51話 炎上路線
「そろそろ移動した方が良いか?」
フーベルトゥスが真奈紀と佳美に提言する。
貯水池の周りはプレハブの倉庫が有るだけで他は何も無くかなり見晴らしが良い。
つまり自分達の姿が丸見えで、殺し合いと言う状況下ではかなり危険である。
倉庫は固く施錠され中には入れない。
貯水池はいつまでも身を休めるのには適してはいない場所だった。
「そうね」
「でも、どこへ行きますか?」
真奈紀と佳美もフーベルトゥスに同意するが、佳美がフーベルトゥスに行く宛ては有るのか尋ねた。
「そうだなぁ、どうする真奈紀ちゃん」
「え? 私に振るの? 訊かれてるのフーさんなのに」
唐突に話を振られ不満気な真奈紀だったが渋々自分の持物から地図を取り出して行き先を思案する。
「ここは?」
そう言って真奈紀が地図上で指差したのはD-6に有る島役場。
現在自分達が居る貯水池からそう離れてはいない。
「島役場か。だけどどうして島役場を選んだんだ?」
「比較的近いし、人が集まり易そうでしょ? 私達みたいに乗ってない人が来るかも」
「乗ってる奴も来るんじゃないか?」
「そうかもしれないけど、危険を恐れてばかりって訳にも行かないでしょ。
って言うか、私に行き先求めたんだから文句言わないでよ」
「あ……うん、すまん。よし、島役場に行くか……良いかな? 佳美ちゃん」
「はい、大丈夫です」
三人の次の行き先が決定する。
早速三人は出発の準備に取り掛かろうとした。
ガサッ。
「「「!」」」
しかしその時、近くの茂みから物音が聞こえ、三人は茂みを注視する。
「誰かいるのか?」
フーベルトゥスが茂みの方に向かって声を掛ける。
「待って! 殺し合う気は無いから……今からそっちに行くわ」
返事は女の声、それも若い少女の声だった。
茂みから出てきたのは和服風の戦闘服に身を包んだ狐の尻尾と耳を持った少女。
(可愛い……)
一目見てフーベルトゥスは狐耳の少女を襲いたい衝動に駆られたが、
流石に今はそれどころでは無いと自制し少女に問い掛けを行い始める。
「君、名前は?」
「
劉恵晶。字は正宇。恵晶で良いよ」
「そうか、恵晶ちゃん、殺し合う気は無いと言っていたけど、本当か?」
「本当よ」
「ふぅん……どう思う二人共」
真奈紀と佳美の意見も聞こうとするフーベルトゥス。
「うーん、信じても良いんじゃない? もし殺し合いに乗ってて、私達を殺す気が有るなら、
わざわざ大人しく出てきたりはしないんじゃないかな」
「私も、由比さんと同じ意見です」
「分かった。と言う訳で、恵晶ちゃん、君の言う事を信じる事にする」
「……ありがと」
「俺達も殺し合いする気は無い。俺はフーベルトゥス。まあ見ての通りワイバーンだな。
こっちが俺の仲間の由比真奈紀ちゃんと、野沢佳美ちゃん」
「こんにちは……三人はここで何してたの?」
「休んでたんだよ。北の集落で半竜人の女に殺されそうになったんだ。
そいつから逃げてきて、ここで休んでたって訳」
恵晶に、貯水池に自分達がやってきた経緯を大まかに説明するフーベルトゥス。
ついでに、半竜人女性の特徴も話し始める。
「ふむふむ……黒いロングで、巨乳、手足が緑竜のそれで、角と尻尾有、翼も有ると。
しかも三人殺害している可能性が非常に高いと」
「俺達を襲った時に遣った自動小銃の他にも、爆弾か何か持ってるかもしれない」
「成程ね……」
ふと、恵晶はフーベルトゥスの後方に目をやる。
「……!」
倉庫の陰から何者かが、こちらに向けて何かを投げるのが見えた。
その「何者」かは、ほんの一瞬しか見えなかったが、たった今フーベルトゥスが言った、
半竜人の女性の特徴と合致しているように見えた。
しかし今はそれよりも投げられた物の方が重要だった。
「くっ!」
投げられた物が何なのか、即座に理解した恵晶は横に向かって駆け出した。
三人はなぜ恵晶が突然駆け出したのか、直ぐには理解出来無かった。
理解出来たのは、自分達の傍に黒っぽい拳大の何かがバウンドした時。
その時にはもう全てが遅かったが。
ドガアアアアアアン!!!!
