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  • ルイズと無重力巫女さん-73

あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ルイズと無重力巫女さん-73

最終更新:2016年10月06日 18:20

匿名ユーザー

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 深い霧に包まれたラ・ロシェールの街は、未だ日も出ぬ時間から多くの人たちが出入りしていた。
 狭い山道を挟むようにして作られた総人口およそ三百人程度の小さな町に、立派な装備を身にまとった王軍の貴族たちが入っていく。
 彼らは皆馬や使い魔であろう幻獣に跨り、その後をついていくかのように護衛の騎士達が町の入口であるアーチをくぐっていく。
『ラ・ロシェール!小さなアルビオンの玄関へようこそ!』
 風雨に晒され殆ど読めなくなったアーチの看板には、そう書かれていた。

 そのアーチをくぐって街の中へ入っていくトリステイン王軍の将校達とは反対に、街の中から平民達が身軽な格好で出ていこうとしている。
 老若男女な彼らの大半は私服姿で何も持っておらず、中には軽い手荷物をもった者がチラホラといるだけだ。
 一時間前に突如王軍が街へと入ってきて、町に住む者達全員に避難命令が出されたものの、その詳細をしる者は誰一人としていない。
 ある家族は足腰の弱った祖父や祖母の肩を担ぎ、またある乳飲み子はぐずって母親を困らせている。
「一体どうなってやがるんだ?こんな朝っぱらから避難命令だなんて…」
「だな。貴族様の考える事はようわからんさ」
 何人かの平民は道の真ん中を堂々と行く王軍の将校や騎士たちを横目で見ながら、小声でボソボソと愚痴を呟いている。
 最も、それは町に居を構えている貴族たちも同じであり、横暴な王軍に対しての不満を口にしている。
 無論王軍貴族達の耳には入っていないであろうが、今彼らの耳に聞こえてたとしても無視していたに違いない。
 彼らは皆、これからラ・ロシェール上空に現れるであろう゛敵゛を待ち構えなければいけないからだ。

 ラ・ロシェールから少し離れた所にある広大な、草原地帯。
 普段は近隣にあるタルブ村から放牧された牛や羊たちが草を食んでいるであろう場所。
 その上空には今、旧式艦の多いトリステイン軍の艦隊と神聖アルビオン共和国の精鋭艦隊が両者向かい合う形で浮遊している。
 両艦隊とも距離を取るような形で待機し、トリステインがアルビオンを、アルビオンがトリステインの艦隊を監視していた。

 霧のせいでラ・ロシェールからはその光景を見ることはできず、町の人々は何も知らされずに出ていこうとしている。
 自分たちのすぐ傍で、今正に撃ち合いを始めるかもしれない艦隊を尻目に自国の王軍への愚痴を漏らしながら…。 


 ラ・ロシェールの中心部。そこに建てられている、町の中では一際グレードの高い高級ホテル。
 貴族専用のその宿泊施設はつい先ほど軍が接収したばかりで、今は臨時の王軍司令部として使われようとしている。
 今はシーズンオフという事もあってか宿泊していた貴族も一、二人と少なく、支配人や従業員達と共に避難している最中であった。
 その元ホテルのロビーに数人の将校と共に入ってきたド・ポワチエ大佐が、地図を持ってきた騎士に声を掛けた。
「どうだ艦隊の状況は?」
「はっ!現在我がトリステイン艦隊が、アルビオン艦隊と接触したとの事です!」
 騎士はテキパキとして口調でそう言うとロビーの真ん中に犯されたテーブルの上に、持っていた地図を勢いよく広げる。
 タルブ村を含むラ・ロシェール周辺の細かい地図は、これから行うであろう゛戦゛を円滑に進める為のゲームボードであった。
 その証拠に、別の方から小さな小箱を抱えてやってきた騎士が箱の中から艦船のミニチュアを取り出し、地図の上に置いていく。
 ポワチエ大佐から見てタルブ側の方には青色、海側は赤色のミニチュアがコトリ、コトリと音を立てて配置される。

「タルブ側が我が軍の艦隊。そして海側は、レコン・キスタの゛親善訪問゛の大使を乗せた艦隊か」
 同僚であり同じ大佐の階級を持つウインプフェンが、神経質な性格が見える顔で地図を睨んでいる。
 ポワチエは彼の言葉に軽く頷くと、地図をテーブルに置いた騎士に「地上の゛演習部隊゛はどうなっている?」と訊ねた。
「はっ!現在ラ・ロシェール郊外で待機している゛演習部隊゛は準備完了し、艦隊からの合図を待っているとの事です!」
「そうか。…あくまでも今回の作戦はアルビオン軍艦隊の動きで状況が左右する。下手に動く事はするなと伝令を送っておけ」
 その命令に騎士はハッ!と敬礼した後、ホテルの出入り口で待機している伝令を呼びつける。
 伝令が駆け付ける様子をポワチエの後ろから見ていたウインプフェンがふん、と軽く鼻で笑った。
「たかが平民と魔法も録に使えぬ下級貴族だけの国軍に、重要な仕事を任せるのはいささか可哀想だと思わないか?」
「そう言うなウインプフェン。奴らとてあのゲルマニアから玩具を貰って、撃ちたくて仕方がないに違いない」
 傲慢さを隠さぬ同僚の言葉にポワチエもまた、地図上の森林地帯を見てそう言った。
 彼の顔にはウインプフェン同様、そこで待機している国軍に対しての軽蔑の笑みが浮かんでいる。
 作戦が予定通りに進めば、国軍は先頭を切ってアルビオンの艦隊に奇襲を仕掛けて奴らの意表を突いてくれることだろう。
 その後は自分たち王軍と艦隊が攻撃を受けて指揮が乱れた敵を一網打尽にすれば、全ては丸く収まる。
(無論手柄は、作戦の指揮を任された俺が優先的に受ける…よし、完璧だな)
 ポワチエは頭の中で今回の作戦のおおまかな流れを反芻していると、自然頬が綻んでしまう。

 しかし、それが取らぬ狸の皮算用でもあると理解しているおかげで、すぐに頭を振って甘い考えを振り払った。
(…とはいえ、それは相手が動いた場合の事だ。俺が奴らなら、事を起こすような真似はしないが…)
 とにかく今は不可視の手柄よりも、目の前に見える作戦の指揮をどう取るのか考えるべきか。
 そう判断した彼は、隣で今後の事について話し合っているウインプフェン達将校の話に加わろうとした…その時であった。

 ホテルの外から突如として ドン! ドン! ドン! と凄まじい大砲の音が聞こえてきたのである。
 その後に続くようにしてビリビリと建物ごと空気が揺れたかのような気配を感じたポワチエは、天井を見上げてしまう。
 恐らく音の正体は、ここまで迎えに来てくれたであろうトリステイン艦隊を謝すためのアルビオン艦隊からの礼砲だろう。無論、弾は込められていない。
 大砲に込められた火薬を爆発させただけの空砲であるが、音はともかく振動すら地上にいる王軍の身にも届いていた。
「今のは礼砲か?…にしてはやけに大きな音だったぞ」
 ポワチエの疑問に、ずれたメガネを人差し指で直しながらウインプフェンが答えた。
「きっと敵の旗艦レキシントン号の空砲なのだろうが…確かに、聞いたことも無い程大きかったな」
 彼の言葉にポワチエも思わず頷いてしまう。街から艦隊のある草原まで近いとはいえ、このホテルの中にまで大音量で響いてきたのだ。
 相手のすぐ傍にいるであろうトリステイン艦隊の者たちは、さぞや船の上で後ずさったものであろう。
 自軍の旗艦である『メルカトール』号に乗船しているであろう、司令長官のラ・ラメー侯爵の顔を思い出そうとした時であった。
 先ほどの礼砲よりも音は小さいが、砲撃と分かる音が将校達の耳に入ってきた。

