03「制服と招待状と私 前編」

※ フィロよりミケルのが圧倒的に書き易くてどうしようかと思った。しかし、普通の少年? 常識人……?(何か疑問になってきた模様)

※ 異性装表現が含まれますので苦手な方、不快に思う方は自己防衛してください。



アルコ・イリス クロニクル』  虹陰暦999年/4の月/第4巡り/藍の日

 "蜜月(ハニームーン)通りにて惨殺死体発見さる"

 昨日未明、"蜜月(ハニームーン)通り"を警邏中の自警団員によって、六名の首無し死体が発見されるという事件が起こった。
 事件が起きたのは"蜜月(ハニームーン)通り"外れにある廃屋で、近隣住民から、『空き家から異臭がする』との通報を受けて、自警団が現場に踏み込んだところ、室内は一面血の海。
 凄惨な現場にばらばらに倒れていた遺体はいずれも、鋭利な刃物か何かで頚部から上を綺麗に切断されていた。
 不可解なことに争ったような形跡はなく、変わった物音を聞いたという証言も取れていない。
 被害者は頭部が発見されていないことから照合が難航しているが、服装と遺留品、並びに近隣住民の証言から、現場となった廃屋を根城にしていた元冒険者集団"漆黒の牙"のメンバーであるという線が濃厚となっている。
 犯人の行方と並んで捜査は継続中であるとのこと。また、事件の連続化や模倣犯を警戒し、自警団では近隣住民に注意の呼びかけを行っている。


 ※ ※ ※


 物騒な事件が紙面を賑わすというのは余り良い気分がするものじゃない。
 そろそろブランチの時間に差しかかろうかという時刻、"柘榴石(ガーネット)通り"のカフェ『アチェッロ』。
 落ち着いた飴色煉瓦造りの佇まいに、夜になれば赤の"虹蛇の導き(ユルングライン)"が照らすこの通りらしい茜色の鱗屋根。チョコレート色に塗られた木製の家具が並ぶ店内は、こじんまりとしていながら狭すぎない寛ぎの空間だ。
 バイト上がりには時間に余裕のある限りここで一杯、珈琲や紅茶を楽しんでいくのが僕の最近の楽しみだった。
 お気に入りの隅っこ席で、カフェの名物"楓の樹液(メープルシロップ)"入りカフェオレのカップを傾けながら、貰ったばかりの真新しい朝刊に目を通し僕──ミケル・レノーはひっそり溜め息を吐いた。
 つい先程、本日分のバイトを終えてへろへろになりながら退社してきた『アルコ・イリス クロニクル』──発行している新聞と同名の新聞社──内の、いつも以上の喧騒と忙しなさを思い返せば溜め息がもうひとつ。

(今頃ティムさんたちは忙しく取材だなんだって走り回ってるんだろうなあ……)

 編集長の信頼厚く何時ものように仕事を託されている(こき使われている?)金髪の青年をはじめとする、記者の皆さんには聊かの同情を禁じえない。恐らく暫くは殆ど眠れない生活が続くだろう。
 少しでも事件性の強いできごとが起きると新聞社内というのは騒然となるのが常のこと。
 ただでさえ『アルコ・イリス クロニクル』は普段から様々な事件や案件を平行して追いかけ、取材していることから昼も夜もなく毎日が繁盛時という感じだが、何かしらの事件が起きれば尚更いそがしくなる。
 当然ながら記者の皆さんは取材で現場に駆り出されていく訳で、そうなると普段はお茶汲みとか資料写し等がメインの"雑用係(バイト)"の僕にも回るお鉢が増える。
 現場で働くティムさんたちに必要になるかもしれないという理由で、昼からこっち、膨大な数の資料が眠る社内の書庫にて僕は缶詰にならざるをえなかった。
 ここ数年で首無し死体事件と似たような案件を探し集め、状況や特徴なんかをリストアップする作業に延々終われ──漸くリストを挙げたときには、とうに太陽は昇りきっていた。つまりは貫徹でした。
 一応今日も学校があるんですけどね! 幸い、今日は選択している授業の休講が相次いでおり、夕刻から薬草学の授業があるくらいだったから、まだのんびりしていられるんだけども。
 徹夜とか割と良くある、そんな職場なので、先週なんか三人雇ったのに四人辞職、総合的にはあら不思議職員の数がマイナスになるという恐ろしい事態が起こったりもしていた。

