波紋-Hamon-

47話 波紋-Hamon-

南部集落の工具店にて、工具を調達し、俺こと深谷明治は入手した二つの首輪を調べた。
主催側が俺達参加者を監視するのに使っている首輪を解除する事が出来れば、
この殺し合いから逃げられる、或いは主催の連中に反乱を起こせるんじゃないかと考えたんだけど。
首輪を分解して中身を見て分かった事。
まず、大まかに内部を構成していた部品を言うと、
センサー(恐らく生死判定用)、爆薬らしき物、マイクらしき物、バッテリーか何か、他細かい電子部品。
大雑把だけどこんなもんか。
分解そのものは難なく行えたが、それを首輪の主が生きている状態で行おうとすると、
問答無用で起爆装置が作動する仕組みになっている……んだろう。
そしてマイクらしき物。
これは何なのだろうかと最初分からなかったが、恐らく盗聴用だろう。
参加者間の会話を盗み聞きして不審な行動が無いかどうか確認している、と言う事か。
盗聴の可能性が分かってから俺は首輪に関する事は可能な限り口にはしない事にした。
下手したら主催の連中に首輪起動されかねないからな。

んで、一番重要な事は「首輪を俺が解除出来るかどうか」なんだが。

結論から言うと「難しい」。

分解はしてみて内部がどうなってるのかは大体分かったけど、どうすれば起爆させず分解させられるかを
特定するまでには至っていない。
完全に精密機械で、良く分からん。当たり前かもしれないがバイクとは全く勝手が違う。
もうちょっと、俺より精密機械に詳しい奴なら解除する方法も分かるかもしれないけど……。

今何人生き残っているのか分からないが、
殺し合いに反抗する気があって、それでいて精密機械に詳しい奴なんて都合の良い奴がいるのか?

まあ、いると思って探して見るしか無いよな……。

◆◆◆

〈お前ら精密機械に詳しかったりしない?〉

「「??」」

E-5、南部集落。
住宅に紛れて存在する喫茶店の中で、虎青年深谷明治は、
南部集落にて出会った二人――人間少年の長沼陽平と、紺狼獣人少年の舩田勝隆に、
尋ねたい内容を書いたメモ帳を見せる。
陽平と勝隆はと言うと、目を白黒させていた。
メモの内容もそうだが、どうしてわざわざ筆談を行おうとするのか分からなかった。
それに気付いたのか、明治はメモ帳に書き足しを行い再び二人に見せる。

〈ちょっとある事で、参加者の首輪を手に入れて、無理矢理分解してみたんだが、
俺じゃ良く分からなかった。中身は精密機械そのものだから、そういうのに詳しい奴をさがしてる。
内部の構造がちゃんと理解出来れば、首輪外せたり出来ると思うんだ。
首輪外せれば、この殺し合いから脱出出来る望みも出来るだろ?
あ、理由はおいおい説明するから、筆談で頼む〉

明治が書き足した内容は先程の二人に対する質問については説明していたが、
なぜ筆談なのかと言う事は説明していなかった。
これから説明するとは書いていたが。
陽平と勝隆は明治が筆談を要求する真意を測りかねつつも、大人しく従いそれぞれメモ帳とペンを取り出す。
まず陽平が書いて見せる。

〈これで良いんすか? 何で筆談何ですか?〉

一応相手は年上なので丁寧語で書く陽平。
次に勝隆。

〈字下手かもしれないけどごめんね〉

こちらは特に丁寧語では無かった。
もっとも丁寧語か否かなど明治は気にしていなかったのだが。

〈いい感じ。ありがとう。
んで何で筆談してほしいかって言うと、首輪から盗聴されてるみたいなんだ
小さなマイクらしいのがあったから、多分間違い無いと思う〉

「「!」」

陽平と勝隆が思わず顔を見合わせる。
参加者全員にはめられている金属製の特殊な首輪。
逃げようとしたり、無理に外そうとしたりすれば爆発するのは知っていたが、盗聴までされているとは。
明治は自分のデイパックからビニール袋を取り出し、それをテーブルの上に置いて中身を見せた。
それは分解された二つの首輪だった。

