しょくしゅ注意報 其の六 ~絶対侵蝕~

82話 しょくしゅ注意報 其の六 ~絶対侵蝕~

図書館にて獣人の少女と色黒の男をやり過ごした後、金子翼は会場中央の市街地へ到達し、そこで第二放送を聞く。
大沢木小鉄の名前は、今度も無事呼ばれる事は無く、翼は安堵した。
代わりに担任教師の春巻龍が呼ばれたものの、それについては「ああそう」程度にしか思わなかった。

「良かった、小鉄っちゃん流石、まだ生きてるなんて」

殺し合いに放り込まれても半日以上生き延びているのは流石大沢木小鉄だと翼は改めて感心した。
自分自身も同じように生き延びていたのだが。

「禁止エリアは、一番近いのはE-4……今居るのがD-4かE-4か判断が付けられないなぁ」

新しく指定された四つの禁止エリアの内、最も近いと思われるのは、会場中央市街地の東のほぼ全域を飲み込むE-4エリア。
何しろ、現在位置が、安全なD-4エリアか禁止エリア予定のE-4エリアのどちらなのか断定出来る材料が無い。

「西の方に行けば……」

西、D-4方面に向かえば、一先ずは安全の筈、そう考えた翼はコンパスで方角を確かめて西を目指し歩き始める。

◆◆◆

「ウッソだろお前、信じらんねぇ……蓮の奴が死んじまったなんてよぉ」

市街地にて第二放送を聞いた、原小宮巴、KBTITこと拓也、油谷眞人
その内、KBTITが大きくショックを受けた様子で言葉を吐き出す。
彼のクラスメイトであり仲の良かった虐待おじさんこと葛城蓮の名前が、先の放送で死者として呼ばれたのだ。

「仲良かったんだっけ? タクヤさんその蓮って人と」
「ああ、缶ビール飲んだり、捕獲したての二十歳の少年を一から調教したり……くっ……」
「……」

涙混じりに蓮との思い出を語るKBTITに「色々突っ込みたいが突っ込んだら負けだろうな」といった視線を送る眞人。
確かこの男は中学生だと言っていなかっただろうか、二十歳は少年では無いだろ、と、やはり心の中で突っ込まずには居られない。

「悲しむ気持ちも分かるけど、今は西の方に行かないと……この辺もE-4かもしれないし」
「ああ、分かってる……」

珍しく巴が優しい口調でKBTITを励ました上で、行動を促す。
現在位置が禁止エリアに指定されたE-4である可能性も否定出来なかった為、急ぐ必要が有った為。

「首輪が爆発して死んじまったら、あの世で蓮に顔向け出来ねぇな……行こうぜ」
「立ち直るの早ぇなおっさん、あっ」
「また言いやがったな、もう許せるぞオイ!」
「許してくれんのかよ(困惑)」
「はいはい、行くよー」

小競り合いしかけたKBTITと眞人を適当に巴があしらう。
そして三人はE-4エリアから遠ざかる為に歩き出した。

◆◆◆

西へ向かうとは言ったものの、事はそう単純では無い。
市街地の道はいざ目的を持って歩いてみると突き当たりや曲がり角等が多く意外と複雑な構造になっており、
翼は思い通りに西へ進む事が出来ず、少し焦り始めていた。

(今僕はどこに居るんだ? まだE-4なのかそれとも……分からない、もっと西へ……)

もっと西へ行かなければ。
翼は我武者羅に歩き続けた。焦りから碌に辺りを警戒する事もせずに。
それが災いしたのかどうかは分からないが、彼は三人の参加者と遭遇してしまう。

「あら~君は」
「お? お前……あん時の眼鏡小僧じゃねーかオオン?」
「何だ、知り合いか?」
「!」

しかも翼にとって悪い事に、三人の内二人は、レジャー施設で初遭遇し、図書館でやり過ごした、あの二人。

「逃げんじゃねぇよ!」

色黒の男が逃げる素振りを見せた翼に短機関銃を向けて脅し付ける。
翼はどうする事も出来ず、言う通りにするしか無かった。

「また会えて嬉しいなーボク」
「う……」
「色々聞きたい事は有るんだけど、今はちょっと時間が無いんだよねぇ」

獣人少女の話の内容から察するにこの三人も禁止エリアから避難しようとしているようだ。
なら今すぐ何かされる事は無いかと翼は予測し、そしてそれは当たった。

「だからお姉さん達と一緒に来てくれるかな?」

笑顔でそう言いながらも、散弾銃の銃口をちらつかせ、言う事聞かなければ殺すと暗示する獣人少女。
今すぐ何かはされないにしても自分にとって全く良い方向では無い、翼はそう思った。
今まで上手くやってきたがいよいよ年貢の納め時らしい、そう諦観する翼。

