45話 結末の価値分からないまま
野原みさえはふらふらとしながら、B-2エリアからC-2エリアへ向かう橋を渡っていた。
その精神は相変わらず変調を来したまま。
しかし、当初のように血走った目で泡を吹きながらと言う醜態は無くなり、目は虚ろではあったが、
外見だけならば落ち着いているように見えた。
左肩の傷が痛んだが、行動の妨げになる程では無い。
「……あれは、ガソリンスタンド?」
みさえは前方に小さなガソリンスタンドを発見する。
誰か居るだろうかと、他参加者の姿を求め、みさえはそのガソリンスタンドへと歩いて行った。
第一回目の定時放送の時刻が近付いてきていたが、その為の落ち着いて放送を聞ける場所を確保しようと言う考えには至らないようだ。
「誰か……居る……?」
建物に近付き窓越しに内部を覗き込む。
内部は自販機やテーブル、椅子等が置かれた待合所のようなスペースになっており、奥に事務所へ続くと思われる扉が有った。
カウンターが有るのであそこで車の点検等の会計を行っていたのだろう。
入口の扉の取っ手に手を掛けて引いてみると、扉はすんなりと開いた。
サーベルを片手に、カウンターの裏を覗く、が、そこには誰も居なかった。
奥の扉のノブに手を掛け回す。今度もすんなりと扉は開いた。
こじんまりとした事務室がみさえの視界に映る。
「……?」
事務室に入った途端に、みさえの耳にある音が聞こえる。
それは寝息だった。しかもかなり近い所――――自分の左手側から聞こえた。
顔を左に向けてみる。
「!」
寝息の主にみさえは少し驚いた。
それは灰色の身体を持った、竜人であった。
壁にもたれて座って眠っている彼――――呂車は、実際には竜人では無くガーゴイルの獣人であったのだが、
みさえにそんな違いが分かる筈も無く、分かったとしてもそんな事はどうでも良い事だっただろう。
「寝ているの……?」
今まで何度も家族と共に冒険を繰り広げ、その中で幾多の人外と遭遇してきたみさえにとっては、
呂車の外見は多少驚きはしたものの、それだけであった。
異常を来した精神もそれに拍車を掛けていたのかもしれないが。
それより、この獣人は寝ていた。
ならば、仕留める絶好のチャンスではないか。
外見を見るに、筋肉質で大柄な体躯を誇っており、まともに戦えば力負けする可能性も有った。
しかし寝込みを襲われればひとたまりもないだろう――――だが。
「ん……」
唐突に呂車は目を覚ました。
「〈いかん、眠ってしまった……〉」
ガソリンスタンドに身を潜めている内にいつの間にか眠ってしまったらしい。
目を擦りアクビをしながら辺りを見回す。
すると、自分の右手側に見知らぬ人間の女性が立っていた。
「〈ん? 何だお前は……〉」
中国語で話しかける呂車。しかし女性の右手に抜き身のサーベルが握られているのを見て表情を一変させる。
「うらあああっ!!」
「!!」
直後、みさえは叫びながらサーベルを呂車に向かって振り下ろした。
間一髪でそれを避ける呂車。
サーベルの刀身は呂車が背をもたれていた壁に当たり、壁に深い傷を作る。
起きてしまったがまだ覚醒しきっていないなら大丈夫だとみさえは思ったが、そう上手く事は運ばなかった。
呂車はみさえの首元を勢いを付けて掴んだ。
かなりの衝撃が有り、みさえはむせながら持っていたサーベルを床に落としてしまった。
「〈何だお前は!? 殺し合いに乗っているのか?
危ない所だった……危うく斬られる所だった……〉」
「うぐ……は、放して……放しなさい……!」
呂車の手から逃れようともがくみさえ。
自分の言っている事が伝わっていないと見た呂車は、一度咳払いをして片言の日本語でみさえに語り掛け始める。
「オマエ、何だ? 殺シ合いに、乗ッテるのか?」
「……私は、私はっ」
もがきながらもみさえは返答した。
「ひまを、生き返らせないといけないのよ……!
優勝すれば、願いを一つだけ叶えてくれる……だから私は優勝して、ひまや、一度死んじゃう事になる、
夫や、しんのすけを一緒にっ、生き返らせて、またみんなで一緒に暮らすのよぉっ!!」
みさえの表情と声は正に鬼気迫るものであり呂車も気圧された。
しかしだからと言って彼女の主張には同意しかねたが。
そしてこの時点で、呂車はみさえが開催式で見せしめで殺された赤ん坊の母親だと言う事を思い出す。
「……お前ハ馬鹿か?」
「は?」
「あんな口約束が守られると本気デ思ってルのカ? 自分の夫ヤ、息子モ殺スつもりカ?
