41話 絶望の中で鈍く光る
一人で自慰に耽っていた、その時、散弾銃を持った狼犬の少女に見付かって、首を吊らされ死にそうになった。
その時に私こと
都賀悠里は、その、おしっこ漏らしちゃったから、
でも裸になってて服は無事だったから、町の方に行って身体を洗おうと言う事になった。
狼犬の少女、
原小宮巴と一緒に。
街に着いて、風呂に入って、取り敢えず身体は綺麗になった。
出来れば原小宮さんから離れたかったけどそんな事したら散弾を撃ち込まれそうなので、
仕方無く一緒にいる事にした。
その後は私が入浴した民家に放送まで隠れてようって事になって……何かされるんじゃないかって凄く不安だったけど、
特に何もされなかった。良かった。
そして放送が終わった。
予想以上に人が死んでいた。
27人死亡、残りは自分と原小宮さんを入れて37人。
私が自慰をしていた間にも誰か殺されていたんだろうか。
怖い、怖すぎる。
私も下手したら第一回放送で名前を呼ばれていたかもしれないのだから。
原小宮さんはと言うと、ふーん、と言う感じで特に驚いた様子も無い。
まあ、出会った時に彼女が取った行動を振り返れば、
彼女が人の死程度で動揺するような子じゃないって事は予想出来るけれど。
◆◆◆
最初の放送までに死んだのは27人らしい。
ふぅん。結構多いね。まあ良いけど。
私は生きているし。おねーさんも。
問題なのはこれからどうするかだから。
明るくなるのを待って他の殺し合いに乗ってない参加者探すつもりでいたんだけど、
死人が出るペースが思っていたより早いからちょっとゆっくりし過ぎたかもしれない。
急いだ方が良いかな。
殺し合いをどうにかするには首にはめられた首輪をどうにかしなきゃいけない、つまりは、
機械知識のありそうで、尚且つ殺し合いを潰す気になっている人を捜さなければならない。
そんな人いるのかな?
いると信じなきゃいけないか。
軽く食事してから、そういう人を探しに行こうか。
◆◆◆
放送後、軽く食事を取った原小宮巴と都賀悠里は隠れていた民家を発った。
小柄な身体に不釣り合いな散弾銃ウィンチェスターM1912を携えた巴が先行する。
一方の悠里はカッターナイフを装備していた。
彼女の支給品であり、100円ショップで売られている安い作りの物である。
「戦闘面では完全に原小宮さん頼りになるよこれ」
「任せといて。あと……」
「ん?」
「巴でいーよ」
「あ……うん。分かった、巴」
軽く会話をしながら町の中を進む二人。
「ん……」
「巴? ……あ……」
そして一人の参加者と遭遇する。
赤と黒の人狼の男で、両腕に何やら機械的な手甲らしき物を装着していた。
巴の持っている物とは違うモデルの散弾銃を装備している。
「……ッ」
人狼は巴と悠里を視認するや否や、散弾銃を二人に向けようとする。
刹那の出来事だったが巴は即座に反応し、持っていた散弾銃を人狼に向けて構える。
先に引き金を引く事が出来たのは――――。
ドォン!!
「グァ……!」
巴だった。
散弾を腹に受けた人狼は吹き飛ばされ路上に倒れた。
血と肉片が灰色のアスファルトの上に飛び散る。
「う、うあ……」
散弾で人が撃たれる所を目の当たりにした悠里は後ずさる。
巴は無表情で、散弾銃の先台を操作し次弾を装填してから路上に倒れた人狼の元へ歩いていく。
◆◆◆
自分はここで死ぬのか。
人狼・
高谷泰明は激痛で意識が揺らぐ中そう思った。
遭遇した獣人の少女二人を持っていた散弾銃で殺害しようとした、だが、片方の狼犬獣人の少女に先手を撃たれた。
腹部に散弾を受け、腹が灼熱にも似た激痛に見舞われている。
泰明は携帯電話が擬獣化した存在であるが、擬獣化したその身体は普通の生物と何ら変わらない。
故に、銃で撃たれれば普通に負傷するし、必要以上のダメージを受ければ当然壊れる――死ぬのである。
普通の携帯電話の時でも散弾で撃たれれば壊れるであろうが。
「うっ……ぐぅ」
口から血を吐きながら苦しむ泰明の視界に、狼犬少女が映り込む。
その顔は特に何の感情も見えさせない「無表情」と言う言葉が合う様子だった。
少女は泰明を見下ろし、そしてその顔面に散弾銃の銃口を突き付ける。
(ああ……ご主人、すみま――――)
ドォン!
