ルイズは夢を見ている。
夢の中のルイズは6歳のころに戻っており、ヴァリエールの屋敷にある池に浮かぶ小船の上にいた。
母親からの説教、平民の使用人からの陰口、優秀な家族に対する劣等感。
様々な出来事により負の感情が高まり、どうにも耐えられなくなった時、ルイズはこの場所にやってくる。
人から忘れられた中庭にあるこの場所は、抑えていた感情を吐き出すのに丁度よかった。
ルイズは小船の上に置いてある毛布を被り、大声で泣き始める。こうでもしなければ心が押し潰されそうだった。
その時、ルイズの頭上から優しい声がかけられる。
夢の中のルイズは6歳のころに戻っており、ヴァリエールの屋敷にある池に浮かぶ小船の上にいた。
母親からの説教、平民の使用人からの陰口、優秀な家族に対する劣等感。
様々な出来事により負の感情が高まり、どうにも耐えられなくなった時、ルイズはこの場所にやってくる。
人から忘れられた中庭にあるこの場所は、抑えていた感情を吐き出すのに丁度よかった。
ルイズは小船の上に置いてある毛布を被り、大声で泣き始める。こうでもしなければ心が押し潰されそうだった。
その時、ルイズの頭上から優しい声がかけられる。
「泣いているのかい? ルイズ」
それは、一番泣き声を聞かれたくない相手である憧れの子爵様の声だった。
自分の惨めな姿を見せたくないルイズは必死に誤魔化そうとする。
自分の惨めな姿を見せたくないルイズは必死に誤魔化そうとする。
「ち、違いますわ。目にごみが入って痛かったから泣いてただけです」
「誤魔化さなくてもいいよ。辛いことがあったんだね」
「誤魔化さなくてもいいよ。辛いことがあったんだね」
慰めの言葉をかけながら子爵様は頭をなでてくれる。たったそれだけのことで、顔が真っ赤になり俯いてしまう。
自分の婚約者で好きな人でもある子爵様に優しくしてもらい、嬉しいやら恥ずかしいやらで頭がいっぱいだった。
自分の婚約者で好きな人でもある子爵様に優しくしてもらい、嬉しいやら恥ずかしいやらで頭がいっぱいだった。
「さあ、僕と一緒に屋敷に戻ろう」
「はい」
「はい」
ルイズが差し出された手を掴もうとすると、急に突風が吹き、子爵様が被っていた羽帽子が飛ばされる。
だが、そこに現れた顔は子爵様ではなかった。
だが、そこに現れた顔は子爵様ではなかった。
「あ、あんたは!?」
現れたのは以前見た夢に出てきた金髪の男、オルステッドだった。
気が付くとルイズは16歳の姿になっており、オルステッドと対峙するように向かい合っていた。
オルステッドは何も言わずに立っているだけだが、その目は何かをルイズに伝えようとしているように感じられた。
気が付くとルイズは16歳の姿になっており、オルステッドと対峙するように向かい合っていた。
オルステッドは何も言わずに立っているだけだが、その目は何かをルイズに伝えようとしているように感じられた。
「な、何か私に伝えたいことがあるの?」
「……」
「……」
だが、結局オルステッドは何も言わずにルイズの前から立ち去ろうとする。
「ま、待って! あの力は一体なんなの? あなたと関係があるの?」
その問いかけに答えは無く、オルステッドの姿は見えなくなってしまう。
「オルステッド!」
そう言って腕を伸ばすが、目の前にあるのは魔法学院の自分の部屋だった。
夢から覚めたルイズは、ベッドの上で虚しく伸ばされている腕を下におろす。
夢から覚めたルイズは、ベッドの上で虚しく伸ばされている腕を下におろす。
「どうしたよ相棒、オルステッドって誰だ?」
「なんでもないわ」
「なんでもないわ」
デルフリンガーが不思議そうに聞いてくるが、誰と聞かれても答えようがなかった。
これ以上答えられない質問をされないように、素早く制服に着替えているとドアがノックされる。
