69話 SYOKUSYU CHUIHOU Ⅳ(後編)
図書館での戦闘の後、虐待おじさんこと葛城蓮と、北沢樹里は、南下して商店街の有る市街地へやって来た。
仲間として一緒に行動していたガルルモンと樹里のクラスメイト、シルヴィアは図書館にて死亡した。
蓮達を襲撃し、二人を殺害せしめた人間の女性は逃走。
そして樹里は、女性に心当たりが有った。
「図書館で襲ってきたあの女、やっぱり……」
「心当たりが有るのか? 北沢」
「多分……野原みさえ、だと思う」
女性の特徴が、かつて樹里が野原しんのすけから聞かされた母親の特徴とほぼ一致していた。
「見せしめで殺された赤ん坊の母親か」
「そう、そして、私が一緒に居た野原しんのすけの母親でもある」
「何だってこの殺し合いに乗ってやがるんだ……」
「分からない……」
蓮と樹里は疑問に思う。
自分の娘を残酷な方法で目の前で殺され、息子と飼い犬も命を落としたのになぜみさえは殺し合いに乗っているのか。
放送で息子と飼い犬の死を聞いて精神に悪影響を来しそれが元で殺し合いに乗ってしまったのか、
それともそれ以前から殺し合いに乗っているのか、だとしたら目的は優勝して娘を生き返らせるつもりなのか。
実際の所は本人に直接問い質しでもしなければ分からないだろう。
「馬鹿かよおいなぁ! 自分の娘殺した奴らの言いなりになるなんてよぉ! 生きている家族の事考えねぇのかよ!」
「私に言われても」
「ああ、悪い……」
みさえへの怒りを露わにする蓮を宥める樹里だったが、彼女も同様の気持ちは有った。
その後しばらく道路を警戒しつつ歩いていた二人だったが。
「ん?」
「誰か居る……」
前方に、横たわって動かない全身から触手のような物を生やした獣人と、
蹲って苦しそうにしている少年を発見する。
「あいつはまさか……」
蓮はその少年に見覚えが有り、気付いた時には駆け出していた。
「あっ、蓮さん!」
慌てて蓮を追いかける樹里。
少年との距離が狭まるにつれ蓮は確信する。
「ひで!」
間違い無く、蓮が探していたひでだった。
「何コイツ……」
樹里はひでの傍に倒れる触手の獣人に息を呑む。
どうやらもう生きてはいないようだが、獣人が普通に存在する世界に生きる彼女でも、見た事の無い異形だった。
一方の蓮は、触手の怪物の事は一応気にはしたものの、ひでの事を優先した。
「ひで、大丈夫か!」
ひでに呼び掛ける蓮。
だが、応答は無く、代わりにゆっくりとひでは身体を起こして、蓮の方を見た。
「……ひで?」
「……アァア……アァ……」
その目は虚ろで、焦点も定まっておらず、言うなれば魂が抜けたような様子だった。
嫌な予感がして、樹里が蓮にひでから離れた方が良いと言おうとしたその時。
「がえ゛っ」
ひでの口から、棒状の何かが飛び出し、蓮の顔面を刺し貫いた。
「――――は?」
目の前で突然起きた事に、樹里は状況を即座に飲み込めず呆然とする。
棒状の何か、は、触手だった。
黒っぽい、紫っぽい、とにかくそんな色をした触手に蓮の頭部は完全に串刺しになっていて、
蓮は小刻みに痙攣し、白目を剥いて、何も喋らない。
この時点で、蓮が死んでいる事はもう明らかだった。
そして触手がひでの口の中に引っ込み、触手を引き抜かれた形になった蓮は路上に仰向けに倒れる。
灰色のアスファルトに赤い水溜まりが広がった。
【虐待おじさん@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」 死亡】
【残り 22人】
「……れ、蓮、さん、あ、あ??」
未だ混乱している樹里の目の前で、ひでが「変化」し始めた。
身体のあちこちから、皮膚を突き破って触手が生えていく。
無意識の内に樹里は後ずさりし、ひでと距離を取る。
本能的に恐怖を、危機を感じたのだ。
「……う゛う゛う゛う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
ひでの、もはや元の彼とは異なる別の意思を宿した双眸が、樹里を睨み付けた。
「ああ……うああああああああああああああ!!!」
悲鳴を上げ、恐怖に慄きながら、樹里は逃げ出した。
抜けそうになる腰を必死に奮い立たせ、我武者羅に、ひたすらに、触手の怪物と化したひでから逃げるべく走った。
……
……
走り続け、走り続け、樹里はとある裏路地にて、
ようやくその足を止め薄汚れた建物の壁にもたれ、乱れた呼吸を整える。
「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ……」
足が、いや、身体全体がブルブルと震えて止まらなかった。
あの触手は一体何なのか?
