61話 MY BAD FELLOW

第一放送を聞き終えた、野獣先輩こと田所浩二、KMR、太田太郎丸忠信の三人。

「遠野やMURはまだ生きてるみたいだけど、INUEに一般通過爺、AOKが死んじまったか……」

さりげなく先輩を呼び捨てにしながら、放送で呼ばれた名前が線を引かれ消された自分の名簿を見て野獣が言う。
KMRもまた同じように名簿を見て、確実に殺し合いが進んでいる事を再認識した。
二人にとって親しい人物の名前は呼ばれなかったとは言え素直に喜べる筈も無い。
一方の太田は、クラスメイトが五人呼ばれていたが悲しんでいる様子は全く無かった。

「太田さんも、クラスメイトが呼ばれたんですよね」
「ああ、つっても、別にどうでも良い奴ばかりだけどな。呼ばれた連中は」
「ええ……何か酷くないですかその言い方」

酷薄とも取れる太田の物言いに引き気味のKMR。
太田からすれば、呼ばれた五人の内、愛餓夫は舎弟であったものの使い走りに過ぎず、
吉良も壱里塚も以前テトの一件でつるんだ事は有ったが普段仲が良い訳でも無く死のうが生きようがどうでも良い存在。
倉沢は以前の殺し合いにて自分を死に至らしめた張本人、鈴木に至っては以前の殺し合いにて交戦し殺害するに至った為、
この二人に関しては死んでくれて好都合と思える程であった。

「オイオイ、クラスの連中全員と仲良しこよしな訳ねーだろ」
「そりゃそうですけど……」
「まあまあ二人共落ち着け」

口論になるかもしれないと二人を仲裁する野獣。
KMRはまだ何か言いたげだったが大人しく野獣の言に従い引き下がる。
一方の太田は涼しい顔であった。

「何か腹減ったなぁ……何か食おうぜ。腹ごしらえが必要だろ?」

野獣は唐突に食事する事を二人に提案する。
単純に空腹を来たしていたと言うのも有るが、気まずい空気を何とかしたいと言う思いも有った。

「そうですね、何か食べておきましょう」
「……」

幸いKMRも太田も同意してくれたので野獣の心遣いも無駄にはならずに済んだ。


◆◆◆


ふらふらと町中を歩く春巻龍。
泣きじゃくった後の顔は酷い有様で、股間の辺りが先程失禁した事によって濡れ、悪臭を放っていた。

「もう嫌ちょ……どうしてこんな事に……俺は……」

うわ言のように泣き言を繰り返す春巻。
彼の精神はもうボロボロであった。
衰弱した精神は、正常な思考力を鈍らせていき、全てを悪い方向に考えるようになっていく。
一人は寂しいから、助けて欲しいから、と、捜そうと決めた生き残りの教え子達に対し、春巻は一方的に疑念を募らせていった。

「アイツらに会えた所で何になるちょ? こんな俺なんて、拒絶されるに決まってる……俺は、俺は人間の屑だホイ。
いつも、みんなに迷惑掛けて、呆れられて、煙たがられて、そうだちょ、こんな俺が、アイツらが助けてくれる訳無いんだチョリソー。
俺が、俺が間違っていたんだちょ、俺、俺が」

春巻の心の中で自分自身に対する自虐の言葉が何度も何度も反芻し、彼の心は負の面に蝕まれていく。
そして、ついに彼の心は破綻を迎えた。

「ふっ、ふふっ、あはははははは! あーはっはっはっはっはっはっはっ!!!」

突然、けたたましく笑う春巻。
その双眸は血走り、正気のそれでは無くなった。
静かな住宅地に、絶望と狂気を湛えた笑い声が響く。

「誰も味方なんて居ないんだちょぉ! でも死にたくない! だったら、だったらあああ!
みんな殺して俺だけ生きて帰るホイ! 小鉄も! フグオも! 金子も! あの時会ったフラウもさっきの男もみんなぁ!
殺してやるホーーーーイ!!! うぁたあああーーーーーーー!!!」

最悪の結論を導き出した狂った馬鹿教師は、怪鳥音を発しながら声高らかに殺し合いに乗る事を宣言する。


◆◆◆


野獣達三人は民家の台所にて、
コンロの上にカレーの入った鍋が置かれたままになっているのを見付け、それで食事を取っていた。
しかしその最中、外から男の笑い声が聞こえ、三人の食事をする手が止まった。