 聞き覚えのある『メルカトール』号の砲撃音に、ポワチエはすぐに礼砲に対する答砲だと察した。
 四発目、五発目、六発目…と答砲は続いたのだが、どうしたことか七発目で『メルカトール』号の砲撃音がピタリと止んでしまう。
「答砲が七発だけ?相手が大使を任された貴族なら十一発の筈だが…」
 一人の将校が七発で終わった答砲に首を傾げると、何かを察したであろうウインプフェンが鼻で笑った。
「全く。ラ・ラメー侯爵もあのお年で良く意地を張れるものだ」
 彼の言葉に他の将校達も『メルカトール』号に乗った司令官の意思を察して、軽く笑い出す。
 トリステインと比べ、何もかも格上であるアルビオンの艦隊に負けるつもりはないという意思の表れなのだろう。
 それを答砲でもって表明したであろう我が軍の司令長官は、なんとまぁ意地の強い男だろうか。
 ポワチエもそんな彼らにつられて顔に笑みを作り、周りにいた騎士たちも心なしか笑顔になってしまう。
 緊張した空気が張りつめつつあったロビーにほんのちょっと明るい雰囲気が入り込もうとした…その矢先であった。

 入り口からドタドタと喧しい足音が聞こえ、その音の主であろう斥候が息せき切ってポワチエ達将校のいるロビーへと駆け込んできたのだ。
 突然の事にロビーにいた全員が駆け付けた斥候へと視線を向けてしまう。

 何事かと将校の誰かが言おうとする前に斥候はその場で片膝立ちとなり、ロビーに響き渡る程の大声で叫んだ。
「で、伝令!たった今、アルビオン艦隊の最後尾にいた小型艦一隻が…炎上しましたッ!」


「なんだ?どうした、事故か!?」
 トリステイン軍艦隊旗艦『メルカトール』号の艦長であるフェヴィスが、信じられないという顔でアルビオン艦隊の最後尾を見つめていた。
 隣にいるラ・ラメー侯爵も彼と同じ方向に視線を向け、炎上し始めた相手の小型艦を見ている。
 甲板にいる水兵や士官たちもみな同様にそちらへと目を向けて、何が起こったのか理解しようとしていた。
 遥か後方、アルビオン艦隊の最後尾で炎上しながら墜落する『ホバート』号。霧の中でもその甲板から立ち上る炎は見えている。
 恐らく艦内に積まれていた火薬に火が回ったのだろう。甲板の火はあっという間に小さな艦艇を包み込むように燃え広がり、次の瞬間には空中爆発を起こした。
 炎に包まれた『ホバート』号の残骸がゆっくりと草原へと落ちていく様は、とても現実の光景とは思えなかった。
 突拍子無く炎に包まれ、そして呆気なく爆散した小型艦を見て『メルカトール』号の甲板にいた者たちは慌ててしまう。
「諸君落ち着け!我が軍の艦艇が爆散したワケではないぞ!!」
 広がろうとしている動揺を抑えようと、ラ・ラメー侯爵が甲板にいる士官たちを叱咤する。
 それで全員が落ち着いたワケではないが、実戦経験のある司令長官にそう言われた何人かの士官が落ち着きを取り戻した。
「手旗手はアルビオン艦隊へ状況説明を求めろ!各員はそのまま待機…手旗手、急げ!」 
 久しぶりに叫んだ所為か、ヒリヒリと痛み出した喉に鞭を打ちながら士官たちに指示を出した後、フェヴィス艦長が話しかけてきた。
「侯爵、今のは一体…」
「ワシにも分からん。恐らくは内部で何かトラブルが起こったとしか…」
 艦長の疑問に率直な気持ちでそう返した時、望遠鏡でアルビオン艦隊を見つめていた水兵が「『レキシントン』号から手旗信号!」と叫んだ。
 その水兵の口から語られたアルビオン艦隊からのメッセージは、彼らの予想を斜め上に逸れるモノであった。

「『レキシントン』号艦長ヨリ。トリステイン艦隊旗艦。『ホバート』号ヲ撃沈セシ、貴艦ノ砲撃ノ意図ヲ説明…セシ」

 水兵は信じられないという目で望遠鏡を覗いてメッセージを読み終え、それを聞いていたラ・ラメー侯爵達も同じような表情を浮かべた。
 撃沈?砲撃?…一体相手は何を言っている?あの船に乗っている連中は何も見ていなかったのか?
「奴らは寝ぼけているのか?どう見てもあの小型艦は勝手に燃えて、勝手に爆発したではないか…」
 目を丸くしたフェヴィス艦長がそう言って『レキシントン』号へと視線を向け、ラ・ラメー侯爵は明らかに怒った口調で手旗手に命令を出す。
「手旗手!!返信しろッ!『本艦ノ射撃ハ答砲ナリ。実弾ニアラズ』だ、早くしろッ!」
 司令長官からの命令で動揺が治っていない手旗手が慌てて言うとおりの信号を出すと、すぐさま返信が届いた。
 その返信を望遠鏡で見ていた水兵は、今度はその顔を真っ青にさせながら読み上げる。
「た…タダイマノ砲撃ハ空砲ニアラズ。我ハ、貴艦ノ攻撃ニ対シ応戦セントス」
 水兵が読み終えたところで、アルビオン艦隊が一斉に動き出し始めた。
 先頭にいた『レキシントン』号が右九十度の回頭を行い、右側面に取り付けられたカノン砲を突き付けようとしている。
 相手がこれから何をしようとしているのか、それは平民の子供にも分かる事であった。

「…ッ!?来るぞッ!取舵一杯!急げッ!!」
 フェヴィス艦長が操舵手に命令を飛ばすと、空中で止まっていた『メルカトール』号が息を吹き返したかのように動き出す。
 左の方へ回頭する『メルカトール』号へ向けて、一足先に準備を終えた『レキシントン』号が一斉射撃を行った。
 しかし、この時回避行動を取ったことが幸いしたのか、砲弾は『メルカトール』号には着弾どころか掠りもしなかった。
 『レキシントン』号から発射された砲弾はラ・ラメー侯爵達の遥か頭上を通り過ぎ、その内一発が『メルカトール』号の後ろにいた中型艦に着弾する。
 木製の甲板が耳障りな音を立てて派手に割れ、飛び散った破片が周囲にいた水兵や士官たちへ容赦なく突き刺さる。
 砲弾は勢いをそのままに船体を貫通して草原へと落ちていき、大穴の空いてバランスを失った中型艦が船首を下へと向けて落ち始めた。
「あそこまで届くのか…ッ!?」
 後ろにいた僚艦が着弾から沈みゆく様を見ていたフェヴィスが、『レキシントン』号から撃たれた砲弾の威力に思わず目を見張ってしまう。
 この霧のおかげもあるだろうが、もしも回避行動を取っていなかったら今頃『メルカトール』号がああなっていたかもしれない。
 中型艦の乗組員たちが一人でも多く脱出できる事を祈りながら、フェヴィス艦長は相手の旗艦が恐ろしい化け物艦だとここで理解する。
 そんな時であった、今まで黙っていたラ・ラメー侯爵が自分が乗船している艦と反対方向へと進み始めた『レキシントン』号を見て呟いた。


「艦長…どうやら奴らは我々と不可侵条約を結ぶ気など一サントも無かったらしい」
 …そりゃそうでしょうな。侯爵から投げかけられた言葉に艦長は軽くうなずきながらそう言った。
 何せ相手は自分たちの国へスパイを堂々と送り込んだうえで、仲良くしましょうと不可侵条約を持ちかけてきたのである。
 更に追い打ちといわんばかりに、この出迎えの時に自分たちに無実の罪をなすりつけて攻撃を仕掛けてくるときた。

「恐らくは、我々トリステイン人を小国の者だからと侮っているのでしょうな」
 艦長のその言葉に、侯爵は満足げな…それでいて静かな怒りを湛えた表情で頷いた。
「成程。真っ向勝負なら我々に勝てると算段を踏んで、こんなふざけた計略まで用意してくれたという事か」
 そう言うと彼は自分たちの乗る艦と反対方向へと進んでいく『レキシントン』号を見やりながら、各員に命令を出した。

「全艦隊砲撃戦用意!曹長、地上の゛演習部隊゛に合図!!手旗手は黒板で敵旗艦にメッセージを伝えろ!」 
 艦隊司令長官からの命令にすぐさま各員が動き始め、手旗手がメッセージはどうするかと聞いてくる。
 それを聞きたかったかのような笑みを浮かべたラ・ラメー侯爵は、得意気にメッセージを教えた。


