46話 潤う頃枯れた一時の楽園
「あれは……」
サバトラ猫獣人女性、
上神田ためはリゾート街を歩いている途中、遠方に人影を発見する。
三人の参加者。全裸の白狐獣人の女性、白竜人の少年、大柄そうに見える人間男性。
向こうは自分には気付いていないようだ。
「これを試してみようか……」
先刻、自分が襲った少女が落とした古い単発式の軍用小銃。
ためは小銃――十八年式村田銃を構え、前方に見える三人の内一人に狙いを定める。
但し、ためは銃に関しては全くの素人であり、本人もそれは自覚しており、
正直当てられるとは思っていなかった。
入手した村田銃がどのような物か試す意味合いが強く、ついでに当たれば幸運と言った感じである。
「……」
素人なりに照準を合わせ、ためは引き金をゆっくりと引いた。
◆◆◆
保土原真耶、
コンラート、
内水直之の三人は、放送を聞き終えた後、
山を南に迂回して南部の集落を目指す事にした。
真耶は大型回転式拳銃・タウルスレイジングブル、
コンラートは小型自動拳銃コルトジュニア、直之は刀剣・スパタを装備していた。
真耶の装備するレイジングブルは直之の支給品であったが、真耶に強奪されてしまい代わりにスパタを押し付けられた。
無論直之は抗議したものの、無駄に終わった。
ダァン……。
「うおっ」
どこかから銃声が響き、直之が驚く。
「銃声? あれ、今の割と近場じゃあ……コンラート君?」
真耶が、隣のコンラートの様子がおかしい事に気付く。
自分の鳩尾辺りを触るコンラート。
「……あれ?」
コンラートは自分の手を見て驚く。
触った手は真っ赤に染まっていたのだから
コンラートの鳩尾辺りからドクドクと血が流れ彼の口からも赤い筋が溢れ出していた。
程無くコンラートは前のめりに倒れ込む。
それを見た真耶と直之は何が起きたのか理解するのに時間が掛かったが、
間も無く理解する事となる――――真耶のみが。
ダァン……!
「は?」
真耶の目の前で、直之の頭から赤い飛沫が飛び散り、直之は路上に倒れた。
灰色のアスファルトが赤とピンクで彩られる。
(……狙撃!?)
コンラートと直之は狙撃されたのだ。
恐らく狙撃可能なライフルを持った者によって。
一体どこから――――いやその前に隠れなければ。
真耶はコンラートを担ぎ、近くの建物の陰に隠れる。
直之は良く見なくても死んでいる事が分かるため放っておくしか無かった。
「う……」
「コンラート君……」
「僕は……撃たれたんですね……」
「しっかりして!」
「……内水さんは……」
「死んだわ……」
「そう……ですか……ま、真耶さん……」
「何?」
「僕の事は良い、ですから……逃げて、下さい」
「! 何言ってんの! そんな事出来る訳無いでしょ!」
この殺し合いで初めて出会いそれ程長い間一緒にいた訳では無いが、
それでも行動を共にした仲間である事に変わりは無い。
本人がそう言ったからと言っておいそれと置いていける筈は無かった。瀕死なれば尚更。
だが、かと言ってコンラートを治療する手段は無い、それも事実だった。
「……待ってて、あいつやっつけてくる」
「真耶、さん……」
「すぐ戻るから!」
とにかく眼前の危機を排除しなければ。
レイジングブルを持って、真耶は恐らくまだ近くにいるであろう狙撃手を撃滅せんと動く。
そっと建物の陰から顔を出して様子を伺う真耶。
そして発見する、ライフルらしき物を持った猫獣人の女性を。
「あいつか……!」
真耶の顔が怒りに歪み鋭い牙が露になる。
眉間に皺が寄り正に野獣の表情であった。
【内水直之 死亡】
【残り24人】
◆◆◆
自分には狙撃手の才能が有るのかもしれない、と、ためは心の中で思った。
初めてライフルを扱っていきなり二人に命中させられたのだからそう思うのも無理は無いだろう。
無事な一人――白狐女性は、倒れた白竜人少年を引き摺って建物の陰に隠れた。