何故あんな物が人体から生えてきた?
傍で死んでいた獣人の少年も、似たような触手を身体から生やしていたが、関連は有るのか?
いくら考えても分からない、分かる筈も無い。
答えなど導き出せないと思い、樹里は触手の事は一旦考えるのを止める事にした。
確証が持てるのは、あの触手、引いては触手人間と化したひでは危険極まり無い存在だと言う事。
「蓮さんまで殺されちゃった……一人になっちゃったよ」
悲しげに樹里は言う。
しんのすけ、シルヴィア、ガルルモン、そして蓮。
彼女と行動を共にした者達は、尽く死に絶えてしまった。
一度過ちを犯した自分が、心を入れ替えて殺し合いからの脱出を目指そうなどとおこがましい、
とでも言わんばかりの展開だと、樹里は下らない思い込みだとは分かりつつも、そう思わずにはいられなかった。
陰鬱な表情を浮かべながら、樹里は裏路地で身体を休める。
【午前/D-4市街地裏路地】
【北沢樹里@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]疲労(精神的、肉体的共に大)
[装備]S&Wスコフィールド・リボルバー(4/6)@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター、
[所持品]基本支給品一式、出刃包丁@現実、.45スコフィールド弾(12)
[思考・行動]基本:殺し合いには乗らない。
2:これからどうしよう……。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※野原一家の詳しい特徴をしんのすけから聞いています。図書館の襲撃者が野原みさえだと確信しています。
※ひでが危険人物であると判断しました。
◆◆◆
ひでの肉体、そして頭脳は、触手の母体たる寄生虫によって完全に支配されてしまった。
最早、ひでとしての意識は皆無に等しく、ひでとしての記憶も断片的にしか残っていない、
前宿主の小崎史哉と同じく寄生虫の操り人形となってしまっていた。
「あぁ、今日も、学校、楽しかっタ、なぁ」
口から発せられるのは唸り声や、断片的なひでの記憶をなぞった支離滅裂な言葉ばかり。
「早く、帰っテ、宿題、しなキャ」
本当に帰ろうなどとは、宿題しなければいけないなどとは露程も思っていない。
全て宿主であるひでの記憶、それの残滓による物。
先に述べたように、もうひでの意識は存在しない。
あれ程殺意を向けていた虐待おじさんこと葛城連を殺害し、その屍を前にしても何ら反応を示さないのがその証拠と言える。
ひでの身体を乗っ取り、望み通り新たな宿主を得た寄生虫は、それまでと同じように獲物を捜し始めた。
【午前/D-4市街地】
【ひで@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]触手人間化、後頭部に打撲、背中に軽い打撲、額に傷(応急処置済、止血)、右肩に盲管銃創(応急処置済、止血)
[装備]無し
[所持品]基本支給品一式、FN P90(0/50)@現実、FN P90の弾倉(4)、56式自動歩槍(25/30)@オリキャラ/
俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター、
56式自動歩槍の弾倉(4)、 サーベル@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル
[思考・行動]基本:……殺……す……敵……。
[備考]※動画本編、バスの中で眠らされた直後からの参戦です。
※小崎史哉の寄生虫に身体を支配されました。人間としての理性、記憶は殆ど残っていません。
◆◆◆
民家の中、居間に置かれたソファーに、腹部に包帯を巻いた野獣先輩こと田所浩二が横になっていた。
「先輩、痛みますか?」
傍に居た遠野が心配そうに野獣に訊く。
「ヘーキヘーキ、とは、いかねぇな……あ痛てて……いや~キツイっす」
気丈に振舞おうとした野獣だったがやはり傷の痛みは誤魔化せず顔を歪める。
どうにか止血には成功したものの、銃弾で身体を貫かれたのだから無理は禁物だった。
「何か必要な事が有れば、何でも言って下さいね」
「ん? 今何でもって言ったよね? それじゃ……Hな看護してください!」
「流石にまずいですよ! 傷が開いちゃいますって」
「だろうな、しょうがねぇなぁ……」
何だかんだで、野獣と遠野は二人の時間を満喫している様子である。