「何だ今の!?」
「外から聞こえましたけど……」

驚き戸惑う野獣とKMR。太田は気にしつつも再びカレーを口に運び始める。
笑い声の後、今度は男が何やら喚き立てる。
「誰も味方は居ない」「みんな殺す」と言った物騒な文言が聞き取れ、どうやら殺し合いに乗っているらしかった。
声の調子から、正気では無い事も三人は察する。

「やべぇよやべぇよ……多分と言うか間違い無く乗ってる奴だぜ」
「かなり近くに居るんじゃないですか?」
「待て、落ち着けお前ら」

動揺する野獣とKMRをカレーを食い終えた太田が宥める。

「向こうは多分俺らが家の中に居る事は知らねぇだろ。息潜めてやり過ごすぞ」

男は自分達が民家に隠れている事を知らない筈。
このまま身を潜めていればやり過ごせると太田は二人に進言した。
野獣とKMRは進言を受け入れ、太田と共に息を殺し、三人は外に居るであろう男をやり過ごさんとした。

「……」

しかし、ここで太田はある物に注目する。
それはコンロ台の上の油汚れに塗れた小さな換気扇であった。
換気扇は、カレーを温める際野獣がスイッチを入れたので小さいモーター音を発しながら回っている。

調理の時に換気扇を点けるのは当然、だが、この殺し合いの中では?
参加者以外の人が居ない状況で一つの民家の換気扇が回りそこからカレーの匂いがしていたら?

太田の顔が急速に青ざめていく。

「野獣、KMR――――」

逃げようと二人に言おうとしたその時、勝手口の扉が乱暴に開かれ、男が押し入ってきた。


◆◆◆


動いている換気扇、そこから漂ってくる食欲を唆るカレーの匂い。
この民家の中には誰か居る――――そう直感した春巻はその民家の勝手口へ向かう。
目的は一つ、中に居るであろう人間を殺す為だ。

勝手口の古い木目調の扉を乱暴に開けると、読み通り中には三人の参加者が居た。
何れも知らない顔で、自分の姿に驚いていた。

「ほぁきーーーーーん!!」

対話などする気は更々無い春巻は、奇声を発しながらオートマグを三人に向けて構え、
最早躊躇う事も無く引き金を引いた。

ドォン!!

鼓膜を破りかねないような轟音が台所の中に響き、三人の内の髪を逆立てたような髪型の青年が、
腹に大きな穴が空いて大きく後ろへ吹き飛んだ。

「き、KMRァ!」

すぐ隣に居た顔にイボの有る青年が、吹き飛ばされた青年の物と思われる名前を叫ぶ。
そんな事は意に介さず春巻は今度は学生服姿の少年に銃口を向けようとした。

「てめぇ!」

少年が怒声を発し、持っていた何かを春巻に向けた。
この少年もまた銃を持っていたが、春巻がそれに気付いた時には、お互いに銃の引き金を引いていた。
二種類の銃声が重なった。

「がっ……」

少年の方は胸部を.44口径のマグナム弾が貫通し、KMRと同じく後ろへ吹き飛んだ。

「あぐぁ!?」

一方の春巻にも、その鳩尾の辺りに少年の持つリボルバーから放たれた.32口径の弾丸が深々と突き刺さった。

「あがああああああ!!」

先刻、別の少年に剣で斬られた時とは別種の激痛に悲鳴を上げる春巻。
それで怯んで戦意が失せてしまったのか、元入ってきた勝手口から逃げ出してしまう。
通りに出て数メートル走った所で彼の身体に異変が起きる。

「ゲホッ!」

口から溢れる大量の血液。
それと同時に、春巻は自分の意識が休息に混濁していくのを感じた。
前に進もうとしても足に力が上手く入らず、口から溢れ出た血はアスファルトの上に垂れ落ち赤黒い染みを作る。
先程鳩尾付近に食らった銃弾がそれらをもたらしている事は、春巻にも十二分に察せた。
察せた所で、何の手立ても彼には出来なかったが。

「い、あ……俺、死ぬのか、ちょ?」

遂に歩けなくなり、両膝を突いた春巻は、本能的に自らの命の終わりを感じ取った。
今まで幾度となく遭難し命の危機に晒されてきた事によって、野生の勘のような物が鋭敏になっていたのかもしれない。
次第に意識も薄らいでいき、視界もどんどん暗くなっていく。