(新しい人を雇うとか雇わないとかいってたけど、どうなるやら……)

 早々に辞めない頑丈で忍耐力のある人が良いな。人当たりがよければなおよし。美人さんならもっとよし。
 第一に体力が必要とされる新聞社というのもどうなんだろうと苦笑しつつ、新聞の残りの記事に目を通していく。

(……お。中央広場でアルゥさんが種を育て始めたんだ? 僕もその内お世話に行こうっと。こういうほのぼのした広告とか記事ばっかりなら心もあったかくなるのにな)

 『街妖精のおねがい』の話にほっこりしたり、"天空(スカイブルー)通り"でのゴミのポイ捨て問題に腹を立てたり。
 記事にいちいち一喜一憂するのは僕が割りと感情移入しやすいって言うのもあるけど、何よりティムさんたちや編集長の書く文章に人のこころを動かす力があるからだと僕は思う。
 色々大変な職場ではあるけれど、こうしてタダで新聞を分けて貰えるし何かと退屈しない『アルコ・イリス クロニクル』でのバイトを、なかなかどうして僕は気に入っていた。

 最後の一面まで読み切って満足した所で新聞を丁寧に畳み、鞄に仕舞う。後々家で記事をスクラップするのも僕の趣味のひとつだ。
 カップもすっかり空になっていたので、このまま席を立つことにする。

「今日もおいしかったです。ご馳走様でしたー!」

「おうよ、ミケくん。またきてくれよな!」

 テーブルの上に代金の硬貨を置いて僕が挨拶すると、カフェの店主である快活な三十路の人間男性──ジェラルドさんが笑って見送ってくれた。
 調理場から偶々顔を見せていた、東の国の装束を纏った物静かな鬼族(オウガ)の女性カエデさんも、僕の言葉を聴いていたらしく、ほんのりとはにかむように微笑んでいた。
 二人は今でこそご近所からも祝福される仲の良い夫婦だが、ここに来る前は道ならぬ恋を周りのものに反対され引き裂かれそうになって。それに逆らい、手に手を取っての逃避行の果て、この街に流れ着いて漸く幸せになれたのだと以前に聞いた。
 人間と異種族のカップルがそう少なくない頻度で見かけられるのも、自由の街アルコ・イリスならではの光景だ。

 店内唯一の客だった僕が出て行けば、店内はいそがしくなる昼を前にしたほんの僅かな休息時間になる。
 寄り添って視線を交わしていたジェラルドさんとカエデさんの姿に、僕はさっきとは少し意味の違う意味で、ちいさく「ごちそうさまでした」と呟いた。
 馬に蹴られないうちに邪魔者はさっさと出て行くことにしよう。既にあまーい空気にあてられそうになってるしね!
 でも、そんな二人の仲むつまじい姿は羨ましくはあれど、僕はそんなに嫌いじゃなかったりする。


