「ふんふん……こまけーことはさっぱり分かんねえが、とどのつまりは動く岩の塊なんだろ?」
人差し指を立てて得意げに馬鹿を露呈する発言をかますサークの後ろからは、既に戦闘態勢をとったゴーレムの巨大な腕が振り下ろされようとしていた。
うしろ、うしろと審判の"虹星の叡知(アルマゲスト)"学院生が指を指すのに気づき、サークが振り返ると既に頭上に迫り来る岩の塊。
「げぇっ」
そんな声が聞こえたかと思うと、ドカァァァンとまるで爆破工事でもしているのかという轟音が響き渡った。
審判の学生が「実験で死者を出すなんて」という恐怖から思わず目を逸らしたそこには、ぺしゃんこの死体はもちろん、地面に叩きつけられたはずのゴーレムの腕すらも存在しなかった。
恐る恐る目を開いた少年が見たのは、十字に重ねた双剣でゴーレムの……肩?を受け止めているサークと、床に転がる―元はゴーレムの腕だったと思われる―長い石の塊がひとつと、少々の石片。
振り下ろした腕を受け止めた衝撃でゴーレムの腕の方が折れたらしいということに少年が思い至ったのはそれからしばらくしてのことだった。
「いや、スタートの合図の後にぼやぼやしてた俺も悪いが、完全に背向けてたやつに殴りかかるたー容赦ねえな。正しいぜ」
サークは剣を払って距離を取りながら、気に入った、とばかりに笑う。
あんなものを受け止めてぴんぴんしている上に折れたのはゴーレムの腕の方だなんて、全く冗談のような存在である。
「えーと?コアは魔法かかってて、それは壊しちゃいかん、と」
つまりこれは抜いたらダメなんだな、と双剣を腰に収め、ぱん、と拳を掌で受け止めた。
「じゃあ素手で」
とんとん、とステップを踏み、ゴーレムとの距離を詰める。
ゴーレムは片腕が折れているというのに何の変わりなく腕を振らんとしている。
ブォン、と風切り音がして、ゴーレムの残った腕がサークのいた場所を水平に横切った。
腕が振り切られる前にサークは姿勢を低くして前方に飛び込んでいた。
サークの胸辺りの高さは、ちょうどゴーレムの脚、人間で言う膝上の辺りになる。
普段よりも重量がかかっているであろう、折れた腕と反対の方の脚にとりつくと、サークは大きく腕を引き、右拳を打ち込んだ。
ボゴォ!と岩がえぐられたような音がする。実際、そのようなものだった。
脚から拳を引き抜くと同時に、穴からビシビシと亀裂が走り、ズン、とその下が「ずれた」。
石柱のようなそれを蹴り飛ばすと、ゴーレムは傾き、そして轟音を立てて倒れた。
「しょ、勝者、サークリフ……」
「ありがとよ」
ゴーレムが倒れる衝撃で腰をついた学院生に手を貸しながら、サークは言う。
「あー、なーに貰おうかねぇ、……鍵かけるやつか?寝坊すっとおやっさんに殴り起こされんだよな……部屋の鍵はそもそもマスター握られてっから無意味だし。それだな!」
上機嫌で学院を去ったサークが、次の日悠々と好きなだけ寝坊してから部屋を出た後、いつもの倍の拳をくらったのは言うまでもない。
最終更新:2011年06月28日 17:15