ルイズが召還したのは、一人の男と、それから壊れ果てたゴーレムだった。
一瞬戸惑いを見せた野次馬は、すぐにゴーレムが動きそうも無い事を見抜いて嘲い、
それにたじろぐ事無く男との契約を交わしたルイズは、やがて自分の行動を後悔することになる。
一瞬戸惑いを見せた野次馬は、すぐにゴーレムが動きそうも無い事を見抜いて嘲い、
それにたじろぐ事無く男との契約を交わしたルイズは、やがて自分の行動を後悔することになる。
その男には何もできなかった。
使い魔としての役目も果さず、朝から晩までゴーレムに掛かりきり。
最早壊れてしまって動かない其れに、一体どんな魅力があるというのだろう。
誰にもわからなかった。最初は協力していたコルベールも、仕舞いには匙を投げてしまった程だ。
使い魔としての役目も果さず、朝から晩までゴーレムに掛かりきり。
最早壊れてしまって動かない其れに、一体どんな魅力があるというのだろう。
誰にもわからなかった。最初は協力していたコルベールも、仕舞いには匙を投げてしまった程だ。
だから、彼女は魔法学院を襲った大事件の数々に、まるで関わることがなかった。
例えば土くれのフーケが宝物庫を襲撃したときも、
例えば王女の使者としてアルビオンまで赴いたときも、
彼女と、彼女の使い魔は、何一つとして出来なかった。
“破壊の赤子”を盗み出したフーケは未だに逃げ続けているし、
貴族派の包囲網の只中から無事に帰還できたのも、婚約者たるワルドのお陰だ。
例えば土くれのフーケが宝物庫を襲撃したときも、
例えば王女の使者としてアルビオンまで赴いたときも、
彼女と、彼女の使い魔は、何一つとして出来なかった。
“破壊の赤子”を盗み出したフーケは未だに逃げ続けているし、
貴族派の包囲網の只中から無事に帰還できたのも、婚約者たるワルドのお陰だ。
そして例えば、今この時も。
タルブの村に、敵軍が押し寄せている時も。
親友である王女が戦場に向かっているというのに、何もできなかった。
タルブの村に、敵軍が押し寄せている時も。
親友である王女が戦場に向かっているというのに、何もできなかった。
そんな時だ。
使い魔の男が、ルイズを呼び出したのは。
使い魔の男が、ルイズを呼び出したのは。
当然彼女は激昂した。
国の一大事だというのに、まだあのゴーレムにかまけているのか。
自分の使い魔だというのなら、何か一つでも役に立って見せろ。
今まで溜めに溜めていた鬱憤が一挙に噴出したのだ。
国の一大事だというのに、まだあのゴーレムにかまけているのか。
自分の使い魔だというのなら、何か一つでも役に立って見せろ。
今まで溜めに溜めていた鬱憤が一挙に噴出したのだ。
その罵詈雑言を、使い魔の男は黙って受け止め――そしてゆっくりと口を開いた。
「私はね、ルイズ。君に魔術の才能があると思っているんだ」
最初、その言葉が信じられなかった。
使い魔は語る。
万物の全ては、最終的には原子という絶対に分けられない小さな物の集合なのだという。
そしてそれは、使い道によっては凄まじい力を齎すこともあるのだ、と。
万物の全ては、最終的には原子という絶対に分けられない小さな物の集合なのだという。
そしてそれは、使い道によっては凄まじい力を齎すこともあるのだ、と。
「私が思うに……君の魔術、あの爆発は、原子を爆発させているんじゃないか、と思うんだ。
生憎とそれがどんな系統に属するのかはわからないけれど、
……でも、だからこそ、君の力が欲しいんだ」
生憎とそれがどんな系統に属するのかはわからないけれど、
……でも、だからこそ、君の力が欲しいんだ」
「…………どういう事?」
「その力は、とてもとても恐ろしいものだ。
ただ威力が凄いという意味じゃない。