 赤いメイプルリーフをあしらった看板のかかった入り口を抜け、アルコ・イリスのおおよそ何処からでもその姿を見ることの出来る中央塔目指して、僕は"柘榴石通り"を歩き出した。
 一旦、下宿の方に寄って仮眠をとってもいいんだけど、お恥ずかしながら僕は寝汚い性質をしているので──徹夜明けの仮眠はそのまま本寝になってしまう可能性を否定できなかった。
 薬草学のジナイーダ女史は、"鬼のジーナ"と生徒から呼ばれている。別にカエデさんのような鬼族(オウガ)という訳じゃない。出席の異常な厳しさからついたあだ名だ。
 三回の遅刻で一欠席と同じ扱い。そして医者の診断書を伴わない三欠席は、そのままその年の薬草学の単位未修得を意味する。何人の生徒が泣きを見たことか。
 とはいえ、出席の厳しさを差し引けばジナイーダ導師の授業はわかりやすく丁寧だと評判で、もうひとりの薬草学講師デミトリィ導師が徹底的な放任主義であることもあって、授業自体の人気は悪くない。
 正直専門的過ぎる上に突拍子もなく危険な課題を出すこともあるデミトリィ導師の授業についていける気がしなかった僕は、ジナイーダ女史の授業を選考している。おかげさまである程度薬草の見分けはつくようになったし
、簡単な傷薬や消毒薬位なら作れるようになった。今日は確か"鎮痛剤作成の実技"だった筈。実用的なので出席が厳しいから云々を抜きにしても落としたくない。
 クラブ棟でサークル室に顔を出すか、あるいは図書館で新刊でも読むか──今のところ締め切りが近い課題もなかったので、のんびり暇つぶしの方法を考えているうちに、僕は学院に辿り着いていた。

 時間的に今はまだ授業中だから、学院の廊下をうろついている生徒は少ない。
 悩みながら結局、図書館のほうに足を向けていた。図書館といえば以前そこで"実践派"の学徒に絡まれたことから始まった、数奇な出会いを思い出す。
 忘れようにも忘れられない、お人よしな魔物さんたちと彼らに「若様」と呼ばれていた虹色の眼をした風変わりな少年──フィロさん。
 なんだかんだで僕はまだ『特区』に再訪問できずにいる。行ったら迷惑になるんじゃないかと──好奇心で彼らの家を荒らすことになるんじゃないかと。そう思ってしまえば、どうしたって勇気が出ない。
 元気にしていると良いんだけど、それだけは本当に心から思いながら、図書館に続く渡り廊下を歩いていると見慣れない女生徒が中庭にいるのを見かけて足を止めた。

 遠目でもハッとする程全体が整って見える、短い黒髪とミルク色の肌も艶やかな、お人形さんみたいな女の子だ。
 近づいて見ないと正確な評価は出しがたいけど、ミケルの校内美少女ランキング──評価の甲乙はつけがたいので別段正確に順位が着いてるわけじゃない──にニューフェイスが仲間入りかもしれない。
 え? 随分ミーハーじゃないかって? 綺麗なものがすきなのは普通のことですよ! 美人さんってのは男女問わず目の保養になる素晴らしい存在だ。図鑑で見る素敵な魔物さんたちと同じくらい大好きだ。外見と中身が伴えばもっと良い──って、僕は一体誰に話しかけてるんだ。

 コホン。逸れかけた意識を黒い髪の女の子の方に戻す。やっぱり知らない子だ。
 僕は案外物覚えがいい方で、特に一回見かけたひとの顔は割と忘れなかったりするのだけれど、何処でも見かけた覚えのない生徒さんだな。こんな目立ちそうな子なら忘れそうもないんだけど。
 なんか妙にきょろきょろしてるし、学院にも慣れていない様子──ああ、転入生だろうか? 
 何しろこの学院は夢を抱いて入ってくる人も挫折して辞めていく人も同じくらい多い。先月は張り切って学校に通っていた人が、今はもう見かけないとかザラだ。
 この最高学府を、志を違えず"順当な繰り上がり(ストレート)"で卒業していく者は余り多くないのが現状である。

 そうか、転校生なら見たことないのも仕方ない。ハルトマン導師のクラスに新しく入ってきた──銀糸の髪と紫の瞳が神秘的で見目麗しい、少女吸血鬼のソルティレージュさんといい、今期は当たりが多いみたいだ。
 ここはすれ違うフリをしてお顔を拝見しておこう。別に何もしないよ、妄想もしないよ、ただ見るだけだよ!
 僕自身はあんまりイケてない田舎者だけど審美眼にはそれなりに自信がある。アルコ・イリスに出てきてよかったことのひとつは、この街の一部の顔面偏差値の高さですよ! 
 じいちゃん、ばあちゃん、ミケルは毎日目がとっても幸せです。……好みの異種族を見かけやすいっていうのもあるかもしれないけど。

