53話 手探りでくわえ込む自己欺瞞
表通りの建物の間、細い路地から、赤いTシャツ姿の少年
下斗米規介は顔だけを出し、
100メートル程前方の島役場の様子を窺う。
次の訪問先を島役場にしようと考えていた規介だったが、役場の建物の正面玄関付近に人影が発見し、
すぐに路地に身を隠し、様子を窺い始めたのだ。
遠目からで分かりづらいが、ツインテールの少女で、銃を持っているようだった。
玄関で一人武器を持って立っていると言う事は、見張り役だろうか。
(見張り、って事は中に仲間がいんのか?)
見張り役の存在は、島役場建物内に仲間が居ると言う事を示唆していた。
規介は思案する。
例えあの見張り役の少女を倒せたとしてもその時点で中に居る仲間に気付かれ攻撃を受けるだろう。
役場内に何人いるのか、どれ程の武装を持っているのか分からない。
正面からのアプローチは流石に無謀だと、規介は判断する。
ならば役場の裏はどうか。
規介は細い路地を進み、役場の裏手を目指し始める。
そしてどうにか見張りの少女に気付かれないように役場の裏手へやってきた。
「誰もいねぇ」
見張りの姿は見えなかった。
ブロック塀と門柱の先に役場の裏口が見えるだけ。
「見張り置くなら裏にも置いとけっての……行くか」
規介はイングラムM11サブマシンガンのグリップを強く握り締め、裏口へと小走りで走り出す。
ところが、門柱を通り抜けようとした時、足に何かが引っ掛かる感触を感じた。
直後、ガランガランガラン、と音が鳴り響く。
「!?」
驚いた規介が周囲を見回すと、塀の裏で空き缶を縦に連ねたオブジェのような物が激しく揺れて音を鳴らしていた。
そしてそれは釣り糸と思しき糸で繋がっていて、先程の引っ掛かる感触はその糸を自分の足が引っ掛けたためだと、
規介が理解したのとほぼ同時に、裏口の扉が乱暴に開け放たれ紫色の大きな犬が規介に向かって突進する。
「ガアァッ!!」
「うわああぁあ!」
吼えたけりながら犬は規介に飛び掛かる。
咄嗟に右腕で顔を庇う規介だったがその右腕に犬の牙が食い込み、更に後ろに押し倒される。
その際に持っていたイングラムを落としてしまった。
「この糞犬!!」
「グオッ!」
背中を強か打ち付け呼吸困難になり更に右腕に激痛を感じながら、怒声を発して犬を払い除ける規介。
落としたイングラムを必死に探し、そして見付けるとそれを拾おうと立ち上がろうとする。
「ガルルルルゥ!!」
「うぐおっ!?」
しかし背後から犬の体当たりを受け、再び地面に倒れ込む。
「この野郎……! ……っ!? 何だ、身体が、痺れ……!?」
突然、規介の身体を痺れが襲う。
身体の感覚が麻痺していき、口も上手く回らなくなり身動きが取れ無くなる。
「……
リクハルドさんの牙には麻痺毒が有るの。しばらく痺れて動け無くなるよ。
だよね? リクハルドさん」
「ああそうだ」
「……!!」
規介の視界に自分を見下ろす、灰と白の毛皮を持った犬狼獣人の少女が映り込む。
その目には生気が感じられず、感情が読み取れない。
両手で抱えているのはショットガンだった。
「こんにちは、侵入者さん」
「……ッ」
規介は自分の迂闊さを呪った。
◆◆◆
「……へぇ、つまり、殺し合いに乗っていて、もう二人殺していて、私達も殺す気だったと。
そう言う事だね? 下斗米規介君?」
「……おう」
島役場一階のロビーの柱に、下斗米規介は縛り付けられ、犬狼獣人の少女・
原小宮巴による尋問を受けていた。
規介の顔には抓られたりした痕が残っている。
巴の質問にちゃんと答えなければ、巴による拷問が待っていたからだ。
「原小宮さんの作った警報装置が無かったらまずかったですね……」
玄関先で見張っていた
舘山瑠夏が言う。
規介が引っ掛かった役場裏口付近の装置は巴が仕掛けた物だった。
空き缶や釣り糸で作った即興の警報装置である。
「作っといて良かったよ。頑張った甲斐が有ったね。
……じゃあ、死のうか?」
散弾銃の銃口を規介の顔に向ける巴。
死を覚悟し、規介が固く目を瞑る。
傍で見ていた狐娘
都賀悠里、瑠夏もこれから起こる惨劇を予想して目を逸らす。
リクハルドのみ、平然としていた。
「……と思ったけど」