「い、言う事聞きます。聞きますから、撃たないで下さい」
「よーし、言う事聞くんだな? それじゃあ……」

色黒男が何かを言おうとしたが、何故か途中で言葉を切った。
目の前の三人の表情が、どんどん強ばった物になっていく。
自分に対して、では無く、自分の背後を見てそうなっているように見える――――翼は後ろを振り向いた。

「……ア゛ア゛ア゛……」

路地裏からゆっくりと通りに出てくる、全身から触手らしき物が生えた小男の姿が有った。
未知の異形を前に、翼は口をパクパクさせ、悲鳴は疎か言葉すら出てこない。
一体こいつは? どうして全身から触手のような物が?
この時にさっさと逃げてしまえば良かったのかもしれないがこの時の翼はその判断を下す事が出来なかった。
そしてそれが彼の命運を決めてしまう。

「ヴガアアアアア!!!」

触手男が咆哮と共に、右手の触手の束、丸太の如く太い束を凄まじい勢いで翼目掛けて振り下ろす。

ぶちっ。

縦方向にぺしゃんこに潰され、周囲に赤い液体を飛び散らせて、翼はただの肉の塊になった。
赤くなって、アレになって、ゴミになった。
大切な友人の為にその手を汚す事を決意し戦ってきた老け顔の、やや歪んでいるながらも友達思いの優しい少年、
金子翼は、思い人の大沢木小鉄への別れの言葉を述べる暇すら与えられず、その生涯を終えた。

小鉄と再会しないまま死ねたのは、彼にとって幸か不幸か、もう誰にも分からない。

【金子翼@漫画/浦安鉄筋家族  死亡】

【残り  14人】



◆◆◆


再び遭遇した老け顔少年とのやり取りの途中、少年の背後の裏路地入口から現れた異形の存在。
全身から触手が蠢く小男――――それに、老け顔少年は文字通り「叩き潰され」、只の肉塊にされてしまった。
突然現れた未知の存在に、KBTITと眞人のみならずさしもの巴も絶句する。
三人が正気に戻ったのは叩き潰された少年の血のシャワーを浴びてからだった。

「な、何だよ、コイツ……」
「眼鏡小僧……潰されちまったぜオイ……ん? ああ? ひ、ひで!?」
「え? ひで? タクヤさんのクラスメイトの?」

触手男の顔に、KBTITは見覚えが有った。
間違い無く、クラスメイトのひでだ。親友の蓮が良く虐めていたのを覚えている。だがこんな全身から触手など生えていなかった筈だが。

「風変わりな格好だねえ」
「こんな触手なんか生えてなかったっての!」
「おい、そんな事より、どうすんだこいつ」
「決まってるでしょそんなの」
「ひで、何か知らねぇけど、ここで落ちろ!」

巴とKBTITがひでに向けて銃撃を始める。
問答無用で人を殺害している時点で友好的な要素は皆無である事は明白、しかも明確な殺意を抱いている。
なぜひでがこのような状態になっているのかは分からないが、ここでひでを倒さなければ自分達が殺される事は三人共分かっていた。

「であイダいイイ゛!!」

銃弾の雨を浴び、悲鳴を上げて仰け反るひで。
しかし動きを止める気配は無い。
血をアスファルトに撒き散らしながら、ひでは三人目掛け触手を振る。

ビュンッ!!

異様に重い風切り音を立てて振るわれる触手の束。
三人は間一髪でそれを回避する。当たればほぼ確実に骨が持っていかれる、そんな勢いである。

「調子に、乗んな!」
「油谷!」

眞人が古びたショートソードを構えてひでに向かって行った。
KBTITが制止の声を上げるも、彼は無視した。
こいつを倒さなければ進む事は出来ないだろう、それに自分はどんな相手だろうと退かないと決めたのだ――――そんな思いが、
眞人を未知の触手怪物に立ち向かわせた。

「らあああああっ!」

威勢の良い掛け声と共に、眞人がひで目掛けてショートソードを渾身の力で振った。

ドカッ!!