これ以上答えられない質問をされないように、素早く制服に着替えているとドアがノックされる。
「誰?」
「ロングビルです。ちょっと話したいことがあるので中に入れてもらえませんか?」
「ロングビルです。ちょっと話したいことがあるので中に入れてもらえませんか?」
ルイズは無言で扉を開ける。
あの宝物庫の一件以来、ロングビルはこの部屋までやってくることが度々あった。そして特に何をするでもなく、ただの世間話をして帰っていく。
おそらく、約束を守っているかどうか様子を見に来ているんだろうとルイズは思っていた。
あの宝物庫の一件以来、ロングビルはこの部屋までやってくることが度々あった。そして特に何をするでもなく、ただの世間話をして帰っていく。
おそらく、約束を守っているかどうか様子を見に来ているんだろうとルイズは思っていた。
「それで、話って何?」
「そろそろこの学院から出て行こうと思ってね、お別れの挨拶をしに来たのさ」
「えっ!」
「そんなに驚くことじゃないと思うけどね。私が挨拶に来たのが意外だったのかい?」
「そろそろこの学院から出て行こうと思ってね、お別れの挨拶をしに来たのさ」
「えっ!」
「そんなに驚くことじゃないと思うけどね。私が挨拶に来たのが意外だったのかい?」
ルイズが驚いたのは、ロングビルが学院の宝物庫を諦めていないと考えていたからだ。
再び宝物庫を襲うために、シエスタをだしに自分も何か手伝わされるのではないかとも考えていた。
だが、ロングビルは宝物庫を諦め出て行くという。ルイズの頭には疑問しか浮かんでこなかった。
再び宝物庫を襲うために、シエスタをだしに自分も何か手伝わされるのではないかとも考えていた。
だが、ロングビルは宝物庫を諦め出て行くという。ルイズの頭には疑問しか浮かんでこなかった。
「な、何で急に?」
「まあ、あんたになら話してもいいか。今まで正体を黙っててくれたしね」
「まあ、あんたになら話してもいいか。今まで正体を黙っててくれたしね」
そう言った後、一呼吸置いてからロングビルは話し始める。
「実は私の故郷のアルビオンで戦争が始まってね。残してきた家族も心配だし、戻ることにしたんだよ」
ロングビルの話によると、アルビオンで王党派と貴族派に別れて争いが始まり、大きな戦争が行われているとのことだった。
現在は貴族派が優勢であり、王党派が負けるのは時間の問題らしい。
現在は貴族派が優勢であり、王党派が負けるのは時間の問題らしい。
「そんなこと全然知らなかった」
「あんたが知らないのも無理ないさ。トリステインじゃあまり話題になってないようだしね」
「でもそんな大事なこと、どうして……」
「この国のお偉いさんにとっては景気のいい話じゃないからね。あまりおおっぴらにしたくないんだろうさ」
「あんたが知らないのも無理ないさ。トリステインじゃあまり話題になってないようだしね」
「でもそんな大事なこと、どうして……」
「この国のお偉いさんにとっては景気のいい話じゃないからね。あまりおおっぴらにしたくないんだろうさ」
確かに王党派が負けそうなアルビオンの現状は、あまり気持ちのいいものではない。
アルビオンと同じ王国制のトリステインが、このことを大事にしたくないと思うのも無理はなかった。
アルビオンと同じ王国制のトリステインが、このことを大事にしたくないと思うのも無理はなかった。
「そうそう、お偉いさんといえば、今日トリステインのお姫様が魔法学院に来るらしいよ」
「姫殿下が!」
「そう、なんでもゲルマニアの訪問の帰りに行幸するんだとさ」
「姫殿下が!」
「そう、なんでもゲルマニアの訪問の帰りに行幸するんだとさ」
幼い頃に遊び相手を務めたアンリエッタは、深い絶望に落ちそうになっていた幼いルイズの心を救ってくれた人の一人だ。
