40話 浅い夢か深い眠りか
「……ハッ」
眠りから目を覚ました犬耳の傭兵少女、
劉恵晶は、口から涎が垂れ流れている事を気にする事より、
今の時間を確かめる事を優先する。
支給品の時計を取り出して時刻を確認すると、第一回目の放送の直前であった。
「〈危ない危ない……いつの間にか寝ちゃったんだ……〉」
森の中で疲労で休んでいる内にいつの間にか眠ってしまったらしい。
寝ている間に襲われたり、放送を聞き逃すような事にならなくて取り敢えずは良かったと恵晶は思う。
そして第一回目の放送が始まった。
……
放送が終わりその情報を振り返る恵晶。
27人死に、生き残りは自分を含め37人。
今も死人は出ているかもしれないが。
禁止エリアはいずれも現在位置からは離れており、今の所は気にする必要は無いだろう。
デイパックから適当に食料を取り出して口に放り込み一応食事を済ませた後、恵晶は立ち上がり歩き出した。
◆◆◆
「……か……つか……」
「……」
「七塚、おい!」
「ファッ!?」
頭をはたかれて俺は目を覚ました。
どうやら仕事の休憩時間中に寝過ごしてしまったらしい。
顔を上げると両手を腰にやって怒った表情を浮かべる先輩の姿が。
「あっ、すみません……」
「もう休憩時間終わってるぞ、交代」
「はい……」
あの殺し合いは夢だったのか?
……そうだよな、あんないきなり巻き込まれていきなり殺しあえなんて、
いくらなんでも非現実的過ぎるよなぁ。
何だろ、俺疲れてんのかな。
「……どうした? 何か顔色悪いぞ」
「……ええ、ちょっと変な夢を」
「夢?」
「いや、まあ、大した夢じゃありませんから……仕事戻ります」
確かに怖かったがただの夢だ、いつまでも引きずる事じゃない。
それよりも早く仕事に戻らないと。
だが、俺の手を誰かが掴み、俺は動きを止められる。
振り向くと、先輩が俺の左手を掴んでいた。
「え? どうしたんですか?」
「……七塚」
先輩の顔は無表情で、じっと俺を見据えていた。
そして俺は気付く。
先輩の右手――俺の手を掴んでいる手とは逆の手――に、リボルバーが握られている事に。
そして先輩はそのリボルバーを俺の顔に向けた。
「え? 先輩? いや、ちょ、何を」
意味が分からない、どうして先輩は俺に銃を向けている?
手を振り解こうとしたがなぜか身体が動かない。
先輩がにやりと笑った。
「夢じゃ、ないよ」
そして次の瞬間、銃声が響いて――――。
……
……
「ああああぁぁああああぁああ!!!」
あらん限りの声で叫ぶ俺。
「ああ、あ、はぁ、はぁ、はぁ……?」
辺りを見渡すと、そこは森の中。
そう、歩き疲れて休息を取っていた森の中だ。
首を確かめると、金属製の首輪。
頬を抓ると普通に痛い。
やはり殺し合いは夢では無かった、ついさっき、仕事場で目が覚めた事が夢だったんだ。
っていうか俺いつの間にか寝てたのか。
「……ああ……」
現実に引き戻され、俺は落胆と安堵を同時に感じていた。
落胆しているのは無論、自分がやはり殺し合いの場にいると言う事に対して。
安堵しているのは、先輩に殺されそうになった事が夢であった事に対して。
どうしてあんな夢見たんだろう、心の奥底にある死への恐怖があんな夢を見させたのか?
……夢の中でも似たような事思ってたような気がするなぁ。
「今何時だ?」
そう言えば放送が決まった時間にある筈。
時計を取り出して現在の時刻を確認する。
午前6時12分。
「やっべ……」
放送を聞き逃してしまったようだ。
これはまずいぞ、確か放送では死んだ奴の名前の他にも、入ると首輪が爆発する禁止エリアってのが発表された筈。
死者の発表はともかく禁止エリア発表を聞き逃したとなると、知らず知らずの内に禁止エリアに入り込んでお陀仏、
なんて事も十分考えられる。
どうすれば良い? 誰かに聞くしか無いか、だけど、誰に……?
ガサガサ。
「!」
今の音は風で草木が擦れる音じゃなかった、人工的な音だ。
「ねえあなた」
今度は声が聞こえた。
声の方向に顔を向けると、犬耳の少女が立っていた。
着物っぽい服を着ているけど、全体的に戦闘服と言う感じがする。
結構可愛いと思った、が、その少女は俺に銃らしき物を向けてきた。
「ひっ……」
さっき見た夢のせいもあってか俺は自分でもおかしいと思う程に怯える。
「良い武器持ってるわね」
「え?」
少女は俺の持っている自動拳銃の事が気になるらしい。
まさか寄越せとか言うんじゃないだろうな。
「これと交換して欲しいなー」
そう言って俺に見えるように取り出したのはえらく小さく見える小型のリボルバー。
見た事が無い奴だけど恐らく相当古い物。
使えるのかあれ、っていうか本物か? 無稼動実銃とか玩具じゃないのか?
