アルコ・イリス クロニクル『最悪の休暇』

※今回は前回にも増して短編です。他の作者の人のペースが早いもんで。
※今回、台詞が極端に少ないのは仕様です。

ふぅ、と溜息をついて久し振りの休暇を寝て過ごすべきか、散歩にでも行くかを悩んで半日が過ぎようとしている。この休暇も1日だけ、かれこれ1ヶ月は、やれ潜入だ、やれ囮だ、やれ同行だと安月給の割りに働きづめときた。
私は普通の人間ではない。いやいや、その労働に耐えていることがではない。
チェンジリングという種族であり、生まれ持っての変身能力を兼ね備えている。
そして、その正体を知れば大抵の人間は気味悪がり、少なくとも信用されず、残りの少数からは稀有な目で見られる。そんな中でも、極僅かの人間には知られている。それが編集長のガドフリー・ダンヒル、私からすれば人使いの荒い上司だが、優秀な人間。
彼は少しおかしな人間で、私の正体を明かした時も「へぇ、便利そうだね。」と軽く受け流されたし、私が潜入調査をする時にも何処からか軍隊の制服を調達してきたり、偽造身分証を作ってたりと準備が良すぎるってもんじゃない。
というか、れっきとした犯罪ではあるまいか。

仕事内容も私の変身能力を充分活かせる仕事だと言っては、チェリウス商会の顧問弁護士となり、長期の潜入取材をしたこともあったし、宗教法人“沈黙の輪”の信者に成りすましたこともあれば、アルコ・イリスの闘技場の不正を暴くために運営委員会にまで潜入した。

さぁ、ここまで独白という名の愚痴を言っているように聞こえたでしょうか?

いいえ、私は満足しているのです。私の種族は数こそ少ないけれど、太古から歴史の影に生き、それこそ暗殺を任務としていた者もいる。
それと比べれば、この街の真実を解き明かす使命だと、そのための仕事だと思えば辛くはないのです。
ただ、どこかで咎を受けるのではないかと、怯えているのも事実。
おかしな話でしょう?常に姿を偽っている私が真実を求めるとは、実に矛盾していると思います。



ん?私はここまでの話の中で、ふと何か引っかかるものを感じ、『アルコ・イリス クロニクル』に向かうことにした。
「おや、ティム。今日は非番だったろう?」と同僚が声をかけても耳に上手く入ってきません。
急いで資料室に向かい、まだ整理されたばかりの新しいファイルを開いた。
【“柘榴石(ガーネット)通り”婦女連続殺人事件】
その資料の中から被害者のデータを引き出して見比べてみました。
被害者は3人。
ルビー・ベットフォード(23)…チェリウス商会受付
クローディア・トーマス(18)…宗教法人“沈黙の輪”信者
メイ・シャリフ(38)…アルコ・イリス闘技場運営委員会役員

はたして偶然だろうか。
立て続けに様々な取材を行って一つ一つの記憶は曖昧になって見落としてしまったのか。
それにしても奇妙であり、複雑な気分で、この日の休暇は終わってしまった。

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最終更新:2011年06月23日 09:56
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