いいひと

81話 いいひと

ぽっかりと心に穴が空いてしまったような気分で、遠野は街中を歩いていた。
先刻、怪物と化したひでに襲われ、同行者である野獣先輩こと田所浩二、稲葉憲悦、柏木寛子の三人を殺されてしまった。
三人の死を悼んだ後、野獣と寛子の持っていた拳銃と予備弾薬を少々気が引けながらも回収し、
遠野は傷心したまま三人の元を離れ現在に至る。
特に、遠野に喪失感をもたらしていたのは、敬愛していた野獣の死である。

「先輩……僕はこれからどうすれば……」

遠野はすっかり希望を見失ってしまっていた。
先程行われた第二放送では、虐待おじさんこと葛城蓮、KMRの名前が死者として呼ばれたが、
先輩を喪った悲しみが強過ぎたのか、余り感じる所は無かった。
薄情な奴だ、と、自分で思いはしたが。

「いっその事、僕も……」

手にしているモーゼルKar98Kを見詰め、遠野は良からぬ事を考える。
最愛の人の後を追うか?
野獣先輩が居ないこの世界に何の未練が有ろうか、ならばいっその事自分も――――そこまで考えて、
遠野は静かに首を横に振り、その考えを止める。

(駄目だ、そんな事しちゃ……先輩が僕を助けてくれた意味が無くなってしまう)

野獣は自分が重傷を負った身であるのにも関わらずひでの攻撃から遠野を庇い、結果、致命傷を負い死んだ。
つまり、野獣は結果的に自分の命と引換に遠野を助けたのだ。
それを思い出し、自死を思い止まった遠野。
もし、自分がここで命を絶てば、野獣は無駄死にになってしまうではないか。

「まだMURさん、拓也さんが生きている。捜さなきゃ……(使命感)」

俯き加減だった顔を上げて前を見据える遠野。
先輩に救われた命を無駄にしてはならない。
先輩達の死を無駄にはすまい。
MURやKBTITこと拓也、その他、殺し合いに乗っていない参加者を捜そうと遠野は決意を新たにする。

だが、道程は平坦では無い。
先程の放送で、生存者は自分を入れて、たったの15人にまで減ってしまった。
最初52人も居たと言うのに、半日足らずで淘汰され、15人となった。
その中で自分以外の殺し合いに乗っていない参加者など見付かるのだろうか。
先述したMUR、KBTITも殺し合いに乗っていないとは限らない。

「いや、希望を持つんだ……持たなきゃいけない(戒め)」

MURとKBTITが殺し合いに乗っていない事、殺し合いに反抗する者が見付かる事を遠野は祈るしか無かった。

兎にも角にも、心機一転した遠野が町を歩いていると、二人の参加者と鉢合わせた。
互いに銃を向け合い、警戒態勢を取る。
二人組は、片方は黒猫の獣人の少年、もう片方は茶髪の美少女であった。
黒猫少年の方は腹に傷を負っているようだ。

「待って下さい、僕は殺し合う気は有りません」

戦意の無い事を二人に伝える遠野。
ゆっくりとKar98Kの銃口を下ろして発言に説得力を持たせる。

「本当ですか?」
「本当です!」
「……私達も、乗っていないよ」

二人の方も、戦う意志は無いと言い、銃を下ろした。
殺し合いに乗っていない参加者はまだ居たのだと、遠野は安堵した。
そして互いに名前を名乗る。黒猫少年は「ラト」、少女は「北沢樹里」と名乗った。
遠野もまた自分の名前を告げる。
そして、二人の名前に覚えが有る事を思い出した。

「フラウさんのクラスメイトですね?」
「そうですが……彼女をご存知で?」
「途中まで一緒でした。目の前で殺されてしまいましたが……」
「そうですか……ん……確か、遠野さんでした、よね? と言う事は、MURさんのクラスメイトですね?」

今度はラトの口からMURの名前が出て、遠野が強く反応を示す。

「MURさんを知っているんですか!?」
「ここでは目立ちますから、近くの建物の中で話しましょう」
「分かりました……」

ラトに促され、遠野はラト、樹里と共に近くの建物の中へと入った。

◆◆◆

野原夫妻の遺体の有る場所から離れた後、ラトと樹里は第二放送を市街地で聞いた。
禁止エリアに関しては、指定された四つの内、現在位置(と思われる)D-4エリアのすぐ隣、E-4エリアが一番近く、
取り敢えずはこの一つを注意するべしと二人は考える。
死者の発表で新たに名前を呼ばれたのは18人。
その内、虐待おじさんこと葛城蓮、シルヴィア、ガルルモンに樹里が、銀鏖院水晶とテトにラトが、
野原夫妻には二人共が、反応を示す。

(シルヴィアが言っていたサーシャはまだどこかで生きているのね)

当人より遺言を伝えてくれと頼まれている相手のサーシャは、放送では呼ばれなかった。
なので今の所はまだどこかで生きているであろう。
しっかり伝えてやらなければ、と樹里は思う。

(銀鏖院さん、それにテト……)

ラトは、銀鏖院水晶とはA-6エリアの建設現場にて一度交戦してそれっきりだ。
彼女は結局、死ぬまで殺し合いを止めなかったのだろうか。
また、テトとは是非再会して、以前の殺し合いについて聞きたい事が有ったが、最早それも叶わなくなった。
残念だ、とラトは溜息をついた。