あれから随分時がたったが、今でもアンリエッタには感謝していた。
あれから随分時がたったが、今でもアンリエッタには感謝していた。
「姫殿下がいらっしゃるなら、今日は授業どころじゃないわね」
「私も歓迎の準備でこれから忙しくなるよ。まあ、秘書としての最後の仕事はきっちりこなすけどね」
「その後に魔法学院を辞めるの?」
「そういう事。それじゃね、今まで正体を黙っててくれてありがと」
「私も歓迎の準備でこれから忙しくなるよ。まあ、秘書としての最後の仕事はきっちりこなすけどね」
「その後に魔法学院を辞めるの?」
「そういう事。それじゃね、今まで正体を黙っててくれてありがと」
そう言うとロングビルは部屋を出て行った。
最初は憎しみや嫌悪の感情しか抱けない相手だったが、わざわざ挨拶に来たり、アンリエッタのことを教えてくれたりと意外に良いところもあったようだ。
本当なら、魔法学院を出て行った後にでも正体をオールド・オスマンに報告しなければいけないのだが、このまま何もしないのであれば報告する必要はないかもしれない。
それに、今はそんなことよりもアンリエッタがやってくることの方が重要だ。
最初は憎しみや嫌悪の感情しか抱けない相手だったが、わざわざ挨拶に来たり、アンリエッタのことを教えてくれたりと意外に良いところもあったようだ。
本当なら、魔法学院を出て行った後にでも正体をオールド・オスマンに報告しなければいけないのだが、このまま何もしないのであれば報告する必要はないかもしれない。
それに、今はそんなことよりもアンリエッタがやってくることの方が重要だ。
「身だしなみにも気をつけないとね。デルフ、私の髪の毛はねたりしてないわよね?」
「ああ大丈夫だ。相棒はいつも通り綺麗だぜ」
「そんなお世辞なんて言っても何も出ないんだからね」
「ああ大丈夫だ。相棒はいつも通り綺麗だぜ」
「そんなお世辞なんて言っても何も出ないんだからね」
とは言うものの、容姿を褒められたルイズは嬉しそうに身だしなみを整えていた。
その後、授業は全て中止になり、生徒達は姫殿下を出迎えるため正門に整列していた。
やがてユニコーンが引く豪華な馬車が現れ、中から先王の忘れ形見であるアンリエッタ姫殿下が降りてくる。
多くの生徒達から歓声が沸き起こり、アンリエッタは微笑みながら手を振り、生徒達の前を歩いていく。
そんな中、ルイズはアンリエッタではなく、別の人物に目が釘付けになってしまう。
その人物はアンリエッタを守るように付き従っている。羽帽子を被り、凛々しい口髭と長髪が特徴的な美男子だ。
他の女子生徒達もその人物をうっとりとした目で見つめていた。ルイズの隣にいるキュルケもその中の一人である。
やがてユニコーンが引く豪華な馬車が現れ、中から先王の忘れ形見であるアンリエッタ姫殿下が降りてくる。
多くの生徒達から歓声が沸き起こり、アンリエッタは微笑みながら手を振り、生徒達の前を歩いていく。
そんな中、ルイズはアンリエッタではなく、別の人物に目が釘付けになってしまう。
その人物はアンリエッタを守るように付き従っている。羽帽子を被り、凛々しい口髭と長髪が特徴的な美男子だ。
他の女子生徒達もその人物をうっとりとした目で見つめていた。ルイズの隣にいるキュルケもその中の一人である。
「さすがに王女様の護衛ともなるとやっぱり学院の男子生徒とは格が違うわよね」
「確かにかっこいいけど、私のギーシュの方が断然上よ」
「ありがとう、モンモランシー。君の美しさも姫殿下に引けは取らないさ」
「……バカップル」
「確かにかっこいいけど、私のギーシュの方が断然上よ」
「ありがとう、モンモランシー。君の美しさも姫殿下に引けは取らないさ」
「……バカップル」
だが、騒いでいるキュルケ達の言葉は横にいるルイズの耳には入ってこない。
