26話 落として、煉獄の炎を
ガソリンスタンドに、燕の少年が訪問する。
少年、
池島高貞は、ガソリンスタンドの建物の扉を開けて中に入る。
中は従業員のみが使用していたのか、雑然とした事務所のようになっていた。
右手に先刻女性を刺殺するのにも使ったアウトドアナイフを握り、奥へと足を進める。
隣のガレージへ続く入口があった。
入ってみると、修理途中と思われる乗用車がジャッキに乗せられ、油の臭いが漂っている。
「油臭い……」
ガソリンスタンドのガレージなのだから、油臭いのは仕方無いと高貞は思ったが、
足元を見ると、機械油が広がっている。
元々こうなのか、それとも誰かがぶちまけたのか。
何にせよ長居したい場所では無い、と、高貞はガレージを出ようと、潜った入口に向かおうとした。
しかし、入口の方から何かが投げ込まれた。
それは火の着いた、ジッポーライター。
それは床に広がる油の上に落ち、そこから真っ赤な―――――――――。
◆◆◆
爆発音と共に、ガソリンスタンドの建物が一気に炎に包まれる。
扉を蹴破るように中から出てきたのは、少し長い髪を持った人間の少年。
彼は急いでガソリンスタンドの建物から距離を取る。
十分離れた所で振り向くと、黒煙を上げてガソリンスタンドの建屋が炎上しているのが見えた。
時折爆発もしている、地下のガソリンタンクに引火する事はまず無いだろうが、近付くのは危険なレベルだ。
「焼き鳥の出来上がり、てか……」
少年、
油谷眞人は、ガソリンスタンド内に入ってきた燕の少年を、
ガレージに広がっていた油と自分の支給品の一つ、ジッポーライターを使って焼殺した。
いや、死んだ所を確認した訳では無いが、あの炎上具合を見れば生存している可能性は限り無くゼロに近い。
ガレージはシャッターが下りており、隣の事務室からの入口以外には進入路は無い。
眞人がガソリンスタンドから脱出した時、燕の姿が見えなかったと言う事は脱出はしていないと言う事。
眞人が、燕少年をわざわざガソリンスタンドごと燃やすと言うまどろっこしいやり方で殺害したのには一応理由がある。
(これ、無駄に使いたくないしな……)
眞人の手に持たれているのは、大型の自動拳銃。
デザートイーグルと言う、.50AEマグナム弾使用の「ハンドキャノン」の渾名を持つ銃である。
非常に強力だが、予備の弾倉が一個しか無く、予め装填されている7発と合わせても、
14発しか弾が無い。よって無駄使いは出来無い。
眞人はデザートイーグルの弾を節約したいと思い、先程のような戦術を考えた。
「悪いな、燕君」
申し訳程度の謝罪の言葉を述べた後、眞人は町の方へ足早に去って行った。
◆◆◆
「おいおい、何だこりゃあ……」
爆発音と遠目に見えた炎。
虎青年、
深谷明治は、目指していた場所へ急いだ。
そして目指していた場所、ガソリンスタンドが激しく炎上しているのを確認する。
建屋が黒煙をあげて焼かれ、時々何かが引火して爆発も起こし近付けない。
「工具欲しかったのにこれじゃあ……」
先に手に入れた首輪を分解して調べるのに、
工具が必要だと判断した明治は、ガソリンスタンドで工具を調達するつもりだった。
ガソリンスタンドならば車の整備を行うために工具がある筈だから。
しかし、建屋全てが炎上してしまっている以上、工具も同じ運命を辿っているだろう。
「一体誰だよ、ガソリンスタンド燃やそうなんて考えた奴。
まさか、中に誰か……いや、どっちにしても、これじゃ助からないな。
……町の方行くか……」
燃え上がる建屋の中に誰かいる可能性もあったが、炎の勢いを見るにいたとしても死んでいるだろう。
何にせよ、凄まじい熱で近付けないのだが。
明治は工具を求め、町の方へと歩き始めた。
◆◆◆
(焼き鳥のにおいがするなぁ)
もう目も見えない中、遠のく意識で高貞は思っていた。
熱さももう感じない、身体中の感覚が消えて行く。
自分の身体はもうどうなっているのだろうか。
見たくはない。見る術はもうないのだが。
(僕、死ぬんだ……嫌だなぁ、死にたくないなぁ……まだやりたい事一杯あるの、に……。
お父さんと、お母さん、にも……お別れ言って……ないのに……。
……それとも……天罰なのかなあ……。
人を……殺してまで、生き残ろう、と……した……事へ……の。
僕……は……どうすれ……ばよかったんだ……ろ。
あ、あ……しに……たく……な……い。
ぼ……く……は……)
消えゆく意識の中、高貞は自分の行いを悔やみ、同時に生への渇望を強まらせ、そして、天へ召された。
【池島高貞 死亡】
【残り47人】
【早朝/F-3/ガソリンスタンド周辺】
【油谷眞人】
[状態]健康
[装備]デザートイーグル(7/7)
[持物]基本支給品一式、デザートイーグルの弾倉(1)
[思考]1:生き残るために殺し合いに乗る。
2:町の方へ向かう。
[備考]※特に無し。
【早朝/F-3/ガソリンスタンド周辺】
【深谷明治】
[状態]健康
[装備]ハンティングナイフ
[持物]基本支給品一式、スチールパイプ、首輪(
神室さつき、
更級亜矢)
[思考]1:首輪を調べたい。
2:町の方へ向かう。
[備考]※油谷眞人からは距離がだいぶ離れています。
《参加者紹介》
【名前】油谷眞人(ゆや まさと)
【年齢】18歳
【性別】男
【職業】高校生
【性格】少しひねくれている
【身体的特徴】少し長めの後ろ髪が特徴的な長身の男
【服装】学校制服のブレザー
【趣味】音楽鑑賞
【特技】頭はそれなりに良い、喧嘩は強い、料理が得意
【経歴】中学卒業後、親元を離れ高校の寮で暮らしている
【備考】不良と言う程でも無いが、やや素行の悪い部類に入る。
エリート志向の両親と折り合いが悪く、有名進学校への受験に失敗した後、
親元を離れ滑り止めで合格した高校の寮でバイトをしながら一人暮らしを始める。
喫煙はするが飲酒はしない。
一人暮らしのためか料理や掃除などの家事スキルが高い
最終更新:2014年01月26日 20:46