『
アルコ・イリス クロニクル』 虹陰暦999年/5の月/第1巡り/青の日
チェリウス商会の若き会長、コロナ・チェリウスが出頭!
“特区”進入指示の罪は軽い罪ではないが、コロナ・チェリウスは良心の呵責に耐えかねての出頭であるとされている。
大商会であるチェリウス商会にとって、今後の経営にも関わるスキャンダルであるが、会長がいない今も通常通りの開業をしている。
関係者の一人は「会長は若くして才能に溢れる人で、従業員やお客様のためを思う優しい人物」と評している。
また、コロナ・チェリウスは会長職は辞任するというが、顧客のニーズに応えようとしたコロナ・チェリウスを判断するのは消費者である。
出来上がったばかりの新聞を手に取り、カフェ『アチェッロ』の"楓の樹液(メープルシロップ)"入りカフェオレを待つ
ティムとミケル。
「ミケルは新聞社の仕事に慣れたかい?」
「ええ、少しずつですけど、資料整理とか楽しくやってます。」
「そうか、君も変わっているね。1週間も経たずに辞めていく人もいれば、残るのは変わり者ばかりさ。」
「じゃぁ、ティムさんも?」
といって屈託のない笑顔をミケルは見せた。
"楓の樹液(メープルシロップ)"入りカフェオレがテーブルにつくと、ミケルは何気なく質問をした。
「ティムさんは、何でこんなスゴイ記事が書けるんですか?この記事もどの新聞社よりも早く記事になってましたし、何か秘密でもあるんじゃないですか?」
「教えて欲しいかい?」
「はい!」
「んー、ダメだね。そうやって他人の秘密が簡単に手に入ると思っている人には教えられない。だって、考えてみて、それって他人の秘密の価値がすごく低いってことじゃないか?
そういう自分の価値で接しているってことが相手に伝わってしまうと問題だ。違うかい?ミケル。」
「え、そうですね、確かに他の人がどういう思いかってのは考えるべきですよね、すみません。」
「いや、ミケルはとても心優しい純粋な人間だってことは知っている。だから気をつけた方が良いよ……人間は誰でも秘密を持っているから、それを守ろうと攻撃する。
そして、誰かの秘密を手に入れたとすると厄介なことになる。だいたいの悪事や小さな揉め事とかも、こういう心理から成り立っている。心当たりはないかい?」
「あ、あります。学院に入って間もない頃、今も間もないですけど、“実践派”の生徒と揉めてしまって大事なお守りを取られたので、返してもらおうと抗議したんです。
そうしたら、“特区”に行って来たら返してやるって言ったんですよ。だから“特区”に行って……あ!」
と慌てて口を噤んだが、もう遅い。
ティムはミケルの頭をグシャグシャに掻き回し、
「それは聞かなかったことにしておきます…これ以上、新聞社が忙しくなるのも勘弁して欲しいので。」
ミケルは顔を赤くしながら、涙目になっていた。
「わかりましたか?取材の基本は相手に同調し、相手に仲間だと意識させることです。まぁ、嫌な奴と思われるので友達を作るなら別のやり方を選ぶべきです。」
―――そうして、ミケルは感銘を受けたのか、根掘り葉掘りと取材の極意を教えてくれとせがんできた。
最終更新:2011年06月23日 09:57