〈これが証拠な、ほら、マイクあるだろ?〉

「「……」」

明治に指を指された部分を二人が覗き込む。
確かに小さなマイクと思しき物が確認出来る。
その他の部分には細かい配線や基盤、爆薬と思しき物もあり、明治の言った通り確かに精密機械だった。
ここで、勝隆が思った疑問をメモ帳に書いて明治に見せる。

〈深谷さん、首輪どうやって手に入れたの?〉

「……」

それを見た明治は一瞬逡巡するが、正直に伝える事にしてペンを走らせる。

〈同士打ちになった参加者がいて、その二人の首を切って手に入れた〉

かなり直球な書き方だったが、他人を殺害して奪ったと思われても面倒だと明治は考える。

〈大変でしたね〉
〈分かった〉

幸い、陽平と勝隆は理解を示してくれたようだった。一先ず、明治は安堵する。
そして、当面は精密機械に詳しく尚且つ、殺し合いに反抗する気の有る参加者を見付けるのが行動指針となる、と、
明治は文章で二人に説明した。

◆◆◆

長沼陽平の支給品、火薬鉄砲の玩具。
舩田勝隆の支給品、カップラーメンの詰め合わせ。
これだけ見れば二人共完全に外れだが、
道中で死亡していた参加者達から剥ぎ取った銃器や刃物が幾つかあり、武装の面では心配はいらなかった。
陽平は自分と勝隆の持っていた銃や刃物をテーブルの上に置いて明治に見せていた。

「結構色々あるな」
「深谷さんは武器あるんですか?」
「ナイフと鉄パイプがあるけど……勝隆はどうしたんだ?」
「トイレ行ってますけど……」

トイレの方に視線を向けながら陽平が言う。

◆◆◆

首輪から盗聴されている――――恐らく、と言うより間違い無く運営に参加者間の会話が筒抜けになっているのだろう。
それはつまり、あの時、民家でひたすら自慰に耽っていた時の自分の喘ぎ声も、
全部運営に筒抜けになっていたと言う事に違い無い。
誰にも聞かれていないと思っていたが、その実、ずっと聞かれていたのだ。
恥ずかしい嬌声を。
そう思うと、勝隆はたまらなく興奮した。
欲望が沸き起こり身体が火照って、辛抱堪らなくなる。

(俺のえっちな声、全部聞かれちゃってたんだなぁ……運営の人らに。
ああ、大きな声で喘ぎたい……俺のえっちな声聞いて欲しいなぁ。
でも、首輪の事がばれちゃうしなぁ……ああ……)

そして無意識の内に勝隆は自分のズボンのベルトを外そうとしていた。


【朝/E-5/南部集落商店街・喫茶店】

【深谷明治】
[状態]健康
[装備]ハンティングナイフ
[持物]基本支給品一式、スチールパイプ、分解した首輪(神室さつき更級亜矢)、工具一式(調達品)
[思考]1:精密機械が理解出来、かつ殺し合いに乗っていない参加者を探す。
    2:長沼、舩田の二人と行動する。
[備考]※首輪を分解しましたが内部構造の完全な把握には至っていません。
    ※首輪からの盗聴に気付きました。

【長沼陽平】
[状態]健康
[装備]ステアーAUG(18/30)
[持物]基本支給品一式、ステアーAUGの弾倉(5)、トンファーバトン、村田刀、M67破片手榴弾(1)、
    キャップ火薬鉄砲、キャップ火薬(8発×12)
[思考]1:殺し合いはしたくない。
    2:勝隆、深谷さんと行動。
    3:殺し合いに乗っていない参加者(精密機械に詳しい人優先)を探す。
[備考]※勝隆が変態であると認識しました。
    ※首輪からの盗聴に気付きました。

【舩田勝隆】
[状態]興奮
[装備]ベネリM1スーパー90(3/3)、
[持物]基本支給品一式、12ゲージショットシェル(4)、M67破片手榴弾(1)、災害個人用救急セット、
    長軸ドライバー、カップラーメン詰め合わせ
[思考]1:殺し合いをする気は無い。
    2:陽平、深谷さんと行動。
    3:適度に自慰をする、出来れば犯されたい。
    3:殺し合いに乗っていない参加者(精密機械に詳しい人優先)を探す。
[備考]※性的な行動は控えようと考えています。やめようとはしません。
    ※首輪からの盗聴に気付き興奮しているようです。




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最終更新:2014年03月05日 21:13