「い、嫌、嫌だちょ、し、死にたく……」

いくら必死に意識を繋ぎ止めようとしても、彼の身体の各器官は、
生命維持に必要な活動を次々と停止していき、彼を無慈悲に死へと向かわせた。
数々の遭難劇を経て、炎天下や猛吹雪や猛獣ひしめく中へ放り込まれてもなお生き延びてきた春巻龍だが、
ここに至り遂にその命の火は消えようとしていた。

「嫌、だ……こ、てつ……ふぐお……かね、こ……たす……け……」

狂ってしまった上での事とは言え一度は殺意を向けた教え子達に春巻は助けを乞うも、届く筈など無く。
程無くアスファルトの上にうつ伏せに倒れ、ゴポッと大きな血の塊を吐き出し、目を見開いたまま、春巻は動かなくなった。

教師としても人間としても駄目だった男は、理不尽な殺し合いに参加させられた末、見知らぬ土地で独り寂しく、この世を去った。


【春巻龍@漫画/浦安鉄筋家族  死亡】

【残り  31人】



◆◆◆


太田がポリスポジティブの引き金を引くのと、男が持っていた銃の引き金を引いたのは殆ど同時だったようだ。

「がっ……」

胸の辺りに強烈な衝撃を感じたかと思ったら、身体が後ろに吹き飛び、血飛沫と虫食い状の天井板が見えた。
良く考えなくても自分が胸を撃たれたのだと言う事は分かった。
そして間も無く、再び与えられた自分の命も消えると言う事も。

自分だけでも生き残れるように立ち回ろうとしたが、やはりバトルロワイアルと言うゲームはそうは甘く無かったらしい。
以前は第二放送後まで生きられたと言うのに。

(流石に前みてぇに、上手く行かねぇって、事か……)

そう思った直後、太田太郎丸忠信の意識は闇に飲まれ、二度と戻って来る事は無かった。


【太田太郎丸忠信@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル  死亡】

【残り  30人】



◆◆◆


唯一、無事で居られた野獣。
太田はもう息が無いように見えたので、まだ息が有るように見えるKMRの元へ近付いて、野獣は呼び掛ける。

「おいKMRァ! しっかりしろ!」

しかし、腹部に空いた穴を見て野獣はぞっとした。
大きく空いた穴からは黒に近い色の血液が溢れ出し、止まる気配が無い。
もう助からない、野獣は本能的にそう感じた。

「せ、せんぱ、ゴホッ……!」
「喋るなKMR!」
「先輩、は、腹が、とても痛い、です……」

血を吐きながら、野獣に苦しみを訴えるKMR。
野獣はテーブルの上の布巾で傷口を押さえて止血を試みるも、無駄であった。

「KMR! 死ぬなKMR……!」
「……せん……ぱ、い……」

野獣の必死の願いも虚しく、程無くKMRの動きが止まる。
それが何を意味するかは明らかだった。

「KMR? おい、KMR……」

もう無意味だと分かりつつも、野獣はKMRの名前を呼ぶが、当然返事は返って来る事は無い。
悲しみに顔を歪ませながら、野獣は開いたままのKMRの両目をそっと閉じた。

先程の男がどうして自分達がこの家に隠れているのが分かったのか、野獣には心当たりが有った。
台所に有ったカレーを温めた時、換気扇のスイッチを入れたのだ。
そこからカレーの匂いが外に漏れ出し、それが元で気付かれたのだろう。
いや、そもそも参加者以外の人間が一人も居ないこの状況で、換気扇が動いている家が有ったら怪しむのは当然。
何れにせよ、自分が換気扇を動かしてしまったのがこの惨事に繋がったのは事実であろうと野獣は思った。

言い換えれば、二人を死なせたのは自分、とも言えるのだ。

「……俺が換気扇回さなければ、こんな事には……すまねぇ、すまねぇKMR! 太田……!」

悔恨の念に駆られた野獣は、屍と化した二人に向かって涙を浮かべながら謝罪の言葉を述べ続けた。


【KMR@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」  死亡】

【残り  29人】



【朝/D-4、E-4境界線付近高田家】
【野獣先輩@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]深い悲しみ
[装備]竹刀@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:殺し合う気は無い。遠野達や殺し合いに乗っていない参加者を捜す。
        1:KMR、太田……。
[備考]※動画本編、バスガイドピンキーに気絶させられた直後からの参戦です。
    ※太田太郎丸忠信から彼のクラスメイトについての情報を大まかに得ています。
    ※春巻龍の外見のみ記憶しました。彼が死んでいる事にはまだ気付いていません。


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最終更新:2014年12月01日 22:08