「ア゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!!!」

古びているとは言え、相応の力で振られたショートソードの刃は、ひでの右腕を見事に斬り飛ばした。
触手の束ごと、地面に落ちるひでの右腕。
断面から、全身に空いた穴から、夥しい量の血液がアスファルトに流れ落ちる。
しかし、まだひでは倒れない。身体中の血液を殆ど失っている筈なのに、肉体が限界まで損傷していると言うのに。

「まだ死なねぇのかよ、いい加減くたばれ!!」

止めを刺すべく眞人がショートソードを大きく振りかぶった。

次の瞬間、ひでの口から鋭い触手が伸び、眞人の胸を刺し貫く。

彼が、虐待おじさんこと葛城蓮を葬り去ったのと同じ方法で、眞人は致命傷を負った。

「……そんなの、アリか、よ」

倒せると思ったのに。いけると思ったのに。結局、また死ぬのか。
何の因果か二度目の生を与えられたと言うのに、結局自分は――――。

口の端から血の筋を垂らし、自嘲気味の笑みを浮かべ、眞人の意識はゆっくりと遠のいて行った。

【油谷眞人@オリキャラ/俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター  死亡】

【残り  13人】


そして、眞人の殺害がひでの最後の抵抗のようだった。
ひでもまた、眞人と同じくアスファルトの上に倒れ、それっきり立ち上がる事は無かった。

【ひで@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」  死亡】

【残り  12人】


「油谷……くそっ」
「あらあら油谷君……でもこの化物も死んだみたいだねぇ」

生き残った巴とKBTIT。
KBTITは眞人の死を多少なりとも悼んでいる様子だが巴は特にそんな素振りも見せず、散弾銃に弾を補充する。
一応巴も、眞人の死は残念には思っていたが、あくまで労働力、いざと言う時の盾が無くなってしまった、と言った意味合いでだ。
元々何か妙な真似をすれば即座に殺そうと考えていたので、その程度の認識である。

「この化物、死んだかな、本当に」
「死んだと思うけどな……」

巴とKBTITはひでの死体へとゆっくり近付く。
近付きながらKBTITは短機関銃のマガジンを交換した。

「ヴォエ!」
「大丈夫?」
「何とか……」

辺りにはかなりきつい血の臭いが漂い、獣の血を引く巴は平気だったものの普通の人間のKBTITは、
時折込み上げる吐き気を必死に我慢しながら進む事を余儀無くされる。
どうにかひでの死体の元に辿り着き、二人はその身体を軽く蹴ってみたり銃口で啄いてみたりした。
反応は何も無い。

「落ちたな(死亡確認)」
「大丈夫みたいだねぇ」

完全にひでが息絶えていると見て安心する二人。
何故ひでがこのような怪物と化したのかは分からなかったが、放置しておけば間違い無く脅威となっていた事だろう。

「油谷が命と引換に倒してくれて良かったぜ」
「感謝しなきゃねぇ、ありがとうね油谷君」

物言わぬ屍と化した眞人に二人は礼を述べた。
眞人を脅し付けて無理矢理仲間にしたのは無駄では無かったと巴は思う。

◆◆◆

眞人の死体の方へ向き、ひでの死体に背を向けていた二人は気付かない。
ひでの死体から、大きな百足のような血塗れの虫らしき生き物が這い出てくるのに。
「ひで」そのものは確かに死んだ。だが、ひでに巣喰い、彼を怪物へと変貌させた「寄生虫」は、しぶとくも生きていた。

――――この宿主ももう駄目だ、早く次の宿主に移らなければ。

――――こいつで良いか。

「寄生虫」は、次の「宿主」となる者を見定める。

KBTITの太腿の裏へと、跳び付いた。

◆◆◆

「うわ!? 何だオイ!」
「どうし、うわ、デカイ虫」

突然の太腿裏の感触に驚いたKBTIT、そして彼の太腿裏に血塗れの大きな百足のような虫が張り付いているのを確認して顔を顰める巴。
当然、その虫をKBTITはさっさと引き剥がそうとした、が。