 渡り廊下を離れて、あくまでも自然に、ゆったりと。女生徒さんとの距離を縮めていく。
 彼女の姿かたち、その仔細が分かってくると──自然、溜め息が、零れた。

 裾から覗く黒のニーソックスと同色のローファーに包まれた細い脚が、のびやかできれい。
 身に纏うのは七芒星があしらわれたシンプルな制服と黒ケープ──ゆったりと禁欲的で学術の徒が纏うには相応しいけれど洒落っ気は皆無。
 でも、服っていうのは着る人次第で違う顔を見せるものだと僕は知っている。黒は本来人を引き締めて見せる色だ。
 制服はけして野暮ったくなく、彼女の小柄で無駄な肉のない、すらりと華奢な肢体を強調していた。
 細い首、その上の左半分が長い前髪で覆われているのが惜しく思える、ユニセックスな雰囲気の、整ったかんばせはさながら白花の如し。
 鼻梁は雪嶺。唇は薔薇の蕾。髪と同じ色の黒い睫毛が密に飾る目は、南洋の碧海を結晶したような、鮮やかなネオンブルー。
 焦燥に駆られているような硬い表情でなければもっと、ずっと、可愛らしいだろうに。

 でも、造作は本当にパーフェクトだ。あえて欠点を挙げるなら胸が殆ど無いってことだけれど、僕はオッパイは必ずしも巨乳でなくても構わない派のひとなのでぜんぜんオッケーです。貧乳は寧ろステータス!
 しかし、ここまで繁々と少女の容姿を確かめて──何故だか僕は不思議な感覚に囚われた。

 ──あれ。なんだろう、この違和感。例えていうなら知っている景色が違う色に塗られている、ような。
 僕は、彼女を何処かで見たことがある? それも、今とは違う、格好をしている時に?
 歩きながら思考を巡らせていたから、僕は彼女が僕を見て目を丸くしているのに気づくのが遅れた。

 何故だか、その、少し驚いたような顔に。
 ふと──脳裏を過ぎり重なったのは、稀有できれいな七彩の瞳。
 無意識に浮かんだ名前はひとつだった。

「あ──フィ、」

 フィロさん、と。続けようとした言葉は最後まで音にならなかった。
 次の瞬間、僕の身体は──今まさにすれ違おうとしていた女生徒の手によって近くの樹の陰に掻っ攫われ、押さえ込まれてしまったからだ。その衝撃で何もかも一瞬吹っ飛んだ。

 何これドッキリ企画!?
 女生徒の細い腕は僕の顎下と頭にがっちりと回り、逃がさぬようにと凄まじい力で拘束して離してくれない。
 あの細身の何処からさっきの瞬発力と現状の万力のような力が出てくるんだ?
 僕の後頭部にかかるのは彼女の静かな息遣い。背中に感じるやわらかい体温。間近から仄かに清涼感のある甘い良い匂いがして、状況が状況ならドキッとしてもおかしくないけど、残念ながら僕が感じたのは、甘酸っぱくも幸せなときめきではなく命の危機かもしれない状況に対する慄き以外の何者でもなかった。胸の鼓動が高鳴るのは、驚きと恐怖からである。ドキッていうかビクッって感じ?

 いや、この街には見た目で判断できないひとたちのほうが圧倒的に多いですけどね!? 
 先刻、大当たりの美人転入生として思い出したソルティレージュさんだって、種の力が弱まりつつあるとはいえ、吸血鬼は吸血鬼。現状実は魔法よりガチ物理戦闘のほうが得意なインファイターらしいと聞いている。本人の言によると鼻歌交じりに鉄骨を曲げられるらしい。それも二本の指だけで。
 ……。……今の僕に出来ることは、この綺麗だけど何を考えているのか全く分からない女子が、ソルティレージュさんクラスの筋力を持っていないことを祈るばかりだ。じいちゃんばあちゃん、この子おっかないよぅ。 