「まさか、寸でのところで不意の一発を避けられるとは…」
 アルビオン艦隊旗艦『レキシントン』号の甲板から望遠鏡を覗くボーウッド艦長は、残念そうな口調でそう呟いた。
 仕留め損ねた敵の旗艦はこちらとは反対方向へ進んでおり、既に大砲の射程範囲内からは逃れられてしまっている。
 後方にいたトリステイン軍艦隊も迅速な動きで旗艦の後に続き、こちらに対しての敵意を露わにしていた。
 望遠鏡で除く限りには甲板上の敵は多少動揺しているものの、旗艦からの命令にしたがって攻撃用意を手早く済ませている。
 それに対して、王政府打倒の際に多数の士官、将校を粛清された旧『ロイヤル・ソヴリン号』―――現『レキシントン』号の甲板には動揺が広がっている。

 貴族派の連中が掻き集めたであろう水兵たちは、奇襲が失敗してトリステイン軍艦隊が動きだした事に慌てふためいていた。
 本来ならそれを抑えるべき士官たちの大半も、部下たちの影響を諸に受けてしまって止めようのない事態になりかけている。
 旧王軍の頃からいる士官たちは何とか統制を取り戻そうとしているが、時間が掛かる事は間違いないであろう。
 だがその中でも、慌てすぎて錯乱の境地に達したであろう男がボーウッド艦長の隣にいた。
「えぇぃっ!!これは一体全体どうした事なのだ!我が艦の砲術士長は居眠りでもしておったのか!?」
 この艦の司令長官であるサー・ジョンストンが、頭に被っていた帽子を甲板に叩きつけながら喚いている。
 彼は今回計画されていた゛親善訪問゛―――否、トリステイン侵攻軍の全般指揮も一任されている貴族だ。
 元来政治家である彼はクロムウェルからの信任も厚く、そのおかげで今回の件も任されたのである。

 しかしボーウッド自身はどうにも、軍人でもない癖に司令長官の椅子に座っているこの男の事が気に入らなかった。
 さらに言えば、元々王党派であった彼は軍人としてはともかく、個人としてこの゛親善訪問゛を装った攻撃には不快感さえ感じている。
(クロムウェルの腰ぎんちゃくめ…、司令長官の貴様が落ち着かねば兵たちも慌てたままなのだぞ)
 彼は口の中でそう呟きながら粛清から逃れた士官に命令を飛ばそうとしたが、その前にジョンストンが噛みついてきた。

「艦長!何を悠々と艦を進ませておる!『メルカトール』号がもっと離れる前に新型の砲で叩き潰さぬかッ!!」
「サー、いくら新型の大砲と言えどこの距離を移動しながら攻撃するのは、砲弾の無駄というものです」
 狂った野犬の如く喚きたてる司令長官の提案に、ボーウッドは至極冷静な態度でそう返す。
 この男のペースに巻き込まれていたらまともに戦えん。それが今のボーウッドが下した、ジョンストンへの対応であった。
 甲板では兵たちが慌てふためき、司令長官はごらんの有様…これで一体どう戦おうというのか。


「ひとまずは敵艦隊と一定の距離をとって、しかる後こちらの新型砲の強みを生かして各個撃破という形が最善ですが…」
 ボーウッドは錯乱する司令官を落ち着かせようと、頭の中で練っていた即席の作戦を話そうとする。
 しかし、そんな彼の落ち着いた態度が気に入らなかったのか、ジョンストンは「知るかそんなモノ!」と一蹴してしまう。

「そんな手間暇を掛けていたらトリステイン本国に我々の事が知れ渡るぞっ!?いいか、艦長!
 私は閣下から預かった大事な兵を、トリステインに下ろさねばならんのだ!もしも時間を掛けて敵艦隊と戦っていたら…
 報せを受けたトリステイン軍が地上軍を派遣して、我が軍の兵たちが地上に下り次第狩られてしまうではないか!!」

 ジョンストンの甲高い、それでいて長ったらしい声でのご説教に流石のボーウッドも顔を顰めてしまう。
 いっその事殴って黙らせた方が良いか?そんな物騒な事を考えていた時、二人の後ろから男の声が聞こえてきた。
「ご安心を、司令長官殿。貴方が思っているほどに、トリステイン軍の対応は速くはありませんよ」
 この艦の上でボーウッド以上に冷静で落ち着き払った声に、彼とジョンストンは思わず後ろを振り返る。
 そこにいたのは、金糸で縫われたグリフォンの刺繍が眩しいマントを身に着けたワルド子爵であった。
 彼は名ばかりの司令長官であるジョンストンに代わり、アルビオン軍が上陸した際の全般指揮をクロムウェルから委任されている。
 トリステイン人であり、魔法衛士隊のグリフォン隊隊長を務めていたという経歴も手伝ったのであろう。
 異国人でありながら今のアルビオンの指導者に認められた彼の顔は、相当な自信で輝いて見えた。

「いくら数と質で劣るからと、トリステイン軍艦隊は貴方が思う程甘くはありません。
 けれど奇襲を紙一重で避ける事が出来たとはいえ、アルビオン軍艦隊なら赤子の手を捻るよりも簡単に叩き潰せます」

 ワルドが物わかりの悪い生徒を諭す教師の様な口調でしゃべっている合間にも、時は止まってくれない。
 かなり距離を取ったトリステイン軍艦隊から威嚇射撃の砲声が響き渡り、それがジョンストンの身を竦ませる。
 ボーウッドとワルドの二人も敵艦隊の方を一瞥し、射程範囲外だと理解してから説明を再開させた。

「仮にトリステイン軍艦隊が伝令を出したとしても、王軍がここへ辿り着くのにはどんなに急いでも数日は掛かるでしょう。
 ラ・ロシェールや近隣の村を収める領主の軍隊などは論外、アルビオンの竜騎士隊だけでも潰せる数です」

 トリステイン軍に属していた事もあってか、ワルドの説明を聞いてジョンストンも徐々に納得し始める。
 しかし何か気にかかっていることでもあるのだろうか、ジョンスントンはワルドの話に頷きながらも「だが、しかし…」と何か言いたそうな表情を浮かべた。
 だがワルド本人はそれを聞く気は全くないのか、貴方の言いたい事は分かります…とでも言いたげに肩を叩きながら話を続けていく。

「とにかく、ボーウッド艦長の考えている通りに戦っても我々には何の支障もありません。
 今日中にトリステイン軍艦隊を壊滅させて、ラ・ロシェールに地上軍を上陸させる。たった二つだけです
 その二つをこなすだけで貴方はクロムウェル閣下から勲章を授かり、新しい歴史の一ページにその名を残せるのですよ?」

 ゛クロムウェル閣下からの勲章゛と゛歴史に名を残せる゛という言葉を聞いて、ようやくジョンストンの顔に笑みが戻ってきた。
 それでも未だに引き攣っているせいでどこか不気味な笑みとなっているが、気分が晴れてくれればこの際どうでも良い。
 ワルドはそんな事を思いながら、戦場で無様な姿を見せる政治家の耳に甘言を囁いたのである。
「そ、そうか…そうなのか?」
 今の状況で安らぎが欲しいジョンストンとは、縋るような声で耳触りのいい言葉を喋るワルドの両手を握った。
 冷や汗塗れの冷たくて不快な手に握られた感情を顔に出さず、ワルドは「えぇ、そうですとも」と答える。


「ですから、今は長官室に戻って落ち着かれてはどうでしょうか?何ならエールの一口でも飲んで―――――」
 ほろ酔い気分になってみては?…そこまで言う前に、『レキシントン』号の手旗手が「『メルカトール』号からメッセージです!」と叫んだ。
 ボーウッドが誰からだ!と聞くとと手旗手は「黒板での伝言!トリステイン軍艦隊司令長官のラ・ラメー侯爵からです!」と答える。
「ほう、ラ・ラメー侯爵ですか。実戦経験のあるお方で、素晴らしい人ですよ」
「その素晴らしい人の命も後僅かだがな…で、メッセージは何と書かれてある!!」
 懐かしい名前を耳にしたワルドが感慨深げにそういうのを余所に、ボーウッドは手旗手に聞く。
 望遠鏡を覗く手旗手は時間にして約二秒ほど時間を置いて、『メルカトール』号からのメッセージを読み上げた。