そんな二人の幸せな時間を邪魔しては悪いと、右上腕に包帯を巻いた稲葉憲悦と柏木寛子は別室に移動していた。
憲悦と二人きりになるのは寛子にとっては避けたかったが、
家が小さく部屋数が限られており、また、どうせ一人で別の部屋に行ったとしても憲悦はずけずけと乗り込んでくるであろうから。
やむを得ず一緒に居る事にしている。
「あっちのお二人さんお熱いねぇ~羨ましいわ~」
「そう……(無関心)」
野獣と遠野を冷やかす憲悦の振りを冷ややかな視線と共に受け流す寛子。
次に憲悦が何を要求してくるか大体察せたのでさりげなく距離を取り警戒する。
程無く予想は的中した。
「俺らもぉ、アツアツになろ……」
「そぉい!」
「ガァッ!!」
抱き付こうとした憲悦の丸出しの股間に、寛子は強烈な蹴り上げを行った。
靴と靴下越しに雄のモノの感触が伝わり嫌悪感を覚える。
「~~~~~~っ」
「アンタのやろうとする事なんてお見通しなのよ」
「この……精子が減っちまうだろォ!」
涙目になりながら憲悦は股間を押さえて軽く跳ね男として最大級の苦しみを凌ごうとする。
「はぁはぁ、ったくつれねぇなぁ寛子ちゃんよォ。
折角再会したんだぜ? 前の殺し合いで一回会ったけどな、もっと喜べよぉ」
「……」
寛子が嫌がる理由を分からない程憲悦は愚かでは無い、全て分かっている上で今のような言動を取っているのだ。
故に性質(タチ)が悪い。寛子が憲悦を嫌悪する理由の一端である。
「まぁ、安心しろよ。ここでお前に手ェ出すと多分遠野に止められるだろうからな。あいつは正義感が強ぇ」
「理性的、ね?」
「二回も殺し合いやってりゃ、生き残るのに仲間の存在が必要だって事ぐれぇ分かる。
折角一緒に行動してる奴の不興買うような真似はまずいって事もな」
「ふぅん……」
こういう所も、自分がこの人狼を嫌う理由の一つなのだと、寛子は思う。
ただの性欲に身を任せる淫乱では無いのだ、稲葉憲悦と言う男は。
頭も切れ、必要な場面では合理的な判断も下せる。
ただの淫乱ならば、寛子が憲悦の元から逃げ出すチャンスも見出せたかもしれないが、
前述のように頭も回るため、全て先手を打たれてしまうのだ。
「おっ、何だよ何だよ~寛子。お前、もしかして遠野に妬いてんのか~?」
「は!? 何で私がアンタなんかの為に……馬鹿じゃないの? イミフだしイミフ」
けらけら笑いながらからかってくる憲悦に、嫌悪感剥き出しで寛子が反論するが、憲悦には効かないようだった。
「稲葉さん、柏木さん」
ここで、野獣の寝る部屋から遠野がやってくる。
内心良かったと寛子は思った。いつまでも憲悦と一緒は厳しかったからだ。
「おお遠野、愛しの彼との甘い一時は堪能出来たか?」
「えっ、あ、ええと……」
「冗談だ、で? 野獣の具合は?」
「あ、取り敢えず大丈夫、だと思います。と言っても、僕は医者じゃないのではっきりした事は言えませんが……」
「……安静が必要なのは間違い無いと思うわ」
「はい……」
胴体を銃撃され、腹部から背中にかけて貫通銃創が出来てしまっている野獣。
現在の所は容態は安定しているように見えるが、下手に動かすのは危険だと言う事は、素人目でも判断出来た。
「先輩を撃ったのはひで君だと、先輩から聞きました……」
「確か、図書館で襲われたって聞いたけど、憲悦から」
「だからあの時、殺しときゃ良かったんだよ、そうすりゃお前の先輩が撃たれる事も無かったかもしれねぇのに。
まあ、寛子から聞いたが、触手の化物にとっ捕まったらしいし多分死んだだろもう」
「……」
憲悦の言う通り、図書館でひでを撃っていれば、野獣が負傷させられる事は無かったかもしれない。
つまり、野獣が負傷したのは自分の甘さのせいでは無いのか――――遠野はそう思ってしまう。
「憲悦、もうちょっと気遣いなさいよ」
「へーいへい……」
「……遠野さんのせいじゃないよ、だから、そのー……余り気にしないで、って言うのは無理かもしれないけど……」
「ありがとうございます……」
寛子の言葉は嬉しかったものの、やはり遠野は自分を責めずにはいられなかった。
「んじゃ暫く野獣は動かせねぇな……俺らも動けねぇな」
「私は動きたい気分だけど……」
「おいおい待てって、まさか一人で行く気かよ。危ねぇだろ」
「アンタと一緒の方が危ないっての!」
「まあまあ柏木さん、その、気持ちは何となく察しますけど、稲葉さんの言う通り一人は危険ですよ」
遠野は憲悦本人から彼の寛子への扱いを聞かされていた為、寛子が憲悦から離れたがっている気持ちを察する事が出来た。
だが、憲悦が心の底から寛子の身を案じて言ったのかはともかく、彼の言う通り一人で行かせるのは危険であった。