人間男性の方は完全に死んでいるようだ。
「いける!」
こうまであっさりいけるとは。これなら残りの一人も容易いだろう――――ためはそう思った。
村田銃のボルトを引き、空薬莢を銃を傾けて振り落とし、次の弾薬を装填し、ボルトを押し込む。
「一気にやってやる!」
ためは白狐女性が隠れた建物に向かって小走りで近付いていく。
後十メートルまで近付いた時、建物の陰から白狐女性が飛び出してきた。
その手には大きなリボルバーが握られていた。
ためは村田銃を走りながら構え、白狐女性もまたリボルバーの銃口をために向けた。
そして――――。
◆◆◆
爆発音と紛う程の銃声が響き、猫の女性の頭部は弾け飛んだ。
女性の身体は大きく後ろに吹き飛ばされ、持っていたライフルは路上に転がる。
どさ、と言う音と共に頭が無くなった猫女性の身体はアスファルトの上に叩き付けられた。
「はぁ……はぁ」
白狐女性――――保土原真耶は反動で痺れる両腕を、大型リボルバータウルスレイジングブルをゆっくり下ろす。
「痛っ……」
脇腹辺りに痛みを感じる。
猫女性が撃った弾が掠めたようだった。
「! そうだコンラート君!」
建物の陰にいる負傷した仲間の事を思い出し真耶は急いで向かう。
「コンラート君!」
だが、そこで真耶を待っていたのは残酷な現実。
コンラートは既に息を引き取っていた。
「……そんな……」
両膝をつき、落胆する真耶。その目には涙が滲んでいた。
ふとコンラートの手元に目をやると、彼の物と思しき鉛筆とメモ帳があった。
自分がいない間、死ぬまでの間に、何か書き遺したのだろうか――――真耶は血塗れのメモ張を拾い、開いた。
“真耶さんへ 僕はもうだめみたいです
みじかいあいだ でしたけど ありがとうございました
時間 が あまりないので かんけつにかき ます
まやさんは きかいに くわ しいと いってた ので
ぼく の くびわを しらべ て
だ っしゅつ いきの び て”
朦朧とする意識の中で最期の力を振り絞って書いたのだろう。
最後の方はもはやよれよれで掠れた文字になっていたが、真耶ははっきりと文章の意味を感じ取る事が出来た。
「ありがとうなんて……」
感謝の言葉を述べるのは自分の方だと真耶は思う。
コンラートに対して性的な悪戯をしたりもしたが真耶も心の中では殺し合いに巻き込まれ恐怖を感じていた。
コンラートと言う同行者を得て、その恐怖もかなり和らいだのだから。
「首輪……」
そしてコンラートは自分の首輪を調べろと真耶に遺言している。
首輪を調べ、解除し、この殺し合いから脱出して欲しいと。
「……」
涙を手で拭い、意を決したように立ち上がる真耶。
道路に出て直之の死体の傍に落ちていたスパタを拾い上げると、コンラートの死体の所へ戻る。
首輪を入手するには、コンラートの首を切断しなければならない。
出来ればそんな事はしたく無かったがやむを得ないし何よりコンラートの遺志を無駄には出来無い。
真耶はスパタの刃をコンラートの首に押し当てた。
……
……
……
数分後。
真耶の両手は血に塗れ、右手に刀身が赤く染まったスパタ、左手に血塗れの首輪が握られていた。
「手と、剣と、首輪、洗わないと……」
少し疲れた様子で真耶が呟いた。
【上神田ため 死亡】
【コンラート 死亡】
【残り22人】
【朝/E-2/リゾート街】
【保土原真耶】
[状態]悲しみ、右脇腹に擦過銃創、返り血(少)、右手が血塗れ
[装備]スパタ(刀身が血塗れ)
[持物]基本支給品一式、タウルスレイジングブル.500S&Wマグナムモデル(4/5)、.500S&Wマグナム弾(10)
[思考]1:殺し合いをする気は無い。
2:両手、スパタ、首輪を洗う。
3:首輪を解析したい。
4:コンラート君、ナオ……。
[備考]※特に無し。
最終更新:2014年02月11日 19:39