「トリステイン王国ヲ舐メルナヨ。一隻残ラズ、空ノ木屑ニシテクレルワ。コノエール中毒者共」

 手旗手が双眼鏡越しにメッセージを読み終えた直後、距離を取られた『メルカトール』号の甲板から照明弾が三つ上がった。
 打ち上げ花火用の筒から発射されたソレは霧の中では眩しく見え、『レキシントン』号にいる者たちの目にもハッキリと見えている。
 照明弾は一定の高さまで昇ってから、緩やかな弧を描いて地上へと落ちていき、やがて光を失って消滅していった。

 『レキシントン』号や他のアルビオン軍艦隊の水兵たちは、その儚い光に何か何かと目を奪われてしまっていた。
 ようやく落ち着きを取り戻した士官の貴族たちは、「持ち場へ戻るんだ!」と杖を振り回しながら叫びだす。
 その様子を耳で聞いているボーウッドは、唐突な照明弾に怪訝な表情を浮かべておりジョンストンも似たような顔になっている。
 ただ一人、ワルドだけは先程の照明弾と手旗手から伝えられたメッセージに関係があるのではないかと察していた。

 今アルビオン軍艦隊が進んでいる先の地上にはラ・ロシェール郊外の森林地帯が広がっている。
 霧は出ていものの照明弾の光は思った以上に眩しかったから、地上でも視認しようと思えば出来るはずだ。
(地上に向けて落ちていった照明弾…それに先ほどのメッセージと前方に見える森林地帯―――――――…まさかッ!?)
 ワルドが何かに感づいた同時に、同じ事を予感したであろうボーウッドが目を見開いて叫んだ。 
「各員何かに掴まれ!!敵の攻撃は下から来るぞッ!!」
 ボーウッドが叫び、ワルドと共にその場で姿勢を低くした瞬間――――――
 艦隊の進む先に見える森から先程の照明弾以上に眩い光りが発生し…直後、凄まじい砲撃音が地上から響き渡った。
 それと同時に森の中から計二十発近い砲弾が発射され、アルビオン軍艦隊はその砲弾と鉢合わせする事となってしまう。

 地上からかなり離れているにも関わらず打ち上げられた砲弾の内一発が小型艦の船底を貫き、その先にあった風石貯蔵庫を瞬時に破壊する。
 別の中型艦は火薬庫に一発直撃を喰らい、かなりのスピードを出したまま炎上し、船員たちが脱出する間もなく空中爆発を起こした。
 先ほど自作自演で潰した『ホバート』号よりも派手な爆発な起こした僚艦を見て、ボーウッドは思わず冷や汗を掻いた。
 彼の記憶の中では少なくともこの高度まで砲弾を飛ばせる大砲など、トリステイン軍は所有していなかった筈である。
 一体どうして…ボーウッドはそこで頭に貼り付こうとした余計な疑問を振り払い、優先すべき別の疑問を思い浮かべた。
(イヤ!今はそんな事を考えている場合ではない。問題はたったの一つ…トリステイン軍は最初から我々を待ち伏せていたという事だ)
 彼は苦虫を噛んでしまったかのような表情を浮かべながら腰を上げて、周囲を見回してみる。


 先程の砲撃で一隻失い、更に被弾した小型艦も甲板から凄まじい炎を上げて船首を地面へ向けて落ちようとしている。
 何人かの水兵や士官が耐えかねて船から飛び降りているが、いくらメイジといえどもこの高さから落ちれば『フライ』や『レビテーション』の詠唱もままならず、地面の染みと化すだろう。
 良く見るとその艦の操舵手は何とか不時着させようとしているのか、煙を吸わないよう右手で口を押さえながら左手で舵を取っていた。
 彼のこの先の運命を予見したボーウッドは、あの操舵手に始祖ブリミルの祝福あれと心の中で祈るほかなかった。

 そうして燃え上がる小型艦が艦隊から脱落したのを見届けてから、隣にいたワルドに話しかける。
「子爵。どうやら君が思っていたほど、トリステインは甘くは無かったらしい」
 地上からの砲撃が止み、事態を把握した『レキシントン』号のクルー達を見ながらポーウッドは言った。
 水兵たちは地上から攻撃されたと知って再び慌てふためいている。
 その様子をボーウッドの後ろから眺めていたワルドは参ったと言いたげな微笑を浮かべながら「そのようでしたな」と返した。
 少なくともその口調からは、自分の予想が外れていた事に対する罪悪感は感じていないらしい。
 士官や水兵たちが右へ左へ走り回るその光景を目にしながら、ワルドはポツリと呟く。
「しかし、参りましたな。敵を罠にはめたつもりが、我々がそっくりそのまま逆の立場になってしまうとは」
「あぁ、全くだ」
 子爵の言葉に相槌を打ちつつ、しかし始まった以上には勝たねばならない。と付け加えた。
 軍人である今のボーウッドにできることは、『レキシントン』号の艦長として空と陸に陣取ったトリステイン軍をできるだけ速やかに叩く事だけだ。
 幸い敵艦隊を不意打ちで壊滅させた後、降ろすはずであった地上軍を乗せた船は未だ健在である。
 先程の地上からの砲火で敵の大体の位置は分かる筈だろう。ならばそこを優先的に攻撃して制圧する必要がある。

「トリステイン軍艦隊は質と量の差で真っ向勝負は仕掛けて来ない筈。それならば、今は敵地上勢力を叩く事に専念できる。
 子爵くん、早速だが君には竜騎士隊を率いて先ほど砲弾が飛んできた森林地帯を重点的に攻撃してくれないかね?」

 ボーウッドからの命令に、ワルドは得意気な笑みを浮かべた。
 流石根っからの軍人、対応が御早い。彼はそう思いながらもその場で敬礼をして言った。
「…分かりました、地上の掃除は私とアルビオン軍の竜騎士達にお任せを」
 この船の中では数少ない物わかりの良い相手からの返事に、ボーウッドも満足そうに頷く。
 そんな時であった、今まで二人の視界から消えていたジョンストンが頭を抱えて嘆き出したのは。

「あ、あぁ!あぁ!何という事だッ!よもや、トリステイン軍が地上軍を派遣していたなんて!!!」
 ついさっき甲板に叩きつけた自分の帽子を両手で抱えるように持った彼は、涙を流して何事か叫んでいる。
 その叫び声が騒乱に包まれた甲板の上でもハッキリ聞こえたボーウッドとワルドは、ついそちらの方へ目を向けてしまう。
 まるで丸まったハムスターの様に蹲るジョンストンは、もう脇目も振らずに泣きわめき、叫び続けている。
 本当なら一瞥しただけで無視してやっても良かったが、彼の口から叫びと混じって出てきたのは…ある種゛懺悔゛に近いモノであった。
「か…閣下!クロムウェル閣下!?だからっ、だから私は反対したのですよ!?トリステインへの奇襲攻撃など…!!
 トリステインの内通者がバレて、更にスパイの存在も知られて…なぜ奴らがそれでも条約を守りたいとお思いになられるのですか!?」

 トリステインの内通者?スパイ?…一体何の話だ?
 ボーウッドとワルドはお飾り司令長官の口から出た単語に、思わず互いの顔を見合ってしまう。
 実はトリスタニアで露見された内通者やスパイの件は、ボーウッドの様な将校や外国人であるワルドの耳には入ってきてなかったのである
 スパイを送り込んだ事そのものを評議会は隠蔽し、こうしてジョンストンの口から語られるまで彼ら以外の者には知らされていなかったのだ。
 だがそんな二人にも、ジョンストンの叫んでいる内容そのものが、トリステイン軍が待ち伏せを行う切欠になったのだと、察する事はできた。
 でなければ敵軍が地上に砲撃部隊を配置していたという事に対して、こんなに取り乱す筈はないであろう。

「私の提案の様に…奇襲を諦め、長期的なコネ作りに励んでいれば…全ては上手くいっていた!!
 トリステインは確実に手に入れる事ができた…というのに!だというのに…こんな事になってしまった!
 閣下!こ、この責任は貴方の責任なのですよ…!!?決して、これは私のミスではありませんぞ……!!」