当然だ。ルイズの頭の中は、アンリエッタの護衛として自分の目の前に現れたワルド子爵のことでいっぱいだったのだから。
当然だ。ルイズの頭の中は、アンリエッタの護衛として自分の目の前に現れたワルド子爵のことでいっぱいだったのだから。
その日の夜。ルイズはシエスタに髪を梳かしてもらっていたが、心ここにあらずといった感じだった。
シエスタはそんなルイズの様子を心配したが、ルイズから反応が返ってくることはなかった。
シエスタはそんなルイズの様子を心配したが、ルイズから反応が返ってくることはなかった。
「デルフさん、ルイズ様の様子がおかしい理由に心当たりはありませんか?」
「さあね。朝はいつも通りだったんだが、部屋に戻ってきてからずっとこの調子だよ」
「さあね。朝はいつも通りだったんだが、部屋に戻ってきてからずっとこの調子だよ」
そんな風にシエスタとデルフリンガーが話していると、ドアがノックされる音が聞こえてくる。
ノックは最初に長く二回、続いて短く三回とまるで何かの合図のようにも聞こえる。
ノックは最初に長く二回、続いて短く三回とまるで何かの合図のようにも聞こえる。
「……まさか!」
ノックに気付いたルイズが何やら慌てた様子で扉を開けると、頭からすっぽりと黒い頭巾を被った人物が部屋に入ってきた。
その人物は部屋に入ってくるなり杖を取り出し、それを小さく振る。すると、光の粉が部屋の中を舞い始めた。
その人物は部屋に入ってくるなり杖を取り出し、それを小さく振る。すると、光の粉が部屋の中を舞い始めた。
「な、なんですかこれ!」
「驚かなくてもいいわよ。これはディティクトマジックっていって、ただの探知魔法だから」
「驚かなくてもいいわよ。これはディティクトマジックっていって、ただの探知魔法だから」
いきなり魔法を使われたことにシエスタは驚いてしまうが、ルイズの説明で落ち着きを取り戻したようだ。
ディティクトマジックで異常が無いことを確認した後、部屋に入ってきた人物は頭に被っていた頭巾を取る。
ディティクトマジックで異常が無いことを確認した後、部屋に入ってきた人物は頭に被っていた頭巾を取る。
「お久し振りね。ルイズ・フランソワーズ」
「やはり姫様でしたか!」
「やはり姫様でしたか!」
ルイズの部屋にやってきたのはアンリエッタだった。突然の姫殿下の登場にシエスタは驚いて立ちすくんでいる。
そんなシエスタの様子など目に入っていないアンリエッタは、感極まった表情でルイズを抱きしめた。
そんなシエスタの様子など目に入っていないアンリエッタは、感極まった表情でルイズを抱きしめた。
「ルイズ! 本当に久し振りね! 元気そうでなによりだわ!」
「姫様こそ! お美しくなられましたね!」
「姫様こそ! お美しくなられましたね!」
二人は再会できたことをお互いに喜びあい、幼少時の思い出話に花を咲かせ始める。
最初は驚いていたシエスタも、今は嬉しそうに話している二人を静かに見守っていた。
しばらくして話が一段落したころ、ようやくアンリエッタはシエスタの存在に気が付いたようだ。
最初は驚いていたシエスタも、今は嬉しそうに話している二人を静かに見守っていた。
しばらくして話が一段落したころ、ようやくアンリエッタはシエスタの存在に気が付いたようだ。
「あら、ごめんなさいね。あなたのメイドの前で恥ずかしい姿を見せてしまって」
「この子は私のメイドじゃなくて、この学院に勤めているメイドですよ」
「この子は私のメイドじゃなくて、この学院に勤めているメイドですよ」
ルイズがそう言うと、シエスタはアンリエッタに向かって頭を下げる。
「私はシエスタと申します。ルイズ様にはいつもよくしていただいております」
「学院で働いている者にも気配りができるなんて、立派になったのねルイズ。わたくしとは大違いね……」
「ひ、姫様?」