そして放送後、再び町を歩いていた二人は、一人の青年と遭遇する。
一時の緊張の後、互いに殺し合いに乗っていない事を確認し合って警戒を解いた。
青年は「遠野」と名乗った。
ラトはその名前に聞き覚えが有った。
確かイベントホールにて出会ったMURのクラスメイトの一人では無かったか――――そう思って遠野に尋ねると、正解であった。
外では目立つ為、近くの建物の中に入り、ラトはそこで遠野に詳しい事を話し始めた。

「MURさんとは、D-5エリアに有るイベントホールで会いました。
そこを拠点にして居ると話していたので恐らく今もイベントホールに居ると思います。
僕と北沢さんのクラスメイトである貝町さんと、鈴木フグオと言う少年と一緒に居ました」
「つまり、MURさんは殺し合いには……」
「はい、乗っていません」
「良かった……」

少なくとも、MURは殺し合いには乗っていない、それが分かり安心する遠野。

(あの事も伝えておいた方が良いんじゃない? ほら……)

ラトに樹里が耳打ちする。
「あの事」と聞いて、ラトはすぐに何の事か察し、勿論だと言うように樹里に目で合図すると、
自分のデイパックからノートと鉛筆を取り出し文章を書き出した。

「?」

急にノートに何か書き出したラトに遠野は目を白黒させる。
やがて、書き終えた物をラトは遠野に見せた。

〈伝えたい事が有ります。ですがこれは声に出して言うとまずい事ですので筆談をお願い出来ますか〉

「??」

やはり何事か遠野は分からない様子だったが、筆談が必要だと言う事は分かったようで、
大人しく自分のデイパックからラトと同じようにノートと鉛筆を取り出し、返事を書いた。

〈分かりました。でも、何で筆談する必要なんか有るんですか?〉
〈先程話した、MURさんと一緒に居る貝町さんは、首輪を解析して外す方法を調べています〉
〈本当ですか!?〉
〈本当です。但し、貝町さんの言によれば、首輪の中に盗聴器が仕掛けられているとの事。
運営が参加者間の会話を盗み聞きしていると見て間違い無いかと〉
〈だから筆談を〉
〈そうです。詳しい事が運営に知られれば最悪遠隔操作で首輪を爆破される危険が有りますから、
これから先も首輪の事に関しては筆談でお願いします〉
〈分かりました〉

遠野が、MURと共に居る貝町ト子が首輪の解除を目指している一連の流れを一通り知った所で筆談は終了となった。

◆◆◆

MURは殺し合いに乗っておらず、また、彼と共に居る一人が首輪を調べている。
野獣達を喪って気分が落ち込んでいた遠野にとって嬉しい朗報の数々であった。
ただ、首輪の事に関しては、期待を持ち過ぎるのは良くないと自制もした。
今は調べている段階で、確実に外せるかどうかはまだ分からないのだから。

「ラトさん、北沢さんは、これからどうするんですか?」

遠野が二人に尋ねる。

「イベントホールに向かってMURさん達と合流しようと思ってます。
もう一度会うと約束しましたからね」
「なら、僕も一緒に行かせて下さい! お願いします! 何でもしますから!」

必死に二人に頼み込む遠野。
知人が居る場所へこれから向かうと言うのだからこれを逃す訳には行かない。

「勿論です、一緒に行きましょう」
「宜しくね」
「ありがとうございます!」

ラトと樹里は快諾し、遠野は笑顔を浮かべ礼を述べた。
しかしここで、ラトが腹を押さえて苦しみ出す。

「ラトさん!?」
「ラト! そうだ傷……」
「傷の事を忘れていた……」
「作者がですか?」
「何を言ってるんですか」

突飛な事を言い出す遠野に苦しみながらも突っ込みを入れるラト。
結局、MUR達の元へ向かうのはラトの手当をしてからと言う事になった。


【日中/D-4市街地】
【遠野@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]精神的疲労(大)
[装備]モーゼルKar98k(5/5)@現実
[所持品]基本支給品一式、7.92mmモーゼル弾(5)、TNOKの拳銃(6/6)@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ、
     コルト ポリスポジティブ(5/6)@現実、.32コルトニューポリス弾(12)、オートマグ(3/7)@現実、オートマグの弾倉(2)
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
       1:ラトさん、北沢さんと行動。MURさんの元へ向かう。
[備考]※動画本編、バスで眠らされた直後からの参戦です。
    ※野原一家の容姿と名前を把握しています。
    ※ひでが触手の怪物になった事を知りました。
    ※フラウのクラスメイトの情報を当人より得ています。
    ※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。

【ラト@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]腹部に盲管銃創(出血有、現時点では命の危険が有るかどうかは不明、現在処置中)
[装備]ワルサーPPK/S(6/7)@現実
[所持品]基本支給品一式、ワルサーPPK/Sの弾倉(3)、デトニクス スコアマスター(6/7)@現実、スコアマスターの弾倉(2)
[思考・行動]基本:殺し合いを潰す。
       1:北沢さんと行動。遠野さんを連れ、自分の怪我の処置後、イベントホールへ向かう。
       2:残りのクラスメイトが気になる。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※能力の制限については今の所不明です。
    ※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。

【北沢樹里@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]S&Wスコフィールド・リボルバー(4/6)@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター
[所持品]基本支給品一式、出刃包丁@現実、.45スコフィールド弾(12)、自転車のチェーン@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター、
     モンキーレンチ、コンバットナイフ@現実
[思考・行動]基本:殺し合いには乗らない。
        1:ラト、遠野さんと行動。
        2:サーシャに会ったらシルヴィアの遺言を伝える。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※ひでが危険人物であると判断しました。
    ※首輪からの盗聴の可能性についてはラトから伝えられています。


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最終更新:2015年03月11日 21:57