 一人泣きながら演説の様に叫び続けるジョンストンを、二人はただ黙って見つめていた。
 このまま放っておいてもいいのだが、今は一分一秒を争う状況なのだ。これ以上下手な事を叫ばれて兵たちに聞かれては不味いことになる。
 自分に黙って水面下で行われていた事については確かに気にはなるが、今はそれに専念する程の余裕は無い。
 ボーウッドが目だけをワルドの方へ動かすと、艦長の言いたい事を察した彼が腰に差しているレイピア型の杖をスッと抜いた。
 …静かにさせますか?クロムウェルから新しく貰ったソレをジョンストンへ向けたワルドの顔が、ボーウッドにそう問いかけている。
 ……殺すなよ?ボーウッドはそう言いたげな渋い表情で頷き、それを了承と受け取ったワルドが詠唱もせずに杖を振り上げようとした。

 そんな時であった―――
「おやおや、随分と悲観に暮れてらっしゃるではありませんか。ジョンストン殿?」
 ボーウッドとワルドの後ろから、聞き慣れぬ女の声が聞こえてきたのは。

 まるで急に現れたかのように唐突で、あまりにも透き通っていて幽霊の様な不気味ささえ匂わせる声色。
 そんな声が後ろから聞こえてきてから一秒。杖を手にしたワルドが風を切るような勢いで後ろを振り返る。
 振り向いた先にいたのは…古代の魔術師めいたローブに身を包み、フードを頭からすっぽりと被った女だった。

 顔を隠した女はマントを着けていない事から平民なのかもしれないが、その体からは異様な気配が漂っている。
 声と同じでまるで幽霊のように存在感は無く、゛風゛系統の使い手であるワルドでさえも喋られるまで気づかなかった程だ。
 黒いフードもまた一切の飾り気が無く、それが却って女の不気味さと冷たさを助長させている。
 そんな見知らぬ不気味な女が、混乱の最中にある甲板の上に悠然と佇んでいるという光景はあまりにも異様であった。
 ワルドは杖の切っ先を女へと向け、艦長であるボーウッドが誰何しようとした時…その二人を押しのけるようにしてジョンストンが女へと詰め寄ってきた。

「おぉ…シェフィールド殿!シェフィールド秘書官殿ではないか!!」
 先程まで泣き叫んでいた憐れな司令長官は期待と羨望に満ちた表情で、シェフィールドを見つめている。
 その名に聞き覚えのあったボーウッドは、彼女がかつて自分にニューカッスル城への奇襲を実行させた人物だと思い出す。
 クロムウェルの秘書官が何故こんな所へ?いや、それよりもいつ乗船したというのか。
 疑問を一つ解消し、新たな疑問が二つも出来てしまったボーウッドを余所にジョンストンが饒舌に喋り出す。
「おぉ…秘書官殿ぉ…敵が、トリステイン軍が伏兵を配しておりましたっ!このままでは、閣下から任せられた艦隊がやられてしまいますぞ…!」
「安心しなさい、この事もクロムウェル閣下の予想範囲内。次の一手を打つ準備はできているわ」
 まるで始祖像に縋る狂信者の様なジョンストンを宥めながら、シェフィールドは林檎の様に紅い唇を動かしてそう答えた。
 その口の動きすらまた不気味に感じたボーウッドは、気を取り直すように咳払いをしつつ二人の会話を黙って聞いている。
 彼女の話から察するに少なくとも今この状況を聞く限り、打開できる程の切り札があるらしいがボーウッド自身はそれに心当たりがなかった。
 艦長である自分に知らせずに兵器にしろ武器にしろ積むというのは、無理があるというものだ。
 後ろにいたワルドに目を向けるも、彼もワケが分からないと言いたげな表情を浮かべて軽く頷く。

 一体どういう事なのか?放っておけない謎だけが積み重なっていく中で、ジョンストンは喋り続けている。
「おぉ、お願いします!すぐにでも、すぐにでもそれをお使いください!!それで忌々しいトリステイン軍を……ッ!」
 最後まで言い切ろうとした彼はしかし、自分の口の前に出されたシェフィールドの右手の人差し指によって止められてしまう。
 たったの人差し指一本。それだけで今まで散々喚いていたジョンストンとが、口をつぐんでしまったのだ。
 この時、ワルド達には見えなかったがジョンストンの目にはフードで隠れたシェフィールドの目がしっかりと見えていた。
 唇と同じ深紅色の鋭い瞳が蛇の様な冷たさを放って、彼の顔をギロリと睨んでいたのである。
 蛇に睨まれた蛙の気持ちとはこういうものか…。ジョンストンは無意識に止まってしまった自分を、ふとそんな風に例えてしまった。
「貴方に請われなくとも、既に゛投下゛の用意に移っているわ。…だからそこで大人しくしていなさい」
 シェフィールドは最後にそう言うと踵を返し、体が硬直したままのジョンストンを放ってスタスタと船内へと続くドアへと歩いていく。
 ボーウッドは突然現れ、そして自分たちには声も掛けずに去っていく彼女の背中をただずっと見つめている。
 ワルドもまた彼の後ろから見つめているだけで、後を追うような事はしなかった。

(…投下?投下とは一体どういう意味だ…!?)
 今まで自分がこの艦の艦長であり、これから指揮を取ろうとしたボーウッドは自分が知らない事実がある事に困惑していた。
 これまで経験してきた戦いは単純明快であり、勝つか死ぬかの命を賭けた真剣勝負でそこに謀略というモノは殆どなかった。
 それが自分の信じる軍人としての戦いだと思っていたし、これからも続く不変の概念だと信じていた。
 だがそれも今日をもって、終わりを告げることになってしまうのだろう。あの女の手によって。

「艦長…あの女、クロムウェルの秘書官殿は何をするつもりなのでしょうか?」
 後ろから聞こえてくるワルドの質問にも、彼はすぐに答える事が出来なかった。
 ただただドアを開けて、船内へと吸い込まれるように消えていったシェフィールドの後姿を見つめながら、ポツリと呟いた。

「あの女は、一体何をするつもりだというのだ…?」


 時間は丁度午後十二時を回ろうとしているところで、トリステイン王宮内の厨房では早くも昼食の準備が済んでいた。
 国中から集められた腕利きのシェフたちが厨房を舞台に、平民はおろか並みの貴族ですらお目に掛かれないような豪華なランチの数々。
 一つの皿に盛られたメインの肉料理だけでも、平民の四人家族が三日間遊んで暮らせる程の金が掛かっている程だ。
 そんな豪華な料理を作り出し、運び出そうとしている厨房は賑やかになるのだが…今日に限っては王宮全体がやけに賑わっていた。

 あちこちの廊下を武装した騎士や魔法衛士隊員が戦支度の為に走り回り、廊下の埃を舞い上がらせている。
 いつもなら執務室で昼食を心待ちにしている王宮勤務の貴族たちも、顔から汗を噴き出す程忙しく走り回っていた。
 平民の給士達は何が起こったのか把握している者は少なく、多くの者たちが廊下の隅や待機室で走り回る貴族たちを不安げに見つめていた。
 そして事情を把握している者たちは、知らない者たちへヒッソリ囁くように何が起こったのか大雑把に伝えていく。

 …曰く。ラ・ロシェールで親善訪問の為に合流しようとしたアルビオン艦隊が、トリステイン艦隊を襲ったという事。
 けれどもそれを間一髪で避けたトリステイン艦隊は、゛偶然近くで訓練していた゛国軍の砲兵大隊に助けられたいう事。
 そして国軍の監査をしていた王軍の将校たちが指揮を取り、騙し討ちをしようとしたアルビオン艦隊との交戦に入ったという事。

 誰が最初に広めたかも知らない噂はたちどころに王宮中に伝幡し、一つの『事実』として形作られていく。
 ある者は「王家を滅ぼした貴族派らしい、卑怯な手口だ!」と批判し、また別の者は「戦争が始まるのかしら…?」と不安を露わにしていた。
 一方で、貴族たちの中で軍属についている者達は上層部からの出撃命令を、今か今かと心待ちにしている。