一度死んンでモ、生き返ラセれば良いとソンナ風ニ思ってルのナラ、自分ヲ恥じロ」
呆れと侮蔑を込めた口調で呂車が言う。
それが癪に触ったのか、逆上したみさえは呂車に向かって怒鳴る。
「うるさい……うるさいうるさいうるさい!!
あんたなんかに何が分かるって言うのよ!! ひまを生き返らせるにはそれしか方法が無いのよ!!
家族が一人でも欠けたらもう野原家じゃ――――ぐえっ!?」
聞くに耐えられなくなり、呂車はみさえを投げ飛ばした。
身体を壁や床に強打したみさえは身体中の痛みと呼吸困難に襲われ苦しむ。
「ゴホッ! ゴホッ、ゲフッ……!」
「〈お前の殺し合いに乗る理由は良く分かった。
だが、俺も易々と殺されてやる訳には行かないんでな。悪いが眠って貰うぞ」
中国語でそう言うなり、呂車はみさえの後頭部付近に手刀を食らわせた。
小さい呻き声を発し、みさえは昏倒し床に伸びてしまった。
「〈サーベルは没収だな〉」
みさえが装備していたサーベルを回収する呂車。
更にみさえのデイパックを調べると拳銃と予備の弾倉が入っていたのでこれも回収した。
(銃を使われないで良かった……だが支給品は一人一種の筈……と言う事は誰かから奪い取ったか? まあ良い……)
何にせよこれでみさえは武装を失う事になるが、殺し合いに乗っている者を無力化するのだから問題無いと彼は理由付けした。
気を失ったみさえを事務室に残し、呂車は自分の荷物を持ってガソリンスタンドを後にした。
放送の時刻が近付いていたが、気絶させたとは言え危険人物と一緒に居る訳には行かない。
始末してしまう事は簡単だったが、呂車はその気にはなれなかった。
よくよく考えれば、野原みさえもこの殺し合いに巻き込まれ、自分の娘を目の前で無残に殺された被害者なのだ。
眼前で愛娘を殺され、そのショックの大きさは想像に難くない。
それで心が壊れ、主催者達の言葉を鵜呑みにして暴走してしまったとしてもおかしくない。
それにこの殺し合いには彼女の息子、夫、飼い犬も一緒に呼ばれていた筈。
みさえを殺す事は、彼らから母親を、伴侶を、飼い主を奪う事になる。
それを思うと、呂車は彼女に殺されかけたとは言え、その命を奪うのは気が引けたのである。
自分の命が数分先まで有るかどうかも分からない状況下で甘い考えだ、とも思ってはいたが。
それにまひろが言っていた「死者の蘇生」を完全に否定する事も出来ない。
何故か――――呂車自身が一度死んだ筈なのに生き返っている身だからだ。
少なくとも、この殺し合いを運営する何者かは、死人を蘇らせる事が出来る何らかの力或いは技術を持っている事は確かであろう。
しかし、例えそうだとしても、野原みさえの行動は最善である筈が無い。
ガソリンスタンドから遠ざかりながら呂車は思っていた。
【早朝/C-2ガソリンスタンド事務室】
【野原みさえ@アニメ/クレヨンしんちゃん】
[状態]精神に異常、左肩に擦過銃創、全身にダメージ、気絶
[装備]無し
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:優勝してひまわりを生き返らせる。
1:(気絶中)
2:しんのすけ、ひろし、シロはひまわりと一緒に生き返らせる。
[備考]※幾分落ち着いたようですが正常な思考は出来ません。
※ソフィア、呂車の容姿のみ記憶しました。
【早朝/C-2ガソリンスタンド周辺】
【呂車@オリキャラ/
俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター】
[状態]健康
[装備]サーベル@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル
[所持品]基本支給品一式、S&W M56オート(11/15)@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル、S&W M56オートの弾倉(3)
[思考・行動]基本:殺し合いを潰す。殺し合いに乗っていない参加者を探す。
1:ガソリンスタンドから離れ、放送を安全に聞ける場所を探す。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※AOKの容姿のみ記憶しました。
※野原一家の事を開催式の時にある程度把握しています。
最終更新:2014年10月14日 10:47