凄まじい力を秘めている、という事さ。
爆発一回分のエネルギーを利用すれば……。
そうだな、馬百頭よりも凄い作業ができる筈なんだ」
ただ威力が凄いという意味じゃない。
凄まじい力を秘めている、という事さ。
爆発一回分のエネルギーを利用すれば……。
そうだな、馬百頭よりも凄い作業ができる筈なんだ」
そして、半信半疑のルイズを伴い、彼は自分の作業場へと歩いていく。
ルイズは気付かなかったのだ。
彼が毎日、雨の日も風の日も、一日も休む事無くゴーレムを直していたことも。
壊れていた脚を直し、
千切れていた腕を直し、
コルベールに頼み込んで『固定化』の魔術をかけてもらったことも。
日に日にかつての姿を取り戻していく様を、彼女は気付かなかった。
彼が毎日、雨の日も風の日も、一日も休む事無くゴーレムを直していたことも。
壊れていた脚を直し、
千切れていた腕を直し、
コルベールに頼み込んで『固定化』の魔術をかけてもらったことも。
日に日にかつての姿を取り戻していく様を、彼女は気付かなかった。
今其処にあるのは、ただの壊れたゴーレムではない。
しっかりと二本の脚で地面を踏みしめ、立っている鋼鉄の巨人だった。
巨人の姿を呆然と見上げるルイズに、使い魔は真剣な面持ちで告げる。
しっかりと二本の脚で地面を踏みしめ、立っている鋼鉄の巨人だった。
巨人の姿を呆然と見上げるルイズに、使い魔は真剣な面持ちで告げる。
「――こいつは、君の魔法が無いと動かせないんだ」
土くれのフーケがレコンキスタに提供した“破壊の赤子”は、まさしくその名に相応しい存在であった。
赤い透明な箱に閉じ込められていたそれは、戦場の中央で弾けるや否や、一気に巨大な異形の怪物へと成長したのだ。
無論、ハルキゲニアのメイジ達は即座に魔法を打ち込んだが――……。
赤い透明な箱に閉じ込められていたそれは、戦場の中央で弾けるや否や、一気に巨大な異形の怪物へと成長したのだ。
無論、ハルキゲニアのメイジ達は即座に魔法を打ち込んだが――……。
「ダメです! 火、風、水、土……いずれも効果ありません!」
――次の瞬間に出現した不可視の壁が、その悉くを阻む。
アンリエッタは、はしたない動作とわかっていながらも、思わず爪を噛んだ。
あの巨人、明らかに既存の魔術ではない。
レコンキスタ――彼女の思い人を殺した軍団が、邪法に手を染めたのは明らかなのだ。
だが、だが――……それに裁きを下すことがでいない。
如何に彼奴らが悪であり、此方が正義でも、力なき正義では意味が無い。
アンリエッタは、はしたない動作とわかっていながらも、思わず爪を噛んだ。
あの巨人、明らかに既存の魔術ではない。
レコンキスタ――彼女の思い人を殺した軍団が、邪法に手を染めたのは明らかなのだ。
だが、だが――……それに裁きを下すことがでいない。
如何に彼奴らが悪であり、此方が正義でも、力なき正義では意味が無い。
「陛下! ここは撤退を――無意味に兵が死ぬだけです!」
「…………ッ!」
ダメだ。
それではダメなのだ。
それではダメなのだ。
それはこの戦場にいる、全ての兵士共通の思いだった。
故郷をあんな化け物に蹂躙させてはいけない。
そんな暴虐が赦されてなるものか。
そんな暴虐が赦されてなるものか。
だから祈った。
あの怪物に神の鉄槌が下されることを。
あの怪物に神の鉄槌が下されることを。
残念ながら、祈りは届かなかった。
神は鉄槌を振り下ろさず――
神は鉄槌を振り下ろさず――
「ジェエェエェェエエェェェットッ!! ハァンマァアアァアァァアァッ!!」
――それを怪物に叩き込んだのは、真紅の巨人だった。
誰もが言葉を喪った。
なんという荒唐無稽な光景だろう!