「すすすすすすみません別にへんなことは考えてません地味顔が分不相応にも人様の容貌の評価なんてこっそりしていてごめんなさいごめんなさい潰さないで千切らないでころさないでー!」

 殆どノンブレスで命乞いをすると、ふと呼気に小さく苦笑めいたものが混ざる。わら……ってる?
 振り返って確かめたいけど、生憎固められたままの頭は動いてくれない。そこで女生徒が耳元に囁きかけてきた。

「……静かに、してはもらえぬだろうか。咄嗟の無作法を許せ。騒がれる訳にいかなかっただけで……別に、取って食おう等とは考えておらぬ」

 ……あれ? この声──この言葉遣いは。知っている。聞いたことがある。
 頭の中でさっき見かけた彼女の姿と、もうひとり別の場所で出会ったひとを重ねてみる。

 あ。

 嘘……嘘うそウソー!?

 も、もしかして、もしかしてえええええええ!?

「……久しいな、ミケル。まさかこのような再会を果たすとは思っても見なかったが」

 それは僕もとっても同意見です。なんで、どうして? 
 どうして──『彼』がこんな所に居るんだ!? しかも"魔術学院(うち)"の女生徒の格好で!

 ──さっき、ちらっと頭を過ぎったことは、どうやら勘違いではなかったと理解したが、却って訳がわからなくなった。。

「やっぱりフィロさん!? ええっ、ええーっ!? どうして"地上(ここ)"に、っていうか、それ以前になんでまた、そんな格好……!?」

 そう。いきなり僕をひっ捕まえた掛け値なしの"美少女"の容貌は、髪の分け目が逆であることと瞳の色や形を除けば知っている顔──以前『特区』で会って以来忘れられなかったフィロさんそのものだったのだ。というか、本人だ。
 服装が余りにも僕の知っているそれとかけ離れていたから中々印象が合致しなかっただけで。
 ……まあ、普通は『特区』で暮らしている筈の男性が中央塔の魔術学院で、女の子の格好して立ってるなんて思わないよね。

「声が大きい! ──訳あって、この学び舎を訪う必要があってな、この格好はその、乳母の用意した服装がこれのみだった故潜入の為仕方なく」

 どんなに小難しい言葉で取り繕って格好つけても女装は女装ですよね、とは言いたくても言えなかった。
 わたわたと驚いて大声をあげた僕に、回されたままの腕に篭る力がきゅっと強くなって、痛みで物理的に黙らざるをえなかったからだ。

 でも、僕が取り乱しても仕方ないと思いますよ、フィロさん!
 その格好は似合いすぎてて怖いくらいだけど。もしかしてそういう趣味なんだろうか? ──という失礼かもしれない思考もチラリと過ぎる。
 いや、ひとの性癖には寛容でありたいけれど、衝撃的であることには違いない。
 ……あれ? 待てよ? 初見の格好とかから少年だって決め付けていたけど、僕は別にフィロさんの裸体を見て確かめたわけじゃない。もしかして、男子だって思っていた僕の考えがそもそも間違いなのか?
 いやいや、そんなまさか……ああ、もう! 頭の中がごちゃごちゃだ。

「兎に角、これは趣味でもなんでもない。仕方なく、だ! ……余り目立たずにことを済ませたい。協力しては貰えないだろうか?」

 たっぷりと不本意であることを強調した後、フィロさんは真剣な声で僕に頼み込んできた。一体何があったんだろうか?
 いや、まあ、こんなことになった彼の事情も気にはなったけれど、それ以上に──

「え、ええ。事情にもよりますけど……僕でよければ、手伝い、ます。だから、その前に、」

 とりあえず、この状態から開放してクダサイ。

 僕はフィロさんにがっちりヘッドロックをかけられたままだった。──そろそろ息苦しさと頭痛で目眩がしてきた。
 引き攣った笑顔で解放を願った僕に、フィロさんは「す、すまぬ!」とものすごく申し訳なさそうにして、漸く腕の力を緩めてくれた。

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最終更新:2011年07月06日 22:50
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