報告書

発  駐エフタル大使 セバスティアーノ・ガッリーポリ
宛  アルコ=イリス“虹星の叡知” 外事担当委員会


規定により、定期報告を発送します。

エフタル大汗ドラヴグル3世は、予定通り冬の巡回徴貢を終え、ウルガ夏宮へと帰都しました。
御存知の通り、エフタル大汗は冬の間、封土の各藩王都を周って税を取り立てながら、宮廷ごと寄食生活をします。
大汗一行は4ヶ月の巡回徴貢で、目標換算額の8割強を受領したようです。
これは所定の税額を余さず取り立てていた例年に対し、異例の事態と言えます。

主な要因としては、アダーカー荒原を領するエイヴォン候が税の減額を訴えたことにあります。
アダーカー一帯は夏の天候不順により昨秋の取れ高が少なく、また先の戦役で労働人口も減少していることから、エイヴォン候は大汗ドラヴグルとの協議を経て、やむなく娘をウルガの後宮に差し出すことを条件に、税と兵役の軽減を認められたとのことです。
また周辺の中小領もこれに同調し、同様の軽減措置を受けたものと思われます。
詳報は、現地の諜報員から直接の報告を発送させますので、その到着をお待ちください。

ドラヴグル3世の健康状態についてですが、悪化の一途を辿っています。
巡回徴貢を終えて更に肥り、遂に乗馬も困難となって、輿での入城となりました。
後宮には常に大汗のための食事が用意されており、それを昼夜を問わず気の向くままに摂っています。また酒量も一昨年に比べて落ちたものの、常人の許容量を越えています。
食事内容の詳細は、別便にて発送しておりますので、医師による分析をお願いします。

宮廷内において水面下では、ドラヴグル3世の後継者に関する問題が取り沙汰されています。
以前から最有力候補と見られていた第一王子のステンダール汗に対し、近年新たに存在感を増してきたのが、第二王子のサングイン汗です。
前回と今回の巡回徴貢の際、ウルガ夏宮の留守を任せられたのが、サングイン汗でした。
しかしいずれの冬も、サングイン汗は父親譲りの放蕩生活を送り、エフタル汗国の財政に悪影響を残しています。
ステンダール汗は弟に、放蕩を慎むよう諫言を繰り返しましたが、サングイン汗はそれを聞き入れず、
またドラヴグル三世もサングイン汗の豪放さを賞賛し、かえってステンダール汗を叱責しました。
ステンダール汗と、その実妹であり正妃のディベラ王女は、宮廷内で急速に影響力を失いつつあります。
また第三王子のジュリアノス汗はまだ成人前ですが、母親が現在のドラヴグル3世の寵姫・ヴァーミルナ妃であることは、見過ごせない要素です。
この問題について、現在アルコ=イリスは見解を表明せず、中立の立場を保っています。
私見ですが、いずれかの勢力に荷担する場合、あるいはエフタル汗国要人を瑠璃通りに迎える場合は、そのための活動を開始する時期だと思われます。
今夏の大使交代による帰国の際、委員会で詳細な情勢分析を報告します。

経済状況ですが、ドラヴグル3世一行の帰都により、全般的に物価が上昇しています。
主要品目のうちほぼ全てで、1ヶ月前に比べ1割強から2割弱の高値となっています。
概ね想定範囲内の相場変動ですが、いくつかの品目に予想を越える高値が付いています。
ほぼ例年通りの物価変動のため、ウルガ周辺の庶民生活には、改めて特に影響はありません。
しかし王宮の慢性的な財政難に伴う、常態化した臨時税の徴収から逃れるため、庶民の間では地下経済の発達が著しい状況です。
闇市の開催や密輸出入、地下銀行の運営など、何らかのギルドの存在が有力ですが、詳細は判明していません。

巡回徴募に同行した廷臣のうち、騎兵隊長のコドラク将軍が、ウルガ夏宮に帰都していません。
コドラク将軍は41歳、解放奴隷の子で、10代の頃からエフタル軍に出仕しています。
エフタル軍の将軍序列では第5位、騎兵隊長としては第2位で、2000人の軽騎兵隊を直属の麾下としています。
出奔の情報や、それに繋がる噂などはなく、未帰還の理由は不明です。廷臣に聞き込みを図りましたが、妙に口が重く、大した情報は得られませんでした。
将軍本人以外にも、配下の百人隊長も大半が帰都していません。
先述した大幅な物価上昇ですが、大麦(※編注 大麦は馬の飼料)と革製品で、3割を越える高値となっております。
以上の情報から、エフタル軍は巡回徴貢の途中で、コドラク将軍指揮による騎兵隊を何処かに埋伏した疑いが濃厚です。
アダーカー荒原周辺の藩王国か、エイヴォン候領近辺にあたりをつけて諜報員を派遣し、現在報告を待っています。
物価は更に上昇する情勢であるため、この商機を逃さず、交易委員会諸兄の速やかな行動を願います。

また、ドラヴグル3世との会食の席で、ワローニアの陶磁器について話題が出ました。
夏の新大使赴任に伴う貢ぎ物に、イゼール緑磁の大花壺を加えるよう、よろしく手配願います。

定期報告は以上です。
次回の報告文書は、フーガB式で暗号化します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


アルコ・イリス“虹星の叡知”
芸術振興部 第4資料室 御担当者様

お求めに従い、エフタルの宮廷音楽を楽譜に書き起こしました。
なにぶん商人の手慰みにて、お見苦しい点があればご容赦ください。
ご参考になれば幸いです。

虹下商会 ウルガ支店  リーゼル・ガードナー




(※編注 この文書は最終部を除き、9弦リュート用楽譜に記入・暗号化されています。編者が平文化ののち、現代語訳しました)
最終更新:2012年02月28日 18:54
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。