「学院で働いている者にも気配りができるなんて、立派になったのねルイズ。わたくしとは大違いね……」
「ひ、姫様?」
急に自分を卑下し始めるアンリエッタにルイズは驚きを隠せなかった。
そんなルイズを見ながら、アンリエッタは何かを決心したかのような顔で話し始めた。
そんなルイズを見ながら、アンリエッタは何かを決心したかのような顔で話し始めた。
「ルイズ。ここに来たのは、あなたにあるお願いを聞いてほしいからなの」
「お願いですか?」
「ええ、そうです。ここから先は信頼の置ける者しか話せないのですが……」
「お願いですか?」
「ええ、そうです。ここから先は信頼の置ける者しか話せないのですが……」
そう言ってアンリエッタは、ちらりとシエスタの方を見る。
「シエスタなら大丈夫です。この学院で私が一番信頼している人間ですから」
「ルイズ様……」
「ルイズがそこまで言うのなら信頼できますね。実は……」
「ルイズ様……」
「ルイズがそこまで言うのなら信頼できますね。実は……」
アンリエッタは真剣な顔で語り始める。その話の内容は、ルイズが今朝ロングビルから聞いた話と関係があるものだった。
アンリエッタの話は、ロングビルからすでに聞いていたアルビオンの動乱から始まった。
王宮はアルビオンの戦争のことだけではなく、王党派の敗北が近いという情報も掴んでおり、次に狙われるのはトリステインの可能性が高いことも予想された。
その対抗策として、隣国のゲルマニアの皇帝とアンリエッタが結婚することで両国の間に同盟を結ぶ案が採用された。
今回のゲルマニア訪問もその下準備のためだったのである。
アンリエッタの話は、ロングビルからすでに聞いていたアルビオンの動乱から始まった。
王宮はアルビオンの戦争のことだけではなく、王党派の敗北が近いという情報も掴んでおり、次に狙われるのはトリステインの可能性が高いことも予想された。
その対抗策として、隣国のゲルマニアの皇帝とアンリエッタが結婚することで両国の間に同盟を結ぶ案が採用された。
今回のゲルマニア訪問もその下準備のためだったのである。
アンリエッタの胸の内を考えると心が痛んだ。何故なら、ルイズはアンリエッタの好きな人を知っていたのだから。
幼い頃、ルイズとアンリエッタはお互いに好きな人について話し合ったことがあった。
ルイズが好きな人はもちろん婚約者のワルド子爵であり、アンリエッタの好きな人はアルビオンのウェールズ皇太子だった。
将来は好きな人と結婚したいという夢を、二人で楽しそうに話していたのを今でも覚えている。
今、アンリエッタは好きでも無い人と結婚しようとしている。国のことを考えれば一番良い選択肢に思えるが、アンリエッタの気持ちを考えると納得できるものではなかった。
幼い頃、ルイズとアンリエッタはお互いに好きな人について話し合ったことがあった。
ルイズが好きな人はもちろん婚約者のワルド子爵であり、アンリエッタの好きな人はアルビオンのウェールズ皇太子だった。
将来は好きな人と結婚したいという夢を、二人で楽しそうに話していたのを今でも覚えている。
今、アンリエッタは好きでも無い人と結婚しようとしている。国のことを考えれば一番良い選択肢に思えるが、アンリエッタの気持ちを考えると納得できるものではなかった。
そんなルイズの気持ちを他所に、アンリエッタの話は続いていく。どうやらここからが本題のようだった。
アルビオンの貴族派はこの婚約を潰す材料を血眼になって探しており、その材料になる物をアンリエッタはウェールズ皇太子に送っていたのだ。
それは、一通の手紙だった。その手紙にはウェールズ皇太子に永遠の愛を誓うアンリエッタの想いが書かれていた。
もしこれが貴族派の手に渡れば、婚約は解消となりトリステイン一国でアルビオンに立ち向かわなければならない。
