36話 朱が滲む朝
サバトラ猫獣人の女性、
上神田ためはリゾート街にある飲食店にて放送を聞いた。
テーブルの上に広げられた地図と名簿。
地図には禁止エリアが記され、名簿には27人の名前に線が引かれている。
「結構死んでるのね……」
自分以外にも、殺し合いに乗っている人はそれなりにいるらしい。
だからどう、と言う事では無かったが、
殺し合いをする気になっているのは自分だけでは無いと言う事実にためは何となく安心する。
そしてためは現在の自分の装備を確認する。
木槌、塩水入り500ミリリットルペットボトル二つ、剃刀、自転車のチェーン。
はっきり言って、心許無い。もっと良い武器が欲しいとためは考える。
そう言えばここは飲食店、ならば包丁ぐらいはあるだろうと、ためは厨房へと向かう。
予想通り包丁が幾つか棚に収納されていたので、三徳包丁を一本拝借する。
そして、掃除用具入れの中のデッキブラシを取り、柄を外してそれを手に入れ、適当に見繕ったガムテープで、
柄の先に包丁を括りつける。
これで即席の槍の完成だ。
「ま、木槌よりは良いでしょ」
装備を木槌から手製の槍に替えるため。
その後、デイパックから食料と水を出し適当に頬張り朝食を済ませる。
「さて……と、行こうかな」
槍とデイパックを持ってためは飲食店の出口へ歩き出す。
◆◆◆
丹羽三矢は犬との行為ですっかり汚れた身体を、
シャワーで洗い清めていた。
「やり過ぎた……あそこが痛い……うわぁ、荒津さんのが一杯出てくる……」
その部分からは妖犬、
荒津文護の欲望の汁が止めど無く溢れ、
床に落ちては湯と一緒に排水口へ吸い込まれていく。
そしてその部分は何度もいきり立つ肉の槍を根元の瘤まで出し入れされたものの然程形は崩れていない、が、
鈍痛はあり三矢を悩ませる。
何しろ深夜から放送直前まで三矢と文護はホテルにて行為を行っていたのだから無理は無い。
最初は嫌嫌だった三矢も次第に快楽に溺れて行き遂には自分から文護に求めるようになっていった。
「やっと全部出たかな? ふぅ……もうちょっと洗って、出よう……」
白濁した液が全てそこから出た事を確認すると三矢は再び身体を洗い始める。
妖犬・荒津文護はベッドで三矢が風呂から上がるのを待っていた。
深夜に同行者・
中元寿昭が三矢を強姦しようとした時、
文護は寿昭を殺害し三矢を助けた――――純粋な気持ちなどでは無く三矢を独占するためにだ。
それから放送直前まで彼は三矢の身体を味わい三矢も最初は嫌がっていたものの次第に自分から求めるようになっていった。
ちなみに現在いる部屋は寿昭を殺害した時、つまり彼の死体がある客室とは別の客室である。
しばらく行為をした後、血臭がいささか我慢出来る程度を超えてきたので部屋を移動したのだ。
「ふぅ……」
「おっ、三矢、出たか。綺麗になったねー良いニオイ」
「誰が汚したと思ってるんですか……」
「まあまあ三矢だって楽しんでただろ?」
「うっ……」
「最終的にはお互いの同意の下になったんだから和姦で良いよな?」
「……否定、しませんけど」
「むすくれた顔もカワイイ~」
「ああもう、行きますよ!」
怒った声で三矢が叫ぶ。
文護はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら自分の荷物を持った。
放送を聞いた後二人は取り敢えずホテルから移動する事を決めていた。
そして誰か殺し合いに乗っていない参加者と出会ったら仲間にするかして貰うつもりだった。
ホテルのエントランスから、二人は外に出る。
二人及び中元寿昭のスタート地点はホテル内だったので、二人にとってはこの殺し合いにおいて初めての外の空気と言う事になる。
「なんか外の空気がすっごい美味しいです」
「俺も。ずっと部屋の中にいたせいだろうな……」
「取り敢えずどこ行きましょうか……」
「トンネルあるらしいからそこ潜って東の方へ行ってみるか?」
「そうしますか……」
二人はトンネルを目指し始める。
そして、三矢が刺された。
そう、刺された。
「えっ」
傍にいた文護が驚いた声をあげる。
三矢の腹に槍のような物の穂先がめり込んでいた。
三矢本人はと言うと、驚きの表情を浮かべており何が起きたのか分かっていないと言う風である。
しかしやがて自分に何が起きたのか理解しその瞬間痛みもやってきたらしく、
「……あ? あ゛っ、ああぁあああああ゛ッ!? 熱ッ、熱――――!!?」
悲鳴をあげ始めた。
槍らしい物を持ったサバトラ猫の女性はそれを三矢の腹から引き抜く。
傷口から真っ赤な液体が溢れ三矢の腹は瞬く間に赤く染められる。
文護は突然の出来事だったためか呆然と目の前の出来事を眺めていた。
「あっ……あぁ!? うあ!?」
