼ってもらえると思っているんだろうか?
「バカだろお前。」
私はぴっと小刀で野良まりさの目と口の間を軽く薙いだ。
「ゆっびいいいいっ!!!ばでぃざの!ばでぃざのきんばっじのこらーげんだ
っぶりのびはだがああああっ!!!」
っぶりのびはだがああああっ!!!」
化粧品会社が聞いたら、株価がずっこけそうなセリフである。
私はまだ怒りは収まっていなかったが、落ち着きは取り戻し始めていた。
私はまだ怒りは収まっていなかったが、落ち着きは取り戻し始めていた。
「バッジの色がどうした?バッジはただの金属の塊だ。そのバッジにふさわし
い飼い主とゆっくりが獲得して、初めてバッジに価値が出るんだ。お前は捨て
られたのでしょう?飼い主と一緒じゃない時点で、お前のバッジの価値はゴミ
クズ同然だ。」
「ゆぎいいいっ!!!ぢがうよっ!!ばでぃざはきんばっじなんだ…」
い飼い主とゆっくりが獲得して、初めてバッジに価値が出るんだ。お前は捨て
られたのでしょう?飼い主と一緒じゃない時点で、お前のバッジの価値はゴミ
クズ同然だ。」
「ゆぎいいいっ!!!ぢがうよっ!!ばでぃざはきんばっじなんだ…」
私は無意味な発言を許すつもりはなかった。
「そして、バッジ以外に誇れることのない、貴様の価値はゴミクズ以下だ。」
野良まりさの帽子だった布で、小刀についた汚れを拭く。
「ゆっくり理解する必要はないです。お死になさい。藁のようにお死になさ
い!」
い!」
私は一歩、野良まりさに近づいた。
「ひっぐ…ばでぃざは!だれよりもゆっぐりでき…きんばっ…」
「命日おめでとう!!!はぁぁっぴぃっでぇぇすでぇいぃぃぃまぁりぃさぁ
ぁぁっ!!!」
「命日おめでとう!!!はぁぁっぴぃっでぇぇすでぇいぃぃぃまぁりぃさぁ
ぁぁっ!!!」
私は野良まりさの眼球に小刀の刃を差し込み、横に薙いだ。ぷちゅりという
小さな破裂音と共に、透明な液体がとろりと流れ落ちる。
小さな破裂音と共に、透明な液体がとろりと流れ落ちる。
「ゆぎっ!!?ゆっがあああああああああああああっ!!!」
野良まりさが痛みのあまり狂ったような叫びをあげる。
「ひゃーはっはっは!!!切れろっ切れろっ切れろぉぉぉっ!!!」
私は勢いに任せて小刀を振り回した。その度に野良まりさの皮が、髪の毛が、
餡子が、えぐれ、飛び散っていく。面倒なので、途中から、力ずくで皮を引
っ張ってはいだ。蹴りをかまし、二度と移動できないよう、あんよもずたず
たにしておいた。
餡子が、えぐれ、飛び散っていく。面倒なので、途中から、力ずくで皮を引
っ張ってはいだ。蹴りをかまし、二度と移動できないよう、あんよもずたず
たにしておいた。
「ゆっぎ…ゆ゛…ゆっぐ゛…まり…ゆっぐ…ゆ゛…」
最後に残ったのは、ゆ、ゆ、と呪文を唱え続ける、所々に皮が残った、汚い
餡子の塊だった。その頭には帽子は既になく、髪の毛も砂漠の植物より哀れ
なことになっている。
だが、まだ口は動いたし、目も片方残っていた。
餡子の塊だった。その頭には帽子は既になく、髪の毛も砂漠の植物より哀れ
なことになっている。
だが、まだ口は動いたし、目も片方残っていた。
「はあ…はあ…そのままここでゆっくり死ね!貴様に価値はありません。そ
れを思い知りながらゆっくり死になさい。」
「ゆぐ…まっで…ゆ゛…たじゅ…まっで…」
れを思い知りながらゆっくり死になさい。」
「ゆぐ…まっで…ゆ゛…たじゅ…まっで…」
私は欠け帽子まりさのつぶれてしまった帽子を回収し、河原を立ち去った。
「また助けられなかったな…ダメな飼い主で…ごめんよ…」
明日の天気は朝方から雨だった。
結局、五匹のまりさつむりもどきのうち、生き残ったのは、一匹だった。