アルビオンの貴族派はこの婚約を潰す材料を血眼になって探しており、その材料になる物をアンリエッタはウェールズ皇太子に送っていたのだ。
それは、一通の手紙だった。その手紙にはウェールズ皇太子に永遠の愛を誓うアンリエッタの想いが書かれていた。
もしこれが貴族派の手に渡れば、婚約は解消となりトリステイン一国でアルビオンに立ち向かわなければならない。
「姫様、もしやお願いというのはその手紙を……」
「いいえ。手紙の件は別の者に任せてあります。ルイズにお願いしたいのは、その者と一緒にアルビオンに行って……」
「いいえ。手紙の件は別の者に任せてあります。ルイズにお願いしたいのは、その者と一緒にアルビオンに行って……」
アンリエッタは言いにくそうにしていたが、やがて覚悟を決めると静かに話し始めた。
「ウェールズ皇太子にトリステインへ亡命するように説得してもらいたいのです」
「えっ!」
「こんな事を言うのは間違いだとわかっています。でも、たとえ結婚できなくとも好きな人には生きていてもらいたいの!」
「えっ!」
「こんな事を言うのは間違いだとわかっています。でも、たとえ結婚できなくとも好きな人には生きていてもらいたいの!」
涙混じりに訴えるアンリエッタの言葉は、ルイズの心に深く響いた。
幼少時に自分を救ってくれたアンリエッタが苦しんでいる。今こそ自分が力になる時だと思った。
幼少時に自分を救ってくれたアンリエッタが苦しんでいる。今こそ自分が力になる時だと思った。
「姫様! 私に任せてください! ウェールズ皇太子に姫様の想いを伝えてみせます!」
「ルイズ……ありがとう」
「ルイズ……ありがとう」
アンリエッタは、本当は自分がアルビオンに行ってウェールズ皇太子に会いたいと思っているが、国のことを考えればそんなことできるわけがない。
手紙の件を任せた人物は、ルイズのことを命懸けで守ってくれると信じているが、それでも絶対に安全とはいえない。
幼馴染に縋り、危険なアルビオンに送り出そうとしている自分を情けなく感じた。
手紙の件を任せた人物は、ルイズのことを命懸けで守ってくれると信じているが、それでも絶対に安全とはいえない。
幼馴染に縋り、危険なアルビオンに送り出そうとしている自分を情けなく感じた。
「ルイズ様……」
アンリエッタの話を黙って聞いていたシエスタだが、ルイズがアルビオンに行くとなると黙っているわけにはいかない。
争いが起こっている国に行けば、ルイズがあの不思議な力を使う可能性も高くなる。
その時に誰か止める人が側にいなければ、今度こそルイズは別人になり、戻ってこなくなってしまうかもしれない。
それだけは避けなければならないとシエスタは思った。
争いが起こっている国に行けば、ルイズがあの不思議な力を使う可能性も高くなる。
その時に誰か止める人が側にいなければ、今度こそルイズは別人になり、戻ってこなくなってしまうかもしれない。
それだけは避けなければならないとシエスタは思った。
「ルイズ様! 私も一緒にお供します!」
「シエスタ! 何言ってるのよ!?」
「足手まといにならないようがんばりますから、どうかお願いします!」
「シエスタ! 何言ってるのよ!?」
「足手まといにならないようがんばりますから、どうかお願いします!」
シエスタの行動にルイズは戸惑ってしまう。シエスタがついてきてくれれば心細くはないが、危険なアルビオンに連れて行くわけにもいかない。
どうすべきかルイズが考えていると、突然ドアがノックされる。
どうすべきかルイズが考えていると、突然ドアがノックされる。
「誰!?」
「学院長の秘書のロングビルです。失礼だとは思ったのですが先程のお話を聞かせていただきました。その上で、提案があるのですが中に入れてもらえませんか?」