 上司たちから伝えられた内容が本当ならば、今すぐにでもラ・ロシェールで戦っている友軍と合流しなければならないのだ。
 竜騎士は朝からの濃霧で出撃には時間が掛かるが、その他の幻獣に乗る魔法衛士隊ならば日付を跨いで深夜中に辿り着くことができる。
 けれども、各隊の隊長たちは未だ緊急に設けられた対策室から出て来ず、隊員たちはどうしたものかと皆首を傾げている。

 騎士達も騎士達で出動命令を待っており、できる限り竜騎士隊を今のうちに出させたいという意思があった。
 この霧の中で長距離飛行は風竜でもなければ方角を見失う可能性があり、不幸にも風竜は此度の作戦でラ・ロシェールからの伝令役に全頭駆り出されている。
 風竜はブレスの威力が弱い為に飛行力はあっても戦闘力は火竜より低く、そして火竜は戦闘力あれど飛行力は風竜に大きい差があった。
 一応霧の中を長距離飛行させる方法はあるのだが、如何せん方角を見失った際に地上に着地させて、方角を指示してやらなければいけないのである。
 更に火竜は頭が悪いせいで何度も着地させて教え直す必要があり、今出動してもラ・ロシェールにつくのは明日の朝方になってしまう。
 だから騎士達も焦ってはいたのだが、自分たちの隊長が対策室から一向に出て来ない理由だけは知っていた。
 彼らは伝令役を仰せつかった騎士仲間から、ある程度現地の―――最前線の情報を知る事が出来ていた。

 伝令曰く、アルビオン軍は亜人とは違う見たことも無い『怪物』を地上軍のいる森林地帯に投下したのだという。
 地上に降りた彼奴らは、周囲の霧を蝕むかのようにドス黒い霧を放出して地上軍に襲い掛かった。
 その時上空にいた彼は全貌を知る事はできなかったが、地上軍は一時間と経たずに森から出てきたのだとか。
 『怪物』たちは無秩序な動きとドス黒い霧を伴って王軍のいるラ・ロシェールへ突撃、そして…

 それから後の事は、その時伝えに来た伝令は知らない。
 彼は本作戦の指揮を任されたド・ポワチエ大佐から、敵が未知の『怪物』を差し向けてきたという事を伝えろと言われて、町を後にしたのである。
 故にその後ラ・ロシェールがどうなったか、そして今現在の状況がどうなってるいるのかまでは知らなかった。


「クソッ…出動命令はまだなのか?一体どうなっている!」 
 王宮の廊下を、喧しい足音を立てて魔法衛士の隊員三人が早足で歩いきながら一人叫ぶ。
 彼らのマントには幻獣ヒポグリフの刺繍が施されている事から、彼らがヒポグリフ隊の所属だと一目で分かる。
 その後ろに同僚であろう二人の隊員が後へと続き、彼の独り言に相槌を打つかのように言葉を出す。
「対策室へ行っても隊長たちからは待機しろ、待機しろ…の繰り返し。このままじゃ、戦況がどうなるか分からないっていうのに」
「全くだよ!聞けば、郊外の森林地帯で陣を張った国軍が既に敗走しているらしいぞ」
 後ろにいた二人の内三十代前半と思しき同僚が口にした国軍の情報に、先頭の隊員が鼻で笑ってこう言った。
「所詮平民と下級貴族の寄せ集め軍隊なぞ、そんなものだろ?」
「けれど俺の友人の騎士から聞いた話だと、亜人でもない未知の『怪物』の仕業とか…」
 反論か否か、食い下がる同僚の言葉を遮るようにして、先頭の彼は言った。

「いいか?例え相手がその『怪物』だろうが、俺たち魔法衛士隊が出動すればすぐに―…イテッ!?」
 そんな時であった。先頭を歩く彼の言葉を無理やり中断させるかのように、曲がり角から黒い影がぶつかって来たのは。
 不意に当たった彼は、すぐに後ろにいた同僚が倒れようとした背中を押さえてくれたことでなんとか事なきを得た。
 一方で曲がり角からやってきた謎の黒い影も「おわっ…トト!」と可愛らしい声を上げて、何とかその場で踏みとどまっている。
 何とか倒れずに済んだ黒い影―――もとい、魔理沙は帽子が落ちてないか確認してから、ようやくぶつかった相手と目が合った。
 そして相手が男三人の内先頭の者とぶつかったと察すると、やれやれと言いたげに首を横に振って呟く。
「…全く、人が曲がり角を通るって時にぶつかってくるとは危なっかしい連中だぜ」
「何だと…?」
 自分がぶつかってきたという自覚が微塵もないその言い方に、先頭の隊員はムッとした表情を浮かべる。
 思わず腰に差していた杖を抜くと、その切っ先を魔理沙の喉元へと躊躇なく向けた。
「貴様、このヒポグリフ隊所属の私に向かって何たる口の利き方か…」
 彼の経験上。平民や下級貴族ならばこの言葉と杖を向けるだけで、相手が竦む事を知っていた。
 だが魔理沙はその杖を見ても怯えるどころか、厄介なモノを見るかのような表情を浮かべて言った。
「えぇ…?おいおい、勘弁してくれないか?今はただでさえ急いでるんだよな、コレが」
 事実本当に急いでいる魔理沙の言葉はしかし、彼の怒りのボルテージを更に上げてしまう事となる。
 何よりもその表情――顔の前を飛び回る羽虫を鬱陶しがるような顔に、杖を持つ手に力が入り過ぎてギリギリと音がなる程怒っていた。
「黙れ、貴様の事情など知った事ではない!それよりも貴様は……」
「ちょっとマリサ!一人で勝手に突っ走るなって言ったでしょうがっ!」
 何者だ!―――――そう言おうとした時、魔理沙が通ってきたであろう曲がり角の向こうから声が聞こえてきた。

 目の前にいる無礼な平民(?)の少女と同年代であろう、少女の軽やかな怒鳴り声。
 その声に聞き覚えのあった先頭の隊員は、魔理沙を睨んでいた顔をフッと上げて彼女の後ろを見やる。
 彼が顔を上げたのとほぼ同時であっただろう。自分にぶつかってきた少女の後を追うようにして、ピンクブロンドの少女が走ってきた。
 黒のプリーツスカートに白いブラウス、そして黒いマントを着けている事から少女が貴族だとすぐにわかる。
 だがそれよりも遥かに目立つピンクブロンドの髪が、彼女がトリステインで最も名のある公爵家の者だと無言で周囲に伝えていた。
「み、ミス・ヴァリエール…!」
 後ろにいた同僚の一人が突然現れた公爵家の者に驚き、無意識にそう叫んでいた。
 だが肝心のヴァリエール家の令嬢――――ルイズはその声には反応せず、魔理沙へと怒鳴りかかる。
 事情はよく知らないが、その燃えるような怒りの表情を見るに何かがあったのだろう。

「アンタねぇ!折角姫さまのいる場所を聞いたってのに、…先を行き過ぎて迷ったらどうするのよ!?」
「いや~、ワタシってばこう突っ走っちゃう性格でね、やっぱり常日頃箒で飛ばし過ぎてるせいかもな」
 先程魔理沙へ杖を突きつけた隊員も驚くほどの怒声でもって、ルイズは黒白の魔法使いへと詰め寄る。
 一方の魔理沙も慣れたモノなのか、頭にかぶっていた帽子を外して気軽そうに言葉を返している。
 そのやり取りに思わず杖を抜いた先頭の隊員も、その切っ先を絨毯へ向けてただただ見守るほかなかった。
 と、そんな時にまたもや曲がり角の向こうから、三人目となる別の少女の声が聞こえてきた。

「ちょっとアンタたち。駄弁ってる暇があるなら、前にいる奴らを道の端にでも寄せたらどうなのよ?」
 先の二人と比べて何処か暢気そうで、それでいて苛立たしさを少しだけ露わにしているかのような棘のある声色。
 前の奴らとは我々の事か?三人目の言葉に後ろにいた二人がついついお互いの顔を見遣ってしまう。
 貴族を相手にして何たる物言いか。先頭の隊員がそんに事を想いながら顔を顰めた時、三人目がヒョッコリと姿を現した。
 ハルケギニアでは珍しい黒髪に大きくて目立つ赤いリボン、そして袖と服が分離している珍妙な紅白の服。
 左手には杖らしきモノを持っているがマントは着けていない所為で、貴族かどうかは判別がつかない。
 そんな変わった姿の少女―――霊夢が呆れた様な表情を浮かべて、ルイズと魔理沙の前へと出てきた。

