「マッシグと飲みに行くのに奴を放し飼いにゃあできねー。で、タダで施錠のルーンをもらえるってんで来てはみたが、思ったよりこりゃ厄介だなー」
ミヒャエルは目の前に聳え立つゴーレムを見て苦笑を浮かべた。
問題はミヒャエルがケンカにはまったく不慣れと言うことである。
しかし、まぁ、これでもその場しのぎの逃道と対応策を探すことには少しばかり自信はある。
モノは考えようだ。
勝負をせねばなら無いからといってバカ正直に真っ向からガチンコ勝負を挑んで相手を倒す必要は無い。
負けないこと。
それが即ち勝利である。
国が威信をかけてやるドンパチ騒ぎではなくこれは試合だ。
何でもありのデスマッチではなく常識内でのルールと言うものが存在する。
ならばそこに立ち入る隙はある。
「ま、とりあえずやってみっか!」
言うが早いかミヒャエルは着ていた外套を外した。
そこから現れたのは大きくも美しき二枚の白き翼。
見た目は完全に白ムチの小太りしたオッサンだがこれでも彼は天使である。
「生まれてこの方このミヒャエル、乱暴事には縁が無ぇ」
言うが彼は空を飛んだ。
ゴーレムが腕を振り回し、彼を取れようとするが紙一重でそれを巧くかいくぐる。
「俺は戦人でも暗殺者でもねぇ。天使だ。俺に出来ることといえば縁を結ぶこと位」
ミヒャエルは素早い動作で印を結ぶ。
彼の両手が淡い光で包まれた。
そして、彼は唱える。
「ラブラブエッサイム!」
それは魔法の言葉。
己が技を起動させる合図。
「俺の技は縁結び。森羅万象なんでもかんでもお構い無しだ」
ゴーレムの小指が淡い光を放つ。
そして、その指先から淡い光る糸のようなものがスルスルと飛び出し、その先がミヒャエルの手に治まった。
「もっとも、 これで人を殺すことも倒すことは出来ねぇが…」
ミヒャエルはそのまま地面に着地。
素早く辺りを見回し、
「ちょっとした出会いのきっかけを作ることは出来る」
言うが近くを歩いていた一匹の子猫に結びつけた。
刹那、ゴーレムの心に何かが走った。
目の前の子猫を見つめる。
可愛い。
暖かなものが宿る。
それは今まで感じたことのない感覚だった。
何だこれは? この胸をくすぐる感覚は。
戸惑いが彼の心に宿る。
ゴーレムの動きが止まった。
じっと両者の視線が重なり合った。
子猫が「にゃあ」と可愛く鳴いた。
愛おしい。
その思いが彼の全身を支配した。
オズオズと子猫に手を伸ばし抱き上げるゴーレム。
その手の中で子猫は気持ち良さそうに目を細める。
すっかりくつろぐ子猫を手にゴーレムは動くに動けなくなってしまった。
ぶわさと外套を羽おり、ミヒャエルは続けた。
「とは言え俺が出来るのは出会いのきっかけを作ることのみ。その後芽生えた縁をどう育てるかは当人次第になる。縁結びと言うととかく色恋沙汰に考えがちだが、愛にしても縁にしても色んな形があるからねぇ」
そうして、彼はじゃれる猫に心なしか嬉しそうに触れ合うゴーレムを微笑ましく見つめた。
「願わくば結んだ縁が良きものになりますように」
最終更新:2011年06月28日 17:18