「学院長の秘書のロングビルです。失礼だとは思ったのですが先程のお話を聞かせていただきました。その上で、提案があるのですが中に入れてもらえませんか?」
まさか話を聞かれているとは思わなかったアンリエッタはうろたえるが、ロングビルの正体を知っているルイズは冷静だった。
ロングビルがここで騒ぎを起こすとは考えられないし、提案というのにも興味がある。
そう考えたルイズは部屋の扉を開けることにした。
ロングビルがここで騒ぎを起こすとは考えられないし、提案というのにも興味がある。
そう考えたルイズは部屋の扉を開けることにした。
「失礼します」
「それで提案って?」
「はい。私もアルビオンまで同行させていただきたいのです。アルビオンは私の故郷なので道案内ぐらいはできます」
「ですが……」
「それに、そこにいるメイドと私でミス・ヴァリエールの使用人を装えば、貴族派の目を誤魔化すこともできると思います」
「それで提案って?」
「はい。私もアルビオンまで同行させていただきたいのです。アルビオンは私の故郷なので道案内ぐらいはできます」
「ですが……」
「それに、そこにいるメイドと私でミス・ヴァリエールの使用人を装えば、貴族派の目を誤魔化すこともできると思います」
確かに相手の目を欺くことはできる。だが、アンリエッタはロングビルを信用していいのか不安でもあった。
ルイズに視線を向けるが、自分と同じように何やら悩んでいるような表情をしている。
ルイズに視線を向けるが、自分と同じように何やら悩んでいるような表情をしている。
「お願いします! アルビオンにいる家族が心配でどうしても早く戻りたいのです!」
「私もお役に立てるなら何でもします! ですからどうかお願いします!」
「私もお役に立てるなら何でもします! ですからどうかお願いします!」
二人から頭を下げられ、アンリエッタは困惑してしまう。
だが、ロングビルの家族を思う気持ちとシエスタのルイズを思う気持ちは偽りがないように思える。
悩んだ末に、アンリエッタは二人の同行を認めることにした。
だが、ロングビルの家族を思う気持ちとシエスタのルイズを思う気持ちは偽りがないように思える。
悩んだ末に、アンリエッタは二人の同行を認めることにした。
アンリエッタが同行を認めてしまえばルイズが反対できるわけがなかった。
こうなったら自分がシエスタを守るしかない。あの不思議な力を使えばそれは可能に思えた。
それに信用できるかどうかは別だが、ロングビルは土くれのフーケと恐れられた凄腕のメイジだ。戦力的には申し分ない。
こうなったら自分がシエスタを守るしかない。あの不思議な力を使えばそれは可能に思えた。
それに信用できるかどうかは別だが、ロングビルは土くれのフーケと恐れられた凄腕のメイジだ。戦力的には申し分ない。
その後、ルイズはお守りにとアンリエッタから水のルビーを手渡される。
お金に困ったら売り払ってもいいと言われたが、こんな大事な物を売る気は毛頭なかった。
お金に困ったら売り払ってもいいと言われたが、こんな大事な物を売る気は毛頭なかった。
「最後に、あなた方と一緒にアルビオンに向かう者のことなのですが」
「姫様が手紙の件を任せた方ですね。どんな人なのです?」
「ルイズがよく知っている人ですよ。あなたが信頼しているあの者なら、きっと頼りになるはずです」
「姫様が手紙の件を任せた方ですね。どんな人なのです?」
「ルイズがよく知っている人ですよ。あなたが信頼しているあの者なら、きっと頼りになるはずです」
そのアンリエッタの言葉でルイズの脳裏に浮かんだ人物は一人しかいなかった。
「姫様! その人はもしかして!」
「ええ。あなたの婚約者のワルド子爵です」
「ええ。あなたの婚約者のワルド子爵です」
その名前を聞いた瞬間、ルイズの顔は真っ赤に染まってしまうのだった。