「…って、何言い争ってるのよ二人とも?」
「イヤ、喧嘩じゃないぜ。ルイズが前を行き過ぎるなと叱って、それに私が仕方ないだろうと言葉を返しただけさ」
「世間様では、それを言い争いとか口喧嘩というらしいわよ」  
「ちょっと!二人して何してるのよ!?そんな事してる暇があるならねぇ――」
 妙に回りくどい魔理沙の言動に、霊夢は溜め息をつきながらも言葉を返す。
 そこへルイズが怒鳴りながら入ってしまうと、彼女たちの前にいる魔法衛士隊隊員達は何も言う事ができなくなってしまった。
 一体これはどういう事なのか?魔法衛士隊の三人が突然で賑やかな少女達に呆然としてしまう。
 そんな時に限って、厄介事というのは連続して起こるという事を彼らは知らなかった。
「……ん?おい、また誰か角を曲がって来るぞ」
 ルイズたちがギャーワーと喋り合っている背後から新たな影が出てくるのを見て、隊員の一人が言った。
 今度は何だ?うんざりした様子でそう思った先頭の隊員が三人の背後へと視線を移し、そして驚く。
 先ほどの少女たちはそれぞれ一人ずつ数秒ほど時間を置いて出てきたが、何と今度は一気に三人も出てきたのだ。
 だがそれで彼らが驚いたワケではなく、原因はその出てきた三人の『状態』にあった。

「おい、しっかりしろ!」
「う、うぅ…スマン」
「もうすぐ会議室だ、踏ん張れ!」
 新しく出てきた三人は王宮の騎士隊であり、肩のエンブレムを見るに竜騎士隊の所属だと分かった。
 その内二人は一人の両肩を貸しており、その一人は一目でわかる程酷い怪我を負っている。
 怪我をした竜騎士は今にも倒れそうなほど頼りない足取りであり、肩を貸してもらわなければすぐにでも倒れてしまうだろう。
 突然現れた負傷した騎士に驚いた衛士隊の者たちはハッと我に返り、先頭の隊員が騎士の一人に声を掛けた。
「…あっ、おい…!大丈夫か、どうしたんだその怪我は?」
「ん?あぁ魔法衛士隊のヤツか。スマンが、今は道を空けてくれ!伝令のコイツを連れて行かないと…」
 怪我をした同僚の右肩を支えていた騎士が言葉を返すと、言い争っていたルイズがハッとした表情を浮かべる。
 今はこんな事をしている場合じゃないと、気を取り直すかのように頭を軽く横に振ると先頭の衛士隊隊員に向かって言った。

「すいません!私達もこの騎士達と一緒にアンリエッタ姫殿下の許へ行きたいのですが、会議室はこの先で合ってるんですよね!?」


 王宮の中心部にある会議室は、交戦状態となったアルビオン軍との戦いをどう進めるかの対策室に変わっていた。
 三時間前に戦闘開始の伝令が届けられてから、王宮にいた大臣や軍の将校たちがこの広い部屋に集結して会議を続けている。
 縦長のテーブルの左右に設けた席に彼らが腰を下ろし、テーブルの上にはラ・ロシェール周辺の地図が何枚も広げられている。
 大臣や将校たちはその地図を指さしながら口論し、この戦いをどのように進めて終幕を引くべきかを議論していた。

「既にアルビオン側のスパイと、我が国の内通者が通じ合っていたという証拠は確保しているのだ。
 後はこの戦いを一時的な膠着状態にして、アルビオンが非難声明を出すと同時にそれを公表すれば奴らは終わる」
「イヤ!すぐにでも国中の軍隊を動員して艦隊だけでも潰すべきだ!!正義は我らにある!」 
 とある将校と議論していた一人の大臣が書類を片手に提案を出すと、好戦的な反論が跳ね返ってくる。
 既に国中に待機しているトリステイン国軍は出動態勢を整えており、王軍の方も今か今かと出動命令を待っているのだ。
 しかし大臣側も好戦的な彼らの提案と気迫に負けぬものかと言わんばかりに、別の大臣がその将校に食って掛かる。
「だが今動員させたとしても、大軍となるのには最低でも四日は掛かりますぞ!?アルビオンは我々が集まるのを悠長に待つワケがない!」
 仲間の言葉に他の大臣たちもそうだそうだ!と賛同の相槌を打ち、対策室の空気を何とか変えようとしている。
 将校側も場の空気が変わりつつあるのを察してか、反論された将校の隣にいた魔法衛士ヒポグリフ隊の隊長が口を開く。
「ならばその時間を、我々魔法衛士隊と竜騎士隊を含めたトリスタニアの王軍で稼ぎましょうぞ!」
「まだ敵がどれ程の地上軍を有しているのか、分かってないのだぞ?戦うしか能のない衛士隊は黙っておれ!」
 白熱した論戦のあまりついつい乱暴な口調になってしまう大臣の言葉で、ようやくこの場を落ち着かせようとする者が出てきた。

「諸君、落ち着いて下され!あまり議論に熱を掛け過ぎては、ただの喧嘩になってしまいますぞ!」
 アンリエッタの座る上座の横で佇んでいたマザリーニ枢機卿が一歩前に出て、滅多に出さない程の大声で呼びかける。
 幸いにも彼の大声で論戦のあまり熱暴走しつつあった対策室は、冷水を浴びせられたかのように落ち着きを取り戻した。
 何とか彼らの口を閉ざすことができたマザリーニは、軽い咳払いをしてから淡々としゃべり始めた。

「とにかく…今のトリステインは大臣側の提案を実行し、アルビオン以外の他国に大義は我々にあると教えなければならん。
 援軍については、今後来るであろう伝令の戦況報告に応じて調整する必要があるだろう。今は打って出るべきとは思えん」

 大臣側、将校側両方を組み合わせたかのようなマザリーニの提案に、大臣側の何人かがホッと安堵の一息をつく。
 しかし将校側にはまだ不安要素があるのか、魔法衛士マンティコア隊隊長のド・ゼッサールが片手を上げて枢機卿に話しかけた。
「だがマザリーニ殿、先程の伝令によると何やら前線においてアルビオン側が見たことも無い兵器を使用したと…」
 そんな彼に続くようにして国軍将校である辺境伯も片手を軽く上げて、マザリーニに質問を投げかける。

「左様。敵は亜人とも違う全く未知の『怪物』の軍勢を地上に投下して国軍を敗走させ、王軍のいたラ・ロシェールにも突撃したと聞きましたが…。
 それがもし本当ならば…国軍、王軍共にこれ以上の被害が拡大する前に増援部隊を派遣して、その『怪物』達に対処する必要があるのでは?」

 マンティコア隊隊長と辺境伯の言葉に、将校たちはウンウンと頷きながら確かにと呟いている者もいる。
 彼らは戦いを膠着状態に持っていくのは賛成しているが、増援は出来る限り迅速に送るべきだと主張していた。
 無論その報告を聞いていたマザリーニもその事についてすぐに拒否することはできず、むぅ…と呻く事しかできない。
 そんな彼の反応に大臣側であり友人であるデムリ財務卿と、アカデミー評議会議長のゴンドラン卿が不安そうな表情を浮かべている。
 彼らも戦闘の一時膠着を望んでおり、マザリーニ自身もどちらかといえば大臣側の味方であった。
 出来る事ならば最小限の戦いでアルビオンを食い止めて、奴らに不可侵条約の意思なしと公表するのがベストであろう。
(だが…我々はそう思っていても、今の殿下のお気持ちは――――)
 彼はそこまで考えて自分のすぐ右、この部屋の上座に腰を下ろすアンリエッタを横目で一瞥する。
 三時間前にアルビオンとの戦闘開始が伝えられ、この部屋へ来てからというもの彼女はずっとその顔を俯かせていた。
 一言も喋ることなく悲しそうな、何かを思いつめているような表情を浮かべて右手の薬指に嵌めた指輪を左手の指で撫で続けている。
 御気分が優れぬのかと、何度か一時退席させて休ませては見たがここに戻ってくるとまたすぐに俯いてしまう。
 臣下の者たちも心配してはいるのだが、彼女の口から会議に専念して欲しいと言われてしまったのでどうしようもできない。