「ねえ、駄目?」
「……駄目っつったら?」
「……どうなると思う?」
うん、撃たれると思う。
良く見れば、俺に向けている銃は、俺に交換条件として出してきた銃と外見は似ているが、
一回り大きいように見える。
成程、俺の持っている拳銃はあの子が持っている二丁より遥かに強そうだから交換してくれって訳か。
ふざけんな!
でも断ると非常にまずい事になりそう。
さて俺の出す答えは。
「……どうぞ」
負けた。屈した。
だって銃突き付けられてんだもの断ったら絶対撃ってくるって。
何かこの子、何となくだけど戦い慣れしてるような感じするし、人殺すのに抵抗無いような感じに思えるし。
俺は心の中で涙を流しながら持っていた自動拳銃とその予備の弾倉を少女に差し出した。
少女はそれを自分の方へ投げるように俺に言う。
言われた通りに俺は少女のすぐ下の地面辺りに向けて銃と弾倉を投げた。
「ありがとう、はいこれ」
少女は礼を言うと、小さなリボルバーとその予備弾と思しきこれまた小さい弾を俺の方を投げてきた。
ああ、間近で見ると本当に小さい、本物っぽいけど威力弱そうだ。
「じゃあね」
立ち去ろうとする少女。
どうやら命の危機は去ったらしい。
……あれ、ちょっと待てよ、俺放送聞いて無いんだった。
この子、放送聞いてるか?
「ちょ、ちょっと待って!」
「……何?」
勇気を出して俺は少女を呼び止める。
少女は立ち止まって怪訝な顔で俺を見た。
「あのさ、君、放送聞いた?」
「うん」
少女は放送を聞いたらしい、それならこの子に放送の内容を聞いた方が良いだろう。
「じゃあさ、放送の内容教えて欲しいんだけど……」
「んー……じゃあ名簿と地図渡すから写しなよ」
「マジで? ありがとう!」
少女が自分のデイパックから地図と名簿を取り出して俺に手渡した。
確かに名簿には死んだと思われる奴の名前に線が引かれ、
地図には禁止エリアに指定されたらしい所に○と時刻が書かれている。
詳しく確認するのは後にして俺は自分の地図と名簿に急いで情報を書き写す。
「終わった?」
「ああ終わった、ありがとう」
書き写し終わって俺は地図と名簿を少女に返した。
「じゃ、そろそろ行くから……ああ、一応名乗っておくけど、私は劉恵晶、字は正宇よ。
あなたの名前は?」
「
七塚史雄……」
「そ。じゃ、この銃ありがとね七塚さん。生きてたらまたどこかで会いましょう。じゃあ」
そう言うと少女――劉恵晶は去って行った。
……銃を突き付けはしたけどすぐ撃ったりしなかったって事はあの子は殺し合いには乗っていないんだろうか。
だけど出来ればもう会いたくない奴だ。
……一応放送の情報も得られたし俺も移動した方が良いか。
武器しょぼくなっちゃったけど。
【朝/D-4/森】
【七塚史雄】
[状態]健康
[装備]S&W M1(5/7)
[持物]基本支給品一式、.22ショート弾(14)
[思考]1:死にたくない。
2:これからどうする……?
3:殺し合いに乗っている奴とは会いたくない。
[備考]※劉恵晶を危険人物と判断しました。
※第一回放送の情報を劉恵晶の地図と名簿より得ました。
◆◆◆
少しばかり強力で使い勝手の良い武器を手に入れる事が出来た劉恵晶。
「〈.40S&W弾仕様……ノリンコ製ねぇ。仕上げとかイマイチな気が……まあ、使えれば良いか使えれば〉」
NP-40の製造元に若干の不安を抱きつつ、
恵晶は歩み始めた。
【朝/D-4/森】
【劉恵晶】
[状態]健康
[装備]ノリンコNP-40(10/10)
[持物]基本支給品一式ノリンコNP-40の弾倉(3)、S&W M2(6/6)、.32リムファイア弾(12)
[思考]1:自分が生き残る事を優先する。
2:弱そうな参加者は脅して装備を奪うか、場合によっては殺害してしまおう。
[備考]※特に無し。
最終更新:2014年02月10日 19:36