「……分かったわよ」
渋々、寛子は了解した。
一応遠野は憲悦に寛子に無茶をするなと釘を刺したが「ワカリマシタ」という酷く棒読みの返答しか返ってこず、
遠野と寛子の心中に不安が残る結果になる。
「良かったらお二人とも先輩の居る部屋に……」
「あ、良いの! 行く行く! 行く!」
「チッ」
「チッって何だチッって! さっきワカリマシタっつったでしょ!」
結局寛子と憲悦も、野獣の居る部屋に行く事になった。
寛子と二人きりになれなくなって不満顔の憲悦と対照的に寛子は安心したように笑みを浮かべる。
【午前/D-4市街地佐藤家】
【野獣先輩@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]腹部から背中にかけて貫通銃創(処置済、今の所命に別状無し、但し安静が必要)
[装備]竹刀@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:殺し合う気は無い。殺し合いに乗っていない参加者を捜す。
1:遠野に会えて良かった。他のクラスメイトは……。
2:しばらく安静にする。
3:遠野、寛子ちゃん、稲葉さんと行動。
[備考]※動画本編、バスガイドピンキーに気絶させられた直後からの参戦です。
※太田太郎丸忠信から彼のクラスメイトについての情報を大まかに得ています。
※春巻龍の死亡を確認しました。
※怪我については無理をすると危険です。
※ひでは死んだと思っています。
※小崎史哉の外見のみ記憶しました。
【遠野@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]健康
[装備]モーゼルKar98k(4/5)@現実
[所持品]基本支給品一式、7.92mmモーゼル弾(10)
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
1:先輩の看護をする。
2:稲葉さん、柏木さんと行動。クラスメイトを探す。
[備考]※動画本編、バスで眠らされた直後からの参戦です。
※野原一家の容姿と名前を把握しています。
※ひでを危険人物と認定しました。また、野獣先輩と柏木寛子の話から、ひでは死んだものと思っています。
※稲葉憲悦、フラウが「リピーター」である事を知りました。
※フラウのクラスメイトの情報を当人より得ています。
※春巻龍の特徴をフラウより聞きました。
※コーディの外見のみ記憶しました。但し正確ではありません。
【稲葉憲悦@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター】
[状態]右上腕に貫通銃創(処置済)
[装備]自動車用緊急脱出ハンマー@現実
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:積極的に殺し合う気は無い。寛子を探す。
1:寛子にはなるべく手を出さない(建前)ヤりたい(本音)
2:遠野、寛子、野獣と行動。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※野原一家の容姿と名前を把握しています。
※ひでを危険人物と認定しました。また、野獣先輩と柏木寛子の話から、ひでは死んだものと思っています。
※フラウが自分と同じ「リピーター」である事を知りました。
※遠野、フラウのクラスメイトの情報を当人達より得ています。
※春巻龍の特徴をフラウより聞きました。
※コーディの外見のみ記憶しました。但し正確ではありません。
【柏木寛子@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター】
[状態]健康
[装備]TNOKの拳銃(6/6)@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ
[所持品]基本支給品一式、.38SP弾(6)
[思考・行動]基本:殺し合いをするつもりは無い。
1:憲悦が不安。
2:田所さん、遠野さんと行動。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※小崎史哉の外見のみ記憶し、彼を危険人物と判断しました。
※ひでは死んだと思っています。
※西川のり子の友人知人の情報を当人より得ています。
※小崎史哉の外見のみ記憶しました。
最終更新:2015年02月09日 01:27