それは、結果的に見れば、あくまでつむりであろうとした、普通のまりさだ
った。
それは、結果的に見れば、あくまでつむりであろうとした、普通のまりさだ
った。
あれから二年が過ぎ、サザエまりさは永遠にゆっくりした。
ある日、朝起きたら、静かに眠っていた。それは、二度と目の覚めることな
い眠りだった。
い眠りだった。
サザエまりさの墓は、欠け帽子まりさの隣に作ってやった。
「おぎゃーしゃん!!ゆっぐりしてね!!ゆっぐ…ずっとゆっぐり!ゆっぐ
りしてね!!」
りしてね!!」
サザエまりさと、サザエまりさよりも早く永遠にゆっくりした番のありすと
の間にできた子まりさが私の腕の中で泣いていた。
の間にできた子まりさが私の腕の中で泣いていた。
私はこの子まりさを大切に育てるつもりだった。
別に金バッジはいらない。でも、山菜や野草の見分け方を教え込もうと思う。
一緒に私の仕事、山菜やきのこを取ることができたら、きっと楽しいと思う
のだ。
別に金バッジはいらない。でも、山菜や野草の見分け方を教え込もうと思う。
一緒に私の仕事、山菜やきのこを取ることができたら、きっと楽しいと思う
のだ。
こいつは私にとって、唯一無二の、何者にも代えがたい価値を持つ思い出の
継承者なのだから。
継承者なのだから。
― 完 ―
本作を書き上げるにあたって、過去の帽子、つむり関連の作品を読み直しま
したが、そのレベルの高さに落ち込む一方でした。ストレートなゆっくり作
品を書いてみようとチャレンジしたのですが、独自性をしっかり出せたかと
いうと、最後がよくあるパターンで…いろいろ書いて糧としていきたいです。
したが、そのレベルの高さに落ち込む一方でした。ストレートなゆっくり作
品を書いてみようとチャレンジしたのですが、独自性をしっかり出せたかと
いうと、最後がよくあるパターンで…いろいろ書いて糧としていきたいです。
少しでも楽しんでいただけたのでしたら、幸いです。
お読みいただきありがとうございました。
お読みいただきありがとうございました。
過去作という名の暴走の歴史
「ふたば系ゆっくりいじめ 777 南の島のまりさ」「ふたば系ゆっくりいじめ 783 南の島の生命賛歌」「ふたば系ゆっくりいじめ 793 南の島の葬送行進曲」
「ふたば系ゆっくりいじめ 817 南の島の風葬墓」「ふたば系ゆっくりいじめ 827 南の島のスカーレットクロス」「ふたば系ゆっくりいじめ 846 南の島の天の河」
「ふたば系ゆっくりいじめ 866 あまりにも南の島のまりさ」「ふたば系ゆっくりいじめ 890 とてつもなく南の島のまりさ」
「ふたば系ゆっくりいじめ 908 むらさの舟歌」
「ふたば系ゆっくりいじめ 932 まりさときのこ狩り」
「ふたば系ゆっくりいじめ 958 うつほは舞い上がる、空高く」
「ふたば系ゆっくりいじめ 992 北方ゆっくり戦史 二つの群れ」「ふたば系ゆっくりいじめ 1001 北方ゆっくり戦史 ヴェルギナの星の旗の下に」
「ふたば系ゆっくりいじめ 817 南の島の風葬墓」「ふたば系ゆっくりいじめ 827 南の島のスカーレットクロス」「ふたば系ゆっくりいじめ 846 南の島の天の河」
「ふたば系ゆっくりいじめ 866 あまりにも南の島のまりさ」「ふたば系ゆっくりいじめ 890 とてつもなく南の島のまりさ」
「ふたば系ゆっくりいじめ 908 むらさの舟歌」
「ふたば系ゆっくりいじめ 932 まりさときのこ狩り」
「ふたば系ゆっくりいじめ 958 うつほは舞い上がる、空高く」
「ふたば系ゆっくりいじめ 992 北方ゆっくり戦史 二つの群れ」「ふたば系ゆっくりいじめ 1001 北方ゆっくり戦史 ヴェルギナの星の旗の下に」

挿絵:儚いあき