「すわわっ!?」

虫は突然凄まじい早さでKBTITの身体を上り、そして。

「エ゛ッ!?」
「あっ」

彼の口をこじ開けたかと思うと、そのまま体内へと消えて行ってしまった。

「ヴォエエエエ!! ヴォエエ!!」
「あらら、大丈夫?」
「ハァ、ハァ……マジかよぉ、あの虫俺の胃袋に入っちまったぜぇ……」

百足(少なくとも二人はそう判断した)が体内に侵入したと言う事実にかなり困惑し、嫌悪感を示すKBTIT。
しかしいくら吐き出そうとしても全く出てくる気配が無かった。
まさか腹をかっ捌いて取り出す訳にも行かず、結局KBTITは自分の胃液が殺虫してくれる事を祈るしか出来なかった。
百足は有毒でありそれが消化吸収されるような事になればただでは済まない筈だがその事に関しては二人共考えは及ばない。

「頼むから大人しく腹ん中で死んでくれよ……クソッ、何だって人間の身体ん中に」
「虫も人の温もりが恋しかったんじゃない?」
「虫にモテたって嬉しくねぇよ」
「ま、それはそれとして、この、ひで君だっけ? デイパック持ってるし、漁らせて貰おうかな」
「畜生、他人事だと思いやがって……」

所詮他人事だと思って適当に返事をする巴に対しKBTITは恨み言を言う。
それも気にせず巴はひでの持っていたデイパックの中身を漁る。
すると、P90短機関銃と予備弾倉、56式突撃歩槍と予備弾倉、サーベルと、宝の山の如くの内容であった。

「わー大量。ほらほらタクヤさんこれあげるから機嫌直して」
「お前のじゃないだろ、まあ貰うけどな……」

短機関銃は巴、突撃銃とサーベルはKBTITが持った。
眞人の持っていた古びたショートソードも、彼の衣服で血を拭った上で巴が回収する。

「すっかり予定が狂っちゃった……そろそろ行こうか」
「ああ、そうだな」

当初の予定を思い出し、巴とKBTITは再び西方向へ歩き出した。


◆◆◆


「寄生虫」はKBTITの体内に痛みも無く根付き、ゆっくりと侵蝕を開始する。
だが、ひでの時や、その前の宿主、小崎史哉の時のようにすぐには完了しなかった。

――支配に時間が掛かる? どう言う事だ。
――この男は耐性でも持っているのか?

軍事目的で極秘に開発された寄生虫の侵蝕を遅らせるある種の耐性を、KBTITは持っていたらしい。
尤もそのような事は、本人は気付く筈も無い。
それにあくまで「遅らせている」だけだ。

――まあ良い、時間が掛かるだけで、この男もいずれは木偶人形だ。

KBTITの肉体と精神は、ゆっくりと確実に寄生虫によって蝕まれていく。
当人も、同行者の巴も、今はまだ何も気付かない。

気付いた時には、もう手後れ。


【日中/D-4市街地】
【原小宮巴@オリキャラ/俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター】
[状態]健康、衣服が消火剤と血で汚れている
[装備]ウィンチェスターM1912(6/6)@オリキャラ/俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター
[所持品]基本支給品一式、FN P90(0/50)@現実、FN P90の弾倉(4)、古びたショートソード
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
        1:KBTIT(拓也)と行動。西方向へ向かう。と言うよりE-4から離れられればそれで良い。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。

【KBTIT@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]鼻を負傷(鼻血有)、ゴーグルにヒビ、衣服が消火剤と血で汚れている、「寄生虫」に寄生されている(現段階ではまだ影響無し)
[装備]ニューナンブM66短機関銃(30/30)@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター
[所持品]基本支給品一式、ニューナンブM66短機関銃の弾倉(3)、56式自動歩槍(25/30)@オリキャラ/俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター、
     56式自動歩槍の弾倉(4)、 サーベル@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
        1:巴と行動。
        2:残りのクラスメイト、殺し合いに乗っていない参加者を探す。
        3:くっそ、蓮……。
        4:さっきの虫本当に大丈夫か?
[備考]※動画本編、バスで眠らされた直後からの参戦です。
    ※動画準拠なので中学生であり、平野源五郎とは面識が無い設定です。
    ※「寄生虫」に寄生されています。現段階では異常は有りません。しかしその内に重大な事が起こります。


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最終更新:2015年03月22日 23:39