しかし、巴は引き金を引かず、銃口を下ろした。
殺されるとばかり思っていた規介は恐る恐る目を開けて、怪訝そうな目で巴を見る。
悠里、リクハルド、瑠夏もまた同様に不思議そうな表情を浮かべていた。
巴は危険人物は容赦無く排除すると言うスタンスを取っていたため、確実に引き金を引くとばかり三人は思っていた。
「ここで撃つと確実に後始末めんどくさいんだよねー。
私達ここを拠点にしてるし……武器も奪ってあるから取り敢えず生かしといてあげる。
変な真似したらすぐに殺すけどねぇ。後縛ったまんまだから。宜しく」
「……」
呆然とする規介を尻目に、巴は他のメンバーに解散を命じた。
「はぁ……」
取り敢えず命の危機は去ったようだが、武器も奪われ拘束され何も出来無い。
自分が生かされた理由も「拠点を汚したくないから」と言う物で、つまりその気になればいつでもお前を殺せる、
と言う意味でもあった。下手に抵抗すれば容赦無く制裁が加えられるだろう。
今の自分は本当に無力な存在だ、と、規介は苛立ち紛れに溜息をついた。
◆◆◆
「何か、意外だったなぁ」
「何が?」
「いや……巴、間違い無くあの子殺すと思ってたから……」
役場一階、視聴覚室にて、巴と悠里が会話する。
悠里が話題に出したのは先程捕縛した侵入者、下斗米規介に巴が下した処遇についてだった。
「さっきも言ったけどさぁ、掃除が大変になっちゃうからね。
ただでさえ二階とか汚れてるのにこれ以上汚したくなかったし、弾も無駄遣いしたくないし。
それに、誰も殺されてないからね」
「……じゃあ、誰か殺されてり怪我させられてたら」
「ああもうそん時は容赦無く、ズドン! してたよ?」
「……はは」
やっぱりこの子は怖い、と、悠里は再確認した。
【午前/D-6/島役場一階】
【原小宮巴】
[状態]健康
[装備]ウィンチェスターM1912(4/6)
[持物]基本支給品一式(食糧少量消費)、12ゲージショットシェル(12)、イングラムM11(15/32)、
イングラムM11の弾倉(5)、シグザウエルP226(13/15)、シグザウエルP226の弾倉(3)
[思考]1:殺し合いを潰す。
2:危険人物は容赦無く排除(但し状況にも依る)
3:おねーさん(都賀悠里)、舘山さん、リクハルドさんと行動。島役場に留まる。
4:下斗米規介は後始末が面倒なので取り敢えず殺さないでおく。但し変な真似をしたら即処刑する。
[備考]※リクハルドから島役場にて起こった事の顛末を聞きました。
※島役場裏口付近に特製の警報装置を仕掛けました。
【都賀悠里】
[状態]健康
[装備]フランキ スパス12(7/7)
[持物]基本支給品一式(食糧少量消費)、12ゲージショットシェル(14)
[思考]1:死にたくない。
2:巴、リクハルドさんと舘山さんと行動。島役場に留まる。
3:下斗米君は放っておいて大丈夫かな?
[備考]※リクハルドから島役場にて起こった事の顛末を聞きました。
【リクハルド】
[状態]健康
[装備]無し
[持物]基本支給品一式、暗視ゴーグル、脇差
[思考]1:殺し合う気は無いが襲い掛かってくる者には容赦しない。
3:ルカ、巴、悠里と行動。
4:襲い掛かってきたのが良い女だったら犯して食う(食わない場合もある)。
[備考]※特に無し。
【舘山瑠夏】
[状態]健康
[装備]56式自動歩槍(20/20)
[持物]基本支給品一式、56式自動歩槍の弾倉(5)、H&K VP70(13/18)、H&K VP70の弾倉(3)、
ダン・ウェッソンM715(6/6)、.357マグナム弾(12)、壊れたゲームキューブ本体、除草剤、1メートル定規
[思考]1:殺し合いはしない。
2:リクハルド、原小宮さん、都賀さんと行動。
3:暇を見付けてリクハルドと、する。
[備考]※特に無し。
【下斗米規介】
[状態]右腕に噛み傷、柱に縛り付けられている、屈辱
[装備]無し
[持物]基本支給品一式
[思考]1:畜生……。
2:何とか逃げられねぇかな……。
[備考]※原小宮巴ら四人に自分の名前は言ってあります。また、四人の名前も聞いています。
※麻痺は既に治っています。
最終更新:2014年03月05日 21:15