正気に戻った時には、サバトラ猫女性の槍の穂先が目の前に迫っていた。
それはどうやら木の棒の先に包丁を括りつけた物らしい事が分かった、と、同時に、文護の左目の視界は真紅になる。
「ギャ、ヒ? イ、ガアアアァアァアアァアァアアアアアアア!!?」
今度は文護の悲鳴が響き渡った。
左目の灼熱のような激痛に妖犬はのたうち回る。
血痕がアスファルトの上に飛び散り赤い斑点模様を形作った。
サバトラ猫女性――上神田ためは妖犬の胸目掛け槍を突き刺そうと振りかぶる。
しかし。
「ううぅうウウウウウアアアアアァアア!!!」
「!?」
ための身体が大きく後ろへ吹き飛ばされる。
文護が苦し紛れに体当たりを仕掛けたのだ。
背中を強か打ち付けるためは呼吸困難に陥り咳き込む。
「ウガァアアアァア、ああぁぁああああ!!」
言葉にならない叫び声をあげ、残った右目を血走らせ大粒の涙を流し口から泡まで吹いている文護だったが、
それでも倒れている三矢を背中に無理矢理乗せ、無我夢中で走った。
呼吸を整えたためが立ち上がった時にはもう二人はその場からいなくなっていた。
「げほっ……逃げられたか……まあ良いか」
ための視線の先には、少女が落とした古いライフルとデイパックがあった。
デイパックの中を見るとライフルの物であろう予備の弾も入っている。
「ワーオ、良いねぇ」
強力な武器が手に入れられた事にためは喜んだ。
【朝/D-2/ホテル周辺】
【上神田ため】
[状態]腹部と背中にダメージ(小)
[装備]十八年式村田銃(1/1)
[持物]基本支給品一式(食料少量消費)、塩水入り500ミリリットルペットボトル(2)、
剃刀、自転車のチェーン、即席の槍、11.15mm×60R弾(10)
[思考]1:優勝を目指す。
2:強そうな奴とは戦わない。
3:強力な武器が手に入って良かった。
[備考]※荒津文護と丹羽三矢の容姿のみ記憶しました。三矢の死は確認していません。
◆◆◆
トンネルの西側入口の前。
「ゼェ、ゼェ、ゼェ……」
背中にぐったりとした少女を乗せた妖犬が息を切らしよろよろと歩く。
そしてついに限界が来たのかばたりと倒れてしまう。
その拍子に背中の少女も地面に落ちた。
「三矢……!? おい……三矢!」
左目の激痛に耐えながら、文護は三矢に声を掛ける。
この時文護は自分が失禁及び脱糞までしている事に気付いたが今はそれどころでは無かった。
「あ、らつ、さ……痛い、いたい、いたいよ……!」
「……!」
ここで改めて文護は、三矢の傷の深刻さに気付く。
彼女の腹はどす黒いと形容出来る程の血糊でべっとりと染まり、
傷口から溢れる血は止まる様子は無かった。
素人目にも、三矢が非常に危険な状態であると言う事は分かった。
だが分かった所で、文護には有効な手立ては何も思い付かない。
「荒津、さ……目、が」
「だ、大丈夫、大丈夫!」
血を吐き苦しみながらも、三矢もまた文護が左目を失っている事に気付く。
全く大丈夫では無かったが三矢を心配させまいと気丈に振舞う。
「う、あ……いたい、寒い、寒いよ……荒津さんた……すけて……こわい……」
「三矢! ……クソッ、ど、どうすりゃ良いんだよ……!」
止血をするための適当な道具も何も無い。
リゾート街に戻って何か探すと言う事も考えたがどう見てもそんな時間は無い。
何とかしてやりたかった文護だったが、何も出来ぬまま時だけが過ぎる。
どんどん三矢の命の炎はその勢いを弱めていく。
「こわい、怖い……! いやぁ……死にたくないよ……!」
「……ッ……」
涙を流し必死に文護に縋り付く三矢。
それを見て文護は自分の無力さを呪い、嘆いた。
散々欲望のままに犯しておいて、いざと言う時に救う事が出来無い。
この少女は、突然、訳の分からぬままに殺し合いに巻き込まれ、
獣に純潔を奪われた挙句、見知らぬ土地で死に絶えようとしている。
不幸と言う言葉だけでは片付けられない。
今更、今更だが、自分は最低の屑だと、文護は自分を責めた。
「やだ……こわ……い……よ……おかあ……さん……おと……さん……あらつ……さ………………」
その声はどんどん小さくなっていき、やがて、何も聞こえなくなった。
「……三矢……畜生……ごめんな……ごめん……」
温もりが失われていく少女に、隻眼となった妖犬はただただ謝り続けた。
【丹羽三矢 死亡】
【残り36人】
【朝/C-3/トンネル西口前】
【荒津文護】
[状態]左目失明、深い悲しみと後悔、精神的ショック(大)、失禁及び脱糞
[装備]無し
[持物]基本支給品一式、新聞エロ記事スクラップノート
[思考]1:三矢……。
2:これからどうしようか……。
[備考]※上神田ための容姿のみを記憶しました。
最終更新:2014年01月12日 23:41