如何なる魔術や兵器をも弾き返していた不可視の防壁が、
文字通りの……文字通り、ただ巨大な鉄槌によってぶち破られたのだから!
なんという荒唐無稽な光景だろう!
如何なる魔術や兵器をも弾き返していた不可視の防壁が、
文字通りの……文字通り、ただ巨大な鉄槌によってぶち破られたのだから!
「陛下! 遅くなって申し訳ありません――あの怪物は、私たちに任せてくださいッ!」
かすかに聞こえた声にアンリエッタが眼を見開いた。
鉄の巨人のその肩に、見慣れた人影を発見したからだ。
鉄の巨人のその肩に、見慣れた人影を発見したからだ。
見間違えるはずもない桃色の髪。彼女の親友の――威風堂々とした立ち姿。
その傍らに立っている男は……ルイズの使い魔だろうか。
その傍らに立っている男は……ルイズの使い魔だろうか。
「それじゃあ、良いのね、やっちゃって?」
「ああ、構わない。存分に魔術を唱えてくれ!」
その言葉に答えて、ルイズは魔術を行使する。
目前の怪物に対してではない。
巨人の中に内臓された、『炉』に対してだ。
目前の怪物に対してではない。
巨人の中に内臓された、『炉』に対してだ。
失敗魔法として嘲られていた爆発が、凄まじい勢いで動力を生み出し、
鉄の巨人へと活力をあたえ、振るうハンマーの威力へと繋がっていく。
鉄の巨人へと活力をあたえ、振るうハンマーの威力へと繋がっていく。
その光景に、ルイズの使い魔である男は、心底から嬉しそうな笑みを浮かべた。
男は技術者だった。
戦う技術者だった。
世界を護る技術者だった。
戦う技術者だった。
世界を護る技術者だった。
彼のいた世界は、あの巨人と同じ、異形の存在によって脅かされていたのだ。
守らなければならない。その思いに突き動かされて、彼は立ち上がる。
無論、周囲には様々な思惑があったのだろう。
政治的な抗争などもあったのだろう。
だが、男の想いは、願いは、純粋そのものだった。
世界の平和を守るのだ。
子供の夢と笑われてしまいそうな考え。
だが、それを実現するために彼は奔走し――そして阻まれてしまった。
偶発的な事故などではない。
明らかに、男の気付かぬところで陰謀が張り巡らされていたのだ。
絶望した。
だが、失意に打ちひしがれる男には、新たなチャンスが与えられた。
それがこの異世界への召還。魔法という未知の力。
――男は再び立ち上がる。
世界の平和を守るのだ。
守らなければならない。その思いに突き動かされて、彼は立ち上がる。
無論、周囲には様々な思惑があったのだろう。
政治的な抗争などもあったのだろう。
だが、男の想いは、願いは、純粋そのものだった。
世界の平和を守るのだ。
子供の夢と笑われてしまいそうな考え。
だが、それを実現するために彼は奔走し――そして阻まれてしまった。
偶発的な事故などではない。
明らかに、男の気付かぬところで陰謀が張り巡らされていたのだ。
絶望した。
だが、失意に打ちひしがれる男には、新たなチャンスが与えられた。
それがこの異世界への召還。魔法という未知の力。
――男は再び立ち上がる。
世界の平和を守るのだ。
そして今、彼と、彼の巨人は、まさしく世界の平和を守るために、ここにいる。
「やれぇっ、ジェットアローンッ! お前の力を見せてやれーッ!!」
時田シロウの魂の叫びが響き渡り、ジェットアローン、そのハルキゲニアにおける最初の戦いの幕が切って落とされた。
「新世紀エヴァンゲリオン」より『時田シロウ』