泰明の頭が散弾によって弾け、それと同時に彼の意識も永遠に消え去った。
【高谷泰明 死亡】
【残り30人】
◆◆◆
「……ヴォエ」
人狼の頭部が散弾により四散した様子はグロテスクと言う言葉では片付けきれない程の悲惨さで、
そう言う物に全く慣れていない悠里に嘔吐をさせるには十分過ぎた。
「ゼェ、ゼェ……」
「大丈夫? おねーさん」
「だ、大丈夫……さっき食べた物、全部出しちゃったけど……」
「あのおおかみおとこの人、ショットガン持ってたから、おねーさん使うと良いよ」
「う、うん……」
自分達を殺そうとした相手とは言え、散弾で頭を吹き飛ばして平然としていられる巴に悠里は恐ろしさを禁じ得ない。
そう言う子、だと言う事は身をもって知ってはいたが。
吐き気が収まった後、悠里は出来るだけ人狼の死体を見ないようにしながら、彼の持っていた散弾銃と、
その予備弾を回収し、それを自分の武装にした。
その後二人はその場を後にした。
【朝/E-6/南部集落変電所周辺】
【都賀悠里】
[状態]少し気分が悪い、首にロープの跡
[装備]フランキ スパス12(7/7)
[持物]基本支給品一式(食料少量消費)、12ゲージショットシェル(14)、カッターナイフ
[思考]1:死にたくない。
2:巴と行動。
[備考]※身体を洗いました。
※原小宮巴に対し恐怖心を抱いています。
【原小宮巴】
[状態]健康
[装備]ウィンチェスターM1912(4/6)
[持物]基本支給品一式、12ゲージショットシェル(12)
[思考]1:殺し合いを潰す。
2:危険人物は容赦無く排除。
3:おねーさん(都賀悠里)と行動。
[備考]※特に無し。
◆◆◆
「うぉう……こいつはすげぇ」
銃声を聞いてその現場と思しき場所にやってきた少年、
下斗米規介は、
路上に転がる頭部を破壊された人狼の死体に驚く。
脳漿や頭蓋骨の破片が辺りに飛び散り、異臭も漂っている。
腹にも穴が空き内臓が飛び出していた。
ショットシェルの薬包が落ちていた事から、散弾で頭をやられたのだと言う事が推測出来た。
「まだ死んでからそんな経ってねぇな……おーこええ。こんなんならねぇように気を付けよ」
そう言いつつ、規介は人狼の物と思われるデイパックを漁る。
しかし既に漁られた後なのか基本支給品以外は入っていなかった。
「入ってねぇや……行くか」
特に収穫が無いなら長居する必要も無い。
殺し合いに乗っており死体そのものには抵抗は無くなっている規介だったが、
かと言っていつまでも脳漿を撒き散らした死体の傍にはいたくは無かった。
周囲を見回し誰もいない事を確かめると規介は歩き始めた。
【朝/E-6/南部集落変電所周辺】
【下斗米規介】
[状態]健康
[装備]イングラムM11(15/32)
[持物]基本支給品一式、シグザウエルP226(13/15)、シグザウエルP226の弾倉(3)、イングラムM11の弾倉(5)
[思考]1:どんどん人を撃ち殺したい。
2:獲物探しだ。
[備考]※特に無し。
最終更新:2014年02月18日 12:14