 そんな時であった、会議室の出入り口である大きなドアが突然開かれたのは。
 いきなりの事にドアのそばにいた貴族たちが何事かと見やって、ついで多数の者が怪訝な表情を浮かべてしまう。
 彼らの前でノックも無しにドアを開けて入ってきたのは、憮然とした態度で会議室を見回している霊夢であった。
「ほー、ほー…成程。アンリエッタがいるという事は、ここが会議室って事かしら?」
 貴族たちに誰かと問われる前に、目当ての人物を探し当てたであろう霊夢が一人呟くと、右手を上げて「ちょっとー?アンリエッタ~?」とアンリエッタに話しかける。
 突然現れた霊夢の態度と敬愛するアンリエッタ王女への呼び方を耳にした貴族たちは彼女の無礼な態度に、怒りよりも先に驚愕を露わにした。
 トリステインの百合であり象徴でもあるアンリエッタ王女を呼び捨てはおろか、王族相手に友だちへ声を掛けるかの如く気安さ。
 例え平民や盗賊や傭兵に身をやつしたメイジでも取らないような霊夢の態度に、彼らはただただ呆然とするほかなかった。 

「だ…誰ですか貴方は!ここは関係者以外今は立ち入りを禁止にしていますぞ!」 
 霊夢の無礼さから来る驚愕から一足先に脱したであろうデムリ卿が、目を丸くしながら言った。
「関係者なら大丈夫なの?じゃあ私はアンリエッタの関係者だから、部屋に入っても良いわよね」
「なっ…!で、殿下…それは本当で?」
 しかし霊夢も負けじと言い返すと、デムリ卿は思わず上座のアンリエッタを見遣ってしまう。
 アンリエッタもまた突然やってきた霊夢に驚いた様な表情を浮かべていたが、デムリ卿の言葉にスッと席を立った。
「れ、レイムさん…、どうしてここへ…?」
「いや~何、別に用って程でもないんだけど…まぁ、ルイズの付添いって感じね」
 アンリエッタと霊夢のやり取りを見て、その場にいた貴族たちの何人かがざわついた。
 あのアンリエッタ王女が、自身に全く敬意を払わぬ怪しい身なりをしたレイムという少女に対してさん付けで呼んでいる。
 マザリーニ枢機卿など王宮に常駐して霊夢達の事を知っていた貴族以外は、一体何者なのかと疑っていた。
 ただ一人、ゴンドラン卿だけは霊夢の姿をマジマジと見つめながら顔を青白くさせている。

「……失礼します!!姫さま!」
 そんな時であった、ざわつき始めた会議室の中へ飛び込むかのようにルイズが急ぎ足で入室してきた。
 今度の乱入者は魔法学院生徒の身なりに、ピンクブロンドのヘアーという事で部屋にいた貴族たちはすぐに彼女の事が分かった。
 ルイズは霊夢のすぐ傍で足を止めると、上座の方にアンリエッタがいる事に気付いてホッと安堵の一息をつく。
「おぉ!これはこれは、ヴァリエール家の末女であるルイズ様ではございませぬか!!」
 ドアのすぐ近くの席に座っていた大臣が、ルイズの顔を見てギョッと驚いた様な表情を浮かべた。
 彼の言葉に他の大臣や将校達も半ば腰を上げてルイズの顔を見遣り、そして同じような反応を見せる。

「得体の知れぬ少女の次は、ヴァリエール家の末女様が来るとは…これは一体どういう事なのだ?」
「酷いこと言うわねぇ、誰が得体の知れぬ少女よ?」
「そりゃ挨拶もなしにそんな身なりで入ってきたら、誰だってそう思うだろうさ」
 大臣の口から出た言葉に霊夢がすかさず突っ込みを入れた時、ルイズに続いて今度は魔理沙が入室してきた。
 三人目の闖入者に更に会議室は沸いたのだが、彼女の後に続いて入ってきた者たちを見て全員が目を見開てしまう。

「し、失礼致します!ただいまラ・ロシェールからの伝令を連れてまいりました!」
 魔理沙の後に続いて入ってきた魔法衛士隊隊員の一人がそう言うと、四人の騎士と隊員達に支えられた伝令が入ってきたのだ。
「これは…っ!一体どうした事か!?」
「何と酷い怪我だ…」
 大臣や将校達は隊員たちに肩を支えられて入ってきた伝令の騎士を見て、彼らは様々な反応を見せる。
 ある大臣は血を見ただけで顔を青白くさせ、将校や隊長達が席を立って伝令の傍へと駆け寄っていく。
「……ッ!」
「何と…」
 マザリーニ枢機卿も傷だらけで入ってきた伝令に目を丸くし、アンリエッタは口元を両手で押さえて悲鳴を堪えていた。
 伝令の傍へ駆け寄ってきたヒポグリフ隊の隊長が、騎士達と共にやってきた自分の隊の者に話しかける。

「おいっ、これはどういう事なのだ?」
「はっ、先程隊長殿に待機命令を受けた後に戻ろうとした際にこの者達に続いて、彼らがやってきて…」
 ついさっき魔理沙とぶつかった隊員が横にルイズたちを見やりながら、やや早口で隊長に説明をしていく。
 その傍らで竜騎士隊の隊長が自分の部下でもある伝令に、不慣れながらも゛癒し゛の魔法を掛け続けている。
 しかし伝令の傷は外から見るよりも酷く、出血もそこそこにしている事が今になってわかった。
「お前たち、どうしてコイツが戻ってきた時点で応急処置をしなかったんだ」
「その…実は戻ってきた時は平気そうなフリをしていたのですが…我々が用事で城内へ入った際に、彼女たちが倒れていたソイツを介抱していて…」
 部下のその言葉に、隊長は蚊帳の外に移動しかけたルイズたちの方へと顔を向ける。
 強面の竜騎士隊隊長に睨まれた魔理沙が多少たじろいだが、そんな彼女を余所にルイズがすかさず説明を入れた。

「最初に私が倒れているのを見つけた時、医務室につれて行こうとしたのですが…どうしても姫様に伝えたい事があると言って…」
 その輪の外で様子を窺っていたアンリエッタがハッとした表情を浮かべて、その騎士の許へと駆け寄っていく。
 何人かの者がそれを制止しようとした素振りを見せつつも、彼女はそれを気にもせずに負傷した伝令の傍へ来ると水晶の杖を彼の方へと向けた。

 軽く息を吸ってから、慣れた様子で『癒し』の呪文を詠唱し始めると、杖の先についた小さな水晶が不思議な光を放ち始める。
 見ているだけでも心が落ち着くような水晶の光が騎士の体から傷を取り除き、まともに立つことすらできなかった疲労感すら消し去っていく。
 それを近くで見ていた者たちはルイズを含めて『癒し』の光に皆息を呑み、魔理沙は興味津々な眼差しでアンリエッタの魔法を観察している。
 霊夢は相変わらずぶっきらぼうな表情でその様子を眺めていたが、思っていた以上に献身的なお姫様に多少の感心を抱いていた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ…姫殿下、申し訳ありません…。私如きに、貴女様が魔法を使われるなどと…」
 敬愛する王女からの治療に伝令はお礼を言って立ち上がろうとしたが、アンリエッタはそれを手で制した。
「そのままで結構です…。一体、私に直接報告したい事とはなんですか?」
 アンリエッタからの質問に、伝令はスッと目を細めるとゆっくりと喋り出す。
「ら……、ラ・ロシェールに派遣された王軍指揮官の…ド・ポワチエ大佐からの伝令、です…」
 彼はそう言って息を整えるかのように深呼吸をしてから、それを口にした。

 「『我ガ王軍、及ビ国軍ハアルビオン軍ノ謎ノ怪物ニヨリ壊滅状態ナリ。
  ラ・ロシェールノ防衛ヲ放棄、タルブ村マデ後退。至急増援ヲ送リ願イマス』との…こと」

 彼の言葉から出た伝令の内容に、騒然としつつあった会議室が一斉に静まり返った。



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