黒っぽい拳大のそれ――――手榴弾は、バウンドした直後に炸裂し、爆炎を巻き起こした。
爆心地のすぐ近くに居た三人は爆風に吹き飛ばされ、炎で焼かれ、破片を全身に受け文字通り「吹き飛んだ」。
大袈裟に悲鳴を上げる間すら無く、三人の身体は黒焦げになり、バラバラになった。
周囲に抉れた地面の土と、三人だった物が降り注ぎ、爆発の衝撃で思わずうつ伏せに倒れ込んだ恵晶にも降り掛かった。
「……」
伏せていた頭をゆっくりと上げ周囲の様子を伺う恵晶。
土埃と硝煙が巻き起こり、視界は効かない。
火薬と、微かに血肉の臭いがした。
自分は今銃を持っているが、相手の姿が視認出来無い以上迂闊に攻撃するべきでは無い。そう恵晶は判断する。
立ち上がり、恵晶は再び駆け出す。
この現場からの離脱が目的である。
自分が生き残る事こそが第一の目的なのだから、無理をして敵を倒す事は恵晶の行動指針には含まれていなかった。
ダダダダダダッ!!
「くっ!」
銃撃音が聞こえ悪態をつく恵晶。
明らかに自分を狙った発砲である。
「〈殺されてたまるか!!〉」
母国語でそう叫び、恵晶はひたすら走り続けた。
そしてどれぐらい走っただろうか、はぁはぁと息を切らしながら恵晶が立ち止まる。
呼吸を整えつつ周囲を見回すが、追い掛けてきている者は居ない。
遠くに煙が見える、あそこが貯水池だろう。
かなり遠くまで走ってきたと恵晶は思った。
そして、どうやら先程の襲撃者を撒けた、一先ず自分の危機は去ったようだ、とも。
「〈はぁ、はぁ……あの女〉」
恵晶は自分や三人を襲った襲撃者の事を思い返す。
恐らく、フーベルトゥスが言っていた半竜人の女性だと思われた。
ほんの一瞬見えた外見の特徴、爆弾と自動小銃と言う所持武器が一致していた。
確定、では無いが、八割方そうだと考えて良いだろう。
出来るならもう二度と遭いたく無いと、誰かに殺されてはくれないかと恵晶は思う。
「〈あの三人……お気の毒に。もし仲間になれれば私の生存率も上がったんだけどなぁ〉」
複数のグループに入ればそれだけ自分が狙われる確率も減る、そう思って彼女はフーベルトゥス達三人に取り入ろうとしたが、
それも先程の襲撃によって立ち消えになってしまった。
ふと前方を見ると市街地が見える。
東の方には軍事施設跡と思しき物も見えるので現在位置は恐らくC-6であろう。
「〈市街地の方行ってみようか……〉」
恵晶は市街地――――南部集落の方に向かって歩き出した。
【フーベルトゥス 死亡】
【由比真奈紀 死亡】
【野沢佳美 死亡】
【残り17人】
【午前/C-6/道路】
【劉恵晶】
[状態]疲労(中)
[装備]ノリンコNP-40(10/10)
[持物]基本支給品一式ノリンコNP-40の弾倉(3)、S&W M2(6/6)、.32リムファイア弾(12)
[思考]1:自分が生き残る事を優先する。
2:弱そうな参加者は脅して装備を奪うか、場合によっては殺害してしまおう。
3:南部集落へ向かう。
[備考]※貯水池での襲撃者がフーベルトゥスの言っていた半竜人の女性(
沢谷千華)であると確信しています。
◆◆◆
「一人逃げられたかぁ……ま、良いや」
小さなクレーターの出来た貯水池の畔で、見るに堪えない状態となった飛竜と少女二人の死体を、
G3A3自動小銃の銃口で啄きながら半竜人の女、沢谷千華は言った。
「あの時逃がした三人とまた会えて、しかも仕留められただけでも良しとしよう。
でも、凄いわねぇ手榴弾の威力……三人の荷物も吹き飛んじゃったけど」
第一回放送前に殺害した男性から入手した、MkII手榴弾。
三発の内二発を使用したが何れも大きな戦果をもたらしてくれた。
後一発残っており、装備しているG3A3自動小銃を始めとして装備も充実している。
武装面で心配する事は無いだろうと千華は考えた。
「さあて、次はどこに行こうかしら……」
次の行き先を思案する千華。
そしてその目に映ったのは、運営本部である学校の先に広がる市街地であった。
【午前/C-5/貯水池】
【沢谷千華】
[状態]背中に二発被弾(盲管銃創だが行動に今の所支障無し)
[装備]H&K G3A3(0/20)
[持物]基本支給品一式、H&K G3の弾倉(3)、マウザーHSc.380ACPモデル(7/7)、
マウザーHSc.380ACPモデルの弾倉(3)、三十年式銃剣、ニューナンブM60(4/5)、.38スペシャル弾(5)、
MkII手榴弾(2)、マッチ、ボウイナイフ
[思考]1:面白そうなので、殺し合いに乗る。
2:次の行き先は……。
[備考]※フーベルトゥス、由比真奈紀、野沢佳美(三人共名前未確認)の死亡を確認しました。
※劉恵晶の容姿のみ記憶しました。
最終更新:2014年03月07日 11:51