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140.花婿と花嫁 序


 二人の狂人は、それぞれ違う道を歩く。

 その一人は、森の中を歩く♂ブラックスミス。
 何も知らぬまま、只茶番の為に狂わされた鍛冶師。
 手にするは、血塗れの大斧。
 その身に纏うは、そのものが幽かに揺らめく長いコート。

 知らず、覚えず、判らず。
 彼は、只茶番の上で踊るマリオネット。
 或いは、GMが使わせし処刑人。

 もう一人は、道を進む♀ブラックスミス。
 己を知り、しかし茶番の中、恐怖に狂った鍛冶師。
 幽かな望みは、人と出会うこと。
 けれど、脳にこびり付いた記憶は既に曖昧に歪み。

 忘れ、捨て去り、只狂う。
 彼女も又、茶番の上で踊る操り人形。
 或いは、哀れなる女の成れの果て。

 二人の狂人は、互いに大切な記憶を忘れていく。
 揮発した思いの後に残るのは、只、狂気。
 殺せ。殺しつくせ。突き上げる様な叫びが、彼等を焦がしていく。
 それは、炎。赤い赤い、炎。
 黒く、ひょろひょろの炭で出来た人形にに彼等を変えていく。


 そして、二人の炭人形は、ヴァルキリーレルム、と呼ばれる砦の群れの近くで出会った

「……」

 それは、物言わぬ鍛冶師と。

「ふふ…うふふ…また、貴方なのね。殺したいんでしょう?貴方は私を殺したいんでしょう?
でも、殺されない。それは、駄目。絶対に駄目。だって、私は貴方を愛してる。愛してる。
だから、貴方が私を殺すんじゃなくて、私が貴方を殺すの。そうすれば、貴方は私の物。
あなたはそうやっていろんな人を、自分の物にしてきたんだもんね?だいすきだっだよ。
でも、だから許せない。浮気なんかして、ふふ。貴方には私だけを見てもらうの。だから、貴方を殺すの。
そうすれば、貴方はきっと私のもの」

 壊れた鍛冶師。


 そうして、その花婿と花嫁は、出会った。


<現在位置:ヴァルキリーレルム上のエリア>

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